標的98 2つの紫雲の行方
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白蘭を倒した次の日……。魅真は雲雀のアジトにいた。
正確には、雲雀のアジトにある、10年後の雲雀と出会ったばかりの頃、リングと匣を渡された部屋にいた。
魅真は、そのリングと匣と雲雀宛ての手紙を、机の上に置いた。
と言っても、雲のリングは2つともなくなってしまったので、リングは、このアジトの出入口をあけるための、藍色の石のリングだけだった。
魅真はそれらのものを置くと、部屋を出ていった。
標的98 2つの紫雲の行方
並盛町の、メローネ基地跡から1km離れた、地下500m地点には、あの白くて丸い装置があった。
「この装置で、過去に帰れるんだね!!」
そして、その白くて丸い装置の前には、ツナ、正一、リボーン、ヴェルデがいた。
「ああ。5分で過去に戻れるはずの10年バズーカの効力を、この装置で妨げているわけだから、解いてやればいいんだ。7³のパワーバランスが正常に戻った今なら、時空も安定していて、安全に帰れるはずだ」
「オレ達が、10年ピッタリにタイムワープできなかったのは、7³のパワーバランスが崩れ、時空が歪んだからなんだな」
「今頃気づくとは、愚かだな、リボーン。もっとも、帰りのタイムワープは心配するな。この天才が計算し、ベストな時と場所に帰らせてやる」
「信じていいのか、ヴェルデ」
「カリは返すさ。ユニにな」
「(この2人…。ただならぬ雰囲気なんですけど……。あっ!!)」
リボーンとヴェルデの間にある、ただならぬ空気に、ツナはびびっていた。
「そろそろみんな、この時代の人達との別れのあいさつすんだかな?」
けど途中で、この時代の人と、別れのあいさつをしている魅真達のことを思い出した。
その頃、魅真はまだ、雲雀のアジトにいた。
アジトの廊下を歩き、ある一つの部屋の前まで来ると、その部屋の障子を開けた。
「あっ、魅真さん」
「こんにちは、草壁さん」
その部屋の中には、草壁がいた。魅真は、草壁にあいさつをするために、この部屋に来たのだった。
魅真は草壁の前まで歩いてくると、草壁にあわせて、畳にすわった。
「草壁さん」
すわると、もう一度草壁の名前を呼んだ。
「短い間でしたが、お世話になりました」
そして、深々と頭をさげてあいさつをする。
「いえ、私はほとんど何も……。それより、白蘭を倒せて本当によかったです。無事で何よりです。本当におつかれさまでした、魅真さん」
けど、草壁は謙遜し、魅真に労いの言葉をかける。
草壁にあいさつをすると、魅真はスカートのポケットの中から、正四角形の箱を取り出した。
「草壁さん、これを」
そして、その箱を草壁に渡す。
その箱は、最終決戦の前に草壁に渡された、ランクAオーバーのリング……。
ボンゴレリングのカケラを使っているが、ニューボンゴレリングにはならなかった、ボンゴレリングであって、ボンゴレリングではないリングだった。
「いえ、それは魅真さんがお持ちください」
しかし草壁は、リングを受け取らなかった。
「えっ!?でも、他のリングや匣は置いてきたので、このリングも返さなくては…」
10年後のものを10年前に持っていくのは、まずいのではないかと、魅真は焦った。
「またこれから、リングを必要とする戦いがあるかもしれません。ですが、ボンゴレリングは、普段は恭さんが持っています。いざという時に困るでしょう。入江さんにも、許可はとってあります。それに、このリングは、もとからそのつもりで渡せと、この時代の恭さんに言われてましたから…。大丈夫ですよ。リングなら、もう一つ、この時代の恭さんが持っていますから」
「そ、そうですか…。それじゃあ、ありがたくいただきます」
受け取ってもらえず、逆に譲られたので、魅真は箱をポケットにしまった。
その後、もう一度草壁にあいさつをすると、魅真はその部屋から退室して、まだあいさつをしていない人のところへ行くために、ボンゴレのアジトに行った。
「あっ!」
「よお、魅真」
雲雀のアジトとボンゴレのアジトをつなぐ出入口の前…ボンゴレのアジトの方には、ディーノとロマーリオがいた。
「ディーノさん、ロマーリオさん」
「今日…帰るんだよな」
「はい!少しの間でしたが、お世話になりました」
「いや、いいって。それよりも、白蘭を倒せてよかったな」
「いえ……私は何も…。ほとんど役にたってなかったような…」
この時代に来たばかりの頃から、何かと戦闘に入っていたが、ほとんどが負けてばっかりだったので、魅真は困ったように笑う。
「んなことねーって。確かに、白蘭を倒したのはツナだが、他の奴らの力もなければ、勝てなかったと思うぜ。もちろん、魅真の力もな」
「ディーノさん…」
けど、ディーノの本心に、魅真は心があたたかくなり、表情がゆるんだ。
「魅真は、10年前に初めて会った時よりも、確実に強くなってる。オレが保証するぜ」
更に、断言されると、魅真は顔が明るくなった。
「いつもありがとうございます。ディーノさんの言葉って、自然と心の中に入ってくるので、元気が出ますし、すごくうれしいです」
「そっか…」
「あ、それじゃあ……まだ、あいさつしてない人がたくさんいるので、これで失礼します」
「そっか…。じゃあな」
「はい。ディーノさんもロマーリオさんも、お元気で」
「魅真もな」
「おう。またな、嬢ちゃん」
2人に別れを告げると、魅真はその場をあとにした。
魅真はディーノとロマーリオにあいさつをすると、まずは、今いる階にある部屋をまわって、あいさつをしようと思ってる人がいそうな場所に足を進めた。
その階を探してみると、応接室に、骸とフランがいた。
「おや、魅真じゃないですか」
「あ、どうもー」
「骸!フラン君!」
魅真が応接室に入ると、骸は魅真のもとへ歩み寄っていく。
「もう……帰るのですか?」
「うん。骸、フラン君、昨日の戦いでは、本当にありがとう」
「僕は何も……。白蘭に、世界を取られるのが嫌だっただけですよ」
「そう……」
「相変わらずカッコつけですねー」
「うるさいですよ、おチビ」
お礼を言われたのに、どこかそっけない骸に、隣にいるフランがつっこむと、骸は少し腹を立てる。
「あっ!ミーは、自分でもよくやったと思いますー」
「そうなの?」
「そうなんですよー。なんてったって、師匠を脱獄させたの、ミーですからねー。あの、幻術であざむけない復讐者をあざむいたのでー」
「へえー。フラン君てすごいのね」
「いやー、それほどでもありますー」
骸を救出したことを、誰もほめたりお礼を言ったりしなかったので、フランは得意げになり、魅真がフランをほめているので、骸はムッとした。
「魅真、他の者達に、あいさつはすませましたか?」
「え?まだだけど…」
「あまり時間もないでしょう。そろそろ、他の者のところに行った方がいいのでは?」
「あ……そうだね。名残惜しいけど、そろそろ行くね」
「ええ」
「じゃあね。2人とも元気で」
骸とフランにあいさつをすると、魅真は踵を返そうとした。
「………魅真……」
「え?」
だがその時、骸が魅真の名前を呼んだので、魅真は足を止めた。
その隙に、骸は魅真と距離をつめて、魅真の肩を抱きよせると、魅真の頬にキスをした。
「あ………む……くろ…!?」
突然のことに、魅真は顔を真っ赤にするが、骸は満足そうな笑顔を浮かべていた。
「クフフフフフフ。あいさつ…ですよ」
「え?あ……そうだよね。骸はイタリア出身だもんね」
とは言うものの、日本にはそういった文化がないので、魅真は未だになれなかった。
「じゃあ、今度こそ本当に行くね。元気でね。骸、フラン君」
「ええ。Arrivederci…魅真」
「さよならー」
魅真は何度目かのあいさつをして、今度こそ、応接室から去っていった。
「……師匠ー……」
「なんですか?」
「師匠ってー、誰に対しても、対抗意識みせるんですねー。ムダなのにー」
「うるさいですよ」
魅真が応接室から去ると、フランは骸に先程のことを話すが、骸は指摘されて腹を立てた。
一方魅真は、今いる階に、他に誰かいないかどうか探していた。
その階の部屋の一つにラルがいたので、ラルにあいさつをした。
けど、他には誰もおらず、地下6階を探しても誰もいなかったので、今度は地下7階を探した。
そうしたら、その階の部屋の一つにスパナがいたので、スパナにあいさつをした。だが、スパナは何故か、戦いが終わったというのに、モスカを作っていた。
そして今度は大食堂に行くと、フゥ太、ビアンキ、ジャンニーニがいたので、3人にあいさつをした。
それぞれ別れを惜しんでいると、最後にビアンキに
「がんばるのよ、魅真」
と、応援された。
その言葉の意味がわかった魅真は
「はい!」
と、笑顔で返事をした。
そして、返事をした後に、魅真はこの時代の黒川花に向けて書いた手紙を渡してほしいと、ビアンキに頼んだ。
ビアンキは、快く引き受けてくれた。
これで全員にあいさつはすんだので、あとは、ツナ、リボーン、雲雀、了平、京子、ハル、イーピン、ランボ、クローム、獄寺、山本、バジルのあいさつがすむのを待ち、全員があいさつをし終わると、全員で、装置がある場所へと向かった。
それから、何十分か歩いていくと、装置がある洞窟につき、そこには正一と、ラル、アルコバレーノがいた。
「よーし、みんな揃ったね!!そろそろ出発だが、ボンゴレ匣は、未来(ここ)に置いていってもらう。取りはずしてくれ!!」
ツナ達は、正一に言われると、ボンゴレ匣を地面に置いた。
最後に、お別れをするために、匣の中から匣兵器を出すが、全員寂しそうな顔をしていた。
「ガオ」
「しょうがないよ、ナッツ…。まだ過去に存在しない匣兵器を持ち帰るのは、よくないらしいんだ…」
「ガルルルル…ウゥ…」
「寂しいぞ、我流!!」
「元気でな…瓜」
「またね、ロールちゃん」
「クピィ…」
ツナは泣いているナッツをなだめ、了平は我流と抱きしめあい、獄寺は瓜の頭を、山本は次郎の顔を、魅真はロールの頭をなで、ランボは牛丼の口の先に抱きついていた。
「達者でね、イーピン」
一方では、イーピンが師匠の風にあいさつをしていた。
「結局、川平のおじさんが何者なのか、わかりませんでしたね」
「うん…」
そして別のところでは、バジルとフゥ太が、チョイス会場から戻ってきた後、自分達を助けてくれた、川平という男性のことについて話をしていた。
「いろいろありがとう、ラル!」
「オレはガキの面倒を見ただけだ」
ツナは、見送りに来ているラルにお礼を言うが、相変わらず子供扱いされた。
「(最後までガキあつかい!!)」
そのことに、ツナはショックを受ける。
「いいボスになれよ、沢田」
「え゙っ。いや、だから、オレはボスとかはっ」
「コロネロ!!沢田達を、しっかり平和な過去へ帰してやれよ!!」
ツナが焦るが、ラルは聞いておらず、後ろへ顔を向けると、その先にいるコロネロに声をかけた。
「ああ。当然だぜ、コラ!!こいつらは、命の恩人だからな」
「お金くれなきゃ、奥義なんて使いたくないけど、今回は特別だよ」
ラルに言われると、コロネロは元気よく返事をし、マーモンはお金はもらえないが、助けてもらったので、今回だけはノーギャラで請け負った。
「終わったら、すぐ戻ってくるからな、ラル」
「バカッ。こんな所で!」
場所をわきまえずに口説いてきたので、ラルは顔を真っ赤にするが、嫌そうではなかった。
「じゃあ、タイムワープをはじめるよ!!別れを惜しんでたら、キリが無いからね!!アルコバレーノは、過去のマーレリングを封印して、すぐにここへ戻ってくる予定だ」
別れを惜しんだり、話をしたり、あいさつをしたりしていると、正一が声をかけた。
正一に言われると、魅真達は装置の前に行き、みんな一ヵ所に固まった。
「では…」
正一も装置の操作をするために、操作台まで歩いていくと、声をかけた。
「本当に…ありがとう!」
「…さよなら」
操作をする前に、正一とツナは、最後の別れのあいさつをした。
「タイムワープスタート!!」
2人があいさつをすると、正一は、操作台にある、丸いボタンを押した。
すると、魅真達から強い光が放たれ、その後に姿を消した。
このタイムワープの時、ユニとアルコバレーノは、いろんなプレゼントをしてくれた。
一つは過去のマーレリングの封印と、一緒に戦った仲間達の未来の記憶を、過去の彼らに伝えてくれた。
更に、特別に、ボンゴレ匣を一緒に、過去へつれてきてくれた。
ヴェルデというアルコバレーノの天才科学者の技術で、今までの匣型より、ずっとコンパクトなリング型になって…。
10年前……。
並盛中学校に大きな光が落ちると、応接室の中に、魅真と雲雀が姿を現した。
「あ……。並中の……応接室?」
魅真は戻ってきたが、どこかぼんやりとしていた。
そして、ぼんやりとした状態で窓の方まで歩いていき、窓の外を見た。
「(帰って……きたんだ……)」
そこから見る街並みは、10年後のものと変わらないが、洞窟から並中に移動したので、10年前に帰ってきたのだと実感した。
そして、窓の外を見ていると、今度は、右手に装着されたアニマルリングを見て、うれしそうに笑った。
そんな魅真の後ろ姿を、雲雀はじっと見ていた。
再び10年後…。
「おかえり!!」
魅真達を10年前に帰しに行ったアルコバレーノ達は、10年後の、先程の洞窟に帰ってきた。
「少し地殻に影響を与えたが、すべてうまくいったぜ!」
「ホッ」
「よかった!!お疲れ様!!」
アルコバレーノが奥義を使った時、10年前の世界では、世界中で地震が起こった。
だが、すべてうまくいったというので、ラルはほっとしており、正一はアルコバレーノの労をねぎらった。
「お、子供のあいつらが過去へ帰ったかわりに、この時代のこいつらが、装置から目覚めたんだな」
コロネロの目の先には、この時代の守護者と、京子、ハル、クローム、イーピン、バジルがいた。
「ところで」
「ツナはどこいったんだ?」
だが、そこにはツナだけがいなかった。
「ああ。一足先に、地上(うえ)にいってるよ」
ツナがいないのは、もうすでに、洞窟から出ていってるからだった。
そのツナはというと、あの森の中で、自分が入っていた棺桶の前に立ち、棺桶を見ていた。
そして、棺桶の上には、10年前の、中2の時に書いた、自分の日記が置かれており、何も書かれていなかったページに、急に文字が現れたかと思うと、すぐに、ゆっくりと消えていった。
「じゃあ、僕も戻るよ」
もうここには用はないと、これ以上は群れていたくないというように、雲雀は一言だけ言って、そこから去っていった。
そして、その様子を、イーピンが悲しそうな顔をして見送った。
雲雀は洞窟を出ると、並盛神社に行き、そこにある隠し扉から、アジトに入っていった。
階段を降りて、通路をしばらく歩いていくと、そこには草壁が立っていた。
「お帰りなさい、恭さん」
「うん」
草壁は、雲雀を笑顔で出迎えた。
「ミルフィオーレファミリーは……無事に倒せたみたいだね…」
「ええ。10年前の恭さん達が、がんばってくれましたからね」
「そう…」
雲雀に聞かれたことを、草壁はにこにこと笑いながら答えるが、雲雀はそっけなく返した。
「哲」
「へい」
「僕がいなくなってから、今までのことを教えてくれる?」
「へい」
「あと、そのことを資料にまとめてほしい。それから、風紀財団で出た損害の内容と、その金額を算出して、データにして、それもまとめておいて。それと、あとで車出して。買いたい物があるから。それと「こらっ!!恭弥!!」
雲雀が、草壁にいろいろと指示をしていると、後ろから雲雀の名前を呼ぶ声がした。
名前を呼ばれたことで、雲雀は後ろへふり向いた。
「ダメでしょ!!てっちゃんに、そんな一気にいろいろと頼んじゃ!!」
そこには、雲雀の肩ぐらいの身長で、腰まで長く伸ばした髪の毛を、後頭部の真ん中で一つにたばねている、長そでシャツを着て、ロングスカートをはいた女性が立っていた。
「魅真…」
それは、10年後の魅真だった。
雲雀が目を向けた先にいる魅真は、眉間にしわをよせ、どこか怒っている雰囲気だった。
「てっちゃんは、作戦を開始してからずっと、10年前の私と恭弥の面倒を見ていてくれてたんだから。ちょっとは休ませてあげなさい」
魅真は雲雀と目があうと、軽く説教をした。
そして、雲雀に説教をすると、今度は雲雀の前に出て、草壁の前までやって来た。
「ごめんね、てっちゃん。本当にもう、恭弥がワガママばかり言って。あとでキツくしかっておくわ」
「いや…私は…別に…。私の仕事は、恭さんや魅真さんのサポートですから」
草壁の前まで来ると、草壁に謝るが、本人は特に気にしていないようだった。
「そうだよ。それが仕事なら、今言ったことぐらい、どうということはないだろ」
雲雀もまた、けろっとしており、草壁が自分のために動くのは、当然だという態度だった。
「恭弥っ!!」
けど、魅真はそんな雲雀の態度に怒り、後ろにふり返って、キッと睨むように雲雀を見ると、再び強く雲雀の名前を呼ぶ。
「そういう問題じゃないでしょう。前から言ってるじゃないの!てっちゃんが、私達のために動くのを、あたり前だと思っちゃダメだって。本当に昔っから、そういうところ変わってないんだから」
そして、雲雀のもとへ歩いていきながら、また説教をした。
「大体……わっ」
だが、雲雀の前まで来ると、魅真は足をすべらせて、前にころびそうになる。
「魅真さん!!」
草壁は、ころびそうになっている魅真を見て、顔が青ざめた。
だが、魅真は床に体をうちつける前に、雲雀に抱きとめられたので無事だった。
その様子を見て、草壁はほっとした。
「まったく…。本当に君は、そういうドジなところは、昔っから変わってないね」
「なっ!!」
先程自分が言ったことと同じことを、呆れ顔で返されたので、魅真は顔を赤くする。
そして、魅真が顔を赤くして固まっている隙に、雲雀は魅真の背中と足の裏に手をまわして抱きあげた。
「きゃっ!!ちょ…ちょっと、恭弥!!」
いきなりのことに、魅真はあわてた。
「哲」
「へい」
「僕達は、これからしばらく休むから、さっき言ったことはあとでいいよ。君もそれまで休んでなよ」
「わかりました」
指示を変更されると、草壁は小さく頭をさげて返事をした。
「じゃあ、いくよ。魅真」
「あっ!ちょっと、恭弥!!」
一言声をかけると、雲雀は、草壁の横を通りすぎていった。
魅真は抱きかかえられながら、まだ雲雀に文句を言ったり説教したりしているが、雲雀は無視して歩いていく。
そんな2人の姿を、草壁は雲雀と魅真が進んでいった方へ顔を向けると、その顔に笑顔を浮かべて、微笑ましそうに見送った。
魅真を抱きあげている雲雀は、進んでいった先にある、一つ目の曲がり角を左に曲がり、その通路の突き当たりを右に曲がって、更に奥に進んでいくと、器用にも、魅真を抱えながら、目の前の襖を開けて、部屋の中に入った。
その部屋の中には、ベッドや本棚などの、日常生活で使う家具が置いてあった。
そして、ベッドの近くにある机の上には、雲がデザインされた3つの匣と、藍色の小さな石がはめられた銀色のリングと、手紙が置いてあった。
雲雀はベッドの真ん中に魅真をすわらせると、自分もベッドにあがり、魅真に抱きつくと、そのまま前に倒れこんだ。
魅真は仰向けに倒れるが、雲雀の動作がゆっくりだったのと、ベッドの上にいるのとで、体を痛めることはなかった。
「もうっ!!いきなりなんなの!?」
話の途中だったのに、いきなり部屋につれてこられたので、魅真は再び怒った。
「さっきの続きだけどね、もうちょっと、自分のために働いてくれてる部下に対し「そんなことより」
魅真は文句を言った後、再び雲雀に説教をする。
だが、雲雀は体を浮かせて四つん這いの状態になると、魅真と目をあわせ、途中で魅真の言葉を遮った。
「もうちょっと気をつけてよね」
その後に、深くため息をつく。
「君の体はもう、君一人の体じゃないんだから」
雲雀がため息をついたのは、これが理由だった。
雲雀は話しながら、魅真のお腹を優しくなでた。
「僕に説教をするのも、哲をかばうのもいいけど、もうちょっと…特に今は、自分の体を大切にしなよ」
「ご…ごめんなさい…」
確かに、自分も軽率なところがあったと、魅真は小さく謝った。
「わかればいいよ」
魅真が謝ると、雲雀は満足そうな顔をする。
満足そうに笑うと、再び魅真の上に覆いかぶさって、今度は魅真の首に手をまわし、更に、顔を動かして、頬ずりをした。
「ちょっ…恭弥!?」
急に甘えてきたので、魅真は顔を赤くした。
雲雀のその姿は、たとえるなら、大きな子供か、黒い猫だった。
「別にいいだろ。長い間ずっと、君にふれられなかったんだから」
雲雀は、魅真に先手をうたれないように、先に、今こうしてる理由を話す。
「僕が10年前の僕と入れ替わってからもだけど、君が10年前の君と入れ替わってからだと、それ以上の長い間、ずっと君にふれられなかったんだから、ちょっとぐらいいいだろ」
「恭弥の場合のちょっとは、軽く2時間なんだけど」
「うるさいな」
魅真につっこまれ、水をさされ、いい気分になっていたのが台無しになったので、雲雀はむすっとした。
「君は今は、黙って自分の体を大事にしてればいいんだよ」
「はいはい」
仕切り直し…というように、雲雀は魅真を強く抱きしめる。
体を大事にしろというわりには、魅真のお腹の上にのしかかっているが、仕方ない人…というように、魅真は雲雀の背中に腕をまわして抱きしめた。
なんだかんだ言っても、魅真も、長いこと雲雀に会えなかったので、雲雀とこうして、2人きりでのんびりとできるのがうれしいのだった。
ミルフィオーレファミリーの脅威は去った。そのことに安心して、2人はしばらくの間、ベッドの上で抱きしめあっていた。
そんな魅真と雲雀の左手の薬指には、同じ形の、小さな紫色の石がついた、シルバーのリングが光っていた。
再び10年前……。
魅真と雲雀は、まだ応接室におり、魅真は未だに、窓の外を見てぼーっとしており、雲雀も未だに、そんな魅真をジッと見ていた。
そして、魅真を見ながら、ボンゴレ匣の修業をしていた時のことを思い出していた。
それは、山で修業をしている時に、魅真がディーノとやって来た時のこと。魅真がディーノと一緒にいることに腹を立てて、修業をやめて、下山している時に、追いかけてきた草壁に言われたことだった。
そう…あの時……。
「恭さん…。将来のことを、自分で考えなくなるからと、この時代のことを教えすぎるなと、リボーンさんに言われていましたが……お話します」
草壁は深刻な顔で、この時代の情報を、雲雀に教えようとしていた。
「恭さんっ!!」
そして、真実を話す前に、雲雀の名前を、強く大きな声で呼んだ。
「この時代の魅真さんは、妊娠しています。父親は、あなたです。恭さん!!」
草壁の口から出てきたこの時代の情報。それは、とても衝撃的なものだった。
「あなたとの子供が、この時代の魅真さんのお腹に、宿っているのです!!」
あまりにも信じがたく、驚くべき事実に、雲雀は驚愕して、目を大きく見開く。
「入れ替わる前に……この時代の恭さんは言っていました。並盛町はもちろん大事だけど、魅真さんと、魅真さんのお腹にいる新たな命のためにも、必ずミルフィオーレに勝って、平和な世界を取り戻す…と…。
恭さん……。自分は、恭さんと魅真さんが、一緒にいるのを見ているのが好きです。あなた方に、死んでほしくはない…。
ですから、恭さん…。もしあなたに、少しでも、魅真さんのことを想う気持ちがあるのなら……どうか…!!」
とてもショックだった。
とても衝撃的だった。
魅真は、てっきりディーノのことを好きだと思っていたから…。
それに、ディーノが魅真のことを好きなのはわかっていたので、この時代では、魅真とディーノは相思相愛で、ヘタしたら結婚しているかと思った。ボンゴレ匣の修業をする時に、一緒に来たから、なお更だった。
けど、現実は違った……。
何故、ディーノを好きな魅真が、10年後の世界では、自分と一緒になり、しかも、子供まで宿しているのかはわからない。
わからないが、それでもこの時、雲雀の中には、ある一つの思いが芽生えた。
それは、何がなんでも、ミルフィオーレファミリーを倒すということだった。
並盛町を守るのはもちろんのことだが、この時代の魅真を守ること、そして何よりも、自分の時代の魅真のことも……。
その時聞いた話は、雲雀の今までの人生の中で、一番の驚きと言ってもいいくらいのものだった。
雲雀はこの時、めずらしく心を揺さぶられ、魅真と並盛町のために、再び修業をすることを決めたのである。
あの時のことを思い出していた雲雀は、未だ信じられないが…それでも、とりあえずは魅真が無事なので、安心した顔をしていた。
「(あっ……。何いつまでもぼーっとしてんの?私!)」
一方魅真は、雲雀が10年後の草壁に言われたことを思い出していると、ようやく正気に戻った。
「(ここ並中の応接室じゃない!!今の私が、一番いちゃいけないところ!!)」
魅真は、10年後の未来にとばされる前、雲雀に、風紀委員をやめてもらうことを言われたのを思い出した。
「(これからどうしよう……。雲雀さんちは当然行けないし…)」
そのことを思い出した魅真は、これからの身のふり方を考える。
「(と…とりあえず、ツナ君ちに行ってみようかな…。それがダメなら武君ちか、もしくは隼人君ちに……)」
初めて修業をした時に、ツナと獄寺と山本が、もしも雲雀の家にいられないなら、自分の家に来てもいいと言ってくれたのを思い出し、3人のうちの、どこかの家に行こうと考えていた。
「(で………でも……まず先に、雲雀さんと…話し合いを……)」
けど、ビアンキに応援されたのと、以前決意をしたのを思い出して、まずは雲雀と話し合おうと思ったが、これはとても勇気がいるもので、魅真の心臓は、破裂するのではないかというくらいに、大きな音をたて、早く鳴っていた。
「ねえ……」
「は……はいっ!!」
だが、魅真が雲雀に話しかけようとした時に、雲雀が先に、魅真に声をかけてきた。
いきなり雲雀に声をかけられたので、魅真は思わず声が裏返ってしまった。
正直、雲雀と顔をあわせるのすら怖いが、そうも言ってられないので、魅真はおそるおそる後ろへふり向いた。
「な……なんですか?雲雀さん……」
そして、おそるおそる雲雀に声をかけた。
まだ怖いけど、不安の気持ちが大きく心を支配しているけど、それでも、久しぶりに声をかけてくれてうれしいという気持ちもあった。
そんな、不安そうな魅真を見ると、雲雀は少しだけ魅真をジッとみつめた。
「戻ってきなよ」
魅真をみつめると、雲雀は思っていることを話した。
ほんの10文字にも満たない、短い言葉ではあるが、それでも魅真を驚かせるには充分で、魅真はほんの数秒間だが固まってしまう。
「あ……あの………なん……」
久しぶりに話すので、緊張しているのと、今雲雀の口から出た言葉が信じられないのとで、魅真はうまく言葉を紡ぐことができなかった。
「風紀委員の仕事がたまってる」
「!」
「それに、君がいないと、どうにもおちつかない」
「えっ…」
雲雀が言ったことに、魅真はドキッとして、頬を赤くする。
恋心を抱いている相手に、そんなことを言われたら、ときめかない方が無理というものだった。
「君が、僕の前でドジふんでいないと、つまらないからね」
「そ…そうですか……」
けど、やはり雲雀は雲雀で、ときめきは一瞬でなくなった。
だが、10年後に行く前と違い、とげとげしさがなくなっており、いつもの雲雀に戻っていて、普通に話しかけてくれてるので、魅真はうれしそうに笑う。
「(……告白は…まだいいや…)」
魅真は10年後にいた時に、雲雀にいつか告白をしたいと思ったが、今はまだ、この幸福を噛みしめていたいと思い、今は告白はしないことにした。
「(いつもと変わらないけど……。でも、少しだけ、距離が近づいた……かな…?)」
どういう心境の変化かはわからないが、それでも、一度決めたら意見をまげることのない雲雀が、10年後に行く前の時のことを許してくれたみたいなので、少しは自分のことを思いやってくれたのかと思った。
「行くよ、魅真」
「はい!!」
雲雀は前のように、魅真に声をかけた。
魅真は雲雀の呼びかけに、元気よく、明るい笑顔で返事をした。
雲雀は魅真が返事をすると、扉に向かって歩き出す。
「待ってください、雲雀さん!!」
雲雀が歩き出したのを見ると、魅真もあとに続いて歩き出し、一緒に応接室を出ていった。
引き裂かれてしまった2人の心はようやく戻り、少しだけ前進したのだった。
けど、2人はそのことには、まったく気づいていなかった。
気づいていなかったが、魅真と雲雀は、とてもうれしそうだった。
並盛町の上にある青い空には、白くて大きな雲が、2つならんでいた。
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