#23 BestFriend
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三浦台戦から数日後…。2回戦を戦うことになった湘北は、市の体育館に行った。
今はこれから試合なので、選手の控室に行くために、控室に続く通路を歩いているが、花道、流川、赤木、三井、宮城の迫力に、その場にいた他校の選手は、真ん中にいたというのに、思わず壁の方に後退し、道をゆずってしまうほどだった。
「で…でけえっ!!赤木って、近くで見ると、ほんとでけえな!」
「ゴツいし…!!」
高校生とは思えない風貌と迫力に、彼らは思わず赤木を凝視する。
「ああっ。ほらほら、1年の流川君よ!」
「流川君!」
「は~~~~かっこい~」
女子は女子で、流川の容姿に見惚れているが、流川はまったくの無反応だった。
「湘北ってなんか、おっかなそーな奴ばっかだな…」
「ひえ…」
三井と宮城は目つきが悪いだけでなく、三井が睨みつけたというのもあり、怖がられていた。
「おっ!!あいつだ、あの赤い髪!!あれが相手の頭にダンクかました奴!!」
「ぷっくくく」
「なに、あの頭。あれも部員!?」
「相手の頭にダンクかましたんだって!コワ~イ」
「(おのれ…)」
けど、花道は周りの者達に笑いものにされていたので、腹を立て、体をプルプルと震わせていた。
#23 BestFriend
そして、試合の時間となり……。
「さあ、気合入れろよ!!一気にいくぞ!!」
スタメンは全員コートにあがった。
しかし、コートにあがったのは、三井、流川、宮城、赤木、木暮の5人で、花道の姿はそこにはなかった。
「始まるぞ!!」
「なんだ。あの赤い髪は、スタメンじゃないのか」
「そりゃそうさ。脳天ダンク男だからな!!」
「…それにしても、2回戦にしちゃ、客が多いな……!!」
いよいよ試合が始まるので、観客席はざわついていた。
「さてと…」
そこへ、この前三浦台戦を見に来ていた、短髪の男と長髪の男がやって来て、ゴールの隣にあぐらをかいてすわった。
「おおっ。あれは海南じゃねえか!?」
「海南だ!!」
彼らは、あのインターハイ常連校の海南大附属高校の選手で、彼らがやって来ただけで、観客は注目した。
「海南の神だ!!」
「2年の神だ!!」
短髪の男は、神といい、結構有名な選手のようだ。
「アーンドNo.1ルーキー、清田信長!」
そして、長髪の男は、1年生なので名は知られていないが、自分で自分をNo.1ルーキーと自称するくらいの自信家で、どこか花道と似ていた。
「No.1ルーキーだと?何だ、あの生意気な奴は!」
清田の発言にいち早く反応したのは花道で、大きなことを言う清田に敵対心を抱いた。
一方で、流川もまた、無言で睨むように清田を見ていた。
「(花道とよく似てると思うけどね)」
魅真は、清田に花道と同じニオイを感じたが、火に油をそそぐだけなので、敢えて口には出さなかった。
「海南まで湘北を見に来てるのか!!決勝リーグまで残らないとあたらないのに!!」
たった二人、海南の選手が来ただけでざわつくのは、それだけで、いかに海南がすごい学校なのかということがわかるほどだった。
「あの人、海南の人なんだ。あれだけさわがれてるってことは、すごい選手なんだろうな。あの人のプレイを見てみたいな」
バスケ好きの魅真は、神がどんなプレイをするのかを想像しながら、神に目を向けた。
すると、魅真と目があった神が、魅真に笑顔を向けて、更には手までふってきた。
突然のことにびっくりした魅真は、他にもたくさんの人がいるが、目線はこちらに向いているので、もしかして自分にふってるのか?と問うように、神を見ながら、自分自身を指さした。
すると神は、そうだと言うように、手をふりながら笑顔でうなずいたので、魅真も愛想笑いをしながら、手をふり返した。
「ぬ?なんだ、アイツと知り合いか?」
「まさか。海南に知り合いなんていないわよ」
今のやりとりを見ていた花道が、魅真に質問をするが、魅真には、心当たりはさっぱりなかった。
「(でも………だとしたら……一体どこで会ったんだろう?)」
もしかしたら、自分が忘れてるだけで、前にどこかで会ったことがあるかもしれないので、頭を悩ますが、答えは出てこなかった。
「さあ、始めなさい」
魅真が思い悩んでいると、清田が偉そうな態度で言い放ち、その後すぐに審判の笛が鳴って、試合が始まった。
ジャンプボールは赤木が勝ち、ボールを宮城がとると、持ち前の運動能力で素早くゴールまで走っていき、相手チームが止めにかかるも、宮城は横にパスを出し、そのパスをとった三井が3Pシュートを決めた。
「やったあ!!さすが三井先輩!!」
開始早々、1分と経たないうちに三井が決めたので、魅真はテンションが上がっていた。
他の花道以外の選手も盛り上がり、魅真は目がハートになって興奮しており、思わず作業している手が止まる。
「こらこら、魅真!手が止まってるわよ!ちゃんと仕事しなさい」
「あっ……すみません、アヤちゃん先輩…」
この日の魅真の作業は記録係で、彩子に注意をされると、あわてて謝ると、記録をつけるのを再開した。
それから、前半の残り時間が9分53秒になった時、花道が木暮と交代した。
だが花道は、出てからそんなに時間が経たないうちに、何もせずに5ファウルで退場になっており、ベンチに戻ると、また木暮がコートに上がった。
角野高校もがんばっているが、三井、流川、赤木が中心となって点をとりまくっていたので、ほとんど点を入れることができなかった。
後半になっても快進撃は続き、残り1分半を切ったところで、三井が3Pシュートを決め、湘北側の得点は、153点になった。
「つ………強ええっ!!!」
「湘北強ええっ!!」
「こりゃ本物だ!!」
後半の残り時間が1分19秒になると、153対24と、129点という大差をつけて大きくリードしており、観客も驚いていた。
そして、それからまったく点を入れられることなく時間が経ち、160対24で圧勝した湘北は、2回戦を突破した。
「桜木花道!経験よ、経験!!経験をつむうちに、だんだんわかってくるもんよ!!」
「…………」
「そうだ、桜木!!あせるなよ」
前回に続き、またしても5ファウルで退場になってしまった花道を、彩子と木暮ははげますが、花道は落ちこんだままだった。
「(くっそ~~~~~。ちょっとあたったくらいでピッピピッピふきやがって、あの審判め…。ちくしょー。今度こそ退場しねーぞ)」
その、ちょっとあたるのがダメなのに、そのことで苛立っている花道は審判を逆恨みして、同時に次こそはと決意をしていた。
その日の夜…。三井は、2年前に足を痛めた時に入院した、野口総合病院から出てきた。もう足の痛みはとっくにないが、念のための検査だった。
「…もう、ここには、2度とこねぇと思ったけどな…」
退院したあとは、不良の道を歩み、バスケ部に戻るつもりはなかったので、この病院に再び来るなど、思いもしていなかったが、人生というのは、何がいつどうなるかわからないもので、三井は哀愁が漂うような雰囲気で、ふり向いて病院を少しだけ見ると、再び前を向く。
「これからも、どんどん強豪とあたっていくことになる…。だが、負けやしねーぜ!!この三井寿が加わったんだ!!」
自信満々な態度で決意を胸に、三井は帰路に着く。
だが、ポケットに手をつっこんで、病院にそって歩いていると、一台のバイクとすれ違った。
バイクとすれ違うと、三井は一瞬固まって、後ろへふり返る。
同時に、バイクに乗っていた人物も、バイクを止めた。
そこにいたのは、かつての不良仲間の鉄男だった。
「鉄男…」
「三井…か…?」
まさか、こんなところで会うとは思わず、2人は驚いていた。
同じ頃、野口総合病院のすぐ近くを、魅真が制服姿で歩いていた。
「ん?」
そして、曲がり角を曲がると、見覚えのある人物が目に映り、歩みを止めた。
「(三井先輩!!)」
その見覚えのある人物とは、自分が恋焦がれる三井で、三井をみつけると、魅真は顔を赤くした。
「(ラッキー!!まさか、学校以外の時間に会うなんて…。よーし!せっかくだし、声かけちゃお!)」
そう思って走り出そうとした時、また別の、見覚えのある人物が目に映る。
「(あれ…?あいつって……三井先輩の不良仲間だった、確か鉄男とかいう……)」
何故か三井と一緒にいる鉄男に目を見張り、凝視した。
「(なんで三井先輩がアイツと?…はっ!!まさかアイツ……三井先輩に、この前の事件の恨みごとを言うつもりなんじゃ!?)」
もう不良ではない三井が、雰囲気からしてまだ不良であろう鉄男と一緒にいるので、鉄男が三井に、この前の事件に関しての文句を言うか、最悪の場合、三井を殴るのではないかと思った魅真は、鉄男を睨みつけ、警戒し、いつ何があっても、すぐに出られるように身構えた。
「鉄男…!!」
一方三井は、バイクを止め、歩道側のガードレールにすわる鉄男の前に立ち、静かに鉄男の名前を呼んだ。
すると、病院から出てきたのを見ていたらしい鉄男が、無言で病院を見上げる。
「ああ、ヒザを検査してもらったんだ。一応」
鉄男の仕草で、何が言いたいのか気づいた三井は、何故自分が病院から出てきたのかを、簡潔に説明する。
「なんだ、その頭は」
鉄男は三井が言ったことに返しながら、タバコをくわえ、ライターを手にとる。
「スポーツマンみてーだな」
そして、しゃべりながらライターのスイッチを押して、タバコに火をつけた。
その、鉄男が今言ったことに反応した三井は、目に力が入る。
「ま……そっちの方が似合ってるよ、おめーには」
もしかしたら、この前のことで恨みごとを言うのかと思ったが、そうではなく、鉄男は今の三井を認めて、ニカッと笑った。
「鉄男…」
予想外の言葉に、三井が鉄男の名前を呼ぶと、突然パトカーのサイレンの音が聴こえてきた。
「おおっと、追いついてきやがった。まいたと思ったのにな」
サイレンの音に反応をした鉄男は、吸っていたタバコを地面にすてて、足でつぶして火を消した。
「ヘルメットってのがキライでよ」
鉄男が追われていたのは、ヘルメットなしでバイクを運転していたからだった。
鉄男はガードレールをとび越えて道路側に出ると、路肩に止めていたバイクにまたがり、エンジンをかけると、一度三井に顔を向けた。
「じゃな、スポーツマン」
そして別れを告げて、バイクを走らせ、三井のもとから去っていった。
《そこのバイク、止まりなさい。そこのバイク!!》
鉄男がいなくなったあと、パトカーが一台、サイレンを鳴らしながら走ってきて、止まるように促す。
《止まりなさい!!そこのノーヘル!!》
まったく止まる気配のない鉄男に、再度止まるよう促すパトカーは、次第に音も声も聞こえなくなっていった。
「じゃあな…。鉄男」
自分はもう不良ではないが、鉄男はまだ不良。もう住む世界が違う。鉄男が言った意味を理解した三井が、鉄男が去っていった方向を見ながら静かに言ったその言葉は、まるで決別のような言葉だった。
「夜は、まだちょっと冷えるなー」
鉄男がいなくなると、三井は再び歩きだし、以前までの、鉄男と同じで不良だった頃の長い髪の毛から、今のバスケットマンの短い髪の毛になった頭を、ポンポンとたたいた。
「(なんだ。別に恨みごとを言うわけじゃなかったのね。よかった)」
一方、今の三井と鉄男のやりとりを見ていた魅真は、鉄男はてっきり、この前のことで文句を言ったり、ヘタしたら三井を殴るかと思ったので、ほっとしていた。
「(………私も帰ろう)」
本当は三井に声をかけようと思ったが、そんな雰囲気じゃないので、魅真は帰ろうとした。
「何やってんだ?お前。そんなところで」
しかし、こっそり帰ろうとしたのに三井にみつかってしまい、ドキッとした。
「み……三井先輩…」
こっそりのぞいていたのにみつかってしまったので、魅真はおそるおそる後ろへふり返る。
「お前…ひょっとして見てたのか?」
「ぐっ、偶然です!たまたまここを通りかかったら、そしたら三井先輩を見かけて……」
「でも、見てたんだよな?」
「スミマセン…」
あわてて説明するも、静かに…でも強い声で問われると、あまり褒められる行為とは言えないので、魅真は謝った。
「でも、三井先輩が心配だったんです」
「心配?」
「三井先輩が、あの鉄男って奴に、この前の事件のことで、恨みごとを言われたり、最悪殴られたりするんじゃないかと思いまして……。確かに、三井先輩は、鉄男って奴に恨まれても仕方ないかもしれない…。だけど、やっぱり心配で……」
「まあ、オレもそのくらいは覚悟してたよ。自分から、バスケ部をブッ壊す手伝いを頼んでおきながら、ノコノコとバスケ部に戻ったんだからな…。恨まれても仕方ないって思ってた。でも、あいつは……」
何故こっそりと見ていたのかを説明すると、三井は思うところがあるようで、どこか寂しそうな顔をしていたので、魅真はジッとみつめた。
「ところでお前、なんでここにいんだ?ここ、武石中のエリアだぞ。お前は確か和光中だろ?しかもまだ家に帰ってねえのかよ?」
「スポーツジムに行ってたんですよ。週に二度ほど通ってるんです。この辺の方が、私の近所のジムよりも設備がいいので」
「ふーーん」
突然話題を変える三井だが、その質問に魅真が答えても、自分から聞いたのに、あまり興味なさそうだった。
「塾は、近所の方がこっちよりもいいところがあるので、そっちに通ってますけど」
「塾!?」
まさか、元ヤンの魅真の口から、塾という言葉が出てくるとは思わず、三井は驚いた。
「はい。こっちは週に二~三度ほど…」
「お前が塾ねえ…」
以前魅真が、自分で自分を優等生だと言っていたが、それでも三井は信じられなかった。
「私、去年更生した時に、なんでもがんばるって決めたんです。勉強も、スポーツも、バスケも……。それに……」
未だに信じられないといった顔の三井に、魅真は去年決意したことを話しながら、三井をジッとみつめる。
「? なんだよ」
「あ、いえ!なんでもないです」
無言で見られたので、三井は何事かと思って問いかけると、魅真はあわてて誤魔化した。
「(それに……三井先輩への恋も…)」
がんばると決めたのは、三井に対する恋心なので、今はまだ本人に言うわけにはいかない魅真は、口をとざし、誤魔化したのだった。
けど、三井への想いは止められないので、魅真は三井を、恋する乙女の目でみつめた。
そんな魅真の想いなど知らない三井は、魅真が何か言いかけたのに途中でやめたので、わけがわからなかった。
「だけど、あそこのスポーツジム、設備はいいんですけど、家まで歩くと遠い上に、暗くて人気のない道を通らなきゃいけないのが難点なんですよね」
魅真は自分の気持ちを悟られないために、話題を変える。
「こえーのか?」
「別に怖くはないですけど、やっぱ女の1人歩きはいろいろと不安ですし、危ないんですよ。私も女子高生ですし、今は制服も着てますから」
「鬼神のくせに、何を弱っちいこと言ってやがんだ」
三井に鬼神と言われると、魅真はショックをうけて固まった。
「…………やめてください……」
ショックで沈んだ顔になった魅真は、静かにポツリとつぶやいた。
「あ?」
「やめてください……。その……鬼神って呼ぶの…」
「何言ってんだ?お前が鬼神だってのは、足洗っても変わんねー事実だろ」
確かにその通りだが、三井に言われるのはショックだし、すごく嫌な魅真は、その言葉に傷つき、うつむき加減になる。
「…私、帰ります。おつかれ様でした」
そのことを言われて、今は三井といるのが辛い魅真は、あいさつをすると、三井に背を向けて帰路につく。その顔は、ショックをうけているのでどこか暗く、しゃべり方も事務的だった。
「あ、おい!」
なんでそうなったのかはわからないが、ただごとでないのがわかった三井は魅真を呼び止めるが、魅真は何も答えず、ふりかえることもしなかった。
「待て!」
魅真が無反応なので、三井は魅真の腕をつかんで引き止める。
「なんですか?」
三井に腕をつかまれたので、頬を赤くしながらも、鬼神と言われたショックが抜けきっていないので、沈んだ顔で三井に問う。
三井につかまれた腕は、とても熱く感じた。それは単純に、三井が生きているからだけではなかった。
「送ってく。家はどこだ?」
三井が用を言うが、信じられない言葉に、魅真は思考回路が止まる。
「えっ!?」
そして、ワンテンポ遅れて反応して、後ろにふり返り、三井と顔を合わせる。
驚きつつも感激した魅真の顔は、先程とは違って明るくなった。
「そんな話聞いたら、見て見ぬふりするわけにもいかねーだろーが。お前も一応女だし、見た目からは鬼神だって想像できねーから、間違って妙な気をおこした奴が、お前のことを襲わないともかぎんねーだろ」
「なんか、いろいろとひっかかりますね。その言い方」
感激すると同時に、心配はしてくれてるみたいだが、めちゃくちゃけなされたので、複雑な気持ちになった。
「別にいいんなら、オレはこれで…「わーーーーーっ!!待ってください!!ぜひ送ってください!!お願いします!!」
三井は、送る必要はないのかと判断すると、魅真の腕をつかんでいた手を放して、踵を返して帰ろうとするが、魅真は必死になって叫んだ。
「そんな必死になることかよ。そんなに嫌な場所を通るのか?」
すごい必死だったのでそのように解釈するが、それは見当違いな答えだった。けど、それでも魅真は、うれしいという気持ちの方が勝っていた。
「いえ、そういうわけでは…」
「?」
けど、今は自分の本当の想いを知られるわけにはいかないので、言葉を濁した。
「あ、家はあっちです」
「そうか」
送ってくれるというので、魅真は自分の家がある方角を指をさし、方角がわかると、三井は魅真が指さした方向に歩きだす。
「あっ…あの!!」
三井が歩き出すと、魅真は先に歩き出した三井のそでを、親指と人差し指ではさむようにつかんだ。
「んだよ?」
そんなに強い力じゃないが、三井はどうしたのかと思い、立ち止まってふり返った。
「あ、あの……あの…」
「あ?」
「腕……組んでもいいですか!?」
赤い顔で、身長差のある三井の顔を見上げてお願いをする魅真。
自分の気持ちを知られてしまうかもしれないと思ったが、それでも、どうしても止めることはできなかった。
「はあ!?」
魅真は真剣そのものだが、三井からしてみるとなんの脈絡もないお願いに、三井は何言ってんだコイツ!というように声をあげる。
「ダメ…ですか…?」
今の反応で、やっぱり嫌だったのかと思った魅真は悲しそうな目でみつめ、その目でみつめられた三井はドキッとなる。
「別に……ダメじゃねえけど……。でも、なんでンなことするんだ?」
「えっ!?あっ………ほら!三井先輩さっき、私も一応女で、見た目からは鬼神だと想像できないから、間違って妙な気をおこした奴が、私のことを襲わないともかぎらないって言ってたじゃないですか。それなら、恋人同士に見えた方が襲われないと思うんです。男がいて、それが彼氏だってわかれば、余計に襲わないと思いますし。三井先輩元ヤンですけど、目つきと口調は未だに悪いので、きっとそれだけで、そういう相手も逃げていくと思うんです」
「おめーも一言多いんだよ!」
本当は、単に三井が好きだから腕を組みたいだけなのだが、本当のことを言うわけにはいかないので、適当にそれっぽいことを言って誤魔化すが、三井同様ひっかかる言い方をしたので、三井は鋭いツッコミを入れる。
「……ったく…。ほらよ」
仕方なさそうにしているが、それでも魅真が腕を組みやすいように、腕を魅真の方へ出した。
魅真はおずおずと手を近づけるが、中指の先が三井の腕に軽くふれると、すぐに手を離してしまう。
けど、緊張とはずかしさで顔を赤くしながら、またすぐに、ゆっくりと三井の腕に手を近づけると、腕に手をからめた。
「…じゃあ…行くぞ」
魅真が腕を組んだのを確認すると、先程魅真が指をさした方へ歩き出す。
魅真にとってこの瞬間は、至福のひとときだった。
まだ、恋人同士どころか、告白すらしていないし、まだするつもりもない。
だけど、この想いは止められない…。止まらない…。
魅真は腕を組んではいるが、ほんの少しだけ体を離していた。くっついてるのかくっついてないのかわからない、微妙な距離をたもって歩いていた。
本当は、三井が好きだから近づきたい。でも、好きだから、はずかしくてうまく近づけない。でも近づきたい。目も合わせたいけど、三井を見ていたいけど、はずかしいからどうしても顔をそらしてしまう。三井の目をまっすぐ見ることができない。でも、好きだからみつめていたい。
そんな、相反する矛盾した思いを抱えこみながらも、魅真はうっとりとした表情をしていた。
家までは距離があり、いつもなら時間がかかるが、今だけは、時間が早く過ぎないでほしい、このままでいたいと思い、幸せな時間を噛みしめながら、家までの道を歩いていた。
次の日の朝。魅真は今日は、1人で登校をしていた。
「おう、魅真ちゃんじゃねーか。おはよ」
「あ、リョータ先輩。おはようございます」
門をくぐると、偶然にも宮城と遭遇した。
「ん?どーしたんだ、魅真ちゃん」
「え?」
人の顔を見るなり、いきなりどうしたと言われたので、魅真は宮城が何を言ってるのかわからなかった。
「いや……。なんか魅真ちゃん、うれしそうなのに、どこか元気がないみたいだからさ」
宮城が魅真に声をかけたのは、仲良くなったからというだけでなく、魅真がうれしそうな顔をしてるのに、どこか元気がないのをふしぎに思ったからだった。
魅真と宮城は校舎裏まで行き、魅真は誰もいないのを確認すると、宮城に昨日の夜のことを話した。
三井が鉄男と話をしていたこと。その様子を、偶然にも、スポーツジムに行った帰りに目撃して、話を聞いてしまったこと。幸運にも、三井に家まで送ってもらったこと。その際に腕を組ませてもらったことを、三井と鉄男の会話の内容はとばして、すべて話した。
「やったじゃん。よかったじゃん。魅真ちゃんは、1歩踏み出したわけだ。でも、それじゃあなんで、元気がないんだ?」
「………三井先輩に……鬼神って言われたからです…」
「魅真ちゃんが鬼神だってのは事実だろ?」
悪気はないのだが、あっさりと返されたので、魅真は三井の時ほどではないが、ショックをうけた。
「そりゃあ、私が不良で、鬼神って呼ばれていたのは事実ですよ。どんなに嫌でも、それも、私が今まで経験してきたことですから…。だけど、鬼神って、すごく強いっていうイメージがあるじゃないですか。あまり、女の子に使うものじゃないです。三井先輩以外の人に言われても、さほどショックではないですけど、三井先輩にだけは言われたくないんです。それだけでも嫌なのに、よりによって、好きな人にそんな風に見られて、しかも呼ばれるなんて…。やっぱり女としては、好きな人にそういう風に見られるのは、すごく嫌なんです。やっぱり好きな人には、女の子らしく見られたいですから」
「そんなもんかね…」
同じように、好きな人がいる宮城だが、男なので、女の魅真の気持ちは今いちわからないようだった。
「リョータ先輩って、案外女の子の気持ちがわかっていませんね。アヤちゃん先輩を好きだから、恋してない男よりは、わかってると思ったんですけど」
「ど、どういう意味だ…?」
「女の子も男の子と同じで、特に好きな人の前ではカッコつけなんですよ」
「そうなのか!?」
「そうなんですよ。たとえば、アヤちゃん先輩がリョータ先輩のことを、なよなよして男らしくない!女みたい!とか言ったらどうです?」
「そ……それは嫌だな…」
「でしょう?それと同じですよ」
ようやく理解してくれた宮城に、魅真は力説する。
「んーー。三井サンも、悪気も悪意もないみたいだけど、なーんか、魅真ちゃんが鬼神だってことを、気にしすぎてんだよな…」
そのことを聞くと、去年のことが原因かもしれないと思った魅真は、またちょっと沈んだ。
「恋って、楽しいけど難しいですね…。相手のことを考えると、すごく楽しいのに、同じくらい胸が痛い。一緒にいるとすごく幸せなのに、同じくらい苦しい……。でも…それでも……その人のことが大好きなんですよね……」
「わかるぜ、その気持ち…」
先程の、鬼神と呼ばれるのが嫌というのはよくわからなかったが、今の気持ちはよくわかるので、宮城は魅真に同意をした。
「でも、こんなことでくじけません!!せっかく1つ夢が叶ったんです。次は、この想いが叶うようにがんばります!!」
鬼神と言われて傷つきはしたが、魅真はますます燃え上がった。
「おう、がんばれ!」
魅真の気持ちがわかり、魅真の恋を応援すると決めた宮城は、魅真にエールを送った。
そして放課後…。
部活の時間となり、今は試合の最中だった。この試合では、彩子が審判、魅真は得点係をしていた。
「(三井先輩に、鬼神と呼ばれようがなんて呼ばれようが、ずぇったいにあきらめたりするものですか!!そんな生半可なものじゃないんだから。私の、三井先輩への想いは!!)」
魅真は得点ボードの横に立って、昨日の夜のことと、今朝のリョータとの会話を思い出し、自分を奮い立たせていた。
目の前では選手達が走り、ボールが流川の手に渡ると、流川は当然のように決めた。
「ナイッシュー流川!次の3回戦も絶対勝つわよー!ファイトファイトォーー!!」
流川が決めると、彩子はいつもの高いテンションで声出しをする。
一方花道はというと、試合中だというのに、1人ぼーっと立ったまま、他の選手のプレイを見ていた。
「(退場していては、流川より点をとることはできん!!だが、その退場をしないためには…)」
2試合連続で5ファウルで退場したのを気にしている花道は、昨日の夜、赤木の家を訪ね、退場しないためにはどうしたらいいのかを赤木に聞きに行った。その時のことを思い出していた。
「(ゴリめ…。この天才・桜木に対してエラソーに。とにかく、この問題を解決しないかぎり、やっぱりハルコさんにはあわせる顔が…)「桜木君!ガンバッテ!」
「(あっ、ハルコさん!)」
その後走り出し、晴子のことを考えていると、タイミングよく、扉の前にいる晴子に声をかけられ、いつものように鼻の下を伸ばし、顔を赤くした。
「(イカーーン)」
けど、次の瞬間には顔が青くなり、歯をくいしばると、何も応えずに、晴子に背を向けて走り出したので、そんな花道を見た晴子は、いつもと様子が違うので、ふしぎそうにしていた。
コートでは、潮崎にパスされたボールを宮城がカットし、そのままボールを運んでいく。
木暮が花道に、宮城を止めるように言うが、当の花道は、またコートに立ったままぼーっとしていた。
しかし、宮城が自分の横を走っていくと我にかえり、宮城を追いかけた。
あっという間に追いついた花道だが、宮城はあわてておらず、それどころかニヤリと笑い、その場に止まる。
宮城が急に止まったことで、花道も宮城の前に止まり、抜かれないように構えるが、宮城はその場で数回ドリブルをしたあと、左でついていたボールを右手に移し、花道を抜こうと走り出した。
花道はボールをカットしようとするが、宮城はボールを、右から左に戻して花道を抜いた。
抜かれて悔しくなった花道は、ジャンプして宮城の腰にとびつき、宮城の後ろからボールをとる。
「ホールディング!!」
だが、当然笛が鳴り、ファウルとなる。
更に、パスをされたボールをとろうと走っていき、ジャンプをしてボールをとった瞬間に、腕が安田の顔にあたる。
「チャージング!!」
あたり前だが、今のも花道のファウルとなり、笛が鳴った。
それでも懲りずに、花道は今度は、ドリブルをする三井の背中を踏みつける。
もはやバスケットボールではなく、これはわざとではないかと思われるくらいのもので、当然笛が鳴る。
「コラ、桜木花道!!いい加減に…」
あまりにも連続して反則ばかりするので、彩子は注意しようとする。
「なーんでオレばっかりピッピピッピ鳴らすんですかァ!!」
短時間で3回も笛を鳴らした彩子に、花道は文句を言う。
「アンタが悪いんでしょ!!ディフェンスヘタだから!!」
しかし、彩子も負けじと言い返した。
「ホントにもう!」
相手は女性なので、これ以上強く言えない花道は、口をつぐんだ。
花道の後ろでは、花道に背中を踏みつけられて怒り心頭な三井が、花道に襲いかかろうとしていたが、木暮と安田に止められていた。
「コラァ!!花道ぃ!!」
「うお!!」
その時、魅真が怒りながら花道の背中を蹴ったので、突然感じた衝撃に花道はびっくりして、花道に怒り、今にも殴りかかりそうだった三井は動きが止まり、毒気が抜かれたように呆然とした。
「何すんだ、てめぇ!!」
いきなり蹴られたので、花道は文句を言う。
「アンタねえ、もうちょっとマジメにディフェンスしなさいよ!そんなんじゃ、次に試合に出ても、また5ファウルで退場よ! (三井先輩になんてことを)」
「ちゃんとやってんだろうが!!」
「どこがよ。どこからどう見ても、反則だったじゃないの!!」
「あれは反則じゃねえっ!!れっきとしたディフェンスだ!!」
あれをディフェンスだと言い切った花道に、魅真は切れた。
「アンタの言うディフェンスってのは、相手にタックルかましたり、体当たりしたり、背中を踏みつけたりすることかーーー!!」
「うっ…」
まっとうなことをつっこまれると、花道は迫力負けして、何も言えなくなった。
「いい?試合では、審判のジャッジがすべてなの!わざとだろうとわざとじゃなかろうと、審判がファウルって言ったらファウルなのよ!これ以上5ファウルで退場したくなかったら、もっとディフェンスがうまくなる努力をしなさい」
「ぐっ……」
またしても正論を言われ、言い負かされたのと迫力負けしたのとで、花道は言葉がつまる。
「ちょびっとくらいまけてくれたっていーじゃねーか。ケチ」
「はあっ!?」
今しがた、試合では審判のジャッジがすべてだと言ったばかりなのに、まけろとかケチとか意味がわからないことを言う花道に、また言い返そうとした。
「何がケチだ、バカタレが!!」
だが、魅真が何か言う前に、赤木が花道の頭を殴ったので、それ以上は何も言わなかった。
そのあとも流川が決めたり、宮城にボールをパスされた三井が、花道が止めようとするのをものともせずに、絶妙なボールさばきで花道を抜き去り、レイアップを決める。
「よォーし!!」
シュートが決まると、三井はガッツポーズをする。
「ナイッシュー、三井サン」
シュートを決めると、三井はパスを出した宮城のもとへ歩いていき、健闘を称えるようにタッチをした。
そして、三井が活躍したのを見た魅真は、頬を赤くして、うっとりとした顔で、三井をみつめていた。
次の日の朝。
魅真はいつものように、花道、洋平、大楠、高宮、野間の5人と登校していた。
「なんだ、そーだったのかー。ゴリのヤロー、もっと早く教えてくれりゃあよかったのによ」
その中で、花道はやけに機嫌がよく、魅真達の後ろを歩き、笑ったあとに、大きな1人ごとを言っていたので、魅真達は顔を後ろに向けて、怪しいものを見る目で花道を見ていた。
「ヤケに機嫌がいいな、今朝の花道は」
「昨日まで落ちこんでたクセによ」
「昨日の夜、何かあったのかしら?」
昨日の部活の時とはまるで違う花道に、洋平、大楠、魅真はふしぎそうにしていた。
「ん?」
3人が話していると、突然高宮が、目の前からやって来る他校の女子生徒に反応する。
「けっこータイプ」
それは、高宮の好みの女子生徒だからで、高宮は頬を赤くすると、彼女達の前に出た。
「ねえ君達、どこの学校?」
「えー、やだあー」
「ねえー」
さっそくナンパする高宮に、彼女達はどこか困惑したように笑っていたが、突然ぎょっとした顔になる。
「何もそんなに怖がることないじゃん。僕達、けして怪しい者じゃないし」
「怖いって。ホラ」
高宮は、突然自分が話しかけたからだと思ったが、野間が指さした自分の後ろを見てみると、そこには、鋭い目で彼女達を睨みつけている花道がいた。
「(目で殺す!!)」
その怖さに、彼女達はあわてて逃げていく。
「何やってんだよ花道ィ!!せっかくのチャンスだったのに!!」
高宮が文句を言うも、花道は聞いておらず、高宮の前を通りすぎていく。
「本当に何やってんの?アイツ…」
いくらケンカっぱやい花道でも、女子生徒を相手にこんなことはしないのに、いきなりわけもなくガンをとばしていたので、魅真は疑問に思った。
「(もっと手ごたえのある相手はいないのか?…ん?)」
また、先程の女子生徒にやったようにガンをとばそうと、相手を探していると、目の前から、サングラスをかけたヤクザのような見た目の男と、金髪でサングラスをかけた舎弟といった感じの、いかにもといった雰囲気の男達が歩いてきた。
サングラスの男が武勇伝を話しながら歩いており、金髪の男はコビを売るように、サングラスの男を称賛した。
「なんだテメェは!?」
自分の行く先に立っていたので、サングラスの男は花道の目の前に来ると、ジャマだと言うように、花道にガンをとばした。
「フッフッフッフッ。ちょーどいいや」
けど、花道はそこからどかずに笑っていた。
「よ、よせっ花道!!」
「朝っぱらからムチャすんなって!!」
花道の言葉で、また先程の女子生徒の時のように、ガンをとばすつもりなのだとわかった洋平と大楠は、花道を止めるが、花道は聞いちゃいなかった。
「コラァ、この人誰だと思ってんだい」
すると、サングラスの男の前に金髪の男がやって来て、声をかけるも、花道は聞いておらず、サングラスの男を睨みつけた。
「ああっ!?」
「このヤロウ!!」
男も負けじと睨みつけると、花道は更に迫力のある顔で睨みつけ、男もまた睨み返す。
しかし、それ以上に迫力ある目で睨まれると、男は腰をぬかして尻もちをついた。
「ま…負けた…」
花道は彼らの前を通りすぎていき、魅真達もあとを追いかけた。
「よっしゃ。これでほぼ極意はつかんだぞ」
今のサングラスの男を負かして、満足そうな顔をしながら歩いていると、横から猫の鳴き声が聞こえてきた。
「ん?」
花道は、また先程のようにガンをとばそうとした。
「(フッ、バカめ。百獣の王はネコを倒すにも、全力をつくすのだ!)」
そして、今度は猫を相手にしようと睨みつけるが、先に、猫に顔を爪でひっかかれた。
「んぎゃあああ!!て、てめぇ、手ェ出したら反則だぞ!!ファウルだー!!」
猫に負けてしまった花道は、わけのわからないことを叫び、花道をひっかいた猫は、花道の頭から塀にとび移った。
「朝メシに、なんか悪いモンでも食ったんじゃねーのか?」
「はああ…」
そんな花道の姿を、魅真達は呆れた目で見ていた。
「くっそーー…。猫にはディフェンスの極意が通じねえのか…?」
サングラスの男には勝ったが、猫にはやられてしまったので、花道は再び魅真達の前を歩きながら、悔しそうにしていた。
「ディフェンスの極意?おい魅真、そんなもんあんのか?」
「あるわけないでしょーが」
またしても、わけのわからないことを言う花道に、洋平は、バスケ経験者である魅真に聞いてみるが、魅真は冷めた目で花道を見ながら、洋平の問いに、はっきりきっぱりと言い切った。
「えっ……。でも花道は…」
「大方、赤木先輩あたりが、適当なことを言ったんでしょ」
「なんでゴリだってわかんだよ?」
次に魅真が言ったことを疑問に思い、今度は高宮が、魅真に質問をする。
「花道が教えを請う相手は、大体リョータ先輩か赤木先輩って決まってるもの。三井先輩は……なくはなさそうだけど、あまり想像できないし、流川なんて論外。で、おそらくは、さっきのあのガンとばしが、ディフェンスの極意ってやつなんだろうけど…。そんなこと言いそうなの、赤木先輩くらいしか思いつかないもの。まあ、赤木先輩も、しつこい花道を大人しくさせるために、その場しのぎで、ウソついただけなんだろうけどね。それに、さっきのあの機嫌の良さ。あれは、単に極意とやらを教えてもらっただけでなく、赤木さんと会ったからだと思うのよね。十中八九間違いないと思うわ」
「「「「なるほどな」」」」
魅真の探偵のような推測に、4人は納得をした。
ちなみに花道は、魅真達から少し離れたところを歩いていて、先程のディフェンスの極意が失敗してしまったショックもあり、それどころではなく、魅真達の会話は聞こえていなかった。
そして放課後。
チャイムが鳴ると、三井は教室を出て、部室へ行くために廊下を歩き、階段を降りていった。
「三っちゃん」
これから部活なので、とてもうれしそうな顔をして、階段の踊り場と一階の間まで来ると、堀田に声をかけられる。
「ん?」
その声に反応した三井は、後ろへふり返った。
「徳男」
二階の廊下の階段の前には、堀田と、堀田の子分達が立っていた。
「今度の試合もがんばってくれよな、三っちゃん」
「オレ達も、応援してるからさ」
「オレ達のダチだった三っちゃんが、バスケで活躍してるとさ、なんかこう…オレ達まで鼻が高いっていうか…うれしいもんな。はははは」
どこか寂しそうな顔で話す堀田達を見ると、三井は顔を前に戻して歩きだす。
「バーカ。今でもダチだろ」
歩きながら三井が言った言葉に、堀田達は一瞬面をくらうが、すぐにうれしそうに笑う。
うれしそうに笑ってるのは三井もだった。不良じゃなくなっても、今のバスケットマンの自分を認め、友達と認めてくれてることがうれしかったのだ。
「今でもダチだろ…か…。いい言葉ですね」
外に出ると、扉の横に魅真がいて、三井に声をかけた。
「うおっ!!真田!?」
校舎の中からは見えない位置にいて、いきなり声をかけられたので、三井は驚いた。
「こんにちは、三井先輩」
驚いた三井に対して魅真は、三井と会えたのでうれしそうにあいさつをした。
「お前、また聞いてたのか」
「ええ、まあ…。部室に行こうとしたら、偶然にも、三井先輩が、堀田先輩達と話してる声が聞こえたので…」
「そうか」
理由を説明すると、三井は軽く返して部室へと歩きだし、魅真も三井のあとを追って、部室へ行くために歩きだした。
偶然だが、一緒に部室に行けるので、魅真は更にうれしそうだった。
「いい人ですね、堀田先輩達」
歩き出すと、いきなり堀田達のことを褒めたので、三井は目を丸くする。
「特に堀田先輩!バスケ部を壊そうとしていた三井先輩に協力して、あげく八つ当たりでお腹を殴られたのに、三井先輩がバスケ部に戻れるように、三井先輩をかばったんですから」
「ん?あ、ああ…」
痛いところをつかれたので、強く出ることができない三井は、歯切れの悪い返事をする。
「それに、さっきのあの言葉……。堀田先輩達に大切にされてるんですね、三井先輩って」
けど、次に言われた言葉には照れて、ほんのり顔を赤くした。
「………私……堀田先輩達の気持ち、なんかわかります」
「あ?」
今までは明るい声と雰囲気だったのに、急に声の雰囲気と話の内容が変わったので、少しだけ驚く。
「私も去年、似たようなことを、花道達に言ったので」
何やらこみいった話のようなので、三井は口をはさまず聞いていた。
「私の場合は、堀田先輩達と、立場は逆でしたけど…。私、去年足を洗った時に、花道達に聞いたんです。私は、一般の生徒に戻ったけど、花道達は不良のまま。世間からすると、生きている世界が違う…。でも、私はみんなのことが大好きだから、たとえ一般人と不良でも、友達のつもりでした。だけど、なんか不安になったので、聞いてみたんです。私はもう一般の生徒だけど、これからも、ずっと友達でいてくれるか?って…。そしたらあいつら、あたり前だろって……」
それは、去年足を洗って一般の生徒に戻ったあとの話で、魅真は去年のことを思い出して、うれしそうにしていた。
「自分が、あたり前にいることができる場所があるのって、いいですよね」
そして、そう言いながら、三井に顔を向けてにっこりと笑った。
三井は魅真の話を聞くと、先程の堀田達とのやりとりと、この前の鉄男との会話を思い出す。
「ああ。そうだな」
そのことを思い出して固まっていたが、すぐにもとに戻り、笑顔で同意をした。
同意してくれたこともだが、三井が笑顔を向けてくれたのがうれしくて、魅真の顔は明るくなる。
三井は魅真に軽く笑うと、2人は一緒に部室に行った。
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