標的74 雲の守護者、立つ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「2代目剣帝スクアーロが、勝負の偽装に気づいていたというのか」
「ああ、そうだ」
「根拠はあるのか?」
確かに、口ではなんとでも言えるものなので、幻騎士は信じようとはしなかった。
「それを、今から証明してみせるぜ」
「………………ありえん。奴は、己の勝利に何の疑問も持たなかった。何をする気か知らないが、今一度、我に返るがいい。貴様の刀は、ひび割れ、崩壊寸前だ」
「!」
幻騎士の言う通り、山本の刀はボロボロで、あと少しでも衝撃を加えたら、折れてしまいそうなものだった。
「……………………たしかにこれじゃあ、一振りで粉々になっちまうな」
しかし、それは山本も充分わかっていた。
「でもよ」
けど、それでも山本は、戦うためにリングに炎を灯す。
「!」
「あんたもわかってるはずだ!!」
リングに灯した炎は刀にも灯り、山本は刀を構えて、幻騎士に向かって走っていった。
そしてまた、剣帝への道というDVDのことを思い出す。
それは、スクアーロが100勝達成した時のことだった。
戦った相手は、今山本の目の前にいる幻騎士。
祝勝会をしに帰ると、やたら早足で去っていくスクアーロは、勝負についてきたルッスーリアに、何で早足なのかと問われると、奴の領域(テリトリー)から出ると、小声で言った。
次に、明日幻騎士の倒れてる場所を見てみろ。粉砕した刀の破片の一カケラも見つかりゃしないだろうと、謎の言葉も言う。
そして、リングの炎を練り込むようになってから、年々幻術のレベルはあがっていて、人の五感だけでなく、カメラなどの機器でも感知できないほどのものだが、それを見破るには、己の感覚を信じるのみだとアドバイスをした。
スクアーロは、幻騎士には闘争心を感じなかったので、これ以上は相手にしないと最後に言ったのだ。
つまり、そういうことだった。
「(あん時はよくわかんなかったんだが、「剣帝への道」には、101戦目のおまけディスクがついてたんだ。他の剣士とのな。
今ならわかるぜ。スクアーロが幻騎士戦を、あえてカウントしなかったって。
それに、スクアーロが言ってた、己の感覚を信じろってのもな)」
幻騎士戦のDVDを見た時のことを思い出した山本は、まっすぐに幻騎士に向かっていく。
「(オレの感覚では、時雨金時に入ったキズは…)」
そして、幻騎士に向けて、思いっきり強く刀をふり下ろした。
「(お前の作った幻覚だ!!)」
山本の刀と幻騎士の剣がぶつかりあうと、山本の刀のひびは砕けて消えた。
標的74 雲の守護者、立つ
砕けた刀の破片は、霧となって消え、もとのひびが入っていない時雨金時に戻った。
「なぜ、刀が無傷とわかった」
「毎日振ってんだ。たとえ、0.01gでも欠けたんなら、感覚でわかる」
「!! (腕が…!!)」
山本が話していると、幻騎士は腕にしびれを感じた。
「今の太刀は、鮫衝撃(アタッコ・ディ・スクアーロ)っつってな。しばらくマヒはとれないぜ。こうも、強く打ち込むとは思わなかったみてーだな」
それは山本がスクアーロの技を使ったからで、幻騎士は、山本と距離をとるため、後ろへとび退いた。
「!?」
すると、着地をした時に、突然足元がふらついた。
「全身の感覚も鈍くなってんだろ。衝撃とともに、雨の"鎮静"の炎を流し込んだ強化版だからな」
それは、攻撃と同時に、雨の炎を流し込んで、動きを鈍らせたからだった。
「!」
「どうやらあんた、相当人をだますのが好きみてーだな、幻騎士。でも、感心しないぜ。ウソつきは、泥棒のはじまりってな」
「くっ」
幻騎士は山本から少しでも離れようと、足がふらつきながらも、後ろにさがっていく。
「仲間が待ってんだ。わりーけど、終わらせるぜ」
山本が、また技を出すために、リングに炎を灯すと、雨燕は宙に高く舞った。
けど、それでも幻騎士は、ヨロヨロと歩いている。
「この奥義からは、逃げらんないぜ」
技を出すために山本は走り出すが、なおも幻騎士は歩いていく。
「(なんだろう…?うまく言えないけど………この部屋、さっきから、なんか変な感じがする。それに、あいつの言ってることや…やってること…。存在そのものに違和感を感じる…!!)」
一方、山本と幻騎士の戦いを見ていた魅真は、どことなく違和感を感じていた。
「時雨蒼燕流、特式十の型」
山本は、幻騎士がふらふらとした足で歩いているのもおかまいなしに、技を出そうとした。
せまってくる山本に、幻騎士は目を見張った。
「燕特攻(スコントロ・ディ・ローンディネ)!!!」
その技は、山本の新しい必殺技。
それは、雨燕が先頭に立ち、雨属性の炎を放ちながら飛んでいき、雨燕の後ろを、山本が刀を構えて走ってつっこんでいく、スクアーロの技の、鮫特攻(スコントロ・ディ・スクアーロ)の山本版といったものだった。
山本は幻騎士に向かって、技をあてるために走っていく。
だが、あと少しで幻騎士に技があたるというところで、山本は衝撃を感じ、鼻や口から血がふき出た。
「!!!!!」
何故、山本は衝撃を感じたのかというと、それは、鋼鉄の柱に、すごい勢いであたったからだった。
まさかの事態に、衝撃を受けた魅真は、目と口を大きく見開く。
「…な…に」
今まではなかった鋼鉄の柱が、何故かそこにあったので、山本は驚愕した。
「かかったな」
そう言う幻騎士の手には、フタが開いた匣があった。
「幻を生み出す霧属性の匣の特徴は、構築。オレの能力が、刀にヒビを見せるだけの、微弱なものだと思ったか」
「…!」
「貴様が、自ら突っ込んだ鋼鉄の柱こそが、現実だ。貴様が見ていた部屋の景色全ては、我が霧の匣兵器で構築した、リアルな幻覚だったのだ」
そう……先程の部屋は、幻騎士の匣兵器で作られた幻だった。
「(そっか…。変な感じがしたのは、この部屋が幻覚だからだったんだ)」
魅真は幻騎士の説明で、ようやく違和感の正体に気づいた。
だが、気づいたところでもうすでに遅く、鋼鉄の柱に激突した山本は重傷を負い、意識が朦朧として、鋼鉄の柱をつたって床に崩れ落ちていく。
「武君っ!!!!」
山本がやられてしまったので、魅真は叫んだ。
そして部屋の周りからは、幻騎士の匣兵器が、幻騎士が持つ匣の中に戻っていった。
「欺いてこそ、霧」
匣兵器が戻ると、匣のフタは閉じられる。
「これほどの霧の術師は、ボンゴレにはいないだろうがな」
幻騎士がそう言うと、山本は完全に、床に崩れ落ちた。
床に倒れると、山本は目を閉じたが、それも一瞬のことで、すぐに開かれるが、意識が朦朧としているため、ぼやけて見えた。
視界に幻騎士が映るが、山本は立つこともままならず、倒れたままだった。
「殺す前に、遺言を聞いてやろうと思ったが」
「あ゙…ぐ…」
「口をきくこともできぬようだな。今、楽にしてやる」
幻騎士は、左側に装備している剣をぬいて、山本を葬ろうとした。
だがその時、空気を裂くような音が聞こえた。
「!!」
その音がした方を見ると、雲属性の炎が、螺旋を描いて幻騎士の方へ向かってきたので、幻騎士はその攻撃を、とっさに横に跳んでよけた。
けど、そこを狙って、今度は魅真が薙刀をふり下ろして攻撃してきたが、それも後ろにとび退いてよける。
「雲の守護者か……」
突然魅真が出てきたというのに、幻騎士は動じていなかった。
「オレの任務でもっとも優先されるのは、ボンゴレリングの回収だ。雲のボンゴレリングを持っていない貴様に、用はない…」
確かにその通りだが、幻騎士の言い方に、魅真はむっとした。
「しかし、ボンゴレの者の迎撃も、また任務の一つ…。雨の守護者とともに、貴様も葬ってやろう…」
だが、魅真もターゲットの一人には違いないので、幻騎士は魅真を倒そうと、剣を構えた。
「女とて、容赦はせぬぞ」
「のぞむところよ…」
魅真は受けてたつ気でいた。
だが、すぐに戦うのかと思いきや、一度薙刀を匣にしまうと、山本のもとへ行き、山本の脇の下をつかんで、ひきずって、ラルがいる近くの壁に移動させた。
山本の安全を確保するためだ。
「たとえあなたが、霧のマーレリングを持つほど強い剣士でも、友達を傷つけたあなたには負けない!!そして、みんなで過去に帰るためにも、10年前の雲雀さんにまた会うためにも、私は絶対に負けるわけにはいかないの!!」
「威勢だけはいいな…」
「…だけかどうかは、戦ってから決めてくれる?」
「何!?」
「武君は、我が並盛中学校の生徒…。そして私は、その並盛中学校の風紀委員。あなたはうちの生徒を、気絶するくらいに傷つけた…」
魅真は強気な態度を見せた後、風紀委員の腕章が幻騎士に見えるように、腕章をつけている左腕を前にもってきた。
「風紀委員として、あなたに制裁をくだすわ!!」
そう言いながら、魅真は2つの雲ハリネズミの匣を取り出すと、瞬時にリングに炎を灯して、流れるような動きで、2つの匣を開匣した。
すると、一匹の雲ハリネズミは魅真の顔の横に浮いたが、もう一匹の雲ハリネズミは、螺旋を描いて、すごい速さで幻騎士に向かっていく。
その後魅真は、幻騎士のもとへ向かってとびだすと、走りながら薙刀をしまっている匣を取り出し、もう一度リングに炎を灯して、素早く開匣し、薙刀を取り出すと、薙刀に炎を灯して構えた。
幻騎士はまた螺旋攻撃をよけ、その後に続いて走ってきて、ふりおろされた魅真の薙刀も、剣で受け止めた。
しかし、魅真にはそのことは想定内だった。
魅真は後ろにとびのくと、仕切り直すように、再度幻騎士に向かっていった。
力で押すのではなく、流れるような連続攻撃をかけるが、幻騎士は剣で次々と防御していく。それは数分ほど続いた。
「(この娘……。思ったよりもできる…)」
まだ拙さはあるし、幻騎士にダメージを負わせることができていないが、それでも、幻騎士にそう思わせるほど、魅真は成長していた。
そう思っていると、雲ハリネズミが螺旋を描いて幻騎士に突進してきたが、幻騎士は後ろに跳んでよける。
その隙に、魅真が素早い動きで距離をつめて、勢いよく薙ぐが、幻騎士はそれすらも、後ろに跳んでよけた。
だが、着地した瞬間、また雲ハリネズミの螺旋攻撃が、今度は下から上に向かってきたので、鋼鉄の柱を使って、上に跳んでよける。
「!!」
だが、上に跳んだその時、幻騎士は腹に痛みを覚えた。
何かと思って、痛むところを見てみると、腹にはトゲが刺さっており、そこからは血がしたたり落ちていた。
次に、そのトゲをたどって上を見てみると、雲雀がγと戦った時に作った、巨大な球針態があった。
魅真が最初に開匣した雲ハリネズミの、2匹のうち1匹は螺旋攻撃に使っていたが、もう1匹は球針態を作らせるために使っていたのだ。
魅真は、周りにある雲の台を使って跳躍し、幻騎士のもとまで行くが、幻騎士はこんな状況にもかかわらず、ニヤリと笑った。
そしてその後に、霧となって消えた。
これは、幻騎士の幻覚だった。
しかし、魅真は驚くことなく、それ以上幻騎士がいた場所に近づかず、今いる雲の台の上で止まった。
そこへ、上から幻騎士が剣を構えて、魅真のもとへ降下してくるが、魅真はすぐにそちらを見ると、リングに炎を、いつもよりも大きく灯した。
炎は魅真を包みこむようにリングに灯り、魅真に向かってふりおろした幻騎士の剣をはじきとばした。これは、匣を開匣するためのものではなく、防御のために灯した炎だった。
更には、幻騎士の倍以上の大きさがある球針態が、幻騎士の右横からとんでくるが、それは剣で切って防御した。
幻騎士は球針態を切ると、近くにある雲の台に着地して、魅真と向かいあう。
「…貴様……幻覚を見破れるのか?」
「見破れない。でも、違和感は感じる。最初に戦ったあなたが、途中から胡散臭さを感じたから…。それに、武君との戦いで、散々幻術を使っていたあなたが、まっこうから正々堂々と斬り合ってくるわけがないもの」
魅真は術士ではなかった。ツナのように、超直観をもっているわけでもない。しかし、違和感は感じていた。
というのも、実は魅真は、幻覚強化プログラムを使い、少しでも幻覚を見破れるようにと修業をしていたからだった。
とは言っても、簡単に幻覚を見破れるわけがなく、結局は完成しなかったが、多少の違和感を感じることはできるようになっていたのだ。
「なるほど…」
魅真に説明されると、どこか納得した様子だった。
幻騎士はこの時、構えをといていたが、隙は見せていなかった。今は戦闘中だからだ。
それは魅真もわかっており、先程幻覚の幻騎士が刺さった大きな球針態を解除して、元の雲ハリネズミに戻した。
雲ハリネズミは元に戻ると、魅真のそばにやって来て、今度は魅真よりも一回りほど大きな球針態をいくつも作った。
雲の炎の増殖能力で、球針態はどんどん増えていき、魅真はあっという間に見えなくなった。
「(なるほど…。あのハリネズミが作る球体に隠れて、戦おうということか…)」
けど、幻騎士には魅真の考えはバレていた。
「(確かに、これだけ空間を埋めつくすほどの球体を作られては、雲の守護者の姿をとらえることはできぬ。だが……)」
そして、剣を構えると、おかまいなしに、球針態の隙間をぬうようにして、走って移動していった。
「(それは、雲の守護者とて同じこと)」
幻騎士に魅真の姿が見えなくなったということは、魅真もまた、幻騎士の姿が見えなくなったということなので、条件は同じ。
それに、自分の方が力が上だと自覚しており、更には幻術も使える。自分の方が有利だとわかっている幻騎士は、魅真を探した。
いくら実力の差がわかっていようとも、ずっと同じ場所にいるわけがないことはわかっているからだ。
その時、球針態の一つが、下から幻騎士に向かってとんできた。
しかし、幻騎士は難なく斬ってよける。
「そこか!!」
幻騎士は、きっと、今球針態がとんできた方に魅真がいるだろうと思い、球針態がとんできた下の方に、剣を構えて降下していく。
そして、その下にある球針態を斬ると、床に着地し、魅真を探すが、どこにもいなかった。
「(どこに行った…)」
てっきり、球針態がとんできた方にいると思ったのだが、見当違いだったので、辺りを見回して、魅真を探す。
すると、今度は周りにある球針態が左横からとんできたので、幻騎士は間一髪のところでそれを跳躍してよける。
しかし、跳躍した瞬間、今度は上から、更には幻騎士の右から、左から、ななめ上からと、まるで流星群のようにとんできた。
逃げ場がないように思える攻撃だが、幻騎士は次々とよけたり剣で切ったりしたので、あたることはなかった。
けど、破壊しても破壊しても、増殖能力で、どんどん球針態ができていく。
これで幻騎士はわかった。
球針態がとんできたからといって、球針態がとんできた方向に、魅真がいるとはかぎらないのだと……。
そして、魅真は自分から見えない場所にかくれていて、どこかで攻撃の機会をうかがっているのだと……。
だが、この部屋にいるのは間違いないし、魅真は術士ではないので、みつければそれが本物。
なので、神経を研ぎ澄ませて、魅真がどこにいるのかを探った。
すると、その数秒後に、わずかに足音がしたので、そちらの方へ走っていった。
「(いたっ!!)」
魅真と山本が入ってきた出入口とは、反対側の出入口の方に、魅真はいた。
魅真の姿をとらえると、幻騎士は剣に死ぬ気の炎をまとわせて、魅真を斬ろうと構えた。
だが、魅真はリングに炎を灯し、リングの炎で幻騎士の剣を防いだ。
「!!」
そのことに幻騎士は驚き、目を大きく見開く。
「(いくら硬度が低い霧の炎とはいえ、死ぬ気の炎をまとわせたオレの剣を完全に防いだ!?10年前の、最弱と言われていた、雲の守護者の一人…真田魅真が!?)」
目の前にいる、この時代から10年前の魅真が、ボンゴレ守護者の中で最弱だと言われているのは、幻騎士も知るところだった。
だからふしぎに思った。いくら死ぬ気の炎を使っていると言っても、強いと自負している、自分の攻撃を防いだのを…。
「(先程の防御といい、今の防御といい……もしやこの娘、防御に長けているのか…?)」
けど、ふしぎに思いつつも、一つの結論に達した。
魅真は、攻撃力よりも、防御力の方が高いのだということを…。
「(なかなか侮れんな…。防御をされては、ダメージを与えることすらできん…)」
幻騎士の剣が離れると魅真も離れ、距離をとるために、また走り出す。
走りながら、球針態を次々と作り出して、幻騎士の目をくらませた。
「(だが……!!)」
そして、幻騎士もまた、魅真の後を追って走り出した。
「(防御力には長けているようだが、攻撃力は未熟!!死ぬ気の炎をまとっていても、そこまで強くはない。トゲのついた球体を、部屋の空間を埋めつくすように、次々と増殖させているのがその証拠。隙をつき、一気にしとめる!!)」
修業前よりは、力が強くなった魅真だが、それでも幻騎士の敵ではなく、幻騎士は、次にみつけたら一気に距離をつめて、魅真を倒そうとした。
しかし、球針態が増殖するスピードが結構速いので、あっという間に魅真の姿は見えなくなってしまった。
「(くっ…。結構増殖スピードも速い!!)」
防御力に長けているだけでなく、増殖スピードが速いことにも、幻騎士は気づいた。
けど、それでも幻騎士は球針態を破り続けた。
一方で魅真は、どんどん球針態を増殖させていた。増殖させながら、一度薙刀を匣にしまい、球針態の間を移動していた。
薙刀を持っていると、球針態にひっかかって、うまく進めないからだ。
「(あいつは、どこから本物が来て、どこから幻覚が来るかわからない。でも、違和感は感じるから、全部薙刀で倒す。同時に本物を探す。そして、本物が来たら、最大の炎をまとわせて、一気に片をつける!!)」
幻騎士一人だけに、あまり時間を割くわけにはいかなかった。
修業を始めたばかりの頃よりは、体力や攻撃力や防御力が伸びた。だから今も、こうして戦っていられる。
けど、この後どんな手強い敵が待ち構えているかわからないし、わかれてしまったツナや獄寺や了平が今どこにいるかわからない上に、運よく合流できるかどうかもわからない。端末が壊れてしまったからか、現在地とマップが一致せず、目的である白くて丸い装置は、今どこにあるかわからない。それに、入江正一のこともある。そのためにも、体力はなるべく温存しておかなくてはならない。
なので、なるべく早く倒そうと考えていた。
一方幻騎士は、球針態がどんどん増殖され続けているが、それでもひるまず、斬りながら進んでいた。
するとそこへ、左側から球針態がとんできた。しかも、幻騎士の倍以上はある大きなものだった。
普段なら、よけることはわけないのだが、反応が遅れてしまったのと、すごい勢いと速さでとんできたので、幻騎士はとんできた球針態と、そばにあった球針態にはさまれ、つぶれてしまった。
しかし、またしてもそれは幻覚で、つぶれた幻騎士は、霧となって消えた。
そのすぐ後に、魅真が雲の台を使って上に跳んできて、幻覚の幻騎士がいた場所に着地しようとした。
その時、本物の幻騎士が、魅真の右側から剣を構えて、球針態や雲の台を使って、魅真のもとへやって来た。
視界の端に映っていたため、魅真はすぐに気づいたので、幻騎士が剣をふりおろすと同時に、雲の台の上に着地し、球針態の壁で防御した。
斬ることができなかった幻騎士は、一度後ろへ跳んで距離をとった。
幻騎士が後ろの、球針態の上に着地すると同時に、魅真は今乗っている雲の台を使って跳躍して、素早く匣を開匣して薙刀を取り出し、炎を纏わせて、幻騎士を斬ろうとした。
そのことに反応した幻騎士も、魅真を剣で斬ろうと、剣に炎をまとわせて、魅真に向かってふりおろすが、リングの炎で防御される。
魅真は下にある雲の台の上に、幻騎士は後ろに跳んで雲の台の上に着地をすると、魅真は再び幻騎士に攻撃しようと薙刀を構え、雲の台の上を跳躍しながら、幻騎士のもとへ行き、距離をつめていった。
「!! (この感じ…)」
だが、その時魅真は、目の前の幻騎士に違和感を感じた。
けど、幻覚でも斬っておくと決めたので、薙刀で薙いで、幻騎士を斬った。
思った通り、この幻騎士は幻覚で、霧となって消えていく。
「(いつの間にか、本物と幻覚が入れ替わった。本物はどこに…)」
気づかないうちに、本物と幻覚が入れ替わっていたので、魅真は辺りを見回して、本物を探した。
「!!」
探していると、微かに空気を裂く音が後ろからしたので、そちらに顔を向けると、そこには幻騎士が、炎をまとった剣を構えて、雲の台や球針態を利用して、魅真のもとへ距離をつめてきた。
魅真は目の前にいる幻騎士に、違和感を感じなかったので、一気にとどめをさそうと、最大の炎を薙刀に灯して、幻騎士と同じように雲の台や球針態を利用して、幻騎士との距離をつめていった。
お互い距離をつめていき、相手との距離が近くなると、それぞれ武器をふりかざした。
幻騎士は剣を上から下にふりおろし、魅真は下から上にななめにふると、数秒後に、お互いの武器がぶつかりあい、剣と薙刀の金属音が響いた。
お互い武器をぶつけあうと、再び幻騎士の剣と魅真の薙刀の応酬がくり広げられ、何度も何度も、絶え間なく金属の音が響き渡り、両者一歩も譲らなかった。
けど、ある瞬間、幻騎士は剣をまとう炎を強くすると、剣をふりおろして、渾身の一撃を食らわせようとした。
だが、魅真はその攻撃を、薙刀で受け止める。
これには幻騎士も驚き、一度攻撃をやめて、後ろに跳んで距離をとり、魅真と向かい合った。
「このオレを相手に、ここまで戦うとは…。最弱と呼ばれているわりには、思ったよりもやるな、雲の守護者…」
そして、最弱と言われている魅真が、自分の攻撃を止めたので、幻騎士は魅真を称賛した。
「私は…最弱じゃないわ」
「む?」
「確かに、ちょっと前までは、自分でもそう思ってた。でも、今は違う。今はもう、最弱なんかじゃない!!」
魅真のこの気迫に、幻騎士は目を丸くして固まった。
その隙に、魅真は更に薙刀に灯している炎を強くすると、距離をつめ、幻騎士の前まで来ると薙刀をふりおろして、幻騎士にとどめをさそうとした。
だがその時、後ろから幻騎士の幻覚が現れ、素早く距離をつめてきた。
「!!」
幻覚の幻騎士は、魅真の近くまで来ると、霧の炎をまとった剣を横にふって、魅真を斬ろうとした。
背後に気配を感じた魅真は、後ろへふりむいてみると、そこには幻騎士がいたが、反応が遅れてしまったので、お腹を斬られてしまう。
「くっ……」
しかし、球針態で防御したために、深手は負わなかった。
それでも、身を守るには一瞬遅く、剣の軌道をそらせる程度だったので斬られてしまい、斬られたところからは血が流れ、魅真は苦痛に顔をゆがめるが、それでも倒れるほどではなく、足がふらついたりもしたが、なんとかふんばり、薙刀を構えて戦おうとした。
その時、本物の幻騎士も剣で攻撃をしてきたので、魅真はリングの炎で防御をした。
防御をされたので、剣がはじかれてしまい、幻騎士は後ろにさがった。
「斬られても戦おうとするその姿勢…。根性だけは認めてやる…」
斬られて、荒い呼吸をする魅真に対して、ダメージを負っていない幻騎士は、余裕の表情だった。
「だが……おまえは、雨の守護者以上につたなく、また未熟……。子供だましだ…。気力だけでは勝てぬぞ。あきらめろ……」
幻騎士の言う通りだった。
自信過剰で、見下しているようにも思えるが、言ってることは間違いではない。
幻騎士と自分とは、力の差があることはわかっていた。気力だけで勝てる相手ではない…。
しかし、そんなことであきらめるわけにはいかなかった。
「貴様との遊びにも、そろそろ飽きた。次で楽にしてやろう…」
幻騎士は魅真にとどめをさすために、剣を構えた。
幻騎士が構えると、魅真も薙刀を構え、リングにも炎を灯す。
この計画を、何がなんでも成功させて、過去に帰る。帰って、また自分の時代の雲雀に会いたい。その想いが、魅真の原動力となっており、心と体を動かしていた。
「さらばだ!!ボンゴレ雲の守護者、真田魅真よ!!」
幻騎士は距離をつめて、魅真を葬るため、剣をふりおろそうとした。
魅真もまた、やられるわけにはいかないので、リングと薙刀の炎を大きくして、防御しようとした。
だがその時、突然壁に亀裂が入ったので、幻騎士は剣の動きを止める。
「「?」」
魅真と幻騎士が、その亀裂が入った方に目を向けると、亀裂は大きくなり、次の瞬間には、壁や鋼鉄の柱をも破壊し、近くにあった球針態はその衝撃で砕かれ、消えてなくなった。
「「…………」」
突然の出来事に、何事かと思った魅真と幻騎士は、目を見張った。
「ああ、君…」
破壊された壁の向こうから誰かがやって来て、幻騎士に声をかける。
「丁度いい」
その人物は、スーツを着ており、左手には、魅真と同じデザインの、雲の装飾がほどこされた匣があった。
そして、そう言った直後に、胸のあたりまであげている、右手につけているリングが、粉々に砕け散る。
「白く丸い装置は、この先だったかな?」
それは雲雀だった。
雲雀は、雲ハリネズミを伴い、回転させた巨大な球針態で、壁を破壊して、この部屋に入って来たのだった。
「もう一人のボンゴレの雲の守護者、雲雀恭弥か…」
幻騎士に名前を呼ばれるも、雲雀は鋭い目で幻騎士を見据えているだけだった。
「その問いに答える必要はない」
幻騎士は、次は雲雀を相手にするために、匣を開匣する。
フタが開くと、中からは、匣に入っていた「何か」が、いくつも出てきた。
「貴様は、ここで死ぬのだからな」
そして、その「何か」は、とび出すと同時に、別の景色を形作った。
.