安らぎの場所
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ある日の夜。満月が輝く晩のこと…。イタリアのとある街からは、銃声が聴こえてきた。
普通なら、何事かと思いそうだが、今の時間帯は夜中の2時をまわった頃。
そして、場所は表通りではなく、裏街だった。
すでに人々が寝静まっている時なので、誰も気づくことなく、空気を切り裂くような発砲の音だけが、その場所に響いていた。
「くっ……」
「くそ……」
発砲音が聞こえた場所では、二人の男がうめき声をあげ、腕から血を流し、血を流している手から拳銃を落とした。
そこにいたのは、どう見てもカタギには見えない、スーツを着た、複数の裏社会の男達と、一人の女性…。
彼女は、プラチナブロンドの髪の毛をなびかせて、青い双眸で、目の前にいる男達を見据えていた。
彼女の手には、拳銃がにぎられていた。
しかも、その拳銃からは、煙が出ている。
今この男達を撃ったのは、この女性だった。
「おまえ…その腕前…タダ者じゃないな…。どこの組のモンだ!?」
撃たれたうちの一人が彼女の素性を尋ねるが、彼女は一切答えることなく走り出し、まっすぐに男達のもとへ向かっていった。
彼女がこちらに向かってくると、男達は懐にしまっていた拳銃を取り出して、応戦しようとする。
だが彼女は、走ってる間に短剣を取り出すと、一瞬のうちに、彼らが持っていた銃を、短剣で真っ二つにして、使えものにできなくしてしまう。
この一瞬の出来事に、男達は唖然とした。
その隙に彼女は、持っていた拳銃で、男達の心臓を撃ち、一発で仕留めた。
胸からは、おびただしいほどの血が流れるが、彼女は一切表情を変えずに、男達の脈を確認した。
脈を確認しても拍動は感じられず、絶命したのだとわかると、彼女は何も言わずに、そこから立ち去っていった。
時間が経ち、その日の昼の1時。
場所は、ボンゴレファミリー雲の守護者のアラウディがトップを務める、秘密諜報部。
組織のアラウディの部屋には、アラウディともう一人女性がいた。
その女性は、夜中に彼らを倒した女性だった。
アラウディは部屋の奥にある机にすわり、女性と机をはさんで向かい合っていた。
「以上が、今回の任務の報告です」
「うん」
彼女の名前はリリアナ。
実はリリアナは、この秘密諜報部の殺し屋でありスパイでもある、アラウディの部下だった。
リリアナは今、任務から帰ってきたばかりで、アラウディに任務の報告をしていたのである。
「さて……」
任務の報告を受けると、アラウディは席を立ちあがり、リリアナの前までやって来た。
「今日はこれからどんな予定なの?」
アラウディが自分の前にやって来ると、リリアナは先程とは打って変わって、上司に対しての敬語を使ったかしこまった態度ではなく、対等に接し始めた。
リリアナは、アラウディが自分のところに来てくれただけで、とてもうれしい気持ちになり、アラウディをジッとみつめた。
それは、誰が見てもわかるくらいで、頬をほのかに赤くし、目はキラキラと輝いており、まるで小動物のようだった。
彼女を動物にたとえるならまさに犬で、犬の耳としっぽがついているなら、耳はピンと立ち、しっぽははちきれんばかりにふっているのが、容易に想像できるほどであった。
その姿は、夜中に男と戦っていた時からは想像もつかないほどの変わりようだったが、敵を容赦なく倒した姿も、今の小動物のような姿も、どちらも彼女の本当の素顔なのだ。
単に、仕事とプライベートの切り換えがうまいというだけの話で、本来のリリアナは、性格はおっとりとしており、それが顔にも如実に表れているので、彼女は実は殺し屋だといっても、誰も信じないだろう…。
そのくらい、仕事とプライベートのオンとオフがしっかりしていた。
「今日の仕事はもう終わりだよ」
「でも、まだ明るいけど」
「僕が終わりだって言うんだから終わりだよ」
「相変わらずだね」
かなりムチャクチャなことを言っているが、アラウディの性格を熟知しているので、リリアナはクスクスと笑った。
「じゃあ、これからデートしない?一ヵ月もの間会えなかったんだし」
「いいよ」
自分の申し出にアラウディがにこっと笑って了承すると、リリアナは満面の笑顔を浮かべて、アラウディの腕に自分の腕をからめた。
安らぎの場所
ボンゴレが統治している街の、とある教会…。
「さようなら、神父様」
「さよならー」
晴ればれとした青空の下、教会から出てきた子供達が、扉の前にいるその教会の神父に、元気よくあいさつをし、別れを告げた。
「おう!究極に元気でな」
その神父というのは、ボンゴレファミリー晴の守護者のナックルだった。
今ナックルは、晴の守護者としてではなく、神父として、教会に来た子供達を、明るくさわやかな笑顔で見送っていた。
それはまさしく、晴の守護者の名の通り、快晴のように…。
「さて……」
子供達の姿が見えなくなると、ナックルは教会の中に入ろうとした。
「ん?」
だが、ふいに視界の端に、見覚えのある姿をとらえたので、中に入るのをやめ、そちらの方へ顔を向けた。
「あれは……」
ナックルは目に映ったものに驚き、目を見張った。
「アラウディ……か…?」
目に映ったのは、自分と同じ、ボンゴレファミリーの雲の守護者のアラウディだった。
別にそこはめずらしくないし、いつものナックルなら声をかけるところだが、今はそれをしなかった。
「それに……隣にいる女性は……」
何故なら、アラウディが人と一緒に歩いていたからだ。
アラウディは人嫌いで、誰かと一緒にいたり、束縛されたりするのを嫌う。
なので、あのアラウディが他者と一緒にいるのが信じられなかった。
それだけでも驚きというものだが、一緒にいるのが女性だったからだ。
容姿端麗で、誰もがふり返るほどの、かわいらしくも美しい顔立ちをしているその女性は、うれしそうに、そして楽しそうに笑いながら、アラウディと歩いていた。
しかも、ただ歩いているだけでなく、女性の方がアラウディの腕に自分の腕をからめて歩いており、アラウディも嫌々ではなく、むしろ腕を自ら女性の方に出して、組ませやすいようにしていたのだ。
更には、これがもっとも信じられないことなのだが、自分達の前では仏頂面でいて、愛想笑いすらしないあのアラウディが、さわやかで優しい笑顔を女性に向けていた。
その上、自分から楽しそうにしゃべっている。
二人の雰囲気は、兄妹や友人などではなく、どう見ても恋人同士のものだった。
そんな二人を見たナックルは、当然ながら目を疑った。とてもではないが、いろいろな意味で話しかけることができなかった。
しかし、これもいろいろな意味でかなり気になるので、教会に入るのを忘れて、ついつい目で追ってしまった。
「何やってるんだものね?ナックル」
そこへナックルの後ろから、ナックルと同じ、ボンゴレファミリーの雷の守護者であるランポウがやって来て、ナックルに声をかけた。
「ランポウ…」
「何かおもしろいものでもあったの?」
「いや、おもしろいというか…奇妙なものをみかけてな」
「奇妙なもの?」
「ああ、あそこにいる男女を見てみろ」
そう言ってナックルが指さした先を、ランポウは目を向けた。
「男女?普通に恋人じゃ……えっ……あれって………まさか……」
もう後ろ姿しか見えないが、見覚えのある人物に、ランポウは目を見張る。
「そう……アラウディだ」
「あれって……あの隣にいる女の人って……友達とかじゃないよね?」
ランポウも、アラウディが他者と一緒にいるだけでなく、腕を組んでいる女性と、腕を組ませやすいようにしているアラウディを見て、目が飛び出るくらいに驚いていた。
「おそらくな…。あの雰囲気は、どう見ても、友人や兄妹の類ではない」
「確かに奇妙だものね。あのアラウディが誰かと一緒にいるなんて。なんか不気味だものね。天変地異の前触れかな」
「オレはなんだか、すごくありえないものを見た気がするぞ」
「オレ様もだものね」
この光景に、ナックルだけでなくランポウも当然目を疑った。
ちゃんと起きてるのはわかっているのだが、夢でも見たのではないかと思っていた。
あの後ナックルとランポウは、一緒にボンゴレファミリーのアジトにやって来た。
「おや、ナックルとランポウではござらんか」
中に入って、庭を歩いていると、二人に気づいた、雨の守護者の雨月が声をかけてきた。
「あ……」
「おう、雨月か」
「どうしたでござるか?何やら、いつもと様子が違うように思うのだが」
いつもと様子が違う二人を見て、雨月は何があったのか尋ねてみる。
「それがな、雨月」
「もうすっごいものを見ちゃったんだものね」
「すごいもの?」
説明されても、要領を得ない答えだったので、雨月は首をかしげた。
それから、ナックルとランポウは、雨月とともに屋敷の中に入った。
「「「「「「「アラウディに恋人!?」」」」」」」
屋敷に入り、広間に行くと、ナックル、ランポウ、雨月、アラウディ以外の全員が、デイモンの恋人のエレナも含めてそろっていたので、街で見た信じられない出来事を話した。
話を聞くと、全員が声をそろえて、やはりナックルとランポウと同じようにびっくりした顔をしていた。
「ああ。あれは、オレが教会に来た子供達を見送っていた時のことだ。子供達の姿が見えなくなると、オレは教会の中に入ろうとした。その後、ふいに見たんだ。女性と一緒に歩いてるアラウディをな。オレは目を疑った。アラウディが他者とともにいる光景など、この世のものとは思えん」
「ナックル。それではまるで、幽霊か怪物を見たような言い方だぞ」
「それに近いんだものね。あれはもう一種の怪奇現象だよ」
まるで、心霊現象を体験したかのようなナックルの話し方に、このボンゴレファミリーのボスであるジョットは、苦笑いを浮かべる。
けど、ナックルの隣にいるランポウは、ナックルに同意するように話した。
本人がいないのをいいことに、言いたい放題であった。
「だが、確かにあのアラウディに恋人というのは、想像できないな」
しかし、結局はジョットも、ナックルの言うことに同意していた。
「まあとにかく、アラウディが女性と一緒にいるのを確かに見た。しかも、どこからどう見ても、兄妹や友人のものではなく、恋人の雰囲気があったんだ」
「幻でも見たのではないのですか?あのアラウディに恋人など……。それ以前に、人と一緒にいること自体ありえないでしょう。何しろ、あのアラウディですからね」
今度は霧の守護者のD・スペードが、本人いないのをいいことに、言いたい放題言っていた。しかも、ランポウとは違い、どこかトゲがあるような言い方だった。
「そこには、おまえの姿はなかったぞ、デイモン!」
「…そういう意味ではありませんよ」
デイモンの意見に、ナックルはどこかずれたことを言い、ナックルの発言に、デイモンは冷静につっこんだ。
「でもよかったじゃないの。アラウディにも、ようやく心を休ませる場所ができたってことでしょう?人間誰しも、心を休ませる場所は必要よ」
そこへ、ふんわりと笑いながら、今までで一番まともなことを言ったのは、デイモンの恋人のエレナだった。
「そうでござるな。人の出会いは一期一会。アラウディにとって、その女性がまさにそうだったのでござろう」
「まあ、確かに幸せそうではあったぞ」
「アラウディが幸せそうでござるか。それならそれで、よかったではござらんか」
エレナに続いて雨月も、おだやかな顔で笑いながら、アラウディのことを祝福していた。
「だが、奴は最近ここに来てねぇ。部下に聞いたが、しばらく休むらしい。おかげで、あいつが片づける仕事がたまってしょうがねぇ」
「よほど、その女性のことが好きなのでござるな」
「別に好いた惚れたはいい。だが、仕事に支障があるのは困る。いくら奴が、何かに属するのが嫌いでも、仕事はキッチリやってもらわねえとな」
次に口をはさんできたのは、嵐の守護者のGだった。
「しかも、そのしばらくってのが一ヵ月だぜ。ふざけてやがる」
「それなら心配はない」
「あ?」
普通なら、一ヵ月も休みをとるなんて許されるわけないが、横からジョットが口をはさんだ。
「すでにオレが許可を出したからな」
「何!?」
しかも、すでにジョットが許可を出したというので、Gは驚いていた。
「てめぇ、なんで許可出したんだ!?」
いくら何かに属するのが嫌いでも、一ヵ月も穴をあけられるのは困るので、ジョットに文句を言った。
「いや…今朝方アラウディがオレのもとへやってきて、「許可を出さないなら、僕は雲の守護者をやめるよ」と言ってきてな」
「おどしかよ!」
許可を出したのは、実はアラウディがジョットを脅したからなので、Gは激しくつっこんだ。
「しかし、あの人嫌いのアラウディに恋人とは笑えますね。まだ信じられませんが、今ここにいないのでしたら、それも納得できるというものです」
「けど、何故アラウディは、オレ達に話さんのだ?別に恋人がいるくらい、秘密にすることもないだろうに」
「そんなの決まってるんだものね」
ナックルが疑問に思ってると、横からランポウが断定的に言い放つ。
「そんなもの、アラウディが人間嫌いで、エベレスト山よりもプライドが高いからでしょ」
ランポウが答えると、そこにいた者は、全員妙に納得してしまった。
アラウディに恋人がいるとわかってから、半月が経った。
アラウディはジョットに知らせた通り、あの日から一度も顔を出さなかった。
何かに属するのが嫌いだから…というのもあるだろうが、最大の理由は、半月前にナックルが見たという女性なのだとわかったからだった。
なので、全員がとても気になっていた。
あの女性は、本当にアラウディの恋人なのか、そうでないならどういった関係なのか?
そして、恋人であってもなくても、あのアラウディが他者と一緒にいた上に、うれしそうな顔で歩いていたというので、余計に気になっていた。
気になって、気になって、全員仕事が手につかなくなっていた。
「おい、おめーら!最近たるんでるぞ!きちんと仕事をしやがれ!!」
広間には全員おり、仕事がまったくといっていいほどに進んでいなかった。その中でGが、全員に怒鳴るように喝をいれる。
「何言ってんの?それはGも同じでしょ」
「そうだ。お前こそ、仕事がいつもの半分もできていないではないか」
けど、近くにいたランポウとナックルがGにつっこみ、事実だけにGはぐうの音も出ず、言葉がつまってしまう。
「よしっ!みんな、でかけるぞ」
その時、ジョットが席を立ち、全員に声をかけた。
「あ?行くって、どこにだよ?」
今日は特にでかける予定はないのに、急にでかけると言ったので、Gはふしぎそうに尋ねた。
「アラウディのところだ」
Gの問いにジョットが答えると、全員目を丸くした。
同じ頃、秘密諜報部では…。
「おはよう、アラウディ」
アラウディのもとに、リリアナが朝から訪ねていた。
「おはよう、リリアナ」
リリアナが来るとアラウディは席を立ち、リリアナのもとへ歩いていき、リリアナの前まで来ると肩を抱きよせて、朝のあいさつというように、おでこにキスをした。
アラウディにキスをされると、自分も…というように、リリアナはアラウディの頬にキスをする。
「今日はどこに行くの?」
「そうだな。今日は公園にでも行こうか」
「うん。じゃあ、行こう」
アラウディの提案をリリアナは受け入れ、うれしそうにアラウディの腕に抱きついた。
そんな、無邪気に笑うリリアナを見て、アラウディは笑顔を浮かべると、愛しそうに頭をなでた。
頭をなでられると、リリアナはアラウディの腕に頬ずりをして、愛情を示す。
それすらも愛しいと思ったアラウディは、軽く笑みを浮かべると、リリアナとともに歩き出した。
同じ頃、アラウディの秘密諜報部の建物の前では……。
「あそこだな」
ジョット達がいて、建物からあまり近すぎず、遠すぎないところで見張り、アラウディが、ナックルとランポウが言っていた女性と出てくるのを待っていたのだ。
そこには、ジョット、エレナ、アラウディ以外の守護者…つまり全員がいた。
「(さて…どんな女性が、アラウディと出てくるのやら…。楽しみですね)」
「楽しみね。アラウディは、一体どんな方と一緒にいるのかしら?」
ジョット達の一番後ろで、デイモンがほくそ笑んでいると、デイモンの前にいたエレナがデイモンが考えていたことと同じことを言うと、デイモンはハッとなり、エレナを見た。
「ね、楽しみねデイモン」
「え、ええ…そうですね、エレナ」
エレナを見ていると、エレナが後ろの自分の方にふり向き、デイモンに同意を求めた。
「(くっ……私としたことが…。エレナという人がいながら、他の女性に興味をもつなど…)」
そしてエレナが前を向くと、デイモンは顔をしかめ、自分を責めた。
「おい、来たぞ」
デイモンが、一人心の中で葛藤していると、Gが、建物からアラウディが出てくるのを発見した。
「ナックル、ランポウ、ひょっとしてあの女性が?」
「ああ、間違いないぞ。あの女性が、この前アラウディと歩いていた人だ」
「確かにそうだものね」
アラウディの隣にはリリアナがおり、以前リリアナを見たというナックルとランポウに、ジョットが確認をしていた。
「なるほど…。なかなか美しい娘だ。やるな、アラウディも」
「どうするの?ジョット」
「決まっている。あとをつけるのだ」
「「「「「「えっ!?」」」」」」
ランポウに問われると、当然だというように言い放ったジョットは、どこかいきいきとしていた。
ジョット達の存在に気づいていないアラウディは、リリアナとともに、目的の場所へと歩いていく。
アラウディとリリアナは、歩いて30分くらいのところにある公園にやって来た。
「今日は誰もいないのね」
「その方がいい。君以外の人間がいるのはうっとうしいし、正直関わりたくない」
「ふふっ。やっぱり、アラウディはアラウディね」
「どういう意味?」
嫌味ともとれるその言葉に、さすがに恋人に言われたこととはいっても、アラウディはムッとして、眉間にしわをよせた。
ムッとしたアラウディを見ると、リリアナはクスッと笑い
「愛しいっていう意味よ」
アラウディのそでをひっぱって、自分の顔に近づけさせると、アラウディの頬にキスをした。
頬にキスされると、アラウディは一瞬固まり、目を丸くしてリリアナをみつめた。
けど、すぐにもとに戻り、リリアナと同じようにクスッと笑うと
「僕もだよ」
同じように、リリアナの頬にキスをした。
そのことに、ジョット達は更に驚く。
今までも、リリアナに対して、あの人嫌いのアラウディが、リリアナを気づかったり、微笑んだりしていたのに驚いていたが、今度は異性に対する愛情を示していたので、ジョット達は目を丸くしていた。
もう、アラウディを尾行してからというもの、驚きの連続であった。
「う~~む…。確かに今のアラウディは、アラウディじゃないみたいだな」
アラウディとリリアナの様子をかくれて見ているジョットは、信じられないものを見るような目をしていた。
「変だな」
同じくGも、信じられないものを見る目をしており、何気に毒を吐いていた。
「二人とも、お似合いでござるな」
「本当ね」
けど、雨月とエレナは微笑ましそうに、にこにこと笑いながら、二人を見守っていた。
「(アラウディが、人に対して微笑んだりするのも相当に信じられませんし、正直気持ち悪いですが、まさか異性へ愛情を示すとは…。まあ、あのように美しい娘なら、当然かもしれませんが…)」
「二人とも幸せそうね、デイモン」
「え、ええ…そうですね、エレナ」
ふわっとした微笑みを向けながら同意を求められると、デイモンは言葉がつまった。
「(だから!私にはエレナがいるというのに、なに他の娘に興味を抱いてるのですか!!いや、恋慕の情などではない!!私がエレナ以外の女性に、恋慕の情など抱くはずがない!!だが……そうでなくとも、確かに私は今、あの娘に興味を抱き、目を奪われていた!!エレナという女性がいながら……最低だ、私は!!)」
「デイモン…?」
再び心の中で葛藤しているデイモンだが、それが顔に出ており、そんなデイモンを見たエレナは、ふしぎそうにしていた。
一方で、アラウディはリリアナにひざまくらをしてもらっていた。
リリアナはアラウディのやわらかな髪をなで、アラウディも手をのばし、リリアナの頬をなでた。
お互いにふれあって、優しく微笑んでいるその顔は、お互いがお互いに好きなのだということが、誰の目にもわかるほどだった。
「しかし……アラウディが笑顔とは、なんとも気味の悪いものですね」
「あれは、ある種のリーサルウェポンだな」
「まったくです」
葛藤からいつもの冷静な表情に戻ったデイモンは、未だに目の前の光景が信じられず、毒を吐いた。
そして、デイモンの意見に、隣にいるGが同意するように毒を吐けば、デイモンはGの意見に同意した。
「リリアナ…。君はもうすぐで行ってしまう。なのに、本当にいいの?」
ジョット達がのぞき見をしていることに気づかず、アラウディはリリアナを見上げながら問い出す。
「いいって…何が?」
「だって、あと半月しかないんだよ。それなのに、ただ公園でぶらぶらしたり、どちらかの家でのんびりしたり…。もっと、特別なところに行かなくてもいいのかい?」
「いいのよ。そりゃあ、そういうところに行ったら、それはそれで楽しいけれど、でも私は、こういう何気ない日常を楽しみたいの」
アラウディの問いに、リリアナはふわっと笑って答える。
「特別なところに行かなくても、私は、アラウディと一緒にいるだけで幸せよ」
普段仕事では、血みどろな場面ばかりを目にしているので、リリアナにとっては、普通の人々があたり前にしていることは、あまりしていなかった。
殺し屋としての仕事がない間は、一般人として普通の生活を送っているが、それでも自分が、血にそめられた殺し屋であるという事実は消えず、それをまったく知らない、生業としていない一般人と、同じ生活を送ることはできなかった。
なので、リリアナにとっては、こういった特別でない日常の方が、特別なことなのだ。
リリアナの気持ちを聞き、ふわっと笑うと、アラウディは突然体を起こした。
そして、リリアナの頬に手をそえると顔を近づけた。
アラウディは自分にキスをするのだとわかったリリアナは、そっと目を閉じて、自らも顔を近づける。
一方ジョット達は、リリアナとアラウディのキスシーンに目を見張り、自然と体が前に出ていた。
「これって…本当に、夢とか幻とかドッキリとかじゃないよね?」
「しっ」
ランポウがつぶやくと、Gは静かにしろというように声を発し、Gに注意(?)されると、ランポウはあわてて口を閉ざした。もしアラウディにみつかりでもしたら、大変なことになるのは目に見えているからだ。
あとは、ただの野次馬だった。
彼らはリリアナとアラウディのキスシーンを、距離は保つが、より近くで見るために、顔を近づけた。
だがそのせいで、彼らの前にある、彼らの下半身くらいの高さの背の低い木のはっぱが鳴ってしまう。
それが原因で、アラウディは反応して、音がした方…ジョット達の方へ顔を向けた。
そして、その先にあるものを目にすると、アラウディは目を鋭くし、無言のまま静かに立ち上がる。
「まずいっ」
アラウディにみつかってしまったので、Gは顔をしかめた。
全員逃げようとするが、一瞬遅かった。
獲物を狩る時の、肉食獣のような目をしたアラウディは、瞬時に彼らと間合いをつめ、手錠をそこにいる人数分取り出すと、彼らの両手に手錠をかけたからだ。
もちろんこれは、守護者でも戦闘員でもないエレナも同様だった。
相手が女性でも非戦闘員でもおかまいなしである。
「…っと……。あぶないな、アラウディ」
だが、唯一ジョットだけは、捕えることができなかった。
自分の攻撃をかわしたジョットに、さすがだと思ったが、同時に腹立たしそうに顔をゆがめていた。
「おとなしくつかまりなよ」
「そんなことを言われて、おとなしくつかまる奴がいると思うか?」
「僕は半月前、君に一ヵ月休むと言った。君はそれを了承した。それなのに、君は……いや、君達は、僕の楽しみをジャマしたんだ。それなりの報いをうけてもらうよ」
「やれやれ」
仕方のない奴だと言うように、ジョットが軽く息を吐くと、アラウディは手錠を構えた。アラウディが構えるのを見ると、ジョットもまた、グローブに炎を灯して構えをとる。
確かにアラウディの言う通りであるが、こうなってしまったアラウディは、絶対に人の言うことを聞かないのはわかっているので、仕方なしに相手をしようと思ったのだ。
「やめて、アラウディ!」
けどそこを、リリアナに止められる。
「リリアナ…」
リリアナに止められると、アラウディは構えはとかないが、動きは止まった。怒りもまだ完全におさまったわけではないが、少しだけおとなしくなった。
「ジャマしないで。こいつは、後ろにいる奴らと一緒に、僕のジャマをしたんだからね」
「とにかくやめて。こんな時まで、殺伐とした戦闘シーンを見せないで」
そう言われるとアラウディは、どこからどう見ても納得していなさそうだったが、渋々構えをとき、手錠を懐にしまった。
そして……。
「本当にすみませんでした!」
あれからジョット以外の者達は、全員手錠をはずしてもらい、ボンゴレの屋敷に移動をした。
その中にはリリアナもおり、リリアナは先程のことを、ジョット達に謝罪していた。
「いや、別によいのだが…。それより君は、アラウディとはどういう…」
ジョットは特に気にしていなかったが、それでもリリアナのことが気になったので、リリアナにアラウディとの関係を聞いた。
「私は、アラウディの部下です」
「アラウディの?」
「はい。詳しくは言えませんが、私の仕事は長期のものが多く、大体半月から、長いと三ヵ月も留守にすることがあるんです。それで、半月前も一ヵ月の長期の仕事から帰ってきたばかりで…。半月後にある次の仕事は、また二ヵ月と長くかかるものですから……」
「だから、アラウディは一ヵ月という長期の休みをとったと…」
「はい。すべては、私のワガママのせいなんです。私が、なるべくアラウディと一緒にいたいと言ったから……。私は、週に数日の休みでいいと言ったのですが、アラウディは、私が次の仕事に行くまでの一ヵ月をすべて休みにしたと言いました……。私は戸惑いましたが、すでに上司の許可はとったからと言われて、戸惑いながらも、うれしさの方が勝っていたので、それなら、思いきり楽しもうと思いまして…。仕事中にアラウディ不足にならないように、ずっとデートしてもらってたんです。
私の勝手都合でこんなことになってしまい、本当にすみませんでした!」
リリアナは、何故アラウディが、一ヵ月という長期休暇をとった経緯を説明した後、再度頭をさげた。
「いや、頭をあげてくれ。決して君のせいではない」
頭をさげると、ジョットは焦りを見せる。
「そうだな。こいつは、一ヵ月も休みをとるなんていう極端なことをした、アラウディの責任だな」
ジョットに同意したGがアラウディを睨むと、アラウディは、自分には責任はないと言うように、Gから顔をそむけた。
「いえ、そんなことないですよ」
「そうだよ。大体ジョット、君は僕が休みをとることを承諾したじゃないか」
「守護者をやめると脅されて、仕方なく…だがな」
「えっ!!アラウディ、そんなことをしていたの?ダメじゃない」
まさか、休みをとるためにジョットを脅していたとは知らなかったリリアナは、アラウディをとがめる。
「アラウディ、私のために休みをとってくれるのはうれしいけど、これからはジョットさんを脅したりしたらダメよ」
とがめられると、アラウディは不機嫌になり、ジトっとした目でリリアナを見た。
「いい?ダメだからね、アラウディ」
「…わかったよ」
同じ言葉をくり返されると、アラウディは渋々ではあるがうなずいたことに、そこにいた全員が驚いていた。
そして
「夢でも見てるのか?」
と、全員が同じことを思い、同時に、あのアラウディを大人しくさせられるなんて、すごいと感心していた。
「アラウディ」
「何?」
そこへジョットがアラウディに話しかけると、アラウディはいつもの調子で返事をする。
「おまえに特別任務を与える」
「特別任務?ちょっと…僕は…」
「まあ最後まで聞け」
休みをもらったのに任務と言われたので、苛立ったアラウディはジョットに反論しようとするが、最後まで言う前にジョットに制される。
「おまえが休みをとった、残り半月。一日もかかさずに、リリアナと一緒にいることだ」
特別任務と言われたので、何か面倒な仕事でも押しつけられるのかと思ったアラウディは、驚いて目を丸くした。
隣では、リリアナも同じように目を丸くしている。
「どうだ。できるか?」
「あたりまえでしょ。最初っからそのつもりだし」
けど、すぐにいつもの表情に戻って、鋭い目をジョットに向けた。
「君達が、僕とリリアナのジャマをしたのは許せない。でも……」
ジョットを見たのはほんの少しの時間で、アラウディはすぐに、隣にいるリリアナの肩に自分の手を置いて抱きよせた。
「君の計らいには礼を言うよ」
顔が礼を言う態度ではないのだが、それでも、いつもよりも幾分かやわらかい表情でジョットを見た。
ジョットもまた、アラウディなりに礼を言われたので、やわらかい笑みをその顔に浮かべる。
そしてアラウディは、自分なりに礼を言うと、リリアナを連れて、ボンゴレの屋敷から去っていった。
それから、リリアナが次の仕事に行くまでの半月の間、リリアナとアラウディは、思う存分二人だけの時間を満喫した。
そして、あっという間に半月が経ち……。
「じゃあ、行ってくるわね、アラウディ」
朝6時の早朝、リリアナはアラウディの家の前に立ち、アラウディにあいさつをしていた。
「ああ、気をつけて」
「アラウディも、体に気をつけてね。あと、普段の行動にも」
「どういう意味?」
「アラウディは、任務じゃなくてもしょっちゅう危険に身を投じるからね。その辺が心配」
「そんなことしないよ (たぶん)」
「本当に?約束よ」
「うん」
もしかしたら、口だけかもしれないと思ったリリアナは、無駄だろうとは思ったが、一応念押しした。
アラウディはアラウディで、きっとウソだとバレてるだろうと思ったが、リリアナを納得させるために、イエスと答えた。
「じゃあ、今度こそ本当に行くわね」
仕事に遅れるわけにもいかないので、名残惜しいがそこから離れるように行こうとすると、アラウディは引き止めるように抱きしめた。
「ど、どうしたの?」
「本当は……行かせたくない…」
アラウディはリリアナを強く抱きしめ、本音をもらす。
「………私だって…本当は行きたくないよ。でも、行かなくちゃ。アラウディのため、組織のために……」
アラウディが本音を言うと、リリアナも本音を話した。
三ヵ月という期間は、あまりにも長すぎる時間だった。
「それに……私はまた、絶対に戻ってくるよ」
「でも、君の仕事は危険な仕事だ。本当はやめてほしい。本当は、危ない仕事は引退して、ずっと僕のそばにいてほしい。いなくならないでほしい…」
アラウディが、リリアナを更に強く抱きしめると、リリアナはアラウディの服をぎゅっとにぎる。
「いなくならないよ」
その優しげな声を聞くと、アラウディはリリアナの体を離し、リリアナと向かい合った。
「私は、戦うことでアラウディの役に立ちたいし、隣にいたいから、こればかりは譲れないけど……。でも、必ず戻ってくるよ。アラウディのもとに……。約束するわ」
リリアナはにこっと満面の笑顔をアラウディに向ける。笑顔を向けられると、アラウディもまた、やわらかい笑みを向けた。
そして、お互いに向かい合うと、どちらからともなく顔を近づけて、口付けを交わした。
「それじゃあ、行ってきます」
「ああ。気をつけて」
唇はほんの数秒で離れ、体を離すと、二人はまた微笑みあい、リリアナはアラウディの家をあとにした。
アラウディは、リリアナの姿が見えなくなるまで見送っていた。
リリアナは、またアラウディにただいまと言うために戻ってくることを胸に誓い、仕事場へと向かっていく。
それは、青い空の中に白い雲が浮かぶ、よく晴れた日のことだった。
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