Z=1 石の世界の住人
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
2019年、6月3日。東京都にある広末高校。その、いくつかある1年生の教室から、腰まである長い黒髪をもった、一人の少女が出てきた。
「魅真!!」
その時、後ろから少女の名前を呼ぶ大きな声が聞こえたので、今魅真と呼ばれた少女は、後ろへふり返った。
「大樹」
そこには、背が高くてガタイのいい男子生徒が立っていた。
「どうしたの?帰宅部の大樹が、カバンも持たずに。何かあった?」
彼は大木大樹といい、魅真の、小学生からの幼馴染兼親友だった。
毎日聞きなれたその大きな声に、特に驚くこともなく、大樹と向かい合って、いつものように話した。
「実は頼みがあってな」
「頼み?」
「うむ。実は、杠に告白をしようと考えてるんだ」
「杠に!?」
杠というのは、大樹と同じく、魅真の幼馴染兼親友の少女で、大樹の想い人でもあった。
「それで、女性に告白するにはどう言ったらいいかわからんから、ぜひ、女性である魅真の意見を聞きたくてな!」
「…うーん、そうね…。大樹の場合は、まわりくどく口説いたりするよりも、自分が思ってることを、素直に、正直に伝えた方がいいんじゃないかな。恋愛経験値ゼロな私が言っても、説得力ないかもだけど」
「そんなことはない!!すごく助かるぞ!!じゃあ、杠をクスノキの下に待たせているから、行ってくるぞ!!」
アドバイスを聞いた大樹は、魅真にお礼を言うと、踵をかえして、顔だけ魅真に向けて、手をふりながら、そこから去っていった。
「行ってらっしゃい。明日、結果聞かせてね」
「おう!」
魅真も手をふりかえし、笑顔で大樹を見送った。
そして、大樹の姿があっという間に見えなくなると、あげていた手をおろした。
「(アドバイスなんて、する必要ないと思うけどね)」
結果聞かせてとは言ったが、すでに結果がわかりきっている魅真は、微笑ましそうに笑いながら、大樹が去っていった方をみつめると、カバンからスマホを取り出す。
スマホを取り出すと、画面を操作し、メッセージアプリを起動させると、ニュースの一覧を開き、特定のニュース記事を開いた。
そのニュース記事を読むと、悲しそうな顔になり、次にあるHPを開き、操作をすると、また特定の記事を開いてジッとみつめる。
けど、すぐに閉じて部室へ行った。
Z=1 石の世界の住人
魅真は剣道部だった。
大樹と別れた魅真は、数分ほど歩くと部室につき、剣道部と書かれた札の下の扉を開けて中に入り、部室で着替えをすると、すぐに練習場に赴いた。
「えー…。では、練習を始める前に、今度の試合の出場者を発表する」
今は、練習前のミーティングの時間で、顧問の教師が、試合の出場メンバーを発表していった。
「………で、最後に大将は、真田魅真!」
「!」
「頼むぞ。真田が攻撃の要だ」
「はい!!」
大将に選ばれ、一瞬びっくりしたが、すぐにうれしそうな笑顔を浮かべて返事をした。
「すごい!さすが魅真!!」
「がんばってね!」
「応援してる!!」
「ありがとう」
1年生の魅真が大将に選ばれたので、妬みとかやっかみとかありそうだが、そんなものはいっさいなく、逆に全員に期待され、応援された。
「(よぉおーーし。何がなんでも優勝するぞ!!)」
全員に期待され、応援されたのもあって、魅真はますます気合を入れた。
試合出場メンバーが発表されると、さっそく練習が始まった。
だが、魅真が竹刀を持って練習にはげもうとしたその瞬間、突如、空が緑色に光った。
「何?あの光」
窓から差し込んでくる光をふしぎに思っていると、すごいスピードでこちらに向かってきた光は、あっという間に魅真がいるところまで到達し、魅真をはじめとした人間を包みこんだ。
そしてその光を浴びると、魅真は石と化した。
魅真だけでなく、この学校にいる者も全員…それだけでなく、地球上にいる人間は、誰一人として例外なく、全員石となった。
「(何これ…。攻撃?急に動けなくなった。まっ暗だし、声も出ない。どうしたの?私)」
石となった魅真は、意識はあるが、そこから一歩も動くことはおろか、何も見えないし、しゃべることもできなくなった。
「(意識はある。これって死んでるの?生きてるの?)」
しかし、意識はあるので、考えることはできた。
「(お父さん…お母さん…。千空…大樹…杠…!!)」
はっきりしている意識の中、魅真は、両親と友人のことを思った。
「(と言っても、このまま動けないんじゃ、いずれ死んでしまうかも)」
意識はあっても動けないので、魅真は、この状態は死んでるも同然だと思った。
事実、この地球上にいる人間は、ほんの一部の者をのぞいて、どんどん意識が消滅していった。
「(いや!!私は絶対に死なない!!死んでたまるもんですか!!)」
けど、魅真はすぐに気合を入れて、意識を保った。
「(そうよ!!今度の試合で大将に選ばれたんだもの。絶対に優勝するんだから!!こんなところで、絶対に死なない!!)」
気合を入れたのは、石化する前のミーティングで、今度の試合の大将に選ばれたから。絶対に優勝したい。絶対にまた、剣道をやるのだという気持ちが、魅真の心に強くあった。
それから、人類は復活することなく、何日…何か月と経った。
「(あれから、何日経ったんだろう…。みんな…大丈夫かな。他の人達は?剣道の試合はどうなったんだろう)」
けど、魅真はまだ意識が消滅してはいなかった。
誰も復活することはなく、人間がいなくなった街では、建物は少しずつ壊れていき、飼い犬は野生と化し、猿が街を徘徊し、マンホールから水が吹き出した。
更には、ダムが崩壊し、まるで津波のように、建物4階くらいの高さまで水が襲ってきて、魅真達がいる場所の石像や建物を押し流した。
「(周りがどうなっているのか、まるでわからない。だけど、絶対に意識は消さない。絶対に生き延びてやるんだから!)」
それから何年か経ち、アメリカのゴールデンゲートブリッジが一部崩壊して、海に落ちた。
日本にいる魅真には、コケが生え、段々と着ている衣服がボロボロになっていった。
「(たとえ、何年…何十年…何百年…何千年経とうとも…絶対に生き延びて、また剣道の試合で優勝するの!!)」
周りや建物には、木や草が生えて森のようになり、地面の上に、魅真はあの時の状態のまま、まだ意識を保ちながら転がっており、建物をはじめとする文明の利器は、どんどんと崩壊していった。
そして、地球上から人類が消えて、数千年が経った。
ある場所に建てられている、人工的に作られた木の建物の中に、魅真はいた。
その建物の中の隅の方に、立ったままたてかけられている魅真の石像に、突如ひびが入った。
石像に入ったひびは、体中に走っていき、両肩から上腕にかけての部分の石片がはがれ落ちると、周りの石片がどんどん落ちていき、石片が完全にはがれ落ちると、魅真の両目が開き、目の前にあるものを映す。
「千空……大樹…?」
目の前にいたのは、親友の大樹と、もう一人の幼馴染兼親友の千空だった。
まだぼんやりとした目だったが、魅真は、目の前にいるのが誰なのか、すぐにわかった。
話は約八か月前に遡る…。
最初に目覚めたのは、千空だった。
魅真が目覚める約八か月前、千空は石化を自力で破り、地球に初めて生まれた人類となった。
たった一人、文明が滅びたこの地球上で、服もない状態で、火を起こすところからスタートした。
火を起こすといっても、コンロもライターもマッチすらないこの状況の中、木と木をこすりあわせての試みだったが、体力があるわけでも器用なわけでもない千空は苦戦した。
しかし、千空はあきらめることはなく、今度はたくさんの石を拾って、たたいては割り、たたいては割りをくり返し、石器を作り出した。
その石器を使って植物を切り、紐を作ると、木をしならせて弓を作り、先がとがった木の棒を紐でくくり、棒のとがった部分と木の板でこすりあわせると、ついに火を起こした。
次に行ったのは狩猟。腰に草の腰巻をつけて、石器を使って鹿を追い立てていたが、千空の体力では到底捕まえられず、木や紐を使って罠を作り、食料と衣服を手に入れた。
更に、今魅真がいる建物の隣にある、巨大な樹木の上にツリーハウスを作り、ようやく衣食住を手に入れると、限界がきた千空は、目星をつけていた場所をほり返し、大樹をみつけた。
大樹をみつけると、何故自分は復活できたのかを考え、考えぬいた末に、別の外的要因があることに気づき、自分がいた場所からほど近い洞窟の中に、天井部から硝酸がたれてるのをみつけ、首に残っていた石片をちぎってその石片にたらすと、石片が分解されたことから、石化から復活する鍵をみつけ、大樹にかけてみたが復活しなかった。
それから、石化した燕を大量に研究室に持って帰ると、硝酸をかけて実験をくり返した。周りの石像にもかけてみた。しかし、復活することはなかったので、何故自分だけが硝酸で戻るのかを考えた結果、数千年もの間、ずっと考えて意識をとばさなかったからだという結論に達し、大樹を復活させるために実験をくり返した。
そうして実験をくり返していくと、途中で、洞窟のすぐ側で魅真の石像をみつけたので、大樹の次に復活させるため、保護するためにツリーハウスにはこんだ。
それから、千空が目覚めてから半年とちょっとすると、ようやく大樹が目覚めた。
目覚めた大樹は草の腰巻を巻いて、通っていた学校まで歩いていき、杠をみつけた。
杠は、あの時呼ばれたクスノキの下にいた。
大樹は杠をみつけると、杠の前に来て、3700年前の告白の続きをしたあと、杠を助けることを、杠の石像に宣言した。
すると、杠のすぐ近くに、『川下れデカブツ』という文字がほられていたので、そのメッセージに従って川を下っていくと、千空と再会し、千空とともに、ゼロから文明を作り出すことや、杠を助けることを決意する。
千空は頭脳、大樹は体力担当で、分担しての生活が始まった。
食料を採集していた大樹は、自分が倒れていた洞窟をみつけ、土器にたまっている硝酸を発見すると、自分と千空以外にも生き残りがいると喜んだが、実は置いたのは千空で、千空に人間を増やすのが最優先課題であることと、硝酸のことを説明されると、ツリーハウスに戻った。
ツリーハウスに戻ると、外で、実験で燕に硝酸をかけてみたが復活せず、復活しなかった燕を持った千空は、研究室の中に入っていった。
そこには、魅真の石像がたてかけてあったので、大樹は驚いた。
「魅真…こんなところにいたのか…」
「魅真も、俺とテメーの近くに流されててな。復活させるために、こうして研究室にはこんだ。だが、硝酸をかけてもいっこうに目覚めねぇ。こいつも、俺やテメーと同じで、石化してても起きてるはずなんだがな」
「そうなのか?」
「ったりめーだろ。こいつは剣道バカだぞ。あきらめなんて非合理的なことは考えねぇ。だから待ってる。こいつが優先的に必要だからな」
「なに!?何故だ!!」
とにかく杠を起こしたかった大樹は、千空に問う。
「簡単に言やぁ、魅真は武力をもってるからだ。武力カードはどうしても必要だ。ここは日本だが、もう俺たちが知ってる文明のある場所じゃなく、未開のジャングルみたいなところで、野生の動物もいるからな。あとは単純に、魅真が俺らの親友だからってのと、小学校の頃から、ボディーガードの役割を担ってたからな。それに、テメーほどじゃないが、体力と力があって、更にはチート運動能力があるから、生活基盤を支える大事な要になる。もっと言えば、こいつには薬草の知識がある。薬剤師じゃねぇが、病気=ゲームオーバーのこのストーンワールドにおいては、かなり重要だ」
「む…。確かにな」
千空が質問に答えると、本当は杠を優先的に起こしたいが、大樹は納得をした。
「っつーわけで、石化から復活させる実験くり返しながら、魅真を復活させる方法も考える」
「しかし、その硝酸とやらをかけてもダメだったのだろう?どうやって」
「んなもん、とにかく試しまくるしかねぇだろ。この石化がどんなものなのかも、どうやったら戻るのかもわかんねぇ以上はな」
「科学ではわからんことも、この世にはあるってことか…!」
「ククク。出・た・よ、その常套句。だから仮説と実験繰り返してんだろが!地道なもんだ、カガクは。酒さえあればな。酒のアルコール―つまりエタノールがありゃ、硝酸+エタノールで、ナイタール液が作れる。もろ工業用の腐食液だ」
「今、なんて言った千空?」
「あ?ナイタールだよ。鉱物のフェライト粒界を…」
「ちがう!難しい話は、俺にはわからん!『酒さえあれば』?」
大樹は千空の説明を遮ると、いきなり外に出たので、千空も一緒に外に出た。
「もしやブドウって、ワインの……」
外に出ると、洞窟に入る前に採集したブドウをカゴから取り出して、千空に見せた。
ブドウを見ると、千空は何も言わないが、目がとび出る勢いで驚き、一瞬間をおくと、二人は顔を見合わせた。
「やるじゃねえか、デカブツ!!」
それから、二人のワイン作りが始まった。
たくさんあるブドウを、千空は一房ずつ手でつぶしていき、土器の器に搾り汁をためていく。
「うおおおおおおお」
そこへ、大きな器を持ってきた大樹が、持ってきた器の中にたくさんのブドウを入れると、器の中に入り、大量のブドウを、一気に足でつぶしていった。
「あ、うん。肉体作業は、もう全部チート体力のテメーに任せる。んのが合理的だ」
あまりにもスピードが違いすぎるので、千空は大樹に、ブドウをつぶす作業を一任した。
全てのブドウは、大樹の力であっという間につぶれ、器からあふれでそうなくらいの、大量の果汁がとれた。
それを今度は、壺に移して棒でかきまぜ、その作業を毎日続けた。
それから三週間後。
「3週間。そろそろだな」
三週間前に作ったブドウの果汁を、ザルを上部に置いた器に移すと、茶器とグラスに移し、二人は試飲をした。
「おお!思ったよりイケんじゃねぇか。市販品の約100億倍酷ぇがな」
「ワインって!ブドウさえあれば、こんな簡単にできるもんだとは…!」
「ただブドウやレーズン潰して、ペットボトルに入れときゃ完成だ!ククク、密造酒で犯罪だがな!!」
あまり良いものではないが、とりあえずワインは完成した。
「地道に一歩一歩!な!こっから先は、ちーーーと骨が折れんぞ。『はじめよう。ワインの蒸留!!ブランデーの作り方』だ」
しかし、まだこれはスタート地点にすぎず、千空は首を鳴らしながら、次に何をするのかを説明する。
「なにー、蒸留か!全然わからん!!」
「言うと思ったぞ。熱して冷ましてたらして、アルコール濃くすんだよ」
説明をすると、外に出て、研究室の前に蒸留用の土器を用意した。
「なァ~~に、紀元前3000年メソポタミア文明の連中も土器で蒸留してたんだ。やってやれねえことはねぇ。唆るぜ、これは!!」
土器の釜戸に蒸留用の土器を置き、火をたいて、さっそく蒸留を始めたが、土器はあっさりと割れてしまい、中のワインが吹き出してしまったので、失敗に終わった。
それでも千空はめげずに、土器の制作からやり直して、何度も試した。
そうやって、何度も試しているうちに、なんとかワインの蒸留は完成した。
「おーし。んじゃあ、まずは魅真で試してみっか」
「なにー!?いきなりか!!」
まだ、これでうまくいくかどうかはわからないが、試作品一号を、魅真にかけて試すことにした。
「前にも言ったろ。魅真を優先的に起こすってな。これで起きれば儲けもん。ダメだったら、またやり直しゃあいい」
千空は、なんの躊躇もなく、魅真に試作品の復活の水をかけようとした。
「!! 待て、千空!!」
だが、あともう少しで、水が器から出ようとした時、いきなり大樹が叫んだ。
「魅真は、はだかだ!!」
大樹は叫びながら、顔を真っ青にして、千空に目つぶしをして止めた。
「このまま復活させてはダメだ!!」
もし復活した場合、魅真は好きではない二人の男にはだかを見られることになるが、千空はあきれ顔で大樹を見た。
「なに、非合理的なことを言ってやがんだ。どうでもいいだろうがよ、この非常時のストーンワールドでよ!!いきなりすっぱだかでも、誰も気にしねえよ!!」
「いや、とにかくダメだ、見てしまっては!!礼儀だからな!!服を着せてからだ!!」
「ったく…。しゃーねえなあ…」
しかし、大樹が頑なにそうさせようとはしないので、このままでは先に進まないと判断した千空は、ツリーハウスから服を持ってくると、魅真に着せた。
千空と大樹が魅真に着せた服は、弱冠黄色味がかっているが、白に近い色のもので、上半身の部分は、首もとは千空や大樹が着ているものと同じで、合わせ目は、着物みたいに両端の布を中心にもってきて、左側を上に重ねており、そでも千空と大樹と同じく長さで、下は膝近くまでの長さのスカートだった。
「よし。それじゃあ、今度こそかけるぞ」
服を着せると、千空は今度こそ、魅真に復活の水をかけた。
しかし、反応がなかったので、千空は残念そうな顔をして、後ろの棚に置いてある燕の石像に残った水をかけると、瓶を机の上に置いた。
燕にも反応が見られなかったので、がっかりしていたその時、ヒビが入る小さな音がしたので、千空と大樹は勢いよくふり返り、後ろにある魅真の石像に目を向けた。
そこでは、そこに置いてある魅真の石像の肩の部分に、突如ヒビが入り、石像に入ったひびが体中に走ると、最初に魅真の両肩から上腕にかけての部分の石片がはがれ落ちていく。
石片がはがれ落ちると、両方の肩の正面から上腕にかけて、魅真の体にヒビが入った。肩には弓矢の形をしたヒビができ、その下には、3つの波のようなものが、波の下には、真ん中の部分でまっすぐに、関節の近くまで、全ての線が繋がっているヒビが入っており、その部分がはがれ落ちたのをきっかけに、周りの石片もどんどんはがれ落ち、石片が完全にはがれ落ちると、魅真の両目が開いた。
「千空……大樹…?」
起きたばかりで、まだ目がうすぼんやりとしていたが、目の前にいるのが、親友の大樹と千空だということがすぐにわかり、魅真は二人の名前を呼んだ。
「え…ここは?」
うすぼんやりとしていたが、すぐに正常になると、魅真は周りを見回した。
周りにあるのは、棚の上にはたくさんの燕の石像と、地面にはたくさんの土器。その後ろは、明らかに人工的に作られた家屋だが、コンクリートではなく木でできたもの。
更に、千空と大樹、そして自分の服を見てみると、石器時代のような衣服だった。
「なるほど。ついに破ることはできたけど、あまり喜んでいられる状況じゃないみたいね。文明は滅んだ…」
「あぁ、その通りだ。さすがだな」
「な、何故わかったんだ?」
少し周りを見ただけで、状況把握をしたので、大樹はふしぎに思った。
「周りよ」
「周り?」
「ここは家のようだけど、木の板で作られている。加えて、下は地面。棚にかけられている、文字が書いてあるものは皮だし、地面に置いてあるのは土器。そして何よりも、私や千空や大樹が着ている衣服が、石器時代のもののようだもの。文明が滅びていないなら、石化する前のものと同じ状態だしね」
「なるほどな」
大樹の質問に魅真が答えると、大樹はすごく納得していた。
「ククク。状況把握が早くて、実におありがてえ。今日は、5738年の11月30日だ。俺は約八か月前の4月1日に、大樹はテメーが起きるちょっと前の、10月5日に目覚めた」
「ざっくり3700年経ってるってことね。けど、なんで正確な日付がわかるの?」
「石化している間、ずっと秒数数えてたかんな。もし意志の力で起きれても、裸一貫で冬に目覚めりゃ、即ゲームオーバー。春スタートが生き残りの絶対条件だ。正確な暦は、どうしても必要な情報だったからな」
「それで3700年も…。すごいね、相変わらず。合理的というか、現実的というか」
千空が正確な日付を把握しているので、聞いてみると、すごいことをさらっと口にした千空に感心していた。
「てめーはどうせ、剣道のことでも考えてたんだろ?」
「え!?なんでそれを?」
すると千空が、石化中に魅真が考えていたことをあてたので、魅真は驚いた。
「テメーとは小学校の頃からの付き合いだからな。それくらいはわかる。テメーは、剣道バカの汗クサ女だからな」
「あたり前でしょ。せっかく、次の大会で大将に指名されたのに、石化したからって、簡単にあきらめられるわけないじゃない」
千空が、魅真が考えていたことをあてた理由を話すと、魅真は肯定しながら、悔しそうにしており、そんな魅真を見た千空は、口角をあげて笑う。
「テメーをずっと待ってた。大樹と同じで、100億%確実に生きてるってわかってたからな。テメーみたいな剣道バカが、たかだか数千年ぽっちで挫折なんて、するわけねぇからな!!」
「わかってんじゃん」
千空は、ずっと魅真を信じて待っていた。そのことに魅真は、うれしそうに、ニッと笑った。
千空は、これまでのことを説明した。
千空が一人で目覚めた時、衣食住を手に入れるために奮闘していたこと。千空と大樹が倒れていた、すぐ近くの洞窟の中に垂れている硝酸が石化を解除したので、石化から復活する鍵は硝酸にあるとわかり、燕で試して、復活の水を作ろうとしていたこと。千空が、自分が倒れていたすぐ近くで大樹をみつけ、復活させようと試みたこと。その途中で魅真をみつけて、同じように復活させようとしたこと。魅真が復活する二か月近く前に、大樹が目覚めたこと。文明を復活させようとしていること。人類を復活させようとしていること。大樹が目覚めてからは、千空と大樹は協力して生活しながら、人類を復活させるために、復活の水を作っていたこと。復活の水にはアルコールが必要なので、初めてできた復活の水の試作品を、魅真にかけようとしたら、魅真が目覚めたことを話した。
「そっか。じゃあまずは、復活の水を作るところから、スタートすればいいのね」
「そういうこった。テメーのここでの基本的な役割は、武力だ。ここは、俺たちが住んでいた日本だが、未開のジャングルになってるかんな。どうしても武力が必要なんだよ」
今の状況を説明した後、魅真のここでの役割を話しながら、千空は外に出て、魅真と大樹も千空のあとを追いかけて外に出た。
外に出ると、そこは今千空が言った通り、ジャングルになっており、魅真は呆然として、その風景を見た。
「つまり、ジャングルにいる動物たちから、千空と大樹を守るってことね」
ジャングルを見ると、千空の言いたいことを理解した魅真は、千空に確認するように聞いた。
「あぁ、そうだ」
聞かれると、千空は返事をしながら、ツリーハウスの下にたてかけられている、槍の隣に置いてある木刀を、魅真に差し出した。
「テメーには酷かもしんねーがな。だが、それができるのはテメーだけ。武力カードとして、テメーが必要なんだ!」
千空は、とても真剣な目をしていた。
魅真は差し出された木刀を受け取ると、無言でうなずいた。
「わかってるよ。言われなくても。自分がここで、何をすべきか…。確かに抵抗はある。だけど…」
そしてうなずくと、受け取った木刀を腰の帯にさした。
「千空と大樹は、私が守るわ!!」
魅真もまた、真剣な顔で千空に返す。
魅真の答えに、千空はうれしそうに笑った。
こうして、魅真を加えての、ストーンワールドでの生活と、復活の水の制作が始まった。
魅真は今、千空と大樹とは別行動をとっていた。邪魔にならないように、髪の毛を後ろで一つにくくり、籠を背負い、腰には袋をさげて、お昼ご飯の材料の調達と、薬草の採集をしていた。
病気=ゲームオーバーのこの世界では、少しでも菌を浄化するものや、治療するものは必要だからだった。
木刀を渡された後、袋と石器の小さな刃を渡された魅真は、それらを使って、ご飯の材料を調達すると同時に薬草を集め、ある程度集めると、ツリーハウスに戻った。
「おお!戻ったか、魅真」
「うん」
戻ると、同じように、別の場所に食料の採集に行っていた大樹が一足先に戻ってきており、明るい声と顔で魅真を出迎えた。
「どうだ?成果は」
「あんまり。ご飯の調達はともかく、薬草はね。もう冬だからっていうのもあるけど、ここに来たばかりで、まだ右も左もよくわからないから…。とりあえず今日のメインは、周辺の地理の確認ってとこかな」
「確かに大樹と一緒で、量スゲーな」
魅真が腰にさげている袋はあまり膨らみがないが、背負っている籠には、食べられそうな食料が山盛りになっていたので、千空は感心していた。
「さすがは、無限に近い体力とチート運動能力の持ち主だな。しかも、女でこんだけの量持って帰れるとか、ゴリラかよ」
「そう?」
「確かに魅真はすごいな!俺も負けてられん!薬草のことは、そんなにあわてることもないだろう。さあ、昼飯ができているぞ」
「ありがとう。じゃあ、休憩もかねて、お昼ご飯にしよう」
千空と大樹の前には焚き火があり、焚き火の周りには、木の棒に刺さっている小動物やきのこが地面にささっており、ちょうど今焼いている最中だった。
魅真は籠を地面に置くと、千空と大樹の間にすわり、焼き上がるのを待った。
「魅真、午後からは、復活の水の制作に協力しろ。今の時期、薬草もそうそうねえだろう。まあ、秋や冬に咲くやつもねえことはねぇが、復活の水の制作も覚えてもらわなきゃなんねえかんな」
「了解。それにしても、まさかこんな形で、趣味が役立つなんて、思いもしなかったよ」
「あぁ、経験してきたことが、いつどこで役に立つか、人生わかったもんじゃねえな。ほら、そろそろいいぞ」
「ありがとう、千空」
話しているうちに火が通ったようで、千空は魅真に焼き魚を1つ渡した。
魅真は渡された焼き魚を数秒みつめると、棒を少しだけ強くにぎりしめ、頭をさげる。
「いただきます」
そして、食事をとる前の、感謝の気持ちを述べた。
感謝の気持ちを口にすると、魅真は魚を口に運ぶ。
「おいしい!」
魚の身が口の中に広がると、魅真は顔をほころばせる。
「なんかキャンプみたいだね。でも、私一人じゃご飯にありつけなかったかもしれないし、大樹にも千空にも感謝だね」
「ここにある食料を採集してきたのも、火をおこしたのも雑アタマだ。礼ならそいつに言え」
「だが、この家も、道具も、料理にふってある塩も、作ったのは千空だ!」
「うん。だから、2人に感謝してるんだよ」
魅真が千空と大樹にお礼を言うと、千空はそっけない態度をとり、大樹は淡々と真実を話すが、魅真は2人なくしてはこの状況はあり得ないことはわかっているので、再度お礼を言った。
「それに、千空も大樹もいなかったら、このジャングルの中、たった1人で不安になっていただろうし、人を石化から解除する方法とか思いつかなかっただろうし、すごいほっとしてる。目覚めた時に人がいて…それが千空と大樹でよかったよ。これで、あとは杠だけだね。杠を復活させるためにもがんばらなきゃ!」
4人の中で、杠だけがまだ目覚めていないので、杠を復活させるためにも、魅真は気合を入れた。
「そうだ!!杠を必ず目覚めさせてみせるぞ!!」
魅真に続いて、大樹も気合を入れ、吠えるように叫んだのを見て、魅真は微笑ましそうにした。
「ところで、杠がいる場所って、目星はついてるの?」
「杠は、クスノキのもとにいる」
「クスノキって…私たちの学校にあった?」
「そうだ」
「へぇ~~。よく流されないで無事だったね。クスノキに感謝だね」
「そうだな!」
「あ~~。くっちゃべってねえで、さっさと食って、早く実験始めんぞ」
魅真と大樹で杠の話をしていると、千空が割って入ってきて、早く食事をすませるように促した。
そこまで食事の量が多くなかったのと、洗い物がないのとで、早々に食事をすませると、大樹は夕飯用の食料の採集に、魅真と千空は、研究室で復活の水の制作を始めた。
魅真は、復活の水のもととなる硝酸と、その硝酸がたれている洞窟のことと、アルコールが必要なのでワインを蒸留していることと、復活するかどうかを燕の石像で試していること、復活の水の制作に関する大まかな説明を受けると、まず最初に洞窟まで案内してもらった。魅真が硝酸を取りに行くこともあるからだった。
次に、研究室に戻ると、ワインの作り方、蒸留の仕方、土器の作り方、復活の水の作り方の説明を受け、まずはワインの制作から覚えることにしたので、大樹がとってきたブドウを、大きめの土器に入れると、石器を使ってブドウをつぶし、ワインを作り始めた。
ワインを作っていると、大樹が食料の採集から戻ってきたので、大樹とともにワイン作りをすることとなった。
千空は千空で、大樹が採集してきた食料を、先程魅真が採ってきたものも一緒に、食べられるものとそうでないものとでわけていた。
「ちょっと肌寒くなってきたね。もう、今日から12月だもんね。雪がふってる時に復活しなくてよかった」
「そうだな。それに、千空がはだかのまま目覚めさせようとしていたからな。あのまま目覚めていたら、もっと寒かったぞ」
作業をしながら話していると、大樹が爆弾発言をしたので、魅真は固まった。
「ちょ、ちょっと待って大樹。それって本当のこと?」
「ああ、本当のことだぞ。さすがに礼儀に反するから止めたがな」
「なにそれ!?サイッテー!!合理的で効率中なのは知ってたけど、まさかここまでなんて!!」
当然のことながら、魅真は千空に文句を言った。
「あぁ?この非常時のストーンワールドでは、どうでもいいことだろ。些事だ、些事。誰も気にしねえよ」
「私がするの!!」
しかし、千空はどこ吹く風なので、魅真はますます怒った。
「誰が好きこのんで、好きでもない男に、自分のはだかを見せなきゃなんないのよ!」
「うるせぇな。最終的に服着せたんだからいいだろうが。んなこたどうでもいいから、作業に集中しやがれ」
それでも、千空は受け流したので、魅真はこれ以上言っても無駄だと思い、腹は立てていたが、言われた通り作業に戻った。
「(大樹がいてくれて、本当によかった)」
なんだかんだ言っても、最終的には服を着せてくれたので、千空を止めてくれた大樹に、心の中でだが感謝し、同時にほっとしていた。
魅真の、この世界での役割は、薬草を集めること、たまに大樹の手伝いで食料の採集、治療、千空と大樹の護衛、復活の水の制作だった。
それを何日も何日もくり返した。
次第に、本格的に冬がきて、東京とは思えないほどの雪がふり、ふった雪は大樹の腰あたりまでつもり、研究室には巨大なつららまでできた。
あまりに冷えるので、三人は上着を着て、毎日毎日休むことなく、復活の水の制作を続けた。
毎日すごい量の雪がふっていたが、大樹は生きるために狩りも続けた。
水辺にはった分厚い氷に穴をあけて、そこから魚をとった。
巨大な魚と槍を持っている大樹のあごと口まわりには、ひげが生えており、大樹はふいに、そのひげを手でさわった。
「杠に!嫌われてしまう!」
「つーか、清潔さって意味でなんとかしろ。病気=ゲームオーバーだ」
見た目が不潔なので、このままでは、杠に嫌われてしまうのではないかと大樹は恐れたが、千空は現実的な意見を返した。
そして、目の前の雪をほると、その下にあった貝殻を取り出し、この貝殻を使ってひげのケアをするよう、上下に動かしながら貝を鳴らした。
千空に促された大樹は、超高速で、貝殻を使ってひげをとった。ひげは、全部とれたことはとれたが、一気にとったので、ひげが生えていた部分は赤く腫れあがり、魅真と千空は、お腹を抱えて爆笑し、千空は涙まで流すほどだった。
それから数ヵ月後…。春がきて、花が咲き、蝶がとびはじめた。
魅真、千空、大樹は、その日も復活の水の実験をしており、1から5の番号が書かれている湯飲みに入った復活の水を、それぞれ燕の石像にかけた。
しかし、相変わらずなんの反応もないので、魅真と大樹は落ちこみ、千空は扉の前にある壺を蹴った。
だがその時、千空が何気なく後ろへふり向くと、1つだけ、燕の羽根の石がはがれ落ちているのを目にした。
千空はすぐにワインの蒸留をはじめ、もう一度同じ要領で復活の水を作ると、外に燕の石像を持っていき、地面に置くと、燕の石像にかけた。
「教えてやるよ、デカブツ。『科学ではわからないこともある』じゃねえ」
水をかけられた燕の石像にはヒビが入り、次第に燕の目が見えた。
「わからねえことにルールを探す。そのクッソ地道な努力を、科学って呼んでるだけだ……!!」
そして、目が見えると、どんどん石化がとけていき、石の中から生きた燕が姿を現し、完全に石化がとけると、燕は大空を舞った。
「う…うおおおおおお!!」
ついに復活の水が完成したので、大樹は涙を目に浮かべながら、感激で叫び声をあげ、魅真もまた、喜びの笑顔を浮かべた。
「実験始めて一年――。第100何十回目か?意外と早かったな。ククク、地道なもんだ」
燕が飛んでいくと、千空は蒸留用に使っていた土器の釜戸に腰をおろした。
「ファンタジーに、科学で勝ってやんぞ。唆るぜ、これは…!」
大樹や魅真とくらべるとわかりにくいが、千空は千空で喜んでいた。
「大樹、テメーのブドウの手柄だ。最初に助ける人間くらい、テメーが決めろ」
復活の水の作成に必要な、アルコールの元となるブドウは、大樹がみつけてきたので、最初に復活させる人間の決定権は、大樹に譲られた。
これは千空なりの礼だったが、もう大樹が何を言うのかわかっているのもあり、その口に弧を描いた。
「ありがとう、千空!」
千空の言うことに、今度は大樹がお礼を言い、魅真はうれしそうに笑って見ていた。
「答はもちろん、決まっている…!!」
大樹の答…。それは、杠だった。
.
1/2ページ