#19 三井寿
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「おい、開けろォ!!」
「コラァ!!」
教師が外から扉をたたく音。靴のあとで汚れた床。タバコをおしつけられたボール。折られたモップ。
こんな、普通の学校の部活では、絶対に見られないといっていいような状況の中、のりこんできた不良グループを追い出すために、体育館では、戦いがくり広げられていた。
「くっそォ…。この小僧…」
洋平に殴られた三井は、殴られたところをおさえ、体を震わせ、体を少しまげながらも、倒れないようになんとかふんばっていた。
「(もうよせ…)」
この戦いを見ていた木暮は、心の中で、もうやめるように言うが、心の中でのことなので、洋平にも三井にも、届くことはなかった。
「なかなかタフじゃねーか」
木暮がそんなことを考えてることを知らない洋平は、今度は反対の、右頬を殴った。
一方で、鉄男は花道のもとへ歩いていくと、まず左頬を殴り、次に右頬を殴る。
「フッ」
そして短く笑うと、更にあごの下から殴った。
「「「ああ!!」」」
「鉄男さん…」
「さすがケンカのプロ」
「(あの男、相当ケンカ慣れしてやがる…。あんなつえー奴ははじめてだぜ……!!花道……!!)」
花道は鉄男にやられっぱなしなので、石井、桑田、佐々岡は心配になり、不良達は鉄男の強さに感服しており、宮城も先程戦ったので、鉄男の強さを痛感していたが、魅真、大楠、高宮、野間は、まったく動じておらず、二人の戦いの行く末を見守っていた。
戦いを見ていると、突然花道は、今殴られたばかりのあごをさわりだした。
「あーーー。蚊がいるな!!」
「………!!」
今の戦いでも三発殴られ、ケガもあざも血も多くなってきたというのに、花道はものともしていなかった。
「フッ。わははははは!!上等上等!!」
しかし、鉄男もまた動じておらず、大口あけて笑った。
「おい、早く開けんかァ!!」
「バスケ部!!」
その後、外にいる教師は、更に強く声をかけ、扉をたたいた。
#19 三井寿
「ぐあ!!」
洋平と三井の戦いは続いており、三井は、また洋平に左頬を殴られていた。
「ぐっ…くそ…。なんなんだ、てめえは…!!バスケ部でもねーのに…。関係ねーだろ、てめーには!!」
三井がそう言うと、洋平は何も答えず、また三井を殴る。
「ぐっ!!」
それだけでなく、今度は鼻を、その次はまた左頬を、息つくひまもなく三回連続で殴ると、三井は三発目で後ろに倒れる。
「「三井さん!!」」
三井が倒れると、金髪の男とリーゼントの男は心配そうに叫んだ。
「く……くそ……く……」
三井は倒れたが、顔をおさえ、足がふらつきながらも立ちあがる。
「…………」
その様子を近くで見ていた堀田は、何か奇妙なものを感じていた。
三井が立ち上がっても、洋平は容赦なく、また三井の左頬を殴った。
「があ!!」
更に連続で、今度は右頬を殴る。
「……………」
「つ…つええ!!」
金髪の男もリーゼントの男も、敵ではあるが、洋平の強さに感服していた。
「……………」
「……………」
その様子を、宮城は呆然として見ており、木暮は冷や汗をかいていた。
「…………」
三井は何度も何度も殴られるが、それでも体を震わせながら、体に力を入れて立ち上がり、出ていこうとはしなかった。
「く…くそ~~。くそ~~~~~」
息はかなり荒くなり、顔は腫れあがり、血はますます流れた。
その時、洋平は三井の胸ぐらをつかんだ。
「もう、バスケ部にはかかわらないと言え。この体育館には、2度と来ないと言え」
「…………」
「…………」
洋平が言ったことに、三井だけでなく、木暮までも過剰に反応をして、目を大きく開いた。
三井と洋平がいるところから、少し離れた場所では、花道と鉄男の戦いがくりひろげられていた。
「「桜木君!!」」
花道が鉄男と戦っている姿を見ると、桑田と佐々岡は、花道の名前を叫んだ。
それは、鉄男が拳を構えて、花道に殴りかかろうとしていたからだ。
けど花道は、鉄男のパンチを、自分にあたる前に平手でたたいて落とし、軌道をそらして無効化していた。
そのことに鉄男は驚いて固まるも、今度は反対側の左手で殴りかかるが、花道はまた平手でたたいて鉄男の拳をたたき落とし、また更に鉄男が殴りかかってきたが、同じようにたたいて軌道をそらして無効化した。
「…………!!」
「バカめ。てめーのパンチはもう見切った」
「ハハッ。バカめ!!マンガとはちがうぞ」
三回も無効化されたというのに、鉄男は花道の言うことを信じておらず、再び殴ろうとした。
だが、花道の眼力に一気圧され、その隙に花道は鉄男を殴りとばし、鉄男は後ろの扉に激突した。
「お………」
「7発だぞ、7発」
怒りに燃えた花道は鉄男のもとまで歩いていくと、また一発殴った。
「お………」
この一撃に、鉄男は頭がクラクラしたが、それでも花道はやって来て、容赦なく殴りとばす。
「鉄男!!」
「ぐ………」
床にたたきつけられた鉄男は、よろけながらも立ちあがる。
「今のはシオの分」
「………!!」
「次はカクの分だ」
そう言うと、また一発殴る。
「ぐっ!!」
殴られると、鉄男はまた後ろに倒れ、尻もちをつく。
「これはルカワの分」
7発のうち一発には、一応流川の分も入ってはいるものの、子供でも泣かないのではないかというくらい、軽く頬を打っただけだった。
「(あんにゃろう…)」
あまりにも差があるので、流川は腹を立てていた。
「クソがァ!!」
一方的にやられているので、立ち上がった鉄男はやけになったように殴りかかるが、花道はまた腕をたたき落として、力を無効化したので、鉄男は動きが止まる。
「そしてこれは…
リョータ君の分!!」
花道は、今度は殴るのではなく、あごを蹴りあげた。
「がああっ!!」
鉄男はまたしてもやられて、仰向けに倒れた。
「(花道――――!!)」
「つ……つ……つ………」
「つええ!!強すぎる!!」
「鬼神もつええが、奴も強すぎる!!」
宮城は、自分の敵を討った花道を呆然として見ており、金髪の男とリーゼントの男は、花道の強さに恐れおののいていた。
「そしてこっからは、オレの分」
「ハァ…ハァ……」
まだあと5発あるので、花道はまた鉄男のもとへ歩いていくが、鉄男の顔からは余裕がなくなってきていた。
「(殺される…!!鉄男も三っちゃんも殺されるぞ…!!鬼神がいたことも計算外だが…。桜木と水戸…!!奴らがここまで強いとは………)」
花道と鉄男、洋平と三井の戦いを見ている堀田は、どんどんこちらが劣勢になっていってるので、冷や汗をかいていた。
「さあ、2度と来ないと言えよ。主犯」
その洋平は、三井に、再度誓わせようとしていた。
「(ひきあげだ、三っちゃん!!いつまでもこんなとこにいる理由はねえ!!ひきあげだ!!)」
堀田は心の中で、三井にひきあげようと言う。
「……………」
「ハーーハーー」
もちろんこれは心の中で思ったことなので、三井に届くことはなく、その三井は、荒い息をくり返していた。
「があ!!」
「!!」
そして、ヤケになったように、洋平の右頬を殴る。
「三っちゃん!?」
けど、三井は一発殴るだけで精一杯といった感じで、また荒い息をした。
「殺されなきゃわからねーのか」
けど、洋平は殴られても、全然ダメージはうけていないようだった。
「(な…なにをそんなにこだわってんだ、三っちゃん。宮城の件は、もうケリついた!!奴はもうボロボロじゃねーか!!)」
堀田はわからなかった。宮城の件はもうケリがついたのに、三井がこんなにも意地になって、ここにとどまっている理由が…。
「……三井……!?」
「……………」
ただ宮城に仕返しに来ただけにしては、ただならぬものを感じたので、魅真も、宮城も、彩子もふしぎに思っていた。
「はっ…はっ…はあ はあ はあ。ぶっつぶしてやる…!!」
三井は先程よりも、更に息を荒くして、なおも意見を変えなかった。
「ぶっ!!」
なので、また洋平に殴られた。
「バカヤロウ…」
忌々しそうに言い放つと、そこへ木暮がやってきて、洋平の肩に、そっと手を置いた。
「木暮先輩!?」
「木暮さん!」
戦えない木暮が、突然二人の戦いの間に割って入ってきたので、魅真も宮城も疑問に思った。
「もういいよ…。もういい」
肩に手を置くと、洋平にやめるように言った。
「もう、いいだろ…」
「………………はあ はあ はあ」
だが、次に言った言葉は、洋平ではなく、三井に向けられていた。
木暮が顔を向けた先にいる三井は、荒い息をして、木暮をまっすぐに見ていた。
少し離れた場所では、花道が鉄男を殴り、鉄男は尻もちをついていた。
「まだだ…。次は、タバコおしつけたボールと折られたモップの分」
「…………!! (モップはてめえが―――――――――)」
ボールは鉄男がやったが、モップを折ったのは花道なので、鉄男は心の中でつっこむが、花道に容赦なく殴られ、床に倒れた。
「(つ………つええ……!!)」
今ので鉄男はやられてしまい、仰向けに倒れながら、花道の強さを実感していた。
場所は戻って、三井と洋平が戦っていた場所では…。
「ど………どいてろォ!!」
「!!」
木暮は三井に頬を殴られ、その衝撃で眼鏡がとんで、床に落ちてしまった。
「木暮先輩!!」
「木暮さん!!」
「木暮さん!!」
「………………」
魅真や他の部員達は、それを見て心配し、洋平は呆然とした。
「……………」
木暮は殴られはしたが、特に動じてはいなかった。
「大人になれよ…三井…!!」
「…………!!」
殴られたことで横に向いた顔を、もとの位置に戻して言ったその言葉…。
「えっ…!?」
「「え……!?」」
「……………」
その、木暮の口から出た言葉に、洋平達に注目していた魅真達は目を丸くし、少し離れたところにいる花道も、反応して彼らの方へ顔を向ける。
「(木暮先輩が……この三井って人のことを知ってる…!?じゃあ…もしかして…!!)」
特に魅真は過剰に反応を示し、胸の鼓動が早くなるほどだった。
木暮は不良とは関係のない一般の生徒。そしてバスケ部で、不良達と三井の接し方を見るかぎり、おそらく三井と同じ3年生。そこから導きだされる答えは、魅真の中では、1つしかないからだ。
「三井……」
「…………」
「木暮さん…?」
木暮は、床に落ちた眼鏡をひろうと、眼鏡をかけながら三井の名前を呼ぶが、三井は何も反応しなかった。
「桜木……」
「つ…つええ…!!あいつは強すぎる」
「とうとうあの鉄男さんをやっちまった…!!しかもまだ、あの鬼神もいるし…」
金髪の男とリーゼントの男は、ケンカが強い鉄男を花道がやっつけたので、花道に恐れをなしていると、その花道が無言でふり返り、自分達の方を見たのでびくついた。
「ひいいいいっ。殺される!!」
「冗談じゃねえ!!そもそも、オレたちゃ関係ねーんだ!!」
ビビった二人はそこから逃げだし、閉じた扉のカギをあけて、外に逃げようとした。
「あっ、バカ。開けんな!!外は…」
「………!!」
外には教師がいるので、今のこの状況を見られるのはまずかった。
「逃げろっ!!」
けど、願いもむなしく扉は開いてしまう。
「「!!!!」」
しかし、そこには教師ではなく、赤木が立っていた。
「「ひいいいいいっ」」
不良ではないが、背が高く、体格がよく、いかつい顔と、赤木から放たれる威圧感にビビった二人は、また悲鳴をあげる。
「あ……!!」
「ゴ…ゴリ!!」
扉の前にいたのは、教師ではなく赤木だったので、全員驚いた。
「よーーーし、開いたぞ。一体何をやってたんだ!!」
「どけい赤木!!」
教師は赤木の後ろにおり、赤木の背の高さで見えないので、なんとか見ようとしていた。
中の光景を見ると、赤木は驚きで、目を丸くした。
体育館の中には、部員の他に、桜木軍団と、湘北の不良、他校の不良が何人かおり、血が床にとびちり、折られたモップとボールがころがっているという、異常な光景が広がっていたからだ。
「あっ!!」
その光景を見た赤木は、中に入ると即座に扉を閉め、施錠した。
「何だ赤木!!」
「開けんか!!」
当然教師達は、扉をたたいて、開けるように叫んだ。
「ひ……秘密の特訓中ですので」
「何ぃ!?」
何が起こってるかははっきりとわからないが、知られてはまずいことが起こってるのは、瞬時に理解した赤木は、静かに教師に話す。
「赤木……」
「…………」
三井が赤木の名前を呼ぶと、赤木は、無言でまっすぐに三井を見た。
「コラァ、オレたちは湘北の教師だぞォ。秘密にすることないだろーが!!」
「あけんか、赤木!!」
「……暑さ対策のため、閉めきって練習してます。私(ワタクシ)の指示です」
「赤木ィ!!」
一瞬にして、扉を閉めたことの言い訳をする赤木。
赤木が来たことで、部員達は、全員とても気まずそうだった。
「赤木のダンナ…。全てオレの責任…」
「黙ってろ、宮城」
赤木がこちらに歩いてくると、宮城が前に出てくるが、赤木はそれを制し、宮城の横を通りすぎていき、宮城は赤木の背中を、申し訳なさそうな、気まずそうな顔で見送った。
赤木が歩いてくると、赤木のただならぬ威圧感に、竜、堀田、大楠は思わず身をひく。
その赤木がやってきたのは、三井の前だった。
「おい…。魅真と洋平にやられた上に、ゴリにもやられたら、あの女男死ぬぞ。即死かも」
その時、堀田の後ろに花道がやって来て、とんでもないことを言われると、堀田は焦った。
「あ……赤木!!も…もうひきあげるから!!な!!」
三井の身が心配な堀田は、赤木に近づき、なんとか赤木を説得しようと試みる。
「赤木……君!!」
「……………」
「赤木君!!な!!」
「靴を脱げ」
「……………」
必死に訴える堀田に顔を向け、鋭い目で言い放ったのは、ごくあたりまえのことだった。
「あっ…ああ!!」
意外なことを言われて目を丸くしたが、すぐに赤木の言う通りに靴を脱ぎ、他の不良達や桜木軍団も急いで靴を脱いだ。
「三井……」
堀田に向けていた顔の位置をもとに戻すと、赤木は三井の前に立ち、静かに三井の名前を呼んだ。
「ぬ……知り合いか?」
赤木までも三井のことを知っていたので、花道は疑問に思い、魅真は、赤木までも三井を知っていたことに、更に胸の鼓動が早くなった。
先程まで、花道が戦っていた場所では、鉄男が震えながらも体を起こしていた。
「木暮さんも知ってるふうだったぞ…」
「メガネ君?」
花道と宮城が話していると、流川がふらふらとした足どりで、花道の隣にやって来る。
「おい、メガネ君」
宮城から聞いた花道は、木暮に直接聞こうと、木暮の後ろから声をかけた。
「……………」
一方で、三井はどこか気まずそうに、目線を上に向けていた。
すると、赤木はいきなり、無言で三井の頬をたたいた。
「赤木…」
殴られると、顔が横に向き、目だけ赤木に向けて、赤木の名前を呼ぶと、赤木は、今度は反対側の右の頬をたたく。
その後、また左の頬をたたいた。
「三井は…」
花道に問われ、答えようとする木暮の前にいる三井は、赤木にたたかれても何も言わず、荒い息をしながら、目の前にいる赤木を、まっすぐな目で見ていた。
「バスケ部なんだ」
再び三井が殴られる音とともに、木暮の口から真実が告げられる。
「え……!?」
その真実に、全員が驚愕し、目を丸くした。
「ウ…ウソじゃなくて?本当に?メガネ君」
「……………」
とても信じられない花道は、木暮の肩に手を置いて確かめるが、返事は返ってこなかった。返事が返ってこないのが答えだった。
「三井サン…。本当なのか…………?」
「……………」
宮城が三井に聞いてみるが、三井からも答えは返ってこなかった。
「オレたちの学年でバスケットをしていて、武石中の三井寿を知らない奴はいなかったよ…」
「うそ…!!」
更に信じられない事実を聞くと、花道、宮城、流川は、かなり驚いていた。
「(三井………寿……?武石中の……?じゃあ……この人が……三年前に憧れ、好きになった………三井……寿…!!)」
その中でも、特に魅真は、信じられない気持ちでいっぱいだった。
魅真は、初めて会ったあの日から、もしかしたら…とは思っていた。
けど、とてもではないが信じられず、また、信じたくない気持ちが強く、現実から目をそらすように、否定をしていた。
だが、最初に感じた「まさか」が、真実だったので、いろいろな意味で驚き、また動揺していた。
木暮は、三井の昔のことを語りだした。
三年前の全中の決勝戦。戦っているのは武石中学校と、対するは横田中学校。後半残り12秒。得点は53対52で、横田中学校が1点リード。しかも横田中ボール。勝ちはもう、ほぼ横田中学校に決まっているようなもので、武石中学校の選手達は、すでにあきらめムードだった。
しかし、そのあきらめムードをひっくり返すような、強気な発言をする者がいた。当時、中学校3年生の、三井寿である。
武石中学校バスケ部キャプテンとして、チームをひっぱっていた三井は、まだ時間はあるぞ。絶対勝てると断言した。この、スーパースター三井がいる限り、武石中は絶対に勝つと、自信満々に言いきった。その三井のリーダーシップにより、あきらめムードだった武石中学校の選手達は、目に希望の光が宿った。
そして再開された試合。三井は横田中の選手からボールを奪うと、ゴールに向かって走っていき、一発逆転のシュートを決めた。シュートが決まると、三井は拳を高くあげて喜び、その直後に試合が終了した。
逆転したことで、三井の周りに他の選手達が集まり、全員で喜びを分かち合った。中でも、最後にシュートを決めた三井は一番喜んでおり、うれし涙を流すほどだった。
この試合に勝った武石中学校は、その年県を制し、チームの得点源だった三井が、最優秀選手に選ばれたのだった。
「やめろ、木暮!!」
話してる途中だが、三井が大きな声をあげて木暮を止めた。
「やめろ、関係ねー話は!!おう!?お前もブッ殺すぞ、木暮ェ!!」
三井は話をやめさせるために、木暮の胸ぐらをつかんで脅す。
「ブッ殺……」
「フン!」
だが、三井の後ろにやって来た花道が、三井の頭にチョップをかまし、ヘッドロックをして、三井を木暮から引き離した。
「それで?その後は?メガネ君。その後」
「あっ…ああ」
「……………」
木暮は続きを話し始めた。
翌年、湘北高校に入学をした木暮は、入部届けを出すために職員室に行った時に、三井と出会い、MVPに輝いた三井が同じ高校に進学してることに、大変驚いた。
職員室から出て、いろいろと話をしていると、三井の友人に、また自分達は3年間脇役だが、木暮もそうだと言った。だが、三井はいい脇役がいないと主役も生きない。オレ達で湘北を強くしよう。今度は全国制覇だと言い、オレが湘北を強くしてやるのだと、はりきって体育館へ向かっていった。
体育館に行くと、そこには、一際大きな男がいた。それは、当時高1の赤木で、先輩にダンクできるかと言われると、言われた通りにダンクを決めた。ダンクを決めた赤木は、1年とは思えないと、先輩達に称賛され、三井は赤木を見て、呆然としていた。
そして始まった部活の時間。赤木が自己紹介をすると、すでに193cmもあった赤木は、先輩達の注目の的だった。それから木暮が自己紹介すると、そのタイミングで安西がやって来て、三井は安西の存在に目を輝かせる。そして、次に三井の番となると、安西が来てはりきった三井は自己紹介を始め、ポジションはどこでもやれることと、目標は湘北高校全国制覇日本一だと豪語した。
「ぜ……」
「全国制覇…!!」
まさか、現在不良で、バスケ部ブッ壊すと言った三井が、そんな大きな目標をかかげていたとは思わず、全員呆然とする。
三井が目標をかかげると、赤木は反応を示し、安西はにっこりと笑った。
そして、三井の自己紹介が終わった後、1年生同士2組にわかれて試合をするよう、安西から指示があり、入部初日でいきなり試合をすることとなった。
組み分けは、赤チームは、三井、木暮、他3名。対する黄色チームは、赤木、三井の友人3名と他1名だった。
友人が、三井だけ別れてしまったと言うと、三井は天才と凡人の違いをみせてやると大きく出た。
「生意気な!何が天才だ!」
「お前と同じだな…。自称天才」
「ぬ…」
「実力がともなってないところがチガウ。こいつは口だけ」
「ぬ…。ルカワ!!」
宮城と流川にけなされた花道は、腹を立てて、二人を睨みつけた。
そして始まった試合。
三井は開始早々シュートを決め、称賛された。
次は黄色チームのオフェンスで、三井の友人にボールをもらった赤木は、先輩にダンク行けと言われると、赤チームの選手を抜き去り、ダンクを決めようとしたが、ボールを落として失敗したので、赤木がただデカいだけで下手くそだということにほっとした三井は、先程、赤木がシュートミスした時に木暮がひろったボールをもらい、またシュートを決める。
三井がシュートを決めると、黄色チームのオフェンスになるが、赤木はドリブルをしている最中に、ボールを蹴ってしまった。
「………ゴリにもそーいう時代があったのか……」
「意外だな」
「へっへっへっ。へ~~~、あのゴリがね…」
「ほほう…」
「やめろ木暮!!関係ねー話は!!ブッ殺すぞ!!」
「あっ…ああ!!」
花道はからかうような目つきで見ており、宮城も流川も興味津々な様子だが、過去の醜態をさらされた赤木は、額に青筋を浮かべ、顔を赤くして、先程の三井のように木暮の胸ぐらをつかみ、三井と同じことを言った。
「三井のシュートは、スゴかったよ…」
三井はその後もシュートを決めたので、友人は焦って三井を止めようとしたが、三井はフェイクを入れて抜き去ると、更にまた決めた。
「本当にすごかった…。まるで機械のように正確だったんだ…。その時は、想像もできなかったよ……。三井が、こんな風になるなんて…」
今の三井と対照的な2年前の三井は、その後もまたシュートを決めて、とてもイキイキとしていた。
何本も連続でシュートを決める三井に、木暮は称賛していたが、友人3人はあきらめムードだったが、今の三井のプレイで燃えた赤木は、ダンクを決めた。
そして、三井をマークすると言ったが、三井にフェイクを入れられて、あっさり抜かれてシュートを決められた。だが、その後赤木がリバウンドをとり、シュートを決めようとしたところを、三井は止めようとしたが、バスケットカウントをとられ、そのことで、三井の友人達は赤木の周りに集まり、赤木を称賛したので、三井はむっとした。
バスケットカウントを与えられた赤木は、フリースローを打ったがはずしてしまう。だが、はずしたものの、先輩達にはげまされた。応援は赤木にばかり。三井はまるで、かませ犬のようになっていた。しかも、赤木は名前で呼んでいるのに、三井はMVPと呼ばれていたので、三井は腹を立てていた。
それでも三井は、なんとか動いてフリーになって、木暮からボールをもらってシュートを打とうとしたが、赤木にブロックされてしまった。
まさか、こんなことが起こるとは思ってなかった三井は呆然としたが、再び木暮からボールをもらってシュートを打った。
けど、それすらも赤木はとってしまったので、三井は再び呆然と立ちつくした。
その間に、黄色チームは速攻をかけて、シュートを決める。
今のプレイで更に盛り上がり、赤木に注目が集まる。もう、MVPをとった三井など眼中にないといった感じで、ヘタクソだと思っていた赤木に出し抜かれた三井は、プライドがボロボロだった。木暮にはげまされ、赤木はデカすぎるからしょーがないとフォローされるが、そんなものはなんのなぐさめにもなっていなかった。
三井は負けられなかった。負けるわけにはいかなかった。安西が、自分のプレイを見ていたからだ。
赤木にライバル意識をもった三井は、ボールをもらうと、高さで勝てない分は、スピードとテクニックでカバーしようと、右に動いたが、すぐにもとの位置に戻り、シュートを打ってくると、ブロックしようとした赤木を抜き去った。
だが、ここで思ってもみないアクシデントが起こる。
シュートを打とうと、ひざをまげた瞬間、三井はひざに痛みを感じた。
その痛みに立っていられなくなった三井は、床に四つん這いになり、立つことができないほどの痛みに、顔を歪めた。
それから数日後…。入院して、病院のベッドで寝ている三井のもとに、木暮が見舞いにやって来た。木暮はお見舞いに、月刊バスケットボールを渡し、その時に、全中の県大会優勝の時の写真が床頭台にかざってあるのをみつけると、何故強豪校ではなく、湘北に入ったのかを聞いた。
聞かれると、三井はぽつりぽつりと話しはじめた。
去年の決勝戦の時、ラスト12秒で相手ボールだったので、「このスーパースター三井がいる限り、絶対勝ァつ」とは言ったが、はっきり言って、もう勝てないと思ったのだと言う。
試合が再開され、相手チームからボールをカットしたのはいいが、ラインの外に出そうになった。三井はそのボールを追いかけた。しかし、来賓席にはばまれてとれず、また相手ボールとなってしまった。三井は、もうダメだと思い、勝ちをあきらめたという…。だがその時、来賓席にいた安西が、ボールを持って、三井の前に立ち、こう言った。
「最後まで…希望を捨てちゃいかん。あきらめたら、そこで試合終了だよ」
と…。
その言葉に勇気をもらった三井は、希望をとり戻し、再び相手からボールを奪うと、一発逆転のシュートを決めて、優勝したのだという。そして三井は、その時、安西のもとでバスケットがしたいと思い、安西のいる湘北高校へ行こうと思ったのだという…。
三井は、安西がいなかったら、この写真はなかったので、安西に恩返しがしたいと言い、絶対すぐ退院して復活すると誓った。
それから数日後…。
三井は松葉杖をつきながら、バスケ部に顔を出した。その時に先輩達から、インターハイ予選には間に合うのかと聞かれた。その質問に三井が、絶対間に合わせると断言した。三井の返答に、心強いと、彼らは目を輝かせた。みんな、三井に期待し、たよりにしていたのだ。
それから練習が始まったが、まだ松葉杖を使わなければ歩けない三井は、みんなにまざって練習ができず、すみの方で、ボールハンドリングしかできなかった。
対して赤木は、みんなと一緒に練習ができるだけでなく、初めて見た時よりも、確実にうまくなっていた。しかも、隣にいる安西は、そんな赤木を見てにっこりと笑った。この時、三井の中で、焦燥感と嫉妬心が生まれた。
その次の日のこと…。三井はまた病院を抜け出して、公園でバスケの練習をしていた。入院していたせいで体力が落ち、息があがり、シュートもはずしてしまったが、足の痛みはなかったので、顔が明るくなった。
そして更に数日後…。部活の練習に参加した三井は、シュートを決め、カンをとり戻した。そのことで先輩にはまた期待され、たよりにされた。同時に心配もされたが、三井は問題視していなかった。
だが、この後悲劇が起こる…。
練習を再開し、赤木が木暮へパスした時、三井はボールをカットしようと、赤木と木暮の間に割って入るように動き、手をのばした。
しかし、ボールは木暮の手に渡った。
何故なら、三井はボールをカットしようと動いた時、ひざの痛みが再発して、また床に四つん這いになったからだった。
「もう、足は治ったのか」
あれから2年。現在の三井に赤木は問うが、三井は何も答えることはしなかった。
そして、2年前のあの日……。インターハイ予選の初日……。スタメンとして出ていたのは、2年と3年の先輩の他に、もう一人は赤木。1年生で唯一のスタメンだった。三井も足は治ってはいないが、観客席で試合を見ていた。
試合が開始すると、赤木はリバウンドをとり、シュート決め、先輩達からたよりにされ、期待され、称賛されて、まさに絶好調な赤木のその目は、キラキラと輝いていた。
三井は、歓声がわき起こる館内で、悲しそうな目で試合を見ていた。
三井も、少し前までは、先輩達からたよりにされ、期待され、称賛されていた。
けど今は、三井ではなく、赤木をたよりにしており、期待し、称賛する。
まるで、三井などいなくとも、チームメイト達は、全然平気そうだった。先輩達も…他の1年生達も…安西も…武石中の友人達も…木暮ですらも…。まるで、三井など最初からいなかったかのように盛り上がっていた。
自分の居場所は、もうそこにはない気がしていた…。
本当は、1年生の時から、スタメンとして活躍して、安西を全国へ連れていきたかった…。
あの、今赤木がつけている10番のユニフォームは、本来なら、赤木ではなく、自分がつけているはずだった…。自分がスタメンとして、試合に出ているはずだった。チームメイトや、スタメンの先輩達から、応援され、期待され、たよりにされ、称賛され、観客の注目や歓声をあびるのは、キラキラと輝くのは、自分のはずだった…。
しかし、それも…もう叶わない…。
赤木とは対照的に、どこか生気のない、絶望したような顔をして試合を見ていた三井は、顔をうつむかせると、踵を返した。
その目には、光は宿っていなかった。
三井は松葉杖を使って、ゆっくりと、会場から姿を消した。
嫉妬と焦燥感が生み出した、悲しい結末。
バスケットが大好きな、純粋な少年は、そこにはもういなかった…。
「オレが、三井について知ってるのはここまでだ…。それから二度と…三井は、ここに戻ってこなかった…。この体育館に…」
「……………」
「三っちゃん……………」
三井の過去が語られると、全員なんともいえない顔になり、三井は木暮を睨んだ。
その頃、体育館の外では…。
「ん………?」
安西が扉の近くに来ており、扉の前に教師や生徒がいたので、何事かと思っていた。
場所は戻り、体育館では……。
「木暮…。ベラベラベラベラしゃべりやがって………!!」
「でも、本当のことだろ、三井」
自分の過去を勝手にしゃべった木暮を、三井は怒って睨んでいたが、木暮は謝ったりしなかった。
「(そうだったんだ…。それで、私が入部した時に、三井さんはバスケ部にいなかったんだ…)」
三井の過去を聞いた魅真は、入部した時、何故三井がバスケ部にいないのか納得していた。
「…そんなことがあったのか…。三井さんがバスケ部…」
「知らなかったな………」
「ケガがなけりゃ、今ごろエースだったかもな…」
「ありえん!この、エース桜木がいる限り!」
「(三井さん…)」
「(リョータにあんなにからんだのも、ただ生意気だったからじゃなく、リョータがバスケ部期待の新人だったから…。自分が失ったものを持っていたから…?)」
「三井サン…」
「……………」
周りの者達も、納得したり、どこか話しにくそうにしていた。
「み…三っちゃん…」
そんな中、堀田が三井に近づいてきて、おずおずと話しかけた。
「三っちゃん、本当は…バスケ部に戻りたいんじゃ…」
核心をついてくると、三井は堀田の方へ、鋭い目でふり返る。
「はぐ!!」
ふり返ると、堀田をだまらせるように、堀田の腹を殴った。
「や…やめろ、三井!!」
「うるせえ!!」
あまりにも乱暴なので、木暮は三井を止めようとする。
「関係ねーことを、ベラベラベラベラしゃべりやがって!!」
「あっ」
「木暮さん!!」
けど、また三井に殴りとばされてしまう。
「コラァ、女男。てめー、このごに及んで、まだこりねーのか!!」
花道は木暮を助けようと、三井のもとへ行こうとした。
「ぬ…!?ゴリ…」
しかし、そこを赤木に、首に腕をまわされて止められる。
「お前がいくと、ややこしくなる」
「ぬ…。なぜだ、主人公なのに…。メガネ君を助けるんだ。放せ…」
赤木が花道を止めたのは、花道が間に入ると、余計に話がこじれてしまうというのが理由で、花道はなんとか木暮のもとへ行こうとするが、赤木が花道の首ねっこをつかんでいたために不可能だった。
「三井…」
殴られはしたが、木暮は気にしておらず、殴られた時にはずれたメガネをかけ直していた。
「あ…足はもう治ったんだろ?だったら…だったら、また一緒にやろうよ…!!」
メガネをかけ直すと、木暮は三井と向かい合って、バスケ部に誘うが、三井はそれを拒絶するように、木暮の体を両手でつきとばした。
「メガネ君!!」
木暮をつきとばした三井は、荒い息をして、木暮を見た。
「バッカじゃねーの!?何が一緒にだ、バァカ!!バスケなんて、もうオレにとっちゃ、思い出でしかねーよ!!ここに来たのだって、宮城と桜木をブッつぶしに来ただけだ!!いつまでも、昔のことを、ゴチャゴチャゆーな!!バスケなんて、単なるクラブ活動じゃねーか!!つまんなくなったからやめたんだ!!それが悪いか!!」
三井は木暮に怒鳴るように話すが、もう先程までの迫力はなく、その目は迷っているようだった。
「!!」
すると、木暮は三井の胸ぐらをつかんだ。
「……………」
荒い息をしている木暮は、体が小刻みに震えていた。
「何が全国制覇だ………」
「あ!?」
「何が日本一だ!!何が、湘北を強くしてやるだ!!」
木暮が叫ぶと、その時三井の脳裏には、2年前、入部初日の自己紹介した時に言ったことと、体育館に行く時に木暮に言ったことが思い浮かんだ。
「お前は根性なしだ……三井……。ただの根性なしじゃねーか……。根性なしのくせに、何が全国制覇だ…。夢見させるようなことを言うな!!」
「木暮……!!」
めずらしく声をあらげて三井に怒鳴ると、三井の瞳は揺れた。
「昔のことだ!!もう関係ねえ!!」
けど、心にある本当の思いをふりはらうかのように、木暮をまたつきとばした。
「三井サン」
「宮城」
その時、横から宮城が声をかけたので、三井は宮城の方に顔を向けた。
「いちばん過去にこだわってんのは、アンタだろ…」
「……………」
宮城は真剣な顔で、三井を指さして、核心をついた。
自分の心を見抜いたようなことを言われると、三井は思わず黙りこんでしまう。
宮城の言葉で、一瞬静寂に包まれたが、その時突然、扉をたたく音が聴こえた。それは、先程の教師の荒々しいものではなく、一定のリズムで、ゆっくりとたたかれていた。
「私だ…。開けて下さい」
それは、教師ではなく、安西だった。
安西の声を聞くと、三井はドキッとなり、その瞳は大きく開かれた。
さすがに安西が来たので、開けないわけにはいかなかったのか、彩子は扉を開けた。
「(あ………)」
ほぼ正面に姿を現した安西に、三井はその場で固まり、胸が大きく高鳴った。
「おや」
見覚えのある三井の顔に、安西も目を見張る。
「(安西先生……)」
安西が目に映ると、三井は、3年前の、全中の決勝戦の時のことを思い出していた。
自分がカットしたボールが外に出てしまい、勝ちをあきらめた時のこと。
その時安西に言われた、「最後まで、希望を捨てちゃいかん…」という、あの言葉。
そして、その言葉のおかげで優勝したことや、MVPをとったこと。念願の湘北高校バスケ部に入部した時のこと。入部初日に、1年生同士で試合をして、木暮と同じチームで赤木と戦った時のこと。試合をしていた時に足を痛めた時のこと。そのせいで焦ってしまい、結局予選に間に合わず、予選の試合を観客席で見て、絶望した時のことを思い出していた。
そして、また場面は全中の決勝戦に戻り、あの時安西に言われた、先程の言葉の続きを思い出す。
その続きの言葉は、「あきらめたら、そこで試合終了だよ」という、自分を救ってくれた言葉だった。
あの時も、三井は、周りが暗く覆われた。まるで、2年前と、今の自分のように……。
「安西先生…」
しかし、その暗闇は、今目の前に安西が現れたことによってとりはらわれ、その瞳には光が戻った。
「安西先生…!!」
それは、2年前に入部した時の、あの瞳。
まだ、絶望し、暗闇に覆われる前の、バスケットボールが大好きな、純粋な少年の瞳だった。
過去のことを思い出した三井の目には、たくさんの涙が、あふれるように浮かんでいた。
「……………」
そして、安西が目の前に来ると、目に浮かんだ涙は、頬をつたって下に流れていき、体を震わせ、その場にすわりこみ、顔をうつむかせる。
「バスケがしたいです……」
頑なだった心が、安西の出現によって照らされた光で溶かされ、三井は心の奥底にしまっていた本音をもらした。
こうして、バスケットボールが大好きな純粋な少年は、2年ぶりに、バスケ部に戻ってきたのである。
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