第三話 気になる相手




あれから蔵馬は、またずっと考えこんでいた。

少女が屋敷を襲った理由は、昨日本人から直接聞いたのでわかったが、何故こんなまわりくどいことをしているのか、不思議でならなかったのだ。



「蔵馬、いるか!?」


考え事をしていると、また黄泉が、ノックをせずに蔵馬の部屋に入ってきた。



「なんだ?」

「またパープル・アイが出たんだとよ」

「何!?」


昨日と同じ内容の報告に、蔵馬は過剰に反応を示した。



「しかも、この前オレ達が盗みに入った屋敷や一昨日侵入したとことは、また別の屋敷らしいぜ。しかも、昨日と同様に、侵入はされたものの、多少の兵が殺されたのみで、あとは被害らしい被害は何もなかったらしい」


黄泉の報告に、蔵馬は更に頭を悩ませる。

何故パープル・アイは、また一昨日と同じ行動をとったのか…と…。

昨日少女は、自分の質問に対して、宝を盗る以外の目的があり、そのために必要な行動だったと答えたので、多少は解決した。

けど、また同じことを繰り返していたので、何故同じことを繰り返すのかという疑問や、本当の目的は何か、盗賊なのに、何故宝を盗る以外の目的で金持ちの屋敷を襲ったのかという疑問が生じ、考えこんでいた。



「………い……おい…!!蔵馬!!」


考えこんでいると、突然黄泉が、怒鳴るように声をかけてきたので、覚醒して黄泉に目を向ける。



「おまえ、大丈夫か?一昨日から、ずっとぼーっとしっぱなしじゃねェか」

「あ…いや…なんでもない。大丈夫だ」

「本当かよ?」

「ああ。ちょっと出てくる」

「え?あ、おい!!」


蔵馬は黄泉の返事を待たずに、また外へ出ていった。





第三話 気になる相手






あの日から蔵馬は、外出をすることが多くなった。

今までも外出することはあったが、偵察だったり仕事の準備だったり、そういった仕事に関することばかりだった。

けど、今回は仕事に関係することではなく、少女に関係することだった。

ずっと少女に会いに行っていたのだ。

蔵馬が来るたびに、少女は「またか…」とつぶやき、軽く息を吐いていた。

少女は、追い返したりはしないが、歓迎もしていなかった。

仕事の邪魔をする気配もないし、実際邪魔をしていなかったから放っておいた。


たまに蔵馬から



「盗賊なのに、何故宝を盗る以外の目的で、金持ちの屋敷に侵入したのか?」


「真の目的は何か?」


など、自分が疑問に思っていたことを質問されていたが、少女はこの前のように



「答える義理はない」


の一言で、ばっさりと切ってすてた。


かなり無愛想で、自分の思っている答えは得られなかったが、それでも蔵馬はどこかうれしさを感じており、微かに口もとに笑みを浮かべていた。

あの、生きる伝説とも言われているパープル・アイの近くにいる…とか、普通に話している…とか、そういった優越感などではなく、ただ単にうれしかったのだ。

そんな蔵馬を、少女は毎回ふしぎそうに見ていた。

自分を見て、怖がったり、利用しようとたくらんだりする気配もないし、それどころか、自ら近づいてきて、自分に笑みを向けているのだから。

自ら近づき、笑みを向けるのは、利用しようとたくらんでいて、油断させるつもりではないかとも考えられるが、少女は長年の経験で、「こいつ(蔵馬)はそうではない」と感じていた。

なので、特に追いはらったりもせず、そのままにしておいたのだ。


蔵馬は、少女に会いに行って、質問をする以外は何もしなかった。

冷たい言葉が返ってきても、それでもどこか満足そうにしていた。

その蔵馬の行動が、少女にはとても不可解だった。

蔵馬は朝に来て、夕方に帰っていく。

質問する以外は、特に何もしない。

質問する時間など、朝から夕方までの長い時間の間ではほんの一瞬なので、ほとんどを、自分のそばにいるという形で過ごしているからである。

どんなに冷たくしても、自分に会いに来て、話しかけてくる。

そんなヤツは、今まで会ったことがなかった。

少女はふしぎな気持ちになっていた。

何故、同じ種族で同業者のこの男は、自分を恐れることなく、自ら近づいてきて、普通に話しかけ、利用しようとたくらんだりしないのだろうか…と…。

そして、蔵馬と出会う前まで感じていた不快感を、次第に、少しずつではあるが、あまり感じなくなっていった。

自分が他人を嫌いなのは自覚しているというのに、何故そこまで感じていないのかと、ふしぎに思っていた。

少女の「ふしぎに思う感情」は尽きなかった。

なので、いつも帰り際に蔵馬が、次はどこにいる?と聞いてきたので、少女はふしぎに思いながらも答えておいた。

仕事の邪魔をしないなら、別にそばにいても構わない…。そう思っていたのだ。

何よりも……そのふしぎな感情の正体を知りたい。そう思っていた。










そして、蔵馬が少女に会いに行く日が続いてから10日後。

今日も蔵馬は、また少女に会いに行っていた。

しかし、今日は少女に会えなかった。


いると言っていたが、絶対に、ずっとその場所にいるとは言っていなかったし、会う約束をしているわけではなかったので、それも仕方ないのかと思っていたが、やはり残念な気持ちでいっぱいになっていた。


けど、蔵馬はずっと待っていた。

夕方まで、ずっと…。


だが、どんなに待っても帰ってこないので、蔵馬はこの日はもう諦めて、アジトへ戻っていった。







同じ頃、アジトでは、部下達が蔵馬の話をしていた。

それは、仕事(盗み)に関する話だった。

最近仕事がまったくない上に、仕事をもってくる気配も、それに関する話もないので、全員不審に思っていたのである。

それだけでなく、蔵馬が一日中でかけているので、本当に国を建てる気があるのか?蔵馬を頭領にしておいていいのか?あの頭領についていって大丈夫か?など、疑心暗鬼になっていたのだ。

中には、副頭領の黄泉に相談する者もおり、黄泉は、何故蔵馬がずっと仕事をもってこないのかは自分でもよくわからなかったが、団に支障がでない程度に、適当に受け答えしておいた。





そして、夕方……。

とは言っても、日がだいぶ落ちた、ほぼ夜に近い頃、蔵馬はアジトに帰ってきた。

アジトに帰ってくると、蔵馬はまっすぐに自分の部屋へ向かっていった。

途中、すれ違った部下達から、不敬の念を抱いたような、鋭い目で見られていたが、今の蔵馬はそれどころではなかった。

今日は少女に全然会えなかったので、気落ちしていたのだ。



「よォ、蔵馬」


自分の部屋の前まで来ると、そこには黄泉が腕組みをして立っていた。



「黄泉か…。何か用か?」

「…何か用か?じゃねェよ」


黄泉は組んでいた腕をほどいてまっすぐ下におろすと、蔵馬のもとへ歩いていく。



「蔵馬、おまえ……最近、どこに…何しに行ってんだ?」


いきなり核心をつく質問に、蔵馬は一瞬固まるが、すぐに覚醒して、冷静な顔で黄泉を見据えた。



「オレがどこに行こうと、お前に関係があるのか?」


質問に質問で返すと、黄泉はこれ見よがしに、深いため息をついた。



「お前なァ……最近、部下達の間で、すっげェ評判わりィぞ」

「……………」

「最近、全然仕事をもってこないし、朝から夕方までずっとでかけてるし。でかけてるのは、仕事に関係することかと思いきや、どうやらそうでもないっぽいしな。部下達が不審がってたぜ。蔵馬は、本当に国を建てる気があるのか?ってな」


黄泉は、部下達に聞いたことや、部下達がさわいでいたことをそのまま伝えるが、それでも蔵馬は軽く眉を動かすのみで、大した反応も示さなかった。



「何しに行ってるのかは知らねェが、そろそろ仕事をもって来た方がいいんじゃねェのか?いくら妖狐蔵馬が頭領とはいえ、このままじゃ、みんなどこか別のとこに行っちまうぞ」

「…別のところに行きたいのなら、そうすればいい。魔界は強さがすべて。オレを見限って、別の強い奴につくのもよし。個人で盗賊をするのもよし。好きにすればいいさ。そうなったらなったで、オレは全然かまわん。代わりなど、いくらでもいるからな」


もっと危機感をもてという意味で黄泉は言ったのに、蔵馬の口から出たのは、なんとも冷たいものだった。



「お前……本当に最近、外に何しに行ってんだよ?夕方には帰ってくるくらいだから、そんなに遠いとこには行ってないんだろうけど…。でも、外に頻繁に行ってるわりには、仕事をもってくる気配もないし。一体、どこで何してんだよ?」

「……ここから、半径10~80kmほど離れたところに行ってる。場所は毎回違う。特に何もしていない」

「はァ!?なんだそりゃ?毎回違うところに行って、何もせず、ただぼーっとして帰ってくるってのか?」

「特に何もしていないが、相手がいる。たまに話しかけても、そっけない返事が返ってくるだけだがな」

「相手だァ?一体誰だよ?」

「…さあな」


ようやく答えてくれたと思ったら、また曖昧に返されたので、黄泉はムッとした。

答えてくれないのなら…と思った黄泉は、蔵馬に近づいていくと、蔵馬に鼻を近づけて、ニオイを嗅いだ。



「このニオイ。……女か?」


誰…と特定はできないが、ニオイで性別だけはわかった。蔵馬ほどではないが、黄泉もそれなりに鼻がきくのだった。

それだけでもあてられると、蔵馬の目はピクリと動く。

そして、今までの蔵馬の発言。蔵馬の服にしみついていた女のニオイ。それらを考えると、黄泉はある答えにいきついた。



「おい蔵馬…。お前が最近会ってる相手ってのは、ひょっとして、パープル・アイなんじゃねェのか?」


問われると、蔵馬は口を閉ざし、何も答えなかった。



「やっぱりか…」


けど、今の沈黙が肯定の証なので、黄泉は自分が言ったことが図星だとわかると、ため息をついた。



「…何故……わかった…?」

「オレだってバカじゃねェ。さっきの蔵馬の発言と、女のニオイが蔵馬にしみついてるのを考えりゃ、大体わかるさ」


女と言っても、化粧や香水のニオイがしなかったので、娼婦の類ではないことがわかり、そこから割り出すと、最近会った女といえばあの少女しかいない(会ったということを、以前蔵馬に聞いた)ので、その結論に至ったのである。

黄泉は、どちらかというと頭が悪い方なので、少しばかりみくびっていたと、蔵馬は心の中で舌打ちをした。



「蔵馬、なんでだよ?」

「何がだ?」

「オレがこの前、パープル・アイと戦ってみたいって言ったら、やめておけって言ってたじゃねェか!!オレが、パープル・アイと戦いたくないのか?って聞いたら、あたり前だって言ってただろ。実力の差はわかりきってるって…。パープル・アイに…殺されても知らんぞ…って、オレに忠告したのは蔵馬、お前じゃねーかよ!!矛盾しすぎてんじゃねーか!!
それなのに、なんでそんなことを言ってたお前が、パープル・アイに自ら近づいてんだよ!!殺されちまうかもしれねーんだぞ!?」


今黄泉が自分で言っていることも、この前言っていたこととは矛盾しているが、黄泉はそのことに気づいていなかった。

蔵馬は気づいていたが、何か言うと面倒なことになるかもしれないので、蔵馬はそこにはつっこまなかった。



「パープル・アイが何故オレを殺さないのか、それはオレにもわからん…。だが、現にオレは生きている」

「だからって……次はどうなるかわかんねーだろ。もうやめとけって。お前は運がよかっただけなんだ。パープル・アイの近くにいる以外、何もしてないんだったら、会いに行ったって意味ねーじゃねーか」

「……………」

「それとも…パープル・アイに近づき、油断させて、オレ達が国を建てるために利用したり、倒して名をあげようとしてんのか?」

「いや……」

「じゃあ、なんなんだよ!?パープル・アイに近づく理由ってのは!!」


まったくの見当違いの上、盗賊団のことを考えて近づいているわけではないので、少々苛立った黄泉は、声をあらげて蔵馬に問う。



「ただの……興味本位だ…」


問うと、蔵馬は意外なほどあっさりと答えた。



「あァ!?」


返ってきた答えに、ますますわけがわからないと黄泉はうなり声をあげた。

蔵馬はというと、もう質問には答えたので、黄泉の横をすりぬけて、その先にある自分の部屋へと歩いていく。



「オイ!!蔵馬!!これだけは、忠告しておくぜ!!」


蔵馬が部屋のドアのぶに手をかけると、黄泉が叫んできたので、蔵馬は手の動きを止め、のぶに手をかけたまま、黄泉の言葉を待った。



「これ以上、団をないがしろにするようなことはするな!!本当に、部下達がいなくなって、敵にまわっても知らねェぞ!!」


忠告すると、黄泉はそこから去っていき、蔵馬も自分の部屋へ静かに入っていった。








次の日…。

少女は、ある城下町に来ていた。



「(ここが……あいつの国か…)」


そこは、この前から襲っている屋敷の主の国であった。

少女はその城下町の探索に来ていたのである。

もちろん、国全体に顔が知られている可能性は充分にあるので、人間の姿に化けており、服も変えていた。

魔界には、人間と同じ姿の妖怪もいるし、妖力そのものがなくなってるわけではないので、いろいろな意味で、誰も少女のことを疑う者はいなかった。



「(さっそく調べるか)」


何故少女が、こんなところにまでやって来たかというと、簡単に言えば、この国のことを知るためであった。


この国の広さ。

この国の地理。

街の状態。

家屋や他の建物などの配置と間取り。

城の大きさと間取り。

国民や、城の家臣や使用人、兵士の人数。

国王や家臣、使用人、国民に戦闘能力があるかどうか。

あるとしたら、それはどのくらいのレベルなのか。

どんな能力を持っているのか?


それらのことを知るため、情報収集のために、旅人をよそおってこの国に来ていたのである。






その頃、蔵馬は久しぶりに仕事をもってきた。


あの時黄泉に、部下達が別のところに行きたいのなら、そうすればいいとは言ったものの、蔵馬は賢いので、決して先走ったり、感情だけで判断をしたりはしないので、これ以上不審に思われたり、団が解散しないためにも、仕事をもってきたのである。

けど、本当は少女のところに行きたくてたまらなかった。

しかし、これ以上団を放っておくわけにはいかないので、ぐっとガマンをしていた。

と言っても、そう思ってるのは蔵馬だけで、少女は別になんとも思ってはいなかった。

それは、蔵馬自身もわかっていた。

だけど、たとえ少女がどう思っていようとも、そんなことは関係なかった。

ただ、「会いたい」。

その気持ちだけが、蔵馬の中にあった。





それから、蔵馬は仕事の合間をぬって、毎日少女を探した。

今まで会っていた場所。

その周辺。

そして、この前忍びこんだ屋敷の主が所有している屋敷の周辺など、とにかくいろんな場所を探しまわった。

最近は、少女の活動も聞かないが、それでも、何度も執拗にあの主の屋敷を襲うにはわけがあり、その屋敷の主は、まだ重大な被害にあっていないので、まだこの近辺にいる可能性はあるので、ずっと探していたのだ。

しかし、少女はその主の城下町に行っているので、会うどころか、ニオイや妖気を感じとることすらできなかった。

一週間も会えず、蔵馬はがっかりしていた。



「お頭、最近元気ねェな」

「ああ、一体どうしたっていうんだ?」


どこか元気がない蔵馬を見て、部下達はふしぎに思っていた。

いつも冷静沈着。冷酷で無情。冷徹で表情を変えることなどほとんどない蔵馬が、ここ最近はずっとため息をつき、心ここにあらずといった感じで、どこか悲しそうな…寂しそうな顔をしていたからだ。






そして、蔵馬が少女に会えなくなってから、10日が過ぎた。


蔵馬はこの日、場所を変え、崖の近くの森の中を探していた。

すると蔵馬は、ひとつの妖気を感じとった。

それは、あの少女の妖気であった。

蔵馬は急いで妖気を感じた方へ歩いて行くと、その森の中の、開けた場所にある岩の上に少女がすわっており、妖気のコントロールの修業を行っていた。

少女の周りには、少女を取り巻くようにして風が吹いており、少女はそれだけ集中しているのか、目をつむって動かなかった。

ようやくみつけることができたので、蔵馬はうれしそうにしながら、少女に声をかけようと、一歩歩き出した。



「何か用か?」


すると、一歩しか歩いていないのに、少女に背中を向けられたまま声をかけられた。



「また貴様か…。なんだ?」

「何故……また振り返る前に、オレが来たことがわかった?」

「わざわざ、そんなことを聞きに来たのか?」

「いや……そうじゃない。今、ふと疑問に思っただけだ…」


蔵馬に疑問をぶつけられると、少女は軽く息をはいた。



「どんなに気配を断っていても、行動を起こす時、空気にふれずには行えない。貴様が一歩歩いただけで風が揺れ動く。それだけで私には、貴様の行動が十分にわかる」


息をはくと、めずらしく蔵馬の疑問に答えた。

しかもそれは、結構ハイレベルな答え(内容)だった。



「うおおおおおっ」

「パープル・アイ!!覚悟ぉおお!!」


その時、二人の周りから、たくさんの兵士が襲いかかってきた。

二人と言っても、この兵士達は、今少女が調べている国の主につかえる兵士なので、正確には少女だけを狙っていた。

たまたま、少女と蔵馬が一緒にいるので、そういう風に見えるだけだった。



「身のほどしらずが…!!」


忌々しそうに兵士を睨むと、少女は小さな竜巻を、衝撃波を撃つように放った。

そこにいた兵士の何人かは、断末魔の悲鳴をあげて、一撃で倒される。



「(風の技!?パープル・アイは風使いだったのか。ということは、この前敵がまっぷたつになったのは、風の刃で斬ったからか…)」


蔵馬はようやく、この前少女がどんな力を使って敵を倒したのかがわかり、少女を凝視していた。



「うおおおおっ!!」


その時、蔵馬の後ろから敵が攻撃をしてきたので、蔵馬はバラのムチで相手を難なく倒した。

けど、敵を倒した瞬間、別の敵が蔵馬の横からやって来て、剣を蔵馬にむけて薙ぎはらった。

その攻撃を蔵馬はなんとかよけるが、相手はすぐにまた攻撃してきたので、体勢をくずしてしまう。

そして、その隙を狙って、敵は蔵馬の体を剣で斬った。



「ぐっ…」


見かけによらず、この敵はなかなかに手強かった。

妖狐蔵馬として魔界に名を知られる蔵馬に、手傷を負わせたのだから…。

敵は再び、蔵馬にむけて剣を振り下ろすが、蔵馬は魔界植物の召喚の呪文を唱える。

それにより、魔界のオジギソウが出現し、敵に襲いかかった。

敵は、食われはしないものの、オジギソウにつかまってしまい、そのまま圧迫されて体の骨がくだかれ、再起不能となった。

オジギソウは、今の一体だけでなく複数の個体がおり、他のオジギソウ達も、次々に兵士達に襲いかかっていく。

兵士達は、あっという間にオジギソウにやられてしまい、オジギソウも兵士を倒すとそこからいなくなり、そこに立っているのは、蔵馬と少女だけとなった。

全ての兵士が絶命すると、突然少女が蔵馬のもとに近づいてきて、蔵馬の体に手をあてた。



「お、おい……何を…?」


いきなりのことにびっくりして、何をしているのかを尋ねようとすると、突然蔵馬の体を、やわらかな風が包みこんだ。

風に包まれると、あっという間に先程のケガが治ったので、蔵馬は目を見開いた。



「これは……一体…」

「私の力のひとつで、治癒能力だ」

「何故……オレに…この技を…?」


残酷と言われているパープル・アイが自分のケガを治したので、蔵馬は驚きを隠せずにいた。

問われると、少女は蔵馬の体に手をあてたまま顔をあげた。

少女が顔をあげたことで、自分と少女の顔がかなり近くなったので、蔵馬はドキッとした。



「どうした?」

「え?あ…いや…」


急に固まった蔵馬を不思議に思い、問いかけるが、蔵馬は言葉を濁した。

そんな蔵馬に、少女はますます疑問を抱くが、それ以上追究しようとはしなかった。



「それで…。なんで、オレのケガを治してくれたんだ?」

「あいつらは私の敵。でも、お前が倒した。それでお前に借りができた。だから治した。それだけだ」


借りをつくるのは好まないということはこの前聞いたが、それでも借りができただけで、少女は蔵馬のケガを治した。ただそれだけだった。

けど、あの残酷と言われてるパープル・アイが、理由はどうあれケガを治してくれたので、蔵馬はまた驚きを隠せなかった。



「どうした?」

「いや……やはり貴様は強いと思ってな」

「お前も筋は悪くない」


本当は違うのだが、問われると蔵馬は、適当に誤魔化した。

けど、またしても少女の口からは、信じられない言葉が出てきたので、蔵馬は更に驚いた。



「じゃあな。そろそろ私は行く」

「まっ…待て!」


蔵馬に背を向けて、そこから去ろうとするが、蔵馬に声をかけられたので、足を止め、顔だけ蔵馬の方へ向ける。



「何故……オレを殺さない?」


少女が自分の方へ振り向くと、蔵馬は思っていたことを少女に問う。



「貴様は、あの冷酷な極悪非道の妖怪、パープル・アイ。敵を、いっさいの情け容赦なく殺すと言われてる女だ。それに、貴様はS級妖怪。オレを殺すことなど容易いだろう。
なのに……何故…?」


それは、蔵馬が少女と初めて会った時から、ずっと心に抱いていた疑問であった。



「敵じゃないからだ」

「!?」

「私が殺すのは敵のみ。そうじゃない奴はどっちでもいい。妖気の無駄だからだ。お前は私の敵ではないみたいだからな。そういう奴は、殺す必要がない。だから殺さないでいる。それだけだ」


あまりに意外すぎる答えに、蔵馬は更に驚き、固まる。

極悪にして、残酷で非道とも言われているパープル・アイが、そんな風に考えてるなど、思いもしなかったからだ。

今の言葉で、蔵馬は少女に対するイメージがガラリと変わった。















その夜、蔵馬は自分の部屋で、また少女のことを考えていた。

それは、少女…パープル・アイのイメージが変わったことだった。

周りがそう言ってたというのもあり、蔵馬は、少女には残酷さしかないと思っていた。

その残酷な性格故に、目につくもの全てを殺してしまうのだと…。そう思っていた。

周りがそう言っていたし、少女が残酷、残忍、冷酷、非道、極悪盗賊と言われていたので、蔵馬も先入観でそう思いこんでいた。

だけど、実際はそうではなかった。

ただ単に、ウワサが一人歩きしていただけだったのだ。

もちろん、全てが違うというわけではない。

しかし、実際は自分が思っていたのと違ったので、蔵馬は未だに、信じがたい思いを抱いていた。

何故、少女が自分を殺さないのかという謎は解けたが、それでも変な感じがしていた。




「(パープル・アイ…。出会ってから今まで、あんなに間近で見たことはなかった。
治療をしている時に、体にふれた手がやわらかかった。
戦いに身をおいているが、体つきはとてもしなやかな女性そのものだ。
それに…香をたいているわけでもないのに、いいニオイがした。
化粧をしていないのに、うわさ通りとても美しい)」


そして、先程ケガを治してもらった時のことを思い出していた。

蔵馬は少女のことを考えているうちに、どんどん胸が高鳴っていくが、それがなんなのかは、さっぱりわからなかった。


その様子を、扉の隙間から黄泉が覗いていたのだが、蔵馬は少女のことを考えるのに夢中で気づいていなかった。











次の日、蔵馬はまた少女を探して歩いていた。



「(ん?)」


その時、蔵馬は目の前を、二人の男女が歩いているのを目にした。



「(あれは…………髪の色と目の色と格好がいつもと違う上、狐の耳としっぽがないが、あの妖気は……パープル・アイ…!?)」


男の方は知らないが、女の方は、髪と目の色が茶色で、狐の耳としっぽがなく、人間の姿になっており、服もいつもの魔界装束ではないが、体から発せられる妖気で、蔵馬には少女であるとわかった。

何故人間に化けているかはわからないが、見知らぬ男と一緒に歩いている上、少女の顔がどこか優しげなので、蔵馬は頭に血がのぼった。

そしてカッとなった蔵馬は、勢いのままにとび出して、男を殺した。



「パープル・アイ!!お前…」


男を殺すと、蔵馬はすぐに少女がいる方に顔を向け、怒りの感情をむき出しにしたまま、何かを言おうとした。

だが、少女の顔が、今までにないくらいけわしいものとなっていたので、蔵馬は思わず口を閉ざす。



「貴様……何をしてくれたんだ…」

「は?」


少女は見るからに怒っているが、蔵馬には原因がさっぱりわからなかった。



「せっかく、そいつから色々と情報を聞き出そうと思っていたのに、その前に貴様が殺してしまったから、何も聞けなかったではないか。どうしてくれるんだ!?」


実はその男は、少女が以前探索に行った国の重臣で、情報を聞きだすために色香で惑わしていたのだが、蔵馬が途中で殺して邪魔してしまったために、それが不可能となったので、少女は怒ったのだった。


蔵馬は少女が怒った理由を知るが、それでもむかっときた。

しかしその理由は、自分でもよくわかっていなかった。

蔵馬は、しばらく少女を睨むように見ると、何も言わず、感情にまかせて少女のもとから去って行った。







その日の夜…。



「頭……なんか帰ってきてから機嫌悪いよな」

「何があったんだ?」

「さあな。理由がわかってもわからなくても、近づかない方が身のためだぜ」

「そうだな」


アジトに帰って以来、蔵馬はかなり機嫌が悪かったので、部下達は近づけなかった。

ヘタに近づくと、何をされるかわからないからだ。


しかし……



「おい、蔵馬いるか?」


唯一、黄泉だけは蔵馬に近づいていった。



「…なんだ?」

「今度の仕事についてだよ。
ていうか…なんだよ?ずいぶんと機嫌悪いじゃねェか」

「…そんなことはない」

「そんなことあるんだっつーの。お前と何年付き合ってると思ってんだよ。そのくらい見りゃわかるっつーの。
まあ、付き合いが長くなくても、見ればわかるくらいだけどな」

「なんだと?」

「お前、今の自分の顔、鏡で見てみろよ。すっげェ不機嫌で怖いツラしてるぜ」


黄泉に言われて近くの鏡を見てみると、そこには眉間に深くしわをきざんだ、見るからに不機嫌な自分が映っていたので、自分でもびっくりしていた。



「お前さ、まだパープル・アイんとこに通ってんのか?」

「そうだが……それがどうした?」


黄泉の口から少女の名前が出ると、蔵馬はますます不機嫌になる。



「ひょっとして、お前が機嫌が悪い理由って、パープル・アイに恋したからじゃねェの?」


けど、次に出た言葉で固まってしまう。



「…何故…そう思う」

「パープル・アイんとこに行く時や帰ってきた時は、お前はいつも機嫌がいい。いつも、すっげェうれしそうだ。なのに、今日もパープル・アイに会いに行ったっつーのに、帰ってきた時、すっげェ機嫌が悪かったからな。
いつも冷静で理知的で頭のいいお前が、自分よりも強く残酷なパープル・アイを怒らせるようなマネ、自らするわけないかんな。
てことは、蔵馬が怒る原因が何かあったってことだ。
んで、今日はパープル・アイに会いに行く時は機嫌よかったのに、帰ってきた時に機嫌が悪かったってとこを考えると、今日は何か蔵馬が怒るようなことがあった。そしてそれは、パープル・アイに恋してて、それで嫉妬してるんじゃないかと思ってな」


めずらしく頭が働く黄泉にびっくりしたが、同時に昼間のことを思い出して、また不機嫌になった。



「なあなあ、どうなんだよ?実際。パープル・アイって、うわさじゃ、すっげェ美人だっていうじゃねーか。どんな感じの奴なんだよ」


そして、黄泉の興味本位で、再び蔵馬の心に火がつき、ますます不機嫌になる。



「黄泉……今日はもう出ていけ。今は、誰とも会いたくない……」

「へえへえ、わぁーったよ。今は話ができる感じじゃねェしな」


表情も声も、誰が見たり聞いたりしても不機嫌だというのがわかるのだが、黄泉は軽い感じで受け答えし、そこから去って行った。

蔵馬は黄泉がいなくなると、黄泉が言ってた、自分が少女に恋をしている…ということについて、真剣に考えていた。















次の日、蔵馬は少女に会いに行く気になれず、近くの街に出向いた。

次の仕事の準備をするためである。

蔵馬は、前日の夜に黄泉に言われた、自分が少女に恋をしている…ということについて、ずっとずっと考えていた。

しかし、どんなに真剣に考えても、答えは出なかった。

自分にとって他人とは、自分の野望を叶えるための駒でしかなく、他人に愛情をもって接するということがないからだった。

情なんてものはわからない。もちあわせていない。恋愛の意味でなくとも、他人を好きになったことはない。すべて、自分にとって都合のいい手足。

ましてや、恋などわかるはずもない。

確かに、最近は少女のことばかり考え、少女のことを考えるとドキっとすることがある。

けど、それがなんなのかはわからなかった。

少女は、あの生きる伝説。極悪と名高いパープル・アイ。自分よりも強くて到底かなわないが、仲間にすれば、自分の野望に一気に近づく。

だが、少女に対しては、他の者のように、駒として扱おうとは思わなかった。

ただ、自分の隣にいてくれるだけで、心が満たされた…。

明らかに、他の者に対して感じているものとは違う。

少なくとも、「嫌い」ではない。

それだけはわかった。

けど、それが一体どういうことなのかはわからなかったのだ。


わからないまま街をぶらついていると、本屋に寄った。

そこで蔵馬は、古文書や植物の本、心理学の本など、とにかく、いろんな種類の本を手にとった。

この先、何が役にたつかわからないからだ。

植物の本に関しては、自分は植物を扱うので膨大な知識があるが、まだ見ぬ植物があるかもしれないという探究心からだった。

あと、そんなことはあり得ないだろうが、もしもあの少女がケガをしてしまった時、今度は自分が、あの少女の傷を治したい…という思いもあった。

その時の蔵馬は優しい顔をしていたが、それは自分では気づいていなかった。



「旦那…相変わらず本が好きだねェ」


そこへ、この本屋の店主である女性が話しかけてきた。

蔵馬が目を向けた先には、朱色の短い髪ととがった耳をもつ、美人に部類される女性が、椅子に腰をかけ、煙管を手にして、切れ長の目を蔵馬に向けていた。



「おや?旦那、恋でもしてるのかい?妬けるねぇ。旦那ほどのイイ男が選ぶなんて、一体どんな絶世の美女なんだか……」

「あまりにも話に脈絡がなさすぎるな。何故そう思うんだ?」


何故、いきなり恋という単語が出てくるのか、蔵馬はふしぎでならなかった。



「フフッ。それはね、今の旦那は前会った時よりも、すごく優しい顔つきをしてるからだよ。誰か…とても愛しい者を想っている顔をしていた。今の旦那の顔は、誰かに恋してるって顔だからね」


けど、説明されても、蔵馬はよくわからなかった。

恋というもの自体、よくわからないものだったからだ。



「……聞いてもいいか?」

「なんでも」

「恋とはなんだ?」


短いが…インパクトがあるその言葉に、女性は一瞬目を丸くすると、口角をあげ、盛大に笑い出した。



「…何故笑う?」


質問した途端笑われたので、蔵馬はムッとした顔になる。



「いや……。まさか、旦那の口から、そんな言葉が出るなんて思わなかったもんでね。色恋には、いっさい興味がなさそうな顔をしていたからさ、いつも」

「そうか…。それで…恋というのは一体なんなんだ?」


笑った理由を聞くと、再度問いかける。



「恋ってのは、誰かを好きになること。愛することさ」

「愛だと…?」

「そう…誰かを愛しく想うこと。誰かに心が強く惹かれること。誰かを大切に思うこと。時には、自分の命以上にね」

「………他には?どんなものなんだ?」


自分の命以上…。それは、とても不可解なものだった。

けど、まだよくわからないし、どういうものか気になったので、蔵馬は更に問いだす。



「そうだねぇ…。あとは、会いたくてたまらなくなったり、会えないと寂しくなったり元気がなくなったりして、そんな時には相手を求めてしまうかな。
一緒にいたいって思ったり、いてほしいと思ったり…。いるだけでうれしくなるし、自然と笑顔になる。心が満たされるんだ。
とにかく気になって、気づいたら相手のことばかり考えてたり、目で追っていたりね。相手を想うだけで、胸がいっぱいになったり、時には切なくて苦しくなったり…。
隣にいるだけで、ドキドキしたりもするね。相手が近くに来ると、余計にドキドキするし、なんだか心が、むずがゆくて変な気持ちになるんだ。
あとは、護りたいって思ったり、胸が高鳴ったり、夢中になったり。
特によくあるのは、好きな相手が自分以外の異性と一緒にいると、嫌だって思うことかな。自分以外の異性と親しくしてると、相手だけでなく、好きになった相手のことも憎くなったりするんだ」


蔵馬は、女性が言ったことを真剣に考えた。



「(確かに……言われてみれば、すごく会いたくなったことがある。あいつに会えないと、気分が沈んだこともあった。とにかくすごい気になったし、気づいたら、ずっとあいつのことを考えていた。考えるだけで心が満たされたし、一喜一憂したりもした。一緒にいたいとも思ったし、いてほしいとも思った。
一緒にいると、それだけでうれしくなった。隣にいると胸が高鳴るし、あの時、パープル・アイが治療のためにオレの近くに来て、顔が近づいた時、更に胸が高鳴った。実力は奴の方が上なのに、護りたいとも思った。
それに、昨日パープル・アイがオレ以外の男と一緒にいるのを見た時、胸がもやもやして、とにかく嫌だ!と思った。あの時確かに、男のこともだが、パープル・アイのことも憎くなった。それに、黄泉がパープル・アイのことを口にした時も…)」


今まで、少女に会っていた時や、少女のことを考えていた時、今女性が言った通りのことを確かに感じていたので、蔵馬自身驚いていた。

そして次に、昨夜黄泉に言われたこと…特に、「ひょっとして、お前が機嫌が悪い理由って、パープル・アイに恋したからじゃねェの?」というセリフを思い出した。



「(まさか…………オレは………本当に……パープル・アイに………恋を…!?)」


自分で自分が信じられなかった。

愛という感情すらなく、それがなんなのかわからない。

けど、女性が言っていることは、少女に会う度に感じていることだった。

蔵馬は、ほのかに頬を赤くしながら、驚愕し、その場で固まっていた。

そんな蔵馬の頭の中には、少女の顔が浮かんでいた。

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