#8 はじめてのシュート
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1年生対上級生の試合が行われてから数日後。魅真は国語のプリントの束を持って、職員室まで来ていた。
「先生、課題のプリントを持ってきました」
「ん?ああ、ごくろう」
担当の教師の前まで来ると、集めたプリントを教師に出し、教師はそれを受け取った。
「これで全員提出かね?」
「あ…いえ……流川君がまだ……」
「やはりか…」
プリントを提出するのはこれが初めてだが、流川はいつも寝ているので、教師には想像がついていた。
「すみません。気づいたら、もう部活に行ってしまって……」
「まったくアイツは…」
部活ははりきっているのに、授業中はいつも寝ている上に提出物も出さないので、教師はあきれかえっていた。
「真田、おまえは確か、バスケ部のマネージャーだったな」
「はい」
「すまんが、流川に、明日までに提出するように言ってくれんか?」
「わかりました」
「すまんな。よろしく頼む」
流川には、授業や勉強に関することは言ってもムダだというのが、まだ付き合いが短くてもすでにわかっていたが、伝言を頼まれたので、一応言っておこうと思い、魅真は返事をした。
「ところで先生、話は変わるのですが……」
「何かな?」
「この学校の3年生で、三井寿っていう男子生徒はいますか?」
魅真はドキドキしながら、教師に三井のことを聞いた。
だが、三井の名前が出ると、教師は固まってしまう。
「(ん?どうしたんだろう。なんか様子が…)」
どこか言いにくそうな雰囲気だったので、魅真は何事かと思った。
「ん?あ、ああ…。三井寿ね。おるよ」
「本当ですか!?」
「ああ」
「どこのクラスですか!?」
「3年3組だ。だが、今は病院に入院しておる。5月のはじめ頃には戻ってくるそうだが……」
魅真は三井のクラスがわかると、表情がパァっと明るくなった。
「ありがとうございます、先生。それじゃあ、失礼します」
そして、とてもかろやかな足取りで、職員室から去っていった。
「(この前の小テストも入試問題も満点で、学級委員長をやっているマジメな真田が、あの三井寿と知り合いなのか?)」
魅真と三井の二人を知っている教師は、魅真が出ていった職員室の出入口を見ながら、ふしぎそうに目を丸くしていた。
一方、教師にそんなことを思われているとは思いもしない魅真は、かるい足取りのまま、廊下を歩いていた。
「(ついに三井さんのいる教室がわかった!なーんだ。最初から先生に聞けばよかった。そっかそっか。三井さん、今は入院してるのか。どーりでみつからないわけだよ。でもそっか。そうなんだ。あともう少し待てば、三井さんに会えるんだ。よっし!!がんばろう!!)」
ついに、三井が所属しているクラスと、三井が今どこでどうしているのかを知った魅真は、より一層気合をいれた。
#8 はじめてのシュート
更衣室で着替えると、魅真は体育館に行った。
「チューッス!!」
そして中に入ると、明るく笑いながら、大きな声であいさつをした。
「あ、真田さん。チュース」
「チュース」
いつもよりテンションが高い魅真に、少しびっくりしていたが、部員達はあいさつを返した。
「どうしたのよ?今日はヤケに機嫌がいいじゃないの」
「あ、彩子先輩」
荷物をすみに置いていると、すでに来ていた彩子が、いつもと違う魅真をふしぎに思って話しかけてきた。
「今日はいいことがあったんですよ」
「へーー。どんなこと?」
「それはヒミツです」
三井のことを言ったら、自分が三井を好きなことがバレてしまうかもしれない。本人よりも先に、自分の想いを周りに知られたくないので、魅真は適当に返した。
「あっ、流川!!」
「ん?」
彩子と話していると、目の前に流川がやってきたので、魅真は彩子の隣をすりぬけて、流川のもとまで歩いていった。
「流川、国語の岩倉先生からの伝言よ。明日までに、この前くばられた、国語の課題のプリントを提出するようにって」
流川の前まで来ると、先程頼まれた伝言を流川に伝える。
「めんどくせえ」
すると流川は、今自分で言った通り、とてもめんどくさそうな顔をした。
「めんどくさいじゃないでしょう。大体、アンタ授業中寝てばっかりじゃないの。せめて、テストや提出物で点数かせがないと、進級できないわよ」
流川の態度に少しだけ腹を立てた魅真は、軽く説教をする。
「うるせえな」
「なっ」
それでも、流川の態度は変わらないどころか、むしろひどくなっており、魅真は更に腹を立てる。
「とにかく!!絶対に明日提出してよね。私、ちゃんと言ったからね。絶対よ!!」
もうこれ以上言っても平行線になるのは、ちょっと話しただけでわかったので、強制的に話を終わらせた。
「はっはっはっ。真田と流川の今のやりとりを見てると、まるで夫婦みたいだな。ひょっとして真田って、流川が好きなのか?」
そこへ、木暮が笑いながら歩いてきて、ひやかしてきたので、魅真は眉間にしわをよせて、ものすごく不愉快そうな顔をした。
その後で、肩をすくめて、頭を左右にふりながら、わざとらしく深いため息をついた。
「な、なんだ!?」
魅真の表情と態度に、木暮はびくっとなる。
「メガネ先輩って、乙女心がまったくわかってませんね」
「メガネ先輩!?」
「私が流川を好き?そんなわけないじゃないですか。カン違いもはなはだしいですよ」
魅真は少々不躾な態度をとるが、木暮がつっこんだことに関しては返さず、言葉を続けた。
「たとえば、メガネ先輩が言った通り、私が本当に流川を好きだったとしますよ」
「ああ…」
「私が流川を好きな場合、私は流川にうまく近づくことができません。こう……近いけど、少し離れてる。くっついてるのかくっついてないのかわからない、微妙な距離をたもちます」
魅真は今言ったことを表すように、流川の隣に立つと、近づいてるのか離れてるのかわからない、微妙な距離をつくっていた。
「好きだから近づきたい。隣に立ちたい。だけど、好きだからこそ、はずかしくてうまく近づけない。でも近づきたい…。
それに、目をあわせることだってできません。相手を見ていたいけど、はずかしいから顔をそらしてしまう。うまく見ることができない。でも、好きだからみつめていたい…。
そんな、相反する矛盾した思いが生まれて、どうしても距離ができてしまいますし、目をまっすぐ見ることができません」
魅真が乙女心について説明していると、すでに出入口にいた親衛隊と晴子は、わかる!というように、うんうんとうなずいていた。
「だけど私は、流川にくっつくこともできますし、目を見ることだってできます」
魅真はまた、今言ったことを表すように、流川にぴったりとくっついて、顔を上げて流川の目を見た。
その様子に、親衛隊と晴子は、嫉妬と羨望の眼差しを、魅真に向ける。
「結果、私は流川を男として見てません。ただのクラスメイトであり、チームメイトです。確かに流川のプレイはすごいと思いますし、バスケのプレイヤーとしては好きですけど、それだけです」
説明を終えると、魅真は流川から離れ、木暮の前まで歩いていった。
「それなのに、私が流川を好き!?ちょっと距離の近い話し方をしたぐらいで、そんなくだらないカン違いをするなんて、とっても不愉快です!!!!!」
「そ…そうか…。悪かった…」
ぐっと顔を近づけて、迫力のある声と話し方で話されると、木暮は勢いのままに謝った。
「(なんだ?なんか、ただならぬ迫力というか、妙な威圧感と強制力が…)」
この時、木暮は何やら違和感を感じていたが、その正体はわからなかった。
「そういえば、花道はまだなんですね」
「ん?ああ、今日はまだ来てないみたいだ」
魅真は乙女心の話が終わると、花道がまだ来てないことに気づき、突然話題を変えた。
「でもまあ、そろそろ来るだろう」
どこかうれしそうな顔をして、まるで来る時間がわかってるかのように話す木暮を、魅真は疑問に思った。
それから数分後…。
「ハルコさ…」
本当に花道がやって来て、体育館の出入口の前にいる晴子に声をかけた。
声をかけられると、晴子も花道に気づき、花道に顔を向けた。
「おそいぞ、桜木ィ!!」
「ぐあ!!」
だが、そこへ赤木がやって来て、花道の頭を思いっきり殴った。
「ゴリ…?」
「お兄ちゃん」
確かに遅れてきたが、それだけで、他には何も悪いことをしていないのに、いきなり殴ってきたので、花道も晴子もびっくりしていた。
「さァ、練習始めるぞォ!!集合!!」
「?」
「「「はい!!」」」
赤木は花道の首ねっこをつかんで中央へつれていき、号令をかけられると、他の部員達も中央に集まってきた。
「…………」
その赤木の様子を見ると、事情を知っている木暮と彩子は、くすっと笑っていた。
「湘北ーーーファイ」
「「「「「オオ!!」」」」」
全員で気合いを入れた後、最初は体育館の周りの走りこみから始まり、花道は晴子の前を通ると、ブイサインをしてへらへらと笑っており、晴子も手をふって応えていた。
すると、突然赤木がダッシュの合図を出して手をたたくと、走りが速くなった。
けど、花道がほぼ全員を抜かして、赤木の後ろまで来ると、赤木はまた手をたたき、走りは通常の速さに戻る。
それが何度もくり返された。
「なんだ、ゴリの奴みょーにはりきってんな。なんかいいことあったのか?」
「さァ?」
走りこみが終わると、花道は安田に、赤木がはりきっている理由を聞いてみるが、安田にもわからなかった。
だが、木暮と彩子だけは、それを知っていた。
赤木の小学校からの同級生で、柔道部の主将である青田龍彦という人物が、花道を、百年に一人の逸材とほれこみ、柔道部に勧誘した。
彼は、実は花道と同じで晴子にほれており、晴子の小学校と中学時代の写真でつって、柔道部に入部させようとした。
もちろん写真につられた花道だったが、それでも花道は、バスケットマンだからバスケをやるのだと、はっきり断った。
それを、赤木と木暮、偶然柔道部の道場の前を通りかかった彩子が見ていた。
「(お前のひと言が、赤木をやる気にさせてんだぜ、桜木…!!)」
それで赤木は機嫌がよく、いつも以上にやる気になり、事情を知っている木暮と彩子は笑っていたのだった。
けど、まさかその三人が、青田とのやりとりを見ていたとは知らない花道は、何故赤木の機嫌がいいのかわからなかった。
「おーーーう。やっとるかあ」
「先生だ」
そこへ、安西がやって来た。
「チワース」
「チワーース」
安西が来ると、部員達は全員あいさつをした。
「声が小さい!!」
「ぐあ!!」
しかし、赤木は機嫌がいいあまり、花道にダメ出しをしながら、花道の頭を殴る。
「あいさつが気合入っとらん!!」
「なんでオレばっかり…」
「チューース!!!!」
「「「「「チュ~~~~ス!!!!」」」」」
「「チューース!!」」
「ほっほっほっ。こんにちは」
声が小さいので、あいさつのやり直しをすることになり、まず赤木が大きな声であいさつをすると、続いて花道をはじめとする選手達、その後に、マネージャーの魅真と彩子、全員があいさつをし直すと、安西はニコニコと笑いながらあいさつを返した。
「なんなんだ、一体…!?」
赤木に殴られるのはいつものことだが、なんかいつもと違うので、妙な違和感を花道は感じていた。
そして練習が始まり、しばらくすると、ランニングシュートの練習をやることになった。
「シュートか…。ここからオレだけスミッコにいくんだよな…。いったい、いつになったら、オレのスラムダンクがさくれつする日がくるんだ…」
「ブツブツ言わない」
「地道に練習を重ねていけば、近いうちにできるようになるわよ」
まだシュートの基礎だけは習ってない花道は、ボールを持って一人スミッコに来て、魅真と彩子の前で文句をたれていた。
「先生!桜木にも、そろそろシュートを教えようと思うんですが」
「!!」
近いうちにできるようになると、今魅真が言ったが、その日はすぐにやってきた。
「どっどっ…どうしたんだ今日のゴリは!!自分からあんなことを言うとは!!」
まさか赤木が、そんなことを言うとは思わなかった花道は、気味の悪さを感じた。
「…………」
「ん?」
「…………」
そして花道は、安西に話していた人物は、本当に赤木かと疑うように、赤木の周りをぐるぐると回り、じろじろと見た。
「…………」
更に、正面に来ると、赤木の左の頬をつねったが、なんの反応もなかった。
「…………」
こんなことをすれば、いつもならすぐにゲンコツがとんでくるのに、それがなかったので、更に奇妙なものを感じた花道は、今度は上唇と下唇を上下にひっぱった。
すると、キレた赤木が、いつものように花道の頭を殴ってきた。
「………」
「本物だ…」
こんなことをすれば、誰でも怒るし、こうなることは目に見えてるというのに、バカな行動をしたので、魅真と彩子はあきれていた。
「どうでしょう、先生…」
気をとりなおして、赤木は再び安西の前に立つと、安西に聞いてみた。
「…………」
殴りはしたが、それでもシュート練習の件を再び安西に聞いているので、花道はまだ気味の悪さを感じた。
「ははーん」
だが、すぐにピンときた。
「(そーか。ゴリめ、ついにオレの天才的センスに気がついたな!!そーゆーことか!!)」
全然違うのだが、花道は自分の都合のいいように解釈をした。
「いいでしょう」
「はい」
「おっしゃ!!」
安西から許可が出ると、花道はガッツポーズをする。
「オレもとうとうスラムダンクをやれる!!」
今まで、ドリブルの基礎やパスの基礎ばかりだったのに、ついに念願のシュート練習をやらせてもらえるので、花道はうれしそうに笑う。
「ハルコさん、ついにオレの見せ場がやってきました!!もうハルコさんの目線に、ルカワなんかいれさせないぞ!!」
そして、花道は晴子に顔を向けて、右手でつくったブイサインを高くあげた。
それを見て晴子はくすっと笑い、花道に手をふった。
その時、隣にいた親衛隊の中の一人のロングヘアの女子が、花道のことを、どうしてああ単純なのかと小さな声でバカにした。
そのことに対して、隣のおさげの女子が、頭ワルイ、あの赤い髪見ればわかると返すと、ロングヘアの女子は、同意するようにヘンだと笑った。
それだけでなく、それでいつも流川にはりあおうとしてる、かなうわけない、バカみたい、さっさとやめればいいと、侮辱しまくっていた。
あまり大きな声ではなかったが、魅真には聞こえていたので、腹を立てて彼女達を睨みつけると、抗議しようとした。
しかし、その途中で晴子が、そうゆう言い方はよくない、一生懸命やってる人に対して失礼だと、魅真が言うよりも先に、彼女達に抗議をした。
意外にも気が強い晴子に、親衛隊はひるみ、魅真はびっくりして目を丸くしたが、彩子は優しげな笑顔を浮かべていた。
「おい流川!!ドリブルシュートの手本を見せてやれ」
花道がシュートをうつのは初めてなので、まず最初に手本を見せるため、流川が抜擢された。
すると、当然親衛隊は黄色い声をあげて叫び、流川を見るために前に出た。
その際に、晴子はおさげの女子につきとばされたので、ファンとしての最低限のマナーは守ってほしいと、ブツブツと文句を言っており、松井は晴子を心配していた。
「ちっ。キャーキャーうるせーよ」
これからシュートをうつとわかったからだけでなく、赤木にボールを渡されただけでもキャーキャー言っているので、花道は機嫌が悪くなった。
彼女達に名前を叫ばれるが、流川は無視してドリブルを始めた。
「ちゃんとみてろよ、桜木」
「…………」
シュートをうてるようになったはいいが、手本をみせるのが流川の上、その流川が女子にキャーキャーとさわがれているこの状況が、花道はたまらなく嫌だった。
「フン。こけやがれ、ルカワ」
「やめんか」
なので花道は、自分が持っているボールをころがして、流川をころばせようとするが、流川は片足をあげてあっさりとよけた。
バカなことをしてるので、当然赤木は花道の頭を殴った。
気をとりなおして、流川はドリブルをして走っていくと、ゴールの前で跳んで、片手でボールを、下から上に打った。
あたり前に決まったシュートを見て、親衛隊は黄色い大きな声をあげて叫んだ。
そして、同じ流川ファンの晴子も、さっきまで花道をかばっていたというのに、黄色い声をあげて叫んだので、松井は思わずつっこむ。
「さあ、わかったか、桜木。おまえもやってみろ」
「フン。なんでい、あんなの」
ようやくシュートがうてるようになったかと思いきや、ダンクじゃなかったので、花道はがっかりしていた。
「やだよ、あんな庶民のやることは。この天才桜木には、スラムダンクが似合うんだ」
「あ…また余計なことを…」
「あの子は…」
「(本当にバカなんだから…)」
また赤木の怒りにふれることを言ったので、木暮と彩子はまずいと思い、魅真は冷やかな目をしてあきれていた。
「…………バカ者。ドリブルやパスに基本があるように、シュートにも基本があるんだ」
「またキソか…。シュートなんて、入れりゃあなんでもいいんだろ。あんな地味なシュートより、スラムダンクの方が、かっこよくていーのに」
なんとか怒りをこらえていた赤木だったが、基礎が嫌いな花道はうんざりしており、次々と赤木の怒りにふれることを言った。
「試合ではいつも相手のディフェンスがいるんだ…。そうそうダンクをうてるチャンスなどない…!!前にも言ったが、基本を知らん奴は、試合では何もできんのだ!!」
だが、なんとかこらえて、怒りそうになりながらも、努めて冷静に説明をした。
「ハーーーー。わかったよ、もう…。バスケットマンはつらいぜ」
「そーだ!バスケットマンには、まず基本が大事なんだ!!」
けど、今の花道の言葉で明るくなり、なんとか怒りもおさまったので、木暮はほっとした。
「ほんじゃいきますよー。ドリブルシュート」
花道は流川の手本通りに、ゴールまでドリブルをしていった。
「………と見せかけて!!」
だが、ゴール前に来ると、急に態度が変わる。
「ハルコさんの前で、そんなダセーことやってられっか!!スラムダーーンク!!とう!!」
そして、ゴール前で跳んで、ドリブルシュートではなくダンクをやろうとした。
当然これを見た赤木はキレた。
「このバカタレが!!」
そして、持っているボールを花道に投げた。
ボールは花道の頭にあたり、ダンク直前で床に落ちる。
「いって~~。何しやがる」
「黙れ、このバカタレが!!キサマはいまだになーーーーんにもわかっとらん!!」
「なんなんだ、この男は。機嫌がよかったり悪かったり!!ゴリラの気持ちは人間にはわからん!!」
「だれがゴリラだ、コラァ!!」
花道も怒るが、それ以上に赤木はもっと怒っており、言い争いに発展してしまう。
「まったく…花道は…」
「あーーあ」
「結局こうなるのね」
もはや、お家芸のようになったこの展開に、魅真、彩子、木暮はあきれていた。
そしてこの光景を見ていた晴子はおろおろしており、親衛隊はただのバカだと言って、花道を卑下していた。
「(どあほう)」
一方流川も、心の中で毒づき、その隣にいる安西は、マイペースにお茶を飲んでいた。
花道は赤木にしこたま怒られた後、再びドリブルシュートの練習をするが、ボールはバックボードの後ろを通って、下に落ちてしまった。
「「「「わはははははーーーっ!!」」」」
それを、いつの間にか二階で見学していた洋平達が、いつものニヤつき顔で笑いとばした。
「ダメだな、花道。ゼンゼン入んねーじゃねーか!!」
「才能ねーんだよ、きっと」
「うるせい!!さっさと帰れ、このヒマ人軍団!!」
いつものようにひやかされたので、花道はくってかかった。
その後で、再び流川が手本を見せると、親衛隊が黄色い叫び声をあげ、花道がシュートに失敗して、ボールがバックボードに強くはねかえると、洋平達のバカにした笑い声が響いた。
「どーした、桜木。庶民のシュートもできんようじゃダメだな。ん?そー思わんか?」
「ぬ…くそ…」
わざと、先程花道が言った、庶民という言葉を使って嫌味を言われたので、花道は悔しさで震えた。
「おかしいな。なぜ入らん…」
まったくシュートが決まらないので、花道は悩んだ。
なかなか成功しないし、ヘタクソもいいとこなので、親衛隊はまた、全然みっともない、ただのヤンキーやってりゃいいとバカにするが、晴子は、そんなこというもんじゃない、はじめからうまくできる人なんていない、流川君も最初はきっと下手だったと抗議した。
しかし、それは親衛隊のカンにさわり、いいかげんなこと言うなと言って、晴子の胸をつきとばす。
そのことで、晴子は、これだからミーハーファンは困ると文句を言い、藤井が心配して声をかけた。
「おい流川、もう一度手本を見せてやれ」
また流川の出番になると、晴子も親衛隊と一緒に、黄色い声をあげて叫んでいた。
その姿は、今自分で言っていたミーハーファンそのもので、藤井はあきれ顔でミーハーだとつっこむ。
「ハ…ハルコさん…。もーいーよ。ルカワの手本なんか。くそう…」
花道は嫌がっていたが、流川は手本を見せるために、もう一度ドリブルシュートをやろうとした。
だが、走り出した瞬間、花道によって、お尻にボールをあてられた。
「む…」
「はっ」
今ので流川は後ろへふり向き、お尻をおさえながら、花道を睨みつける。
「手がスベッタ」
「コラ、お前のためにやってんだぞ!!」
嫌だろうがなんだろうが、手本を見せてくれているのにこの態度なので、赤木は花道の頭を殴る。
「手がスベッタんすよ」
「…………」
だが、まったく反省などしていなかった。
「ようし!!今度こそ!!」
自分の番となり、今度こそ決めると意気ごんでいた。
「へっへ~~い」
「外すなよ~」
「うるさい。気が散る!!」
また洋平達からヤジがとんできたので、花道は怒鳴った。
「…………」
洋平達に怒鳴ると、深呼吸をして、そこから走り出した。
「(こんな庶民シュートが、このオレにできないわけがねえ…。今度こそ!!)」
ドリブルをして走っていき、次は決めてやると心に誓う。
「フン!!!」
ゴール下に来ると、シュートを下からうつが、ボールはバックボードの下のふちの部分にあたる。
「!!」
ふちにあたったボールは、はね返って花道の顔面にあたると、前が見えなくなった花道は下に落ちた。
「!!」
「…………」
この奇行に、赤木は冷静なままだったが、木暮はぎょっとしていた。
そして体育館の外では、晴子は心配するが、親衛隊は下品な笑い声をあげて、汚いヤジをとばす。
「いい気味だ」
先程ボールをあてられた流川は、無表情で、冷やかな目で花道を見ていた。
「おお…今のは痛いぞ…」
「器用な失敗を…」
「力みすぎだぜ、まったく…」
さすがに今のは、見てるだけで痛かったので、洋平達も、笑ったりヤジをとばしたりしなかった。
「くそう…。なぜ、こんなシュートができん!?」
今ので鼻血が出てしまったので、魅真にもらったティッシュを鼻につめこんだ花道は、シュートが入らず、イライラしていた様子で悩んでいた。
「先生…。桜木花道に何かアドバイスをしてあげたら…」
「んーー。赤木主将(キャプテン)に任せてありますから…。大丈夫ですよ」
なかなかできない花道に、彩子は安西に進言するが、安西はにこにこと笑ったままだった。
「花道、もっとリラックスしなさいよ。ちょっと力みすぎよ。ゴール下まで走っていって、思いっきりジャンプして、手をやわらかくしてうつのよ。流川のを手本にして」
これは地雷ワードだとわかってるが、この中では流川のシュートが一番うまいと思ってるし、別に今更花道に遠慮するような仲じゃないし、もとからの性格もあり、そんなことはおかまいなしで、流川の名前を出して、花道にアドバイスをした。
「うるせえよ!!おまえまでルカワルカワってよ!!」
「だって、流川がこの中じゃ一番うまいじゃない。うまくなるには、うまい人を手本にするのが一番よ」
「うるせい!!ダレがルカワなんかを手本にするかよ。そんなに言うならおまえがやれ!!」
「はあああ~~~!?」
いきなり指名されたので、魅真は花道が何を言ってるかわからなかった。
「なんで私が。私マネージャーなんだけど。選手じゃないのよ」
「それでもオレはヤダね。ルカワを手本になんか!!それにおまえ、経験者なんだろ!?ドリブルとパスの基礎練習で、アヤコさんと一緒に面倒みてくれてただろーが。今度も手本をみせろ!!」
「そんなこと言われても……」
ドリブルやパスの基礎を教えていたのは、赤木に言われたからなのだが、シュートに関しては何も言われてないので、どうしようか悩みながら、赤木の方へ顔を向けた。
「ハァ…。真田、一回でいいからやってくれ。これじゃあ先に進まん」
赤木は、花道の言い分にあきれてため息をつくと、魅真に手本を見せるように指示をした。
「わかりました…。
花道、ボール」
「おう」
赤木に言われると、魅真は花道にボールを寄こすように言った。
花道は魅真にボールを投げて渡し、魅真はボールを受けとると、所定の位置につく。
そして、まっすぐにゴールを見据えると、魅真は動きだし、ドリブルをしてゴールまで走っていった。
その足はかなり速く、花道と洋平達以外の者達は、魅真の足の速さに驚いていた。
足の速さなら、花道や流川と同等、あるいはそれ以上だからだ。
ドリブルもかなりうまく、魅真はゴール下までいくと、思いっきりジャンプをした。
これもまた、花道や流川のように高く、まるで背中に羽根が生えているかのような、かろやかなジャンプだった。
ジャンプをすると、魅真は花道のように力まずに、手を軽く上に向けてシュートを打った。
フォームはとても綺麗で、シュートはあたり前のように決まる。
ボールはネットをくぐって下に落ちていき、その後に、ボールと床がぶつかる音が館内に響いた。
魅真がシュートを決めると、全員が、魅真の運動能力やテクニックに目を見張った。
それは、花道だけでなく、赤木や他の部員や彩子や安西、部員でない、晴子や藤井や松井や洋平達や親衛隊もで、流川すらも目を奪われていた。
「すごいな、真田」
魅真がシュートを打つと、館内が一瞬静まり返ったが、静寂を破るように、木暮が魅真のもとへ行きながら称賛した。
「いや…ただのレイアップシュートを、一本決めただけなんですけど…」
魅真は、基礎であるレイアップシュートを決めただけなのに、何故そこまで称賛するのかわからなかった。
「そんなことないさ。足もすごく速いし、ジャンプ力もすごかったよ。ドリブルは鋭いし。いや、さすが経験者だ。身長がもっとあったら、ダンクができるんじゃないか?」
「だからほめすぎですって…」
木暮が称賛したのは、魅真がゴールまで走っていく時の、足の速さと鋭いドリブル、シュートを決める際の、高いジャンプ力と綺麗なフォーム、これらすべてが優れていたからだった。
これだけで、魅真がいかに運動神経がいいかがわかった。
たった一本、レイアップシュートを決めただけで、魅真が驚異的な運動能力をもっているのがわかったのは、それだけ魅真の運動神経がいいということなのだが、魅真にとってはあたり前のことなので、本人は気づいていなかった。
「さっ、次は花道の番よ」
そのことに気づいていない魅真は、花道にボールを返して、レイアップシュートをするように促した。
「おうよ。いくぞ!!」
花道は何度目かわからない挑戦をした。
先程のように、ドリブルをして走っていき、ゴール前で跳んでボールを下から打つ。
だが、ボールはリングに強くあたると、バックボードにあたり、バックボードにあたったボールはほぼ垂直に上にとび、最高点まで達するとそのまま落ちていき、花道の頭を直撃した。
「花道……。アンタってさ、ある意味器用だよね」
「うるせーっ!!」
いくら初めてで、うまくいかないといっても、こんな失敗をする人物は見たことがなかったので、魅真はある意味では感心していた。
「どーだ桜木、目が覚めたか。バスケットをナメてると、そーゆー目にあうんだ」
「ぬぬ…」
「流川のフォームをよく見てろよ、桜木」
「けっ、もーいーったら」
「流川、もう一度たのむ」
「(またか…。なんであのどあほうのために…)」
花道は、また流川の手本を見なきゃいけないのでイライラしていたが、流川は流川で、いくら先輩の頼みとはいっても、よりによって花道のために、もう一度手本を見せなきゃいけないので、正直うんざりしていた。
「(まったく…)」
それでも、先輩であり、副キャプテンの木暮の頼みなので、仕方なく手本を見せるために、ドリブルをしながら走りだすが、今度はお尻じゃなくて、頭にボールをぶつけられた。
「はっ、手がスベッタ」
「………!!」
まったくこりていない花道に、木暮は顔が青ざめ、魅真はあきれ、親衛隊は怒り、晴子と彩子は目を丸くして固まり、流川はそこに立ったまま、ピクリとも動かなかった。
「ようし。今までのは練習だ!!今度こそ本番!!」
流川にボールをぶつけてイライラがおさまった花道は、今度こそ決めるとはりきっていた。
しかし、途中でボールを頬にぶつけられ、動きが止まる。
「コラァ!!」
こんなことをするのは一人しかいないので、花道は怒りながら、ボールがとんできた方へふり向いた。
「手がすべった」
それは流川だった。
流川は、さっきの仕返しとばかりに、花道にボールをぶつけたのだが、その小学生じみた行動に、魅真や木暮や彩子や晴子だけでなく、親衛隊すらも、目を丸くして呆然として、その場で固まっていた。
「ぬ……」
流川にやられたのは嫌だが、自分と同じ手口、同じセリフで、ぐうの音も出ない花道は、何も言い返すことができなかった。
「さ……さァさァ、これでアイコだ。ケンカはやめろ!!」
「「…………」」
「な!!二人とも」
木暮はなんとか事態を収拾しようと、手をたたきながら二人のもとへ走っていき、二人をなだめた。
「いいか、桜木。肩の力をぬいて、もっとやわらかくシュートしなくちゃ。そんだけの身長とジャンプ力があるんだから、かるーくボールをおいてくる気持ちでやればいいんだ」
「いいカッコしようとしすぎだ、まったく。バカタレが」
「ぬ…」
「それに、人のやるのをちゃんと見てないとダメだ。真田のだけでなく、流川のもな。流川が怒るのもムリないぞ。真田のフォームもきれいだが、流川のフォームもきれいだから。手本になるから…な」
「…………」
木暮の言うことはもっともだった。
「おいルカワ…」
そして、少し考えこむと、花道は急に流川に話しかける。
「ワルかった。シュートがうまくいかなくて、いらいらしてたんだ…。スマン」
「桜木…」
「えっ…」
「げ…」
「………!!」
花道は何を思ったのか、流川に謝罪すると、木暮と彩子と晴子はほっとしていたが、赤木は驚いており、魅真と洋平達は、変なものを見る目で花道を見た。
あの花道が、よりによって流川相手に、しおらしくなって素直に謝るなど、天地がひっくりかえってもありえないからだ。
というよりも、謝るという行為をすること自体ありえなかった。
「もう1回お手本を見せてくれよ。ドリブルシュート」
「…………いーけど…」
いろいろあったが、謝罪され、本人自ら頼んできたので、流川は少し考えると、花道の頼みを聞き入れた。
「エライワ、桜木君!」
花道が、素直に流川に謝ったので、晴子は感動していた。
そして流川は、もう一度手本を見せるべく、ドリブルを始めた。
だが花道は、流川がドリブルを始めた瞬間に、ボールが入ったカゴをつかむ。
「おっと、体全体がすべったあ!!!!」
「!!」
カゴをつかむと、カゴに入っているすべてのボールを、流川にぶつけた。
ボールは、流川の頭に、背中に、肩に、いろんなところにあたった。
「ハーーーハハハハ。バカめ、ルカワ!!くらえオラァ!!オラァ!!」
更には、狂ったように笑いながら、床にころがったボールを、ひろっては投げてひろっては投げて…をくり返していた。
「(やっぱこうなるのか…)」
どうも変だと思ったら、あの謝罪も、しおらしい態度も、素直になったのも、すべては流川を油断させるためだったのだとわかったが、そのことに魅真は納得していた。
でも、いくら流川が気にいらないとはいえ、花道のこの行為はひどいものだったが、こんなことをされて黙っている流川ではなかった。
「…………」
肩ごしに花道を睨みつけた流川は、カラになったカゴをつかむと、容赦なく花道にぶつけたのである。
「ごあ!!」
カゴをぶつけられると、花道はびっくりしていた。
「いってえなコラァ!!てめールカワ!!」
どう考えても花道の自業自得なのだが、負けず嫌い+流川にやられたというので、逆ギレして暴れだした。
「…………」
「…………」
それを見ていた赤木は、怒りで体を震わせ、赤木の後ろにいる木暮は、不穏な空気を感じて、冷や汗をかいていた。
「いーかげんにせんか!!」
とうとうキレた赤木が怒鳴ると、その直後に、投げて宙を舞ったカゴが、赤木の頭に落ちてきて、赤木はカゴの中に入る形となった。
それはさながら、動物園の獣舎にいるゴリラのようだった。
それが更に赤木の怒りを買うことになり、花道と流川は、二人そろってゲンコツをくらった。
練習中に暴れた花道は、もうこの日はシュートをうたせてもらえなくなり、花道と流川の二人は、そろって体育館のスミッコに立たされることになったのだった。
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