第一話 二人の妖狐
魔界のとある場所……。
さびれた町の、更に奥。
あまり人が寄りつかなさそうな、小さな半円型の家に、一人の男が住んでいた。
その男は妖怪であるが、見た目は人間のような風貌で、鼻から下は黒と白が入り交じった色の髭をたくわえており、髭と同じ色の髪の毛をもつ老人だった。
男の家には様々な宝石が山のようにあり、男はそれを、片目にだけレンズをつけて、じっくりと見ていた。
その時、男の後ろの扉が、なんの前触れもなく勢いよく開いたのだが、男はあわてる素振りも見せず、ゆっくりと振り向く。
そこには、一人の少女が立っていた。
男と同じように、ぱっと見た目は人間のようだが、頭とお尻に生えた動物の耳としっぽが、妖怪なのだということを物語っている。
少女は、紫色の瞳で男をまっすぐに見据え、肩までしかない銀色の短い髪の毛をなびかせ、お尻に生えたしっぽを揺らしながら、男のところまで歩いていった。
「できているか?」
そして、男の前まで来るとピタリと止まり、短く問いだす。
「ああ、もちろんさ」
主語がないが、なんのことなのかわかっている男は、今すわっている机の、一番下の引き出しに入っている宝石を取り出した。
その宝石は、ダイヤモンドのように透明で、大きさはソフトボールの球よりも少し大きいくらいの、少女の手からあふれるくらい大きなものだった。
「ふむ…。なかなかいい出来だな。悪くない」
「ふふっ…当然ですな」
下から透かすように宝石を見て、己をほめる少女に、その言葉はあたり前であるように笑う。
「じゃあな」
「あ…」
宝石の確認を終えると、少女は男に背を向け、そこから去っていこうとした。
「ま、待ってくれ。約束がちが…」
焦って少女に声をかければ、最後まで言い終える前に、足もとに大きな布袋を投げ渡される。
「それで文句ないのだろう?」
約束のものを渡すと、少女は冷たい目をむけ、止めていた足を再び動かし、そこから去っていった。
男の足もとにある布袋には、金色で円形で平らなもの……金貨が大量に入っていた。
外に出た少女は、空を仰ぎ見た。
魔界独特の、赤い空の中に黒と紺が入り混じった雲が浮かび、その中を雷が走っている。そんな、不気味で薄暗い空……。
そして少女の周りには、少し強い風が吹いていた…。
第一話 二人の妖狐
そこから、約20kmほど離れた場所…。
巨木にかこまれた森の中。その開けた場所の岩場の下。
そこに……ひとつのアジトがあった。
「黄泉…」
そのアジトの一角で、一人の男が別の男に声をかける。
今、声をかけたのは、蔵馬という男。
彼は、先程の少女と同じ妖狐で、極悪盗賊の妖狐蔵馬とうわさされている男だった。
ここは、その蔵馬が率いている、盗賊団のアジト。
蔵馬はこのアジトの主であり、盗賊団の頭だった。
「あ?なんだ、蔵馬」
そして、蔵馬に声をかけられた男の名前は、この盗賊団の副頭領の黄泉。
黄泉は蔵馬に声をかけられると、後ろへ振り返り、蔵馬とはまた違った鋭い目で蔵馬を見た。
「今夜、仕事がある。他のヤツらにも伝えておけ。これが詳細の資料だ。目を通しておけ」
「久しぶりの仕事か……。腕がなるな」
「あまりはりきりすぎるな。敵陣で目立つと、まっさきにねらわれるぞ」
「上等じゃねぇか。オレの力を世に知らしめるチャンスだぜ。あと、国を建てる資金を少しでも多く集めるチャンスでもある」
黄泉は蔵馬の警告を聞かず、逆にめらめらと燃えており、そんな黄泉を見た蔵馬は冷やかな視線を黄泉に送り、軽くため息をついた。
「そういや知ってるか?あのパープル・アイが、最近ここいらに出没しているらしいぜ」
目がギラギラしている黄泉とは対照的に、蔵馬は無表情だったが、その名前を聞いた途端、興味があるのか、微かに眉が動いた。
「パープル・アイといやぁ、蔵馬と同じ妖狐で、生きた伝説と言われている女。ぜひ戦ってみたいもんだ。名をあげるチャンスだしな。あの女を倒せば、いっきに名があがるぜ」
「やめておけ。パープル・アイといえば、魔界屈指の実力者としても名高い。いっきに名があがるということは、それだけ強い力をもっているということだ」
「蔵馬は、パープル・アイと戦いたくねえってのかよ?」
「あたり前だ」
「妖狐蔵馬の名で魔界に知られてるお前なら、パープル・アイに勝てるんじゃねえのか?」
「ムリだな」
「なんでだよ?そんなもん、やってみなきゃわからないじゃねーか」
「やらなくてもわかる。パープル・アイはS級妖怪。オレはB級だ。実力の差はわかりきっている。オレは無謀なことはしない」
「そうかよ。なら、もしパープル・アイと戦うことになったら、オレがやるぜ?」
「好きにしろ」
自分と相手の実力の差もわからずに挑もうとしている黄泉に、蔵馬は呆れながら、そこから去ろうした。
「パープル・アイに…殺されても知らんぞ…」
そして警告をすると、自分の部屋へ戻っていった。
それから夜となった。
魔界の空は基本、黒と紺が入り混じった雲が浮かんだ赤い空に雷が走っているが、たまにやんだり、そうでないところもあったりする。
そこはそれに属している場所で、今夜は雷鳴がやみ、空は暗くなっており、大きく丸い月が出ていた。
その月の下には、あの少女が立っており、数百メートル先に建っている、大きな屋敷を見据えていた。
「行くか…」
ぽつりとつぶやくと、少女は屋敷に向かって走っていき、その屋敷の中に、二階の窓から忍びこんだ。
少女は盗賊なので、忍びこむのはお手のもの。
この屋敷には、衛兵が何人もいるのだが、誰にも気づかれることなく中に忍びこんでいった。
同じ頃、屋敷から数百メートル離れた、少女がいるところとは反対の場所に、蔵馬と、蔵馬が率いる盗賊団がいた。
「蔵馬…」
「ああ……あそこだ。
行くぞっ…」
自分達の目的地である屋敷を確認すると、蔵馬は右手をスッとあげて合図を出した。
そして蔵馬が最初に屋敷へ走り出すと、後ろにいた仲間達も、全員蔵馬の後ろに続いて屋敷へと走っていく。
「ぎゃあああああっ」
その頃、屋敷の中では、少女が屋敷を警護する兵士を倒していた。
体を斬られた兵士は悲鳴をあげ、そのまま息絶えた。
「こっちにいたぞ」
しかし、悲鳴を聞いた別の兵士がやって来て、そのまま襲いかかってきた。
だが、そんなことはものともしない少女は、自分が操る風で、一瞬にして倒してしまう。
そこからは、同じことの繰り返しだった。
次から次へとやって来た兵士達を、倒しながら廊下を走っていき、目的の場所へと進んでいった。
一方、少女がいる場所と同じ二階の…そこからそんなに遠くない所には蔵馬がいた。
蔵馬は、屋敷に入ると部下達とは別行動をし、自分の武器であるバラの鞭で、兵士を倒しながら廊下を走っていたのだった。
その頃、この屋敷の最上階の……屋敷で一番広い部屋。
そこは、この屋敷の主の部屋であり、その部屋の中には、屋敷の主と屋敷を警護している妖怪達が、せわしなく走り回っていた。
「おい、いたか?」
「いや、こっちにはいないぞ!」
「どこに行ったんだ?奴らは」
「なんとしてでも見つけ出せ。見つけたら、情けはいらん。すぐに片づけろ!!盗賊などに、私の宝を奪われてたまるものかっ」
彼はこの屋敷の主なので、落ち着きはらった素振りを見せていたが、内心は盗賊が入りこんでいるので、かなり動揺していた。
場所は再び、二階に戻る。
二階で行動していた蔵馬は、未だに敵を倒しつつ、目当ての宝を探しながら、廊下を走っていた。
もう、何人目かわからないくらい敵を倒し、目の前にある曲がり角を曲がろうとした時……。
「「!!」」
蔵馬は…あの少女と、曲がり角で遭遇した。
「(銀髪の……)」
少女の姿を見て、蔵馬は目を丸くし
「(妖狐……)」
少女もまた、蔵馬の姿を見て目を丸くした。
二人は同じ銀色の髪の毛をゆらして、少女は紫色の、蔵馬は金色の瞳でお互いを見て、自分と同じ種族で、同じ髪の色のこの人物に驚き、一瞬固まった。
「お前は……」
蔵馬が口を開くと、少女は我に返る。
そして、手を前に出した。
すると、少女の周りには激しく荒々しい風が発生した。
そのことで蔵馬は防衛本能が働き、自身を護るように腕を前にもってきて、同時に目をかたくつむる。
少しすると風がやみ、蔵馬が目をあけると、少女の姿は消えていた。
「消えた……」
つねにポーカーフェイスを崩さない蔵馬だが、いきなり消えたとあっては、さすがに驚いていた。
その2~3秒後。
屋敷の主がいる部屋に、一陣の風が吹いた。
小さな竜巻が、なんとも都合よく、主の目の前に発生する。
それを見ると主は肝を冷やし、心臓がとび出てきそうなくらいに高鳴り、心拍数があがっていた。
「お前が……ここの主か…?」
少しすると竜巻が収まり、そこから一人の妖怪が現れた。
先程の少女である。
少女は自分の能力で、一瞬のうちに、この主がいる部屋へ移動したのである。
少女は腕を組み、鋭い目で主を見ていた。
「誰だ?お前は…」
目の前にいる人物が、何者なのかはわからないが、自分の屋敷に侵入した盗賊であることはわかったので、彼は内心ドキドキしながらも、主らしく堂々とした態度で問う。
問われると、少女はニッと不敵な笑みを浮かべて口を開いた。
「……パープル・アイ…」
「!」
「そう言えば……わかると思うが…」
目の前にいる少女の正体がわかると、彼はみるみるうちに、顔が青ざめていった。
「お…お前が……あの生きる伝説と言われている盗賊……パープル・アイ…だと…!?」
彼がおびえると、少女はニヤッと笑った。
少女が現れると、両脇から、この部屋を警護する兵士達が襲いかかるが、少女はそんなものはものともせず、一瞬にして倒してしまった。
そのことにより、主はますます脅えるが、少女は気にすることなく主のもとへ歩いていく。
その時、この空気を壊すかのように、この部屋の扉が勢いよく音をたてて開いたので、二人は扉の方へ顔を向けた。
「お前……さっきの……」
それは蔵馬だった。
「貴様が…ここの主か?」
蔵馬は少女を一瞥したが、すぐに主の方に視線を移し、少女と同じ質問をした。
「…お前も盗賊か?」
「オレの質問に答えろ…」
「……そうだ…」
主は主で質問をするが、自分の思い通りの質問が返ってこなかったので、少し苛立った蔵馬が語気を強めれば、彼は萎縮したのか、小さめの声で答えた。
「なら教えてもらおう…。この屋敷の家宝はどこにある?」
「だ……誰がお前などに……ひっ」
強がって蔵馬に教えないようにするが、蔵馬は髪の中から種を取り出し、発芽させると、成長した食用植物をこれ見よがしに見せつけた。
言わないのなら、この食用植物にお前を食わせるとおどすように……。
「それなら、もうすでに私がいただいた」
「「何っ!?」」
だが、そこへ少女が口をはさんだ。
驚いて振り向いた二人の目の先には、手の平からあふれるほどの大きさの、透明のダイヤモンドのような宝石を片手に、不敵に笑う少女がいた。
「そ、それは……。厳重に封じた宝物庫に入れておいたはず。にいつの間にっ!!」
少女が手にしているのは、先程蔵馬が質問していた宝石であり、それを見た二人……特に主の方は驚いた。
「ふふっ…。確かに、この屋敷の家宝はいただいた」
そう言うと、少女は素早く窓の方まで移動していく。
「じゃあな」
そして、窓の枠に足をかけると外にとび出し、そこから去っていった。
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