第二話 伝説の妖狐
「お頭っ」
少女が去った後、蔵馬の部下がやって来た。
「お頭、目当ての宝なんざ、どこにもありませんぜ」
「宝物庫も探したけど見当たらなかったぜ」
部下達は蔵馬をみつけると、蔵馬に現状を報告する。
報告を聞くと、蔵馬は少女が外に出ていった窓まで歩いていき、窓枠に足をかける。
「お頭?」
何も答えず、窓まで行って外に出ようとする蔵馬を疑問に思い、声をかけた。
「オレに心当たりがある…。お前らは、一足先にアジトに帰ってろ」
「お頭!!」
蔵馬は少女を追いかけるため、窓から外に飛び出した。
第二話 伝説の妖狐
蔵馬は窓をとび降りると、足あとを頼りに少女のあとを追いかけていった。
少女が窓からとび降りてそんなに時間が経っていないので、少し走ると、蔵馬は少女をあっさりと見つけた。
「待てっ」
名前を呼ばれたりしなかったが、周りには誰もおらず、ここには自分しかいないため、その言葉を向けられたのが自分だとわかった少女は、声の主である蔵馬の方へ、無言で振り向いた。
「…………なんだ…。さっき、部屋にいたヤツか…。なんの用だ?」
「その宝石は、オレも探していたものだ」
「ああ……この宝石…」
少女は手に持っていた宝石を、蔵馬に見えるように、上に持ちあげる。
「ほしいのか」
「は?」
問われると、少女の口から出てきた言葉を、何かの間違いではないかと、蔵馬は疑った。
「そんなに、この宝石がほしいのか?」
「ああ、そうだ……。そのために忍びこんだんだからな」
「フッ、よかろう…」
蔵馬は一瞬呆けたが、すぐに戻り、自分の意思を相手に伝える。
その言葉を聞くと、少女はニヤっと笑い…
「そんなにほしいのなら…」
宝石を持ってる方の手を、後ろに引き
「貴様にくれてやるっ」
蔵馬に向けて投げつけた。
蔵馬はそれを、自分にあたる前に受け止める。
そして、投げられた宝石と少女を見ると、呆然とした。
相手も盗賊のはずなのに、自分が手に入れた獲物を、敵(同業者)にあっさりと渡したからだ。
宝石を投げて渡すと、少女は何も言わずに去っていく。
少女が去ると、屋敷にいた兵士達の声が聞こえてきたので、蔵馬もそこから去っていった。
次の日……。
蔵馬は自室にこもり、前日の夜のことを考えていた。
目当ての宝石が手に入ったのはいいのだが、どうにも腑に落ちないことがあるからだ。
「(何故だ…?何故あの女は、オレにこの宝石をよこしたんだ?)」
それは、昨日出会った少女は、何故自分が奪ったはずの獲物を、わざわざこれ見よがしに見せつけたり、敵(自分)によこしたりしたのかということだった。
「(住人以外の者が屋敷にいたということは、あの女も盗賊だろう…。普通……盗賊が、自分が盗ったものを、敵によこすのか?それに、去り際に、盗ったものをわざわざ持ち主に見せつけたりするのも変だ)」
少女の一連の行動が、あまりにも不可解だった蔵馬は、そのことを考えていた。
「(………もしや……あれは、ニセ物!?そうだとしたら合点がいく…。昨晩、屋敷に侵入した目的は、あの宝石を盗ることではなく……もっと別の目的があったからでは…)」
けど、頭がいいのですぐに答えが出た。
「(それに、あの女…)」
昨晩の疑問に答えが出ると、今度は少女自身のことを考える。
「(あの女は妖狐だった。オレと同じ…。オレと同じ妖狐で、紫色の瞳…。そして盗賊…。そして、昨日黄泉が言っていたことを考えると……あの女、もしかして……)」
蔵馬は結論が出ると、その場を立ちあがり、外へ一人で出かけていった。
昨夜の少女を探すためである。
しかし、それはあまりにも無謀であった。
魔界は広大。
果てしなく、広く……そして深い…。
いくら昨晩のことと言っても、もう近くにはいない可能性も十分にある。
むしろ、盗賊が昨日盗みに入った場所の近くをうろうろしているなど、あり得ないと言っていい。
なので蔵馬は、一日探してもダメなら諦めようと思っていた。
蔵馬は神経をとぎすまし、自分の武器のひとつである、よくきく鼻と耳を使い、少女を探し始めた。
その方が、ただ闇雲に探すより効率がいいし、みつかる可能性も高いからだ。
けど、やはりもう近くにはいないだろうと、半分諦めながら探していた。
だが、探し始めてから数時間経った時だった。
「!!」
昨日忍びこんだ屋敷から数十km離れた場所にある、そこの屋敷の主が所有する違う別荘の近くで、見覚えのある人影を発見した。
「(あの女…!)」
昨日の少女である。
蔵馬は半日の間、昨日忍びこんだ屋敷の近辺をかけずりまわって、やっとのことで見つけたのだ。
それは、かなりの偶然と幸運と強運であった。
やっとのことで見つけた少女は、今は崖の下にある一点を見たまま、微動だにせずに立っていた。
そんな少女の後ろから、蔵馬は気配を断って近づき、肩に手を伸ばした。
しかし、肩に手が届く前に少女に腕をつかまれて、阻止された。
「女に声をかけずにふれようとするとは……ずいぶんと失礼な輩だな」
そう言いながら振り向いた少女の目は、とても鋭く、何やら怒っているようだった。
つかまれた腕はそんなに痛くはなかったが、振り向いたと同時に放たれた、押しつぶされそうなほどの殺気に、蔵馬は萎縮し、動けなくなった。
「お前は昨日の……。何か用か…?」
「貴様に……聞きたいことがあって来た」
「聞きたいことだと?」
別に危害を加えにきたわけではないのだが、少女は警戒を怠らず、目は鋭いままだった。
少女が返すと、蔵馬は懐から、昨日よこされた宝石を取り出し、宝石を持った手を少女の前に差し出して、宝石を少女に見せた。
宝石を出されると、少女の目線は、蔵馬から宝石の方へと移る。
「これは…昨日の…」
「この宝石について聞きたい」
「これが、どうかしたのか?」
「オレは……昨日、この宝石を貴様に渡されてから、ずっと考えていた」
「…………」
「何故盗賊…同業者が、他人の屋敷に忍びこんでまでして盗ったものを、敵であるオレによこしたりしたのか…。そして何故、屋敷から去る時に、盗ったものをわざわざ持ち主に見せつけたりするのか…。それが、不思議でならなかった」
「…それで?」
「結論を言うと、この宝石はニセモノだ。ただ…何故、わざわざニセモノを作ったのかまではわからんかったがな」
「……何故…わかった…?それが、ニセモノだと…」
「盗賊としてのオレのカンだ。オレも職業柄、いろいろな財宝を見てきたんでな」
蔵馬はしゃべりながら、昨日少女に渡されたニセモノの宝石を、少女に投げて返した。
少女はそのニセモノの宝石を、無言のまま受け取る。
「それと…もうひとつ」
「…なんだ?」
「貴様……パープル・アイか?」
自分の正体を言いあてられた時、少女の紫色の目は、鋭さが増した。
「……だとしたら……どうだというんだ?」
「別にどうもしない。ただ確かめたかっただけだ。部下から、パープル・アイがここらに出没していると聞いたんでな」
少女は蔵馬の言葉に拍子ぬけをして、鋭さがあった目が丸くなった。今まで自分の正体を確かめた輩は必ず、名をあげるために自分に襲いかかってきたり、利用しようとしてきたからだ。
けど、蔵馬はそんなことをしようとも言ったりもしなかったので、少女はふしぎに思った。
しかし、会って間もない者のことを、言葉ひとつで信じるのも愚かだと思っている少女は、警戒だけはとかなかった。
「それで……貴様は、あのパープル・アイなのか?」
「…そうだ」
とりあえず、敵ではなさそうなので、素直に肯定しておいた。
魔界にはいろんな手強い敵がいるが、もし襲いかかってきても大抵の奴はどうにかできるし、相手の妖力を探っても自分よりも格下であることもわかったし、何よりもそんな気配はないので、問題はないと思ったのだった。
「そうか。やはりな…」
蔵馬は相手の正体がわかり、納得した表情を見せる。
「で?」
「ん?」
「それで質問は終わりか?」
「ああ、まあな」
「じゃあ、私は行くぞ」
「あ…」
少女は相手の返答を待たず、そこから姿を消した。
その場に残された蔵馬は、ただ…少女が去っていく、すでに小さくなっている後ろ姿を見送っていた。
その日の夜……。
「うわああああ!!」
「パープル・アイだぁあああ!!」
昼間、少女と蔵馬が出会った場所のすぐそばにある、昨日忍びこんだ屋敷の主人の別宅に少女が忍びこんでおり、その屋敷の妖怪達を襲っていた。
同じ頃、蔵馬率いる盗賊団のアジトでは、蔵馬が自分の部屋にこもり、持って帰ったニセモノの宝石を眺めながら、昨日のことと昼間のことを考えていた。
少女は、自分に投げてよこした宝石が、ニセモノだということをあっさりと認めたが、それでも、違和感を完全にぬぐえたわけではないからだ。
本物の宝石は、あの少女が持ってるとみて間違いないのだろうが、敵である自分や自分の盗賊団の妖怪。そして、あの屋敷にいた主を含む妖怪をすべて殺さず、生かしておいたこと。
わざわざ自分の存在をアピールするように、主の部屋に行ったこと。
主や自分に、盗ったものをこれ見よがしにみせつけ、何もせずに逃走したこと。
彼女の実力ならば、自分が追いつけないくらい早く行くことも可能だろうに、自分がみつけることができる速度で走っていたこと。
自分が声をかけた時、わざわざ立ち止まったこと。
二度も盗ったものを見せたこと。
盗った宝石がほしいのかと問うたこと。
ニセモノとはいえ、宝石を自分に投げてよこしたこと。
わざわざニセモノを作った理由。
何よりも、魔界では冷酷な極悪盗賊として名高い彼女が、昨日も今日も、自分を殺さずにいたことが、一番の謎だった。
彼女の実力ならば、自分など赤子の手をひねるどころか、小虫を踏みつぶすくらいに簡単だというのに、それをしなかったのがふしぎでならなかった。
何故、同業者が他人の屋敷に忍びこんでまでして盗ったものを、敵である自分によこしたのか…という疑問はなくなったが、それでも、考えれば考えるほどに、新しい疑問が次々にわいてきたのだ。
そして、次の日の朝…。
「おい、蔵馬!いるか!!」
黄泉が不躾にも、ノックもせずに自分の部屋に入ってきた。
「…なんだ」
あれから、考えごとをしたままイスにすわって寝てしまっていた蔵馬は、黄泉が入ってきたことで目覚めたが、いきなり強制的に起こされた上、不躾に、無遠慮に、しかもノックすらせずに、ドアを壁にたたきつけるように、勢いよく入ってきたので、少々不機嫌な表情で黄泉に返す。
「昨日の夜、ここから11kmほど離れたところにある、一昨日忍びこんだ屋敷の主の別宅に、パープル・アイが出没したしいぜ」
「!?」
しかし、黄泉は気にする様子もなく、蔵馬に内容を伝える。
そのことを聞いた蔵馬は、驚きで大きく目を見開いた。
「(ここから11kmほど離れた場所にある屋敷といえば、昨日パープル・アイと会った場所。…もしや!!パープル・アイがあの場所にいたのは、偵察のため!?)」
けど、すぐに昨日のことを思いだし、蔵馬は合点がいった。
「おい蔵馬、どうしたんだ?」
自分が伝えようと思っていたことを伝えた途端に、急に何も言わずに固まってしまった蔵馬をふしぎに思った黄泉は、疑問符を浮かべながら蔵馬に話しかける。
「いや、なんでもない。それで?パープル・アイは、屋敷に侵入して何を盗ったんだ?」
一昨日侵入したところは、一国一城の国王の別荘。昨日彼女が侵入した屋敷も、複数ある別荘のうちのひとつ。きっとそこにも、何か金品を盗るのが目的で侵入したのだろうと思った蔵馬は、黄泉に問うた。
「ん?ああ…。それがな……」
「なんだ?」
盗ったものの名前を言うだけだというのに、どこか言いにくそうにしていたので、蔵馬はどうしたのかと思った。
「何も……盗られなかったんだそうだ」
「なに!?」
「侵入はされたものの、兵が殺されたのみで、あとは被害らしい被害は何もなかったらしい」
蔵馬は驚きをかくせなかった。
盗賊が金持ちの屋敷に忍びこんだのに、何も盗らずに去ったというのだから…。
いつもは冷静な蔵馬も、この事実にはさすがに驚愕し、先程よりも大きく目を見開き、口をあけたまま固まった。
そのことを疑問に思った蔵馬は、すぐに部屋から出ていった。
あの少女を、再び探すためである。
「あ、おい!蔵馬!!」
黄泉に呼び止められるが、蔵馬はそれを無視して、アジトから出ていってしまった。
「やれやれ…。なんであんな一生懸命になるのかね…。あいつ、パープル・アイに興味なさそうだったくせにな」
どこか一生懸命だった蔵馬に対し、黄泉は疑問に思うが、その答えが返ってくることはなかった。
一方蔵馬は、アジトを出て、あの少女を探しに走っていた。
恋慕の情などではなく、ただ単に気になったのだ。
少女の、昨日と一昨日の不可解な行動が……。
もともと、気になったことは追究しようとするところがあるので、少女を追うのに理由をつけるならば、単なる探究心というのに他ならなかった。
うわさに聞いただけだが、パープル・アイはいろいろな場所に出没するというので、ひととこに根づかない、流れの妖怪だと、蔵馬は思っていた。
だから、普通ならばとっくにこの辺にはいないだろうが、昨日は一昨日襲った屋敷から、そんなに離れていない別の屋敷のそばにいて、しかもその屋敷を襲ったというので、まだこの近辺をうろついている可能性は充分にあった。
まさか…とは思ったが、その可能性にかけ、蔵馬は昨日少女と再会した場所へと急いだ。
その頃、少女は昨日蔵馬と再会したところと同じ場所におり、その崖の上から、下にある屋敷を見ていた。
昨日襲った屋敷である。
「!!」
その時、ひとつの気配がこちらへ近づいてくるのを感じ、後ろへ振り向いた。
「貴様は……」
そこにいたのは蔵馬だった。
蔵馬の姿を見ると、少女は軽いため息をつく。
「昨日の奴か。なんの用だ?」
「……貴様に…聞きたいことがあって来た…」
「…またか。なんだ?」
少しだけ疲れた雰囲気を顔に出しながら少女が問えば、蔵馬はゆっくりと口を開く。
「貴様は昨日、そこの崖の下にある屋敷を襲ったそうだな?」
「それがどうした?」
「そこの屋敷は……オレと貴様が、一昨日忍びこんだ屋敷の持ち主が所有している、複数ある別宅のうちのひとつだ。何故、あそこを襲ったんだ?すでに、本物の宝石は手に入れているのだろう?そして何故、昨晩そこの屋敷に忍びこんだ時、何も盗らなかった?貴様は盗賊だというのに…」
蔵馬は疑問に思っていたことを、一気にしゃべった。
そのことを聞くと、途端に少女の目つきが鋭くなり、ピリッとした空気を作り出す。
「答える義理はないな」
蔵馬の問いに、少女は短く返すのみだった。
特に殺気を出していないのに、少女がピリッとした空気を作り出すと、蔵馬は威圧されて、それだけで動けなくなった。
「貴様には、いっさい関係のないことだ」
確かにそう言われればその通りであるが、それでも蔵馬は知りたかったのだ。
同じ盗賊(同業者)として……同じ種族の妖怪として……そして、単なる探究心だけでなく、何故だか無性に気になったので、蔵馬は問いだしたのである。
しかし、思ったような答えは得られず、どうしようか悩んでいると、少女はそこから去ろうとした。
「まっ……」
去っていこうとする少女の後ろ姿を見て、蔵馬が引き止めようとした時だった。
「うらああああっ」
「パープル・アイ!!覚悟ぉおおお!!」
崖の下から、突然敵が現れた。
昨日、少女が忍びこんだ屋敷の兵だった。
「昨日の屋敷のヤツらか…」
けど、少女はまったくあわてておらず、それどころか、冷たい目で相手を見据え、手を胸の前にもってきた。
「ぎゃああああ!!」
「うわああっ!!」
素早く、薙ぐように手を動かした瞬間、彼らは同時に胴体をまっぷたつにされ、絶命した。
今少女は、風の刃で相手の胴体をまっぷたつにしたのだが、あまりの早い動きに、蔵馬は少女が何をしたのか、まったくわからなかった。
「フン……。おとなしく屋敷にこもってれば、殺されずにすんだものを…」
少女は、冷たい目で相手を見下した。
やったことに、罪悪感などカケラもなく、命を奪ったことに何も感じていない。そんな…見るもの全てを凍てつかせるような目で…。
一部始終を見ていた蔵馬は、相手があの、冷酷な極悪盗賊と名高いパープル・アイだということはわかってはいたものの、突然のことに呆然としていた。
呆然としていると、また兵が10人現れたので、今度は蔵馬が、少女が倒す前に、バラのムチで兵を倒した。
それを見て、今度は少女が呆然とした。
何故、自分を狙ってきた敵を、関係のない蔵馬が倒すのかと…。
少女は少しの間目を丸くしていたが、軽く息を吐くと、口を開く。
「私が昨晩、そこの崖の下にある屋敷を襲ったのは、宝を盗ることが目的ではないからだ」
「え…?」
「詳しくは言えないが、私には宝を盗る以外の目的がある。そのために必要な行動だった。それだけだ」
「なに…を…?どういう……」
先程は、答える義理はないと言っていたのに、突然蔵馬の質問に答えたので、蔵馬は頭がついていけない状態だった。
「さっきの、貴様がした質問の答えだ」
「何故……?」
「貴様が今倒したのは、私の客(敵)だった。でも、貴様が倒した。そのことで、貴様には借りができた。私は、誰かに借りをつくるのは好かん。それだけだ」
突然質問に答えたことに疑問を抱けば、少女はその理由を話した。
そして、蔵馬の疑問に答えると、少女はそこから去っていった。
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