第六話 いつまでも、ずっと…
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それから少女は、架屍目の国へと連れていかれた。
国に入ると、少女は歩きながら町の様子を見ていた。
そこには、ところせましとならんでいる家と、その家の周りには、少女のことを恐れている目や、憎しみに満ちた目で見ている国民の姿があった。
そうしてしばらく歩いていくと、架屍目の国の城が見え、少女は自分をとらえた兵と一緒に、城の中に入っていった。
だが…行き先は、王がいる玉座ではなく、囚人が入る牢屋だった。
「しばらくここで、おとなしくしてるがいい」
誰も入っていない空の牢屋に、強引に少女を押し入れると、男はそこから去って行った。
牢屋に入れられるも、少女は今のこの状況に悲観することなく、自分をとらえ、この牢屋に入れた男の後ろに着いて来た見張りが、男と一緒に離れていき、所定の位置について牢屋から見えなくなると、その牢にある、小さな鉄格子の窓から外を見た。
そして、外の風景を見ると、少女は静かに風を起こした。
第六話 いつまでも、ずっと…
少女がとらえられてから、3日が経った。
「即刻、死刑にすべきです!!」
城の会議室からは、男の叫び声のような進言が響いた。
「パープル・アイは、我々の領土に無断で入っただけでなく、国王様のことを執拗に狙い、何人もの兵を殺してきたのです」
「それに、パープル・アイといえば、「国崩しの妖狐」として有名。あやつめ……今度は、我々の国に狙いをつけてきたに違いありませぬ」
「このまま放っておいては危険ですぞ」
彼に続き、周りにいた他の家臣達も、国王に向かって、次々に進言をした。
国王は、彼らの意見を聞くと、何かを決したように前を見据えた。
その日の夜中。
蔵馬率いる盗賊団のアジトには、蔵馬が約一ヶ月ぶりに帰ってきていた。
「よォ。ずいぶんと遅いお帰りじゃねーか」
蔵馬の部屋の前では、黄泉が腕組みをして立っており、不機嫌そうな顔で蔵馬を睨んでいた。
理由は聞かずともわかっていた。
「ったくよォ……。お前、一体なんなんだよ?パープル・アイと会ってから、おかしくなってんぞ。いきなりパープル・アイに会いに行って、仕事もってこなくなったと思ったら、ようやくもってきて。そんで、もってきたと思ったら、また毎日会いに行って。それである日突然、また仕事をもってこなくなったどころか、「用事ができた」、「しばらく留守にする」とだけ言って、ふらりとどこかに行っちまってよォ。この一ヶ月、マジでアジト内の空気が悪かったんだぜ。留守をあずかる、副頭領のオレの身にもなれよな。本当に、一体どこに何しに行ってたんだよ?」
「…悪かった」
長々と不満をならべれば、めずらしく蔵馬が謝ってきたので、黄泉は一瞬固まり、目を丸くした。
「探し物をしていた。どうしても、仕事との両立は難しかったんだ。だが、ようやくみつけることができた。また、近いうちに仕事をもってくる」
「お前が探し当てるのが難しいものって、どんなものなんだ?」
「……それは関係ないことだ。
ところで、オレの留守中、何かあったか?」
話をはぐらかされたので、黄泉は不満に思い、ぶすくれた。
「あ、そうだ!!大変なことっつーか、すごいことが起こったんだぜ」
けどすぐに、蔵馬に言いたかったことを思い出した黄泉は、やや興奮気味に話し始めた。
「なんだ?」
「実はな、あのパープル・アイが、このアジトの近くにある、架屍目っつー名前の国につかまったらしいぜ」
「何…!?」
「オレも、まだ信じられないんだけどな。まさか、あのパープル・アイがつかまるなんて思わなくてよ………
……って……オイ!!蔵馬っ!!」
話している途中で蔵馬が走り出し、アジトの外へとび出していったので、黄泉は叫ぶが、蔵馬の足は止まらなかった。
「ったく……。人の話は最後まで聞けよな…」
一ヶ月もの間、自分に留守をまかせてアジトに帰ってこなかった上、やっと帰ってきたと思ったら、話している途中でいなくなってしまったので、黄泉はますます不満をつのらせた。
同時刻。
「パープル・アイ」
少女がいる牢に、この国の家臣の一人が、少女を訪ねてきていた。
「貴様を処刑することが決まった」
彼の口から出た内容はとんでもないものだったが、それでも少女は取り乱すことなく、微動だにせず、平然として相手を見ていた。
「今日の朝方、貴様の死刑を執行する。せいぜい、残り短い余生を楽しむんだな」
微動だにしないのは、少女がもう何もかもをあきらめて、自分の運命を甘受しているのだと思った家臣は、ニヤリと笑うと、そう言い残してそこから去っていった。
家臣がいなくなると、少女は窓の外を見た。
そこには、磔や絞首台や断頭台といった処刑道具があった。
「(…今日の朝……これで、ようやくすべてが終わる。朝には…ここからいなくなる。でも……そうしたら…)」
少女は、ようやく何もかもを終わらせられるので、そのことにほっとしていた。
「(そうしたら……あいつにも…もう会えなくなってしまう……)」
けど、次の瞬間には蔵馬のことが頭に思い浮かび、どこか寂しそうな顔になった。
「…つっ……」
同時に、心臓のあたりが痛みだしたので、少女は胸をおさえる。
おさまるどころかどんどん強くなっていくその痛みに、少女は胸のあたりの服を強くにぎりしめた。
「…なんで……あいつのことを思い出しただけなのに……こんなに………胸が……」
だが、その痛みのわけは、少女にはわからなかった。
少女はズキズキと痛む胸をおさえながら、ずっと蔵馬のことを考えていた。
それから夜が明け、日が昇ると、少女は手に枷をはめられて、牢から出された。
牢から出て外に出ると、恐らくこの国の国民全員が、鋭い目で少女を睨んでいた。
「来たぞ」
「パープル・アイだ!!」
「あいつがあの…極悪盗賊の!?」
「よくも、オレ達や、国王や国を狙いやがったな!!」
「死刑だ!!」
「殺せェ!!」
国民達からは憎悪や嫌悪が感じられ、いろいろと汚い言葉をとばしていた。
普段なら、少女ほどの強い妖怪を目にすれば、恐怖を抱き、おびえた目で見るだろうが、彼らは、国王がとらえたので何もできない(しない)だろうと思い、無抵抗の少女を見て大きく出ていた。
嫌気がさすくらいにふんぞり返っていたのだ。
けど、少女はそんなものは気にすることなく、看守に連れられて、その先へと進んでいく。
すると、その先には小高い台があり、台の中心には、この国の国王が、綺麗で豪華な装飾がほどこされたイスにすわっており、国王の両隣には家臣が数人、更にその隣には、兵が数人ひかえていた。
国王の前まで来ると、看守は止まり、少女も足を止めた。
そして、足を止めると国王と目があい、国王は少女を睨みつけ、少女もまた、国王を睨みつけた。
「…っ……!!」
国王を睨みつけた時、少女はまた胸が痛んだ。
病気とか、国王に何かされたとかそういうのではなく、国王を睨みつけると同時に、蔵馬のことを思い出したから。もうすぐで、すべてが終わってしまうからだった。
その正体不明の痛みはどんどん増していき、少女は苦痛に顔をゆがめる。
けど、そのゆがめた顔は、国王を睨みつける目を強くしただけに見えたので、国王は少女の胸の苦痛には気づいておらず、少女がやって来ると、国王は席を立った。
「パープル・アイよ、貴様は我が国の領土に無断で侵入しただけでなく、我が国を狙い、私やこの国の民を危険にさらそうとした。それだけでなく、私の別宅をいくつも狙い、たくさんの兵を襲い、殺した。それだけでなく、我が国の国宝のニセモノを作り、それを送りつけ、私や国の者を愚弄した。
私を……何よりも民達を愚弄し…更には命まで狙おうとは言語道断!!貴様の行いは、とても許してはおけん!!
よって、ここに貴様の死刑を言い渡す!!」
国王が、罪状を声を大きくして読みあげると、国民はおおいに盛り上がった。
いよいよ処刑となるが、それでも少女は動揺することなく、平然としていた。
「最初で最後の情けだ。貴様に、どの道具で処刑されたいか選ばせてやろう」
国王が横に目を向けると、少女から向かって左側の方には、少女が夜中に牢の窓から見た、磔や絞首台や断頭台などの処刑道具があった。
その処刑道具を目にすると、少女はニヤッと、不敵な笑みを浮かべる。
「フン…。処刑されるのは、貴様をはじめとする、この国の者達全員だ」
「なんだと!?」
少女の答えに、当然国王も国民達もわけがわからず、周りではざわめきが起こった。
「…聞きずてならんな。現に貴様は手を封じられ、技を使うことが……」
「手を使わなければ技を使えないなど三流だ。そんなもの使わずとも、技は使える。というより、もう使っているがな」
「なにィ!?」
少女が風を操ることは、最初に会った時にわかった。それなのに、今は無風だというのに、どこにそんなものがあるのかと、国王は周りを見回した。
そんな、うろたえた様子の国王や国民達を見ると、少女は指を上にもってきて、パチンっという音をたてて鳴らした。
すると、国王がすわっているイスと、イスが置いてある台をのぞいて、周りの処刑道具も家も城も、すべて崩れ落ちた。
少女は今、風化の術を使ったが、国王は、少女が風を使うことは知っていても、技までは知らない。国民や家臣に至っては、少女が使う属性すら知らない。
なので、それを見た国王や家臣、国民達は、驚きをかくせずにいた。
城や住居が、手もふれていないのに破壊されたので、驚き、うろたえている国王や国民達を目にすると、少女は更に笑みを濃くする。
「つかの間の優越感は楽しんだか?貴様は、私を殺してハクをつけたかったんだろう?魔界屈指の実力者として知られる、パープル・アイの私を殺して名をあげたかったのだろう?本当は自分のためなのに、国民のためなどと好感度をあげたりして…。
だが……貴様はあまりにも計画が雑だ。目先のことしか考えていない。妖力を封じずに、そのまま牢に入れておくなんて、無策にもほどがある。あのような石と鉄で作られた牢獄や、こんな…鉄の輪に、鎖がついただけのおそまつな枷で、私をとらえたつもりだったのか?」
少女はしゃべりながら、今自分が言ったことを証明するかのように、腕を横にひっぱった。
腕をひっぱると、枷がボロボロになって壊れたので、国王は更に驚く。
腕が自由になった少女は、妖気を放出し、風を起こした。
両手にうずまくように吹く風は、今にもこの国の国王や国民達に襲いかかりそうな雰囲気だった。
「貴様ら……全員処刑する!!」
これから、他者の命を奪おうというのに、少女の顔はなんとも楽しそうだった。
「くっ…。そうはさせん!全員、迎え撃て。パープル・アイを殺すのだ!!」
国王の言葉で、家臣も兵も国民も奮起し、王以外、全員いっせいに、少女に襲いかかっていった。
立ち向かって来る彼らを見ると、少女もまた、彼らを倒すために構えをとる。
「うわっ」
「ぎゃあああっ」
その時だった。
突如少女の後ろから何かがやって来て、その何かは少女の横を通りすぎていくと、彼らに襲いかかった。
襲われた彼らは悲鳴をあげると、そのまま絶命する。
「これは……オジギソウ!?」
少女は驚愕し、目を見開いた。
オジギソウを使うのは、少女が知るかぎり、たった一人しかいない。
まさか!と思った少女は、オジギソウがきた後ろの方へ振り向いた。
「お……まえ……」
そこには思った通り、蔵馬が立っていた。
蔵馬の姿を目にすると、少女は驚くと同時に、変な感覚に陥った。
けど、ふしぎと不快にはならなかった。
「パープル・アイ!!」
蔵馬は少女をみつけると、少女のもとへ走っていった。
「無事でよかった!!」
蔵馬は少女のもとへ走ってくると、少女をその腕に抱きしめた。
その瞬間、少女は頬がほのかに赤くなり、心臓がうるさく鳴り響いた。
「…お前……何故、ここに来たんだ?それに、なんで私が、ここにいるのがわかったんだ?」
少女がふしぎそうに問うと、蔵馬は優しい笑みを浮かべる。
「お前が、この架屍目の国につかまったと、部下に聞いた。だから、助けに来た」
「何故…?」
蔵馬がここに来た理由を知っても、少女はふしぎでならなかった。
何故、わざわざ自分を探していたのか。何故、自分以外は敵しかいないような危険な場所に、たった一人で足を踏み入れたのか。何故、関係のないことに、危険をおかしてまで首をつっこんだのか。それが、少女にはふしぎでならなかったのだ。
「前に約束しただろ。おまえを護るって」
ほんの短い言葉でも、蔵馬には、少女が言わんとしていることがわかったので、その問いに答えた。
蔵馬の答えを聞いた瞬間、少女はまた変な感覚になった。
けど、今度は心臓が高鳴るでも、胸の痛みが増すでもなく、逆に、胸の痛みがおさまっていった。
そして同時に、胸の空洞がうまった感じになった。
「話したいことはたくさんあるが、まずはあいつらを倒してからだな」
少女が呆然としていると、蔵馬は少女の体を離し、敵がいる方を見据えた。
「そうだな…」
それは少女も同感だと思い、同じく前を見据える。
何故そんな感覚になるのかはわからないが、とりあえず今は、敵を倒すことが先決なので、敵を倒そうと思ったのだ。
「くそっ。誰だか知らないが、ジャマした上、国王であるこの私を無視しおって…。
者ども!!あの男も殺してしまえっ!!」
見知らぬ男の突然の出現に呆けていたが、少女と蔵馬が自分の方に向くと覚醒し、国王は、今度は蔵馬も一緒に始末するように命令をした。
国王の命令で、家臣や兵、国民達は、再び倒そうと、少女と蔵馬のもとへ向かってきた。
けど、少女は風の技で、蔵馬はバラのムチやオジギソウを使って、次々と敵を倒していく。
数では圧倒的に勝っていたはずの架屍目の国の者達は、あっという間に全員倒され、残すは国王ただ一人となった。
「あ……そ………な……」
国王は驚愕し、顔面蒼白となり、尋常でないくらいに冷や汗をかいていた。
ショックすぎて、言葉をうまくつむぐことができなかったのだ。
「ひっ!!」
そこへ、少女が目の前にやってきたので、国王は短い悲鳴をあげた。
自分以外の部下や国民はみないなくなってしまったし、自分の妖力では、少女に敵うわけがないことは、充分すぎるほどわかっているからだった。
「たっ…助け……」
国王は命ごいをした。
だが、少女がそんなものに聞く耳をもつはずもなく、無数の風の刃を四方八方からとばし、国王の体をズタズタに切り裂いて倒した。
国王を倒し、家臣を倒し、兵を倒し、国民を倒したことで、架屍目の国には誰もいなくなり、架屍目の国は滅んだ。
国王を倒すと、少女と蔵馬は、架屍目の国をあとにした。
「パープル・アイ…。話したいことは他にもあるが、まず聞かせてくれないか?お前は一体、何がしたかったんだ?何故、お前ほどの妖怪が、自分よりも格下の妖怪しかいないような国につかまったりしたんだ?」
架屍目の国から2kmほど離れた場所に来ると、蔵馬は少女と向かい合い、ずっとふしぎに思っていたことを問いだした。
「お前……「国崩しの妖狐」というのを聞いたことはないか?」
いつもなら、他人からの問いかけなど答えないが、蔵馬にはまた新たに借りができたので、その問いに答えようとした。
「それはもちろん……そうか!!そういえば、お前の異名のひとつだったな」
特に答えを言ったわけではないが、その短い言葉だけで、蔵馬はすべてを理解する。
「国を専門にねらう女盗賊、パープル・アイ。またの名を……国崩しの妖狐…」
「そう……。私の目的は、架屍目の国を滅ぼすことだ。そのために動いていた」
「そうか…。いくら強いといっても、闇雲に動いてはやられてしまう可能性もある。情報収集や、戦力を少しずつそいでいくために、二か月近くも動いていたのか」
「…そういうことだ」
少女の口から、簡潔にだがすべてを説明されると、蔵馬は納得をした。
「…ところで……今度は、私の方から貴様に質問をしてもいいか?」
「なんだ?」
「何故貴様は……一ヶ月もの間、私のところに来なかったんだ?」
少女の口から意外な言葉が出てきたので、蔵馬は一瞬固まる。
まさか、自分がいなかったことを、少女が気にかけているとは思わなかったからだ。
「お前が前に言っていただろう?オレが……本当にお前を好きなのか…とな…」
「…ああ……」
「そのことを証明するために、オレはこの一ヶ月の間動いていたんだ」
「……それで……その証明とやらは…できるのか?」
「ああ……」
蔵馬は小さくうなずくと、懐から小さな巾着袋を取り出す。
「パープル・アイ。これを……お前にやろう」
そして、その巾着袋を少女に渡した。
「なんだ?これは……」
巾着袋を受け取ると、少女はしぼってあるひもを緩め、中身を手の平に出した。
「これはっ…」
中身を見ると、少女は驚いた。
「これは……金鈴珠!?」
それは、金鈴珠のネックレスだった。
「何故……極悪盗賊と言われたお前が、これを私に?」
金鈴珠は、魔界ではかなり高価なもので、氷女が生み出す氷泪石より、何十倍もの価値がある宝石である。
魔界の住人なら、誰もが知っていると言っても過言ではないもので、特に盗賊をやっている者の間では有名であり、盗賊ならのどから手が出るほどほしい物だった。
そんな高価な宝石を、新しく国を建てようと野望に燃えており、盗賊稼業に勤しんでいる蔵馬が、この宝石を自分に渡したことが、少女には信じられなかった。
少女は激しく困惑した。
自分も盗賊なので、それほどまでに価値のある宝石は、ほしいかほしくないかと問われれば、ほしいと答えるだろう。
しかしそれ故に、蔵馬も、こんなにも高価なものを手に入れたい気持ちがあるだろうことはわかるので、余計に驚きを隠せずにいた。
なので、本当にこの宝石を、自分が受け取ってもいいのかどうか、確かめるように、自分より背が高い蔵馬を見上げた。
「……いいのか?これを……私がもらっても……」
少女は、今自分が心の中で思っていることを、蔵馬に問いかける。
「ああ…。これは…オレからの贈りもの。オレが、本気でお前のことを好きだという証拠。オレの、お前への愛の証だ」
質問の意味を、短いセリフから瞬時に理解した蔵馬は、あの極悪非道と恐れられている妖怪とは思えないほどの、やわらかな笑みを少女に向けた。
その笑みを見ると、少女は先程とは別の意味で驚き、頬をほのかに染める。
「………本当に……本気………なのか……?」
「ああ………」
蔵馬の、以前とまったく変わらない答えと、まっすぐな瞳を見ると、少女は再び金鈴珠に目を向けた。
「お前が………国を建てるため、盗賊をやっているお前が……この金鈴珠を私にくれるということは……本当に…本気なんだな…」
「もちろんだ」
再度問いかけても、蔵馬の答え(想い)も…そのまっすぐな瞳も変わらず、少女を愛しそうにみつめていた。
「そうか……。わかった……」
少女は、自分の手にある金鈴珠を、ぎゅっとにぎりしめる。
「お前の本気を信じよう…」
ようやく自分の本気を信じてくれたので、蔵馬はほっとした。
「なあ……」
「なんだ?」
「…貴様に話したいことがあるんだが……いいか?」
「ああ」
「……この一ヶ月……私は私なりに、お前に告白されたこととか考えていた。告白されたことが未だに信じられないが、それでもふしぎと、不快に感じない…。
私は他人は好かない。一緒にいるとわずらわしいだけだからだ。正直、お前が毎日会いに来てたのもわずらわしかった。けど……段々とそうではなくなった。お前が、私を好きだといい、ともにいることを望んだ時から、心に違和感を感じるようになった。
お前がこの一ヶ月会いに来なくて、もの足りなさを感じたし、なんだか……胸に大きな穴があいてるような感じがした。
心に冷たい風が吹いてるようだった。寂しいって思った。会いたいって思った。お前のことを待ってる日もあった。こんな感情を抱(イダ)くなんて、自分でも変だと思った。
来ない間、何をしてるのか気になった。ずっと来てたのに来なくなったから、不満に思っていた。
それはきっと、自分でも気づかないうちに、お前の存在が大きくなっていたからだ。
私は、今までに出会ってきた者のことは覚えていない。だけど、お前のことは忘れられなかった。それどころか、ずっとお前のことばかり考えていた。
もしかしたら、他に女ができたんじゃないかと考えた時は、すごいイライラしたし、ムカついた。心の中がずっともやもやした。
つかまって、牢に入れられて、架屍目の国を滅ぼすという目的をとげられると…今日ですべてが終わると思った時、お前の顔が浮かんだ。目的をとげられるのはうれしいが、そうしたらお前に、もう会えなくなってしまうと思った時、心臓のあたりが痛みだした。痛みは、おさまるどころかどんどん強くなっていった。
だけど……その痛みは、先程お前を見た時になくなった。
そして、同時に変な感覚に陥った。けど、ふしぎと不快にはならなかった。
お前に抱きしめられた時、心臓がうるさく鳴り響いた。私の無事を喜んだ奴も今までいなかったから、なんだかうれしかった。お前にふれられて、とてもあたたかいものを感じた。
そして、何故私を助けにきたのか問うた後、護ると約束したと言われた時、私はまた変な感覚になった。そして、その答えを聞いた時、胸の痛みがおさまっていった。痛みがおさまって、胸にあいた穴が…欠けていた心のカケラが…うまった感じになったんだ。
お前が来てくれて…また会えて…うれしいと思った。
今までは、それが一体なんなのかわからなかった。
でも……ようやくわかった…」
蔵馬が自分に会いに来なくなってからのことを話し終えると、少女はまっすぐな瞳で蔵馬をみつめた。
「お前が好きだ……!」
そしてそのあと、自分の想いを、蔵馬にぶつけた。
蔵馬は少女の想いを聞くと、その言葉が信じられず、目を丸くして固まった。
「好きなんだ。蔵馬…」
更に、今までは「お前」か「貴様」としか呼ばれなかったのに、自分の名前を呼ばれたので、ますます驚いた。
「どうしたんだ?」
「あ………いや……望んでいたことだが、お前の口からそんな言葉が出ると、いざという時、どう反応していいかわからなくてな…」
「…自分でも、まだ信じられんがな…。
だけど……この一ヶ月間。お前が会いに来なくなってから、ずっとお前のことを考えてた。考えてる時は、心があたたかくなった。さっき告白された時も、胸が熱くなった。
私も……まだ、こんな感情は初めてで…。感情の名前は知っていたけど、それがどんな感じのものなのかはわからなくて…。たぶん…こういう感じなんじゃないかと思うだけだけど…。
でも……ただひとつ、はっきりとわかるのは……お前と一緒にいたいということなんだ。
だから……この…一緒にいたいという想いが………好き…って…ことなんだと思う……」
「……そうか…」
蔵馬は短く返すと、少女を抱きしめた。
抱きしめられると、少女は硬直し、蔵馬の顔を見上げた。
「えっと……蔵馬…?」
「オレも……」
「え?」
「オレも…同じだ…」
蔵馬は少女を抱きしめていた手を肩に置き、少しだけ体を離すと、自分よりも背が低い少女をみつめる。
「オレも…お前と一緒にいたいと思った。最初はわからなかったが、これが、好きってことなんだろうな…」
改めて蔵馬の本心を聞き、少女は微かに頬を赤くした。
「パープル・アイ……」
「なんだ?」
「オレと一緒に来ないか?」
「えっ…」
「お前と一緒にいたい。1年後も……10年後も……100年後も……ずっと……」
「けど……」
少女は少しだけ迷っていた。
同じ盗賊でも、自分は国を滅ぼすことを目的として活動している盗賊。
一方で蔵馬は、国を建てることを目的として活動している盗賊。
まったく違う目的をもつ者だからだ。
「大丈夫だ。別に、お前にオレの仲間になれと言ってるわけじゃない。お前はお前の目的のため動けばいい。オレはオレの目的のため、勝手に動くからな」
蔵馬はたったの二文字だけで、少女が何を思っているのか理解をして、少女に返した。
「…いいのか?私は国を専門にねらう盗賊だから、もしお前が国を建てたとしても、即行でつぶすかもしれんぞ?」
「そうなったら、その国は、その程度のものだったということ。それに、それでもオレは、お前と一緒にいたい。その気持ちの方が勝っている」
「…そうか」
少女は返事をすると、先程蔵馬からもらった、金鈴珠のネックレスをつけた。
蔵馬の気持ちそのものである、金鈴珠を…。
「似合うか?」
少女はネックレスをつけると、初めて蔵馬に笑顔を向けた。
「ああ…。とても…よく似合う」
少女の笑顔を見ると、蔵馬も優しい笑みを少女に向ける。
自分が贈った金鈴珠のネックレスを、受け取ってくれただけでなく、つけてくれたのと、少女が笑みを向けてくれたことが、蔵馬はうれしくなったのだ。
「私も……自分の目的も大切だが、お前と一緒にいたいという気持ちの方が勝っている。
だから……お前と一緒に行こうと思う…」
そして、少女の口から返事を聞くと、蔵馬は更にうれしさを感じた。
「パープル・アイ。実はお前に、もうひとつ贈り物があるんだ」
「なんだ?」
「お前の名前だ」
「私の……名前…?」
「ああ…。お前は、自分には名前がないと言った。特に呼ぶ者もいないから、不便じゃないとも言っていた。だが、これからはオレが一緒にいるから、呼ぶ名前くらいないと不便だろう。だから、オレが勝手につけさせてもらった」
「どんな名前なんだ?」
少女に問われると、蔵馬は自分で考えたという名前を少女に贈るために、口を開いた。
「瑠璃覇だ」
そして、ゆっくりと口を開くと、考えた名前を少女に贈った。
「瑠璃覇?」
「そうだ。それがお前の名前だ」
「瑠璃覇……。いい…名前だな…」
少女…瑠璃覇は頬を赤くそめ、うれしそうに笑った。
極悪非道と言われている女盗賊は、同じく、極悪非道と言われている男盗賊に、ふたつの贈りものをもらった。
ひとつは、魔界でも至高の宝石と言われる、金鈴珠。
もうひとつは、千年以上もずっとなかった、自分の名前。
それは瑠璃覇にとって、どんな綺麗な財宝よりも、価値のあるものとなっていく。
まさに、運命とも言える出会いを、同じ種族の二人ははたした。
まだ、ほのかに芽生えた小さな想いは、のちにかけがえのない想いに変わっていき、絆を結んでいく。
それは……誰も立ち入ることのできない、誰にも壊すことはできない、千年以上も続く、とても強固な絆である。
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