#1 夢の始まり
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その日、神奈川県のある会場では、大歓声が起こっていた。
会場では、全中の男子バスケットボール大会の決勝戦が行われていた。
決勝戦の試合は、武石中学校と横田中学校の対決で、横田中学校は53点、対する武石中学校は52点と、わずか1点の差で、横田中学校がリードしていた。
今はタイムアウトをとっており、それぞれの中学校がそれぞれのベンチに集まって、話し合いをしている最中だった。
「まだだ!!まだ時間はあるぞ!!絶対勝てる!!」
後半残り12秒という、もう誰が見ても横田中学校の勝ちで決まりだという絶望的状況の中、武石中学校側の1人の男子生徒が、大きな声で、あきらめムードをひっくり返すようなことを叫んだ。
「このスーパースター三井がいる限り!!武石中は絶対勝ァつ!!」
その人物は、武石中学校のキャプテンである、三井寿という男だった。
誰もがあきらめていたが、三井だけはまったくあきらめておらず、その顔は自信に満ちあふれていた。
三井の声で、あきらめムードだった他の選手達も、希望をとり戻した。
そして、タイムアウトが終わると、相手ボールから試合が再開した。
けど、三井は相手からボールを奪い取って、自分側のリングへとドリブルしながら走っていくと、相手選手の目の前で跳び、3Pを決めた。
「やったあああああ!!」
シュートが決まると、三井は拳を高くあげて喜んだ。
シュートが決まった直後にタイムは0になり、武石中学校の勝利が決まる。
「勝ったああああ」
試合が終了すると同時に大歓声が起こり、武石中学校の選手達は、みんな三井のもとに集まっていき、三井の名前を呼びながら、同じように喜んだ。
彼らが三井の名前を呼び、喜んでいる中、勝利を決めた三井は本当にうれしそうで、涙を流しながら喜んでいた。
そして観客席では、周りの観客が大歓声をあげる中、一人の少女が、歓声をあげずにジッと三井をみつめていた。
少女の名前は、真田魅真といった。
まるで、リングに吸い込まれるように入った3Pシュート。三井の喜ぶ姿。
魅真は頬を赤くして、彼らが退場するまで、ずっと…ずっと…三井の姿を追っていた。
#1 夢の始まり
それから、約2年半の年月が過ぎ、魅真は、神奈川県立湘北高校に進学した。
今の季節は4月で、ついこないだ入学式を終えたばかりで、魅真は新しい学び舎となった校舎の廊下を、みつあみのハーフアップに結った黒い髪の毛をなびかせて、意気揚々と歩いていた。
「よーへい」
「ん?おお、魅真か」
1年7組の教室まで来ると、ちょうど廊下には、黒髪リーゼントの男子生徒の姿があり、魅真は彼に声をかけた。
彼の名前は水戸洋平といい、魅真と同じ中学校出身で、魅真の数少ない親友の一人であった。
「よう、魅真」
「あ、チュウ!!来てたんだ」
「まあな」
洋平の隣には、同じく黒髪リーゼントでヒゲがはえた男がいた。
今魅真にチュウと呼ばれた男、本名野間忠一郎もまた、魅真と同中で、魅真の親友である。
「洋平、花道の様子はどう?」
「ダメだありゃ。まだ沈んでるぜ」
二人が目を向けた先には、教室の窓際の一番後ろの席に、赤いリーゼントという、一際目立つ髪の男がすわっており、どこからどう見ても落ちこんでいた。
彼の名前は桜木花道といい、洋平と野間と同じように、魅真と同中の親友である。
彼はつい先日、まだ中学校に通っていた頃に、片思いしていた女の子にふられたばかり。しかも、中学3年間で50人にふられるという快記録をもっていた。
そんな傷心の状態で中学校を卒業し、高校に入学。まだまだ彼の心は癒えておらず、ずっと落ちこみっぱなしだった。
「あらら~…。まァーだひきずってんのか、あいつは」
「まあな」
「ふられるなんて、いつものことなのにね。でも、今回はちょっと長いね。すごいマジだったのかな?」
「お前、何気に傷口えぐること言うね。まあ、あまりつついてもとばっちりきそうだし、しばらくそっとしとくしかねェか」
「だね」
「よう魅真、お前も来てたのか」
「え?あ…大楠、高宮」
洋平と話してると、今度は金髪のリーゼントの男と、パンチパーマで太った男がやって来た。
魅真に声をかけた金髪リーゼントの男は大楠、パンチパーマの男は高宮といい、彼らもまた、魅真と同じ中学出身で、魅真の親友である。
何故魅真が、見るからに不良といった感じの彼らと親友なのかというと、魅真も中学時代は不良だったからだ。
「洋平どーだ、花道の様子は!?」
魅真達がここに来たのは、花道がどうしてるのか気になったからだった。
「まだ立ち直ってねーな。自分のカラにとじこもってるよ」
洋平が指さした先にいる花道は、魅真が来た時同様に落ちこんでいた。
「高校入ったら立ち直ると思ったんだけどな」
「どーもあいつは性格が内向的なんだよな~。あんな赤い髪してるクセによ」
「シャイなんでしょ」
その花道はというと、50回目にふられた女の子が言っていた、「バスケット部の小田君が好きなの。ゴメンなさい」という言葉を思い出していた。
「よーー、花道。元気出せや。バスケット部がなんでい。バスケット部が!!」
そこへタイミング悪く、大楠が、彼なりに花道をはげました。
けどそれは逆効果で、花道は過剰に反応をすると大楠のもとに行き、大楠に頭つきをくらわせた。
「ダメだよ、大楠~~。バスケットは今禁句なの。禁句」
頭つきをくらった大楠は倒れ、頭つきをされたところは腫れあがり、煙まで出ていた。
花道が自分の席に戻ると、洋平は大楠に注意する。
「よー、いいのかよ。休み時間にビスケットなんか食って」
「うるせーなあ」
「バスケット?」
その後も、クラスメートの、バスケットと似た単語に反応した花道は、ビスケットといった男子生徒に頭つきをくらわせた。
「きのうビデオで、バクダッド・カフェって映画みてさー」
「ふうん」
「バスケット・カフェ?」
更には、ほとんど文字があっていない、なんとなく響きが似ている単語にすら反応をして、バグダッド・カフェと言った男子生徒に、頭つきをする始末である。
「相当、神経過敏になってるな…」
「よっぽどショックだったのね、花道」
「うーむ」
被害者がぞくぞくと出てるこの状況に、洋平、高宮、野間の三人は、顔が青ざめていた。
「花道も、夢とか目標とかみつければいいのにね。そうすれば、いそがしくなって、うじうじしなくなるよ。そんなヒマなんてなくなるからね」
「ん?なんだよ魅真。そういう言い方するってことは、お前はあんのかよ?」
「ある!!」
洋平に問われると、魅真は胸をはり、自信満々に答えた。
「そういやお前、去年から急にはりきりだしたもんな。なんなんだよ、その夢ってのは?」
「ふふっ。それはね、この湘北高校バスケ部のマネージャーになることよ」
今度は大楠に問われると、どこか得意げに答える。
「へェ~~。それでお前、髪型も髪の色も変えたのか。高校生デビューってやつだな」
「まあね。あっ!!花道には秘密にね。あいつ今、ピリピリしてっから」
「わーってるよ」
四人に口止めすると、代表で洋平が答える。
「今あいつにその話したら、いくら魅真相手でも、どう出るかわかんねーかんな」
高宮がそう言うと、洋平、大楠、野間が、うんうんとうなずく。
一方、花道はというと、教室から廊下に出て、一人感傷にひたっていた。
「ハア…。なにが、バスケット部の小田クンでい、バカヤロー。どーせつまんねー野郎にきまってるぜ…。バスケット部なんて大きらいさ」
それは、50人目にふられた女性に言われたことであった。
その女性が、バスケット部に所属している男性を好きだというので、バスケットそのものを嫌い、ぶつぶつとつぶやいていた。
「(世間は春だというのに、オレの心は冬のままか…) フッ」
途中で立ち止まると、窓の外に咲く桜を見ながら、詩人のようなことを心の中で言った時だった。
「あのう…スミマセン…」
後ろから、一人の女子生徒に声をかけられた。
「バスケットはお好きですか…?」
女子生徒は、今の花道の最大の禁句をさらっと言ってしまい、その言葉に、花道はまた過剰に反応をした。
「ふぬ…」
そして、先程と同じように、また頭つきをくらわせようとする。
だが、後ろへふり向いて、彼女の顔を見た途端に、花道は、目を大きく見開いて彼女を凝視した。
「バスケットは…お好きですか?」
そこに立っていたのは、肩にかかるくらいの髪の毛の、とてもかわいい女の子だった。
彼女を見ると、花道に衝撃が走った。
「(モロ好みだ…!!!)」
それは、彼女は花道にとって、好みの女性だったからだ。
一方魅真達は、先程まで、バスケットという言葉に過剰に反応を示し、バスケット、もしくはそれに似た言葉を言った者に頭つきをくらわせていたのに、彼女にはそれをしなかったので、呆然として見ていた。
「背が高いですね。流川君とどっちが大きいかな…」
固まっている花道をよそに、彼女は花道を見上げて、自分の背と花道の背をくらべていた。
「ルカワ?」
「だれだ?」
「知らん」
「(ん?ルカワ…)」
四人が、ルカワという人物が誰なのかわからない中、魅真だけが反応を示す。
「!!」
「うわあ。スゴイ筋肉!!」
女子生徒が、急に花道の腕の筋肉を両手でもみだすと、花道は顔を赤くした。
「まあ、脚も…!!スポーツマンなんですね!!」
「イ…イエ、べつに」
更には足の筋肉までさわりだし、花道は顔が真っ赤になる。
「「「「「……!!」」」」」
この信じられない光景に全員驚き、口を大きくあけて、魅真と洋平と高宮、大楠と野間は、顔を見合わせた。
「やっぱり、スポーツマンの男の人って、ステキですよね。バスケットはお好きですか?」
「大好きです。スポーツマンですから」
再度問われると、先程まで、バスケット部なんて大きらいだと言っていたのに、頬を赤くそめて、大好きだと断言した。
「おおーっ!!」
「立ち直ったぞ!!」
「やったあ!!」
女子生徒がいなくなると、魅真達は花道のところに駆けてきた。
「(春が来た!!このオレにも、ついに春が来たあーーっ!!)」
女子生徒に恋をした花道は、涙を流しながら喜んだ。
「(赤木晴子ちゃんか…。なんてカワイイんだ…!!!ああ…!!)」
女子生徒の名前は、赤木晴子といった。
彼女が名乗った時のことを思い出しただけで、花道は頬を赤くして、うれしそうに笑う。
「(あの晴子ちゃんと一緒に登下校できたら!!うおおーっ。そしたらもう死んでもいいぜ!!!)」
魅真は先程、花道も夢をみつければいいのにと言っていたが、花道にはすでに夢があった。
それは、好きな女の子と一緒に登下校をするという、結構ピュアな夢だった。
花道はそのことを考えただけで興奮しており、にぎっていた拳がふるえるほどであった。
そんな、一人で百面相をしている花道を見て、全員おもしろそうに笑っていた。
「よかったな、花道。高校生活に光が見えてきたな!」
「おめでとう、花道」
「へへ…。よせやい、てれるべ」
「これが、新たな大記録への第一歩だな!フラれ記録!」
「へへ…。よせったら。てれるべ」
「おおっ!!」
いつもなら、そんなことを言われれば、頭つきの一つでもしそうなものだが、洋平が言ったことに気づいているのかいないのか、花道は先程と同じことを言っていた。
「オレは、スポーツマンになる!!」
「おお~~っ。ノッてるな、花道!!」
そして花道は、どこからとりだしたのか、ダンベルを両手にもって、すっかりその気になっていた。
次の休み時間…。
「今年の一年はどーだ?」
「おお。ナマイキそーなのがいっぱいいるわ」
「ん?」
3年生の校舎では、見るからに不良といった感じの、二人の男子生徒が話していた。
話していると、二人のうちの一人、リーゼント頭の男が、あることに気がつき、そちらの方に目を向けた。
「ほっ ほっ ほっ ほっ ほっ ほっ ほっ ほっ」
「「…………」」
「ほっ ほっ ほっ ほっ ほっ」
目を向けた先には、ランニングシャツ姿の花道が、何故か外ではなく、廊下…しかも3年生の校舎を走っていた。
「おい花道!!」
「ここは3年の校舎だぞ!!」
「みっともねえからやめろって!!」
後ろからは、よりによって3年の校舎で走っている花道を、洋平達が、顔を赤くしながら追いかけて走ってきた。
しかし、顔を赤くしているのは洋平、野間、大楠、高宮だけであり、魅真は平然とした顔で追いかけている。
「腹筋!!」
「だから、ローカでやるなっての」
走るだけでなく、今度は床に仰向けになり、腹筋まで始める花道。
洋平が止めるが、花道はまったく聞いていなかった。
「なにあれ?」
「いいわねー。新入生は元気で」
近くでは、花道を見た3年の女子生徒が、微笑ましそうにくすくすと笑っていた。
その花道は、晴子に言われた「やっぱり、スポーツマンの男の人って、ステキですよね」という言葉を思い出していた。
「いやあ~~」
その後で、笑顔の晴子を思い浮かべると、顔が崩れた。
「フン フン フン フン フン フン フン」
「しょーがない。おいていこう」
ますますはりきって腹筋をしている花道は、周りが見えていないようなので、あきれた洋平達は、花道を置いてさっさと戻っていく。
「あ、私はもうちょっとここにいるわ」
けど、魅真は3年の校舎に残ることにした。
「えっ?なんでだよ。おまえ、ここ3年の校舎だぞ。はずかしくねーの?」
その疑問を、大楠がぶつける。
「別にはずかしくないよ。それに、ちょっと探し物があるから」
「「「「探し物?」」」」
魅真の返答に、全員疑問に思い、同じ答えを同時に返した。
「なんだよ?それ。3年生に知り合いでもいんのか?」
「んーー…。あたらずとも遠からず…かな」
今度は野間が問うのだが、魅真から返ってきたのは、なんとも曖昧な返事だった。
「ゴメン。時間がおしいから、私はここで」
結局本当のことは何も言わず、四人に手をふると、魅真は四人からの返事を待たずに、さっさと先へ歩いていってしまった。
「あいつ…高校に知り合いなんていたのか?」
「「「さあ?」」」
洋平が疑問に思ったことを口にすると、三人は声をそろえて返事をした。
魅真は四人から離れると、教室にいる生徒や廊下を歩いている生徒を、一人一人見てまわっていた。
「(いない……)」
けど、今のところ、魅真の目当ての人物の姿は見当たらなかった。
「(どこにいるんだろ?)」
そう思いながら、3年3組の教室を、後ろの扉からのぞいてみるが、そこにもいなかった。
「(あっ、ヤバい。もうすぐチャイムがなっちゃう!!)」
3年3組の教室をのぞいていると、ふいに視界に時計が入ったので、時計を見てみると、あともう少しで休み時間が終わってしまうことがわかった。
「(仕方ない。出直そう)」
授業に遅れることだけはさけたいので、魅真は仕方なしに、自分の教室に戻ることにした。
3年前のあの日…。全中の決勝戦を観に行った時…。魅真は、三井寿という男を見た。
彼は、武石中学校のキャプテンだった。
53対52という、1ゴール差。残り時間が、あとわずか12秒という極限状態。
そんな中でも、彼はあきらめることなく、一発逆転の3Pシュートを決めて、チームを勝利に導いた。
試合が再開される前、自分のことをスーパースターだと三井は言った。
自信満々な言動。その言動に見合った実力。あきらめムードの選手達に希望をもたせる才能。エースと呼ぶにふさわしい能力。天才的なバスケットセンス。シュートを打つ時の綺麗なフォーム。
そのすべてに、魅真は見惚れた。
何よりも魅真は、三井を見た瞬間に、一目惚れをした。
三井のそのかわいらしい容姿に、バスケットをしている時のいきいきとした素顔に、勝利を手にした時のうれしそうな笑顔に、三井のすべてに、魅真は心を奪われたのだった。
この時魅真は、夢をもった。
三井と同じ高校に進学して、バスケ部のマネージャーになるという夢を…。
そしてのちに、三井が湘北高校に進学して、バスケ部に入るという情報を耳にした。
きっと三井は、高校でも全国制覇をするのだろう。そう思った魅真は、自分も湘北高校に進学し、バスケ部のマネージャーとなり、三井が全国制覇するための手伝いをして、三井と一緒に全国制覇をするのが夢になった。
だから魅真は、先程3年生の校舎で、三井がいないかどうかを探していた。
バスケ部に入部すれば会えるだろうが、入部する前に、一目だけでも見たいと思った魅真は、待ちきれずに探していたのだ。
けど、この時間に三井の姿を見ることはなかった。
なので魅真は、今は時間がないのであきらめたが、また出直すことにしたのだった。
だが、昼休みも、次の休み時間も、放課後も探していたが、三井らしき人物を見ることはなかった。
「(おかしいな。もう全部の教室を見てまわったけど、どこにもそれらしい人物がいない…。いくら3年経ってるっていっても、基本的な顔形は変わってないだろうから、見逃すってことはないと思うけど…。なんでいないの?)」
結構探してみたが、三井寿らしい人物はどこにもいないので、魅真はふしぎに思った。
「(そろそろ日も傾いてきてるし、今日はもう帰ろうかな)」
窓の外を見てみると、青かった空は赤色とオレンジ色にそまってきており、教室にはほとんど人がいないのもあり、今日はあきらめて、また明日探そうと決意した。
荷物はもう持っているので、下駄箱に直行しようと歩いていき、屋上に続く階段を横切ろうとした時だった。
「ん?」
階段からは、いかにも不良といった感じの男が三人降りてきた。
魅真は目を丸くするが、それは彼らとぶつかってしまうくらいの距離にいたからで、決して怖いからという理由ではなかった。
むしろ、そういった連中は花道でなれてるし、何よりも、自分ももともとは不良だったので、もの怖じしたりはしないのだ。
「おい、気をつけろ」
「あ、スミマセン」
相手の黒髪リーゼントの男が、低い声で、注意というより難癖のようなものをつけてきたが、魅真は軽く謝って、道をゆずるだけだった。
魅真が道をゆずると、彼らは魅真が来た方へと歩いていった。
魅真は、彼らが自分が歩いてきた方へ行くと、少しだけ彼らの後ろ姿を見ていたが、すぐに前を向いて、階段を下りていき、下駄箱へと向かっていった。
一方で、魅真がぶつかりそうになった、黒髪リーゼントの男はというと……。
「うーーーーん……」
「どうしたんだ?徳ちゃん」
今うなっている彼の名前は、堀田徳男といい、この湘北高校の番長だった。
堀田が眉間にしわをよせて、うなりながら歩いていると、堀田の後ろの右側にいる、めがねをかけた角刈りの男が声をかける。
「いや………さっきぶつかったあの女……。なんか、どっかで見たことがあるような……。おめーら、そんな気しねーか?」
「何言ってんだよ、徳ちゃん」
「あんな、一般の女子に、会ったことがあるわけないじゃねーか」
堀田の疑問に対して、角刈りの男が答えると、堀田の後ろの左側にいる、堀田と同じ黒髪リーゼントの男も、角刈りの男に同意した。
「まあ、正確には、深くかかわったことがない…だけどよ。とにかく、あんな奴とは会ったことないぜ」
「オレもだ」
黒髪リーゼントの男が返すと、角刈りの男も同意する。
「そうか……」
彼らに言われると、堀田は小さく返事をした。
「きっと桜木の奴が来なかったから、気がたってんじゃないのか?それで、誰でもそういう風に見えちまうんだよ」
「そうか。そうだな」
黒髪リーゼントの男が推測すると、堀田はどこか納得した。
「確かに、おめーらの言う通り、あんな一般の弱そうな女と、深くかかわるワケがねーわな」
そう言うと堀田は、それ以上は何も言わず、赤い光がさしこんだ廊下を、二人の男をつれて歩いていく。
実は堀田達三人は、のちに、今のかかわるワケがない女子生徒・魅真と、それなりにかかわっていくのだが、そんなことは、まだ知る由もなかった。
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