標的54 10年後の未来
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弾にあたった魅真は、オレンジ、赤、青、紫、緑、黄色、藍色と、七色に輝く空間を移動していた。
とは言っても、魅真自身が歩いているのではなく、魅真の体が、自然に、何かにひっぱられるようにして動いているだけだった。
「何?ここ……」
どちらが上で下なのかもわからない空間に、魅真は驚き、同時に恐怖した。
「さっき弾にあたったから……もしかして、天国…?」
弾をくらって生きているわけがない。生きていたとしても、血みどろの、悲惨な状態になっているはず。でも、体はどこもなんともない。それならきっとあの世だろうと、魅真は結論づけた。
「ま……それもいっか…」
魅真はあきらめの表情で、無気力にぽつりとつぶやいた。
「雲雀さんに必要とされないんだったら、生きていてもしょうがないし……」
魅真があきらめたのは、ここがあの世なら、今更どうあがいてもどうにもならないだろうし、何よりも、雲雀に完全に嫌われてしまった上、並盛町にいることすらできなくなってしまったからだった。
標的54 10年後の未来
とある場所のとある部屋の中に、突然ボフンッという音とともに、ピンク色の煙が漂った。
煙がはれると、そこに現れたのは魅真だった。
「あ…れ……?」
七色の空間をしらばく移動した魅真は、突然見知らぬ部屋に来てしまった。
「ここ……どこ…?」
まったく見たことのない部屋を、魅真は見回した。
そこは、ベッド、本棚、机、クローゼット、テーブルといった、最低限の家具がある、15畳ほどの、それなりに広い、白い壁のとてもシンプルな部屋だった。
一見して、男性のものとも女性のものともとれるその部屋は、ベッドのシーツの色が淡いピンク色だったのと、テーブルの上に編み物と毛糸が入ったカゴがあることから、女性の部屋であるということがわかった。
魅真はカゴの中にある毛糸と、テーブルの上にある編み物を、何気なく見てみた。
その編み物は、編み始めたばかりのようで、まだほんの少ししかできておらず、形になっていない上、紫色という、男性と女性、どちらともとれる色なので、一体何を編んでいるのか、どういった理由で編んでおり、誰用のものなのかは、さっぱりわからなかった。
でも、しょせんは誰がやっていたのかもわからないものなので、さほど興味を示さず、すぐに目をそらした。
「それにしても……ここは、一体どこなんだろう?あの世ってわけでもなさそうだし…」
あの世ではなさそうだが、さっきまでいた場所でもないし、知ってる場所でもないので、魅真は頭を悩ませた。
「ここで悩んでいても仕方ないし、調べてみよう」
魅真はここが一体どこなのかを確かめるため、ここから脱出するために、薙刀をぎゅっとにぎりしめて、部屋の外に出た。
部屋の外に出ると、そこは普通の場所だった。
今出てきたところ以外にも、たくさんの扉が並んでいるが、マンションやアパートとは言いがたいようなところで、通路や全体の雰囲気は、ホテルに近かった。
ここは一体どういうところなのだろうと思ったが、ここに誰がいるのか、そしてここにいる人物は、自分の味方なのか、それとも敵なのかわからないので、足音をなるべくたてず、声は出さなかった。声を出すことで、ここにいる人物に気づかれてしまい、敵だった場合、ピンチに陥る可能性があるからだ。
魅真は薙刀を強くにぎりしめて、なるべく足音をたてないように、慎重に、ゆっくりと進んでいった。
警戒しながら進んでいくこと、約20分。気をはりながら歩いているので、いつもよりも力が入り、顔がけわしくなっていた。
「(誰にも会わないし、どの部屋からも、誰の声も聞こえてこない。本当にここって、人が住んでるの?廃屋敷にしては綺麗だから、誰かしらいると思うんだけど……)」
こんなに広く、こんなにたくさんの扉があるのに、誰もいないので、魅真はふしぎに思った。
「(おかしいな…)」
そう思った時、声が聞こえてきた。
声が聞こえると、魅真は警戒を強め、壁に体をくっつけて、相手からなるべく自分の姿が見えないようにして、薙刀を構えた。
けど、その警戒心は、すぐになくなった。
そして、構えをとき、壁から体を離し、目の前にある角をまがった。
「「「!!」」」
魅真が姿を現すと、そこにいた人物は驚いた。
「やっぱり…。ツナ君と隼人君と武君!」
「魅真!」
「魅真ちゃん!」
「え……。魅真…か…?」
そこにいたのは、ツナと獄寺と山本だった。
三人を見ると、魅真はツナ達のもとへ走っていく。
「どうしたの?なんでツナ君達もここに?」
「いや…それは、こっちのセリフでもあるんだけど……」
「へーー。今度は魅真がちっこくなったのな」
「え?…え…………武……君?」
「おう、そうだぜ」
魅真は山本を見て、眉間にしわをよせた。
何故なら、体格がガッシリとしており、スーツを着ており、一昨日はなかったはずのあごの傷があり、もともと背は高かったのだが、更に高くなっていたからだ。
魅真は山本を見ると、何かを確かめるように、山本の隣にピッタリとくっついた。
そして、自分の頭のてっぺんに手をもってくると、その手を自分の頭のてっぺんと山本の体の方に左右に動かして、背の高さをはかった。
そのあとに、また山本と向き合うと、山本を見上げて、ジッとみつめた。
「やっぱり……」
「どうかしたのか?」
「何がやっぱりなの?魅真ちゃん」
真剣な顔をしていたので、何かすごいことを発見したのかと、三人とも生つばを飲みこんだ。
「武君……」
魅真が山本の名前を呼ぶと、三人は魅真を凝視して、魅真が何を言うかを待った。
「背ぇ伸びた?」
けど、真剣な顔で何を言うのかと思いきや、心底どうでもいいことだったので、ツナと獄寺はベタにずっこけた。
「そりゃあ、あれからだいぶ経つからな。背も伸びるさ。まだまだ育ちざかりだったかんな」
「へぇ~~。ほんの少ししか経ってないのに、背ってこんなに伸びるもんなんだね」
「「(ずれてる…)」」
最後に会ってから、たったの2日しか経っていないから、いくら育ちざかりといっても、そんなすぐに背が伸びるわけないのに、魅真は山本の言うことを違う方に解釈していた。
「あの……魅真ちゃん」
「何?ツナ君」
「この人は山本だけど、魅真ちゃんが知ってる山本じゃないんだ」
「え…。どういうこと?」
「ここは、オレ達がいた時代から10年後の世界で、ここにいる山本は、オレ達からすると、10年後の山本なんだ」
「えぇっ!?」
ツナが、この世界のことと目の前の山本のことを説明すると、魅真は驚いた。
「10年後って……え?どういうこと?」
タイムトラベルなんて、現実に考えてありえないので、魅真は混乱する。
「魅真ちゃん、ここに来る前に、ミサイルみたいな形の弾にあたらなかった?」
「あたったけど……なんでツナ君が、そんなこと知ってるの?」
「あれは、10年バズーカの弾なんだ」
「え…。10年バズーカって確か……ランボ君が持ってるっていう…あの?5分間だけ、10年後の自分と入れ替わるっていう」
「うん。そうなんだ」
「えっ?でもランボ君、近くには見当たらなかったけど……」
以前、リング争奪戦の時に10年バズーカのことは聞いたが、まさか自分があたるとは思っておらず、更にはランボもいなかったのに、弾だけが飛んできたので、魅真は驚き、ふしぎに思った。
タイムトラベルというのも、にわかには信じられないが、それなら目の前の山本がどこか雰囲気が違うのも、知らない場所に来たのも説明がつくというものだった。
「でも…そっか…。死んだわけじゃなかったんだ…」
真実を知り、魅真はどこかがっかりしていた。
そんな魅真を見て、何故がっかりしてるのか、ツナ達はふしぎに思った。
「あれ…?でも…もう、とっくに5分経ってるんじゃ…」
「そうなんだよ。オレ達も昼間にここに来たんだけど、5分経っても戻らないんだ」
「そ…っか…」
何故か、自分達のいた時代に戻ることができないのを知っても、そんなにあわてておらず、むしろ冷静に現実を受け止めている魅真に、ツナ達は更にふしぎそうにした。
「ところで、ここはどこなの?それに、その女の人は?」
知らない場所にいて、山本が知らない女性を抱きあげているので、魅真はずっと疑問に思っていたことを三人に聞いた。
「ここは、この時代のボンゴレのアジトだ」
「ボンゴレの…アジト!?」
その、魅真が疑問に思っていたことを、山本が答える。
「そうみたいなんだ。それで、この女の人は、ラル・ミルチっていって、ボンゴレ門外顧問の人なんだって」
「ボンゴレ門外顧問って、家光さんの?」
「そうなんだ。それでこの人、なんか、ここに来た途端に、気分が悪くなってしまったみたいで…」
「え…。大丈夫なの?」
知らない女性ではあるが、急に倒れたと聞いた魅真は、ラルが心配になった。
「とりあえずは大丈夫だ。この場所は、お前達がいた時代と違って、彼女達にとって、外界とは違うつくりになってるんだ。環境の急激な変化に、体がショックを起こしただけだからな」
「環境?どういうことなの!?もしかして、大気汚染とか…?それに、外界とは違うつくりって?」
「そいつは、これから説明してやる。ツナ達と一緒についてこい」
「う、うん」
ここがどこのどういう場所かがわかり、ツナや獄寺、10年後の姿ではあるが山本といった、よく知った人物と会えたことで、魅真はほっとして、三人のあとについていった。
そして、山本について歩いていくこと約数分。
「さあ、ついたぜ」
ある部屋の扉の前まで来ると、山本はラル・ミルチを抱きあげたまま、器用に扉のノブをまわして、扉を開けて中に入った。
ツナ、魅真、獄寺も、山本に続いて中に入っていく。
「おせーぞ」
中に入ると、その部屋から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
その声に反応した三人は、右ななめ前の方に顔を向けた。
「ちゃおっス」
そこにはソファがあり、行方不明になっていたリボーンがすわっていた。
「………リ…」
リボーンの姿を見ると、ツナは瞳が潤んだ。
「リボーン…」
涙腺がゆるみ、目にうっすらと涙を浮かべ、ツナは喜びで体が震えながらも、リボーンの方へ歩いていく。
「だきしめて~❤」
「?」
けど、何故か目の前にリボーンがいるというのに、後ろからもリボーンの声が聞こえてきた。
「こっちよ!!」
「ふげーー!!」
声が聞こえたと思うと、目の前にいたはずのリボーンが、上からツナの頭を蹴りとばした。
「あでででで!!」
「ツナ君!」
「大丈夫っスか!?」
「後頭部に、土ふまずがフィットしたぞ」
強い蹴りに、ツナは蹴られたところをおさえてうずくまり、魅真と獄寺は心配そうにしているが、ツナを蹴った本人であるリボーンは、相変わらずひょうひょうとしていた。
「な!!なんなんだよ!!この、ふざけた再会は!!こっちは死ぬ思いでおまえを探してたんだぞ……!!またヘンなカッコして!!」
当然ながら、ツナはリボーンに、泣きながら抗議した。
「(でも……無事でよかった!!)」
けど、それはそれとして、リボーンが無事だったことに、ツナはほっとしていた。
「しょーがねーだろ?このスーツを着てねーと体調最悪なんだ。外のバリアも、オレのために作らせたんだしな」
「!? どういうことだよ」
「オレにはキビしい世の中ってことだ」
「?」
「そ…そーだ!おかしいんだよ!過去に戻れないんだ!」
「それくらいわかってるぞ。おかしいところはそれだけじゃねーしな。10年バズーカなのに、この時代は撃たれてから、9年と10か月ちょっとしか経ってねーんだ」
「え…!?」
「なんでこんなことになっちまってんのか、オレにもさっぱりだ」
「! そんな…。やっぱり、リボーンにもわからないんだ」
いろいろとおかしなことになっているが、リボーンにも原因はわからないので、ツナはショックをうける。
「まあ、わけのわかんねー土地にとばされなかっただけでもよかったけどな」
「土地…?そーだ!!ここって…ここってどこなんだよ!?」
「ん?そんなこともわかってねーのか?」
「だから、いろいろ大変だったの!!」
「モニターに映るか?」
「ああ」
リボーンに言われると、山本は返事をした後にリモコンを操作する。
すると、山本の隣にある、壁にかかったモニターの電源が入り、上空から見た、どこかの街が映しだされた。
「これが地上(うえ)だ」
「?」
「どこなの?この街」
「暗くてよく見えねぇ…」
「こいつは見覚えあるはずだぜ」
リモコンを操作して画面を切り替えると、次に映しだされたのは学校だった。
「!? なっ、並中ーー!!?」
映された学校は、今現在自分達が通っている、並盛中学校だったのである。
「ってことは、ここ並盛なの!?」
「日本だったんスかーー!?」
ツナと獄寺はすごく驚いているが、ツナと獄寺のように、外で入れ替わったわけではない魅真は、なんでそこまで驚いているのかふしぎに思った。
「そーだぞ。そして過去に戻れない以上…ここで起こってることは、おまえ達の問題だぞ」
10年後(正確には9年と10か月ちょっと)で起こっていることなのに、ここから10年前の、自分達にも関係してるのだと言われ、魅真達は、モニターからリボーンの方へ顔を向けた。
「現在、全世界のボンゴレ側(サイド)の重要拠点が、同時に攻撃を受けている。もちろんここでも、ボンゴレ狩りは進行中だ」
「ボンゴレ…」
「狩り…?」
「どういう…こと?」
「ツナ、獄寺、おまえ達も見たはずだぞ。ボンゴレマークのついた棺桶を」
「か、棺桶!?」
「それって、オレのことー!?」
外に現れなかった魅真は、ボンゴレマークのついた棺桶という単語と、ツナの反応で、この時代のツナの状態を知り、驚愕すると同時に、顔が青ざめた。
一方獄寺は、暗い影を落として、歯を強く噛みしめる。
「てめえ!!」
そして山本に詰め寄ると、山本の顔を殴った。
「何してやがった!!何で10代目があんなことに!!」
「ひいっ、獄寺君!」
「隼人君!」
ツナはびっくりし、魅真は注意するように獄寺の名前を呼んだ。
「すまない」
山本は獄寺に殴られ、責められ、殴られたせいで、口の端から血が出たが、獄寺を責めることなく、暗い影を落とし、どこか悔しそうな顔で謝罪をした。
「てめえ、すまねーですむわけ…!!」
「やめろ、獄寺」
獄寺は更に山本を責めようとするが、そこをリボーンに止められる。
「10年後のおまえもいたんだぞ」
「! く……そ…」
そして、とどめをさすかのような一言を言われると、悔しそうにうつむいた。
「敵であるミルフィオーレファミリーの恐ろしいところは、もちろん戦闘力の高さだが、それよりもやべーのは、目的が、ただ指輪を得るための勝利や制圧じゃないことだ」
「!?」
「本部が陥落した時点で、ミルフィオーレは、交渉の席を用意して、ボンゴレ側のある男を呼びだした。だが奴らは、その席で一切交渉などせず、男の命を奪ったんだ……」
遠回しに話したが、その「男」というのが、間違いなくこの時代のツナのことなのだと三人はわかり、話の内容に驚愕した。
「それからも、こちらの呼びかけにも一切応じず、次々とこちらの人間を消し続けている…。奴らの目的は、ボンゴレ側の人間を、一人残らず殲滅することだ」
「つ…つまり、過去からきたオレ達も、危ないってこと…?」
「それだけじゃねーぞ。おまえ達と関わりのあった知り合いも、的にかけられてるんだ」
「!」
「えっ!!」
「そ……それって!」
「うろたえんな。まだ、希望がなくなったわけじゃねえ。山本、バラバラに散ったとはいえ、まだファミリーの守護者の死亡は、確認されてねーんだな」
「ああ…」
「なら、やることは一つだ。おまえはちりぢりになった、7人の守護者を集めるんだ」
「え!?」
「歴代ボスも、ずっとそうしてきたんだ。ボンゴレに危機が訪れる時、必ず大空は、6人の守護者を集め、どんな困難をもぶち破る。まあ、お前の代は7人だがな」
「だ…だけど、たった8人集まったところで…」
「逆だぞ。奴らと勝負できるのは、おまえ達しかいねーんだ」
ボンゴレの本部を陥落させ、ボンゴレだけでなく、ボンゴレの人間の知り合いまで狩ろうというのは、それだけ規模が大きいだけでなく、強い力をもっているということなので、10人にも満たない少人数で勝てるわけがないのは、誰の目にも明らかだったが、リボーンはそれを否定した。
「この時代の戦い方は特殊だが、だからこそ、おまえ達8人にも分があると、オレは思ってる」
「何…言ってんだよ……。わけわかんないよ!
それより、オレ達の知人も、ボンゴレ狩りの的になるっていってたけど…。それって、母さんや、京子ちゃん達も入ってんのか!?」
「ミルフィオーレが抹殺する対象は、拡大し続けている。彼女達も、おそらく…」
「そんな…!!大変だ!!どうしよう、リボーン!!」
「手はうってある」
「!?」
「オレがラル・ミルチを迎えにいくのと同時に、イーピンとランボが、笹川とハルを探しにいったんだ」
「! あいつらが?」
「そうか!イーピン達、こっちじゃチビじゃないんだ!!」
「今は連絡待ちだ。ママンはタイミング悪く、5日前に、家光とイタリア旅行に行っていてな。状況がつかめねぇ」
「! イタリアって…!まさか…母さん…?」
ボンゴレ狩りをしてるということは、イタリアにもミルフィオーレがいる可能性が高いので、ツナは顔が真っ青になった。
「ビアンキとフゥ太は情報収集に出ている。他の仲間だが……この2日間で、ロンシャン達や持田は行方不明……。10年間にできた、知人のほとんども消された……」
「「「!!!」」」
「山本の親父もな…」
「そ…そん…な…」
リボーンの口から出た事実に、山本は悔しそうな、悲しそうな顔をしており、魅真、ツナ、獄寺は驚愕し、ショックをうけた。
「とりあえず、今日はここまでだ。明日から、守護者を探しに行くからな。そのためにも、今日はもう休め。ぐっすり眠って、明日にそなえろ。いろいろとつかれただろうからな」
「え?うん……」
「わかりました」
「……………」
リボーンの言うことに、ツナと獄寺は返事をするが、魅真だけ返事をせず、リボーンを見ていた。
「どうしたんだ?魅真」
「え?」
「さっきから、どこかぼーっとしてるぞ」
「え……あっ………えっと……その………なんでも……ないよ……」
「…そうか……」
明らかに何かあったのはわかったが、魅真が言いたくなさそうだったので、リボーンはそれ以上は追究しようとはしなかった。
「そんじゃ、ここにいる間の、お前達の部屋に案内するぜ」
山本は三人に、ついてこいと言わんばかりに、踵を返し、扉の方へ向かっていった。
三人は山本のあとについていくが、途中で魅真が、リボーンの方へふり向く。
「リボーン君は?寝ないの?」
「オレはまだ用事があるからな。先に休め」
「わかった。じゃあ、おやすみリボーン君」
「ああ、また明日な」
リボーンにあいさつをすると、魅真は再び山本のあとについていき、自分の部屋へ案内してもらった。
同じ頃、イタリアでは……。
「白蘭様、報告します」
ある都市に、一際高くそびえ立つ高層ビル。ここは、敵のミルフィオーレファミリーの本部。そこの最上階では、白い服を着た黒髪の男が、同じ白い服を着ている、窓際に立つ男に仕事の報告をしていた。
「第14トゥリパーノ隊の報告によりますと、キャバッローネは思いのほか手強いようです。こう着状態に入った模様です」
「やっぱりね……」
「また、メローネ基地より、入江正一氏が日本に到着したとの連絡が入りました」
「お。早いね、正チャン」
窓際に立っていた男・白蘭は、まだ若く、髪が白く、目は薄紫色で、左目の下にペイントのある男だった。
白蘭は入江正一の名前を聞くと、口角に笑みを浮かべて、顔を後ろにいる黒髪の男の方へ向けた。
「見ない顔だね」
「はっ。自分はこのたび、ホワイトスペルの第6ムゲット隊に配属された、レオナルド・リッピ、F級(ランク)です」
「あーそー、ヨロシクね。様はつけなくていいよ。暑苦しいから」
「は…しかし…」
相手はこのミルフィオーレファミリーのボスなので、そういうわけにもいかず、レオナルドは戸惑った。
「うちは、やることさえやってくれれば、幸せになれるの」
けど、白蘭がにっこりとはりつけたような笑みを浮かべると、レオナルドはそれ以上は何も言わなかった。
「さっそくことづけ頼まれてくれる?レオ君」
「! は…はい!」
「日本へ行った正チャンにさあ、花を届けてほしいんだ」
「花…でありますか?」
「うん。白いアネモネを、山のようにね」
同刻、日本。
山本に、最初にいたところとは別の部屋に案内してもらった魅真は、二段ベッドの下の方で横になっていた。
けど魅真は、ベッドの中に入っていたが、目はつむっていなかった。
部屋は当然男女別で、この部屋には魅真しかいなかった。
魅真は、しわになってしまうということで制服をぬぎ、キャミソールの格好で寝ていた。
壁にはぬいだ制服がかけられており、壁からベッドにかけてはってあるロープには、洗った下着がほしてあった。さすがに、洗っていないものを、連日でつけるわけにはいかないからだ。
魅真は今、考えごとをしていた。
「(京子ちゃんとハルちゃん、大丈夫かな?それに、他のみんなも……)」
それは、まだ安否がわかっていない、京子やハル、ランボやイーピン、ビアンキやフゥ太といった、自分の友人達についてだった。
「(それに………)」
京子達のことを考えていると、次に思い浮かんだのは雲雀の顔だった。
「(雲雀さんも……大丈夫かな)」
ケンカしたまま別れてしまったが、この時代の雲雀のことを心配していた。
「(雲雀さんのことだから、大丈夫だろうけど……でも……)」
雲雀が強いことは十分知っているが、それでも今回の敵は、ボンゴレを陥落させてしまうほどの力を持ったマフィアなので、やはり心配だった。
「(それに、私の時代の雲雀さんは、どうしてるんだろう?家に帰った?それとも学校?いきなり消えた私のことは、どう思ってるんだろう。ちょっとは心配してる?それとも、全然気にしてない?それとも……)」
『君なんか……もういらない…』
「!!!!!!」
この時代の雲雀の身を案じていると、ふいに、ここに来る前に自分の時代の雲雀に言われたことを思い出した。
魅真の心をえぐるその言葉は、魅真を簡単に闇の中にたたき落とした。
その言葉を思い出して、顔色が真っ青になった魅真は、かけていたふとんを頭からかぶり、外からは自分の姿が見えないようにした。
「(…やっぱり、私のことなんか心配してないよね。そりゃそうだよね。風紀委員を辞めてもらうって言ってたし、雲雀さんちからも、並中からも、並盛町からも出てってもらうって言ってたもの…。
バカみたい、私…。こんなになっても、雲雀さんのことを考えてしまってるなんて……。だけど……もう……!!)」
ふとんの中の魅真は泣いていた。
閉じた目の隙間から流れる涙は、下にあるまくらにシミをつくっていった。
次の日の朝。
「そーか…。本国のボンゴレは、そこまでダメージをうけてんだな」
「ああ…」
リボーンと山本は食堂で、ラルから報告を聞いていた。
「おまえの仕事は、ここの状況を報告することだったんだろ?だが、門外顧問との連絡は断ち切られてる。これからどーするんだ?」
「………………白蘭を獲る。単独でな」
ラルは立ちあがり、リボーンに返した。
ラルの返事に、山本もリボーンも、きびしい顔をする。
「無茶だぞ。外には、オレ達に有害な非7³線(ノン・トゥリニセッテ)が放射されてんだ。呪いで死ぬぞ」
「覚悟はできてる。どうせ、オレの命は長くない。なりそこないにしても、非7³線(ノン・トゥリニセッテ)を浴びすぎた………」
「今はツナ達に、おまえの力が必要なんだ。考えなおせねーのか?」
「おまえと山本がいれば充分だぜ。断る」
一刀両断すると、ラルは扉の方へ歩いていく。
「コロネロの敵を討つ気だな」
「!」
核心をつかれると、ラルは一瞬硬直して、その場に止まるが、すぐにまた扉の方へと歩きだした。
「!」
扉の前まで来ると、自分が扉のセンサーの前に来るよりも、ほんの少し早く扉が開いた。
「あ!よお…」
「えと…」
「おはようございます、ラルさん」
魅真達も、いきなりラルが目の前にいたので驚いていたが、とりあえずあいさつをした。
「……」
けど、ラルはあいさつをされても、何も言わずに、ツナと獄寺の間を通りぬけ、外へ出ていってしまった。
「「「(コロネロ(君)の…敵…?)」」」
リボーンの言葉が聞こえていたらしく、なんのことだろうと、三人は疑問を抱いた。
「おめー達、よく眠れたか?」
「よお」
「いよいよ、守護者を集めるミッションをスタートさせるぞ」
「え!?ちょ…ちょっと待ってよ!!まだ、心の準備が…。そ…それに…!」
いきなりミッションのことをリボーンに言われて、ツナは不安になり、戸惑った。
「いつまでも、京子達の心配したって始まんねーぞ。守護者を集めることが、最終的に、京子達を守ることになるんだ」
「!!」
リボーンはツナの不安な心を見抜いた。どちらにしても、外に守護者を探しに行く以外に選択肢はないので、ツナはびびってしまった。
「大丈夫っスよ、10代目!アホ牛はともかく、イーピンは結構やります!きっと無事に帰ってきますよ」
「獄寺君…」
けど、そこへ獄寺が、ツナを安心させるように笑顔で話しかけた。
「んじゃ、始めっぞ。あれから山本と話し合ったんだが、最初に欲しい守護者は、即戦力…つまり、つえー奴だ」
「! 強いっていったら…」
「そうだ。ボンゴレ10代目最強の守護者、雲雀恭弥だ」
雲雀の名前が出ると、魅真はドキッとなり、表情が暗くなった。
「ま…オレがここにいるし、残りの守護者ん中じゃ、最強っスね…」
「(ここで張り合ってきたー!!)」
苦しい言い訳のような張り合いをする獄寺に、ツナはひいていた。
「(そりゃ、ヒバリさんがいたら、心強いけど………)」
けど、ツナはまだ戸惑いや不安があった。
「でも、ヒバリさん、今どこに…?」
「それが、よくわかんねーんだ」
「!」
「オレも、ここをしばらく離れてて、今、守護者の皆がどこにいるのかわからねぇんだ。ヒバリの手がかりはこいつだけだ」
山本は話しながら、一枚の写真をツナに渡す。
「なぁ!?これって、バーズの鳥じゃなかった!?」
その写真に写っていたのは、以前黒曜戦で戦った、バーズという男が飼っていた黄色い小鳥だった。
「今はヒバリが飼っていて、ヒバードっていうらしいぞ」
「(誰が名前つけたのー!?)」
「ずっと前に、ハルがヒバリの肩に乗ってるのを見かけたらしくてな…」
「(確かになついてた……)」
「手がかり…それ…だけですか…?」
このたった一枚の、ヒバードが写っているだけの写真で雲雀を探さなきゃいけないので、ツナは先行きが不安になっていた。
「まあ、でも並盛好きのあいつのことだ。きっと、この町に手がかりはあるはずだ。オレはいけねーが、しっかり連れて帰ってこい」
「! おまえ…そんなに、外だと体調ひどいのか……?」
「よけーな心配すんな。いずれ、この話はしてやる。準備しろ」
「……… (でも…リボーンなしじゃオレ…)」
リボーンは、ツナを不安にさせたり、心配させたりしないように言うが、それでもツナの心から、不安はなくならなかった。
「山本がついてるぞ。奴は、この時代の戦いを熟知している」
「え…。そ…そう…だけど」
「なーに、ビビるこたぁないさ。おまえ達は、この時代のオレ達が失った、すんげー力をもってんじゃねーか」
「!?」
「失った…すんげー力……?」
「………おまえ達は、希望とともに、来てくれたんだ。
ボンゴレリングっていうな」
それから準備ができると、四人はさっそく、守護者を探しに外に出た。
「! ここって…」
「そーだ。5丁目の工場跡だ…。6つある入口の一つは、ここにでるんだ」
「おい……!ボンゴレリングはどーなってんだよ!!」
「とりあえず、並中行くか」
雲雀といえば並中なので、行き先は早々に決まった。
並中という言葉を聞くと、魅真は胸がドキッとなる。
「コラ!聞いてんのか!?」
三人が普通に歩いている中、獄寺だけが、山本に噛みつくように質問をする。
「? 何だ?」
「ボンゴレリングだ!!なんでこの時代にねーんだよ!」
「あー、その話な。だいぶ前に、リングを砕いて捨てちまったんだ」
「なーーー!?捨てたー!!?」
命がけで戦って、ようやく手に入れたのに、ゴミ扱いされていたので、ツナは驚いた。
「あんなに苦労して手に入れといて!?」
「だれがそんなことしたんだよ!!」
当然、ツナだけでなく獄寺も驚き、魅真も声には出していないが、とても驚いていた。
「うちのボスさ」
「!! それって!!もしかして…!!」
「じゅ……10代目が!!?」
意外な答えに、更に三人は驚く。
「守護者には反対する奴もいたんだが、そりゃーもーツナの奴譲らなくてな」
「…………」
あんなに苦労して手に入れたリングなのに、この時代のツナが、ガンとして譲らず、あっさりと捨てたというので、ツナと獄寺は絶句した。
「オレ…なんでそんなこと…?」
「ハハハ。おまえにもわかんねーか。ツナがボンゴレリングの破棄を口にするようになったのは、マフィア間でリングの重要性が騒がれはじめ…略奪戦の様相を呈してきた頃なんだ…。
戦いの火種になるぐらいなら、ない方がいいと思ったんじゃねーか?おまえはそういう男だ………。ボンゴレの存在自体にすら、首をかしげていた程だからな」
「……」
「ところで魅真、おまえさっきから、全然しゃべんねーな。どうかしたのか?」
「え……?」
いきなり話題が変わり、自分に話をふられたので、魅真は反応するが、どこかぼんやりとしていた。
「そういえばそうだね。昨日こっちで会った時も、なんだか元気なかったし…」
「何かあったのかよ?」
「………………」
獄寺に問われるが、あまり話したくない内容だったので、魅真は何も答えなかった。
「ひょっとして、体の具合でも悪いのか?」
「え?」
「そうなの?魅真ちゃん」
「もしそうなら、おまえだけアジトに帰って休むか?」
「うぅん。大丈夫だよ」
山本に心配されるが、魅真はわざと明るくして断った。
「本当かよ?あんま顔色もよくねーぞ」
「大丈夫だって」
今度は獄寺に心配されるも、それでも無理に明るくして笑顔をはりつける。
魅真があまり元気ないのは見てわかったが、それでも頑なに言おうとしないので、ツナ達はそれ以上聞くのも、魅真をアジトに連れて戻ることも断念した。
「じゃあ行くか。えっと……どこまで話したっけな?」
「オレが、ボンゴレの存在自体に首をかしげてたってところまでだよ」
「ああ、そうだったな。
まあ、確かにツナの意向で、ボンゴレリングは破棄しちまった。
つっても、今じゃオレ達も、リングに頼ってる部分がでかいんだけどな。おまえ達にも教えてやる。野球と同じで、特訓あるのみだ」
「そういえば山本…野球は?」
「……
!」
ツナが質問したその時だった。
突然目の前で、すさまじい音とともに爆風が起こった。
「「「「!!」」」」
その音と爆風に、四人は何事かと思い、目を見張った。
「こっちです!」
「急いで!」
見てみると、目の前には見覚えのある人影があった。
「? あ……あれは!!」
それは、この時代のランボとイーピンだった。
「ランボにイーピン!!」
「誰かを連れてるな」
「それって…。まさか!!あそこにいるのは…!」
煙でよく見えないが、ランボとイーピンよりも奥の方にいる二つの影。
昨日の山本の話からすると、その二つの影はおそらく、京子とハル…。
「京子さん、ハルさん、逃げて!!ここは私が!!」
「でも!!」
ツナの予想通り、その二つの影は京子とハルだった。
イーピンが二人に声をかけていると、上から赤い炎がとんできた。
「「きゃあっ!!」」
その炎は、京子達がいるあたりに命中し、またすさまじい音と爆風が起こる。
「ああ!!」
「京子ちゃん!!ハルちゃん!!」
「上か!!」
「!!」
炎がとんできた上の方を見てみると、そこには赤い炎をクツから出した人物が、宙に浮いていた。
「とどめをさしてこい」
「まかしてよ、兄弟(ブロー)」
それは、白蘭と同じデザインだが、白ではなく黒い服を着た二人の男。
一人は、足から出しているのと同じ赤い炎をまとう、大きな鎌を持った、褐色の肌にあご髭をたくわえた男。
そしてもう一人は、その男よりも若い、髪の長い男だった。
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