#22 5月22日
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三浦台との試合が行われた次の日のこと…。
「おはようございます!三井先輩!!」
朝、登校している時に、門の前で三井を見かけた魅真は、満面の笑顔で、元気よくあいさつをした。
しかし、三井はそんな魅真に引いていた。
はたから見ると失礼だが、昨日まではツンケンした態度で接していたのに、今朝になって急に態度が変わったので、三井の反応は当然といえた。
けど、魅真もそんなことは百も承知だった。それでも、一度自分の気持ちがわからなくなったが、やはり三井に恋していることが昨日はっきりとわかったので、おかまいなしであいさつをしたのだった。
「お前さ、態度変わりすぎじゃねえ?」
「あ、それはすみませんでした。でも、いくらなんでも失礼な態度だと思ったんです」
三井はそのことについて指摘するが、魅真はあっさりと答え、謝罪したので、三井はそれ以上は何も言えなくなった。
「それじゃあ、今日も1日がんばりましょう!三井先輩!!」
昇降口まで来ると、1年生と3年生のロッカーは別の場所にあるので、魅真は三井に手をふりながら、自分のクラスのロッカーまで行った。
そんな魅真を、三井は唖然として見送った。
#22 5月22日
「三っちゃん、昨日の試合どうだった?勝ったんだろ?」
「たりめーだ」
3年3組の三井の教室では、三井は堀田と角刈りの男とリーゼントの男といういつものメンバーと、昨日の試合のことを話していた。
「さすが三っちゃん!中学MVP!」
「オレ達の誇りだな!」
「やめろ、はずかしい」
堀田と角刈りの男にはやしたてられると、三井は顔を赤くして、席を立った。
「ん?どこ行くんだ、三っちゃん」
「便所だよ」
そう言って、三井は教室の外に出ていった。
「はっはっはっ。三っちゃん、ひょっとして照れてんのか?」
「「はっはっはっはっ」」
トイレに行ったのは、照れ隠しかもしれないと思った堀田達は、三井がいなくなると、口を大きくあけて笑った。
「でもよ、三っちゃんがバスケをやってる姿は見たことねーけど、きっとかっこいいんだろうな…」
「ああ!なんたって、中学MVPだからな」
「おお!ぜってー決まってるぜ!!」
「なあ、昨日は平日だから無理だったが、休みの日に試合があったら、三っちゃんの応援に行こうぜ!!」
「「いいな、それ!」」
「そうですね」
堀田達が三井のことで盛り上がっていると、後ろから声がしたので、堀田達は思わずふりむいた。
「お前っ……真田魅真!!」
そこにいたのは魅真だった。
「ぜひ来てください。私達も、1回戦で終わるつもりはありませんし、応援は1人でも多い方がいいですから」
魅真はにこっと笑いながら話すが、堀田達は、魅真が鬼神だと知っているので、いくら足を洗ったことを知っていても、なんだか変な気持ちだった。
「それより堀田先輩」
「お、おう」
「お昼休みに屋上に来てください。話したいことがあるので」
そんな堀田達の心情は露知らず、魅真はにこにこと笑いながら、堀田にお願いをした。
そして昼休み。
堀田達は昼ご飯を食べ終えると、魅真が待つ屋上へと向かっていった。
「あ、堀田先輩」
屋上に続く扉を開けると、そこにはすでに魅真がいた。
「よかった。来てくれたんですね」
魅真が自分の名前を呼ぶと、堀田達は若干引いた。
「どうしたんですか?」
「いや……。オレは、お前が鬼神だって知ってるし、鬼神だった時に会ってるから、変な感じがしてな」
堀田が引いてた理由はこれだった。去年会った時は、魅真は不良で、見た目も違ってたし、言葉づかいも、話す時の声の雰囲気も違うので、かなり違和感を感じていたのだ。
堀田の口から鬼神という言葉が出ると、魅真は一瞬で間合いをつめて、堀田の肩を、やや強めの力でつかむ。
「どこで誰が聞いてるかわからないので、その名で呼ぶのはやめてもらえますか?」
「…そうか。悪かった…」
笑顔で話しているが、目が据わっており、圧をかけたので、堀田はビビって思わず謝った。
「で、話ってなんだ?」
「あ!そうでしたね」
話がそれたので、指摘されると、魅真は本題に入ろうとした。
「実は堀田先輩に、聞きたいことがあるんですけど」
「なんだよ?」
「三井先輩が今ほしいものって、何か知ってますか?」
「ほ…ほしいもの?」
「ええ。好きなものとかでもいいです。教えてください!」
圧をかけてるわけではないが、魅真は必死になってぐいぐいとせまってきてるので、堀田はまた若干引いていた。
「そんなもん知らねえよ」
三井の親友の堀田なら、何か知っていると思ったが、意外にも何も知らなかった。
「ちっ……。使えねえな」
堀田なら知ってると思ったのに、何も有力な情報を手にいれられなかったので、魅真は突然ガラが悪くなった。
「おいっ…おいっ!鬼神になってんぞ!」
鬼神と呼ぶなと言ったのに、鬼神だった時のようにガラが悪くなったので、堀田は思わずつっこんだ。
「あらいけない。でも…堀田先輩、私……その名で呼ぶなと、さっき言ったばかりなんですけど……」
「悪い…」
今度はガラが悪くないが、それでもまた圧をかけながら話しているので、堀田はまた謝ってしまった。
授業が終わり、部活の時間となった。
「(うーーん…。三井先輩は、一体何がほしいんだろう?そういうのを話してるの見たことないから、全然思いつかないや…)」
今はハーフコートで試合をしており、魅真は得点係をしながら、コートでプレイしている三井をジッと見た。
「(三井先輩といえばやっぱバスケよね。サポーターしてるから、新しいサポーターでもいいけど…。でも、サイズがどのくらいかわからないし。スポーツタオルならあたりさわりもなさそうだけど、まだボロボロじゃないしな…。じゃあ、手作りのお菓子?ああ…でも、三井先輩、甘いものが好きかどうかもわからないし…)」
魅真は得点係をしながら、三井は一体何がほしいのか思い悩んでいた。
魅真が何故、三井がほしいもの、もしくは好きなものは何かとこんなにも悩んでいるかというと、明後日の5月22日は、三井の誕生日だからだ。バレンタインやクリスマス以外に、こんなにも自分をアピールする機会はないので、なんとかプレゼントを用意して、アピールしようと思っていた。
しかし、三井が好きだからこそ、失敗はできなかった。三井がほしいもの、もしくは好きなもので、高すぎず安すぎず、なおかつ、ダサくなくてきどらないものが好ましかった。なので、三井の好みでないものをあげるわけにいかないので、魅真は思い悩んでいたのである。
次の日の3時間目。
「めずらしいな。宮城が授業にまともに出てるなんて」
宮城のクラスの2年1組は、今は体育の時間で、宮城はいつもはサボるか、いても居眠りをしているので、あまりまともに授業に出ていないのだが、めずらしく授業に出ている宮城を、クラスメイトはからかった。
「まあ、たまにはな。あまり授業に出ないと、出席日数足りなくなって留年だかんな。適度に出ておかねーと」
「とかなんとか言って、本当は彩子のブルマー姿が目当てなんじゃねえの?」
離れたところでは女子が授業をしており、体操着姿の彩子を見ていた宮城は、図星をつかれて顔を赤くした。
「おまえも本当に一途だよなー」
「うるせえ…」
クラスメイトが更にからかうと、宮城は顔を真っ赤にする。けど、真っ赤にしながらも、彩子から目をそらさなかった。
「まあ、その気持ちはわからなくねーけどな」
「は?」
「オレは真田魅真目当てだからな」
そう言った男子生徒の目の先には、魅真の姿があった。
2年1組の女子から少し離れた場所では、1年10組が授業をしていたのだ。
「真田?」
「おう。同じバスケ部だから知ってるだろ?」
「まあな…」
「今日は50メートル走のタイムを測るみたいだな。あっ、ちょうど今から走るみたいだぞ!」
魅真のクラスの授業では、50メートル走のタイムを測っていた。
話していると、ちょうど魅真がスタートラインに立ったので、男子生徒は顔をぐっと前に出して魅真を見た。
「真田魅真って、すっげえ足が早いらしいぞ」
「へえ…」
男子生徒がキラキラと目を輝かせて話すも、宮城は大して興味なさそうにしていた。
1年10組の女子のクラスでは、教師の合図があると、合図が出ると同時に魅真は走りだした。魅真はあっという間にゴールまで走り、6秒1という脅威の記録を打ち立てた。
「すっげえ。さすが真田魅真だ!」
あまりの速さに宮城は驚き、男子生徒は称賛する。
「やっぱすげぇよな。真田魅真!」
「あいつ、あんなに早かったのか」
「なんでも、入学して間もない頃、すべての運動部から誘いをうけたけど、全部断ったらしいぜ。特に陸上部なんか、百年に一人の逸材とか言って、すごい熱心に誘ってたみたいだけど、バスケ部のマネージャーになるからって断ったんだってよ。キャプテンがめちゃくちゃ泣いてたな。すごい才能の持ち主なのに、もったいないって」
「へえ…」
「その上頭もいいんだぜ。優等生なんだよ。学級委員で、どんな雑用も引き受ける。先生のうけもいいしな」
男子生徒のその言葉で、この前の事件で、魅真が自分で自分を優等生だと言ってたのを、宮城は思い出す。
「まさに文武両道!しかも、スタイルも結構いいし、なんといってもかわいい!!」
「んーー…。まあ…悪くねえけど、オレはやっぱアヤちゃんだな」
「まあ、好みは人それぞれだけどよ。とにかくすごいモテるらしいぜ」
「そうなのか?」
「ああ。バスケ部に流川っているだろ?」
「おう」
「その流川なみにモテるそうだ。結構想いをよせてる奴多いみたいだし、すでに、1年生からも2年生からも3年生からも、多数告白されてるみたいだからな」
どこから仕入れた情報なのか、男子生徒は得意気に話し、宮城は更に驚いた。
「ついでに、うちのクラスの坂田も、この前告白したらしいぜ。
なっ、坂田!」
急に話をふられると、宮城の隣にいた、この前魅真に告白をした坂田はドキッとなる。
「でも、見事にふられたよ。友達からでもいいって言ったんだけど、間髪入れずに断られたんだ…」
「マジかよ…」
魅真に未練がある坂田は、あの時の告白を思い出して涙を流した。
「なんでも……好きな人がいるらしい…」
「マジ!?」
「ああ…」
その言葉に過剰な反応をした男子生徒は、ショックをうけて、顔が青ざめた。
「誰だ?真田魅真の好きな奴って…」
「さあな…。でも、オレはたぶん、3年生にいるんじゃないかと思ってる」
「3年生?なんでだ?」
坂田がそう言うと、男子生徒は何故断定できるのかと、坂田に詰め寄った。
「なんでも真田魅真は、入学して間もない頃から、頻繁に3年生の教室に行ってたらしい。誰かを探してるみたいだったそうだが、最近になってなくなったらしいから、もしかしたらそうかもしれん…」
はっきりきっぱりふられても、やっぱりまだ好きなので、坂田は更に泣いた。
そんな坂田の話を聞き、宮城は考え事をした。
昼休み、魅真はいつも通り屋上におり、お昼ご飯を食べるために、巾着から弁当箱を取り出した。
その時、扉が開いたので、魅真は扉の方へ顔を向けた。
「真田…」
「宮城先輩…」
そこへやって来たのは宮城だった。
宮城は、今回は前回と違って、狙ってここに来たわけではないので、両方とも、お互いの存在にびっくりしていた。
「宮城先輩も、ここでお昼ですか?」
「おう。真田は一人か?」
「はい。昼休みはいつも」
宮城はしゃべりながら、魅真の隣にすわった。
魅真も、今回は前回のように気まずさはないので、特に抵抗することなく宮城を受け入れた。
「ん?真田、お前…いつもこんなん持ち歩いてんのか?」
こんなものというのは参考書のことで、宮城は魅真の横に置いてある参考書をみつけて指さした。
「お昼を食べながら、予習復習するのがクセになっているので…」
「よくやるな。こんな時にも勉強とか…。さすがは優等生だな」
「前も言いましたけど、勉強できて、大人しく言うこときいていれば、教師は何も言わないので…。あとは……足を洗った時に、なんでもがんばるって決めたから…ですかね」
魅真は宮城の言うことに答えながら、弁当を食べるために、箸ケースから箸をとった。
「ふーん…。それより、真田の弁当うまそうだな…」
魅真の弁当は、肉、魚、玉子、野菜が入っている、彩りの良い弁当だった。対して宮城のは、購買で買った焼きそばパンとコロッケパンという、栄養が偏りそうな、質素なものだった。
「食べます?」
宮城に弁当をガン見されると、魅真は弁当を差し出した。
「いいのか?」
「はい」
「やったぜ。じゃあさっそく…」
許可が出ると、宮城は遠慮なく、魅真の弁当箱から、串にささった肉だんごをとって口に入れた。
「うめえ!!」
口に入れると、宮城は顔が明るくなり、魅真の弁当を絶賛した。
「この肉だんごうめーな。どこのメーカーのやつだ?」
「え?あ…それは…手作りなんです…」
「手作り!?真田の母ちゃんて、料理うまいんだな」
「いえ…これは…母が作ったのではなくて……あの……私が……」
「えっ!!そうなのか!?」
「はい…」
「へー。真田って、料理うまいんだな」
どこかの会社が作ったのかと思っていたが、魅真の手作りだったので、宮城は更に絶賛する。
絶賛されると、魅真は顔を赤くした。
「クラスの奴に聞いたけど、真田は勉強もできるし、運動も得意なんだってな。文武両道の優等生で、料理もうまいとか、弱点なしじゃねーか」
「いえ、そんなことは…」
「謙遜すんなって。しかも、すごいモテるんだって?うちのクラスの坂田からも告白されたみたいじゃねーか」
「さかた?」
まだ半月くらいしか経ってないのに、魅真はすでに忘れており、宮城のいう坂田というのが、誰なのかわかっていなかった。
「サッカー部のエースで、ちょっと前に告白したとか言ってたぞ」
「サッカー部のエース?……………ああっ、そういえばいましたね、そんな人。すっかり忘れてました」
まだ半月くらいしか経っていないのに、忘れているというので、宮城は頬をひきつらせる。
「意外と忘れっぽいんだな。頭いいのに」
「私、どうでもいいことは、わりと簡単に忘れるんですよ」
忘れていただけでなく、人の告白をどうでもいいと言ったので、宮城は坂田に同情した。
「真田って、結構ドライなんだな」
「そうでしょうか?」
「おう」
ハタから見るとひどいが、本人は無自覚で、ケロッとしていた。
「私は、繋がりがはっきりしている相手と、良好な関係を築ければ、それでいいんです。それに……」
「それに?」
「どんなに告白されたって、本当に好きな人に好かれなければ、意味がないじゃないですか」
好きだと自覚したはいいが、好かれていないどころか、どちらかというと嫌われているので、魅真は悲しそうな顔をした。
「…その好きな相手って………ひょっとして、三井サン?」
図星をつかれたので、魅真はドキッとする。
「やっぱそうか」
「な…何故、そのことを…!?」
あっさりと好きな相手を言いあてたので、魅真は動揺して、うまくしゃべれなくなった。
「いや、その坂田が言ってたんだよ。真田が好きな人がいるって。それに、真田は入学して間もない頃から、頻繁に3年生の教室に行って、誰かを探してるみたいだとか言ってたからな。最近になってなくなったってことは、探す必要がなくなったってことだろ?てことは、最近相手がみつかったってことだ。三井サンは、最近学校に戻ってきたからな。入学当初、全ての運動部に誘われた時、バスケ部のマネージャーになるって言ってたそうだし。それに、三浦台戦以降、三井サンに対する態度が、前と違うしな」
宮城の鋭い指摘に、魅真はまたドキッとした。
「……誰にも言わないでくださいね…」
「わかってるって」
好きな相手をあっさりと見抜かれたので、魅真は小さくなり、宮城はニカッと笑った。
「でも、なんで三井サンなんだ?真田なら、もっとイイ男つかまえられるだろうに…」
何気に失礼なことを言う宮城だが、いくら伝説になるくらいの強さをもってるといっても、今はまじめな優等生で異性にモテる魅真が、今でこそ更生してるが、つい最近までは、バスケ部ブッ壊すと言っていた、ロン毛不良だった三井の、一体どこを好きになったのか疑問だったのだ。しかも、三浦台戦の時までは、三井に対する態度が悪かったので、余計にだった。
「初恋の人だからです」
「え…」
「三井先輩が、全中で優勝して、MVPに選ばれたっていう話は知ってますよね?」
「ん?ああ」
「私もその試合を見てたんです。そこで、三井先輩を初めて見て、一目惚れしたんです」
「へーー……」
少々失礼な質問をされるも、魅真は宮城の質問に答え、同時に3年前のことを思い出してうっとりとした。
「あのっ…本当に、誰にも言わないでくださいね!特に三井先輩には!」
「わかってるよ」
夢の世界から現実に戻った魅真は、焦って口止めをすると、宮城はまたニカッと笑う。
「でもそっか。三井サンか。オレはモテたことないけど、本当に好きな相手に好かれなければ意味がないってのは、なんかわかるな」
「へえ…」
「オレもそうだからよ」
「ああ、彩子先輩ですか」
あっさりと返すと、今度は宮城が、図星をつかれてドキッとした。
「な!!なななっ、なんでそれを!?」
「いや、もうバレバレですって」
あんなにわかりやすい態度をとってるのに、あれでバレてないつもりだったのだろうかと、魅真は疑問だった。
「ちなみに、いつから?」
「初めて会った時からですよ。ただ一緒に歩いていただけの花道を、カレシと勘違いして、涙を流してブン殴ってれば、そりゃわかりますって。あと、普段の態度とか」
今度は立場が逆転し、宮城がドキドキしながら魅真に問うと、魅真はケロッとした態度で答えたので、宮城は顔が赤くなる。
「宮城先輩は、彩子先輩に、告白しないんですか?」
魅真がそう言うと、宮城は沈んだ顔になる。
「オレはアヤちゃんにまったく相手にされてないから、告白してもムダなのさ」
それだけでなく、急に涙を流したので、魅真はギョッとした。
「オレがバスケ部に入ったのは、アヤちゃんに一目惚れをしたからなんだ。オレは中学の頃バスケ部だったが、最初は高校でも続けるかどうか迷ってた。でも、バスケ部の練習を見に行った時、アヤちゃんに一目惚れして、速攻で入部した。バスケに命かけることに決めたんだ。オレがチームを強くして、試合に勝って……それで、アヤちゃんが笑ってくれれば、それだけで最高なんだ」
「宮城先輩……」
結構純粋な想いに、自分と似てるというのもあり、魅真は感動していた。
「そういう真田は?三井サンに、告白しないのか?」
「…私も、宮城先輩と同じです。私……最初、三井先輩がバスケ部に戻ってきた時は、自分が本当に、三井先輩を好きかどうかわからなかったので…。それに、他にもいろいろと思うことがあったので、すごいケンカごしで接してしまって……。あと、去年の夏のこともあって、三井先輩に嫌われてますから…。今のままでは、ふられるのは目に見えてますから…。だから、今はまだ、告白はしないんです」
「オレの好みはアヤちゃんだけど、真田も結構イケてるから、大丈夫だと思うぜ。だって、告白もいっぱいされてるんだろ?」
「それでも、三井先輩には嫌われてます。やっぱり元ヤンじゃ、誰も愛してはくれないんですよ…。きっと、今まで告白した人だって、私の正体を知ったら、みんな逃げていきます」
肝心の三井に好かれていないのは、魅真自身もわかっているので、魅真は沈んだ顔になる。
「そんなことは…」
「そんなことあるんですよ」
宮城は、魅真が言うことを否定し、なぐさめようとするが、魅真は悲しそうな顔をして断言した。
「……私…去年、足を洗った時に、告白されたことがあるんです…。好きだって…。私はその時、すでに三井先輩に対する気持ちを思い出していたので、その人の告白は断ろうとしたんです。けど次の日、返事をする前に、その人自身から、昨日の告白はなかったことにしてほしいって、おびえた顔で言われたんです。理由を聞いてみたら、私が元ヤンで、鬼神と呼ばれてたことを知ったから…だそうです。どうやらその人、転校生だったみたいで……。私に告白したあとで、クラスメイトから私の素行を聞いたみたいで…。最初から断るつもりでしたけど、それでも誠実な態度で接しようと思ったのが、バカみたいに思えて…。
相手はただ、私の外見しか見ていなかったんです。だから、元ヤンなんかじゃ、誰も愛してはくれない…。でも、元ヤンだという事実は消えない。
でも……それでも………」
「(それでも、三井サンが好き……か……)」
中学時代の話を聞くと、魅真の三井への真剣な想いも、告白してきた相手を断ったのは、単に三井が好きだからだけでなく、昔の苦い経験があったからだと知る。
「だから、三井先輩が私に興味をもってくれるまでは、告白しないって決めてるんです…。
あとは三井先輩、今はバスケに打ちこんでるので…。三井先輩にとっては、今年が最後のチャンス。ふられるにしても、うけいれてくれるにしても、余計な情報を頭に入れて、混乱させたくないので…。
三井先輩には、今は、バスケのことだけを考えてほしいんです」
「真田……」
魅真の三井への想いと、告白しない理由を聞くと、宮城は感動した。
「お前…イイ女だな」
「そ…そうですか?」
けど魅真は、何故宮城が感動しているのか、さっぱりわからなかった。
「ああ!そこまで思うなんて健気だ。よし!オレが三井サンと両想いになれるよう、協力してやるよ」
まさか協力を申し出るとは思わなかったので、魅真は顔をほころばせた。
「本当?本当に協力してくれるんですか!?」
そして、うれしそうな顔をして、興奮しながら宮城の両手をとり、自分の両手で包みこんだ。
「あ、ああ…」
すごい食いついてきた上、手までにぎられたので、宮城はびっくりして固まった。
「うれしい!!ありがとうございます。宮城先輩!!」
けど、満面の笑顔でお礼を言われると、宮城は顔を赤くする。
「(かわいい…)」
同時に、魅真のことをかわいいと思った。
「それじゃあ、私も彩子先輩とのことを協力します!」
「えっ!!マジで!?」
「もちろんです。彩子先輩とのこと、がんばってほしいので!」
「やった!サンキュー!魅真ちゃんて、すごくいい子だな」
協力してくれるうれしさで、苗字ではなく名前で呼ぶ宮城。いきなり名前で呼ばれたことに、魅真は目を丸くする。
「ありがとうございます、リョータ先輩!」
けど、それがうれしくて、貼り付けの社交辞令の笑顔ではなく、個人に向けられる無防備な笑顔を見せたので、宮城はまた顔を赤くした。
「魅真ちゃんはさ、やっぱ…笑った方がかわいいよ」
口説き文句のような宮城の言葉に、魅真は目を丸くするが、それすらもうれしくて、すぐに笑顔になり、宮城もまた、魅真につられるように笑った。
放課後…。部室では、宮城と三井が隣どうしで着替えており、宮城はうれしそうに笑いながら着替えていた。
「おまえ、なんか機嫌がいいな。何かあったのか?」
うれしそうにしてるのを疑問に思った三井は、思ったままのことを、宮城に聞いた。
「ん?ああ…。実は、昼休みに魅真ちゃんと話してたんすけど」
「魅真ちゃん!?……ああ、真田のことか…」
苗字ではなく名前で呼んでいたので、三井は一瞬誰のことだかわからなかった。
「それで、くわしいことは秘密なんですけど、魅真ちゃんと話してたら、すごく楽しくて…」
「楽しい?あいつと話すのが?あいつはただのネコかぶり女だぞ」
とてもではないが信じられない三井は、妙なものを見るような目で宮城を見た。
「ネコかぶりって、どのへんがすか?」
「三浦台戦の時まで態度悪かったのに、次の日に、急に態度が豹変したとこだよ。それに、なんてったって鬼神だからな」
ふしぎそうに問う宮城に、三井は理由を話す。
「態度が悪いのは、三井サンも同じだったじゃないすか。魅真ちゃんにかわいくないとか言って…」
「くっ……」
けど、事実を言われると、三井は言葉がつまった。
「それに、話してみてわかりましたけど、魅真ちゃん、すごくいい子ですよ。健気だし… (三井サンにはもったいないくらい)」
「け…健気ぇ~?それに、いい子?ますます信じらんねえ。あいつはただの暴力女だぞ。鬼神だし、オレにだけつっかかってきやがるし、ほんっとかわいくねえ女だ」
だが、次に宮城が言ったことに関しては全力で否定をして、ぶつぶつと文句を言う。
「そんなことないすよ」
「は?」
「魅真ちゃん、かわいいじゃないすか。オレ、アヤちゃんがいなかったら、絶対魅真ちゃんに惚れてましたもん」
先程から、信じられない言葉ばかりが出てきたが、今言ったことは、ますます信じられず、顔を思いっきりしかめた。
「お前、目ぇ大丈夫か?かわいい?あいつが?鬼神だぞ、あいつは」
「それは三井サンが、魅真ちゃんをそういう目で見てるからでしょう。魅真ちゃんが鬼神だったのは過去のことで、今はもう不良じゃない。三井サンと同じですよ」
けど、また事実を言われると、三井は言葉がつまった。
そんな三井を見て、これはちょっと大変そうだと、宮城は痛感した。
同じ頃、体育館にはすでに魅真がおり、一番に来た魅真は準備をしていた。
「よし、準備終わり」
準備が終わると、ボールを見た。
「(まだ誰も来ていないし、準備も終わったし、ちょっとだけならいいよね)」
まだ部員は、魅真以外は誰も来ていなかったので、ボール見てうずうずした魅真は、ちょっとだけやろうと、ボールを手にとった。
魅真は、ドリブルをしながらフリースローレーンまで歩いていくと、そこから一気に走っていき、レイアップを決める。
ネットをくぐって下に落ちたボールをとると、ドリブルをしながら後ろへ下がり、今度はゴール下のシュートを決め、またボールをとると、フリースローラインの前まで来て、両手ではなく、ワンハンドでジャンプシュートを決めた。
その姿はとてもイキイキしており、楽しそうだった。
その頃、着替え終わった三井と宮城は廊下を歩いており、もうすぐで体育館に着くというところまで来ていた。
ドリブルの音が聞こえたが、きっと、すでに来ている部員が練習をしているのだろうと、大して気に止めていなかった。
だが、体育館に足を一歩踏み入れると、目を見開いた。
確かに部員が練習しているが、その部員は選手ではなく、マネージャーの魅真だったからだ。
魅真はバスケをするのに夢中になっており、三井と宮城の存在に気づいておらず、バスケを続けていた。
魅真はドリブルをしてフリースローレーンまで来ると、再びレイアップを決めた。
スムーズな動き、スピード、ジャンプ力、技術力、ドリブル力、シュートフォーム、そのすべてに、三井と宮城は目を見張った。
そして、レイアップを決めた後、スリーポイントラインの前までドリブルをしていくと、そこから3Pシュートを打ち、更には、ボールがゴールに入る前に、にぎり拳を高くあげて、三井と同じポーズをとる。
自分と同じ仕草に、三井は更に目を見張る。
シュートは決まり、魅真はキラキラとした目をして、うれしそうに笑いながらボールをひろった。
「!」
ボールをひろって体を起こすと、三井と宮城を存在に、ようやく気づいた。
「あっ…すみません。準備が終わったので、つい…」
選手じゃないのにボールをさわってたので、魅真は焦った。
「いや、まだ練習前で、人も来てないから、それはいいんだけど…。それはおいといて、魅真ちゃんてバスケの経験あったんだ」
「私、小学校の頃と中学校の頃はバスケ部だったんです。今は、公園やジムに通って、時間がある時にたまにやってて…」
「へーー。それにワンハンドできるんだな。女子は両手なのに」
「練習したんです」
「結構うまいな。動きはスムーズだし、足は早いし、ジャンプ力もあるし」
「ありがとうございます、リョータ先輩」
ほめられると、魅真はにこっと笑ってお礼を言った。
一方で三井は、宮城だけでなく、魅真も宮城を名前で呼んだ上に、前よりも距離が近くなっているので、変なものを見る目で2人を見た。
「あっ!私、モップかけてきますね。少しでも早く、練習を始められるように」
そのことを急に思い立った魅真は、用具室へ走っていった。
「リョータ先輩て……。お前、いつのまにあいつと、そんな仲良くなったんだ?」
魅真が用具室に行くと、三井は宮城に疑問をぶつけ、そんな三井に、宮城はニヤリと笑う。
「気になるっすか?」
「別に」
ニヤニヤと笑いながら聞くと、三井からは、なんともそっけない答えが返ってきた。これは、照れ隠しではなく、ただの本心だった。
次の日、三井の誕生日当日。
あれから、魅真は悩みに悩んだが、結局三井の誕生日当日になっても良いプレゼントが思い浮かばず、何も用意できなかった。なんでもいいから、用意しておけばよかったと、今更になって後悔していた。
しかし、気合いが入ってるからこそ、ヘタなものは買えないので、適当に買うことができなかった。
「あの…三井先輩…」
「あ?」
今は練習の休憩中で、魅真は全員にタオルとドリンクを渡すと、壁にもたれて一人で休憩をしている三井に話しかけた。
「話があるので、練習が終わったら付き合ってもらえませんか?お時間とらせませんから」
「…いいけど……」
特に断る理由もないし、時間がかかるわけではないならいいだろうと思った三井は、魅真の願いを聞き入れた。
すると、魅真の顔はぱあっと明るくなる。
「絶対ですよ」
うれしさのあまり、にこっと笑うと、三井のもとから去っていった。
そして練習が終わると、着替えた三井は、約束してた校門まで行く。
「おう」
「あ、三井先輩!おつかれさまです!」
そこにはすでに魅真がおり、三井が来ると、にこにこと笑いながらあいさつをした。
「んで?話ってなんだ?」
魅真の前まで歩いてくると、三井はさっそく、なんの用事があるのかを聞いた。
「あ……あの……その……」
しかし、魅真は三井が至近距離にいるので、思ったようにうまくしゃべれなかった。
「用がねえんなら帰るぞ」
「あ、ありますあります!」
何も用事を話さないので、用はないかと思った三井は帰ろうとするが、帰られては困るので、魅真は帰ろうとする三井を、あわてて引き止めた。
「なんだよ?」
「あ…あのっ……」
めんどくさそうに返されるが、相手が三井なので、魅真は破裂しそうなくらいに心臓が高鳴った。
「お誕生日、おめでとうございます!!」
プレゼントを用意できなかったから、せめて気持ちだけでも伝えたいと思った魅真は、お祝いの言葉を伝えるが、三井はいきなりのことに面を食らった。
「ああ…。そういや、今日は誕生日だったっけな」
しかも、自分が誕生日なのに、どこか他人事で冷めた様子だった。
「んで?」
「え?」
「え?じゃねーよ。プレゼントねえのかよ?」
「えっと…プレゼント?あー……プレゼントは……その…………思いつきませんでした……」
まさか、三井に誕生日プレゼントを催促されるとは思わず、魅真はどこか言いにくそうにしていた。
「お前……練習後のつかれてる時に、そんなことを言うためだけに、わざわざ呼びだしたってーのか?」
「……すみません…」
練習後に個人的に呼び出されて聞かされた用事は、まさかのたった一言だったので、三井は軽く文句を言い、文句を言われると、魅真は小さくなる。
そんな魅真を見ると、三井は軽くため息をついた。
「んじゃ、誕生日特権ってことで、ちょっと付き合えよ」
「え?」
そう言うと、三井は歩き出し、学校から出ていった。
付き合えとはどういう意味なのかわからず、魅真は首をかしげたが、三井はどんどん先へ歩いていくので、魅真も三井を追いかけるように、あとについていった。
学校から移動して、三井と魅真がやって来たのは、学校から一番近い場所にあるコンビニだった。
「あの……三井先輩、なんでコンビニに?」
なんでこんなところに来たのか、魅真は意味がわからなかった。
「いいから、だまってついてこい」
疑問に思ったことを聞いてみるが、三井は質問には答えず、有無を言わさず店内に入っていったので、魅真も仕方なしに中に入った。
店内に入った三井がまっすぐ向かっていったのは、雑誌コーナーだった。
「おー。あったあった」
雑誌コーナーに行き、手にとったのは、月刊バスケットボールだった。
「おらよ」
「へ?え?」
そして、その手にとった月刊バスケットボールを、魅真に渡した。
何故、三井が手にとった月刊バスケットボールを自分に渡すのか、魅真はますますわけがわからなくなり、困惑して、月刊バスケットボールと三井を交互に見た。
「あの……」
「オレの誕生日プレゼントだよ。思いつかなかったってことは、買ってくれるつもりだったんだろ?だから、それがオレの誕生日プレゼントだ」
「はあ……」
こんな、雑誌が誕生日プレゼントでいいのかと魅真はふしぎがり、気のぬけた返事をした。
「あの……本当にいいんですか?これ今月号ですよ。もうすぐ来月号が出るのに」
「買い忘れてたんだよ」
「はあ…」
もうすぐ来月号が発売するのに、何故今月号を選ぶのかふしぎだったが、本人がいいと言ったので、ふしぎに思いながらも、今月号を購入した。
魅真も三井も、他には特に買うものがなかったので、月刊バスケットボールを魅真が買うと、すぐに外に出た。
「はい、三井先輩」
「おう」
外に出ると、二人はコンビニの出入口から少し離れた場所に移動して、魅真はその場所で、先程購入した、月刊バスケットボールが入ったレジ袋を三井に渡した。
「なんか、誕生日プレゼントを、ラッピングなしにレジ袋で渡すって変ですね。でも、本当にこれでいいんですか?」
これだと、プレゼントというよりおごってあげるという感覚だし、何よりも、もうすぐ来月号になってしまうので、魅真は再度確認するように聞いた。
「あ?本人がいいっつってるから、いいに決まってんだろ」
「そうですか…」
けど、三井本人がいいなら別にいいかと、魅真は納得をした。
「三井先輩…。改めて、お誕生日おめでとうございます」
「おう」
そして、プレゼントを渡すと、改めて、三井を祝福した。
「それじゃあ、おつかれさまです。また明日」
どんな形であれ、三井に誕生日プレゼントを渡して、お祝いできたので、魅真は満足そうにすると、満面の笑顔で三井にあいさつをして、帰路につき、三井も、魅真を見送ると帰路についた。
そして次の日。
3年3組の三井の教室では、自分の席にすわってる三井が、昨日魅真に買ってもらった、月刊バスケットボールを読んでいた。
「おはよー、三っちゃん」
「おう」
そこへ堀田が来て、三井にあいさつをした。
三井は雑誌を開いたまま、顔だけ堀田に向けてあいさつをするが、すぐに顔を雑誌に向ける。
「ん?何読んでんだ、三っちゃん」
「月刊バスケットボールだよ」
「ふーん。…あれ?なんか、前読んでたのと違わねーか?確か前読んでたのって、裏表紙の下の部分に折り目がついてて…」
「こいつは、昨日の練習後に、真田に買ってもらったんだよ。誕生日プレゼントとしてな」
「えっ!!もう来月号が発売するのに、しかも買ってあるのに、同じものを買ってもらったのか!?発売日まで待って、次の号を買ってもらった方がよかったんじゃねーか?」
もう来月号が発売するだけでなく、すでに購入していたのに今月号を買ってもらったというので、堀田は信じられないというように叫んだ。
「…いいんだよ、これで…」
それでも、三井は気にしておらず、続きを読んだ。
三井が、もうすでに購入してある月刊バスケットボールを買ってもらったのは、プレゼントを渡したそうにしていた魅真を気遣ってのことだった。
また、誕生日プレゼントは、当日に渡すから価値があるというのを、理解しているからというのもあった。
理想とは違ったが、今年の5月22日は、魅真にとって特別なものとなった。
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