標的76 雲の守護者、立つ・3
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雲雀はもう一度あくびをすると、その場を立ち上がり、幻騎士を見た。
「ひ………ばり……さん……?」
まさか、このタイミングで、この時代の雲雀と自分の時代の雲雀が入れ替わるとは思わず、魅真は呆然としながら、雲雀の名前を呼んだ。
名前を呼ばれると、聞き覚えのある声に反応した雲雀は、そちらを見た。
雲雀は魅真を見ると、驚きのあまり目を大きく見開き、雲雀に見られると、魅真は胸がドキッとした。
「(き……気まずいっ!!今は、そんなことを言っている場合じゃないけど、めちゃくちゃ気まずい!!)」
それは、この時代にやってくる直前に、雲雀と言い争い、挙句の果てには風紀委員を辞めてもらうだの、並盛町から出ていってもらうだの言われ、それだけでなく、何も解決していない状態のままだったからだ。
魅真はドキドキしていたが、雲雀は魅真を数秒見た後、何も言わずに、再び幻騎士に目を向けたので、魅真はショックを受ける。
「(あどけなさの残るあの顔…あの姿…。10年前の雲雀恭弥!!これが…話に聞いていた、タイムトラベル!?)」
一方幻騎士は、以前聞いていたタイムトラベルの話と、見せてもらった、この時代の雲雀と10年前の雲雀の写真を思い出していた。
その後、裏球針態の中で、この時代の雲雀が言っていた、「スケジュールがつまっているんでね」という言葉を思い出す。
「(ま…まさか…!!この時代の雲雀は、こうなることを見越していたのか…?だが、ボンゴレ側は自らタイムトラベルを実行できぬはず…)」
まるで、こうなることがわかっていたかのような、10年後の雲雀の言葉に、もしや…と思った幻騎士だったが、一つの疑問が浮かんだ。
「ねぇ、君」
そのことを考えていると、突然雲雀が声をかけてきた。
「並中なら」
考え事をしていたが、突然雲雀に話しかけられたので、幻騎士は雲雀に意識を集中させる。
「その眉毛は、校則違反だ」
「!!」
「(えっ…。まさか雲雀さん、並中にいると思ってる!?)」
こんな、並中とは違う異様な雰囲気の場所を、並中だと勘違いしているのかと、魅真はある意味で驚いていた。
「こ…これは…」
「まあいいさ。しかし、なぜうちの行方不明だった生徒が倒れてるんだい?」
「!」
それは、山本のことだった。
倒れてると言ったことで、雲雀は自分のことなど眼中にないのがわかり、魅真は落ちこんだ。
「………………山本武は、オレが屠った」
「ふぅん、君が…。じゃあ、話は早いね」
山本を倒したのが、目の前にいる幻騎士だとわかると、今まで無表情だった雲雀の顔つきが、突然鋭いものに変わる。
「君の行為を、並中への攻撃とみなし、僕が制裁を加えよう」
雲雀は、山本を倒した幻騎士を倒そうと、トンファーを構えた。
「(…………この男は、この時代のことを理解していない…。この時代の雲雀が、自発的にここへ送りこんだというのは考えすぎだったか…)」
目の前にいる、この時代から10年前の雲雀を、この時代の雲雀が送りこんだという結論に達したが、今の雲雀の言動で、それは違うと、先程の考えを否定した。
そして、雲雀がつけている、雲のボンゴレリングに目をやる。
「(しかし、雲のボンゴレリングをたずさえてくるとは…。ついている)」
幻騎士は雲雀を倒して、雲のボンゴレリングを奪取しようと、剣の柄に手をかけた。
「いくよ」
合図を出すと、雲雀は幻騎士を倒そうと、幻騎士のもとへ走っていった。
距離をつめると、雲雀はトンファーをふるい、幻騎士は剣をぬき、雲雀の顔にあてた。
「!!」
「あぁっ!!」
幻騎士の攻撃をくらった雲雀は、すごい勢いで後ろへふっとんでいき、裏球針態の瓦礫に激突する。
「雲雀さんっ!!!!」
気まずいが、それでも雲雀が好きなので、雲雀がやられたのを見ると、魅真は悲痛な声をあげた。
「雲雀恭弥といえど、小童では話にならん」
雲雀が激突した瓦礫は今の衝撃で崩れ落ち、煙が晴れた先にいる雲雀は、今の幻騎士の攻撃で鼻血が出てしまい、幻騎士にやられたことで、不機嫌そうに顔をゆがめた。
標的76 雲の守護者、立つ・3
幻騎士の攻撃をくらうも、雲雀はすぐに立ち上がり、雲雀が無事だったことに、魅真はほっとしていた。
「刃ではなく、柄で倒そうなんて、ずいぶんふざけてるね」
「(……………たしかに頭蓋を割ったはず…。今の一撃には霧の炎を込めたのだ………………。生身の体で防ぐなど…)」
柄には炎をまとわせたのに、それなのに鼻血を出すだけですんだので、幻騎士はふしぎに思っていた。
「!」
けど、そこまで考えると、あることに気づく。
「(リングの炎?この男、10年前から来たばかりで、ボンゴレリングを使えるのか…?)」
先程の炎を込めた攻撃に対抗するには、リングの炎しかないので、もしやと思った。
その雲雀は、幻騎士を睨みながら、鼻血を拳でぬぐっていた。
「(いいや…。10年前は、リングの力が発見されてまもない頃…。知る者は、マフィアでもごく一部のみ…)」
しかし、すぐにその考えはなくなった。
「貴様、この時代の戦い方を知っているか?」
「?」
幻騎士は、疑問を雲雀になげかけるが、雲雀は幻騎士が何を言っているのか、さっぱりわかっていなかった。
「では、これを見たことはあるか?」
話が通じていないので、幻騎士は雲雀に匣を見せた。
「………………オルゴールかい?」
幻騎士が出した物がなんなのか、当然10年前から来たばかりの雲雀は知らなかった。
「(やはり…。踏み込みが甘かっただけか…)」
雲雀は匣を知らないようなので、リングの炎を使ったという考えはなくなった。
「ならば」
そして、そのまま匣を開匣する。
「圧倒的に倒すのみ」
そこから出てきたのは、先程の幻海牛で、今度はたくさんの太い機械の管を形づくった。
それだけでなく、管の間からは、ミサイルが出てきた。
「「!!」」
景色が代わり、しかもミサイルまで出てきたので、魅真も雲雀もぎょっとした。
一つ一つ形が違うミサイルは、管の中から出てきて宙に浮くと、すべて雲雀に向けられた。
これが当たってしまったら、いくら雲雀といえども無事ではすまないと思った魅真は、薙刀に炎を灯して、幻騎士に向かって走っていく。
気まずくても、雲雀を守りたいという気持ちに変わりはないからだ。
魅真は幻騎士のもとまで走っていくと、薙刀で薙ぐが、幻騎士は剣を盾にして防ぐ。
そして、流れるように剣をふりおろすが、魅真はそれを、薙刀を横に向けて、盾にして、同時に後ろへとび退いた。
剣は薙刀をかすって、勢いのままにふりおろされると、剣の先が魅真のお腹を斬った。
「!!」
「くっ…」
斬ったといっても、かすった程度なので、大事には至らなかった。
けど、斬られたことには変わりないので、魅真は苦痛に顔をゆがめ、また雲雀は、剣で斬られた魅真を見て、目を大きく見開いた。
魅真は幻騎士と距離をとった後、このまま戦うのかと思いきや、雲雀のもとまで走っていき、雲雀の前に立ちはだかった。
「雲雀さんに……手出しはさせないっ!!」
それは、雲雀を守るためだった。
いくら雲雀が強くても、この時代の戦い方を知らない上、こんなにたくさんのミサイルに囲まれては、なす術もないだろうと判断したのと、あとは単に、雲雀を守りたいからだった。
「(こうして前に立っているだけでも、すごく気まずい。でも……そんなこと言ってる場合じゃない。だって……)」
魅真は手を胸のあたりまで上げると、リングに炎を灯した。
「!!」
その炎を見て、幻騎士は驚く。
「(だって……雲雀さんがいなくなるのは、絶対に嫌だもの!!)」
それは、魅真のリングに灯った炎が、先程自分が戦った時よりも大きくなった上に、わずかに澄んだ色になっていたからだ。
「(真田魅真の炎が変わった!!しかも、ただ変わったのではなく、大きく、澄んだ色になっている…。純度が増したのか!!)」
魅真が灯した炎は、先程戦った時は匣くらいの大きさしかなかったのに、今は魅真自身の上半身くらいの大きさになり、ツナほどではないが純度が増し、澄んだ色になったからだった。
「(いきなり純度が増すとは…。この娘……意外と要注意人物なのか…)」
攻撃力はあまり強くなかったが、いきなり純度の高い炎を灯したので、幻騎士は魅真を警戒した。
「よかろう。貴様も、雲雀恭弥ともども消してやろう」
「「!!」」
「もとより、貴様も葬るつもりだったからな」
幻騎士の標的が、雲雀だけでなく自分も含まれたことで、魅真は警戒をし、幻騎士を睨みつけた。
「絶対にやらせない!!」
そして、強気な態度でそう言うと、更に炎が大きくなり、魅真の全身くらいの大きさになる。
「どうかな…。貴様は、先程オレと戦って勝てなかった。それに、今のこの状況を見ても、そんなことが言えるのか?」
「なんですって!?」
「今のこの空間…。これは、貴様らの置かれた状況を、わかりやすく視覚化したものだ…。貴様らは、何百という誘導弾に囲まれている。更に…」
幻騎士がそこまで言うと、突然ミサイルが見えなくなった。
「(消えた…!)」
「(気配は感じる…。でも…見えない)」
魅真と雲雀は、消えたミサイルを視認することはできなかった。
「我が匣兵器は姿を消し、霧の中の幻となる。雲雀恭弥、成長したおまえは、"経験"によりこれを退けたが、貴様にそれはない。そして真田魅真、貴様は違和感は感じるようだが、幻覚を視認することはできない。できたとしても、貴様程度の力では、どうすることもできない。オレと戦うには、10年早い」
いよいよくるかと思った魅真は、いつきてもいいように身構えた。
「さらばだ。雲雀恭弥、真田魅真」
そして、幻騎士のその言葉を合図に、見えなくなったミサイルは、いっせいに魅真と雲雀に向かってきた。
魅真はリングの炎で防御しようと身構え、強い目で前を見据えた。
「「!!!」」
その時、先頭のミサイルが魅真と雲雀にあたろうとした時、髑髏の骨で形作られた、円形の壁が、魅真と雲雀を囲った。
そのおかげで、魅真と雲雀は無傷ですんだ。
「!」
幻騎士は驚き、何事かと、気配がした方へ顔を向けた。
「へ…。借りは返したぜ…」
そこに現れたのは、獄寺だった。
「つっても、てめーじゃわかんねーか…」
「恭さん!!!魅真さん!!!」
獄寺は、昨晩瓜を届けてくれた時の借りを返しただけだった。
獄寺は、別の場所でγと死闘をくり広げていたために、傷だらけの血だらけで、ボロボロの状態になっており、同じくγと戦って気絶した了平と一緒に、草壁にかつがれていた。
そして、獄寺、了平、草壁だけでなく、生命維持の状態がやっとのはずのクローム、更には、草壁の背負っているリュックサックの中には、ランボとイーピンまでいた。
彼らを見ると、魅真も雲雀も目を丸くした。
「………10年前の姿に…!!」
ここに来た時は、この時代の雲雀だったのに、途中で分かれて少し離れている間に、10年前の雲雀と入れ替わってしまったので、草壁は呆然とし、雲雀は不機嫌そうに顔をゆがめる。
「助っ人か………。死にぞこないと一般人では役に立たぬぞ」
敵側の人数が増えたが、幻騎士はまったく意に介していなかった。
「よぉ、魅真…。無事みてーだな」
「隼人君!!助けてくれてありがとう」
「いいってことよ。オレが守るって、約束したかんな」
優しい顔で言われ、あの時、告白された時のことを思い出すと、魅真は顔が赤くなる。
その様子を、魅真の隣にいる雲雀は、睨むように見ていた。
「うぐ…」
「獄寺さん!!」
「隼人君!!」
けど獄寺は、γとの戦いで重傷を負ったので、ひざを崩してしまい、草壁も一緒にひざを崩した。
了平の隣にいるクロームも、無理をしすぎたせいか、荒い息をしてひざをつく。
「(ラル・ミルチに…山本氏も…。魅真さんも重傷を負い、恭さんが入れ替り、相手は6弔花の1人、幻騎士!!一番恐れていた展開だ…)」
戦闘員は、獄寺や了平だけでなく、魅真も山本もラルも重傷を負い、山本とラルは気絶している。上司である雲雀は、10年前の、事情を知らない中学時代の雲雀なので、草壁は冷や汗をかいた。
「草壁哲矢」
その時、雲雀が声をかけてきたので、草壁は、顔を雲雀の方へ向けた。
「いつ群れていいといった?君には風紀委員を退会してもらう」
「!! (オレを中坊だと思ってる!!しかも退会!!)」
今雲雀が言ったことに、草壁はいろいろとショックを受けた。
「(今はそれどころでは!!) 恭さん、リングの炎です!!匣で応戦を!!」
「リングの炎…?ボックス…?」
「(………ムダだ…)」
草壁は雲雀に戦うよう促すが、幻騎士はできるわけないと軽く息を吐いた。
「そうです!! (もしも、少しでも炎を出せれば、落ちている匣を、展開できるかもしれない…。何もないよりはマシなはずだ!!今はそれに賭けるしかない…!!!頼む!!炎が少しでも出てくれれば……!!)」
魅真と獄寺は重傷を負い、山本と了平とラルは気絶しているので、もう戦えるのは雲雀しかいなくなったため、草壁は一縷の望みにかけた。
「ボックスが、何かは知らないけど。リングの炎…。跳ね馬みたいな口ぶりがイラつくな」
「! (跳ね馬…?10年前のディーノか?)」
「あの男も、これからの戦いに重要になるのはリングの炎だとうるさくてね」
雲雀がそう言うと、ボンゴレリングが光り、すごい大きさの雲の炎がリングに灯った。
「!!」
「!!」
「(――――これほど!!)」
「君達なんて、来なくてもよかったのに」
炎と炎の間から見える雲雀は、とても鋭い目で草壁を見ていた。
「(リングの炎を!!)」
「(あんなに大きな炎……初めて見た…)」
「(なんて炎だ!!もちろん恭さんもスゴイが…これが…雲雀恭弥の、破格の波動を受けても、なお砕けることなく炎を灯す、ランクAオーバーの、ボンゴレリング!!これなら…!!) 恭さん、匣です!!足元の匣(ハコ)に、炎を注入してください!!」
草壁に指示されると、雲雀は不機嫌そうに顔をゆがめる。
「いつから命令するようになったんだい?草壁哲矢。やはり君から咬み殺そう」
人に指図されるのが大嫌いな雲雀は、今言ったことを実現すると言うように、リングをつけている手とは反対の手で、トンファーを構えた。
「なっ。お待ちください、委員長!!」
今はそんなことを言ってる場合ではないのに、矛先が自分に向いてしまったので、草壁はあわてた。
その時草壁の隣では、霧フクロウが、足の爪でクロームの頭をつついた。
「…あっ」
霧フクロウにつつかれたことで、クロームはあることに気づく。
「雲の人…後ろ!!」
具体的なことは言わないが、魅真と雲雀に注意を促した。
雲の人というのは、雲の守護者という意味だとわかった魅真と雲雀は、クロームに言われた通りに後ろにふり向くと、魅真はリングに炎を灯し、雲雀を守るために、雲雀の前に立とうとしたが、攻撃がくる前に、雲雀が魅真の前に立った。
先程の、見えないミサイルが攻撃をしてきたので、炎とぶつかって爆発し、その反動で雲雀は体が傾き、ひざをついた。
「雲雀さん!!」
やられてはいないが、攻撃を受けて体勢が崩れたので、魅真は心配そうに名前を呼んだ。
「(あれが、10代目ボンゴレファミリーの霧の術師…。視認不能な幻海牛を察知するとは、思ったよりできる…)」
そのクロームは、大きな声で叫んだせいか、また苦しくなったようで、とうとう地面に倒れてしまった。
「クロームさん!!」
「□〇!!」
「死(ち)んだ?ねえ、死(ち)んだ?」
意識を失ったクロームを、草壁とイーピンは心配した。
「二度も仲間に救われるとは、つきがあるな。だが、もう次は…」
「仲間?誰、それ?」
クロームを仲間と言われ、腹を立てた雲雀の炎は、更に大きくなり、人3人分くらいの高さがあった。
「!!」
「!!」
「さらに炎が大きく!! (やはり、この人は天才だ!!)」
「跳ね馬が言ってた通りだ…………。リングの炎を大きくするのは………………」
10年前のディーノが言っていたことを思い出すと、雲雀は納得していた。
「ムカツキ」
「「「(違う!!)」」」
まったく違うことを言っているので、魅真、草壁、幻騎士の3人は、心の中で、同じことを同時につっこんだ。
「(だが実際に、炎は大きくなっている…。恭さんにとっては、"覚悟"と"ムカツキ"は同じだとディーノは考えたのかもしれない…。そして今、群れるのを嫌う恭さんが、2人に助けられるという屈辱で、ムカツキは頂点に達している)」
「副委員長…。やはり、先に、剣士の彼を倒すよ。君の言うことを信じよう」
話しながら、雲雀は足元にある雲ハリネズミの匣を一つ手にとり、その場を立ちあがった。
「!」
「(あれは、オリジナルの雲ハリネズミ!!)」
「(雲雀さん…。ここに来たばかりなのに…匣の開匣を…!?)」
「やり方は、見てたからわかるさ」
先程の、ここに来たばかりの雲雀は、匣もわからなかった。当然開匣のやり方もわからないと思ったが、先程幻騎士が開匣したのを見ていたので、あの一回で、雲雀は開匣のやり方を理解していた。
そして、見よう見まねで、炎を灯したリングを匣の穴に差しこんだ。
「(あれほどの炎が、雲ハリネズミに注入されたのは、見たことがない!!一体…!!)」
かなりの量の炎を注入したので、一体どうなるのかと、草壁は目を見張る。
すると、匣が開き、光とともに、地面に何やらかたまりが落ちた。
「?」
「…え…?」
修業していた時も、戦ってる時も、こんな風に出たことはないので、魅真はどうしたのかと目を丸くした。
「キュ…ウプ」
中から出た雲ハリネズミは、様子がおかしかった。
「キュウウ…」
立ち上がると、背中のハリが何本か伸びていった。
「ゲプッ」
立ち上がったが、すぐに倒れてしまい、口からは雲の炎を吐きだした。
その姿は、まるでよっぱらいのようだった。
「(どうなってるの?これ…。今まで…こんなこと、一度も…)」
「(酔っている…?)」
「(まさか…。あまりの量の炎に…消化不良を起こしている…!?そんな…。頼みの綱が…)」
これではまともに戦えないので、草壁は冷や汗をかく。
草壁とは対照的に、雲雀はマイペースで、再びしゃがむと、雲ハリネズミに向けて、手をさしだした。
「!」
すると、雲ハリネズミは、雲雀のニオイに気づいた。
「キュッ♪」
主人のニオイがしたので、雲ハリネズミはうれしそうな顔で、雲雀の方にふり向いた。
だが、その瞬間、背中のハリが雲雀の手にささり、そのせいで、雲雀の手からは血が流れた。
まさかの事態に、魅真と草壁はショックを受ける。
「………………」
ショックを受けたのは雲ハリネズミもで、目が潤み、顔が青ざめた。
雲雀は気にしていないようだが、自分のせいで主人を傷つけ、血を流してしまったので、雲ハリネズミは体が震えると、突然いくつもの球針態を作り出した。
「!?」
「キュウウ」
「!」
しかもそれは巨大化し、雲雀にせまってきた。
「くっ」
雲雀はせまってきた球針態を、トンファーを盾にして防いだ。
「キュー!!」
雲ハリネズミは、泣きながら、どんどん球針態を作っていった。
球針態は、雲雀だけでなく、魅真や幻騎士にもせまってきたので、魅真と幻騎士も、それぞれの武器で球針態を防いでいた。
「(なんで、雲雀さんの意志とは関係なく球針態ができて、しかも増えているの!?これじゃ、幻騎士を倒せないし、それ以前に、幻騎士のもとへたどりつけない!!)」
自分達と幻騎士を分断するように、球針態が、隙間なくどんどん増殖していってるので、魅真はどうしようかと思った。
「(何という増殖スピード!)」
そして、その幻騎士は、剣で球針態を防ぎながら、すごいスピードで増殖している球針態に目を見張っていた。
「こ…これは…。暴走による、超増殖!!!主を刺してしまった精神的ショックと、今まで注入されたことのない量の雲の炎によって、雲ハリネズミは、増殖能力を制御できなくなってるんだ…」
一方草壁は、今のこの状況を、冷静に分析していた。
「(まずい…。このままでは、我々も押しつぶされる…)」
何故こうなったのか原因はわかったが、すごいスピードで増殖している上、制御できないとなると、自分達の身も危ないので、どうしたらいいのかと、草壁は焦った。
球針態は、壁や天井もつき破り、どんどん破壊していき、周囲の部屋にも侵入していく。
どうしようかと考えた草壁は、とりあえずボンゴレアジトに通信をいれて、今の状況を説明した。
草壁がジャンニーニとやりとりしている間も、魅真と雲雀は、球針態を武器で防いでいた。
そして、通信を終えた草壁は、気絶しているラルと山本を助けた。
魅真は草壁に危害がおよばないように、ボディーガードのような形でついていき、せまってきた球針態を破って防御したり、時に球針態を破って道を作ったりした。
「ぐっ」
だが、2人を助けたのはいいが、球針態に囲まれてしまった。
「幻騎士を退けたまではよかったが…これでは我々までが犠牲に!!」
「草壁さん、早く逃げましょう!!」
「え?ええ、そうですね」
球針態は更に巨大になり、際限なく増え続けており、しかもコントロールできないので、もうこうなったら逃げるしかないと思った魅真は、草壁に逃げるよう提案する。
「恭さん!!どちらへ!!」
しかし雲雀は、球針態を台にして跳んでいき、幻騎士がいる方へ行こうとした。
「妙な技を使う丸い眉毛の彼に、やられっぱなしだからね」
この状況の中、雲雀は無謀にも、幻騎士を追いかけていこうとしたのだ。
「!」
けど、草壁と話している時によそ見をしていたせいか、球針態の針が襲いかかってきたので、それをトンファーではじくと、下に落ちてしまった。
「………」
幻騎士を追いかけていこうとしたのに、球針態に邪魔をされたので、雲雀は不機嫌になる。
「この状況では無理です!!」
「(この状況の中幻騎士を追いかけていくって、いろんな意味ですごい…)」
だが、いくら雲雀といえど、こんなにも障害物が多くなっては、幻騎士に追いつくのは不可能だった。
「(それに、今の恭さんでは…。幻騎士は、まだ勝てる相手ではない…)」
戦闘員ではないし、幻騎士の強さを実際に見たわけではないが、草壁は、今の雲雀と幻騎士の力の差を見抜いていた。
「□▲◎☆!!」
「あっちに道あるよ!」
「!」
その時、ランボとイーピンが、この場所から抜け出すための道をみつけた。
「よし!とりあえずそこへ!!」
「そうですね。とにかく、今は逃げないと!」
ランボとイーピンが道をみつけてくれたので、やられる前に避難しようと、魅真と草壁は動き出した。
「っと」
だが、草壁は動いた時、あまりにもたくさんの人間をかついでいるせいで、獄寺がずり落ちてしまった。
「!」
だが、落ちる時に雲雀が支えたので、獄寺は床に体をぶつけることは免れた。
「この男には、借りがあるからね。それに、君にここで死なれたら、咬み殺せない」
「きょ…恭さん…」
雲雀が獄寺を助けた理由は、先程、幻騎士の攻撃を匣の盾で防いで、助けてもらったからだった。
そして、雲雀は獄寺と了平を、草壁は山本とラルとクロームを背負って、ランボとイーピンのあとについて走っていき、魅真は球針態がきた時に防げるように、2人の護衛のような形で、雲雀と草壁の後ろを走っていった。
「こっちこっち!!」
「彼らはもう戦えません。最悪の場合は、彼らを連れて脱出を…」
ランボとイーピンの後についていき、隣の部屋に全員が入ると、突然扉の上からシャッターがおりてきて、閉じこめられてしまった。
「!?」
「閉じこめられた!?」
しかもそれだけでなく、全員の横から、壁がせまってきた。
「ぐぴゃっ」
「!!」
「壁が迫ってくる!!」
それもすごい勢いで、その部屋に置いてあったコンテナを押しのけるほどのものだった。
「このままでは、押しつぶされる!!」
「罠…」
「! 獄寺さんが、この基地は可動式で、入江正一の意志で部屋を動かせると言っていた…。これのことか………!!!」
せまってくる壁を見て、草壁は先程の部屋に来る途中で、獄寺が言ってたことを思い出した。
「恭さん!!他に匣兵器は!!」
「もうないよ」
「!?」
雲雀は手の力をぬき、獄寺と了平を乱暴に落とすと、トンファーを出して炎を灯し、壁を殴りつけて壊そうとした。
「!」
だが、壁はへこむくらいのダメージは負うものの、破壊することはできなかった。
「(耐炎性の、ナノコンポジットアーマーの壁!!)」
「(武器がダメなら、匣兵器なら!!)」
今度は魅真が、匣兵器を使って壁を破壊しようとした。
「あっ!!」
だが、匣を出した瞬間、揺れのせいで、匣を床に落としてしまうというミスをしてしまった。
「く…」
それでも魅真はあきらめず、匣をひろおうとしゃがんだ。
「うっ…」
だが、しゃがもうとした瞬間、幻騎士に剣で斬られた傷が痛んだので、動きが止まってしまった。
「くっ」
しかし、それでも魅真は、痛む傷をこらえながら匣をひろうが、壁はもうすぐそこまでせまってきていた。
「(万事休すか…!!)」
すぐそこまで来ている壁を見て、魅真と雲雀は苦い顔をし、草壁は目を大きく見開き、歯を噛みしめる。
一難去ってまた一難。魅真達は、絶体絶命のピンチに陥った。
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