#18 強力な助っ人
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それは、今から約一年前に遡る…。
ある日の夜、とある公園では、人を殴る音と、その音に合わせて、男のうめき声が聞こえていた。
公園の中には、学ランを着た男が何人か倒れており、その中には堀田もいた。
ほとんどの者は意識を失ってるが、その中で、まだ意識を保っている男が一人いた。
「くそっ…。このアマ……!!」
それは、当時高2の三井だった。
三井はマウントポジションをとられて殴られているが、意識を失くすまでには至らず、自分を殴っている少女を見据えた。
その少女は、長い金色のウェーブをかけた髪をしており、前髪は後ろにかきあげていた。
三井はその少女を忌々しそうに見ると、何ごとか叫んだ。
少女はその言葉に反応し、頭に血がのぼると、今までで一番強く三井の顔を殴り、三井と同じように、何ごとか叫び、その後に立ちあがって三井の上からどくと、三井のあごを強く蹴りあげる。
「二度と私の前に現れるなっ!!」
蹴ると、すてゼリフを吐いて、そこから走りだし、公園から立ち去っていった。
#18 強力な助っ人
そして現在…。
あの時の少女は高校生になり、一年前に会った男と、最悪な形で再会していた。
「鬼神?真田さんが!?」
「ウソだろ」
「同姓同名だとばかり思ってた」
堀田が魅真の正体を言ったことで、部員達は、花道と流川以外、全員ざわついた。
「あいつが…あの鬼神!?」
「マジかよ。とてもそうは見えねーぜ」
「だけど、あいつが鬼神なら、鉄男さんをやったのにも納得がいくぜ」
「ああ、どうりでつえーわけだ」
ざわついているのは、部員達だけでなく、敵側もだった。
けど魅真は、自分のことを話されているのに、何も反応せずに、三井を見据えていた。
「あいつが、あの時会った鬼神……?くそっ、なんで今まで気づかなかったんだ!?」
湘北高校で魅真と会った時から、結構時間があったのに、まったく思いだせなかったので、三井は疑問を抱いた。
「無理もないぜ、三っちゃん。見てみろよ。一年前にオレ達が会った鬼神は、金髪で、髪も尻のあたりまで長くのびてて、ウェーブがかかっていて、前髪をあげていた。けど、今のあいつは、黒髪で、髪も背中までしかないし、前髪だってたらしていた。何よりも、目つきが全然違う…」
「高校生デビューってやつか」
「ああ。一年前に会ったのを境に、あいつのウワサはとんと聞かなくなった。たった一年で、伝説にまでなるくらいにな…。なんとかひと泡ふかせてやろうと、躍起になって探したがみつからなかった…。まさか、足を洗ってやがったとは……。どうりでみつからねーわけだぜ」
三井と堀田は、一年前に不良だった頃の魅真と会っていた。
魅真にやられた三井と堀田は、魅真を探していた。けど、影も形もみつかることはなかった。それは、もう不良ではなくなったからだと、ずっと会わなかったことにも、魅真を見たことがあると思った理由にも、納得していた。
「ああ…。そういえば、あの時の男か…」
思い出したのは、三井と堀田だけでなく、魅真もだった。
「二度と私の前に現れるな…と言ったはずだけど…。まさか、同じ学校だったとはな」
「それはこっちのセリフだぜ」
魅真がガンをとばせば、三井も同じように睨みつけた。
その時、魅真の視界の端に鉄男が映ったので、魅真は三井に向けていた顔を鉄男に向けると、まず鉄男の顔面に、拳を一発たたきこんだ。
「くっ…」
そして、鉄男がひるんだところで、ジャーマンスープレックスを決める。
「本当は、主犯であるあっちのロン毛を倒そうと思ったけど、予定変更。まず、主戦力であるお前を倒す…」
「倒すだあ?てめえ……誰にむかって口を聞いてんだ!!」
鉄男は今の攻撃で、かなりの痛みを感じていたが、それでもなんとか立ちあがると、魅真に殴りかかる。
だが、魅真は拳を左手で受け止めると、もう片方の手で、鉄男の拳を突き出した方の腕を、下からすくいあげるようにつかんで、そのまま宙にふりあげると同時に、鉄男に背を向けた。
一瞬のうちに、地についていた足が離れ、体が宙を舞っているので、ふりあげられている鉄男も、それを見ている者達も、花道以外の全員が驚いていた。
魅真は鉄男を宙にふりあげると、投げとばすのではなく、床に強くたたきつけた。
強くたたきつけたので、鉄男は何回か床をはねて移動していき、魅真から離れたところに倒れた。
そのせいで、鉄男は背中を中心に、体中に強い痛みをおぼえる。
「お前だ」
魅真は、敵の中で一番ケンカが強そうな鉄男さえも、ものともしていなかった。
「すげえ怪力だ」
「さすがは鬼神…」
敵ではあるが、魅真よりも、身長も体格も体重も上の鉄男を軽々ともちあげ、釣り竿でもふるように宙にふっていたので、彼らは感心していた。
「って…感心してる場合じゃねえ!!」
「鉄男さん!!」
感心していたが、すぐに我に返り、金髪の男とリーゼントの男は鉄男の加勢に行こうとした。
「ぐおっ」
しかし、またしても流川に蹴られてジャマをされ、その上顔を殴られた。
「くそ…」
二度も同じ目にあったので、金髪の男は、鼻と口をおさえてくやしそうにしていた。
「なるほど…。てめえを倒すのは、骨が折れそうだ」
鉄男は、痛みをこらえながらなんとか起き上がると、流川がいる方へ歩いていき、流川の背後に忍び寄ると、流川の首に腕をひっかけて、そのまま走った。
「しまっ…」
魅真はその光景を見ると、顔が青ざめ、焦って流川を助けるために走り出したが、魅真がいた場所は、流川と鉄男が今いるところとは反対側の、すみに近いところだったので、間に合うかどうかわからなかった。
けど、それでも流川を助けるために走った。
「あっ…あ」
「あ」
その間も、鉄男は腕を流川の首にひっかけたまま走っていき、ある程度走ると、木暮と潮崎の間に、投げすてるように床にたたきつけた。
鉄男が流川を床にたたきつけると、間に合わなかったので、魅真はその場に止まり、呆然としてその光景を見ていた。
「うわあっ!!」
「る、流川!!」
「ああっ…!!」
流川がやられると、魅真は目と口を大きくあけて、呆然とした。
「………!!」
「!!」
今の攻撃で、流川は意識を失った。
「流川っ!!」
せっかく、三井達を倒すために立ち上がったのに、流川がやられてしまったので、魅真は悲痛な声をあげた。
「次」
そんな中、流川をやった鉄男は、木暮達がいる場所の中心で、表面上は平然とした顔で、淡々としゃべっていた。
流川がやられて、バスケ部の全員が呆然とする中、三井はうすら笑いを浮かべていた。
部員達の真ん中に来た鉄男は、無言で角田の方に顔を向けると、角田はびくっとなり、顔が青ざめ、たくさんの冷や汗をかく。
鉄男が角田の方にふり向いたことで、魅真はハッとなるが、もうすでに遅かった。
「あ!!」
魅真がハッとなったのと同時に、鉄男は容赦なく角田を蹴りとばす。相手が戦えなくてもおかまいなしだった。
「角田!!」
「角田!!」
「角田先輩!!」
蹴られた角田は仰向けに倒れ、周りの部員達は心配した。
魅真は、心配という気持ちもあったが、それよりも焦りの方が大きかった。
「うわ…やだなに…」
「どうしたの?」
「!」
その時、さわぎを聞きつけてやってきた女子生徒達が、体育館の様子を見てざわついた。
「次…」
それでも鉄男はおかまいなしに、他の部員を倒そうとする。
「石井!」
「は…はい!?」
「ドアを全部閉めろ!!カーテンもだ!!急いで!!」
「は…はい!!」
「ボッ、ボクも行きます!!」
木暮に指示されると、石井と佐々岡は、まるで鉄男から逃げるように、まずは女子生徒達がいる扉に向かって走っていった。
「(まずい…。まずいぞ…!!どうすればいいんだ、赤木…!!)」
木暮は動揺し、まだここに来ていない赤木に助けを求めた。
「次…」
「ひっ…!!」
ここにいる全員を倒すまでは止まらないであろう鉄男は、今度は潮崎の方へふり向く。
それを見て、今度は潮崎がやられるのだとわかった魅真は、再び走り出す。
「…………」
「う………」
鉄男がふり向くと、潮崎は体を後ろにのけぞらせた。
「…………」
「あっ………あう…」
標的を定めた鉄男は、潮崎の方へ歩いていき、潮崎は逃げだした。
「潮崎先輩!!」
「やめろーーーっ。てめえ、関係ねーだろ!!逃げろ、潮崎ィ!!」
魅真は焦りながら潮崎の名前を呼び、宮城はやめるように叫ぶ。
「あぐ!!」
「!!」
けど、願いもむなしく、潮崎もやられてしまった。
距離があったのもあり、またしても間に合わなかったので、魅真は立ち止まり、呆然とした。
「ああっ!?」
「潮崎!!」
やられた潮崎は、角田と同じように仰向けに倒れた。
「いいかげんにしなさい!!何考えてんの、あんたたち!!」
「あ、あぶない、アヤちゃん!!出てくるなぁっ!!」
「次は女か…?」
今度は彩子にまで矛先が向いたので、宮城は過剰に反応し、彩子は顔が青ざめた。
「いい女だな…。オレの好みだ」
「な…」
けど、戦いとまったく関係ないことを言ってきた。しかも、内容が内容なので、宮城は更に過剰に反応を示す。
「オレも好みだ…」
「!!」
鉄男だけでなく、三井まで同意したので、宮城は反応して、三井に顔を向ける。
「オレも…」
「!!!」
それだけでなく、竜も同意したので、宮城は今度は竜に、青ざめた顔を向けた。
「てめーら、いいかげんにしろよ…。オレをやりたいんなら、オレにこい!!!面倒くせーことしなくても、勝負してやるぞ!!!ああ!?ビビってんのか三井!!」
「宮城先輩!!」
やめろと言っていたのに、手を出しただけでなく、挑発までしたので、魅真は宮城にバカと言うように、宮城の名前を呼ぶ。
「なんだと!?」
その挑発にのった三井は、怒りを燃やし、今にも宮城に襲いかかりそうだった。
「!」
だが、三井と対峙していると、後ろから鉄男が宮城の肩に手をかけ、宮城がふり返ると拳を突き出したが、宮城はそれをよけた。
「この…タコが!!」
「!!」
宮城も攻撃をよけると拳を突き出すが、鉄男は上腕の筋肉で防御した。
防御されると、宮城は今度はジャンプをして、鉄男に詰め寄る。
「死ねェ!!」
「!!」
距離をつめると、ジャンプをしたまま蹴りをくらわせるが、鉄男はまた腕で防御をした。
「鉄男!!」
「鉄男さん!!」
防御はしたが、鉄男は宮城とともに床に倒れこむ。
「つええ!!」
「あいつつえーぞ!!」
鉄男を押しているので、金髪の男とリーゼントの男は感心していた。
「知ってるよ…。バカヤロウ」
そんな中、三井は宮城のもとに歩み寄っていって、宮城の背後まで来ると、殺意と敵意のある目で宮城を見下ろす。
「それがどうした」
その手には、モップがにぎられていた。
「リョ…」
「宮城先輩!!」
彩子はぎょっとし、魅真は助けようとした。
「それがどうした」
「!!」
けど、魅真よりもいち早く、花道が三井の背後にまわり、三井の頭に手を置いて止めていた。
「桜木…!!」
「花道!!」
「花道!」
花道が現れると、三井と宮城は、花道がいる方へふり向き、魅真は目を見張り、動きが止まった。
「!!」
その隙を逃さず、鉄男は両手で宮城の顔をつかんだ。
「死ねやあ!!」
そして、三井は花道に向かって、モップをふりまわす。
モップは花道の左側の顔にあたり、宮城は顔面に頭突きをくらった。
「ぐあああああっ」
「花道!!宮城先輩!!」
「リョータ!!」
「桜木!!」
花道はモップで殴られ、宮城は頭突きをされたので、魅真、彩子、木暮は、心配になって叫んだ。
傷つけられ、宮城は痛みのあまり目尻に涙を浮かべてうめき声をあげ、花道は血が流れ、顔が半分くらい赤くそまった。
「バカモノォ!!!」
「!!」
花道は少し間をおくと、三井の後頭部をはり倒し、三井は床に倒れた。
「「!!!」」
「み…三井君!!」
三井はたったの一撃で白目をむき、体が痙攣した。
「!!」
三井を倒すと、花道は背中に衝撃をうけた。
「ぬ…!?」
鉄男の攻撃かと思い、目を鋭くさせてふり返るが、そのぶつかったものを見ると固まった。
「「「!!」」」
それは、魅真、彩子、木暮もだった。
「リョ…」
花道の背中にあたったもの。それは、鉄男にやられた宮城だった。
宮城は気絶はしていなかったが、もう戦える状態ではなく、力なく崩れ落ちて、花道の足に寄りかかった。
「てめえ…!!」
宮城がやられたことで、花道の怒りは頂点に達した。
これから、この二人の戦いが始まるとわかった魅真は、急いで花道のもとまで行くと、宮城をかついで、二人から遠ざかった。
今までやられた者は、魅真と安田と宮城は意識があったが、それ以外の、潮崎、角田、流川は気絶をしていた。
「ブッ殺す!!」
「フッ」
倒すことを宣言されたというのに、鉄男は笑っていた。
「(花道…。そいつはつええぞ。ハンパじゃねえ!!)」
「メガネ君、みんな、下がってろ。出てくんなよ。あぶねーぞ」
戦えない木暮達に注意を促すために、花道は後ろにふり向く。
「花道、やめなさい!!そいつの相手は私が」
「バーカ。てめーこそ大人しくしてろよ」
魅真が、鉄男の相手をするのを変わろうとするが、花道はそれを断った。
その隙を狙って、鉄男は花道に蹴りをいれようとした。
「フン!!」
「!!」
だが、花道に足をつかまれたために、あたることはなかった。
「わかってんだよ。てめーがヒキョー者だってことは!!バカめ!!」
花道はしゃべりながら鉄男の足をひっぱる。
「ん……」
だが、血が目に入りそうになったので、鉄男の足から手を離した。
「血が…」
「…………」
その隙に、鉄男は足を後ろにひき、次の攻撃態勢に入った。
「はう!!」
そして、再び蹴りをくりだし、花道の腹に決める。
「ぬ…」
ダメージはうけたが、倒れるまでには至らず、まだたれてくる血をぬぐっていると、今度は右頬を殴られた。
「この…」
抵抗しようとするが、鉄男はそんなひまは与えず、今度は左頬を殴り、更にもう一度右頬を殴った。
それだけでは止まらず、花道の髪の毛をつかむと、つかんだまま扉に向かって走っていき、扉に花道を投げてぶつけた。
「つええ…」
「メチャクチャだ…」
「なんてことだ…。桜木…」
木暮だけでなく、鉄男の味方である、金髪の男とリーゼントの男も、鉄男の強さに呆然としていたが、唯一魅真だけは動じておらず、まっすぐな目で花道と鉄男を見ていた。
「あ……」
「!」
「蚊がいる」
花道は、扉に頭をぶつけたが、気絶はしておらず、ひざをついて床にすわると、突然妙なことを言い出した。
「ホッペタと…ハラと…アタマが、さされてるぞ、いつの間にか」
そう言いながら、花道は左頬をかいた。
「きかねーな」
「…………」
「「…………!!」」
あれだけやられて、まだ血もたくさん流れているのに、花道は平然としているので、鉄男はそうでもないが、金髪の男とリーゼントの男はひいていた。
「もうこんな時間か」
何気に、壁にかかった時計を見てみると、もう4時40分をすぎており、三井達がのりこんできてから30分は経過していた。
「さっさとてめーをブッ殺して練習だ。さ、とっととかかってこい」
「はは!!」
その花道の言葉で、今までほとんど無表情だった鉄男が笑った。
「おい。調子にのるなよ、桜木」
その時周りから、三井と堀田と竜と金髪の男とリーゼントの男がやって来て、花道をとりかこんだ。
「てめーの負けだ、桜木!!」
「!!」
先程宮城にやられた男をのぞき、彼以外の全員が、花道を一気にたたきつぶそうとしたのだ。
「花道っ!!」
それを見た魅真は、さすがにヤバいと思ってとびだして、花道のもとまで走っていく。
「魅真!?」
花道のもとまで来ると、魅真は花道の背中を守るように、花道と背中合わせになる。
「お前、もうこれ以上はやめろ!!足洗ってんだろーが!!」
「ヤダね」
「!!」
「大事なダチがやられそうになってんのに、助けない奴がどこにいるよ」
「……………」
「それに、私はマネージャー。選手を助けるのが、マネージャーの役目だ…!!」
「魅真…」
魅真の思いを聞くと、花道はそれ以上は、もう何も言うことはなかった。
「流川!」
その時、今まで気絶してた流川が起き上がり、彩子の流川を呼ぶ声に三井達は反応し、流川がいる方へ顔を向けた。
流川は自分も戦うために、三井達の方へ歩いていくが、数歩歩いただけでうつぶせに倒れてしまった。
「流川!血のですぎよ。死ぬわよあんた!!」
床に倒れたことで傷口が開き、再び倒れた流川に、彩子、石井、桑田は駆け寄った。
「さー、いくぞ」
流川が倒れると、三井達は気をとりなおしたように、魅真と花道に襲いかかろうとしたので、魅真はいつきてもいいようにかまえた。
「ヒキョー者が…」
魅真をカウントしても、数は相手側の方が多いので、花道は眉間にしわをよせる。
「死ねやあ!!!」
けど、そんなことはおかまいなしに、三井達は二人を倒そうとする。
「はいやーーーーーーー」
だがその時、高宮が花道の前から、クライミングロープを使い、ターザンの如く、2階から魅真達がいる方に向かってきた。
「なんだ!?」
「「高宮!?」」
「あああ」
高宮はクライミングロープから手を放し、ジャンプして花道の前に着地しようとする。
「「「!!」」」
「ぐお!?」
だが、高宮は花道に体当たりをしてしまい、着地に失敗した。
ちなみに魅真は、高宮が花道に近づき、あと少しで接触するという時、嫌な予感がしたので、とっさに横によけたので無事だった。
「しまった、失敗…」
「早く降りろ!!」
高宮は、花道の背中の上にまたがる状態になったが、その体格のため体重が結構あるので、花道にどくように言われると、花道の上からどいて立ち上がった。
「ハッハッハッ。何やってんだ、バカモノ!!せっかくの登場シーンを!」
「!!」
「「おめーら!」」
「正義の味方、参上!」
洋平の声がしたので、高宮が降りてきた方を見てみると、そこには、洋平、野間、大楠の姿があった。
「「「はいやあああ」」」
三人はそれぞれクライミングロープを手にとると、高宮と同じように、ターザンの如く、三井達がいる方へ降りてきた。
「おおお!?」
この登場の仕方に、三井達は驚いていた。
「!!」
「ぐわっ」
洋平達は、下の方まで接近すると、クライミングロープから手を放して、堀田達にとび蹴りをくらわせた。
そして、着地すると、魅真と花道のもとへ行った。
「(あいつらは―!)」
洋平達を見ると、実は数日前に彼らと会った宮城はハッとなった。
「さ……桜木軍団!!」
洋平達はかこむように、守るように花道と魅真の前に立ち、洋平と高宮の後ろには花道が、大楠の後ろには魅真が立っていた。
「桜木軍団…?なんだ徳男、このフザケた連中は!!」
「今年入った1年だ。和光中出身の5人組…。確か、鬼神のケンカ仲間とか言われてる…」
「1年だと?」
「むこうは何人だ?」
「2…3……4……」
「こいつらを、甘くみすぎない方がいい、三っちゃん…。
桜木花道!!
水戸洋平!!
ほか」
「それはやめい!!」
「誰がほかだ、コラァ!!!」
「ぐお!!」
「徳ちゃん!!」
ほか扱いされたことに怒った、高宮、大楠、野間の三人は、いっせいに堀田に殴りかかった。
「高宮望!!」
「大楠雄二!!」
「野間忠一郎!!」
堀田を殴ると、三人は自ら名乗った。
しかも、迫力があり、顔にかなり力が入っている。
「…あの伝説の、和光中3バカトリオとはこいつらのことだ…」
「………………」
三人の後ろでは、洋平が真剣な顔をして三人をけなしたので、魅真は思わず吹き出した。
「ああ!?」
「何だとコラァ、洋平!!」
「笑うな花道。馬鹿王はおめーだろ!!魅真、おめーも笑ってんじゃねえ!!」
当然文句を言われるが、洋平はどこか悪どい顔で笑うだけで、魅真は声を押し殺して笑い、花道は大口をあけて笑っていた。
「ああ!?誰が馬鹿王だと!?」
「あんた以外の誰がいんのよ」
「うるせえ!そういうおめーこそ馬鹿だろ。馬鹿女王じゃねーか!!」
「はあ!?なんですって!?」
「おめー、足洗ったくせに、さっきケンカしてたじゃねーか!!それを馬鹿と言わずになんて言うんだよ!!」
「「「「なにィ!?」」」」
花道が、魅真がケンカしてたことを言うと、四人は過剰に反応を示し、大声をあげながら魅真を見た。
「てめー魅真!!何考えてやがんだよ!!」
まず大楠が魅真を責め…
「何ケンカしてんだ!!」
次に野間が責め…
「おめーはもう一般人なんだぞ!!」
野間の次に高宮が責め…
「足洗ったんだろーが!!」
そして、最後に洋平が責めた。
一気に四人に責められた魅真は、不良じゃないのにケンカをしたのは事実なので、小さくなった。
「あはは…。それ、花道にも言われたよ」
「「「「あたりめーだ!!」」」」
今度は四人同時に同じことを言われたので、何も言い返せなくなった。
「ごめん…。でもね、どうしても許せなかったから…」
「許せなかった?」
「うん…。このバスケ部は、もう私にとって大切な場所なの…。その中には、当然部員のみんなが入ってる。だから、みんなを傷つけるこいつらは、許せなかった…」
魅真が、もう不良じゃないのに戦った理由を話すと、花道達だけでなく、周りで見ている部員達も、どこかしんみりとした。
「なのに、流川が手ぇ出すし、花道も出そうとするし、宮城先輩も、最初はやめろとか言ってたくせに、彩子先輩がやられたら手ぇ出しちゃったし。だから仕方なく、私が片をつけようと思ったのに…。主犯のロン毛をやっても出ていこうとしないし、プラン変更して、主戦力であろう長髪ヒゲ男を、人間一本釣りしたのに出ていかないし。そのあと彩子先輩が止めようとしたけど、ヒゲ男とロン毛と短髪が、彩子先輩をオレの好みとか言って…。あきらかな挑発行為なのに、宮城先輩ってばあっさりブチ切れてメチャクチャになるし、結局花道も手ぇ出すし。どいつもこいつも、戦えないくせに、すみっこにいかずにまごまごしてるし。うまくいかなくてやんなっちゃうわ!安田先輩も彩子先輩も、勇気あるのはいいけど、自分で対処する力がないんだったら、口出ししないでほしかった。特に彩子先輩!戦えない女なんて、かっこうの標的なんだから、大人しくしてなさいよね。そのせいで、宮城先輩が二度もブチ切れて手を出したんだから、一回目で学んでほしかった。戦う術をもたないなら、すみっこで、みんな一緒にガタガタ震えてればよかったのよ!」
「おいおい、それはさすがに言いすぎだろ…」
この数十分で感じた不満を、一気に吐きだした魅真だが、言いすぎなところもあるので、野間がなだめた。
けど、魅真が言ってることもあながち違うとは言いきれないので、花道と流川をのぞく部員達は、何も言えなくなっていた。
「でないと…ちゃんと守れないでしょうが…」
だが、本音はもっと別のところにあったので、本心を聞くと、部員は全員感動していた。
「だって、選手達を退部させるわけにはいかないしね」
戦った理由はこれで終わりかと思われたが、まだ続くようだった。
「花道と流川と宮城先輩は、選手だから、戦わせるわけにはいかない。廃部にならなくても、退部はあるかもしれないから…。対して私は、ただのマネージャー。しかも、仕事おぼえたての新米。選手は他に代わりはいないけど、新米マネージャーなんて、いくらでも替えがきくから…。だから私がやって、退部すれば、すべて丸くおさまると思ったのよ」
魅真が正体をあかした理由も、やたら戦おうとしていた理由も、ようやく理解した。
けど、魅真の言い分には納得できず、花道、洋平、高宮、大楠、野間は、全員同時に魅真の頭を殴った。
「いっだあああーーーーー!!いきなり何すんだ、てめーら!!」
突然殴られたので、魅真は頭をおさえながら抗議した。
「バーーカ!てめーの代わりだって、どこにもいねーよ!」
四人の気持ちを代弁するように、花道はぶっきらぼうに言い放つ。
花道のその言葉に、魅真は目を丸くしたが、すぐに笑顔になった。
「でもお前、理由はどうあれ、ケンカしちまったんだろ?大丈夫かよ?」
突然話を変え、大楠が疑問に思ったことを聞いた。
「大丈夫よ。いざとなったらゴマカすから!」
「「「「「ゴマカす?」」」」」
「全部こいつらのせいにするから」
言いながら、魅真は三井達を指さした。
「不良グループが突然のりこんできたので、混乱してしまい、心神耗弱の故に正常な判断がつかなくなり、襲いかかってきた不良に抵抗するために、一発殴ってしまった。そう言えばゴマカせるでしょう」
「いや…そんなうまくいくか?」
確かに、話に筋は通ってるが、それで教師陣をだませるだろうかと、洋平は疑問に思った。
「大丈夫よ。私、ここじゃ優等生で通ってるから。不良と優等生…。どっちの言うことを信じるかなんて、明白だよね」
「お前……結構いい性格してんな」
なんの悪気もなく、にこっと笑いながら言う魅真に、五人は顔をひきつらせ、洋平が思ったことを言うが、魅真は笑うだけだった。
「でも、いざとなったら私も名乗り出るよ。友達にばかり罪を背負わせて、自分一人だけ安全圏にいるわけにはいかないからね」
「魅真、お前はやっぱいい女だわ!」
「だろ」
洋平がさっき言ったことを訂正すると、魅真は満面の笑顔を浮かべる。
「しかし、それはそうとして、魅真の人間一本釣りを見て引き下がらねえとは、なかなかみどころがある奴らだな」
「確かにな」
また話が変わり、今度は高宮が、ある意味で彼らのことを感心しており、野間も同意した。
「ほかにも、人間風車(カザグルマ)とか急所蹴りとか、魅真の技っていちいちえげつないかんな。あれ食らったら、大抵の奴は、しっぽ巻いて逃げちまうのにな。まあ、かなりダメージはうけてるみたいだけどな」
名前は言ってなかったが、魅真が言った長髪ヒゲ男という特徴で、それが誰なのかわかり、鉄男を見てみると、あまり表に出さないようにしているが、息は乱れ、どこか苦しそうだった。
「でも、あれで撤退しなかったのよ。やっぱ1年もケンカしてないと、腕が落ちるわね」
「「「「「どこがだ!」」」」」
撤退以前に、自分より身長も体重も体格も上の鉄男を、片手一つでふりまわしたというのは、かなりの力の持ち主ということなので、五人同時に同じことをつっこんだ。
「ケンカをやめても、お前の怪力は変わんねーよ」
そして、大楠がからかい
「そうそう。お前みたいな女傑、他にいねーしな」
更に洋平がからかい
「破壊の女王だな」
高宮もからかい
「怪物だって逃げていきそうだもんな」
野間がからかい
「いやいや、どっちかっつーと、魅真の場合は魔王だろ」
「「「「なるほど!!」」」」
「なんですってえ!?」
最後に花道がからかうと、四人は納得したが、魅真は激怒した。
「ガキ共が…ナメてんな…!!」
いきなりコントのようなやりとりを始めた上、長いこと放置されたので、三井達は腹を立てていた。
その時、外側の扉を強くたたく音が聞こえてきた。
「なにをやっとるんだ、バスケ部!!ちょっとここを開けろ!!」
「おいっ!!」
「開けろ!!何をやっとるんだ!!」
外にいるのは、教師と複数の女子生徒。おそらくは、先程ざわついていた女子生徒が、教師に報告したからだろうが、最悪の展開になったので、木暮は顔が青ざめた。
「ぐずぐずしてらんねーな…」
教師が来た以上、あまり長くもたないのは誰もがわかるので、さっさと片づけようとした。
「「「「いくぞォ!!」」」」
全員睨みあうと、その合図でいっせいにとびだしていった。
「さっきの借りを返してやるぜ!!」
竜は、先程魅真にやられた借りを返すために、魅真に向かっていき、拳を突き出したが、魅真は自分にあたる前に、竜の拳を自分の拳で、上からたたき落として無効化した。
「くっ……」
そこまで力はいれてないが、そこまでと言っても怪力の魅真の拳なので、手にしびれが走り、動きが止まる。
その隙に、魅真は竜のベルトと服をつかむと、竜の体を頭上にもっていき、まるでバトンでもまわすかのように、竜をまわしはじめた。
そして何度かまわすと、勢いのままに、床に投げつけた。
「がっ!!」
床に激突した竜は、体がピクピクと痙攣し、痛みのあまり動くことが不可能となった。
「おお!!出たぜ、魅真の人間風グルマ!!」
先程話していた人間風車がいきなり出たので、大楠は興奮した。
「ぜあ!!」
「!!」
魅真の近くでは、高宮が堀田と対峙しており、高宮は堀田の右頬を殴っていた。
「このブタ…!!この堀田徳男をナメんじゃねーぞ!!」
「おう!?」
しかし堀田もだまっておらず、堀田は高宮を、自分が殴られたところと同じとこを殴った。
「なんだ…。本当はけっこーつえーんじゃん。ただイバってるだけかと思った」
「ああ!?」
「はいやあ!!」
「ぐっ!!」
バカにされたので、大声でうなるが、高宮に、腹を手で槍のように突き刺されたので、またダメージをくらった。
「ぷあ!!」
別の場所では、大楠が金髪の男に左頬を殴られていた。
「全然効かねーな。お前のヘナチョコパンチなんかよ…」
「んだと!?」
「そんなんで、オレに勝とうなんてアマすぎんだよ!!」
「!!」
だが大楠は、彼よりも鋭く重いパンチをくらわせた。
「チッ。1年坊なんざ、おめーらやれ!!オラ行け!」
「え…!?」
別の場所では、三井は自分は戦わず、リーゼントの男に魅真達と戦わせようとしていた。
「おい。逃げんなよ、主犯」
「あ…?」
「相手がいねーんだわ。あんた、相手してくれよ」
けど、そこへ洋平がやって来て、冷静な顔で、三井に勝負を挑んだ。
「(水戸洋平…)」
「……………」
洋平が三井に勝負を挑むと、宮城と木暮が、その戦いに注目した。
「ケガ人はケガ人どーし、仲良くやろーぜ」
「!!」
そして、リーゼントの男には、野間が勝負を挑む。
「来な」
「小僧…。死にてーらしいな…」
三井は強気な態度で挑発するが、一瞬にして、洋平に左頬を殴りとばされた。
まさかの展開に、敵も味方も驚いていた。
「おい…まだだぞう。立てよ」
淡々と話してはいるが、その顔は、先程の冷静な顔とはうって変わり、とても怒っていた。
「…………!!」
その近くで、三井と洋平の戦いを見ていた鉄男の背後に、花道が忍びよる。
「らァ!!」
「あが!!」
一方野間は、リーゼントの男を一撃で倒していた。
「ぐ…いてて…。あのヤロー、メチャクチャ殴りやがって…」
ここに来る前、彼らにリンチをされたので、殴った方の肩が痛み、右肩をさすった。
鉄男は野間の戦いも見ていたが、その後、背後に花道がいることに、ようやく気がついた。
「あけんかァ!!」
「何やっとるかァ!!」
「おい!!」
外の方では、教師の呼びかける声が、一段と大きく、さわがしくなってきていた。
「第2Rだ」
「来い」
そんな中、花道と鉄男の戦いが、再び始まろうとしていた。
二人は睨みあい、鉄男は人差し指を立てて前後に動かし、花道を挑発した。
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