sweetsweetlovers2
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
暗黒武術会が終わり、暗黒武術会会場がある首縊島から家に帰ってきたのは、夜も7時をまわった頃だった。
帰ってきたばかりだが、温子は夕飯の支度を始め、幽助と舞美は、それぞれ自分の部屋でくつろいでいた。
部屋でくつろいでいると、突然電話が鳴った。
温子は今夕飯の準備をしているので、自分がとろうと立ちあがると、数回鳴った後に電話が切れた。
きっと、温子が手をとめて出たか、幽助がとったか、かけてきた相手が切ったかのどれかだろうと思い、舞美は大して気にもとめず、そのまま部屋でくつろいでいたが、切れてから少し経つと、足音がこちらに向かってくるのが聞こえた。
「舞美、電話よ」
その足音は温子のもので、温子は特にノックをすることなく扉を開けて、舞美に用件を言う。
「電話?」
用件を伝えると温子は台所に戻っていき、舞美は温子が戻った後に、一体誰だろうと思いながら、温子より少し遅れて部屋を出て、電話が置いてあるところへ向かっていく。
「お母さん、電話って誰から?」
台所に入ると、夕飯の支度をしている温子に問う。
問われると、温子は急に、ニヤニヤと笑い出した。
「な、何?その顔…」
誰からかかってきたのかを聞いただけなのに、何も答えずにニヤニヤと笑っているので、舞美は少しばかり引いていた。
「蔵馬くんよ」
「えぇっ、蔵馬!?」
温子がニヤニヤと笑っていたのは、電話の相手が蔵馬だったからだ。
蔵馬の名前を聞くと、舞美はうれしそうな顔になり、食卓でお茶を飲んでいた幽助は、ピクリと反応し、何やらけわしい顔つきになる。
誰からの電話なのかを聞いた舞美は、軽い足どりで、電話が置いてあるリビングへ向かった。
「もしもし。……蔵馬…?」
受話器を耳にあてると、ドキドキしながら、電話の相手の名前を呼んだ。
《もしもし、舞美?》
名前を呼ぶと、蔵馬の声が聞こえてきたので、舞美はそれだけで舞い上がった。
「ど…どうしたの?帰ったばかりなのに」
《えっと……突然なんだけど、今度の日曜日、遊びに行かないかな?》
「え!?あ…その……それって…つまり……」
《オレとデートしない?舞美》
「えっ!!本当に?」
自分の思った通りの答えが返ってきたので、舞美は思わず大きな声を出してしまった。
その大きな声に、受話器の向こうからは、蔵馬のクスクスと笑う声が聞こえてきたので、舞美ははずかしくなり、小さくなる。
《じゃあ、今度の日曜日の朝10時に、駅前に集合ね》
「うん。楽しみにしてる」
《オレも楽しみだよ。じゃあ、今度ね》
その言葉を最後に電話が切れたので、舞美も受話器を置いた。
そして、うれしそうな顔をしながら、電話をとりにいく時よりも軽い足取りで、台所に戻ってきた。
「ずいぶんとうれしそうじゃない。何かあったの?」
「えっへへ。実は、今度の日曜日に、蔵馬とデートすることになったんだ」
ものすごく機嫌がよさそうに、蔵馬との電話の内容を話す舞美は、いつも以上に笑顔だった。
「あら、よかったじゃないの」
電話の内容を聞き、にこにこと笑っている温子に対し
「なななっ……ぬわにィィ~~~~!?」
幽助は絶叫した。
sweetsweetlovers2
次の日。
その日は始業式だけだったので、午前中で学校が終わり、特に部活に入っていない舞美は、幽助と螢子と一緒に帰宅した。
「へ~~。よかったじゃない」
昨日の電話のことを話すと、螢子は自分のことのように喜んだが、対照的に幽助はずっとむすっとしていた。
「ついこの前両想いになったばかりなのに、もうデートの申し込みなんて、蔵馬さんて結構積極的なのね」
「そうなのよ。私もまさか、両想いになって一週間も経たないのに、デートの誘いがあるなんて思わなかったわ。今でも信じられないけど、でもやっぱり、すごくうれしいの。今から楽しみ」
舞美と螢子はガールズトークに花を咲かせていたが、幽助は今の話を聞き、帰りはじめた時よりも、更に不機嫌になった。
「ケッ!!中学生のくせに、いっちょまえに色気づきやがってよォ」
「「えっ」」
「オレはお前と蔵馬の仲なんて、認めてねーかんな」
まるで、娘をもった父親のようなことを言う幽助に、舞美は苦笑いを浮かべ、螢子は呆れて軽くため息をつく。
とにかく、舞美が蔵馬(男)と付き合うというのが嫌な幽助は、二人の表情にも気づかず、ぶつぶつと文句をたれていた。
「舞美」
「あっ…蔵馬」
その時、三人の前に蔵馬が現れた。
蔵馬の姿を見ただけで、舞美はうれしそうにする。
「どうしたの?確か蔵馬の通ってる学校って、ここから2つ先の駅のところだよね?」
「どうしても、舞美に会いたくなったからね」
「蔵馬……」
わざわざ、電車に乗ってこちらまで来てくれたので、舞美はそれだけで感激した。
「舞美、蔵馬さんと二人だけで、どこか行ってきなさいよ」
「え?でも……」
「幽助なら、私がなんとかするから。ほら」
「ありがとう、螢子ちゃん」
螢子に背中を押されると、舞美はお礼を言って蔵馬のもとへ歩いていく。
「じゃあ、舞美を借りるよ」
「本当にありがとう。幽助をよろしくね」
「わかってるって」
螢子はにこにこと笑いながら、手をふって二人を見送った。
「さて……」
二人の姿が見えなくなると、螢子は幽助の方へふり向いた。
幽助はというと、まだ舞美と蔵馬が付き合うことに対する不満や愚痴を、ぶつぶつと言っていた。
「幽助っ!!」
「うわっ」
けど、螢子が大きな声で名前を呼ぶと、びっくりした幽助は、短い悲鳴をあげる。
「な……なんだよ、螢子。いきなり声かけやがって。……ん?………んっ!?お…おい!!舞美はどうした!?」
「やっぱり気づいてなかったのね」
不満や愚痴を言っていた幽助は、自分の世界に入り、周りが見えていなかったようで、蔵馬が来たことも、舞美が蔵馬と一緒にどこかへ行ってしまったことも、まったく気づいていなかった。
「舞美なら、蔵馬さんが来て、二人でどこかへ行ったわよ」
「ぬぬなななっっ……ぬわんだとォォーーーーー!!」
まさか、蔵馬がここまでやって来て、更には一緒にどこかに行ったとは思わなかった幽助は、大絶叫した。
「大変だ!!おい螢子!!二人がどこ行ったか教えやがれっ」
「あのね……」
追いかける気満々の幽助に、螢子は再度呆れ顔になる。
「いい加減にしなさいよ!!いくら舞美が大切だからって、舞美の幸せの邪魔する権利なんてないでしょ!!本当、大概にしないと、舞美に嫌われるわよ。このシスコン!!」
さっきから…もっと言えば、暗黒武術会が終わって、舞美と蔵馬が付き合うことになった時から、ずっと不満や愚痴を言っていた幽助に嫌気がさした螢子は、幽助に怒鳴った。
螢子の勢いに、幽助はたじろぎ、何も言えなくなる。
「もう、舞美と蔵馬さんのことはいいでしょ?帰るわよ」
「ぐえっ」
放っておいたら、絶対に舞美と蔵馬を探しにいくだろうとわかっている螢子は、幽助の制服の胸ぐらのあたりをつかみ、強制的に幽助の家に連れて帰った。
その間、幽助は叫んだり、文句を言ったり、螢子に悪態をついたりしていたが、螢子は怒鳴ったり、軽くあしらったりしていた。
同じ頃、皿屋敷市の中心街では、舞美と蔵馬が歩いていた。
まさに、容姿端麗という言葉の通りに整った顔立ちをしている二人は、美男美女のカップルとして、街を行き交う人々の注目を集めていた。
男性は舞美に、女性は蔵馬に見惚れていたが、二人はまったくそんなことには気づかずに、楽しくおしゃべりをしていた。
「あの、蔵馬」
「舞美、その名前はちょっと…」
「え?」
話している最中に蔵馬の名前を呼ぶと、蔵馬は困ったように声をひそめ、足を止めた。
蔵馬が足を止めると舞美も足を止め、蔵馬は舞美の耳に口を近づける。
そういうことに耐性のない舞美は、相手が蔵馬だというのもあり、顔を真っ赤にする。
「その名前は、妖怪の時の名前で、人間界では別の名前があるんだ」
「あ…そうなんだ」
「うん。言ってなかったオレが悪かったし、うっかりしてたけど、オレはこっちでは、南野秀一って名前で通ってるんだ。だから、事情を知らない人がいる前では、その名前で呼んでほしいんだ」
「わかった。秀一」
舞美が人間界での名前を呼ぶと、蔵馬もどこか満足そうに笑い、二人は再び歩き出した。
「ん?」
同じ頃、舞美と蔵馬がいるそばには、桑原がいた。
「(あれは……舞美ちゃんと蔵馬!?)」
街を歩いてる時に、たまたまだが舞美と蔵馬を見たので、今まで友人の方に向けていた顔を、舞美と蔵馬の方に向け、凝視した。
「(なんで蔵馬の奴がこんなところに…。あいつの家と学校は、ここから駅2つ先のところにあるはず…。まさか……わざわざ舞美ちゃんに会いに!?)」
暗黒武術会で、舞美と蔵馬が付き合うことになり、失恋決定してしまったが、それでもあきらめたわけではない桑原は、思わず二人を目で追ってしまった。
二人は桑原には気づいておらず、仲良く談笑していた。
途中で舞美が、うれしそうに笑いながら、蔵馬の腕に自分の腕をからめたのを見て、ショックを受けた。
「桑原さん、どーしたんすか?」
そこへ、友人の一人の大久保が、突然自分達から目をそらした桑原を疑問に思い、声をかけてきた。
けど、大久保が声をかけるも、桑原からはなんの反応もなかった。
「どーした?」
「いや、桑原さんに声かけても、なんの反応もねーんだよ」
今度は、何があったのかと、桐嶋が大久保に声をかけてきた。
大久保に説明されると、桐嶋は桑原の前まできて、手を横に何度か動かして反応を見た。
「桑原さん、大丈夫っすか?」
次に、沢村が桑原の隣に来て、肩を揺り動かしてみるが、やはりなんの反応もなかった。
「ダメだこりゃ」
「一体何があったんだ?」
「わかんねーよ」
何が原因でその場に固まってしまったのか、まったく見当もつかない三人は困りはて、しばらくの間、そこで立ち往生していた。
舞美と蔵馬は、中心街に行ったと言っても、特に何をするでもなく、ただ歩いているだけだった。
少しでも長く一緒にいたかったので、わざわざ中心街まで出向いたのだ。
本当に、ただ一緒に帰ってるだけだったが、まるでデートのようで、幸せすぎて、ずっとこのままでいたいと舞美は思っていた。
けど、幸せと思ってる時ほど時間は早く経ってしまうもので、舞美と蔵馬は、あっという間に舞美のマンションの前に着いてしまった。
「じゃあね、舞美」
「うん。今日はありがとう」
「いいよ、オレが舞美に会いたかっただけだから」
家に着いてしまって少し沈んでいたが、蔵馬のその言葉を聞いただけで、幸せな気持ちが戻った。
「それじゃあ、今度の日曜日にまた会おうね」
「うん。あの……くら……秀一」
「ん?」
「また…電話してもいい?」
帰ろうとした蔵馬を呼び止めて、ちょっとしたお願いをすると、蔵馬は口角をあげ
「もちろん」
ふわっと笑って了承した。
蔵馬の返事と笑顔にうれしくなった舞美は、同じく笑顔になった。
「じゃあまたね」
そしてあいさつをすると、笑顔のまま、軽い足取りで中に入っていった。
そんな舞美を見た蔵馬は
「(かわいい)」
と思うと、踵を返して、自分の家に帰っていった。
そして、来たる日曜日。デート当日。
その日舞美は、今まで見たことがないくらいに気合いが入っていた。
理由は言うまでもなく、蔵馬との初デートの日だからだ。
舞美は、蔵馬と約束をした日から今日という日まで、ずっと興奮し、そわそわしていた。
誰が見ても浮かれているのがわかり、勉強や家の手伝いはちゃんとしていたものの、教師や友人に、一体どうしたのかと心配されるほどであった。
舞美はこの日のために、女を磨きまくった。
化粧の練習や髪型の練習をし、エステはさすがに無理だったが、ボディケアを入念に行い、服選びにも余念がなかった。
そして、当日の朝を迎えた舞美は、朝の5時に起き、風呂に入って念入りに髪と体を洗い、服装にも気をつかい、軽く化粧もして、暗黒武術会の時に蔵馬にもらった、赤いバラのブローチもつけ、おしゃれにも気合いが入っていた。
おしゃれといっても、香水やマニキュアやつけ爪やネイルなどはせず、肌を綺麗に見せる程度に軽くファンデーションとチークをして、唇につけるのも、口紅ではなくて色つきリップで、濃いものではなく、わずかに色がついてるくらいのものをつけていた。服も、リボンがついた白いブラウスに、狐色のロングスカートに、かざり気のない黒いロングブーツをはいた。中学生なので、目立ちすぎず地味すぎず、清楚なものを選んだ。
「じゃあ、行ってきまーす」
集合時間の一時間前。朝の9時に、舞美は家を出た。
駅までなら、30分もあれば余裕で着くのだが、せっかくの初デートなのに、遅れたり、蔵馬を待たせたりしては申し訳ないので、舞美は早めに行動をした。
もっと言えば、蔵馬との初デートなので、居ても立っても居られないというのも大きかった。
「はーい。行ってらっしゃーい」
声だけでもうれしいというのがわかるくらいの舞美を、温子は笑顔で見送った。
舞美はもう、蔵馬のことで頭がいっぱいで、軽い足取りで駅に向かっていった。
家を出てから30分経った。
舞美は待ち合わせ場所の、駅前にある花壇の前にやって来た。
「あれ?」
「やあ、おはよう舞美」
舞美がここに着いた現在の時間は9時半。
まだ、待ち合わせの時間まで30分もあるというのに、そこにはすでに蔵馬がいた。
「な、なんで?結構早く出たのに」
自分よりも早く来てるということは、9時半前にはすでにここにいたということなので、舞美は呆然としながら蔵馬に尋ねた。
「デートなのに、女の子を待たせちゃ申し訳ないからね」
尋ねられると、蔵馬はにこっと笑って理由を話した。
「でも、舞美もこんなに早く来るとは思わなかったな」
「あ、いや……せっかくの初デートなのに、遅れたり待たせたりしたら申し訳ないから…。だから早めに来たんだけど…」
舞美が理由を話すと、蔵馬はくすっと笑った。
「なんだ、オレ達同じこと考えてたんだね」
「そ、そうだね」
蔵馬のやわらかい笑顔に、舞美は顔を赤くするばかりで、短く答えるのが精一杯だった。
「じゃあ、早いけど行こうか」
「うん」
二人とも、待ち合わせ時間よりも早く来てしまったので、時間が早いが、二人はでかけることにした。
二人が花壇から離れると、花壇のそばにある自動販売機から、変装をした、幽助、桑原、ぼたん、飛影が現れた。
「くっそォ。蔵馬の奴、舞美ちゃんとデートとか…!清く正しい男女交際からはずれてるぞ。なんとかせねば」
「清く正しいかどうかなんて、この際どうでもいいぜ。とにかく、蔵馬のヤローが舞美に変なことしないかどうか見張らなきゃな」
幽助と桑原は、とにかく舞美と蔵馬がデートするのが嫌で、妙に燃えていた。
幽助の隣では、飛影も何も言わないが、静かに燃えていた。
「でもいいのかねえ。二人の邪魔しちゃ悪いんじゃないのかい?」
ぼたんはその中で、唯一まともなことを言っていた。
「そう言いながら、オメーもここにいんじゃねーか」
「わ、私は、幽助に頼まれたから」
「誰も頼んじゃいねーだろ。オレが、舞美と蔵馬がデートするっつったら、野次馬根性で尾行に参加するっつってたじゃねーかよ」
けど、ぼたんがここにいる理由は、幽助達三人とは違うものの、まともとは言いがたいものだった。
「つーか、飛影もここ来るとは意外だったな」
「まったくだぜ。まさか、桑原とぼたんと約束していた場所に、オメーがいるとは思わなかったな」
「フン……」
急に自分に話しかけ、しかもからかうような幽助と桑原の態度に、飛影はそっぽを向いた。
「でもまあ、飛影の邪眼があれば、見失ったとしてもすぐにどこにいるかわかるから、心強いな。今日はいっちょ頼むぜ、飛影」
けど、幽助が頼りにし、肩をたたかれると、まんざらでもなさそうな顔になった。
一方、舞美と蔵馬は……。
「舞美、オレがあげたブローチ、つけてきてくれたんだね」
舞美が、以前暗黒武術会の時に、自分が贈ったブローチをつけているのを目にした蔵馬は、うれしそうな顔でそのことを話した。
「そ、それは……秀一にもらった、大事なものだから。やっぱり、初デートの記念につけていきたかったし」
「ありがとう」
そして、自分が言ったことに舞美が答えると、その答えにうれしくなった蔵馬は、にっこりと笑ってお礼を言った。
二人から少し離れたところでは…
「ぐぎぎぎぎ…。なんか…いい雰囲気じゃねェか……」
「くっそォ~~~、蔵馬の奴め…。オレの舞美ちゃんと親しく…」
「誰がテメーのだよ」
「んだと?やるか、コラ」
「ちょっとちょっと、声が大きいって。二人にばれるわよ」
幽助と桑原が言い争っているところを、ぼたんがあわてて止めており、三人の横では、何も言わないが、飛影が不機嫌そうな顔をしていた。
幽助達に気づいていない舞美と蔵馬が電車に乗り、向かった先は、水族館だった。
「わああ、かわいい」
入場券を買い、中に入ると、さっそく魚が舞美と蔵馬を出迎えた。
もともとかわいいものが大好きな舞美は、小さく愛らしい魚が、水槽の中で泳いでいる姿に心奪われ、目を輝かせていた。
蔵馬はというと、舞美が魚に目を輝かせているので、やや置き去りになっているが、それでも舞美が魚を愛でる姿を見て、笑顔を浮かべていた。
「舞美は、魚好きなの?」
「うん。基本的に動物は大好きなんだ。陸の生き物も好きだけど、海の生き物も好きだよ。だってかわいいんだもの」
「そう。でも、オレは舞美の方がかわいいと思うよ」
「へ…」
特別混んでいるわけではないが、それなりに人がいる場所で、照れもせずに、さらっとかわいいと言ってきたので、舞美は顔を赤くした。
「というより、舞美以外にかわいいって思うものがないって言った方がいいかな」
照れもせず、またかわいいと言ってきたので、舞美はますます顔を赤くする。
「蔵馬って……あまり情緒を感じない方?」
「そういうわけじゃないんだけどね。感情はあるよ。でなきゃ、舞美を好きだって思うわけないからね。ただ、かわいいって思うものが、今までなかったと言った方が正しいかな。恋愛の意味で好きって思うのも、かわいいって思うのも、初めてかな」
「そ…そう…」
またしても、照れるようなことをさらっと言ってきたので、舞美はこれ以上ないというくらいに顔を赤くした。
「逆に聞くけど、舞美は好きとかかわいいとか思ったことあるの?」
「うん…。数えきれないくらいあるかな。さっきも言ったけど、動物は大好きでかわいいって思うし。他にも、自然の生き物や、小物や、人や、いろんなものをかわいいって思ったり、好きって思ったりしたことあるよ。友達も、家族も、すごく好きで大切だもの」
「幽助のことも?」
「うん」
即答すると、蔵馬は少し顔を曇らせ、近くにいる幽助は天にも昇る気分になった。
「でも……恋愛の意味で「好き」って思ったのは、蔵馬が初めてだよ」
「え…」
「家族のことも、友達のことも好きで大切だけど、今私が一番大好きで大切なのは、蔵馬だもの」
満面の笑顔で言われると、うれしくなった蔵馬も満面の笑顔を浮かべ、舞美の肩をそっと抱きよせた。
それだけで、舞美は蔵馬に対して、「愛しい」という感情を抱いた。
「あ…そういえば、ここってイルカショーあるんだよね。あとで観てもいい?」
「もちろん。じゃあ、あとで観に行こうか」
舞美と蔵馬は、近くにいる幽助達にまったく気づくことなく、奥の方へ移動していった。
そして、幽助達はというと……。
「なかなかいい雰囲気じゃないかい」
ぼたんはわくわくしながら見ていたが
「くっ…。蔵馬の奴……さりげなく肩なんか抱きやがってェ~~」
桑原は悔しがり
「燃やす……」
嫉妬に燃えている飛影は、物騒なことを言っていた。
そして幽助は、蔵馬が自分を好きで大切かと舞美に問い、舞美が即答したことにうれしくなって、天にも昇る気分になっていたが、蔵馬の方が一番大好きで大切と言っていたことにショックを受け、桑原の隣でへこんでいた。
それから1時間経つと、イルカショーが始まったので、舞美と蔵馬は観にきていた。
出てきたイルカ達がいっせいにジャンプをしたり、高いところから吊り下げられたところにあるボールを、口や尾でたたいたり、フラフープをジャンプしてくぐったり、口で小さなわっかをまわしたり、トレーナーの女性と一緒に泳いだり、尾だけで水面を泳いだりと、イルカが芸を見せるたびに、舞美はキラキラと目を輝かせて、楽しそうに笑っていた。
蔵馬はイルカショーを観ていたが、時々舞美の方に顔を向け、舞美が楽しそうに、無邪気に笑う姿を、愛しそうに、優しく慈しむような目でみつめていた。
近くにすわってる幽助達は、完全にイルカショーではなく、舞美と蔵馬を見ていた。
もちろん、ぼたん以外の三人は、嫉妬に燃えた目で…。
イルカショーが終わると、舞美と蔵馬はショー会場と隣接しているフードコートで休憩をしていた。
「イルカすごかったね。いろんな芸ができて。それに、すっごいかわいかった」
「そうだね。でもオレは、そのイルカに夢中になってはしゃいでいる、舞美の方がかわいいと思ったよ」
舞美は紅茶を、蔵馬はホットコーヒーを注文して、二人で談笑していた。
「あ…あの……それ、さっきも聞いたよ」
「だって本当のことだから。何度言っても言いたりないくらいさ」
「それなら…蔵…秀一だってかっこいいよ。駅で待ち合わせた時から、今までもずっと……。今もずっと…秀一のこと、赤い顔して見ている女の子たくさんいるし」
「オレはそんなのに興味ないよ。舞美以外にはね」
蔵馬のその言葉に舞美はうれしくなり、顔を赤くした。
「それに、それを言うなら、舞美だってそうだろ」
「え、私?」
なんで自分も入るのか、舞美はふしぎそうにした。
「舞美、気づいてないだろ。舞美も、駅で待ち合わせていた時から、ここに来るまで…来てからも…今だって、他の男性が、顔を赤くして君のことを見ているのを…」
「え?そんなことないよ」
「そんなことあるんだよ。君が気づいていないだけでね。前、桑原君に聞いたよ。すごくもてるって。あと、告白もよくされるって…」
「確かに……告白はされたことあるけど…。でも、好きだって思ったことはなかったよ。それに、どんなに男の子に告白されても、好かれても、さっきも言ったけど、私が本気で、恋愛の意味で好きなのは、秀一だけだもの。他の男の子なんて、興味ないよ」
「ありがとう。オレも同じだよ」
蔵馬の返事に、舞美はうれしくなって、満面の笑顔になった。
そして、二人からちょっと離れたところでは、幽助達が観葉植物にかくれて、葉の隙間から様子をうかがっていた。
「何しゃべってんだ?こっからじゃ聞こえねーぞ」
「うるせーな、静かにしろよ。舞美と蔵馬にバレんだろ」
「オメーも充分うるせーよ」
「しっ!!静かに」
けど、そこは二人の様子を見るには、離れすぎていて、声もあまり聞きとれなければ、二人の顔もあまり見えなかった。
この場所は、どこにいても全体が見渡せるような作りになっているので、かくれられるような場所は、今四人がいる観葉植物くらいしかなかったのだ。
「気にいらん……」
「「「え……」」」
「あの二人……イチャついてやがる…」
だが、飛影は邪眼があるので、舞美と蔵馬の二人が何をしているのか丸わかりだった。
「テメッ飛影!!何自分だけ、全部把握してやがんだよ」
「オメェだけずるいぞ。舞美達がどうなってるのか把握してるなんて」
「オレには邪眼があるからな」
「それよこしやがれっ。オレも、舞美ちゃんと蔵馬が何してんのか見るんだ」
「ムチャクチャ言うな」
二人の姿がはっきりと見てとれるので、一人だけずるいと言うように、幽助と桑原は、飛影に詰め寄った。
「ちょいと、あまり大きな声出したら、二人にバレるじゃないか」
今までは、二人にバレないように小声で話していたのに、段々と大きな声になってきたので、ぼたんは静かにするように注意をする。
だがその時、ぼたんは少し足を動かした時に、くつ紐をふんずけてしまった。
それだけならまだいいのだが、三人を止めるために立ちあがった瞬間、くつ紐を踏んでしまったせいで、バランスを崩してしまい、植物の方へ倒れた。
ぼたんはそのまま植物ごと床に倒れてしまい、その際に、植物の鉢植えが倒れた時の、床にぶつかった音が館内に響き渡った。
当然そこにいた人達は、何事かと思い、音がした方へふり向いた。
「いたた……」
「おまっ、ぼたん!!何やってんだよ!?」
「ご、ごめんごめん。くつ紐をふんずけちゃったみたいで。あと、ずっとしゃがんでたから、ちょっと足がしびれちゃって…」
「ていうか、今のでバレちまって「何がバレたの…?」
幽助がぼたんに文句を言っていると、途中で言葉を遮られた。
その聞き覚えのある声に幽助はドキッとなり、顔を声がした方へ、ゆっくりと、おそるおそる向ける。
「何やってるの?幽助……。それに………みんなも……」
そこには、当然今の音に気づいた蔵馬と舞美が立っていた。
「舞美………」
幽助は、舞美の顔を見た途端に震えた。
何故なら、いつものおだやかな顔とは違い、笑顔ではあるが、目が据わっていて、笑っていない舞美がいたからだ。
その、ただごとではない舞美の黒い微笑みを見て、桑原も、ぼたんも、飛影ですら、緊張のあまり固まってしまい、顔が青ざめ、冷や汗をかいていた。
「場所……移動しようか…」
舞美の恐ろしい形相に、幽助達は何も言葉を発せず、だからといってノーとも言えず、舞美のあとについていった。
舞美についてやって来たのは、水族館を出てすぐのところにある広場だった。
「さてと……」
広場にやって来ると、舞美は顔を幽助達に向けて、先程の、あの黒い微笑みを四人に向けた。
「それで……一体どういうつもりで、私達のあとをつけてきたのですか?」
静かに、それでいて冷静に、しかも敬語でしゃべる舞美は迫力があり、幽助達はびびってしまい、何も答えることができなかった。
特に、舞美のことを一番よく知る幽助は、敬語口調で黒い笑みを浮かべ、冷静に話す舞美は一番ヤバいということがわかってるので、一番びびっていた。
腕を組んで仁王立ちする舞美の隣で見ている蔵馬は、自分には関係のないことだが、舞美の見たことのない迫力に、幽助達と同じようにびびっていた。
「黙ってないで……答えてくれます?」
再度問われるが、迫力が増した舞美の声に、四人はますます緊張し、口を開けなかった。
「私……質問してるんですけど…」
何も答えないのは、舞美に迫力があってしゃべれないだけなのだが、舞美はおかまいなしに言葉を続ける。
「聞いてます?幽助」
短い言葉にすらビクッとなった幽助は
「スイマッセンしたァァーーー!!」
頭を地面にこすりつけるくらいの勢いで、土下座をした。
「土下座とかそんなのいいので、ちゃんと答えてください。ねっ?」
けど、舞美には謝罪の言葉などどうでもよく、更に笑みを濃くして、幽助に問いかけた。
「舞美と蔵馬がデートすると聞いて、あとをつけてきましたァ!!」
濃くなった舞美の笑みに更にびびった幽助は、勢いで、やや早口でしゃべった。
「なんで?」
ちゃんと答えたのに、まだ舞美の拷問のような質問は続いた。
「なんでそんなことしたのかしら?」
どうしてここにいるのかという質問には答えてもらったが、何故その行動をとったのかという理由は教えてもらっていないので、そのことを問おうとしているだけだが、冷たい目と声と口調に、幽助は更にびびった。
「いや……その………舞美と…蔵馬が…デートするって知ったからよ……。気になって……」
「気になった?そんな理由で私達のあとをつけてきたのですか。へーーー。ふーーーん」
今回の行動に至った理由を聞くと、舞美はますます冷たい雰囲気になる。
「それで?ぼたんと桑原君と飛影君は、なんでこんなことしたのですか?」
幽助には答えてもらったが、他の三人にはまだ答えてもらってないので、今度は三人からも理由を聞こうと、舞美は三人の方へ顔を向けた。
短い言葉なのに、桑原も、ぼたんも、飛影ですら、舞美の迫力にびびってしまい、冷や汗を流した。
「質問に答えてくださいます」
「浦飯と同じ理由デス」
「私も……」
「オレもだ……」
理由は言わない方がいいかもしれないと思った三人だったが、舞美の迫力に負けて、あっさりと答えてしまう。
「…そう……」
舞美の口から出たのは、氷のように、とても冷たい声だった。
ほんの短い言葉なのに、それだけで、絶対零度の世界に放りこまれた感覚になった。
「それって、やっていいこと?それとも悪いことですか?」
「悪いことです!!」
「ふーーん…。悪いことってわかってるのにやったんですね。へェーー」
四人が、自分と蔵馬のデートをつけてきた理由を知った舞美の目と声は、ますます冷たくなった。
「ご、ごめんね舞美。でも、どうしても気になったんだよ」
「そうそう。決して悪意があったわけじゃねェんだよ。なあ、浦飯!!」
「あったりめーだろ。オレはただ、舞美のことが心配でだな」
「オ…オレは、蔵馬が戦い以外でどんな顔をするのか、ちょっと気になっただけだ」
舞美の目と声、舞美自身から放たれる冷たい雰囲気に、四人は焦って言い分を述べる。
「おだまりなさい」
けど、再び発せられた声に、またびびった四人はだまってしまう。
「誰がしゃべっていいって言ったのかしら?私……しゃべることを許してないんですけど…」
「「「「(理不尽!!)」」」」
しゃべることすら、自分に決定権があるというような舞美の発言に、幽助、桑原、ぼたん、飛影は心の中でまったく同じことを思ったが、思っていても、怖くて口にはできなかった。
「でも……そうですか…。私と蔵馬の、デートのあとをつけて…ね…」
気をとりなおしたように静かに言ったその言葉に、幽助達だけではなく、蔵馬すらもドキッとして肝が冷える。
「それって……私と蔵馬の仲をジャマしてるってことでいいのでしょうか?」
幽助達を冷やかな目で見下ろす舞美は、ゴゴゴゴゴという効果音がつくくらいのもので、全員血の気がひいていた。
特に、兄である幽助は、舞美のことをよくわかっており、この中の誰よりもびびっていた。
舞美は気が長い方で、ふだんはめったに怒らない。
そう…。『めったに』というところが、舞美が怒ると怖いところであった。
いわゆるギャップルールというやつだ。
ふだんは、おだやかでのんびりとしている舞美は、ひとたび切れると、手がつけられず、幽助ですら敵わないほどの怒りをみせる。
そして、一度怒った舞美は、こちらが誠意のある対応をして、自分が納得しないかぎりは怒りがおさまらない。
ちょっと怒るくらいなら、一度謝れば許してくれるが、本気で怒った時の舞美の恐ろしさははかりしれないものがあり、声をかけることすらできないものだった。
それが今の舞美である。
その本気の怒りが、一年に一度あるかどうかという舞美は今、せっかくの蔵馬との初デートを尾行され、邪魔された怒りを、幽助、桑原、飛影、ぼたんにぶつけていた。
怒りをぶつけられている四人は、まさにヘビに睨まれたカエル状態で、もう言い訳をするために口を開くことすらままならなかった。
「よくも……私と蔵馬の初デートを……ジャマしてくれましたねっ!!」
幽助達の心境など知らないし、もし知っていたとしても、そんなことは関係ない舞美は、今にも幽助達に襲いかかりそうだった。
「ま、まあまあ舞美、落ちついて」
そこへ、幽助達と同じように、舞美の恐ろしさにびびっていた蔵馬が、舞美をなだめた。
「蔵馬……」
まだ怒りがおさまっていないが、それでも蔵馬を見ると、舞美の顔つきはやわらかくなった。
「今回ばかりは、蔵馬でもジャマしたら許さない」
けど、怒っているところを変になだめられたので、舞美はムッとして蔵馬を睨んだ。
「舞美の気持ちはわかるよ。でもさ、あまり責めると、幽助達がかわいそうっていうかさ…」
「かわいそう?じゃあ、デートをジャマされた私達は、かわいそうじゃないっていうの?」
もとは幽助達が悪いのに、幽助達をかばい、まるで自分の方が悪者だと言われているようで、舞美は気分が悪くなり、相手が蔵馬といえどもそれは許せなかった。
デートの邪魔をされたのは、自分だけでなく、蔵馬もなので、何故かばうのかふしぎだったのもある。
「確かにそれは許せないし、オレも幽助達の姿を見た時は、どうしてやろうかと思ったけど」
「けど?」
「舞美、意外と怒ると怖いからさ。なんていうか……説教というよりも、拷問って感じがするからさ」
まさにその通りだ!と、幽助達は思ったが、話の腰を折るし、何よりもやっぱり舞美が怖いので、何も言わなかった。
「こ、怖い……」
舞美はというと、大好きな蔵馬にはっきりと怖いと言われたので、ショックを隠しきれなかった。
「だから、幽助達にはバツとして、何かおごってもらおう。そして、また今度の日曜日に、仕切り直してデートしようよ」
けど、蔵馬が妥協案を出すと、いつもの顔に戻り、無言でうなずいた。
「ちょっと待て!!なんでオレ達が何かおごることに」
「何か問題でも?」
「ないです…」
自分達そっちのけで、勝手に解決策を出されたので幽助は怒るが、結局舞美の迫力に負けていた。
話がまとまったので、幽助達を責めるのをやめにして、近くのカフェへ行くことした。
そこで舞美は、ヤケ食いするように、いろんなものを頼みまくったので、幽助達の財布は一気にカラになったという。
そして、それから一時間半後、カフェのスウィーツというスウィーツを堪能した舞美は、満足そうな顔で帰り道を歩いていた。
そんな舞美を、隣で蔵馬が微笑ましそうに笑いながら見ていた。
幽助達はというと、どこか疲れきった表情で、舞美と蔵馬の後ろを歩いていた。
「じゃあ、オレはここで」
舞美(と幽助)の家の前に着くと、蔵馬は自分の家に帰ろうとした。
「今日はありがとう、蔵馬。なんだかんだ言っても、今日は楽しかったわ。幽助達にジャマされたことをのぞけば」
「オレもだよ」
にこにこと笑っているが、やはりまだ根にもっているようで、舞美は蔵馬に顔を向けながら、そばにいる幽助達に嫌味を言い、蔵馬も舞美に顔を向けながら同意をした。
「じゃあ舞美、今度またデートしよう」
「うん。あ!幽助、もし今度ジャマしたら」
「しねーよ!!」
もうあんな怖い思いはしたくないので、幽助は大きめの声で答えた。
「それじゃあ、またね舞美」
今の舞美と幽助のやりとりにクスッと笑うと、蔵馬はあいさつをした後、舞美にふれるだけのキスをした。
この蔵馬の行動に、舞美は顔を真っ赤にし、ぼたんは野次馬根性で楽しそうに笑っており、幽助、飛影、桑原は、怒りとショックで顔をひきつらせた。
蔵馬が全員の前でキスしたのは、幽助達へのみせつけと、牽制と、仕返しの意味があった。表には出していないが、せっかくの初デートの邪魔をされたので、蔵馬も怒っていたのだ。
「うん。また今度、改めてデートしようね、蔵馬」
「ああ」
舞美の要望に答えると、蔵馬は自分の家へと帰っていった。
そんな蔵馬の後ろ姿でさえもかっこいいと思った舞美は、頬を赤くして、うっとりとした表情で、蔵馬の姿が見えなくなるまでずっとみつめていた。
そして、舞美の後ろでは、また舞美と蔵馬がデートするというので気にはなるが、もうあんな怖い目にあうのは嫌なので、二度と二人のデートのあとをつけまいと決心している、幽助、桑原、飛影、ぼたんの姿があった。
END
1/2ページ