#3 花道VS.ゴリラ
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それから何分か歩いていき、体育館につくと、体育館では、花道とバスケ部のキャプテンが、バスケットボールの対決をしていた。
一階も二階も観客でうまっているので、魅真と流川は、外側の扉から中の様子を見た。
みな二人の勝負の行方を見ており、あまりにたくさん人がいるので、背が高い流川は前にいる生徒の頭の上から見ることができたが、背がそんなに高くはない魅真は、人と人の間から見ていた。
体育館にいたのは、花道と、花道以上に背が高くて体格がいい、ゴリラのような風貌の男だった。
「(あのゴリラ……じゃなくて、あの人が、私がこれからキャプテンとして、先輩として接していく人か…。てっきり、三井さんがキャプテンかと思ったけど…)」
バスケ部のキャプテンというので、てっきり三井寿がキャプテンで、花道と対決しているのかと思ったが、違ったので、魅真はがっかりしていた。
「あの…すみません」
そして、前にいた男子生徒に、今の状況と、この戦いのルールを聞いた。
男子生徒は、二人の戦いを見ていた最中だというのに、親切にも、簡潔にだが教えてくれたので、教えてもらうと、魅真はお礼を言った。
一方で花道は、相手はバスケ部のキャプテンなので、ダラダラと動き回っていたのでは相手の思うツボなので、勝負は一瞬。獲物をしとめる鷹の動きで勝負しようと、目を光らせた。
「スキありーーーっ!!」
花道は自分の作戦通りに動いた。
「!!」
「とりゃあ!!」
だが花道は、手ではなく、バスケットボールを蹴って、相手からボールを奪った。
「わははははははは!!」
「なんなんだ、アイツは!!」
「あのバカ…」
「そりゃサッカーだ!!」
「おめーは、バスケットとサッカーの区別もつかねーのか!!」
「バスケは足をつかっちゃいけねーんだ!!」
「な…なにい…!?」
足を使ってはいけないバスケットボールで、足を使ったので、周りからは爆笑され、この対決を中で見ていた洋平も呆れていた。
「バッカじゃないの…」
バスケで足を使っちゃいけないのは、バスケ部に所属していなくともわかる、学校の授業で習う初歩中の初歩なので、魅真も呆れ、毒づいていた。
「勝負はこれからだ。このゴリラジジイ!!サル!ハゲ!!」
「ぬう……」
周りからバカにされたのがはずかしくなり、顔を赤くしながら汚い言葉を投げかけると、当然ゴリラ……もとい、バスケ部のキャプテンは怒りに燃えた。
「(みにくい…)」
花道が汚い言葉を投げかけたので、流川は冷めた目で見ていた。
#3 花道VS.ゴリラ
勝負は続き、バスケ部のキャプテンの赤木は、またゴールを決めた。
「おおーっ。あっというまに8ゴール目だ!!」
「やっぱこりゃ、実力がちがいすぎるぜ!!」
赤木が10ゴール決めるまでに、赤木からボールを奪って、1ゴールでも決めることができれば花道の勝ちというルール。
そんな中、赤木はもう、8回もゴールを決めたので、チャンスはほとんどなくなってしまった。
だが、周りがヤジをとばす中で、魅真と流川はただだまって勝負を見ていた。
「くっそーっ!!」
もともと負けず嫌いな性格なのと、嫌いな相手が、嫌いなバスケットで自分を上回っているので、花道は悔しそうに叫ぶ。
「どーだ!これが、てめーが玉入れアソビとバカにしたスポーツだ!!バスケットをナメるな!!」
この勝負は、花道がバスケットのことを、「タマ入れアソビ部」などと侮辱したことで始まったので、激怒している赤木は、花道を指さして怒鳴りつけた。
「ふう…。なんか、あの人好きになれないな」
「ハ?」
その様子を見ながら魅真がつぶやくと、隣にいる流川は反応して、魅真の方に顔を向けた。
「だって、花道は私が知るかぎり、まともに授業に出たことないのよ。あの感じでいくと、たぶん、授業ですらバスケをやったことない。
あの人、最初から花道がシロートだって見抜いてたみたいだし。それなのに、バスケの勝負なんて、いくらなんでも大人げなさすぎるわ。それに、この勝負のルールをさっき聞いたんだけど、一見ハンデをあげてるように思えるこのルール。どう考えても相手に有利だし、主導権はあっちがにぎっていたみたいだし、全然フェアじゃないわ。
私、ああいう人って、なんか好きになれない」
「でも、その好きになれない奴が、これからオレ達をひっぱっていくキャプテンだろう?」
「そこなのよね」
はぁ~~~と深くため息をつく魅真。流川は、言ってる意味と、何故そこでため息をつくのかわからなかった。
「(三井さんがキャプテンじゃないってだけでもショックなのに、あの、イケスカないゴリラがキャプテンとか…。あ…ひょっとして、三井さんは副キャプテンなのかな?でも、それだけでなんか嫌かも。三井さんの実力が、あのゴリラに劣ってるって言われてる感じがして…。やっぱショックだわ…)」
魅真がため息をついた理由はこれだった。
この勝負を見にきたのは、花道が心配だったからというのもあるが、実は三井寿がキャプテンで、体育館にいるからと思ったからだ。
だが、実際に体育館で花道と勝負をしていたのは、三井寿ではなく、知らない人物だった。
確かに、初めて見た時から3年も経ってるので、多少は顔つきが変わっているだろうが、明らかに違う人間だというのがわかった。
花道は負けてるし、キャプテンは三井寿じゃないしで、魅真はガッカリしていた。
「(あ!でも、ということは……三井さん、この中にいるってこと?)」
けど、今は放課後で、もう部活が始まっている時間帯なので、この体育館のどこかにいるかもと、魅真は三井を探すために、体育館の中を見回した。
だが、前に人がいるのと、バスケ部以外の生徒もたくさんいて、体育館が人であふれ返っているので、みつけることができなかった。
一方コートでは、赤木がまだボールにふれてすらいない花道を挑発して、ボールにさわりたいかと花道の前にボールをもってくるが、花道がさわる前に動かし、さわれないようにした。
余裕の表情で、明らかにわざとやっているのがわかるほどだった。
そして、何回かそれをくり返すと、赤木は花道を抜いて、ドリブルをしながらゴールまで走っていく。
それを見た花道は苛立ち、赤木を追いかけていった。
あっさりと追いついたので、赤木は花道を称賛するが、それだけでは自分には勝てないと挑発すると、花道はますます燃えて、絶対勝つと断言した。
その時、花道は足をすべらせてしまい、宙に浮いた。
とっさに赤木のズボンをつかむが、一緒に倒れてしまう。
「い…いってえな、このヤロウ!!」
「おお、ワリ……」
今のはわざとではないが、赤木を巻きこむ形となってしまったので、さすがの花道も謝った。
「………!!」
だが、起き上がった瞬間、花道は目の前のものを見て、顔が青ざめ、冷や汗を流した。
「ん」
それは、花道がとっさに赤木のズボンをつかんだせいで、赤木はズボンと下着が一緒に下がってしまい、尻が丸だしな状態になっていたからだ。
この光景に全員が固まり、晴子とその友人の藤井は顔を赤くしていた。
当然、魅真も流川も固まっており、流川に至っては、変なものを見るような顔をしていた。
「うわあああっ!!」
瞬時に状況を理解した赤木は、焦りながらズボンと下着をひきあげる。
「ス、スマン!ワザとじゃない。これはアクシデントだ!!不幸な事故!」
「き…きさまというやつは…」
悪気があろうとなかろうと、高校生男子が、公衆の面前で尻を丸出しなど、耐えがたい屈辱であることに違いはなく、赤木は顔を真っ赤にして震えていた。
「殴られなきゃわからんのかァ!!!」
「だから謝ってるだろ!ワザとじゃない!!」
「キャプテン!!き…気持ちはわかりますがおちついて!!」
今にも花道に襲いかかりそうな赤木を、二人の部員が止めるが、おちつけと言いながらも、その顔は笑いをこらえていた。
「さあ、勝負再開だ!!てめーは、あと2ゴールで負けだからな!!」
笑いをこらえている二人の部員の頭を一発ずつ殴ると、ボールを取りに行った。
一方で、魅真は相当ツボに入ったらしく、まだ笑っており、流川の胸に顔を押しつけて、声を出すのをこらえながら、流川の体をドンドンとたたいていた。
「ちょっと…いてーんだけど」
体育館に向けていた顔を魅真の方に向けて、冷静に、淡々と抗議をするが、痛いと言いながらも、流川は無表情のままだった。
「このバカタレ!!戦国時代だったら、てめーなんか叩っ斬ってやるところだ!!」
「ぬ…」
「もう許さんぞ!手加減など、一切せんからな!!」
赤木の怒りは当然だった。
赤木がボールをひろってくると、勝負は再開され、赤木はあっというまに9回目のゴールを決めた。
「これで9-0だ。あと1本で、てめーの負けだな!!オマエはカスだ!!バカめ」
よほど先程のアクシデントが頭にきたようで、赤木は少しだけ小学生っぽいことを言って、花道をバカにする。
「ぬう…。こっちは謝ってんのに、なんて短気なヤローだ!!」
「「「「オマエもね」」」」
「もう完全に怒った!!」
もともとこの対決は、花道が短気をおこして始まった試合なのに、自分のことは棚上げだったので、近くで見ている洋平達は、四人同時に同じことをつっこんだ。
洋平達の隣にいる晴子はというと、もう止めなきゃと叫んでいた。
「(くそう。どうすればとれるんだ!?あと1本で、あのゴリラに負けてしまう。一体どうすれば…!!)」
赤木があと1回ゴールを決めてしまえば、花道の負けは決定してしまうので、どうしたら相手からボールがとれるのかと、花道は悩んだ。
周りの観客達は、素人である花道が、もう決まった、勝ち目はないとさわぐ。
「桜木君!!」
その時、花道の耳に、晴子の声が届いた。
「(ハルコさん―!!)」
声がした方へふり向いてみると、そこには晴子が立っていた。
「(もうやめて…!!桜木君!!)」
晴子はこの勝負をやめてほしいと思っていた。
「ハルコさん…」
けど、花道は晴子の姿を見ると、一瞬呆然とした後、目に涙を浮かべた。
涙を腕でぬぐい、もう一度よく見てみると、幻ではなく、確かにそこに晴子がいたので、また涙を流した。
「(応援しててくれたんですか…!!)」
晴子をみつけただけで、応援してくれてると思った花道は、感激のあまり、滝のような涙を流した。
「ん?」
「(あれ?なんか様子が……)」
急に雰囲気が変わったので、晴子も魅真もどうしたのかと思った。
そして花道は、急にメラメラと闘志を燃やしだした。
「ん?」
その様子を見た赤木も、一体どうしたのかと思った。
「さァ、こォォォォい!!!」
今まで以上にやる気になった花道は、赤木を挑発する。
やる気に満ちている花道を見て、先程まで勝ち目はないと言っていた観客達も盛り上がった。
「(ゴチャゴチャ考えるのはやめだ!とにかく、シュートを決めさせなければいいんだ!!)」
再び勝負が再開され、赤木はあっという間にゴール前まできて、シュートを決めようとした。
「フンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフン」
「うおっ」
花道は持ち前の体力や運動神経、瞬発力をもって、手をあげた状態で、素早く赤木の前を縦横無尽に動き、赤木がゴールを決めるのをはばんだ。
それは、まるで壁のようだった。
このやり方を見て、観客達も称賛していた。
そして赤木は、この花道の技で、ボールを落としてしまった。
当然追いかけるが、花道もボールをとろうと、その場を跳躍して、赤木の肩をも跳び越えた。
その後ですごい音がしたので、観客達は心配する。
「ボ…ボールは!?」
「あっ!!」
「へへ…。とったぞ」
「(こ…こいつ………!!)」
二人とも無事で、ボールは、床に落ちた状態であったが、花道がとっていた。
花道はボールをとると、その場を立ちあがる。
それを見た観客達は、また花道を称賛し、更に盛り上がりを見せた。
「やったあ!!やったやった、花道!!」
花道がボールをとったので、魅真もとても喜んでいた。
一方洋平達の隣では、盛り上がってる観客達を見て、晴子は、みんなが花道のすごさをわかってくれたので、興奮していた。
先程までやめろと言っていたのに、まったく逆のことを言っているので、洋平達はそのことに対してつっこみ、友人の藤井と松井は呆れていた。
そしてその後、高宮、大楠、野間の3人は、この勝負が始まる前に行っていたカケを再開し、晴子は花道がバスケ部の救世主だと、心の中でだが、赤木に伝えていた。
「(ハルコさん…)」
「ガンバッテ!!」
花道が晴子に顔を向けると、晴子は満面の笑顔で手をふって応援をした。
そのことに感激した花道は、体をプルプルと震わせる。
「きらわれてはいなかった!!きらわれてはいなかったあーーーっ!!」
「「「「おおーーーーっ。完全に立ち直ったぞ!!」」」」
「(なるほど。急にやる気になったのは、あの赤木さんがいたからのね。それに、何があったかわからないけど、カン違いだったってわかったみたいだし。よかった)」
更に、涙を流しながら踊りだしたので、その様子を見て状況を察した魅真はほっとしていた。
「バカにも少しは知恵があったようだな。さァこい、赤い髪!!」
赤木は、花道が自分からボールをとったので、更にやる気になったのか、花道を挑発する。
「わははははは」
一方調子にのった花道は、ボールをつかんで円を描くようにふりまわす。
「フンフンフンフン」
「「「「おお~~~っ。ノリまくっている!!」」」」
それだけでなく、ボールハンドリングまでやっており、完全にノッていた。
「いくぜっ!!」
「こらこら、ちょっとまて!!」
勝負再開とばかりに、花道はボールを抱えてゴールに向かって走り出すが、そこを部員に止められたので、花道はその場で止まる。
「こらあ、ラグビーじゃないんだぞ!!ドリブルもしらんのか!!」
「ぬ…?」
「ボールもって、3歩以上歩いちゃいけないんだよ!!」
二人のバスケ部員がダメ出しをするが、ルールを知らない花道にはさっぱりわからなかった。
「かまわん!!」
「「「!」」」
「好きなようにさせろ」
「赤木さん…」
けど、花道と勝負をしている赤木は、それを許可した。
「どんな方法だろうが、あのリングにボールは通させん」
赤木は花道の前に立ちはだかった。
顔立ちや身長の高さや体格のよさもあるが、高校生とは思えないすごい威圧感を放っていた。
「うあ…。スゴイ威圧感だ…!!」
「まるで仁王様だ」
「ぬ…」
その威圧感は、バスケ部でない観客達や、素人である花道も感じていた。
それでも花道は、シュートを決めるために、ゴールに向かって走っていくが、赤木に止められる。
そっちがダメなら反対側だと、左側に動くが、素早く動いた赤木が花道の前に立ちはだかり、花道の行く手をはばんだ。
なら、今度は右側だと移動するが、同じように止められ、それならまた左側だと移動するも、またしても同じように止められる。
何回も連続で止められたので、イラついてきた花道は、その場でシュートをするが、赤木にボールをたたきおとされてしまった。
「でたあーーっ!!」
「˝ハエタタキ˝!!」
「うおおおっ」
「なんだ今のは!?」
「スゲエッ!!」
「まるでバレーのスパイクだ!!」
赤木のブロックに部員達は得意気な顔になり、観客達はどよめいた。
花道は、ボールをブロックされてしまったが、なんとかボールをとり、赤木の手に渡ることはまぬがれた。
「さすが赤木さん!!」
「「ゴール下のキングコング」の異名は、ダテじゃないぜ!!」
「…………」
「やっぱりムリだーっ!!相手がわるすぎるぜ!!」
今のブロックで、観客達は手の平を返したように、先程とはまったく逆のことを言っていた。
「(さー、どーする)」
「(あのゴリラ…。花道がシロートだとわかってるのに、それでも容赦なく向かっていったってことは……花道がタダ者じゃないと直感したのかしら?)」
魅真はというと、初心者の花道相手に本気になったということは、恐らくそういうことなのだろうという答えを出した。
一方晴子は、花道は初心者なのだから、そんなに本気にならなくてもとおろおろとしており、洋平は魅真と同じことを口にしていた。
なんとかボールが相手の手に渡るのを死守した花道は、深く呼吸をすると、まっすぐに前を見据えた。
そのまっすぐで真剣な顔に、魅真、流川、赤木は、何か狙ってるというのがわかり、赤木は構えた。
花道は深く呼吸をすると、大きくふりかぶり、野球の球を投げるように、ボールをリングに向けて投げた。
観客はヤケクソのシュートかと思ったが、魅真と流川と赤木は違うことに気づく。
花道はボールを投げると、ゴールに向かって走っていき、ゴールの前まで来るとジャンプをした。
ジャンプをした時に、ちょうどバックボードにあたってはね返ったボールを、花道はとろうとする。
「一人でアリウープ!?」
そう…。花道は、赤木をぬくことができないのならと、ボールを投げ、そのままとってダンクを決めようとしたのだった。
しかし、赤木に読まれていたので、一瞬早く、赤木がボールをとってダンクを決めようとしたが、それでも花道はあきらめず、赤木がつかんでいるボールをつかむと、後ろにひいた。
「(リングのまん中に…)」
そして、ボールをもってゴールをめがけて
「たたきつける!!!」
リングの中にいれた。
花道がダンクを決めると、赤木の手がボールからはずれ、赤木はそのまま床にたたきつけられた。
そして、その光景を見ていた観客達は、呆然として静まりかえった。
「うわあああああっ」
「信じらんねーーっ!!」
花道がゴールを決めると、そこにいた者達は全員、一瞬固まったが、すぐに歓声がわき起こった。
「きゃあーーーー!!やったあ。花道が勝ったあ!!」
いろいろとあったが、なんとか花道が勝ったので、魅真は満面の笑顔になり、両手をあげてうれしそうに笑っていた。
「花道っ」
そして、魅真は花道のもとへ駆けていった。
「ハルコさーん!!見ててくれましたーーっ!?」
しかし、花道は魅真の存在には気づかず、うれしそうに笑い、手をふりながら、まっすぐに晴子のもとへ駆けていったので、魅真はガックリきて、その場に立ち止まる。
「ハルコさんに教えてもらったスラムダッシュで、ゴリラジジイに勝ちました!!」
「ダンク」
「そう!!スラムダンク」
「桜木君」
「「リングのまん中にたたきつける」!!ハルコさんのおかげだあ~~~っ!!」
晴子の前まで来ると、花道は晴子の両手をとって、興奮してしゃべっていた。
「(…ま、いっか)」
花道は魅真の存在に気づかずに晴子のもとへ行ってしまったので、魅真は少し複雑な思いをしていたが、誤解がとけて、花道もいつも通りの花道に戻ったし、気持ちがわからなくはないので、仕方ないとも思っていた。
「あの、桜木君…。この前はゴメンなさい。あたしったらカンチガイして、ひどいことを言って…」
「イヤイヤイヤ。全然、気にしてないっスよ!!」
「(ウソつけ!!)」
思いっきり気にしており、自殺未遂までして、この世の終わりが来たような顔をして落ちこんでいたのに、調子よく大きな声で笑っていたので、魅真は心の中でつっこみ、洋平達もどこか呆れ気味の顔をしていた。
「それより、ボクのスラムダンクを見てくれました!?ハルコさんに教えてもらった、スラムダァ~~~~ンク!!今、あのゴリラジジイを退治してきましたよ!!」
花道が更に調子にのって話していると、魅真と洋平と大楠は、あるものに気づき、そちらに目をやった。
「あのゴリときたら、ヒドイ悪党でですね。動物園のゴリラを集めて、チームをつくって、自分はキャプテンだとか言って、ゴリラをしごいてるというほどの男!!しってます?ハルコさん」
その存在は花道の後ろまでやって来て、晴子や高宮や野間も気づく。
「でも、もう大丈夫!!退治しましたから。ボクらの愛するバスケットに、あーいう狂暴な動物をのさばらせてはいけませんからね!!」
それは赤木で、赤木は花道のすぐ後ろまで来ていたが、花道はまったく気づかず、赤木の存在に気づいている晴子は冷や汗をかき、洋平達はニヤニヤと笑っていた。
「ボクらのスラム…
おおっ!?」
そして花道は、話している途中で、赤木にタンクトップをつかまれて、後ろにひっぱられる。
「いてーっ」
ひっぱられると、そのまま床に倒された。
「な…なにしやがる、ゴリラジジイ!!」
倒れてようやく赤木の存在に気づくと、突然床に倒した赤木に、当然花道は怒った。
「だいたい、てめーは負けたくせに…」
花道はすぐに起きあがると、怒りで、赤木の頭にチョップを何度もかます。
「晴子、こいつがまさか…」
「うん」
けど、赤木はかまわず、晴子に確認するように話しかけた。
「ハ、ハルコだとォ。呼びすてにするとは……!!!」
しかも、晴子の名前を呼びすてにしたので、花道はショックをうけ、激怒する。
「ズーズーしいにもホドがあるわい。この、ゴリ!!ハルコさんに近づくんじゃねえ。あっちいけ!!」
花道は晴子をかくすようにして、晴子と赤木の間に立ちはだかり、手を上下に動かして追い払う仕草をして、晴子に赤木を近づけないようにしていた。
「この人が桜木君よ、お兄ちゃん」
「しっしっ…」
しかし、その時晴子の口から、信じられない言葉が出た。
近くでは、事情を知っている洋平達がニヤニヤと笑っており、初めて知った魅真は、信じられないようなものを見る目で、赤木と晴子を凝視した。
「しっ…!」
花道も、晴子が言った言葉に、声と動きが止まり、後ろにいる晴子の方へ顔を向けた。
「今、なんと?」
「お兄ちゃん」
とても信じられないことだが、赤木は晴子の兄であり、晴子は少し照れながら、同じ言葉をくり返した。
「お兄ちゃん」
それでも花道は信じられず、晴子の声がより聞こえるように、手を耳までもってきて、その耳を晴子に近づけてもう一度聞くが、晴子の口から返ってきたのは、同じ答えだった。
「お兄ちゃん」
けど、答えを二回も聞いたのに、再度確かめるように、口をパクパクと動かしながら、赤木と晴子を交互に指さすが、晴子が言ってることは変わらなかった。
「「「「お兄ちゃん」」」」
更に、とどめをさすかのように、晴子の後ろにいた洋平達が、ニヤニヤと笑いながら、四人同時に同じことを言った。
何度確かめても答えは同じで、晴子との付き合いが、自分と変わらない洋平達が口をそろえたことで、本当のことだとわかったが、それでも信じられず、花道は呆然としていた。
「(ウソ……。マジで…?)」
一方魅真も、どこをどう見ても、晴子と赤木が似ていないので、疑いの目を向けていた。
「桜木…」
赤木が花道の名前を呼ぶと、花道はビクッとなり、硬直する。
「負けたぜ…」
「お兄さま………!!」
けど、赤木が笑みを浮かべて自分の負けを認めると、花道は目をうるうるさせて、先程までゴリラジジイと言っていた赤木のことを、図々しくもお兄さまなどと呼んだ。
「なーんて言うと思うか、このドアホ!!だれがお兄さまだ」
「うわあああっ。これつまらないものですが、おちかづきのしるしに!!」
「いらんわ!!」
「「「「ワハハハ!!」」」」
だが、今言ったことはウソで、赤木は花道を殴りだし、花道はどこから取り出したのか、手みやげを赤木に渡そうとするが、拒否された。
その光景を見て、晴子は焦っていたが、洋平達は大きな声で笑っていた。
「(よかった。本当に…)」
少し離れたところでは、花道が勝ったし、晴子との仲がなんとかなったので、魅真はほっとしており、その顔にはやわらかい笑顔を浮かべていた。
そして同じ頃……。
「(やるじゃん、桜木…)」
体育館をあとにした流川は、花道が赤木に勝ったので、花道のことを認めていた。
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