ハプニング・キス
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ある日の休暇の午後。
魅真は談話室で、上質なソファに腰をかけ、マカロンとダージリンティーを用意し、普段任務でなかなか読めないでいる本を読みながら、優雅なティータイムをすごしていた。
それは、とても暗殺部隊の一員であるとは思えないほどのもので、魅真はこの貴重な休暇を心から楽しんでいた。
しかし……そんな貴重な休暇を壊す音が廊下から聞こえてきたので、魅真は顔をしかめる。
ハプニング・キス
その音がこちらに近づいてきたかと思うと、突然静寂を打ち破るように、扉が大きな音を立てて開かれた。
「てンめェーー、待ちやがれ!!このクソガエル!!」
「嫌ですよー」
入ってきたのは、ベルフェゴールとフラン。
いつものように、ベルがナイフを投げ、フランがベルの攻撃から逃げるという、お決まりの行動をとりながら入ってきた。
二人は、魅真の姿が見えているのか見えていないのか、盛んにナイフと幻術の攻防を繰り広げていた。
せっかく静かな空間で、優雅なティータイムをすごしていたのに、突然騒がしくなったので魅真は怒り、額にはいくつか青筋が浮かんでいたが、それでも、このティータイムを、二人に怒鳴ることで自ら壊したくはないので、仕方なくガマンし、二人の存在を打ち消すかのように読書に没頭する。
普通なら逃げる状況だが、それでもこの場所にとどまるのは、魅真もやはりヴァリアーの一員なのである。
「このっ」
「なんのー」
けど、読書に没頭するにはあまりにうるさすぎるので、すぐに集中がとぎれてしまう。
さわがしいというのもあるが、今ベルが投げたナイフが、あろうことか、魅真が読んでいた本に刺さり、ティーカップを破壊したからだ。
そのことで、魅真の額には、更にたくさんの青筋が浮かぶ。
「甘すぎですよー、堕王子」
「くそっ…」
一歩間違っていたら、ナイフが魅真にあたりそうだったというのにも関わらず、二人は魅真を無視して(ヴァリアー的に)じゃれあっていた。
本には穴があき、お気に入りのティーカップは破壊され、中に入っていた紅茶がこぼれ、魅真の手や袖をぬらす。
淹れたてではないので、そんなには熱くはなかったが、問題はそこではない。
貴重な時間を壊し、更には本やティーカップを壊したのに、謝罪がないどころか、まったく眼中に入れていなかったからだ。
この二人に、謝罪を求めるだけ無駄だが……というか、むしろ素直に謝ってきたら気持ち悪いが、それがわかっていても、魅真の怒りは収まらず、頂点に達していた。
「コラァッ!!!いい加減にしろ、そこの二人!!!」
魅真は、ナイフが刺さった本と壊れたティーカップをテーブルに置いて立ちあがると、感情にまかせて二人に怒鳴りつけた。
そのことで、ケンカをしていた二人は、ようやく魅真に目を向ける。
「あ、いたんですかー、魅真センパイ」
「んだよ。そんなとこで何やってんだ?お前」
本当に、今の今まで眼中になかったようで、その発言が、余計に魅真を怒らせた。
魅真はキレて、わなわなと体を震わせると、懐から愛用の拳銃を取り出し、ベルに向けて発砲する。
「うおっ。あぶねっ」
まさか、魅真がいきなりこんな行動に出るとは思わなかったので、びっくりしていたが、それでもベルは、あっさりと避けてしまう。
あぶねっと言いながらも、表情も動きも余裕だったので、それが魅真を余計に苛立たせた。
「危ないのはあんたでしょ!!人がいるってのに、構わずナイフを投げて!!」
「だってカエルがよ…「だまりなさい!!」
ベルが言い訳しようとすると、魅真は途中で言葉を遮り、大きな声で怒鳴る。
魅真はキッ…とベルを睨むと、ベルの近くに歩いていく。
「例え、フランが悪かったとしても」
「ミーは何も悪くないでーす」
「ウソつけ」
話の途中だというのに、魅真の言葉に反応したフランは反論し、フランの言い分をベルは否定する。
「無関係の人間がいるところで、ナイフを投げるなんて」
けど、いちいちつっこんでいたらキリがない上に、話が脱線しそうなので、魅真は無視して話を続けた。
「大体おまえがな」
「センパイが悪いんですよー」
フランとベルも、魅真を無視して言い合いを始める。
「ちょっとベル、人の話を聞きなさ……」
それでもお構いなしに、魅真はベルのもとへ歩いていくが、その途中で、床に刺さったベルのナイフにつまずいて倒れていく。
暗殺部隊の人間としては、こんな、トラップでもなんでもないものにつまずき、ころぶなど、まぬけにもほどがあるのだが、目の前のベルしか見えていなかった魅真の視界には入っていなかった。
「ん?うわっ」
フランの方に顔を向けて言い合ってるベルの視界にも、魅真は入っていなかったので、ふいをつかれたベルは、魅真と一緒に床になだれこんだ。
「ちょーマヌケですねー、ベルセンパ…」
魅真に巻きこまれたとはいえ、無様な醜態をさらしてしまったので、フランはざまあみろとばかりに見下した。
けど、その途中で言葉を止める。
何故なら、とんでもないものを見てしまったからだ。
それは、魅真がベルを押し倒す形でベルの上に乗っているだけでなく、魅真の唇がベルの唇と重なっていたからである。
事故とはいえキスしてしまったので、魅真は驚きのあまり目を見開き、それを見ていたフランも、呆然として目を丸くしていた。
「なっ……」
魅真は顔を真っ赤にしながら、すぐにベルから離れた。
ベルに対して恋愛感情を抱いていないのに、キスをしてしまったことは不本意だが、明らかに自分が原因なので、何も文句を言うことができず、うわずった声を出す。
「シシシシ。魅真、積極的ー」
「ち、違っ…今のは事故…」
「わかってるっつーの。でも、事故でもなんでも、魅真とキスできてラッキーだけどな」
「へ?」
「おまえは気づいてないかもしんねーけど、オレ…魅真が好きなんだぜ」
「えぇえええっ!?」
いきなりの告白に、魅真は先程とは違う意味で赤面し、叫び声をあげる。
「なあ、オレと付き合わねー?」
「な…なんで?」
「今言ったろ。おまえが好きだってさ」
言いながら、ベルは魅真の頬にキスをする。
それだけで魅真は赤面し、キスされたところを押さえてベルを見た。
「シシシ。魅真、かーわいー」
「ちょっ…ベル!」
ベルは、魅真が固まってる間に抱きしめ、頬ずりをした。
ベルに対して嫌悪感を抱くことはないが、異性として好きなわけではないので、危険を察知した魅真は、ベルの体を押して抵抗をする。
けど、そんなことでベルはやめず、魅真の頬に手を添ると、今度は自ら顔を近づけ、キスをせまった。
予感は的中し、魅真は更に抵抗をするが、男女の力の差があるので、ベルから逃れることができなかった。
ベルは魅真を抱きしめる手に力を入れると、更に顔を近づけた。
「ちょっとー」
だが、あと1cmでお互いの唇が重なろうとした時、横から間延びした声が聞こえてくる。
「ミーがいる前で、イチャつかないでもらえますかー?」
そこには、フランがどこか不機嫌そうな顔で、二人の様子を見ていた。
「フ…ラン…」
一部始終をフランに見られていたことに、魅真は、ベルにせまられていた時とは別の意味ではずかしくなり、ますます顔が赤くなる。
「んだよ、カエル。いたのかよ?」
「最初っからいましたけどー。あれー、ベルセンパイ、自分でミーを追っかけてきたのに、忘れてたんですかー?ずいぶんともの忘れひどいですねー。もう年ですかー?施設にでも行った方がいいんじゃないですかー?」
「んだと?カエル」
フランの嫌味にベルは食ってかかるが、フランはそんなものはまったく意に介さず、それだけ言うと、扉の方へ歩いていく。
「それじゃー、ミーは戻りますー。邪魔して悪かったですね」
そう言って、フランは不機嫌な顔のまま、談話室を出ていった。
「待って、フラン!」
フランがいなくなると、魅真は慌てて後を追いかけていく。
誰もいなくなった談話室に、ベルは一人取り残されていた。
「ねえ、フラン。待って!ねえってば!」
談話室を出た魅真は、早歩きで歩いているフランの後を、必死に追いかけながらフランの名前を呼ぶが、フランは無視して、ずんずんと先に歩いていってしまう。
「もう!!何をそんなに機嫌悪そうにしてんのよ」
それを見た魅真は、なんでこんな態度をとられなければいけないのかわからず、率直に聞いてみた。
それが気にくわなかったようで、フランはめずらしく目を鋭くする。
「…別に、機嫌なんて悪くありませんよー。人の前でイチャつくなんて、不愉快極まりないものを見せつけられたので、気持ち悪くなっただけですー。
それにしても、よく堕王子なんかとキスできますねー。趣味悪すぎですー」
「だから、事故だって、さっきベルにも言ったじゃない」
フランの言い方にはどこかとげとげしさがあったが、魅真は冷静に返す。
それが余計にフランを苛立たせ、フランはますます機嫌が悪くなった。
「だ…大体私は…」
そう、言いかけた時だった。
「!」
突然フランは、魅真の腕をつかむと顔を近づけてきて、魅真の唇に自分の唇を重ねた。
「すみません。手がすべりました」
それは、ただ触れ合うだけの軽いものだった。
フランは唇を離すと、悪気ゼロで言う。
そんな、ひょうひょうとしたフランを見て、魅真は唖然として固まった。
「なっ……」
けど、すぐに覚醒し、ふるふると体を震わせると
「何すんのよ、いきなり!!」
顔を真っ赤にして、屋敷中に響くような大きな声で叫んだ。
「だから、手がすべったって言ってるじゃないですかー。事故ですよー、事故」
自分の怒鳴り声にも動じず、あっさりと受け流すフランに、口を鯉のようにぱくぱくと動かすだけで、うまく言葉が出てこなかった。
「……好きです…」
「へっ…?」
固まっていると、フランが突然告白してきたので、魅真は間のぬけた声を出す。
「だーかーらー、魅真センパイのことが好きだって言ってんですよー。一回でわかってくださーい」
「え?いや……だって……なんか、信じられないものを聞いたから。だってフランって、異性を好きになるようなタイプじゃないし、全然興味なさそうに見えたから…」
「…センパイは、ミーをなんだと思ってんですかー?ミーだって、誰かを好きになったりしますよー」
「そ、そう…」
意外すぎる返答に、魅真は目を丸くしてフランを見る。
フランには、不機嫌なオーラはすでになくなっていた。
「で?」
「え?」
「え?じゃないですよー。魅真センパイの返事はー?」
「こ……答えなきゃダメ?」
「あたり前でしょー。空気読んでくださいー」
むすっとしたフランを前に、魅真は頬を赤く染め、なかなか口を開けずにいた。
「…………だよ……」
「え、なんですかー?聞こえませんー」
重い口をなんとか開き、伝えようとするが、緊張のせいで声が小さくなっていた。
聞こえないと言っても、本当はなんと言ってるのかわかっているフランは、耳に手を添えて、わざとらしく聞き返す。
「わ、私もっ……フランが好きだって言ってるの!」
半分やけになったように叫ぶと、フランはうれしそうにフッと笑う。
「ちゃんと言えるじゃないですかー。えらいですよー」
そう言ってフランは、魅真の頭をよしよしとなでる。
それだけで魅真は、顔を赤くしてフランを見あげた。
「…魅真センパーイ」
「なに?」
「ミー達、付き合いません?」
「なんで…?」
「そりゃあ、両想いになったからですよー」
魅真の疑問に、フランはきょとんとした顔で返した。
「それとも……魅真センパイは、ミーと付き合うの、嫌ですかー?」
潤んだ、捨てられた子犬のような瞳でみつめられたので、魅真はうっ…と言葉がつまり、何も言えなくなった。
「イヤじゃ…ないです…」
顔を真っ赤にし、下に向けてはずかしそうに言うと、フランはにこっと笑う。
「好きです」
改めて想いを告げると、フランはもう一度唇を重ねた。
魅真も抵抗せず、フランを受け入れた。
二人は唇を離すと、しばらくの間、両想いになった喜びを噛みしめるように抱き合っていた。
END
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