#16 バスケ部最後の日
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花道と宮城が和解した次の日の放課後、4台のバイクが、湘北高校に入ってきた。
そのバイクには、見るからに不良といった雰囲気の男が、6人乗っていた。
同じ頃、魅真はたくさんのノートを持って、廊下を歩いていた。
「失礼しまーす」
ノートを持って入った先は、職員室だった。
「先生、今日提出のノートを持ってきました」
「おお、ごくろう。これで全員分か?」
「はい」
「…流川も出したのか!?」
「ええ…まあ…。ノートの中は、どうなってるかわかりませんが……」
流川が提出をしたことに、教師は大変に驚いていたが、提出しても、ろくにノートをとってないだろうことは、魅真は容易に想像がついたので、苦笑いをしていた。
「では、私はこれで失礼します」
「おう、ごくろうさん」
用事は終わったので、魅真は部室に行こうと、職員室を出ようとした。
「おう真田、ちょっといいか?」
「はい」
けど、途中で別の教師に声をかけられる。
「すまんが、この教材を、理科準備室まで持っていってくれんか。奥の机の上に置いといてくれるだけでいいから」
「はい。いいですよ」
雑用を頼まれたが、魅真は嫌な顔一つせずに引き受けた。
#16 バスケ部最後の日
場所は校門付近に戻り…。
「ヒゲ!おい!!そこのヒゲ!!」
「ん?」
先程の不良の、おそらくはリーダーであろうタンクトップを着た長髪の男が、野間に声をかけていた。
名前を呼ばれているわけではないので、自分のこととは思わなかった野間は、ひょっとして自分を呼んでいるのかと、自身を指さした。
「!!」
「うわ…何!?」
「お前だよ。ほかにヒゲがいるか?」
けど、最初から野間を呼んでるつもりだった男は、野間の方へ歩いてきた。
彼らが近づいてくると、野間は動じてないが、周りの生徒達は、野間から遠ざかった。
「バスケ部の体育館はどこだ。教えろ」
「知らねー。ワルイね。サヨナラ」
ものを聞かれたが、野間は適当にあしらって、長髪の男とボーダー柄の服を着た短髪の男の間をすり抜けて、校門へ歩いていく。
「!!」
しかし、それが気にいらなかった長髪の男は、野間の足にローキックをくらわせた。
「おいヒゲ!」
「いて…」
更に、逃げられないように、髪の毛をつかむ。
「オレはただ、暴れたくて来たんだ。バスケ部のナントカが相手だろーが、お前が相手だろーが、おれにとっちゃどっちでもいいんだ、本当は。さあ、言えよ」
「バスケ部…?」
彼らの目的がバスケ部だと知った野間は、過剰に反応を示し、真剣な顔になる。
「なんなんだおめーら。バスケ部の誰とモメたんだよ…?」
「いいからさっさと言え」
バスケ部と聞いて過剰に反応をしたのは、相手が花道、ヘタしたら魅真のことかと思ったからだ。
「鉄男のいったことがわかんなかったのか?ヒゲ。早く言え!!」
「……………」
だが野間は、別の男に言われても、何も答えることはなかった。
「1…2…3…」
「?」
「4…5……6…。6対1」
「何だ?」
長髪の男…鉄男の質問には答えず、急に自分達の人数を数えだしたので、男達は何事かと思った。
「ヒキョー者(モン)だな、お前ら?」
真剣な顔から、花道をからかう時の顔になり、バカにしたように指をさす。
それが鉄男のカンにさわったようで、鉄男は野間を殴った。
「鉄男まて!!ここは人目がありすぎる!!」
6人のうちの1人が止めると、彼らは野間を連れて、別の場所に移動した。
「コイツ…相当アタマワリーな…」
「うぐ…ぐ…」
「何考えてやがんだ。結局言わなかったな」
「バカが」
別の場所に連れていかれた野間は、彼らにリンチされた。
野間も弱くはないのだが、多勢に無勢でやられてしまい、地面に倒れていた。
「誰だ、そいつは?」
「!」
その時、鉄男の後ろから、彼らに声をかける者が現れた。
「ああ、お前か。体育館がわかんなくてよ」
「目立ち過ぎだ、鉄男…」
そこに現われのは三井。
後ろには、堀田とその子分達もいた。
同じ頃、体育館では、ボールの音が館内に響いていた。
「チュース!」
そこへ、魅真があわてた様子で入ってきた。
「あ、真田さん。チュース!」
「チュース!」
「すみません、遅くなりました。練習は…」
「まだ始まってないよ。大丈夫」
「よかった」
あいさつをして、木暮に練習が始まってるかどうか確認すると、始まる前だったので、魅真はほっとして、すみの方へ行き、持ってきた荷物を置いた。
「めずらしく遅いのね、魅真」
そこへ彩子がやって来て、魅真に声をかけた。
「あ!彩子先輩。今日提出のノートを、職員室まで持っていったんです。私、学級委員やってますから」
「あら、そうだったの」
「そのあとで、別の先生に頼まれごとをされたので、いつもよりも遅くなってしまいました」
「雑用とかよくやるわね、あんたも。それで今日は、髪型違うのね」
魅真は、部活の時間は、いつも後ろで一つのみつあみに結っているのだが、今日はポニーテールに結い、シュシュでまとめていた。
「はい。みつあみは時間かかりますから。練習始まってるかどうかわからなくて、急いでたもので…」
「そうなの」
「彩子先輩とおそろいです」
にこっと魅真が笑うと、彩子は目を丸くしてきょとんとした。
「かわいい!」
けど、すぐに覚醒すると、魅真をぎゅっと抱きしめた。
そして、それを近くで、宮城がうらやましそうな顔で見ていた。
「あ、洋平!」
「おう」
彩子が放すと、魅真は外側の扉の前にいる洋平の存在に気づいて、洋平のもとへ行った。
「あ、魅真ちゃん!」
「こんにちは、赤木さん」
洋平の隣には、晴子、藤井、松井もいたので、魅真は社交辞令の笑顔をはりつけてあいさつをする。
「洋平、今日は1人?」
「おう、今日はバイトあっからな」
「そっか」
けど、洋平に対しては、無防備な満面の笑顔で話しかける。
二人が話しているそばでは、花道は宮城と1対1をやっていた。
「あっ」
だが、宮城はあっさりと、花道のボールをカットする。
「アマイな、花道」
「ぬ…くそ。なぜだ……」
いとも簡単に奪われたので、花道は疑問に思った。
「ハッハッ。ダメだな。またとられた」
「また?」
「さっきから、ずっととられっぱなしなんだ」
「なるほど」
「宮城さんがうまいのよ」
この1対1は、魅真が来る前からずっとやっていて、花道はずっと宮城にボールをとられていたようだ。
「いいか花道、フェイクってのはな、演技力が必要なんだ」
「ほう…」
「ヤス、パスくれ」
「ん?うん」
急にパスを求められた安田は、言われるままに宮城にパスを出した。
パスされたボールを宮城が受け取ると、花道は反応をする。
「ほっ」
「ぬっ!!」
ボールをとると、宮城はそこからシュートをしようとしたので、花道は手をあげて止めようとした。
「!?」
「実はドリブル」
けど、シュートにいくかと思った宮城は、ドリブルで花道をぬいた。
「シューーッ」
「おおっ!!」
そして、そのままレイアップを決める。
「これは、試合でも、かなり使えるテクニックだ。パスもらって、即ジャンプシュートにいくぞっと見せかけて、実はカットインなんだ」
「なるほど…」
「この場合、本当にジャンプシュートにいくぞと思わせる、リアリティが要求される。ほっ」
「!!」
宮城は説明しながら、また先程と同じように、シュートを打とうとしたので、花道はまた反応する。
「一瞬でもシュートと思わせたら勝ちだ。抜ける」
「はっ!!」
そしてまた、同じように抜き去った。
「なるほど…。これがフェイク…!!」
花道は宮城のテクニックを見て、衝撃をうけていた。
「洋平…。ひょっとして、さっきからずっとこんな感じ?」
「おお」
「いくらなんでもひっかかりすぎでしょ。1分も経たないうちに同じ手で出し抜かれてるし。ホント単純なんだから」
「(単純すぎる…。ひっかかりすぎ)」
まったく学ばない花道に、魅真と流川はあきれていた。
「あと、頭だけ動かしたりとか、目線でフェイクとかもできるぞ」
「なるほど…」
「お前もやってみな!!」
そう言って宮城は、花道にボールを渡した。
その二人の様子を、魅真と洋平は、いい顔で見守っていた。
「フシギだ…。あんなにケンカしてたのに」
「ナゾの仲直り…」
「一体何があったんだ。二人の間に…」
宮城が戻ってきたばかりの時はいがみ合っていたが、次の日突然仲良くなったので、全員が不思議に思ってた。
「まあ、何があったのか知らないが、仲良くなってよかった。これでひと安心だ」
危惧していたことはまぬがれたので、木暮はいい顔で笑う。
「ホ!!」
「ワザとらしい」
木暮の目の前では、花道が、宮城に言われた通り、フェイクの練習をしていたが、うまくないので、宮城にダメ出しをされていた。
「あとは予選…。そして、県大会にむけてつっぱしるだけだ。今年は絶対、全国に行く!!」
全国に行くのは、赤木だけでなく、木暮の目標でもあるので、どこか希望にあふれた顔をしていた。
「フン」
「ダメダメ」
再度挑戦するが、花道はまたもダメ出しをされており、そんな花道を、魅真と洋平は、いい顔をしたまま見ていた。
「そんじゃ魅真、ハルコちゃん」
「あっ、もう帰るの?洋平君」
「ああ、さっき魅真にも言ったけど、今日バイトあるから」
「じゃあね、洋平」
「おう」
「でもよかったね。桜木君、もう完全にバスケが好きになったみたい。陵南戦でも、初心者って思えない活躍だったし。楽しみだよね」
「それ、花道に言ってやんな。今の倍はすごいことするぜ」
洋平は魅真達に背を向けて歩き出し、頭だけ後ろに向けて、しゃべりながら手をふった。
魅真と晴子も、洋平に手をふって見送り、魅真は洋平が前を向くと、中の方へひっこんだ。
「(わかってんのかなあ、あの子は…)」
花道の好意にまったく気づいてない晴子のことを考えながら、洋平は角をまがった。
角をまがると、目の前に、三井と堀田と堀田の子分達。そして、先程野間をリンチした不良軍団が、自分の方へ向かって歩いてきていた。
「!?」
異様な雰囲気を出しながら、自分の方に歩いてくる彼らに、洋平は目を見張り、その場に立ち止まった。
「(なんだ、こいつら――――!?)」
洋平が目の前にいるというのに、いっさい動じることなく、彼らはまっすぐに歩いてきた。
あきらかに見たことのない、一般ではない他校の不良や、この湘北の不良が、一緒になって、大人数で歩いてきたので、洋平は疑問に思う。
「水戸!」
彼らは無言で歩いていたが、洋平の存在に気づいた角刈りの男が名前を呼んだ。
「!!」
洋平がその場に立っているというのに、鉄男は洋平の隣を、わざとではないかと思えるくらいに、肩をぶつけて通り抜けていく。
「おい…あんたら。そっちには体育館しかないぜ。何するつもりだ」
次々と通り抜けていく男達を見て、ただごとではないと判断した洋平は、きびしい顔と声で話しかけた。
すると、鉄男がふり返って、左腕をかきながら洋平のもとへ歩いていき、間合いをつめると、突然洋平の右頬を殴ったので、洋平の体は傾いた。
「くっ……!!」
更に、今殴った方の拳とは逆の右手で殴りかかるが、洋平はそれをよけた。
その上更に、蹴りをだすが、洋平はカバンを盾にして防ぐ。
「ホ……!」
自分の攻撃をよけたり防いだりしたので、鉄男は感心した。
「……………」
だが、洋平は警戒心を露わにして、鉄男を睨みながら、殴られた時に口の中にたまった血を吐きだした。
「知ってるよ…。体育館だろ」
鉄男が攻撃すると、三井が、先程の洋平の問いに答えるために、口を開いた。
「これからちょっと、バスケットをしにな…!!」
「――――!!」
その答えに、洋平は目を見開く。
「水戸、お前ジャマすんなよ。お前には関係ねーだろ。ちょっと来いよ」
堀田の子分達は、洋平をいずこかへ連れていった。
洋平は抵抗せず、大人しくついていき、ふり向きざまに、後ろにいる鉄男を睨みつけた。
そして体育館では…。
「よーーーし、集合!!始めるぞ!!」
赤木ではなく、木暮が集合をかけた。
「「「はい!!」」」
「ん?ゴリがいないぞ」
木暮の声で全員集まったが、そこには赤木がいなかった。
「ああ、赤木は少し遅れるよ。課外授業だ。物理の」
「「「「!!」」」」
赤木が物理と聞くと、魅真、花道、流川、宮城の顔が、奇妙なものを見る目になる。
「…頭いいんだぞ、あいつは…」
「…………うーーむ」
「ゴリがブツリ…」
「似合わん」
「(めちゃくちゃ意外だ…)」
木暮に言われても、魅真達は信じがたそうな目をしていた。
そんなやりとりを見て、晴子はくすくすと笑った。
「! は…晴子…」
「ん?」
その時、体育館の角の方を見た藤井が、焦りながら晴子の名を呼び、後ろにさがり、その際に晴子にぶつかる。
「……!!」
藤井に呼ばれて、藤井が目をむけている方を見ると、晴子はぎょっとした。
「湘北ーーーーーーー」
木暮が練習を始めるために、声をあげた時だった。
一人の人間の足が、突然体育館の中に足を踏み入れた。その際に、練習をジャマするような、大きなくつの音が館内に響き渡る。
「「「「「――――!!」」」」」
何事かと思い、全員音がした方へ顔を向ける。
すると、音がした後ろへふり向いた宮城は、そこにいた人物を見て驚愕した。
「オレたちもまぜてくれよ、宮城」
そこにいたのは、三井と堀田、そして、鉄男をはじめとする不良グループで、この見るからにヤバそうな男達を、彼らが来る前に中に避難した晴子達は、おろおろして見ていた。
一方、体育館からそう遠くないところでは…。
「あ…あ…あ…」
鼻から血を流している角刈りの男が、荒い息をして、顔を青くしていた。
「あがっ!!」
そして、目の前の人物に殴られると、その衝撃でメガネがはずれ、仰向けに倒れる。
「ぐ……」
やったのは、彼らに別の場所に連れていかれた洋平だった。
「うぐ…」
まだ気を失ってはいないものの、今殴られたところを両手でおさえ、苦しんでいた。
「言っただろバカ野郎…。ザコはどいてろよ」
他の二人もやられ、気絶しており、洋平は先程鉄男に殴られたところをさすると、体育館がある方へ顔を向けた。
そして、その体育館には、緊迫した空気が流れていた。
「おい…。土足であがらないでくれ。靴を…」
「木暮さん」
土足で体育館に入ってきた三井達を注意する木暮だが、宮城が木暮を手で制した。
「オレたちもまぜろよ、宮城。ん?」
三井は木暮が言ったことには答えず、再度宮城に話しかける。
「三井って人だよ、あれが…」
「三井って…」
「え…。ま、まさか、宮城さんと事件おこした人…?」
「(三井……)」
宮城とのいざこざを知ってる潮崎達は、小さな声で話し、魅真は三井を、注意深く観察するように凝視しており、彩子や緊張した顔で彼らを見ており、晴子達はまだおろおろとしていた。
「……………」
鉄男はタバコの煙を鼻から吐きだしながら、左に目を向けており、花道と流川は、事態がのみこめていなかった。
その時、鉄男が吸っていたタバコの灰を、まるで挑発するかのように、床に落とした。
「!!」
それに宮城は反応する。
「コラァ!!」
「!!」
反応したのは、宮城だけでなく花道もで、花道は切れて鉄男に怒鳴る。
「花道!」
だが、宮城がやめろと言うように、花道の体を手で制する。
「(コイツか…本当に赤い髪だ…) サクラギ」
「なにすんだ、てめー」
制されたくらいで、怒りがおさまる花道ではなく、花道は鉄男にガンをとばした。
「練習中なんだ!ほかの部員もいるし、やめてくれ三井サン。頼む…」
けど、それでも宮城は、なんとか花道をおさえようと、再び手で制した。
「ほかの部員か…。自分はボコボコにされてもいいから、バスケ部だけは…か?宮城。くせーぞ」
「いや…それもやめてくれ」
「あ?」
「また入院するわけにはいかない。頼むから、ひきあげさせてくれ、三井サン」
宮城は再度三井に頼みこんだ。
「ここは、大切な場所なんだ」
宮城が花道を止め、三井に頼みこんだのは、こういう思いがあるからだった。
「(宮城先輩…)」
今の宮城の言葉に、心にくるものがあった魅真は、宮城をジッとみつめた。
「バカかお前は」
だが、三井は宮城の頼みを聞くことはなく、ひきあげることはせずに、三井がしゃべると同時に、鉄男はタバコをボールに押しつけた。
「――――!!」
「オレはな、それをブッ壊しに来たんだよ」
まるで……宮城の思いを、ふみにじるかのように…。
「ああっ!!」
「…………!!」
タバコをボールに押しつけられたので、全員驚愕したが、そんなことはおかまいなしに、鉄男は更に、タバコを強く押しつける。
「なっ、なにすんだてめーらァ!!!」
「花道!!」
ボールにタバコを押しつけるなど、バスケ部員にとっては侮辱行為だが、それでも宮城は、怒鳴る花道を止める。
「ブッ壊しに来たんだよ、宮城。ブッ壊してやるよ」
三井がそう言うと、いきなり、ボールが真正面から、三井をめがけてとんできた。
「!!」
「ぷっ」
だが、三井は体を横に動かしてよけたので、あたったのは三井ではなく堀田だった。
「徳ちゃん!!」
「徳ちゃん!!」
ボールがぶつかった堀田は、仰向けに倒れる。
「コラ…」
「誰だ?いいぞ」
「…………!?」
今の行動に、花道はニヤついていたが、宮城は驚いていた。
「ちっ。はずれた」
「流川!!」
ボールを投げたのは流川だった。
一方、体育館近くの外では…。
「ぐっ……くそ………。ゲホ!ナメやがって、水戸の野郎…ナメやがって…。ブッ殺す…!」
まだ気絶してなかった角刈りの男が、よろけながら起きあがり、眼鏡をかけると、近くにあったシャベルを持って、フラフラと歩きながら、洋平のあとを追いかけた。
「…………!!」
その時、角刈りの男の後ろに、別の男が三人現れる。
「メチャクチャやってやる…。クソ野郎…。もう、誰も俺を止めることはできねえ…!!」
けど、彼はその影には気づいてはいなかった。
「ナメんじゃねーぞ…。ハーーハーーハーー。ナメんじゃねーぞ…。メチャクチャにしてやる!!」
「…………!!」
「はああっ!!」
そして、洋平と距離をつめると、洋平を倒そうと、シャベルを大きくふりかぶり、それに気づいた洋平は、顔を後ろに向けた。
「!!」
しかし、洋平をめがけてふる前に、シャベルを後ろから手でおされて、自分の頭にあたってしまった。
「ぐわっ」
更には、蹴りを入れられ、前に倒れてしまう。
「あっ…!」
角刈りの男をやった人物を見ると、洋平の目はやわらかくなった。
「へっへっ…。何やってんだ?このヒマ人め」
「どっちが…」
彼をやったのは、大楠と高宮と、鉄男達にリンチされたためにボロボロになった野間だった。
そして体育館では…。
「くっくっくっ。お前んとこの連中、お前よりやる気あんじゃねーのか、宮城?あ?」
三井は宮城に話しかけると、ボールを手から離した。
「おう?」
「ぐっ!!」
ボールを離すと、サッカーのようにボールを蹴り、宮城の腹にあてる。
「ああっ!!」
「リョータ!!」
「宮城先輩!!」
宮城がやられると、魅真、晴子、彩子は心配そうにした。
「おい竜…。あいつはお前にやるよ」
「!」
三井がそう言うと、三井の後ろにいた、ボーダー柄の短髪の男は、流川に目を向け、右手でにぎり拳をつくって人差し指をたてると、指を何度か手前に動かし、流川を挑発したが、流川は挑発にはのらなかった。
「おい、ほかの部員には関係ねーだろ!!やめろ!!」
流川までも巻きこもうとするので、宮城は三井に叫ぶ。
「うるさい。しつけーよ、お前」
「!!」
すると、堀田が宮城の髪の毛をつかみ、顔を上に向けさせる。
目の前からは、三井が歩み寄って来て、歯を見せて不気味に笑った。
その笑みに嫌な予感がした宮城は、目の前が真っ白になり、冷や汗をかいた。
「ぐ!!」
嫌な予感は的中し、三井は宮城の歯を折るように、顔に頭突きをくらわせた。
「あ………」
この頭突きで、宮城は鼻血が出てしまう。
痛みをこらえるため、鼻をおさえていると、今度は鼻にストレートのパンチがとんできた。
「やめなさい!!この卑怯者!!」
「コラ。てめー、女男!!」
「よせ、真田!!花道!!」
魅真と花道がわりこんでくると、二人が手を出さないように、宮城は声をはりあげた。
「フッフッフッ。そーだよな、宮城。自分のせーで、出場停止とかくらっちゃあ、イヤだもんな、宮城」
「しゅ…出場停止…!?」
「リョータ…」
何故、宮城が抵抗せず、魅真や花道を止めたのか、他の部員達は理解した。
「体育館で、バスケ部員が暴力事件。バレりゃあ、公式戦出場停止…。ヘタすりゃ、廃部ってこともあるよな」
「(廃部…)」
三井の口から廃部という言葉が出ると、部員達は呆然とする。
「(廃部…!?)」
「(汚い男…)」
そして、晴子はガタガタと震え、彩子は軽蔑の眼差しを向け、魅真は三井を強く睨みつけた。
「折れねーな、お前の歯ァ。あーーー、手がいてえ」
「三井」
「!!」
そんなやりとりをしていると、掃除用具入れから、鉄男がモップを持ってやってきたので、宮城はギョッとする。
「(あいつ、あんなものまで!!どうする…。花道と流川と宮城先輩を、戦わせるわけにはいかない……。私も、正体は明かしたくない。だけど………)」
この事態に魅真は悩んだ。
魅真が悩んでいる間に、鉄男は三井にモップを渡す。
「ちがう、反対」
三井はモップを受け取ると、通常の持ち方をしたが、鉄男にダメだしされたので、床を拭く側を上にした。
「ここで」
三井が拭く側を上にすると、金属部分の角を指さした。
「………!!」
そんなところで殴れば、どうなるかは容易に想像がつくので、宮城はまた目の前が真っ白になり、冷や汗をかく。
「なるほど」
しかし三井は、それはいいアイデアだというように、また不気味な笑みを浮かべた。
「え……ちょっと…本当に?」
「や…」
「やめ…」
「やめろおおっ!!」
部員達が叫ぶも、無情にもモップはふりおろされた。
しかし、宮城の顔に届く前に、花道は三井が持っているモップをつかみ、流川は堀田の手をつかんで宮城の髪から手を離させ、魅真は堀田の手が離れた宮城をひっぱって、彼らから少しでも宮城を遠ざけた。
「たいがいにせい、コラ!!」
花道は怒りを露わにしており、魅真と流川も、見るからに怒っていた。
「真田…花道…流川…」
「なんだ…。バレてもいいのか、お前ら。廃部だぞ」
「うるせー。そんなもん…。ゴマカす!!」
「モミ消す!」
「なんとかする!!」
三井に脅されても、そんなものには屈せず、三人は似たようなことを言い、花道は怒りにまかせてモップを折った。
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