約束の輪
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その日、並盛中学校の2-Aのクラスでは、4時間目は自習になった。
しかし、生徒達は勉強などするわけもなく、仲のいい子同士で話したり、寝たり、漫画を読んだりと、各々好きに過ごしていた。
「あ!魅真ちゃん、どこ行くの?」
そんな中、魅真は教室の外に出ようとしたので、近くにいるツナが声をかけた。
「屋上」
ツナが声をかけると、魅真は顔だけツナに向けて、要点のみをしゃべった。
その顔は無表情で、気怠そうな声だった。
「えっ!?でも、自習中は教室の外に出ちゃダメって先生が…」
自習だが、教室の外に出てはいけないと担任に言われたので、ツナは止める。
「ウザッ…」
しかし、注意をされても、魅真は吐き捨てるように悪態をついた。
「…え…?」
まさか、注意されただけで、悪態をつかれるとは思わなったので、ツナは目を丸くした。
「ウザイって言ったの。私がどこでどう過ごそうと自由でしょ?ツナには関係ないじゃない」
「いや、そうかもしれないけど…でもさ「だったらほっといて」
自習といえど、教室の外に出ないのは決まりなので、そのことを言おうとしたが、魅真に途中で言葉を遮られてしまったので、最後まで言うことができなかった。
「魅真てめぇ!!10代目に対して、なんつー無礼な態度を!!」
そこへ獄寺がやって来て、魅真のツナへの態度を怒る。
しかし、魅真は獄寺を無視して、扉を開けると、教室の外に出ていった。
「あっ…行っちゃった…」
「ほっときましょう、10代目。あんな無礼な女」
結局外に出て行ってしまったので、ツナは呆然としていたが、獄寺は、ツナに悪態をついた上に、自分を無視した魅真のことが気にいらず、魅真に対して冷たい態度だった。
約束の輪
魅真は教室の外に出ると、階段を上がり、屋上にやって来た。
「あ……」
そこには、すでに雲雀がいた。
雲雀は、足を組み、両手をまくらにして、仰向けに寝転がっており、雲雀のお腹の上にはヒバードがとまっていて、羽根づくろいをしていた。
「やあ、真田」
魅真の姿を見た雲雀は、あいさつをすると、その場を起き上がった。
雲雀が起き上がると、ヒバードは宙に浮き、そのまま雲雀の頭の上にとまる。
「げっ…雲雀…」
雲雀は口もとに笑みを浮かべていたが、魅真は対照的に嫌そうな顔をした。
「げっ…はないだろう。失礼だね、君」
魅真が嫌そうな顔をしても、雲雀は大して気にしておらず、その場を立ち上がる。
「それで、何をしに来たんだい?今は授業中のはずだけど」
「自習だからふけてきた」
理由を聞かれると、普通なら咬み殺されそうな内容を、堂々と言い放った。
「いけない子だね。自習でも授業中には違いないのに」
けど、雲雀はトンファーを出す雰囲気すらなく、悠然と構えていた。
「それ、雲雀が言うの?自習どころか、普段の授業だってサボってるじゃない。僕はいつでも好きな学年で好きなクラスだって言うわりには、風紀委員の仕事か昼寝しかしてないでしょ」
「君は…相変わらずいい度胸だね」
「それはどーも」
雲雀に注意されるも、嫌味で返し、その上ケンカまで売る始末で、雲雀の顔からは笑みが消えるが、魅真は適当に流し、平然としていた。
悪態をつかれたが、そんな魅真を見ると、雲雀は小さく笑った。
「何?」
いきなり顔を見て笑ったので、魅真は顔をしかめた。
「君は、他の草食動物達と違って、僕を見てもおびえたりしないから、おもしろい生き物だと思ってね」
「雲雀ほどじゃないけどね」
まるで、おもしろいおもちゃをみつけた子供のように、嬉々として、口もとに笑みを浮かべ、魅真を見る雲雀に対して、魅真は冷めた目と声で雲雀に返す。
「そういう雲雀は?いつものお昼寝タイム?」
「まあね。風紀委員の仕事がひと段落ついたからね。3時間前から小休憩をとってるんだ」
「3時間は小休憩とは言わないけどね」
第三者からしてみると、雲雀の今の発言はボケとも捉えられるが、雲雀は冗談を言わないタイプなので、恐らくは真剣なのだろうというのがわかった。
するとそこへ、雲雀の頭にとまっていたヒバードが、今度は雲雀の肩にとまった。
ヒバードが肩にとまると、雲雀は優しい顔をして、指の腹でヒバードの頭をなでたので、ヒバードは気持ちよさそうに目を細める。
「いいなぁ…」
そんな雲雀の姿を見ると、小さな声で、ぽつりとつぶやく。
「いいって…何が?」
「え?あ、いや……雲雀は、いつも自由気ままで、羨ましいなって思ってね…」
いいの意味がわからず、雲雀が問うと、魅真は理由を簡潔に話した。
理由を聞くと、雲雀は一瞬目を丸くしたが、どんな形であれ、魅真が自分に興味を持ってくれたので、うれしそうに笑う。
それは、いつもの不敵な笑みではなく、やわらかい、個人に向けられる無防備な笑顔だった。
今まで見たことのない雲雀の表情に、魅真はドキッとして、少し頬を赤くする。
同時に、雲雀はちょっと前のことを思い出していた。
それは、1年前に魅真と初めて出会い、魅真にトンファーを止められた時のことだった。
1年前、雲雀がいつものように屋上で昼寝をしてると、先程のように、突然扉が開き、魅真が入ってきた。
「……誰…?」
雲雀は魅真の姿をとらえると、不機嫌そうな顔と声で、魅真に素性を尋ねるが、魅真は雲雀に一瞥をくれると、無言で雲雀の横を通りすぎていき、フェンスの前まで来ると、フェンスにもたれかかり、スカートのポケットからイヤホンを出して、音楽を聴き始めた。
そこへ、雲雀が魅真の前にやって来たので、魅真は顔を上に向けて雲雀を見るが、それも一瞬のことで、すぐに顔の位置をもとに戻した。
自分をいないものとして扱われたので、雲雀はむっとして、眉間にしわをよせた。
「ねえ、僕を無視しないでくれる?」
「……………」
怒りがまじった声で魅真に声をかけるが、魅真は無視を続けた。
その様子に、雲雀はますます腹を立てて、トンファーを取り出すと、魅真に向けて降り下ろした。
だが、トンファーは魅真にあたる前に、魅真がつかんで止めた。
しかも、顔を前に向けた状態でだ。
そのことに、雲雀は驚いて目を見開き、魅真に対する怒りがなくなった。
それどころか、顔にうれしそうな笑みを浮かべた。
「君、おもしろいね」
「は?」
いきなりトンファーで攻撃してきたと思ったら、次の瞬間にはおもしろいと評されたので、魅真は意味がわからず、顔をあげながらすっとんきょうな声を出した。
「僕のトンファーを避けたのは、君が初めてだよ」
「あ、そう」
高揚している雲雀とは対照的に、魅真は冷めており、そっけない返事をするだけで、また顔を前に戻した。
かなり無愛想でマイペースな態度だが、雲雀は気にすることなく、うれしそうに笑っていた。
それから魅真は、やたらと雲雀にからまれるようになった。
雲雀は執拗に魅真を探しだしているわけではないが、会えば軽くあいさつをして、たまにトンファーで襲いかかる。
けど魅真は、無視してばっかで、雲雀に話しかけられてもほとんど返すことなくうっとうしそうにしており、トンファーも毎回受け止めていた。
そんな、どう見ても好感を抱いていない態度だが、雲雀は気にすることなく、それどころか、冷たくされているにもかかわらず、魅真を見て笑う回数の方が増えていった。
そして現在、魅真と向かい合っている雲雀は、魅真にやわらかい笑顔を向けながら、魅真の手を、下からすくい取るように、そっとにぎった。
雲雀の端正な顔立ちと、見たことのない笑顔と、あたたかく、大きくて武骨な手に、魅真は更に顔を赤くする。
「君も…十分自由気ままだよ」
「へ?」
けど、突然脈絡のないことを口にされたので、魅真はすっとんきょうな声をだした。
「だけど、僕は…そんな君のことを気に入ったんだ」
けど、雲雀はかまわず、マイペースに自分の思いを話した。
まるで告白のような言葉に、魅真は目を丸くする。
「それで?」
「え…。それで…って?」
「君は、どう思ってるわけ?僕のこと」
「どう思ってるって…。雲雀は雲雀でしょ?」
「ボケてるの?僕今、君に告白したんだけど」
「はっ!?」
気に入ったというのは、雲雀にとっての、おもしろい獲物をみつけたという意味かと思っていたが、まさかの恋愛感情だったので、魅真は驚きの声をあげ、顔を赤くする。
「雲雀…そういう冗談笑えないんだけど…」
「僕が冗談を言う人間に見えるかい?」
「見えない」
「だろう。だから、さっさと魅真の返事を聞かせなよ」
「情緒のない言い方ね…」
「君にだけは言われたくないよ」
表情を変えず、淡々と自分の要求を述べる雲雀に、魅真はつっこむが、雲雀にブーメラン返しされた。
「まあ、嫌いじゃないかな…」
雲雀につっこまれるも、魅真は反応せず、淡々と質問に答えた。
「何その、すごく曖昧な返事」
はっきりとしない微妙な返事に、雲雀は不機嫌になり、眉間にしわをよせる。
「だって本当だもの。でも、最初は大嫌いだった。すぐに暴力で訴えてきたから…」
「!」
「それよりは、ずっと進歩だと思うけど?」
曖昧な返事で不機嫌になったが、そのあとに続いた言葉に、少しだけ笑った。
「仕方ないね。今はその返事で我慢しといてあげるよ」
そして、ずっとにぎっていた手を離すと、魅真の隣にすわった。
「でも、いずれ君の口から、好きだって言わせてみせるから、覚悟しておきなよ」
すわると、魅真に顔を向けて、不敵な笑みを浮かべ、宣戦布告をした。
それから10年後…。
並盛神社の地中深くに、秘密の地下アジトがあった。
「魅真」
そこにいたのは雲雀だった。
ここは、10年後に雲雀が立ち上げた、風紀財団の地下アジトで、雲雀はたくさんあるうちの部屋の襖を、ノックもせずに、中にいるであろう人物の名前を呼びながら、堂々と入った。
「ヒバリ…」
その部屋の中にいたのは魅真で、魅真は机の上につまれた書類の一つとにらめっこしていたが、突然雲雀が入ってきたので、書類から目を離し、雲雀に顔を向けた。
「いつも言ってるでしょう。部屋に入る時は、ノックしろって」
「この部屋の扉は襖なのに、ノックするの?」
「…声かけるとかあるでしょう」
「このアジトの主は僕だよ」
「…………」
あまりにも話が通じないので、魅真は雲雀を見ながらため息をついた。
「人の顔見てため息つくなんて、相変わらず失礼な人間だね、君は」
「ヒバリには言われたくない」
確かに、人の顔を見てため息をつくのは、失礼な行為だが、雲雀はその前に、声をかけずに人の部屋に入るという失礼な行動をとっていたので、魅真は雲雀の言ったことにつっこんだ。
「それで、なんの用なの?まさか、なんの用もなしに、私のところを訪ねないでしょう?」
「…よくわかってるじゃないか」
魅真に問われると、無表情だった雲雀の顔は、口もとが緩み、少しだけ笑みを浮かべた。
「今回の任務でね、新しい雲属性のリングをみつけたんだよ。結構たくさんみつけたから、魅真にも持ってきたんだ」
雲雀が魅真の部屋に来たのは、雲属性のリングをみつけたからで、雲雀は話しながら、スーツのポケットの中から、リングを3つ取り出して、机の上に置いた。
「私、別にヒバリみたいに波動が強くないから、ランク低くても壊れないし、そんなに必要ないよ」
しかし、魅真はにべもなく言い放ち、雲雀の好意を無下にした。
「ヒバリなんて、しょっちゅう戦っているから、よく壊れるでしょ。ヒバリが持っていたら?」
魅真は、自分の前に置かれたリングを3つ一気につかんで取ると、雲雀に返した。
「……君は本当に、空気が読めないね」
「だから、ヒバリほどじゃないってば」
リングをつき返した上、何故リングを渡したのか、その意味をわかっていないので、雲雀は不機嫌な顔になり、魅真を非難するが、またしても魅真につっこまれる。
「この僕が、リングを渡した意味を考えなよ」
「同じ雲属性だから?」
「それもある。でも違うよ」
「?」
雲雀がリングを渡した理由なんて、死ぬ気の炎の属性が同じだから…ということ以外思いつかないので、雲雀が否定したことを疑問に思った。
「君が好きだからだよ、魅真」
流れでされた告白に、魅真は目を丸くした。
対して雲雀は、普段は咬み殺すと言いながら、トンファーをふりまわしているのが信じられないくらいに、とても優しい顔をしていた。
「つまり、媚売りってこと?ヒバリが?あの、人間嫌いで、天上天下唯我独尊男のヒバリが?」
「まったくの見当違いだね。僕は媚なんて、生まれてから、ただの一度も売ったことはないよ」
はっきり好きだと言ったにもかかわらず、見当違いな答えが返ってきたので、雲雀は再び不機嫌になった。
しかも、先程よりも、眉間に深くしわが刻まれている。
「それに、10年前にも伝えたはずだよ。僕の、君への想いはね」
未だに自分の想いを理解していないようなので、少々うんざりした顔で、体を倒し、魅真のひざに頭をのせた。
「えっ!?ちょっ!!」
いわゆる膝枕というものを、強制的にさせられたので、魅真は頬を赤くしてあわてた。
「な、何してんの!?誰も、そんなことしていいなんて言ってないんだけど!!」
「うるさいな。半月ぶりに任務から帰ってきて、疲れてるんだ。さわがないでくれる」
「勝手に人のひざに頭のせてれば、誰だってさわぐでしょ」
「なら、上司としての命令だよ」
「職権乱用!あとセクハラ!」
「うるさい。さわがないで。眠い」
勝手に膝枕をさせられたことに、魅真は抗議するが、それもむなしく、雲雀は魅真の膝に頭をおいたまま眠ってしまった。
「ちょっとヒバリ!……もう…」
まだ話してるのに、マイペースに眠ってしまったので、魅真はため息をついた。
こうなった雲雀はてこでも動かないため、仕方がないので、魅真は膝に雲雀の頭をのせたまま、先程やっていた書類仕事の続きを始めた。
それから1時間ほどやっていたが、成人男性の頭を、ずっと膝にのせていたので、足がしびれて限界がきた魅真は、動かしていた手を止めて、持っていたペンを机の上に置くと、自分の膝で眠っている雲雀に、少しばかりうらめしそうな顔を向け、睨むように見ると、雲雀の顔を軽くたたき始めた。
「ねえ、ヒバリ!ちょっと!そろそろ足がしびれてきたんだけど」
「ん……うるさいな」
顔をたたきながら文句を言うと、雲雀は反応して、目を閉じながら、不快そうに眉間にしわをよせた。
「うるさいじゃないわよ。さっさと頭どけなさいよね」
それでも、魅真も負けじと抗議する。
「いやだ」
しかし、雲雀に拒否されたので、魅真は腹を立て、雲雀の頭を両手でつかむと、膝から動かして、畳の上に置いた。
「…何するのさ?」
「邪魔だったから」
雲雀は上半身を起こして魅真と顔を合わせると、不満そうに唇をとがらせるが、魅真はにべもなく言い放つ。
「僕が君の膝に頭をのせた時、何も言わなかったじゃないか」
「ヒバリが聞かなかっただけ。私は何度も言った」
不機嫌そうな雲雀に対し、魅真も負けじと言い返す。
「とにかく、まだ仕事があるんだから、邪魔するなら早く出てって」
雲雀に膝枕をさせられたことで、無理な体勢になってしまい、そのせいで、思ったように仕事が進まなかったので、少々不機嫌になった魅真は、雲雀を部屋から追いだそうとした。
しかし、雲雀は出ていくことなく、それどころか、魅真の足をじっと見ると、その足を思いっきりつかんだ。
まだしびれがとれていなかった魅真は、そのせいで、声にならない声をあげる。
その隙に雲雀は、魅真の手をとると、ゆっくりと畳に押し倒した。
「………え……?」
それは一瞬のことだったので、魅真は何がなんだかわからないまま、目を丸くするだけだった。
体が密着し、雲雀の顔が近づいており、その雲雀の後ろには天井が見えたので、押し倒されているのだとわかった。
「ヒバリ…?」
「ようやく、足がしびれて、動かしにくくなったようだね」
「え?…あっ…!!」
更に、雲雀は口もとに笑みを浮かべていたので、膝枕をさせていたのは、これを狙っていたのだと、今更ながらに気づいた。
「なんで……こんなこと…」
「こうでもしないと君は逃げるからね。隣にいても、肝心の話になると、逃げたりはぐらかしたりする。僕は、待つのは性に合わないんだ。だけど、君のウソの心は聞きたくないから。でも、いい加減に決着をつけたい」
「だから、こうして強硬手段に出たってこと?」
「まあね。この体勢は、なかなか悪くない」
いくら雲雀のトンファーを受け止める能力があっても、力はそれほど強くないので、この状況を突破する術はないに等しく、ただ雲雀の下で、雲雀を見ているしかできないこの状態を、雲雀に指摘されると、魅真はますます顔を赤くした。
「……早くどいてよ…」
「嫌だよ」
「なっ!?」
「言っただろ?いい加減決着をつけたいって…。僕がどくのは、君の本当の気持ちを聞いてからだよ」
「本当の…気持ち…」
雲雀が言ったことをくり返すようにつぶやくと、魅真の顔は更に赤くなる。
「だから…答えてよ。いつもの…曖昧じゃない、君の本心を」
そして、いつも以上に真剣な雲雀の目を見ると、魅真はますます顔を赤くした。
「………私…は……ヒバリのこと、嫌いだった。暴力的で、横柄で、自分の思想を押し付けてきて…。しかも、トンファーを受け止めただけで、気に入ったとか言ってしつこかったし、本当に……大嫌いだった…」
雲雀の目を見た魅真は、これは、絶対に言うまで逃がしてくれないし、逃げられないと悟り、観念して、本心を語り始める。
魅真の本心を聞いた雲雀は、不服そうに顔を歪めるも、そこまで驚いていなかった。
「でも……」
これで終わりかと思ったが、まだ続きがあるみたいなので、雲雀は続きを待った。
「今は…大好き…」
大嫌いという言葉にはさほど驚いていなかったのに、今言われた、大好きという言葉には、雲雀は驚き、大きく目を見開いた。
「一緒にいたいと思ってるし、このままでいたいと思ってる」
魅真の本心を聞くと、雲雀は顔つきがやわらかくなり、魅真をそのままの体勢で抱きしめる。
「ヒバリ?」
突然抱きしめられたので、魅真は驚きつつも、特に抵抗はしなかった。
「僕は、このままではいたくないよ」
「え…?」
たった今、好きだと伝えたばかりなのに、気持ちを拒絶されたので、魅真はショックを受け、胸が痛んだ。
「僕と結婚してよ」
けど、拒絶したと思ったら、意表をついてきたので、魅真は目を大きく見開く。
「…はっ!?」
そして、少し遅れて、意味がわからないとばかりに、大きな声をあげた。
「結婚って…。本気?」
「僕は、冗談は言わないよ」
「付き合ってもいないのに、飛躍しすぎじゃない?」
普通一般的には、付き合ってから結婚に至るのだが、段階をとばしていきなり結婚と言われたので、さすがの魅真も、怪訝な顔をする。
「雰囲気壊さないでよ。それで、返事は?」
話の腰を折られたので、雲雀はむっとして、眉間にしわをよせながらも、魅真に返事を聞いた。
そんな雲雀を見ると、魅真は口もとを緩めて、小さく笑う。
「もちろん…イエスだよ」
けど、なんだかんだ言っても雲雀が好きなので、雲雀のプロポーズを受け入れた。
魅真の返事を聞いた雲雀は、満足そうに笑うと、魅真の顔に唇を近づけた。
それが何を意味しているのかわかった魅真は、目と唇を閉じて、その時がくるのを待った。
雲雀はゆっくりと唇を近づけていくと、魅真の唇に自分の唇をくっつけて、キスをした。
それから3ヵ月後…。
「ただいま」
雲雀は久しぶりに任務から帰ってきて、まっさきに魅真の部屋に向かうと、またしても、ノックや声かけもなしに、魅真の部屋の扉を開けた。
「あ!おかえり、恭弥」
けど、魅真は気にすることなく、むしろ3ヵ月前とは違い、うれしそうに笑って、雲雀を出迎えた。
雲雀は魅真の部屋に入ると、まっすぐ魅真のもとまで歩いていき、しゃがむと魅真を強く抱きしめた。
雲雀が抱きしめると、魅真も抱きしめ返し、魅真に抱きしめられると、雲雀は目を閉じて、うれしそうに顔をほころばせながら、顔を何度も上下に動かして、魅真に猫のようにすりついてきたので、魅真はそんな雲雀の頭を笑顔でなでた。
数分ほどなでられると、雲雀は頭を放して魅真と向かい合い、スーツのポケットから小さな箱を取り出して、魅真に差し出す。
「これは?」
「プレゼント」
「へぇ…。めずらしいのね」
そう言いながらも、魅真は淡々と箱を受け取り、ふたをあけた。
「指輪?ひょっとして、また雲属性の?」
「違うよ」
箱の中に入っていたのは、透明の小さな石がはめこまれた、銀色の指輪だった。
「君は本当に鈍いね。リングについた石が雲属性のものじゃないし、わざわざ箱にいれるわけないだろう」
リングにもいろいろな形のものがあるが、石がはめこまれている場合、各属性の炎の色のものなのに、見当違いな答えを出したので、あまりの鈍さに、雲雀はため息をつく。
「え…」
雲雀の返答に、魅真が固まっていると、雲雀は、箱を持っている魅真の手に自分の手をそえた。
「結婚指輪に決まってるじゃないか」
指輪の正体を聞くと、魅真は次第に顔が赤くなる。
「えっ…え!?けっ……けっこ…!?いや…だって、まだ付き合って3ヵ月目だし、この前告白された時、結婚はいくらなんでも飛躍しすぎだから、まずは結婚を前提に付き合うってことになったじゃない」
3ヵ月前のあの後、魅真は雲雀に、いくら10年来の顔見知りで、今は上司と部下という関係になっていて、知った仲とはいえ、男女としての付き合いはないので、まずは結婚を前提としたお付き合いをしてから…ということで、話は落ちついた。
それなのに、たった3ヵ月しか経ってないというのに、いきなり結婚指輪を渡されたので、魅真は混乱した。
「もう充分付き合っただろ」
「3ヵ月しか経ってないし、恭弥は何度か任務に行ってたから、恋人らしいことなんてほとんどしてないんだけど」
「充分だよ。それに、恋人じゃなくても、魅真とは10年以上の付き合いがあるからね」
「いや…。私は、恋人として何年か付き合うっていうのが理想なんだけど」
「僕は待つのは嫌いだし、片想いの時期も含めて、もう充分すぎるほど待ったよ。これ以上待ちたくない。それに、今すぐ結婚ってわけじゃないよ」
「え…?」
てっきり、すぐに結婚しろということかと思ったら、そうではないので、魅真は目を丸くした。
「それとも、僕からの指輪が受け取れないっていうのかい?」
「結婚指輪って、脅迫して渡すもんじゃないと思うんだけど」
不良の発言をしながら顔を魅真に近づけて、圧力をかけてきたので、魅真は雲雀の額を手でおさえて、自分から離そうとした。
「恭弥さ、もうちょっとロマンのある渡し方とかできないわけ?」
けど、ため息をつきながらも、なんだかんだで指輪を受け取った。
「僕にそんなものできると思うのかい?」
「思わない」
できないわけ?と聞いたわりには、雲雀が問うと一刀両断したので、雲雀は眉間にしわを寄せる。
「でもね、やっぱり女としては、そういうロマンとか求めちゃうっていうかね」
そう言いながら、魅真は自分で指輪をはめた。
雲雀にロマンがどうのこうのと言っていたわりには、魅真もロマンの欠片もなく、魅真の手にはめようと思っていた、胸のあたりまであがっていた雲雀の手は、行き場をなくしたように止まっていた。
「…君も人のことは言えないよ」
「何が?」
自分がはめたかったのに、魅真がはめてしまったので、しかも雲雀が言ったことを理解していないので、雲雀は不機嫌になり、眉間にしわをよせた。
けど、不機嫌になるが、すぐに、微笑ましそうにクスッと笑った。
「大好きだよ、魅真」
そしてその後に、魅真を優しく抱きしめる。
それから半年後…。
とある教会で、結婚式が行われていた。
それは、魅真と雲雀の結婚式で、教会の中には、主役である魅真と雲雀以外は、神父しかいなかった。
魅真も雲雀も、交友関係は広くなく、むしろ知りあい程度しかいないのと、お互い大勢は好きじゃないので、2人っきりで結婚式をあげたのだった。
現ボンゴレボスの沢田綱吉には、せめてボンゴレのメンバーだけでも…と言われたが、2人…特に雲雀に強く却下された。
今2人は、病める時も健やかなる時も…と、神父からお決まりの文句を言われた後、結婚指輪の交換をした。
結婚指輪は以前渡したが、魅真の分だけだったし、何より雲雀がはめていないので、あれは婚約指輪として、やり直しという意味もこめて、今日のこの式のために、改めてお互いの結婚指輪を用意したのである。
「恭弥…」
「何?」
指輪の交換をすると、魅真が雲雀に声をかけた。
「私、恭弥のこと大好きだよ」
「なんだい?改まって…」
何かと思えば、改めて想いを告げられたので、もうわかりきっていることを、何故わざわざ口にしたのか、雲雀はわからなかった。
「だから、恭弥のことは、絶対に幸せにするからね!」
「……本当に君は、ことごとく、男の見せ場を奪って台無しにするんだね…」
毎度のことではあるが、その場の雰囲気を壊され、見せ場を奪っていくので、なれたものの、落胆してしまっていた。
「魅真……」
けど、気をとりなおして、魅真の名前を呼んだ。
「君のことは、僕が幸せにするよ」
めずらしく微笑み、誓いをたてると、魅真は頬を赤くした。
「…うん。これからよろしく、恭弥」
「僕の方こそ」
そして、魅真も微笑みながらあいさつをすると、2人はどちらからともなく顔を近づけて、誓いのキスをした。
こうして、雲雀の長年の片想いは成就され、魅真と雲雀は夫婦となったのだった。
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