第五話 ふしぎな感情
その日の夜、少女は蔵馬に告白されたことを考えていた。
「(あいつが……私のことを…好き…!?)」
蔵馬が言った、たった三文字の言葉は、ずっと少女の心をしばりつけ、頭から離れなかった。
「(私は……あいつのことを、どう思っているんだ…。何故、自分の女になってほしいと言われた時に、私はすぐに断らなかった…?)」
他者が自分を好きことも信じられないが、それを不快に感じない自分は、もっと信じられなかった。
何故、自分は蔵馬の想いを断ったりしなかったのか…と…。
いつもなら、あっさりと拒絶するものだが、そういう思いは沸き起こってこなかった。
気になって…気になって…
蔵馬のことばかり考えていた。
第五話 ふしぎな感情
次の日は、蔵馬は少女に会いに来なかった。
というのは、少女のことが嫌いになったからではなく、単に盗賊としての仕事があったからだった。
「(………遅い……)」
だが、いかに魔界屈指の実力者として名高い少女でも、そんなことはわからないので、何故来ないのかふしぎに思っていた。
いつもならどこかに行ってしまうが、この日は蔵馬を待っていた。
「(何故あいつは来ないんだ?いつもなら、呼んでなくても、むこうから来るくせに…)」
この時少女は、不快感を感じていた。
でもそれは、蔵馬が来ないからだとは、少女はまったく気づいていなかった。
少女は蔵馬が来ないことにイライラしながら、そばにあった岩の上にすわりこむ。
しかし、待てど暮らせど、蔵馬は来なかった。
「うおおおおおおっっ」
「死ねェェェェ!!パープル・アイぃぃ!!」
蔵馬を待ちはじめてから何時間か経つと、いつものように敵がやって来て、少女に襲いかかった。
けど、少女はいつも以上に鋭い瞳を向けると、そこからまったく動かずに、すわったまま巨大な竜巻を起こして、一瞬で敵を撃破した。
「うるさい。ジャマ」
やや低めの声で言った時の少女は、少しだけ機嫌が悪そうで、眉間にしわをよせ、腕をくんで前を見据えていた。
「(なんなんだ、あいつは?私を護ってくれるんじゃなかったのか?今、私の前に敵が来たぞ。なんで来ないんだ!!)」
そして、どこかイライラとした様子で、結構ムチャクチャなことを考えていた。
「…夜か……」
それから、更に何時間か待ち、夜となった。
「(もう日が暮れたぞ。なんでまだ来ないんだ)」
けど、蔵馬はいっこうに来ないので、少女は少しだけ不満に思っていた。
「あれ…」
蔵馬が来ないことを不満に思っていると、少女はハッとなる。
「(何故私は、こんなにイライラしてるんだ?別に、あいつが来ようが来まいが、どっちでもいいじゃないか)」
他人などどうでもよかったはずなのに、今現在蔵馬のことを気にかけていた少女は、自分をムリヤリ納得させるように、心の中で言い聞かせた。
「(けど………なんだろう?なんだか……もの足りなさを感じる。一体……なんなんだ?この、変な気分は……)」
その、変な気分の正体や、何故もの足りなさを感じるのかはわからなかったが、確実に不快を感じていることだけは、少女にもわかった。
少女は、昨日蔵馬ににぎられた両手を上にあげて、目の前にもってきた。
「…………今夜は……少し冷えるな…」
周りでは、少女の心を表すかのような、少しだけ強く、少しだけ冷たい風が吹いていた。
そして次の日。
蔵馬は、いつも通り少女に会いに来た。
いつもと違うのは、少女が機嫌を悪そうにしており、少しだけ睨むように蔵馬を見ていたことだった。
この前、蔵馬が少女に恋をしていると自覚した次の日も、鋭い目で睨みつけ、不機嫌そうだったが、それとはどこか違っていた。
「どうした?何があった」
そのことに気づいた蔵馬は、今の少女に戸惑いながらも、何故そんな顔をしているのかを問いだした。
「何故…来なかった…?」
「は?」
「昨日のことだ。昨日は何故来なかったと聞いている。いつもは呼ばなくても来るくせに」
自分の問いに対する答えではなく、逆に質問をされたが、それだけで、少女が何故不機嫌なのかわかった蔵馬は、やわらかで優しい笑みを浮かべた。
「すまなかったな。昨日は、盗賊の仕事があったんだ。一日中な。決して、お前のことを忘れていたわけでも、会いたくなかったわけでもない」
「そうか」
蔵馬の口から、昨日自分のところに来なかった理由を聞くと、少女はどこかほっとしていた。
「さみしかったか?」
そんな少女を見ると、蔵馬はフッと笑い、少女に問うた。
「別に……。いつもいる奴が来ないから、なんだか違和感を感じただけだ」
「…そうか」
少女は蔵馬が言ったことを否定したが、今の少女の言葉で、少女が自分を気にかけてくれていることがわかった蔵馬は、また優しく笑った。
「それより、もうひとつ聞いてもいいか?」
「なんだ?」
「お前は……何故盗賊をやってるんだ?」
「え…?」
「お前は、私にほぼ毎日会いに来るが、昨日みたいに来ない時もある。そんなにしてまで盗賊の仕事をしていて、一体何を得ようとしているんだ?」
いつもの冷たい目ではなく、真剣な眼差しに、蔵馬はドキッとしながらも、理由を話そうとする。
「オレが盗賊をしているのは、魔界の新興勢力として名をあげるためだ」
蔵馬の口から出たこの一言だけで、少女の顔は凍りついた。
「名を上げ、国を建てるためには、力と財産がいるからな。その方法として、盗賊を選んだ。それだけだ」
それだけでなく、目つきが段々と鋭く冷たいものに変わっていき、表情も段々と暗くなっていく。
「ん?どうした?」
突然表情が暗くなったので、蔵馬は少女に理由を問いだすと、少女はその冷たく鋭い目で、ギロッと睨みつけた。
そのことで、蔵馬は肝を冷やす。
「………貴様は……本当に、私のことが好きなのか…?」
「…どうして……そんなことを聞くんだ…?」
少女の疑いの言葉に、蔵馬は不快そうに眉間にしわをよせ、表情をゆがめた。
「貴様は今、自分が盗賊をやっているのは、新興勢力として国を建てるためだと言った。そういった奴は、必ず私を利用しようと近づいてきた。それに、今一緒にいる奴らは、自分の野望をかなえるための、都合のいい手ゴマだと言っていたからな。だから……」
「だから…オレの気持ちを疑っているのか?」
蔵馬の言葉に、少女は小さくうなずく。
「どうしたら…信じてもらえる?」
「前にも言ったが、私は愛だの恋だのわからない。だから、他者の気持ちはわからない。信じるというのも…どんなものなのか…。
誰からも、愛されたことがないから…。名前すらもらえなかったから…。ずっと…自分を敵視する奴しかいなかったから…。
だから……お前の私に対する気持ちが本当なのか、確かめる術は何もない……」
「……………」
少女に疑われ、信じてもらえず、今度は蔵馬の表情が暗くなった。
「なら……証明すればいいのか?」
「え?」
そう言って蔵馬は、いつもなら日が暮れるまで少女の隣にいるのだが、その日は早々に帰って行った。
そんな蔵馬の後ろ姿を、少女はどこか寂しそうな顔で見送った。
次の日から蔵馬は、少女のところに来なくなった。
朝から夜まで、ずっと……。
最初は、ただ盗賊の関係のことで、忙しくて来れないのかと思っていた。
けど、さすがに10日経っても来なかったので、少女は気になり始めた。
それでも、どこか気にとめながらも、少女は自分の目的をとげるために動いていた。
蔵馬が少女のところに来なくなってから四週間が経った頃、以前少女が探索に行った国の国王のもとには、あるものが届いた。
それは、少女と蔵馬が初めて出会った屋敷で、少女が持っていたあの宝石だった。
宝石を見た途端、国王の顔はけわしくなり、その後、玉座の間全体に響き渡るような音が響いた。
国王が後ろにある壁を殴り、破壊したためである。
そこにいた家臣は、その音にびっくりした。
それだけでなく、国王の今の表情にもびっくりしていた。
何故なら、届いた宝石というのはこの国の国宝のニセモノで、それを見て、バカにされていると感じた国王の顔には、すさまじい怒りが表れており、目が血走っていたからだ。
「おのれっ!!パープル・アイめっ!!我が国の国宝のニセモノを作っただけでなく、それを我がもとへ直接送ってくるとは…。愚弄するにもほどがあるわ!!」
そして、激しい怒声で怒鳴り、あふれんばかりの殺気と妖気を放っていた。
そこにいる家臣達はみな恐れおののき、一言も言葉を発せなかった。
ちなみにこの宝石。もちろんこれは、少女が送ったものだった。
少女は、このニセモノの宝石を国王が見て、本物じゃないとわかった時に、激怒することを計算した上で、最初からニセモノを用意し、機をうかがい、それを今回送りつけたのだ。
そして、少女の予想通り、国王は激怒した。
すべては、少女の計算通りとなったのである。
そして、国王のもとへ、ニセモノの宝石を届けてから三日後。
蔵馬が自分のもとへ来なくなり、早くも一ヶ月が経った。
「(今日も来ない…か…)」
その日の夜が来て、もうあとちょっとで今日という日が終わろうとしていた。
少女は岩の上で蔵馬を待っていたが、今日も来る気配はなかったので、ひざをかかえ、どこか沈んでおり、寂しそうな顔をしていた。
「(なんだろう…。なんだか……胸に大きな穴があいてるような感じがする…)」
時間が経つごとに、蔵馬がいないことで、少女はもの足りなさや、心寂しいものを感じていたが、なんでそんなことを感じるのかわからず、自分でも変だと思った。
「(蔵馬……か……。あいつ……今頃何をしているんだ?)」
けど、日が経つごとに、忘れるどころか、ますます蔵馬の存在が大きくなっていたが、それが何故なのかもわかっていなかった。
「ひょっとして…」
突然少女はハッとなり、思わず立ち上がる。
「あいつ……他に女ができたんじゃ!?」
少女の頭の中に思い浮かんだのは、そのことだった。
「(いや………まさかな。でなければ、あの時の証明するって言った言葉が成り立たない)」
けどその考えはすぐに払拭され、少女は再び岩にすわる。
「(……いや……しかし………口ではああ言っただけで、やっぱり他の女に走ったんじゃ…。
それに……証明するって…一体どうやって?言葉なんかでは証明できないぞ。ウソなんて、つこうと思えばいくらでもつけるからな)」
だが、またすぐにその考えに至り、とてもやきもきしていた。
「やっぱり…あの時も、証明するとかウソを言って、他の女のところへ行ったんじゃ…!!」
今少女は、とてもイライラして、ムカムカしていた。
そのせいで、眉間に深いしわがよっていた。
すごいもやもやとしたものを心に抱えこみ、その気持ちを外に吐き出した時だった。
「!!」
突然周りに気配を感じた少女は、後ろへ振り向き、鋭い目を相手に向けた。
「パープル・アイ…だな…?」
そこには、いつもよりもたくさんの敵がいた。
正確な人数はわからないが、ざっと数えただけでも30人を超えていた。
「我々は……架屍目(カシマ)の国の、国王の遣いである。我々と一緒に来てもらおうか」
その中の一人。
この集団のリーダーの男が、少女に向かって命令をしてきた。
「私に命令をするな。それに私には、貴様らと一緒に行かねばならない理由はない」
「貴様になくとも、我々にはある。仕方あるまい…。
実力行使だっ!!!!!!」
リーダーの言葉で、周りにいる男達は、いっせいに少女に襲いかかった。
「…実力行使?」
彼らが向かって来ると、少女はスッ…と目を細めて鋭くさせ、目の前の敵を見据え、四方八方から刃のように鋭い突風を吹かせて、敵を倒した。
そこにいた者は全員、リーダーも含めて、少女の風で体を八つ裂かれ、バラバラになった。
「そういう言葉は、本当に実力がそなわっていて、はじめて使っていいセリフだぞ。貴様らごとき、有象無象の集団が、使っていい言葉ではない」
今向かって来た連中は、少女にとって技など必要ない、その程度の相手。
あまりの弱さに、少女は今倒し、すでに息はない、血の海に沈んだ敵に向かって吐きすて、敵がいる方とは反対を向くと、そこから去ろうとした。
「!!」
けど、反対方向にも敵が数十人おり、彼らは各々武器を構えていた。
「パープル・アイ。一緒に来てもらうぞ」
「しつこいな、お前らも」
いつもよりも多すぎるので、少女はため息をつく。
「まあいい。敵はすべて排除する」
…と、少女がそう言った時だった。
「つかまえたぞ、パープル・アイ」
別の男の声とともに、自分の腕がつかまれた。
声がした後ろへ振り返ってみると、そこには、今目の前にいる敵や、先程自分が倒した敵よりは強そうな男がいた。
背が高くガタイがいい。筋骨隆々で、見るからに強力無双といった感じのその巨漢は、自分があのパープル・アイをとらえれたことに、得意気な笑みを浮かべていた。
「さあ…一緒に来てもらおうか!!」
風の力を使えば無敵だが、力に関しては弱く、身動きができない少女は、その男にとらえられると、そのまま連れて行かれてしまった。
行き先は、彼らの主がいる架屍目の国である。
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