優しい風にさらわれる
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ある日、いつも通り学校から家に帰る途中で、魅真は赤ん坊がうろついているのを目にした。
「君、どうしたの?」
近所では見たことないし、何よりも赤ん坊が一人というのも危ないので、魅真は彼に合わせてしゃがみこむと、声をかけた。
「実は、道に迷ってしまいまして…」
「迷子?お母さんかお父さんは?」
「いえ……私は今は、ある人の家にお世話になっている身でして…」
「ある人?」
赤ん坊なのに親がおらず、しかも別の場所にお世話になっており、それが両親や親族ではなさそうなので、魅真はふしぎに思った。
「(あっ!!)」
だが、赤ん坊がつけている物を見ると、魅真はハッとなる。
「君……もしかして、リボーン君っていう赤ちゃんと、知りあいだったりする?」
それは、彼が首にさげているおしゃぶりで、リボーンがつけているものと色は違うが、形はまったく同じものなので、リボーンの仲間ではないかと思ったからだった。
「リボーンのことを知ってるのですか?ひょっとして、沢田綱吉と知り合いで?」
「うん。ツナとはクラスメイトだよ」
「そうですか。では、雲雀恭弥という人物をご存じでしすか?」
「もちろん!てことは君、今恭弥の家に?」
「ええ」
「そっか。じゃあ、私が連れていってあげる!」
彼の行き先が雲雀の家だとわかると、魅真は得意げに笑った。
「ありがとうございます。私の名は風といいます。あなたは?」
「私は魅真。真田魅真だよ」
そして、雲雀の家に行く前に、二人は互いに自己紹介をした。
優しい風にさらわれる
それから数分後。
魅真は雲雀家を訪ね、今は雲雀と対面していた。
魅真は今、風をだっこしてにこにこと笑っているが、対照的に、雲雀は冷めた目をしており、かなりの温度差があった。
「というわけで、恭弥んちに居候してる風君を、恭弥のとこに連れてきたんだ」
「ああ、そう…」
けど、それはいつものことなので、魅真は特に気にしていなかった。
「それにしても風君、本当に恭弥に似てるよね。ひょっとして、恭弥の年の離れた弟だったりして」
「魅真…君…僕にそんな存在がいないのを知ってて言ってるだろう…」
魅真は雲雀と幼馴染なので、雲雀が一人っ子なのを知っていたが、風があまりにも雲雀に似すぎているため、わざとそのようなことを言った。
そのことがわかっている雲雀は怒っていたが、魅真はどこ吹く風で、へらへらと笑っていた。
「そうだよね。恭弥の弟にしては、あまりにも礼儀正しすぎるもん」
「咬み殺すよ…!!」
更に失礼なことを言われ、雲雀はトンファーを取り出すが、魅真は動じなかった。
「まあまあ、そんなに怒んないでよ。恭ちゃん」
「その名で呼ばないでくれる」
なお雲雀のことをからかってきたので、雲雀は更に切れるが、それでもお構いなしだった。
その時、風は魅真の腕の中から抜け出して、雲雀の肩にとび移った。
「魅真さん、本当にありがとうございました。おかげで助かりました」
「どういたしまして。それじゃあね、風君。恭弥も」
風が再度お礼を言うと、魅真は手をふって別れを告げ、雲雀の家から去っていった。
それから二日後。
魅真は昼休みに、一人で屋上に行った。
「あ!」
「おや」
そこには風がいたので、魅真は風のもとに、小走りで近寄っていった。
「風君、並中に来てたんだね」
「はい。雲雀恭弥についてきたのですよ」
そして、風の隣に来ると、その場にすわりながら話しかけた。
「恭弥に?遊びに来たとか?でも、よく恭弥が、学校関係者じゃない人を入れたね」
部外者を見れば、必ず目を光らせる雲雀が、風の存在を許しているので、魅真はふしぎに思った。
「あ、でも…リボーン君の例もあるか。ツナはリボーン君がいないと、ハイパー化できないし…」
「……魅真さんは、ボンゴレファミリーのことをご存じなのですか?」
「うん。獄寺のことも、山本のことも、もちろん恭弥のこともね。まあ、私は戦闘力ないから、知ってるだけなんだけど」
「そうですか。では、今回の戦いのことはご存じで?」
「うん。代理戦争とかっていうやつでしょう?そういえば、リボーン君の仲間ってことは、風君がここにいるのって、その代理戦争があるから?」
そこまで話すと、何故風がここにいるのか、魅真はようやく理解した。
「そうです。私は、雲雀恭弥に代理を頼んだので…」
「えっ…恭弥が!?よく引き受けてくれたね」
「ええ。優勝したら、私と戦うことを条件に…ですが」
「恭弥らしい…」
雲雀が群れるのが嫌いなのは、周知の事実なので、魅真は最初驚いたが、雲雀が風の頼み事を引き受けた理由を聞いて納得した。
「昨日は、代理戦争の直前でしたからね。さすがに一緒にいた方がいいと思ったのですが、並盛町に来て間もないので…。あなたがいてくれて、本当に助かりました。ありがとうございます」
そして風は、昨日迷っていた経緯を簡単に説明すると、再度魅真にお礼を言いながら、頭をさげた。
「どってことないよ。それより、もう一度お礼言うなんて、風君って律儀なんだね」
「…そういうわけではないのですが…」
「え?」
風は魅真の言ったことを否定すると、立ち上がり、魅真の手の上に、魅真よりも小さな、赤ん坊独特のやわらかい自分の手を重ねた。
「お礼など、ただの口実です」
「口…実…?」
更に、下の方に反対の手を入れて、魅真の手を、すくいあげるように持ち上げた。
「一目惚れをしたと言ったら、あなたは笑いますか?」
そして、情熱的な瞳で、魅真をまっすぐにみつめる。
「えっと……別に笑ったりはしないけど…。私と風君、年が離れすぎてるよね」
魅真は、笑ったりはしないが、相手は赤ん坊なので戸惑っていた。
「やはり…私が赤ん坊だからですか?」
「まあ…はっきり言うと、そうだね。風君は、かわいい弟くらいにしか思えないっていうか…」
「そうですか……」
「ごめんね。別に、風君が嫌いとか、そういうのじゃないんだ」
見るからに落ちこんだので、魅真はあわててフォローをする。
「いえ、いいんです。予想はしていましたから」
「へ?」
「それでも、私の気持ちを、あなたに知っておいてほしかった。それだけなんです」
けど、風は努めて明るく笑いながら、魅真の手をおろした。
「では、私はこれで失礼します」
「もう行っちゃうの?」
「ええ。あなたに、私の気持ちを伝えたかったので…。それに、いつ代理戦争が始まるかわかりません。あなたを巻きこみたくはありませんから…」
「そっか…」
「それでは魅真さん。元に戻ったら、あなたを迎えに行きます」
「元に……戻る?」
ボンゴレのことは知っていても、アルコバレーノの呪いのことは詳しく知らないので、魅真はなんのことかわからなかった。
「その時は、また…私の想いを聞いてください。そしたらもう一度、私とのことを考えてくださいね」
「え?うん。いいよ」
「ありがとうございます。それでは」
魅真にあいさつをすると、風は、扉から中に戻るのではなく、フェンスの上にとびのって、そこから下に降りていった。
普通ならありえないが、リボーンでなれているので、驚いたりはしなかった。
「風君……かなりませてるな…」
風の願いを聞き入れた魅真だが、子供の約束程度にしか思っていなかった。
それから、10年の年月が過ぎた。
魅真は大学を卒業した後は、ボンゴレファミリー日本支部で、下働きをしていた。
毎日忙しいが、一部をのぞいてほとんどが優しい人ばかりで、ボスのツナは特に優しいので、とても充実した毎日を過ごしていた。
そんなある日のことだった。
その日魅真は、仕事が休みで、並盛商店街をぶらついていた。
日本支部は地下にあるので、外に出て気分転換をしたいという思いから、並盛商店街にやって来たのだった。
「魅真さん」
あてもなくブラついていると、後ろから声をかけられたので、ふり向くと、そこには、雲雀にそっくりな顔をした、長い髪の毛をみつあみに結い、赤いチャイナ服を着た男性が、にこやかに笑って立っていた。
「お久しぶりです」
その男性は、とてもうれしそうに笑いながら、魅真の前に歩いてきた。
「えっと……どちら様ですか?」
けど、見覚えのない人物なので、魅真は相手に素性を尋ねた。
「やはり…覚えてませんか?」
魅真が覚えていないので、彼は見るからに落ちこんでしまったので、しょんぼりとした彼の顔を見ると、魅真は罪悪感を感じた。
「(恭弥にそっくりな顔で落ちこまないで~。なんか変な感じがする…)」
それだけでなく、雲雀とあまりにも似すぎている顔で落ちこまれたので、相手が雲雀じゃないにしても、すごく変な気持ちになった。
「あ……」
けど、その時魅真は、ふいに、10年前に会った、雲雀にそっくりな赤ん坊が脳裏をよぎった。
「ひょっとして……風君…?」
たった10年しか経っていないのに、ここまで大きくなっているのが信じられないが、魅真は心あたりのある人物の名前を口にした。
「そうですよ」
すると、彼…風はやわらかく笑い、肯定した。
「え!?ちょっ…待って!!風君っていったら……10年前は赤ん坊でしょ?それなのにそんな……今の恭弥と変わらないくらいの見た目と背丈になるの!?」
あのまま順調に育っていたら、ここまで大きくはならないのに、見た目が、今の自分や雲雀と変わらないくらいの年齢になっているので、魅真は驚きを隠せなかった。
「ここでは話せないので、人のいない場所に行きましょうか」
風が移動することを提案すると、自分以外には聞かれたくない話なのだと察した魅真は、小さくうなずき、別の場所へと移動した。
二人が移動してきたのは河原で、風はなるべく人がいない場所へ移動すると、コンクリートの土手にすわり、魅真も隣にすわった。
「まず、何故私が大きくなっているかですが……。端的に言うと、あれは呪いだったんです。アルコバレーノのね」
「呪い?」
そんなオカルトのようなものが、現実にあるとは思えないので、魅真は顔をしかめる。
「私が、今は持っていないおしゃぶりは、ボンゴレ10代目が持っていたボンゴレリングと同じで、世界最高峰の石でできたものでしてね。世界を支える礎となっていたものなんです。そしてそれは、常に死ぬ気の炎を灯しておかなければならず、私が受け取ったおしゃぶりは、つけられたら最後、死ぬまでとれないものだったんです」
「!!」
「そしておしゃぶりをつけると、赤ん坊の姿にされてしまう。更には、アルコバレーノには寿命があり、次のアルコバレーノが決まったらお役御免となり、死ぬか…復讐者となって、生きる屍として永遠に生き続けるかの、どちらかになるという、残酷なシステムなのです」
簡潔にだが、アルコバレーノについて説明されると、魅真は、風はあまりにも過酷な人生を歩んできたのだと、顔が真っ青になり、体が震えた。
同時に、ボンゴレにいながら、リボーンのことを何も知らなかったのだと、悔しい思いもしていた。
「その呪いを解くのが、10年前の代理戦争だったのです。その代理戦争というのは、私達アルコバレーノの呪いを解くという名目で行われていましたが、実は、おしゃぶりを私達にさずけた男が、私達の寿命を悟り、他の力のある者へと譲渡するというだけの、選別会だったのですがね」
「なっ!!なんて汚いの。その男!!」
風達アルコバレーノを物のように扱い、更には別の者にも、同じ過酷な人生を歩ませようとしていたことに、魅真は激怒する。
「ですが、私の代理となった雲雀恭弥や、他のアルコバレーノの代理となったボンゴレやヴァリアー達が、一致団結して復讐者と戦い、おしゃぶりをさずけた男と交渉し、なんとか呪いは解けたのです」
「よかった…」
詳しいことはよくわからないが、全員無事だったようなので、魅真はほっとした。
「それで、風君の呪いが解けて…」
「こうして、もとの姿に戻ったわけです」
説明を終えると、風はにこっと笑い、魅真の手の上に、魅真よりも大きな、大人の男性特有の、武骨な自分の手を重ねた。
「あの時の約束通り、あなたを迎えに来ました」
そして、重ねた方の手をとると、もう片方の手を、下からすくいあげるようにもちあげて、魅真の手を包みこんだ。
「え?えっと……あの……」
いきなり手をとられたので、魅真は風を見て困惑した。
「10年前…あなたに一目惚れをした時から、ずっと心に決めていたんです。呪いが解けたら、必ずあなたに会いに行って、もう一度、あなたに想いを伝える…と…」
「え!?あれって、子供の時の口約束…とか、そういうのじゃないの?」
「違いますよ。私は本気です。ずっとあなたを想っていた。だから、この間ようやく元の大きさに戻ったので、またあなたに会いに来たんです」
情熱的な瞳でまっすぐにみつめられたので、魅真は顔が赤くなる。あの時は赤ん坊だったが、今は自分とあまり年が変わらなさそうな、大人の男性だからだ。
「あなたが好きです、魅真さん…」
口説かれた上に告白までされたので、魅真は更に顔を赤くして、少しだけときめいた。
「あの日から、あなたのことを、一度も忘れたことはありませんでした。あの時あなたは、私と年齢差がありすぎるからと、相手にしてくれませんでした。けど、今の私は大人です。私はもう、あなたにだっこされていた、かわいい弟の風君ではありません。年齢を気にして、あの時の私が赤ん坊だから…というのなら、今の私ならいいということですか?今の私は、魅真さんと、年齢はさほど変わりません。今なら…あなたを、抱きしめることも、肩を抱きよせることも、腕を組むことも、抱きあげることだってできます。あの時あなたは、私が、もう一度、私とのことを考えてほしいと言ったら、いいと言ってくださいました。ですから考えてください。赤ん坊の頃の私ではなく、今の私を見てほしい」
目の前にいる風は、本人が言った通り、赤ん坊の頃とは違って大人で、雲雀にそっくりだが、全然違う顔立ちだった。
けど、赤ん坊の頃とは違うとわかっていても、どうしても、赤ん坊の頃の風がちらついて、頭からはなれなかった。
「……ごめん…」
「!!」
「風さんは、とても素敵な人だと思う…。だけど私は、あの時の約束を、子供のままごと程度にしか思ってなかったし…。それに、赤ん坊の風君がちらついてるから、今すぐに決断はできない……」
魅真の曖昧な返事を聞くと、風は悲しそうな、けど、どこかうれしそうな顔をして、小さく笑った。
「今すぐに決断できないということは……それは、期待してもいいということでしょうか?」
「え…」
「無理なら、とっくに無理だと言っています。なのに、子供のままごとにしか思ってないとか、赤ん坊の私がちらついてるのを理由にしてるということは、つまりはそれさえなくなればいいということですよね?赤ん坊の時の私がちらついてるというのなら、今の私をずっとみつめてください。そうすれば、消えるかもしれません」
「どういう理屈!?」
「私があなたと会ったのは、10年前のほんの数時間。けど、あなたに本気になってしまった。一回や二回ダメだったからといって、あきらめきれないんです。あなたをふりむかせたい。ですから、今まで一緒にいることができなかった分、これからは、あなたのそばにいてもいいですか?」
「それは…その…」
「ダメ…でしょうか?」
魅真が迷っていると、風はまたしょんぼりとして、それが魅真には、すてられた仔犬のように見えたので、ドキッとした。
「…ダメじゃ……ないけど…」
少しばかり罪悪感を感じた魅真は、嫌ではないというのもあり、風の頼み事を承諾した。
「ありがとうございます!魅真さん」
承諾されると、風は心の底からうれしそうに笑った。
それから魅真は、風とともにアジトに戻った。
エレベーターを降りて、中に入ると、ちょうど雲雀と出くわした。
「お久しぶりです、雲雀恭弥」
風と会うと、雲雀は眉間にしわをよせたが、対照的に、風はにこにこと笑ってあいさつをした。
「なんで君がここにいるの?」
「魅真に会いに来たんですよ。10年前に会った時に、一目惚れをしたので」
「君…趣味悪いね」
「そうですか?目は確かですよ」
「それで、なんで魅真に会いに来ただけの君が、ここにいるわけ?」
質問に答えてもらってないし、話がそれたので、雲雀は再度同じ質問をした。
「魅真に会いに来て、告白をしたのはいいのですが、微妙な返事をいただきましてね。あきらめきれないので、そばにいてもいいかと聞いたところ、OKの返事をいただきましたから、こうして、ボンゴレのアジトに来たというわけです。沢田綱吉には話して、了承をいただいてますしね」
「そう…。僕の前では、絶対に群れないでね。群れてたら咬み殺すから」
「努力します」
質問に答えてもらうと、群れるのが嫌いな雲雀は、一方的な命令をして去っていくが、風は笑って受け流した。
「風君…。恭弥、冗談は言わないんだけど、大丈夫?」
「大丈夫ですよ。彼のことは、10年前の代理戦争でわかってますし、私は拳法をたしなんでますので、そう簡単にはやられませんよ」
「そっか…」
雲雀は自分以外の人間が群れてるだけでも、トンファーを持って暴れるので、そのことを心配していたが、風は意にも介さずに笑っていた。
「それより、アジトの案内の続きをお願いします」
「え?あ、そうだね…」
魅真は風に、アジトの案内をしていた時に、雲雀と会った。
なので、もう雲雀はいないので、風に促されると、魅真は案内の続きをした。
その日から、風をまじえての、ボンゴレアジトでの生活が始まった。
風はボンゴレに置いてもらうのだからと、家事もボンゴレの仕事も、できることを率先してやっていた。
しかも、それぞれのスキルが高いので、ツナからは…
「風がいてくれて助かる」
とまで言われるほどだった。
そして風は、家事とボンゴレの仕事をする傍ら、魅真が出かける時は、一緒に出かけていた。
もちろん、魅真がノーと言ったら無理について行かなかったが、許可されたら、うれしそうな顔で魅真の隣を歩いた。
階段や段差があったら手を差し伸べて、買い物をしたら荷物を持ったりもしていた。しかもそれが自然なので、とても紳士的なふるまいだった。
紳士的な態度で接しながらも、魅真へのアプローチはかかさなかった。
魅真は一緒に暮らしていくうちに、風の紳士的な態度は自分に対してだけでないこともわかったし、それが作られたものでないこともわかったので、風には好印象を抱いた。
それから、魅真と風が再会してから半年が経ったが、魅真と風の間に、特に進展はなかった。
けど、風は相変わらずにこにこと笑いながら、この日も魅真と共に出かけていた。
魅真はこの日はオフの日だったので、町に買い物に出かけ、風がいつものようについて来たのだった。
魅真が服をいくつか買うと、風が荷物を持ち、帰りに公園に寄って休憩をした。
その公園には東屋があり、東屋にある長椅子に風がすわると、魅真はすわらず、どこかへ行こうとしていた。
「魅真さん、どちらへ?」
「少しだけそこで待ってて。すぐに戻ってくるから」
当然、疑問に思った風は声をかけるが、魅真は明確な理由は話さず、そこから小走りで、どこかへ行ってしまった。
一人取り残されてしまったが、すぐに戻ってくると言ったので、大人しく待つことにした。
それから10分ほどすると、魅真が戻ってきた。
「お待たせ、風君」
「お帰りなさい、魅真さん。一体どこに行っていたのですか?」
「この公園の近くに、おいしいジュースを売ってる店があるから、買ってきたの」
魅真の両手には、プラスチックの容器に入ったジュースがあった。
「オレンジジュースと桃のジュースなんだけど、風君はどっちがいい?私はどっちでもいいから、好きな方選んで」
「え…。これは魅真さんが買ったのですがから、魅真さんが選んでください」
「いいの。今日買い物に付き合ってくれたし、荷物も持ってくれたから。今までのことも含めてのお礼よ」
「そうですか?それでしたら、桃のジュースをいただきます」
魅真が購入したジュースなのに、選択権をもらったので風は申し訳なさそうにしていたが、魅真は気にしていなかったので、これ以上断るのも失礼だと思った風は、ジュースを一つ選んだ。
風が桃のジュースを選ぶと、魅真は左手に持っていた桃のジュースを、風に渡した。
「ありがとうございます、魅真さん」
風はジュースを受け取ると、笑顔でお礼を言う。
魅真も風につられるように笑うと、風の向かい側にすわった。
魅真は席につくと、容器にさしてあるストローを口にくわえてジュースを飲み始め、風も同じように、ジュースを飲み始めた。
「本当においしいですね」
少し飲むと、風はストローから口を放して、ジュースの感想を話す。
「でしょ?京子とハルのおすすめのところなの」
「そうでしたか。ところで魅真さん」
「何?」
「なんだか、こうしていると、デートみたいですね」
「えっ!?」
今までも、口説かれることは多々あったが、デートと言われたのは初めてだったので、魅真は頬を赤くして動揺した。
「デート?デートって、そんな……べ、別に付き合ってるわけじゃないし…!」
以前と違う反応なので、風は小さく笑うと、ジュースの容器を、目の前のテーブルの、自分の前から少しそれた場所に置き、手を伸ばして、魅真の手にそえるように重ねた。
「それなら、付き合いますか?私と…」
「へ…ぇ…!?」
さわやかな笑顔。男性特有の、大きく、武骨な手。その手から伝わるあたたかい体温。無理強いではないが、真剣に求めてくる風の表情や言葉やしぐさに、魅真は更に動揺したので、変な声を出してしまい、いろいろな意味で、顔が真っ赤になる。
「何度も言っていますが、私はあなたが好きなんです。けど、あなたは再会した時以来、本当の気持ちを教えてくれていない。私も、そう簡単には心は変わらないと思い、ずっと何も聞きませんでしたが、もう一度、あなたの本心をお聞きしたいのです」
笑顔から一変して、真剣な顔になり、魅真をみつめた。
「答えて……いただけませんか?」
「え?えっと……」
真剣な瞳にみつめられ、魅真は顔を赤くして、うまくしゃべれなかった。
「……私…は……中学生の頃に、風君と会った時は、風君が呪いにかかってることを知らなかったのもあって、かわいい赤ちゃんにしか見えなくて、本当に弟みたいな感覚だったの。半年前に再会した時も、まだそういう感覚があった。だけど…同時に、大人になった風君を見た時、ちょっとだけ、ときめいたのも事実なんだ…。本当は、再会した時から心惹かれていたけど、10年前に初めて会った時は赤ちゃんだったから、恋愛対象じゃないって言ったのと、赤ちゃんの頃の風君が頭の中でちらついてて、ふんぎりがつかなかったの…」
それでも、なんとか口を動かして本心を語ると、風は目を丸くしながらも、明るい顔をした。
「でも…今は大好きだよ…!」
そして、魅真が告白すると、今までで一番の、満面の笑顔を浮かべた。
魅真に告白されると、風は魅真の手から自分の手をどかし、立ち上がって、魅真の方へ歩いてくると、魅真の隣にすわった。
「え……。あの…風…君…?」
向かい側にすわっていたのに、突然隣にすわったので、魅真はびっくりしたが、風はにこにこと笑っていた。
そして、風は魅真の肩に手をそえると、唇をよせて、そのままおでこにキスをした。
「へ!?」
突然のことに、魅真はすっとんきょうな声を出し、風はキスをすると、魅真の背中に手をまわして抱きしめた。
「すみません。両想いになれたので、うれしくてつい…」
「ついって……」
「ですが、これでも我慢したのですよ。本当は唇の方にしたかったのですが、そこはさすがに、魅真さんの許可をとらないと…と思ったのです」
「そう……」
本当は、唇じゃなくても許可を得てからにしてほしいと思ったが、うれしいと思ったのも事実なので、魅真は風を責めることはしなかった。
「でもこれからは、気兼ねなく、思う存分あなたにふれられるので、その日まで待つことにします。10年も待つことができたのですから、問題ないですよ」
おでこにして怒らなかったので、そんなには待つことはないだろうと確信した風は、うれしそうに、楽しそうに笑っていた。
「ところで、ちょっと疑問に思ったんだけど…」
「はい」
「風君て、呪われて赤ん坊の姿になっていたっていうなら、本当はいくつなの?」
今の風のセリフで、風が、呪われて赤ん坊の姿になったと、以前話してもらったことを思い出した魅真は、ふと疑問に思ったことを風に聞いた。
「おや、気になりますか?」
「そりゃあ…」
風は、一旦魅真と体を放して向かい合うと、魅真は気になって仕方ないといった顔をしていたので、小さく笑うと、魅真の耳にそっと顔を近づけて、魅真だけに聞こえるように、実年齢を話した。
風の年齢を知ると、魅真は呆然とし、風は実年齢を教えると、魅真から顔を放した。
「え……それって…本当に…?」
「ええ、もちろんですよ」
風の本当の年齢を知った魅真は驚愕するが、風は気にせずにっこりと笑う。
「そ…それが本当だとすると、私と風君って、すっごい年離れてるじゃない!」
「そうですね。ですがそれは、あくまでも、私がアルコバレーノとして呪われていた期間が大部分を占めていますし、今の姿は、呪われた時の年齢ですから」
「なんか、いろいろとすっごい複雑…」
「まあ、アルコバレーノになってから、年齢を重ねる時期がずっと止まっていて、呪いが解けた後、再びアルコバレーノになる前から動き出したと考えていただければよろしいかと…」
「それが複雑なんだって」
アルコバレーノの呪いについては以前聞いたが、それでも、普通ではありえないことなので、魅真は混乱していた。
「でも……好きになったんだから、しょうがないよね」
複雑だが、それでも好きという気持ちは別なので、魅真は小さく想いを告げると、風の体に自分の体を寄せた。
魅真のセリフと行動に、風は笑うと、魅真の背中に手をまわした。
「ええ、そうですね」
年齢に関しては複雑なところがあるが、それでも好きになったので、そんなことは些末なことだった。
この時から、魅真と風は付き合うことになり、数年後には結婚もすることになる。
そのことは、お互いまだ知らず、今はただ、両想いになった幸せを噛みしめていた。
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