#24 新しい夢
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「うっ……。テ…テメェは……」
「おおっ!その顔は」
三井が答える前に竜が起きあがり、竜の顔を見た花道は、この前の事件で、竜が流川を襲った時のことを思い出すと、竜の前に歩み寄っていき、竜は花道に圧倒されて、後ろにさがった。
「あの時は…オメェ…」
「な…なんだよ…?」
「あの時は、流川をよくやった。うん」
迫力のある目で睨んでいたので、何か恨みごとを言うのかと思ったが、そうではなく、褒めた上に肩をポンポンとたたいたので、竜は呆然とした。
「やっ…やっちまえ!!」
けど、すぐに正気に戻って、子分達に命令をした。
「ん?」
すると、4人の男達が、花道をとりかこんだ。
「やめろ、桜木!!手を出すな!!」
「手を…って…」
すると、突然三井が声をはりあげたので、花道は三井がいる方に顔を向け、呆然としたが、その隙に、紫の髪の笑顔に殴られた。
殴られたことで顔の向きが変わり、体も少し傾くが、花道はすぐに顔と体の位置を戻し、殴られたところを指でかきながら、相手を睨みつけた。
花道の眼力に、紫の髪の男はたじろぎ、花道はその隙に男の胸ぐらをつかみあげると、男は足が地面から離れ、宙に浮く形となり、それを見た竜は驚いた。
「桜木、やめろ!!お前が1発でも殴ったら、おしまいだ…」
だが、そこを再び三井が止めた。
花道は、三井が声をかけたことで後ろに向けた顔を、男の方に戻すと、以前、練習中木暮に、今年こそ全国へ行く、自分も赤木も三井も最後の夏だと言われたのを思い出すと、胸ぐらをつかんでいた手を放し、男を解放した。
「はははははははは!!こいつはいいや」
まさか、花道が何もせずに手を放すとは思わなかったので、竜は一瞬呆然としたが、すぐに覚醒して愉快そうに笑うと、先程、花道に下敷きにされた時に、手から離れて地面に落ちた鉄パイプをひろう。
「テメーにも、こないだの借りを返してやる」
花道が攻撃できないのがわかった竜は大きく出たが、一切攻撃ができなくなった花道は、歯を噛みしめ、悔しそうな顔をした。
「うあああああっ!!」
けど、竜は躊躇も容赦もなく、花道に鉄パイプで殴りかかった。
「やっ、やめろお!!」
まさに絶体絶命のピンチだが、その時、花道がやってきた塀の上から、洋平、大楠、野間の3人が跳んできて、花道と竜の間に着地した。
「そうはさせねえぜ」
「お、おまえら……」
たのもしい味方の登場に、花道はどこかほっとしていた。
「ふはははは。あはははは!!桜木軍団、ただ今参上!!高宮望、いくぜえ!!」
更に、塀の上には、まだここにはいなかった高宮が現れて、洋平達と同じように跳ぼうとしたが、ズボンの裾が金具にひっかかってしまい、花道の上に尻から落ちていき、花道を下敷きにした。
「スマン…」
高宮は謝るが、相手は高宮なので、花道はとても重そうにしていた。
「残念ながら、テメーの思うようにはいかねーよ。それに、オレ達のダチをやった借りも返さねーとな」
「ナ…ナメンなよ…!!」
大楠、高宮、野間、洋平は、壁の向こうで、魅真が竜にリンチされたという話を聞いていたので、冷静な顔をしていたが、実は怒りに燃えていた。
洋平に挑発をされると、竜は鉄パイプで洋平に殴りかかるが、洋平は体を横に少しずらしてよけ、鉄パイプは花道が片手でつかんで止めた。
竜は鉄パイプを花道の手から離そうとするが、花道の強い力の前では、うんともすんとも言わず、それどころか花道は、鉄パイプを曲げてしまい、地面に投げすてた。
「テ…テメェ…!!」
「いい加減にしろよ…。オメーら!!」
切れてる花道は、今にも竜達に襲いかかりそうな迫力だった。
「やめろ、桜木…」
なので、三井は再び花道を止める。
「花道、ここはオレ達にまかせろ」
三井だけでなく、洋平にも止められるが、花道は竜達がいる方へ歩いていく。
「桜木!!」
三井がもう一度止めるが、それでも花道は止まることなく、竜の前にやってきた。
「目で殺す!!」
けど、花道は殴るのではなく、赤木に教えてもらった、ディフェンスの極意をやった。
「目で殺す!!」
次に左に顔を向けて、紫の髪の男に対しても、ディフェンスの極意をやる。
「目で殺す!!」
更に、今度は右に顔を向け、髪の長い男にディフェンスの極意をやった。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!」
3人の男達の前を順番にまわり、何度もディフェンスの極意をやったが、やりすぎてつかれたのか、立ち止まると、荒い息をくり返す。
「はははは!!これぞディフェンスの極意。目で殺す!!」
「ディフェンスの極意?」
そんなものは存在しないので、三井は、花道が何を言ってるのかさっぱりわからなかった。
「ちょっと目がつかれるけど…」
でも花道は、極意だと信じて疑っておらず、今ので乱れた目の方向を直すために、両頬を軽くたたいて直した。
「ふざけんなよ、赤頭!!」
今のでキレた、髪の長い男は、持っていたヘルメットを武器にしてふりまわし、花道を攻撃する。
「オラ!!オラオラオラオラオラ!!オラ!!オラオラオラオラオラオラオラオラ!!」
何度かふりまわすが、花道はその攻撃をすべてよけた。
その時、彼の足首をつかむ者が現れた。
「うああああああああっ!!」
それは、ずっと気絶して、地面に倒れていた鉄男で、鉄男は男の足首をつかむと、体を頭上に持ち上げる。
まさかの鉄男の参戦に、竜は驚いた。
男を持ち上げた鉄男は、塀に向けて投げとばした。男は投げとばされると、塀にたたきつけられ、そのまま地面に落ちた後、ヘルメットも地面に落ちた。
男を投げとばした鉄男は、三井をかばうようにして三井の前に立っており、息を吐きながら手を動かした。
「て…鉄男…」
三井に名前を呼ばれると、鉄男は顔を、後ろにいる三井に向ける。
「急がねえと試合が始まっちまうぜ」
「おお、そうだった。ミッチー!」
「早く行け、花道」
「お、おう。しかし大丈夫か?お前達だけで」
鉄男だけでなく、洋平にも促されると、花道は試合会場へ向かおうとしたが、そうなると、洋平達だけで竜達の相手をすることになるので、花道は洋平達を心配した。
「ああ」
「軽いぜ」
「ちょろいちょろい」
洋平が返事をすると、大楠と野間も、心配無用と言うように返事をした。
「じゃあ、あとはまかせるぜ!」
「おう」
「まかされてやるさ」
洋平達が問題視していないので、花道は、この場を洋平達にまかせて、試合会場に行こうとした。
「鉄男…」
再び三井に名前を呼ばれると、鉄男は微かに笑みを浮かべる。
「じゃあな、スポーツマン」
そして、またこの前と同じことを言って、別れを告げた。
そんな鉄男を、三井は何も言わずにまっすぐにみつめ、鉄男もまっすぐに三井を見ると、再び笑みを浮かべた。
そこへ、花道が三井の後ろへやってきた。
「魅真はオレが運ぶから、ミッチーは魅真の荷物をたのむ!」
「ん?おお」
花道は、ケガをしている三井よりも、ケガをしていない自分が、魅真を運んだ方がいいと判断したので、三井から魅真を受け取ろうと、持ってきた魅真の荷物を地面に置くと、三井から魅真を受け取り、三井も魅真を渡すと、魅真の荷物を持った。
「走るぞ、ミッチー!」
「あ、ああ!」
花道は三井に声をかけると、魅真が来た方とは反対側にある階段に走っていき、三井は花道のあとに続いて、駅へ走っていった。
2人の後ろ姿を、鉄男も、洋平も、大楠も、野間も、高宮も、まっすぐに見ていた。
花道と三井は、急いで駅に走って行き、電車に乗った。
途中、血だらけの魅真を抱えてるので、周りの人々がびっくりしたり、駅員に止められそうにもなったが、止められたら、それこそ試合に間に合わなくなるので、駅員の声をふりきって、発車ギリギリのところで電車に乗った。
電車に乗り、椅子にすわったところで魅真の意識が戻り、魅真は荷物の中から、本来なら、選手がタイムアウトの時などに使うタオルをあてて、頭の出血をおさえた。
鉄パイプで殴られたところにタオルをあて、タオルを包帯で巻いて固定して、応急処置をすると、次に三井の手当てを始めた。
三井は何ヶ所かケガをしていたので、魅真は消毒をしたあと、バンドエイドをすべてのケガした部分にはった。
「これで終わりです」
「おお、サンキュ」
何分かすると手当てを終え、手当てをしてもらうと三井は礼を言い、礼を言われると、魅真はうれしそうににこっと笑った。
けど、土で汚れた三井の手を見ると、悲しそうな顔になり、三井の手をとると、左手で下から支え、右手で手の甲を包みこむように覆った。
「手……大丈夫ですか?」
「ん?ああ、大丈夫だ。もう痛みはねえ」
「よかった」
あの時、足で強く踏みつけられはしたが、ケガをするほどではなかったので、三井の口から大丈夫と言われると、魅真はほっとした。
「……真田…」
「なんでしょう?」
「なんでさっき、オレの代わりにリンチをうけたんだ?」
三井は、ずっと疑問に思ってたことを聞いた。
疑問を聞くと、魅真は一瞬目を丸くするが、すぐに笑顔になる。
「マネージャーだからです」
「は?」
「マネージャーは、選手を心身ともに健康な状態で、コートに送り出すのが仕事ですから」
「だからってな、ヘタしたらお前の方が、体が再起不能になるかもしれなかったんだぞ!!」
「三井先輩…。私のこと、心配してくれてるんですか?」
「はぁ?あたりめーだろ」
疑問を投げかけたのは、自分を心配してのことだったので、魅真は感動した。
「心配してくださってありがとうございます。でも、三井先輩が、私のことを心配してくれたのと同じで、私も、三井先輩のことが心配だったんです。あんな、鉄パイプなんかで手をやられたら、骨折してしまうかもしれない。そんなことになったら、三井先輩がバスケをできなくなってしまう。少なくとも、今年は……。ヘタしたら、一生……。三井先輩の、高校生活最後のチャンスを、つぶしたくなかったんです…」
「真田……」
そこまで自分のことを気づかってくれていたので、三井は心の中が、じんわりと熱くなった。
試合会場の最寄り駅に着くと、魅真は体の痛みが薄れ、体力もだいぶ回復していたが、まだ多少痛みがあるので、花道に抱きかかえられて、試合会場まで行った。
駅に着いてから、何分か走っていくと、会場に着いた。
三井と花道はユニフォームに着替えたが、魅真は、ケガをしてタオルを巻いてる頭がTシャツにひっかかってしまい、うまく着替えることができないのは容易に想像がついたため、急いでいたので、髪はおろしたまま、下だけ短パンに着替えて、上は制服の上からジャージを着た格好で、コートへと走っていく。
一方コートでは、ベンチの前に選手達が集まっており、まだ来ていない魅真達のことを心配していた。
「もう時間がないわ!」
「やむをえん…。桜木と三井ぬきでやるしかない」
「しかし…」
「先生、それでよろしいでしょうか?」
赤木は、ベンチにすわっている安西に顔を向けると、許可をとろうとした。
「ちょっとまったあ!!」
だがその時、安西が返事をする前に、花道の声が聞こえたので、赤木達は声がした扉の方へ顔を向けた。
「三井!!」
「桜木花道!!」
「魅真ちゃん!!」
扉からは、魅真、三井、花道の3人が走ってやってきた。
3人は、なんとかギリギリのところで間に合ったのだった。
「どーした三井!!真田!!その顔は!?」
「大丈夫?」
顔がボロボロになっている魅真と三井は、ベンチに来るなり、赤木と彩子に心配された。
三井は、集合時間に遅れてしまったので、まっさきに安西の前まで行った。
「先生!!心配をおかけして、すみませんでした。手は出してません。決して!!」
こんな顔がボロボロの状態では、誰が見ても、何があったかわかってしまうのもあり、それもふくめて三井は謝罪をして、頭をさげると、安西をまっすぐに見た。
安西もまた、優しげで、まっすぐな目で三井を見る。
「ああ…。わかってます。たのみますよ」
「はい!!」
安西は、遅れてきた三井を、しかるでも、追及するでもなく、ただ三井を信じて、コートに送り出す。
三井は安西の期待に応えるべく、うなずきながら返事をした。
「はっはっはっはっはっ!!そして、天才リバウンド王・桜木花道にまかせろ!!」
近くでは花道が、いつものように、調子にのって大きなことを言っていた。
「退・場・王!!」
「くっ…」
そこへ、花道の後ろに流川がやってきて、嫌味という名の真実を言ったので、花道は額に青筋を浮かべて、肩ごしに流川を睨んだ。
「(てめぇから目で殺したろかあ!!)」
「まあまあ、いがみあってる場合じゃないぞ、2人とも。すぐに試合だ」
今にも流川に襲いかかりそうな花道だが、流川は無視を貫き、険悪なムードになった花道の後ろにやって来た木暮が、もうすぐに試合だというので、花道をなだめた。
一方魅真は、体力は完全に回復し、痛みもほとんど感じていないが、鉄パイプで頭を殴られてしまったために、出血がひどく、貧血でふらふらしながらベンチまで歩いていき、自分の席にすわった。その顔は、見るからに顔色が悪かった。
「真田さん、大丈夫?」
そこへ、石井、桑田、佐々岡がやってきて、桑田が心配そうに声をかける。
「一体どうしたの?そのケガ…」
「駅に行く途中で、三井先輩が、この前体育館に来た鉄男って奴を追いかけていくのを見たから、あとを追っていって…。みつけたら、同じく体育館に来た竜って奴が、三井先輩の手を鉄パイプでつぶそうとしてたから…。そんなことさせるわけにいかないから、代わりにリンチをうけたら、こんなことに……」
石井に聞かれると、魅真は経緯を説明する。
「それ、本当に大丈夫なの!?」
魅真は不良時代にケンカばかりしていたので、こんなケガはなれっこなのだが、かなり悲惨な状態に、佐々岡も心配していた。
「大丈夫よ。見た目ほど痛みはないし」
魅真がそう言っても、頭をタオルでおさえ、顔色が悪く、顔に頭から流れた血のあとが残り、服からのぞく手足も血と土で汚れている上に、顔を中心に、体中が腫れあがっているので、3人は余計に心配した。
「魅真、アンタ病院に行きなさい。頭ケガしてるのよ」
そこへ彩子がやってきて、病院に行くことを進める。
「大丈夫です。応急処置はしましたし、あとで病院に行きますから」
「でも……」
彩子は魅真を心配して、病院に行くように言うが、魅真は頑なに動こうとしなかった。
「彩子君…。魅真君にも、ここにいてもらいましょう」
「安西先生!?」
2人が話していると、安西が口をはさんできた。
見るからにひどい姿なのに、ここにとどまらせるなど、彩子は安西の言うことが理解できなかった。
「魅真君も、この湘北バスケ部のマネージャーです。それに、見た目は重傷のようですが、体にはそんなに影響はなさそうですしね」
「安西先生…」
「ありがとうございます!安西先生!」
監督である安西の許可を得られたので、魅真は顔が明るくなる。
「ただし魅真君」
「はい」
「あとで、ちゃんと病院に行って診てもらうんですよ」
「はい!安西先生。必ず!」
やはり、病院に行くのは絶対条件となったが、それでもここで三井のプレイを見られるので、魅真はうれしそうにしていた。
「おーーし、いくぞ!!」
「「「「おう!!」」」」
時間になると、赤木の合図で、スタメンは全員コートに上がる。
その中にいる、これからプレイをしにコートに上がっていく三井の後ろ姿を、魅真は笑顔と優しい目で見守り、隣にすわる安西もまた、そんな魅真を、優しい目で見ていた。
ちなみに、スタメンは、三井、流川、赤木、宮城、木暮の5人で、花道ははずされており、納得のいかない花道は、額に青筋を浮かべた。
「オヤジ!!どーしてオレがスタメンじゃないんだ!?オレは、ディフェンスの極意をつかんだんだよ!!もう退場はしねえ!!」
花道はなんとか試合に出してもらおうと、いつものように、安西のあごや腹の脂肪をゆらしていたら、いつものように赤木に頭を殴られた。
「やめんか!!大人しく待ってろ!!」
「わかったよ…」
その威力は、床に倒れ、涙を流すほどで、痛さのあまり、花道は大人しく従った。
そして、湘北と対戦相手の高畑高校のスタメンの選手達は、センターラインの前にならび、あいさつをする。
「試合開始!!」
笛が鳴り、審判の口から、試合開始の合図が出される。
ジャンプボールは赤木が勝ち、ボールは流川がとった。
流川はまっすぐゴールまで走っていき、途中相手のディフェンスに邪魔されるも、なんなくかわしていき、あっという間にダンクを決め、先制点をとった。
「(おんのれ…流川…!!オレがハルコさんと約束していたスラムダンクを!!)」
いきなり流川が活躍したので、花道は不機嫌になり、体を震わせ、流川を睨みつける。
そこへ、花道の前に流川がやってきて、肩をすくめて、わざとらしく深いため息をついた。
それだけでも腹立たしいものだが、流川が決めた後も、三井、宮城、木暮、赤木も、どんどん活躍していったので、余計に腹を立てていた。
「(ん~~~…。オレの出番が…。目で殺す極意が…!!)」
このままでは、ディフェンスの極意を使わないまま終わってしまうので、花道は焦り、苛立ちは増していく一方だった。
全員が活躍していく中、イライラしていると、突然笛が鳴ったので、コートを見てみる。
「木暮先輩!!」
そこでは、木暮が足を痛めたようで、床にすわりこんで、右の足首を押さえていた。
魅真が動けないので、彩子が木暮のもとへ行った。
「ちっ!修業が足らんぜ、メガネ君」
「桜木君、交代です」
八つ当たりするように木暮を責めていると、安西の口から思わぬ言葉が出てきたので、花道はうれしそうに笑う。
「(ふっふっふっふっふっ。今日こそオレは退場はしない!!ファウルもとられん!!この目で殺す極意があるかぎり、天才リバウンド王の独壇場だ!!)」
コートに上がった花道は、今日の課題を心の中で掲げた。
「(お前の見せ場は終わった!!)」
そして流川の後ろに来ると、流川に顔を向けてガンをとばした。
「(どあほうが…。なにガンとばしてんだ)」
けど流川は、呆れてるだけだった。
一方、足を痛めた木暮は、彩子にコールドスプレーをかけてもらっていた。
「何があったか知らないけど、自信満々ね」
「ひょっとして、今日は退場しないかも…」
と言ってたらすぐに、花道は相手にぶつかったので、笛が鳴った。
「ファウル!!白10番!!」
開始してから1分も経たないうちに、花道はファウルをとられた。
「言ってるそばから…」
「これは…すぐにまた出番がきそう…」
いつもの花道だったので、2人は呆れていた。
それでもめげずに、花道はディフェンスの極意を使うが、試合中にそこまで相手の目を見るわけもなく、そもそもディフェンスの極意など存在しないので、ことごとく失敗してファウルをもらった。
極意が全然通用しないので、花道は肩越しに赤木を睨みつけ、赤木は今更になって、失敗だったかと、頭をかいた。
そして、前半残り4分58秒となった時、笛が鳴った。
「白10番!!5ファウル!!退場!!」
花道は、早くもファウルを5つもらい、退場となってしまった。
「ああああああああっ!!」
もう退場はしないと自ら課題を課したのに、あっさりと退場になったので、花道はショックをうける。
「ちょ…ちょっと待て審判!!少しはおまけをしや…」
退場になった花道は、三井と宮城に腕をつかまれて、涙を流しながら、ベンチにひきずられていった。
おまけなんてするはずないのに、暴れながらバカバカしい文句を言う花道を、三井と宮城は、花道を大人しくさせるために、だまらせるように、頭を同時に殴り、花道が大人しくなったところで、一気にベンチに下がらせた。
「どあほう」
意気込んでいたのに、あっさり退場になった花道に、流川はいつものように毒づいた。
「くんぬ~~~~!!何が目で殺すだ!!ゴリのバカヤローーー!!どこがディフェンスの極意なんだよ!?おおっ!!デタラメ教えやがって!!目で殺せないぞ!!ゴリィーー!!コラァ!!バカヤロー!!」
「バカは……お前だ!!」
花道が文句を言ってると、隣に彩子がやってきて、ハリセンで頭を殴り、近くにいる魅真も呆れていた。
花道が退場すると、また最初のメンバーに戻った。
魅真は三井が活躍する姿を、花道が退場する前だけでなく、そのあとも、優しい目で、うれしそうに、楽しそうに見ていた。
そして、数十分後…。後半が終わるとブザーが鳴り、試合終了の合図を告げる。
103対59の100点ゲームで湘北が勝ち、3回戦を突破したので、全員が喜んだ。
もちろん魅真も喜んで、笑顔で選手達を見ていた。
「真田」
「み、三井先輩!!」
そこへ、三井が魅真の前にやってきたので、魅真は顔を赤くして、その場を立ち上がった。
「お前のおかげで、無事に試合に出れて勝てたぜ。サンキュ!!」
「い、いえ!もったいなきお言葉!」
「ははっ。なんだそりゃ」
今の魅真の時代劇の武士のような言葉使いと、試合に勝ったうれしさで、三井はほがらかに笑ったので、その笑顔に魅真はうれしくなり、感動して、ますます顔を赤くした。
そしてその2人の様子を、近くにすわっていた安西は、また優しい顔で見守っていた。
次の日…。
前日、竜にリンチされた魅真は、試合の後に、安西と約束した通り病院に行ったので、頭に包帯を巻き、顔や手や足、いろんなところを手当てされ、その状態で登校して、教室まで行く。
「あれ?」
教室へ行くと、教室の後ろの扉の前に三井が立っていたので、魅真は驚いて目を丸くした。
「三井先輩…」
「おう」
「どうしたんですか?1年生の教室まで来るなんて……」
驚きつつも、朝一番に三井に会えたので、うれしくなり、頬を赤くして三井のもとへ歩み寄っていく。
「お前に話があってな」
「話……ですか?」
「ああ、ちょっと屋上に来てくれるか?」
三井にそう言われると、魅真は自分の机にカバンを置いて、三井のあとに着いていき、屋上に行った。
屋上に来て、真ん中あたりまで歩いていくと、三井は魅真と向かいあった。
「三井先輩、なんですか?話って」
「その……。悪かったな、昨日……」
魅真に聞かれると、三井は昨日のことを謝罪した。
「昨日って…リンチのことですか?」
「ああ」
「気にすることないですよ。私はこの通りピンピンしてますし、病院でも異常ないって言われましたから」
謝罪されても、魅真はまったく気にする様子もなく、にこにこと笑うだけだった。
「それに、三井先輩にはお礼を言っておかないと」
「礼?」
「はい。昨日、10分間殴られたあと、竜って奴にハダカにされそうになった時、三井先輩がかばってくれたので…。そのお礼です」
「起きてたのか?」
「はい。意識は朦朧としてましたが…」
「そっか」
「おかげでハダカにされずにすみましたし、胸とかおしりとか、好きじゃない男に見られずにすみました」
「そ…そうか…」
女の魅真の口から、胸とかおしりという単語が出たのと、今のでちょっとだけ想像してしまったので、三井は照れて顔を赤くし、魅真から顔をそらした。
「どうしたんですか?三井先輩」
「い、いや……」
なんだか様子がおかしいので、魅真は三井の顔のぞきこむが、三井ははずかしくて、目を合わせなかった。
「はっ!!まさか!!」
そんな三井に、魅真はハッとなった。
「三井先輩…。私のハダカを見たくなかったんですか!?まさか男に興味が…」
魅真が達した結論は、なんとも的はずれなものだが、そう思った魅真はショックをうけ、同時にドン引きした。
「ちげええっ!!女が軽々しく、自分のハダカを見たかったのかとか言うんじゃねえっ!!」
的はずれで、とんでもないことを聞く魅真に、三井は盛大につっこむ。
「あ…そうだったんですね」
あっちの趣味があるわけではないようなので、魅真はほっとした。
「まあ、それはおいといて…。私は、あのリンチは、自業自得だって思ってます」
「えっ…」
「この前の襲撃事件の時、理由はどうであれ、私が、あの竜って奴を殴ったのは確かです。私だって、殴り返される覚悟もなしに、ケンカしてたわけじゃありませんから…」
魅真はこの前の事件で、竜とケンカした時のことを思い出す。
「バチがあたったんですよ…。今まで、バカみたいに、人を傷つけ続けてきたから…」
過去のことを後悔している魅真は、悲しそうな顔をしたので、その魅真を見た三井はドキッとした。
「それに、昨日の事件のおかげで、新しい夢をみつけましたから、あれはあれでよかったと思ってます」
「夢?」
「はい!」
三井が興味をもってくれたので、魅真はうれしそうに、元気よく返事をした。
「私、将来弁護士になります」
「弁護士?」
「はい。私……昨日、三井先輩がリンチされてるのを見て思ったんです。あんな風に、戦えない人が突然不良に因縁をつけられて、たとえ傷つけられ、後遺症が残っても、泣き寝入りするしかない、理不尽な目に合うこともあるかもしれない。それが、三井先輩のようにスポーツマンだったら、致命的です。だから、そういう人が泣き寝入りしないために、そういう人を1人でも多く救うために、弁護士を目指します。だから、お礼を言うのは、私の方なんですよ」
返事をすると、昨日の事件を通して、新しい夢をみつけたことを、三井に話した。
「ありがとうございます。三井先輩」
そして最後に、にっこりと満面の笑顔でお礼を言うと、三井は少し顔を赤くして、またドキッとなる。
所謂ギャップルールというもので、初めて会った時の、鬼神だった頃には考えられないものだったのだ。
それでも、確かに三井は、この時初めて、魅真の笑顔に見惚れたのだった。
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