熱情の雨
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その日、魅真は霊界探偵の仕事に来ていた。
と言っても、魅真は霊界探偵ではなく、霊界探偵の見習いで、幽助について、一緒に霊界探偵の仕事をしているのだった。
今日の任務は、山に住まう、人間を襲う凶悪な妖怪を退治するというもので、幽助の他に、桑原、蔵馬、飛影といった、おなじみのメンバーで任務にあたっていた。
この山に住まう妖怪は何匹かいるので、全員で行動するのではなく、一人一人バラバラになって探し、みつけ次第各個撃破…という形で、任務が行われた。
「はっ!!」
魅真は今、ちょうど妖怪をみつけ、巨大な霊気の塊を手から出して、敵にぶつけた。
妖怪は霊気の塊にふれると、悲鳴をあげて消滅した。
そして、妖怪が消滅すると、魅真はスカートのポケットから、霊界コンパクトを出して、コンパクトを開いた。
《おう、魅真か。そっちはどうだ》
開くと幽助が出て、魅真に状況を聞いてきた。
「私は2匹倒したよ。そっちは?」
《こっちは3匹退治した。桑原は1匹、蔵馬と飛影は2匹だってよ》
「じゃあ、これで全部ね」
《ああ、最初に来た山の入り口に集合するか》
「了解」
魅真が返事をすると、コンパクトの画面からは幽助の顔が消えた。
それは、幽助が霊界コンパクトを閉じたということなので、魅真もコンパクトを閉じると、コンパクトをスカートのポケットにしまい、集合場所に向かおうとした。
「ん?」
だがその時、どこかで猫の声がしたのに気がついた。
「猫?」
鳴き声はするのに、どこにも姿が見当たらないので、どこにいるのかと、あたりを見回す。
耳をすましてみると崖の方から声がしたので、そちらの方へ歩いていった。
「あっ」
崖の下を見てみると、そこには、平たくなってて降りられる場所に猫がいて、助けを求めて必死に鳴いていた。
もとから必死さはあったが、魅真の姿が見えると、更に必死になって鳴いた。
猫はまだ子供なので、大人の猫のように崖を登る体力も技術もないため、誰かに助けてもらうしか方法はなかったので、必死になって鳴いていたのだ。
「待ってて、今行くから」
足を伸ばせば降りられる場所なので、魅真は猫がいる場所にそっと降りた。
一応降りられるようになってはいるものの、ほとんど身動きがとれないような広さしかないので、魅真は上の部分…自分が降りる前に立っていたところの崖の端につかまって体をささえ、腕を伸ばしてしゃがみこむと、もう片方の手で猫に手を伸ばした。
魅真が手を伸ばすと、猫は助かったというように、魅真の腕につかまる。
猫が自分の腕につかまったのを見ると、ゆっくりと自分のもとに引き寄せて、腕と体で落ちないようにささえると、ゆっくりと起き上がり、まっすぐに立つと、猫を崖の上にのせた。
「よかった」
猫を無事に助けることができたので、魅真はほっとした。
猫も魅真にお礼を言うように鳴き、どこかうれしそうな顔をしていた。
「よし、じゃあ私もあがるか」
魅真は、猫が助かったので、自分も崖の上にあがり、幽助達と合流しようとした。
「!!」
だが、足に力を入れた瞬間、急に足もとが崩れたので、足をささえている感覚がなくなった。
「あっ」
急なことで対処しきれず、魅真は頭からまっさかさまに落ちていった。
「くっ……」
けど、魅真はなんとか受け身をとろうと、空中で体をひねって足を下にして、その下の方にある、崖から出ている木の枝に着地をした。
だが、落ちている勢いで、着地した瞬間に枝が折れてしまったので、失敗に終わった。
再び魅真の体勢は崩れ、まっさかさまに落ちていった。
次はどうしようかと考えていたが、考えている途中で木の上に落ちた。
そして、そのままの勢いで、止まることなく、枝に体を打ちつけながら落ちていった。
「うぐっ」
体のいろんなところをぶつけて落ちていくと、最後に、背中を地面にたたきつけられた。
まっすぐに落ちていたら骨折していたかもしれないし、最悪死んでいたかもしれない。
だが、木の枝にぶつかったおかげで、死なずにすみ、体をたたきつけるだけですんだ。
しかし、木の枝にぶつかったせいで、体のあちこちを痛めたのも、また事実だった。
「いたたた」
体中が痛むが、なんとか立ちあがろうとした。
「いったあーー!!」
けど、足に力を入れた瞬間、足にものすごい激痛が走った。
そのせいで立てなくなり、地面にすわりこんでしまう。
「うわっ、足が腫れあがってる。しかも両足とも……」
痛みの原因を知るべく、くつ下をめくってみると、ひどく腫れていたので、顔をしかめた。
「仕方ない。幽助に迎えに来てもらおう…」
本当は自力で戻ろうと思ったが、足の痛みが尋常ではないのと、その尋常ではない痛みが両足にきたので、助けを呼ぼうと、スカートのポケットに手をつっこんで、霊界コンパクトを取り出した。
「えぇっ!!」
霊界コンパクトを取り出すと、魅真は衝撃を受けた。
「壊れてる……」
それは、霊界コンパクトにひびが入って、壊れていたからだった。
「まさか……今落ちたせいで?」
きっと、木の枝に体をぶつけた時か、地面に背中をぶつけた時に壊れたのだろうということはわかったが、それでも魅真は、念のために動作確認をしようと、コンパクトを開いた。
「…やっぱダメか……」
けど、見た目通りコンパクトは壊れており、うんともすんとも言わなかった。
「どうしよう……」
霊界コンパクトしか連絡手段がないので、コンパクトが壊れてしまっては、助けを呼ぶことができず、魅真は途方に暮れた。
その上、そろそろ日が暮れる頃なので、辺りは段々と赤くなってきていた。
「最悪……」
今はまだ冬だし、山ともなればかなり冷えるので、魅真は落ちこんだ。
「でもまあ、猫だけでも助けることができてよかったかな…」
こうなってしまった原因は、猫を助けたからだが、それでもそのことを後悔しておらず、逆にほっとしていた。
「とりあえず、ここでこうしていてもしょうがないから、少しでも進んで、幽助達と合流するか」
足は痛むが、連絡がとれない今は、ここでじっとしていても始まらないので、自力で動いて、集合場所に行くことにした。
しかし、決意をしたものの、現実はきびしかった。
痛む足をひきずりながら、なんとか集合場所まで行こうとするが、自分がいるのは集合場所とは真逆に位置する場所なので、この使いものにならない足で行くのは困難を極めた。
せめて、足ではなく手ならまだよかった。
けど、足が一番痛む上に、背中を中心とした体中が痛み、手はなんともないが、腕は枝にぶつけたせいで痛むので、それらのことでストレスを感じているのもあり、本当に、少しずつしか進めなかった。
「飛影が都合よく、邪眼を使っててくれないかな…。そうしたら、飛影結構優しいから、とんできてくれるかもしれないのに」
歩き始めた時よりも、少し空が暗くなりかけてきているので、焦った魅真は、自分の願望を口にする。
しかし、飛影はそこまで頻繁に邪眼は使わないので、可能性は0に近いだろうと暗い顔をした。
けど、たとえどんな状況でも進まなきゃいけないので、魅真はとにかく、気力と根性で足を動かした。
だが、歩き出してから1時間経った頃…。
「ダ、ダメだ……」
なんとかがんばって歩いていたが、魅真は足の痛みが増してきたので、地面にすわりこんでしまった。
そして、再度くつ下をめくり、持っていたキーホルダー型のペンライトをかざしてみると、赤紫色に変色していた。
先程見た時はそうなっていなかったのに、くつ下の下の部分が、両足とも全体的に変色していたので、気持ちが沈んでしまう。
けど、それでも助けが来ない以上は、自分から行く以外に方法はないので、仕方なく無理矢理立ちあがると、無心になって足を動かした。
しかし、それからまたしばらくの間歩いていたが、30分ほどで限界がきてしまった。
もうこれ以上は無理だと思った魅真は、辺りも暗くなってしまったし、動くのは危険だと判断し、近くにある木まで移動すると、木の根元にすわりこんだ。
「はあ……」
今のこの状況に、魅真は深いため息をついた。
足は痛むし、霊界コンパクトは壊れてるし、誰もいないし、空は暗くなっているので、段々と絶望的になってきたのだ。
魅真は今の表情をかくすように、ひざに顔をうずめた。
その時、木がゆれる音がした。
明らかに自然の音ではないので、魅真はひざにうめた顔をあげて、辺りを警戒する。
「魅真…」
「蔵馬」
最初は、まだ他にも妖怪がいるか、この山の動物かと思っていたが、蔵馬だったので、魅真は目を丸くして驚いた。
「蔵馬、どうしてここに?」
「1時間半前に任務は完了して、集合場所に行ったんだけど、いつまで経っても魅真が来ないから、みんなで探しに行ったんだ」
「そうなの?ありがとう」
蔵馬が来たことと、みんなが探してくれていたので、魅真はほっとした。
「それで……魅真は、どうして戻ってこなかったの?」
「あ…ははは…。実は、敵を倒したまではよかったんだけど、戻ろうとした時に、崖の下から子猫の鳴き声がしているのに気がついて、見てみたら、降りられる場所に子猫がいたから、助けるために降りたんだ。でも、子猫を助けたのはいいんだけど、自分も登ろうとしたら崖が崩れて、誤って落ちてしまって……。
それで、もといた場所から遠く離れてしまったけど、みんなと合流しようと、集合場所に向かってたの」
今度は質問されたので、魅真はこうなった経緯を、苦笑いを浮かべながら説明した。
「そうか。でもまあ、無事でよかったよ」
「……ご迷惑をおかけしました…」
「いいよ。無事にみつかったことだしね。じゃあ行こうか」
「うん……… !!」
返事をしながら、その場を立ちあがろうとした時、足に痛みが走ったので、半分立ったところで崩れ落ち、またすわってしまう。
「どうしたの?」
「あ……いや……。実は、崖から落ちた時、木の上に落ちたのはいいんだけど、枝にずいぶんと体を打ちつけてしまって、足をひねったみたいで…」
「どれ…」
説明されると、蔵馬は魅真の前にしゃがみ、タネを取り出すと、下に落とした。
下に落ちるとタネは発芽し、あっという間に成長した。
それはアカル草で、魅真の隣に落ちたアカル草は、魅真と蔵馬を照らした。
「これは……相当ひどいね。これじゃあ歩くのは無理だ。ひょっとして、今木の根元にすわっていたのも…」
「その通りです」
「無理しちゃダメじゃないか。こんな足で」
「でも、霊界コンパクトも壊れちゃったから、連絡もとれないし…。蔵馬達が探してくれているかどうかもわからなかったから…」
魅真が、自分が無理していた理由を話すと、蔵馬は小さくため息をつく。
そして、アカル草をタネに戻すと、一度立ちあがり、魅真に背中を向けると再びしゃがみこんだ。
「ほら」
「へ?」
背中を向けると、手も後ろに向けたので、魅真はどういうことかと疑問に思った。
「おぶってあげるよ。歩けないんだろ?」
「え?でも……」
どうやら、蔵馬は魅真を背負って、集合場所に連れていってくれるつもりのようだが、魅真は申し訳なさで、遠慮してしまっていた。
「いいから。これ以上無理しちゃダメだし、みんなも待ってるよ。オレなら心配ないから、早く」
「え……う、うん……。それじゃあ……」
蔵馬に説得させられると、まだ少し遠慮していたが、魅真は蔵馬の背中に密着すると、首に腕をまわした。
蔵馬は、魅真が落ちないように、自分の首に腕をまわしたのを確認すると、魅真の足の裏に手をもってきてささえ、その場を立ちあがる。
「じゃあ行くよ。しっかりつかまってて」
「う、うん……」
魅真をおぶると、蔵馬は山道を歩き出した。
蔵馬が魅真をおぶって歩き出して、30分が経過した。
辺りは暗く、周りに何があるのか確認しづらい状況だったが、蔵馬は妖怪なので、今の状況はものともしていなかった。
一方魅真は、顔を赤くしていた。
それは、蔵馬におぶってもらっているからだった。
男の子におんぶしてもらってはずかしい…とかではなく、単純に、蔵馬におぶってもらってるので緊張しているだけだった。
蔵馬の端整な顔が自分の顔の隣にあり、体が蔵馬の背中に密着し、蔵馬の体温を服越しにだが感じとっている。バラのムチを武器にしているからか、バラの良い香りがほのかに香り、綺麗な髪の毛が頬をくすぐる。魅真はそれだけで、顔を赤くし、ドキドキしていた。
魅真は、この時間が止まって、永遠になればいいのに…とさえ思っていた。
「あ……」
その時、頬に微かに冷たいものがあたった。
「雨……」
強くはないが、わずかに雨がふってきたのだ。
「強くならないうちに戻るか、どこかで休憩した方がいいな」
山の天気は変わりやすく、いつ大降りになるかわからないので、蔵馬は早足になった。
「あ…」
休憩するといっても、こんな山の中では、洞窟をみつけるか、木の下くらいしかないので、どうしようかと思っていると、少し進んだ先に山小屋をみつけた。
「ちょうどいい。あそこで休憩していこう」
すごくタイミングよく、おあつらえむきに山小屋を発見したので、蔵馬はそちらに向かっていった。
蔵馬は山小屋の扉の前まで来ると、器用にも、魅真をおんぶしながら、指で扉のとっての部分に指をひっかけて開けた。
扉を開けると中に入り、魅真を床にすわらせると、電気のスイッチを探した。
スイッチは扉の横にあったので、難なくみつかり、スイッチを押すと、小屋の中が明るくなった。
照らされて見えた小屋は、あまり使われていないのか、おせじにも綺麗とは言いがたいものであり、雨風をしのげればいいといった感じのものだった。
けど、この際ぜいたくは言ってられないし、屋根があって休めるところがあるだけでも、今はありがたかった。
蔵馬は照明をつけると、くつをぬいで中にあがり、魅真の背中とひざの裏に手をまわして抱きあげると、魅真を部屋の真ん中にある暖炉の前まで移動した。
いわゆるお姫様だっこというのをされているので、魅真はそれだけで顔を赤くした。
そんな魅真の心情を知ってか知らずか、蔵馬は部屋のすみに置いてある薪の前まで行くと、薪をいくつかとり、暖炉の中に入れると、薪の隣に置いてあったマッチで、薪に火をつけた。
火がついた薪は、少しずつ燃えていくと次第に大きくなっていき、二人の体をあたためた。
「さて……」
薪が燃えると、蔵馬は口を開き、魅真の方に顔を向けた。
「魅真」
「何?」
「服をぬいでくれ」
「へっ……。え…えぇええっ!!」
いきなりとんでもないことを言われたので、言われた内容と、まさか蔵馬がそんなことを言うとは思わなかったのとで、魅真は顔を真っ赤にした。
「大丈夫だよ。何もやましいことは考えていない。ケガの手当てをするだけだ」
けど、今の発言に他意はなかったので、魅真は別の意味ではずかしくなり、顔を赤くする。
「で、でも……。ケガをしてるのは足だけなのに、なんで服を?」
単純に疑問に思ったのと、やはり、男性に自分の裸を見られるのは抵抗があるので、質問をした。
「さっき、枝に体を打ちつけたって言ってただろ?だから、体もケガしてるんじゃないかって思って」
「そ、そう……」
理由はまっとうなのだが、いくら医療行為とはいえはずかしいので、魅真は戸惑った。
「オレの言ってること、理解してくれた?」
「はい」
「じゃあ、早くぬいで」
「あ…いや…でも、やっぱり……。別に……体を打っただけだから、大丈夫だと思うんだ」
「ダメだよ。ちょっとしたケガが命とりになることもある。足があんなに腫れあがって変色するってことは、ぶつけた体もそうなってる可能性が高いし、手当てをするなら早い方がいいからね。放っておいて、重症化したら大変だし」
「ぅ………」
蔵馬の正論に、魅真は何も言えなくなり、仕方なしに服をぬいだ。
「あ、あとスカートもぬいでね」
着ている服をぬぐと、とどめをさすようなことを言われ、魅真は更に戸惑うが、自分が何か言っても、結局また説得させられるだけだと思ったので、渋々スカートもぬいだ。
さすがに下着だけはとることはできなかったので、そのままだったが、蔵馬は何も言わずに魅真の背中にまわった。
何も言われなかったことにほっとしていると、突然背中に、ひんやりとしたものを感じた。
「な、何?」
「だから、ケガの手当てだよ。今薬草をぬってる。
それにしても、これはひどいな。よく今まで、こんな状態で歩いてたね」
「ど、どんな状態?」
「体の至るところが赤紫色に変色したり、青紫に変色したりしてる。背中は特にひどいよ。部分じゃなくて、全体が赤紫色だ」
体で一番痛んだのは、地面にたたきつけられた背中だったので、納得していた。
「まったく…無茶して…」
そう言った時の蔵馬は、どこか怒っているようにも感じた。
「ごめんなさい…」
そんな蔵馬の雰囲気を感じとった魅真は、小さくなって謝った。
数分経つと背中の手当ては終わり、今度は腕、腕が終わるとお腹、お腹が終わると太もも、太ももが終わると、最後に一番ひどくなっている足首の手当てをした。
「これでよし。さ、もう服を着ていいよ」
「う、うん…。ありがとう、蔵馬」
「どういたしまして」
魅真が手当てのお礼を言うと、蔵馬はにっこりと笑った。
そして、お礼を言うと、魅真は服を着始める。
「(それにしても、手当てのためとはいえ、やっぱ蔵馬の前で裸になるのははずかしいや。蔵馬が無表情だったから余計に…。無表情じゃなかったら、それはそれで、いろんな意味で嫌だけど…。それに、医療行為ってのはわかってるんだけど、どうしても意識しちゃう)」
魅真は服を着ると、スカートとくつ下をはき、蔵馬の隣にすわった。
「しばらく無理は厳禁だよ。君はすぐに無茶をするから、なるべく安静にしててね。無理さえしなければ、1日で治るから」
「1日!?」
この感じでいくと、少なくとも一ヵ月はかかりそうだが、たったの1日で治ってしまうようなので、魅真は驚いた。
「魔界の薬草だからね、よく効くよ。でも、治るまでは、あまり動いちゃダメだからね」
「わ、わかった」
きっと蔵馬は、どんな状態でも、どんな状況でも、自分はすぐに動きまわるのがわかっているので、こう言ってるのだとわかった魅真は、素直に返事をした。
あとは、何を言っても、先程のように、説得させられるだけなのがわかっているのもあった。
「改めて、本当にありがとう蔵馬。何から何まで」
「いいよ、別に。魅真のためだからね」
「え…」
何やら意味深な返事なので、それだけでも魅真は顔を赤くする。
「…っくしゅん」
顔を赤くしていると、突然体が冷え、魅真は小さなくしゃみをした。
「大丈夫?」
「うん、少し体が冷えただけだから。火にあたってるから、前はあったかいけど、背中は冷たくて…」
「雨の音がだいぶ大きくなってる。かなり強く降ってるな」
屋根や地面に落ちる雨の音が、いつの間にか強くなっているので、冷えたのはそのせいだろうと、蔵馬は理解した。
「魅真、これを着て」
「え?」
蔵馬は制服の上着をぬぐと、それを魅真に差し出した。
「ダメだよ。そんなことしたら、蔵馬の体が冷えちゃう」
シャツ一枚だけという、見るからに寒そうな格好になった蔵馬を見て、魅真はあわてて断る。
「いいから着てなよ。オレは平気だから」
これ以上、何を言っても埒が明かないと思った蔵馬は、強制的に、魅真の肩に上着をはおらせた。
「あ……りがと……」
強制的にだが、上着を貸してもらったので、魅真はお礼を言う。
「どういたしまして」
魅真のお礼に、蔵馬はにこっと笑った。
それだけで、魅真はドキッとした。
しかも、今は蔵馬と二人っきりなので、余計にドキドキしていた。
「あ……雨……やまないね」
「そうだね」
「みんな、どうしてるかな?」
「…さあ…。この雨だから、どこかで雨宿りでもしてるんじゃないかな」
「そっか」
そのドキドキをまぎらわせるために、適当に話をしてみるが、あまり続かなかった。
「ひ…飛影が、今ここにいてくれたらよかったかな」
「え……?」
「あ、ほら。飛影って火炎術者だから、すぐに火が出せて便利そうじゃない?部屋があったかくなりそうだし。それに、邪眼もあるしさ。都合よく私達をみつけてくれないかな」
けど、それでもなんとか話のネタをみつけて適当に話すが、蔵馬は魅真が飛影の話をすると、むっとしてしまった。
正確には、他の三人がどうしてるかを聞いてから…だが…。
「…飛影なんていなくても大丈夫だよ」
「え?…わっ」
何か、蔵馬の機嫌をそこねるようなことを言ってしまったのかと不安になっていると、蔵馬がいつもより低めの声でしゃべり、しゃべったかと思うと、急に魅真を抱きよせた。
「ほら、これであったかいだろ?飛影がいなくてもさ」
「蔵馬…?」
突然の抱擁に、魅真はそれだけで顔を真っ赤にした。
どこか怒ってるようにも見えるが、それでも自分を優しく包みこむ蔵馬に、魅真は顔をあげ、ドキドキしながら蔵馬の名前を呼ぶ。
「オレは……飛影が邪眼で、オレ達をみつけなければいいと思ってる…」
「…ど、どうして?」
「わからない?」
「うん……」
魅真がうなずくと、蔵馬は顔を魅真の耳に近づけた。
蔵馬の顔が近づき、蔵馬の長い髪の毛が自分の顔をなでる。それだけで魅真はドキドキした。
「二人っきりでいられるからだよ」
耳に届いたのは意外な言葉で、魅真は目を大きく開いて固まった。
「え………」
そして、数秒遅れで間のぬけた声を出す。
「あの……蔵馬、それって………」
「さっき……手当てをしている時、魅真の下着姿を見てドキドキした。平静を保つのが大変だったよ。手当てのためだってわかってるし、魅真はそんなつもりでぬいだわけじゃない。ぬいだのだって渋々だ。
わかってるんだ……。わかってるけど、君の下着姿に欲情して、理性がふっとびそうだった」
蔵馬らしくない言葉に、顔を赤くして固まっていると、蔵馬は魅真にキスをしようと、顔を近づけてきた。
「ダメ!!」
魅真は蔵馬の行為を拒絶し、蔵馬の胸を押して自分から離れさせた。
「……なんで…?」
拒絶されても、蔵馬は怒るわけではなく、冷静に理由を聞く。
「だって……まだ付き合っていないから…」
魅真の返答に、蔵馬は一瞬目を丸くすると、すぐにいつもの目になり、クスッと笑った。
「なら…付き合えばいい…」
「へっ」
「それに、まだってことは、オレのことが好きってこと?」
問われても、魅真ははずかしくて何も答えなかった。
質問に答えないが、否定もされていないので、それをイエスと受けとった蔵馬は、魅真の背中に腕をまわし、顔を近づけた。
今度は何も抵抗されないので、蔵馬は魅真に、再びキスをせまる。
だがその時、扉が開く音がしたので、そちらの方を見た。
「おまえら……何やってんだ?」
そこには、幽助、飛影、桑原の三人が立っており、今の二人の状況について幽助が尋ねた。
幽助達三人がやって来たため、キスは未遂に終わるが、今の魅真と蔵馬の体勢で、何をしようとしてたのかわかった幽助と桑原はニヤニヤと笑い、飛影はあきれ顔だった。
さすがに、この状況でこれ以上のことをするわけにはいかず、蔵馬は魅真から離れた。
「何って……それは……」
「魅真が体にひどいケガを負っていたから、手当てをしてたんだよ。雨も降ってきたから、休憩がてら、運よくみつけたこの小屋で休むことにしたんだ」
やはり答えにくいので、魅真が口をもごもごさせていると、蔵馬はあっさりと答えた。
けど、それはやましいことが何ひとつない正当な理由だったので、魅真はほっとする。
「でも、手当てのために、魅真に下着姿になってもらったら、理性がふっとんでしまってね。ちょっと魅真にせまってただけだよ」
けど、魅真の安心した心を裏切るかのように、蔵馬はとんでもない爆弾を落とした。
「ほォ~~~、それでその体勢かよ」
「おめーら、結構大胆だな」
蔵馬が爆弾を落とすと、幽助と桑原は二人をからかった。
「ち、ちが…」
魅真が否定しようとした時、突然桑原の制服の中がもぞもぞと動いた。
そして動いた後、えりの部分から、鳴き声とともに猫が現れた。
「あっ、そのこ!!」
それは、魅真が助けた猫だった。
「ああ、こいつか?魅真を探してる時に会ったんだよ。親猫もいねェし、このままじゃやられちまうだろうから連れてきたんだ。へへっ、かわいいだろこいつ」
「よかった…。ちゃんと無事だったんだ」
「「え?」」
こうなってしまった事情を聞いた蔵馬は、きっとこの猫が、魅真が助けた猫だろうとわかったが、幽助と桑原は、何がなんだかわけがわからず、飛影は無関心で、そこに立っているだけだった。
その後、事情を話してもらった幽助と桑原は、魅真が言っていたことに納得した。
数分後に雨がやんだが、辺りはもう暗くなっているので、この小屋で一晩過ごした。
そして、次の日に夜が明けて、周りが明るくなると、全員山小屋を出て帰っていった。もちろん魅真は、安静にしてないといけないので、蔵馬がおんぶをしていった。
帰り道、蔵馬におぶられている魅真は、ふと蔵馬の背中を見ると、それだけでとても愛しくなり、うれしそうな顔をする。
猫はその後、桑原の家にひきとられ、魅真と蔵馬の二人は付き合うことになったのだった。
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