#24 新しい夢
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この日の練習では、また試合をやっており、花道は、今朝赤木に教えてもらった「ディフェンスの極意」の練習もしていた。
パスをもらった安田は、その練習の対象にされてしまい、花道に鋭い目で睨まれるとその場で固まり、ビビって悲鳴をあげた。
その隙に、花道は安田からボールを奪い、得意気に笑う。
「何やってんだよ、ヤス」
「だ、だって…怖いよ。あの顔で睨まれちゃ」
パスを出した宮城は、安田の隣に来て安田を責めるが、安田は花道の眼力にビビって小さくなっていた。
「どうだゴリ!これで完璧だろう!明日の試合がまちどおしいぜ。はっはっはっはっはっはっはっはっ!!」
「桜木花道、気合い十分ですね」
「ん?んん」
気合いが入ってるのは、自分が教えたウソが要因だと思うと、赤木は複雑な気分になった。
「(アイツ……。まだあんなウソにだまされて、ムダなことやってんだ…)」
一方、登校時にやっていたディフェンスの極意を、まだウソだと気づかずにやっているので、魅真は呆れていた。
けど、ここでウソだと言うと、またややこしいことになるので、自分で気づくまでだまっておこうとも思っていた。
その後も練習は続いたが、辺りが暗くなると、彩子が笛を鳴らした。
「集合ー!!」
そして彩子の呼びかけで、全員赤木の前に集まる。
「よォーし。明日の試合、遅れんなよ!!」
「「「おおっ!!」」」
「解散!!」
全員集まると、赤木は号令をかけ、これでこの日の練習は終わった。
#24 新しい夢
次の日の朝、魅真は3回戦の試合が行われる会場に行くために、駅まで歩いていた。
「(今日も、三井先輩が、試合で活躍する姿が見れる!!そして、マネージャーとして、そのためのお手伝いもできる!!今最高に幸せだわ。早く試合にならないかな)」
魅真はすでに、三井のことで頭がいっぱいで、幸せそうなニヤけた顔で、駅に向かっていた。
その時、バイクのエンジンの音が、後ろから聞こえてきた。
「鉄男!!逃げようったって、そうはいかねーぜ!!」
「今日という今日は、ケリをつけてやるからな!!」
それは鉄男と、この前鉄男や三井とともに体育館を襲撃してきた竜で、鉄男は、仲間だったはずの竜と、見るからにガラの悪そうな、見知らぬ4人の男達に追いかけられていた。
朝っぱらから、物騒なことを言って、鉄男を追いかける竜達の声に気づいた魅真は、後ろへふり返る。
「(何?朝っぱらから物騒ね…。アイツら、それしかやることがないのかしら?)」
快晴で心地いい空気を壊す彼らに、魅真は不快そうに、眉間にシワをよせた。
「(……って……私も、あまり人のことは言えなかったか…)」
けど、去年までは、彼らと大して変わらない自分が言えたことじゃないと、魅真は、自分で自分につっこんだ。
鉄男は逃げることに、竜は彼らとともに鉄男を追うことに集中してるせいか、魅真の存在に気づかず、そのまま魅真が進んでいる方向へ走っていった。
「(まあでも、私には関係ないわね、いろんな意味で。他人のケンカに首をつっこむ趣味はないし、今のは、私には一切無関係だし、鉄男がどうなろうとどっちでもいいし、何より、私はもう不良じゃないし、今はこれから試合だしね)」
ただならぬ雰囲気の彼らを見ても、まったく興味なさそうにして、早く駅に行こうとした。
「(ん…?あっ!!)」
その時、魅真は目の前の歩道橋を目にすると、目を大きく開いた。
「(三井先輩!!)」
それは、三井が自分も渡ろうとしていた歩道橋を歩いていたからだった。
「(こんな朝から会えるなんてラッキー!!よおーーーし!!追いかけて、三井先輩と一緒に駅まで行こうっと!)」
三井の姿を目にすると、興奮した魅真は目を輝かせ、三井に追いつくために、歩道橋まで走ろうとした。
「鉄男!!」
その時、三井は鉄男達が走っていった方の柵に体を向けて、鉄男の名前を呼ぶと、魅真がいるところとは反対側へ急いで走っていき、階段を使わずに地面にとび降りた。
予想していなかった三井の動きに、魅真は呆然として固まるが、すぐに覚醒して、急いで歩道橋の上まで階段を上がっていき、歩道橋の真ん中まで走って来ると、そこから三井の様子を見た。
「三井先輩……まさか、あの鉄男って奴を追いかけていったの…?」
歩道橋からは、バイクが走っていった方向に走っていく、三井の姿が見えた。
「何考えてんのよ、三井先輩。追いかけていってどうすんのよ。三井先輩、もう不良じゃないから、相手を殴れないじゃない。安西先生とも約束したじゃないの。二度とケンカはしないって。第一、これから試合だっていうのに…。ほっとけばいいじゃない、あんな奴!」
大事な試合があるのに、集合時間にそこまで余裕があるわけではないのに、それなのに鉄男を追いかけていった三井を見て、魅真は呆れていた。
だが、そこまで言うと、魅真は先日の、野口総合病院の前での、三井と鉄男の会話を思い出した。
「(でも……悪い奴じゃ…ないんだよね…。少なくとも……三井先輩にとっては……)」
そして今度は、花道、洋平、大楠、高宮、野間の顔が思い浮かび、その次に、昨日部室に行く時に、三井と話した会話を思い出す。
「(それに………あの鉄男って奴も、もしかしたら、三井先輩が、あたり前にいることができる場所かもしれないんだ……)」
そう思うと魅真は、三井が、試合があるのに、鉄男を追いかけていった気持ちがわかってしまった。
「あーーっ、もう!!」
魅真は今の葛藤を吹き飛ばすように叫ぶと、そこから走りだした。
「しょうがないなあ」
まったく関係ないし、もう不良じゃないし、鉄男を助ける義理はないし、試合があるしで、完全に無関係を貫こうとした魅真だったが、三井の気持ちがわかってしまったし、何よりも三井が心配なので、三井のあとを追いかけていくために走りだしたのだった。
三井が走っていった方へ走っていき、階段の前まで来ると、階段を一段ずつ降りていく時間もおしいので、まずジャンプをして、踊り場にひとっとびで降りると、着地した瞬間にまたジャンプをして、地面にとび降りた。
そして地面に着地すると、すぐに立ち上がり、三井が走っていった方へと走っていった。
三井を追いかけていくこと十数分。街の裏通りまで来た魅真は、三井を探して、辺りを見回していた。
「(三井先輩、確か、こっちに来たと思うんだけど…。リンチするなら、人通りの少ない裏道って、大体相場は決まってるしね)」
鉄男が、仲間だったはずの竜に追いかけられていたのは、おそらく、鉄男が大きな顔をしているのに嫌気がさした竜が、新しいグループを作ってそのグループのボスになり、鉄男を亡きものにして、自分が上に立とうと考えているのだということは、容易に想像がついたので、きっと彼らは、どこかで戦うつもりなのだろうと思った魅真は、三井が進んでいった方向と、不良時代のカンを働かせて、三井を探していた。
「やめろ!!はなせ!!やめろ!!ぐっ」
その時、三井の声が微かに聞こえてきた。
「二度とバスケなんぞできねーように、その手をつぶしてやる」
「よせっ。やめろ!!」
そのあと、とんでもないことを言う竜の声と、三井の叫び声も聞こえてきた。
「三井先輩!?」
状況はよくわからないが、三井がピンチのようなので、魅真は急いで走っていく。
「(これは…アイツらのバイク…?)」
途中で、複数のバイクが、目の前に散乱しているのを目にすると、先程表通りで見たのと同じ台数だったので、もしやと思った。
「てことは、この近くに……」
「左からがいいか?それとも右か?」
「くっ…やめろ…!!」
バイクを乗りすててあるということは、きっと近くにいるだろうと思った時、再び竜の声と、三井の焦った声が、すぐ近くで聞こえてきたので、魅真は過剰に反応をして、そこから走りだした。
「右手からもらいっ!!」
「や…やめろォ!!」
走ってる途中で、何やら不穏な会話が聞こえたので、魅真は更に足を早くして、声がした方へ走っていく。
「三井先輩!!!」
走っていくと、塀が途切れて、地面がコンクリートから土になっているすぐのところに、思った通り三井がいた。
「ああ!?」
「真田っ!!」
けど、魅真の目の前にいる三井は、殴られたせいでボロボロになっており、顔は血だらけ。おまけに、塀の前で、2人の男に、両側から、手で肩を、足で手を押さえつけられており、竜が鉄パイプで、三井の手をつぶそうとしているという、とんでもない光景が広がっていた。
思ってもみない魅真の登場に、三井も竜達も驚くが、その光景を目にした魅真は、瞳孔が大きく開き、目を鋭くして、歯を強く噛みしめ、両方の拳を強くにぎりしめた。
「きっ……」
そして、怒りで全身が震え、しぼり出すようにして声を出す。
「貴様らあーーーーーー!!!!!!」
先程聞こえてきた声と、今の目の前にある状況から、竜達が三井を痛めつけ、更にバスケをできなくしようとしているのがわかったので、完全にキレてしまい、怒りに燃えた魅真は、竜を殴ろうと、拳を構えて、竜のもとへまっすぐ走っていく。
魅真と竜の間には距離があるので、竜はよけようと思えばよけられたが、魅真の迫力と眼力で固まってしまい、魅真はその隙に、一気に距離をつめて、竜に接近したところで、後ろにひいた拳を突き出して、竜を殴ろうとした。
「よせっ!!真田!!」
だが、そこを三井に止められた。
三井が止めると、魅真は走るのと、拳の動きを止めた。魅真の拳は、竜の顔の手前すれすれのところで止まる。
「やめろ…。おまえも、二度とケンカはしないって、安西先生と約束しただろ」
三井が傷だらけになってるのを見て、冷静さをかいてしまったことで忘れていたが、三井に言われてそのことを思い出した。
「テメェ…鬼神・真田魅真じゃねえか…」
あの事件はここ最近のことなので、魅真を覚えていた竜は、魅真にやられた恨みで、魅真を睨みつけた。
「何!?コイツが、あの…?」
「あの…伝説の鬼神…」
「マジかよ。冗談だろ?」
「オイ竜、本当にこの女が、あの鬼神だってのか!?」
目の前にいるのは、どこからどう見ても、不良ではない普通の女子高生なので、4人の男達は、信じがたそうにしていた。
「どうもそうらしい。オレも未だに信じらんねえが、去年会ったっていう三井が証言したんだから、まず間違いねえだろう。何しろ、そこにころがってる鉄男を、片手で宙にふりあげたくらいだからな」
「マジかよ…」
「とてもそうは見えねえぜ」
「だが、さっきのキレのあるパンチは、普通の女が出せるもんじゃねえぜ」
「それじゃあ、やっぱりコイツは、あの鬼神なのか!?」
それでも、竜が証言し、三井も証言したことを話されると、信じられないながらも、どこか納得をしていた。
「だがまあ、もう不良ではなく、ケンカをしない約束をした奴なんざ、怖くはねえがな」
本来なら、魅真の手にかかれば、竜はあっという間に倒せる存在だが、ケンカをしない約束をしたとわかると、竜は大きく出て、ニヤリと笑った。
「お前にもでかい借りがあるかんな。三井ともども、ここでやってやるよ」
「それはダメ」
「あ?」
「これから大事な試合があるの。あなた達にかまってるヒマなんてないのよ」
「んだと?」
本当は、腑が煮えくり返る思いをしているが、努めて冷静に言うと、竜は切れて、魅真を睨んだ。
「わかった?わかったならそこを…
!!」
そんなことはおかまいなしに続けると、竜は魅真に殴りかかった。
しかし魅真は、不良時代のカンと、持ち前の優れた運動神経で、後ろに跳んで、竜の拳をよけた。
魅真が竜の攻撃をよけると、竜は悔しそうに顔をゆがめた。
この状況で、魅真はわかってしまった。鉄男や堀田、堀田の子分達とは違い、竜は、今の三井を認めていないのだと…。だから、三井を傷つけたりしたのだと…。
わかったと同時に、今の言葉で、三井の顔のケガは竜がやったので間違いないのだと、怒りに燃えていた。
しかし、手を出すわけにはいかなかった。
目の前の男達は、竜も含めて、全員簡単に倒せそうだが、先程三井に止められたし、ケンカをしないと安西と約束したし、もう不良ではないし、何より、今は1秒でも時間が惜しいからだ。
「テメェの事情や都合なんざ、どうでもいいんだよ。オレはテメェを一発でも殴らなきゃ、気がすまねえんだ」
「……粘着質な男は嫌われるわよ」
「結構じゃねえか。オレは、鉄男だけでなく、テメェにも、でけえツラされんのは気にくわねえんだ。鬼神って呼ばれて、調子にのりやがって…。何が、神奈川を震撼させた、伝説の不良だ。テメェをブッ倒して、オレが神奈川のナンバー1になってやる」
「……別に、大きな顔なんてしてないし、鬼神なんて呼び名は、周りが勝手に言ってただけだし、調子にのってないし、覇権争いとかナンバー1とか興味ないし、鬼神とか伝説の不良とかいう呼ばれ方は、正直言って迷惑なだけだし…」
魅真は、悲しそうな、寂しそうな、どこか暗い雰囲気で竜に返す。
「とにかく、私はもう不良じゃないの。それにもう、三井先輩も鉄男も、ボコボコにしたから十分でしょ。早く退散しなさいよ。急いでるんだから」
気をとりなおした魅真は、シッシッと手を前後に動かして、追いはらう仕草をするが、それが竜のカンにさわった。
「うるせえ。そんなの関係ねえ!!千載一遇のチャンスを逃してたまるかよ!!」
まだそんなことを言ってる竜に、魅真はため息をつく。
「じゃあ、私を殴れば、アンタの気もすむし、私達を解放してくれるの?」
「まあ、そういうこったな。少なくとも、この前の借りは返さなきゃいけねえしよ」
「じゃあどうぞ。好きなだけ殴りなさい」
「なっ!!」
「ほう…」
まさかの返答に、三井は驚きの声をあげ、竜はニヤリと笑う。
「ただし、10分だけね。それ以上は、本当に試合に間に合わなくなるから。10分だけ、好きなだけ殴らせてあげるから、そうしたら私達を解放してね。あと、三井先輩と、ついでにそこの鉄男には、もうこれ以上手を出さないで。二度と襲わないって約束しなさい」
「いいだろう」
このままでは、平行線で埒が明かないので、せめて自分を殴るという望みだけでも叶えさせようと思った魅真は、リンチされるのを自ら望んだ。
竜が約束を守るかどうかは正直微妙なところだが、そうなったら、持ち前の足の速さを生かして、鉄男を置いて、三井を会場までひっぱっていこうと考えていた。そんなことをしたら、三井に恨まれるかもしれないが、それでも三井の無事の方が大切なので、それもやむなしと思ったのである。
「それじゃあいくぜ!!」
「ちょっと待って」
「あ?」
さっそく恨みをはらそうと、竜は鉄パイプを地面に放り、拳をかまえるが、魅真に待ったをかけられたので、動きを止めた。
魅真は竜に待ったをかけると、三井のもとへと歩いていき、荷物を横におろすと、三井の前にすわり、両手で同時に、三井を押さえつけている男達の足首をつかんだ。
「ぐっ」
「つっ」
つかまれただけでもすごい威力で、男達は痛みに顔をゆがめた。
「オイ、何やってんだ!?」
自らリンチをうけることを望んだのに、待ったをかけて、自分を無視して、三井を押さえつけている男達の足首をつかんでいるので、竜は苛立った様子で、魅真に声をかける。
「三井先輩を、いつまでもこんな風にはしておけないでしょ」
魅真は、冷静だが、抑えている怒りが今にも爆発しそうな声色で、淡々と答えた。
「ちょっとだまっててくれる?」
「うっ…」
そして、肩越しに竜を睨みつけると、竜だけでなく、三井を押さえていない、紫のリーゼントの男と、少し伸びてる髪を後ろでしばったガタイのいい男も、威圧されて動けなくなり、竜を睨んだ魅真は、顔をもとの位置に戻した。
「とりあえず、あなた達は、その汚い手と足をどけてね」
「ぐあっ!!」
「うわぁっ!!」
魅真が足首をつかんでる手に力を入れると、男達は先程よりも強い力に痛がった。
魅真は、彼らの足を強くつかむと、宙に浮かした。すると、足だけでなく、手も自然に離れ、三井の手と肩から男達の手足が離れたのを確認すると、横に投げすてるように放った。
「くっ」
「うわっ」
まさか放り投げるとは思わず、受け身をとれなかった男達は、尻もちをついた。
「ほら、三井先輩からもっと離れなさいよ」
男達がそんな状態になっても、魅真はまったく気にもとめておらず、2人の男の手足を三井の手と肩の上からどかすと、男達を交互に睨みつけながら、竜の時のように手を前後に動かし、追いはらう仕草をした。
魅真の怪力と鋭い眼光にびびった男達は、魅真に言われた通りに、三井から離れていく。
男達が退くと、魅真は先程横に置いた荷物を、邪魔にならないようにと壁側に移動させ、再び三井の前まで来て、三井の目線に合わせてしゃがんだ。
「真田…お前…」
「大丈夫です、三井先輩。絶対にあなたを、試合に間に合わせますから」
三井が何か言おうとしていたが、魅真はにっこりと笑って三井の言葉を遮る。
「そうじゃねえ!!オイ!!」
自ら竜にリンチされにいこうとしてるので、三井は魅真を止めるように叫ぶが、魅真は三井の言うことを無視して、竜のもとへ歩いていく。
「待たせたわね」
竜の前に立つと、三井の時とは違って、冷たい目を向けた。
「じゃあ、10分間好きなだけどうぞ」
無防備な状態で立つ魅真を見ると、竜はニヤリと笑い、この前の仕返しというように、ボディーブローを3発入れ、そのあとに、あごに1発決めた。
その時、竜は違和感を感じた。それは、顔はそこまででもないが、お腹を殴った時に、妙に硬いことだった。
違和感を感じながらも、お腹を中心に、顔や手を殴り、時には足を蹴ったりもした。
しかし、最初に感じた違和感はぬぐえないままだった。
「くそっ」
今いち手応えがないまま、竜は魅真の腹を殴った。
その時、ようやく1つの答えにたどりつく。
「テメェ……もしかして、腹に力いれて、防御してやがんのか…?」
その答えを魅真にぶつけるが、魅真は竜を睨んだまま、微動だにせず、そこに立っていた。
けど、それがイエスだとわかった竜は、奥歯を強く噛みしめた。
「(そうか…。10分っていうのは、単に試合に遅れそうだからだけでなく、体に力をいれて防御さえすれば、オレ程度の攻撃なら、10分なら耐えられるから、10分過ぎたあと、もしオレが約束を守らなかった場合に、三井をつれて逃げようってことなんだな…。ナメやがって…!!)」
違和感を感じていたのは、一見無防備に見えるが、実は体中の筋肉に力を入れて防御をしていたからで、それがわかった竜は、怒りに満ち、瞳孔が開いた。
「ざけんな!!今すぐ防御をときやがれ!!三井がどうなってもいいのか!?」
5分としないうちに、防御をしていることがバレてしまったので、魅真は悔しそうに顔をゆがめる。
しかし、三井に危害が加わることはなんとしてもさけたいので、仕方なしに防御をといた。
魅真が防御をといたのがわかると、竜はニヤリと笑う。
「それでいいんだよ!!」
そして、拳をふりがざすと、また最初からやり直しというように、ボディーブローを3発いれ、あごに1発いれた。
今度は防御をしてないので、ダメージがすべて体に伝わり、魅真は殴られたお腹を押さえた。
「ナメたマネしやがって…。オレをコケにしたらどうなるか、思い知らせてやるぜ!!」
竜は興奮し、先程地面に放った鉄パイプをひろいあげる。
「なっ…!」
それだけで、次に竜が何をするのかわかった三井は、目と口を大きく開き、顔が青ざめた。
「やめろっ!!竜、よせっ!!」
いくら本人が望んだと言っても、さすがに鉄パイプで殴るのはやりすぎなので、三井は止めようとするが、竜が聞くはずもなく、竜は容赦なく、魅真の頭の頭頂部を鉄パイプで殴った。
鉄パイプで殴られた魅真は、地面に倒れそうになったが、なんとかふんばった。
しかし、これで終わりではなく、今度は左側の側頭部を殴る。
更に、連続で後頭部も殴りつけた。
だが、それでも魅真は倒れることなく、足に力をいれてふんばった。
しかし、倒れることはなかったが、殴られたところから血がどんどん出てきて、顔や頭を伝って流れた血は、地面に落ち、茶色い土を赤くそめた。
「これだけ連続で殴っても倒れねえのか…。タフだな、こいつ…。さすがは鬼神といったところか」
3回も連続で鉄パイプをくらったのに、それでも倒れない魅真に、竜は感心していた。
「まあ、それでこそ、やりがいがあるがな」
そして、ニヤリと笑うと鉄パイプをすてて、今度は顔を殴った。
「まだ2分くらいしか経ってねえ。あまりやりすぎると、あとが楽しめねえからな」
竜が鉄パイプでの攻撃をやめた理由はそれで、顔や腹、鳩尾、腕、足と、次々に、いろんなところを殴ったり蹴ったりしていた。
4人の子分達は手を出さなかったが、この様子を見て、ニヤニヤと笑っていた。
それから数分後…。
竜が魅真を殴り始めてから、10分が経過した。
魅真は、体中傷だらけ、痣だらけになり、至るところから血を流していた。特に、鉄パイプで殴られた頭からは、かなりの量の血が流れており、半分気絶して、意識が朦朧としている状態になり、目を閉じて、地面に倒れていた。そんな悲惨な光景を目にしても、竜達は楽しそうに笑っていたが、三井は顔が真っ青だった。
「さぁーて、10分経っちまったし、さすがの鬼神も気絶しちまったみてえだから、これ以上楽しみがなくなっちまったが……最後にコイツをどうしてやろうか?」
約束の10分は経ったのに、それなのに竜は、まだ何かしようとしていた。
「そうだな…。最後に、服をひんむいてハダカにしちまうか?コイツも、どんなに強くても女だ。男に見られんのは、かなりの精神的ダメージをくらうだろうよ」
「なっ」
竜のこの発言に、三井は驚愕するが、竜はニヤニヤと笑いながら、魅真に手を伸ばす。
「やめろっ!!」
しかし、竜の手が魅真の服に届く前に、三井が声をはりあげた。
今の三井の声で竜の手は止まり、三井はその隙に、立ち上がって魅真のもとまで行くと、魅真を抱きかかえ、守るように自分の胸に引き寄せると、竜達から離れた。
「もうやめろ!!もう10分経った。もう、充分借りは返したはずだ!!」
三井は必死になって、竜に、やめるように訴える。
「なんだ三井…。お前も、去年もこの前も、そいつにやられたんだろう?なんで止めんだ?」
この前の事件で、事件の時だけでなく、三井が去年魅真に倒されたのを知っている竜は、三井も恨みがあるだろうに、何故かばうのか理解できず、その疑問を投げかけると、三井は口をつぐむ。
「それとも、そいつに惚れちまったか?」
「は…!?」
「その女、鬼神と言われてるが、ツラだけはいいみたいだからな」
突然ふられた下世話な話に、三井はなんと答えていいかわからなかったが、竜はそんな三井を見て、ニヤニヤと笑っていた。
「ま、そんなことはどうでもいい。その女、こっちによこしな。トドメさすからよ」
「ダ、ダメだ!!」
急に真剣な顔になり、竜が魅真を渡すように言いながら手を伸ばすと、三井は、それはできないというように、魅真を抱きしめる手に力をいれる。
「うるせえな。状況わかってんのか?テメェ」
「く…」
「テメェがそういう行動に出るんだったら、オレも鬼神との約束を守るわけにはいかねえな」
魅真を渡せば、自分は助かるかもしれない。けど、渡さなければバスケができなくなる。しかし、魅真を渡すわけにはいかなかった。この八方塞がりな状況を、どう打破しようかと、三井は考えていた。
「とおーう!!」
その時、突然上の方から花道の声が聞こえてきて、その直後に、竜の上に花道が降りてきて、竜は花道のお尻に下敷きにされ、うつぶせに倒れた。
「なんかにぶつかったような…」
けど花道は、何かにぶつかった自覚はあるが、それが何かはわかっていなかった。
「あ?」
なので、ぶつかったものを確認するために後ろへふり向いた。
「お、ミッチー!それに魅真!」
そこには、三井に抱きかかえられて気絶している魅真と、花道の登場で呆然としている三井がいた。
「あ?」
今度は反対側を見てみると、竜の子分の、紫色のリーゼントの男と、ガタイのいい男がおり、更に、下に目を向けると、花道の下には竜がいた。
「おおおおお!!」
竜を下敷きにしていたことに驚いた花道は、驚いて立ち上がり、竜の上からどいた。
「ミッチー、これはどういうことだ?魅真、ケガしてんじゃねーか。何があったんだ?」
「オレの代わりに、竜にリンチされたんだ。オレを助けるために、身代わりに……」
「竜?」
現状を把握できてない花道は、三井に問うが、竜というのが誰なのか、よくわかっていなかった。
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