標的65 強くなるために
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ハリネズミがまっすぐ向かってきて、すぐ目の前まで来ても、雲雀は微動だにせず、冷静なままだった。
「(これだよ沢田綱吉…。やはり君は面白い)」
それどころか、笑みまで浮かべていた。
雲雀は持っていた雲のリングを右手の中指にはめると、ツナが奪ったのと同じデザインの匣を取り出し、炎を灯して匣の穴に差し込んだ。
炎が注入された匣は開き、中からは、雲属性の紫色の炎をまとったハリネズミが飛び出して、ツナのハリネズミにぶつかった。
「!」
「同じハリネズミ!?」
「もう一匣持っていたのか!!」
まさか、もう一つ同じものを持ってるとは思わなかったので、ツナ、フゥ太、ラルは驚いた。
「気が変わったよ」
二匹のハリネズミがぶつかりあう下で、雲雀は戦意をなくした。
「もっと強い君と戦いたいな。それまで少し付き合おう」
それは、ツナに可能性を感じたからだった。
「で、君達は…匣がどうやってできたのか、知っているの?」
標的65 強くなるために
「ど…どうやってって言われましても……。ここに来て、まだ半月しか経ってないのでわかりません」
「だろうね」
「(じゃあなんで聞いたの!?)」
この時代に来て、リングや匣の存在を知ったのは半月ほど前で、ようやく匣を開匣できるようになったくらいで、どうやって生み出されたのか知るわけないので、その通りに話したら同意されたので、魅真は心の中でつっこむ。
「匣というのは、自然の中にあるカタチから兵器を作れないかと、4世紀前の生物学者、ジェペット・ロレンツィニが残した、343編の設計書が元になっている」
けど、そのあとでラルが匣について説明を始めた。
「しかし、そこに描かれていたのは、オーバーテクノロジー。つまり、当時の技術では再現できないものばかりだった。机上の空論は、当然長い間、誰からも相手にされず、ジェペットの死後も、設計図は紙キレ同然に、奴のいた秘密結社の倉庫に眠っていたんだ。3人の発明家が現れるまではな」
「3人の発明家…ですか?」
「イノチェンティ、ケーニッヒ、ヴェルデ。同じ秘密結社の仲間だ。奴らは匣の動力源に、マフィアに伝わる、リングから放射される炎が最適であることをつきとめて、数々の技術的問題をクリアし、わずか5年でプロトタイプを完成させた。生物を模したオリジナルの343の匣を作るかたわら、新しいタイプの匣も発明・開発をした。保存用の匣、道具や武器の匣は、奴らの作だ。
つい最近まで奴らは、研究資金調達のために、今では考えられない安価で、多くのマフィアに売っていた。しかし、3人の科学者のうち、2人が変死した。
その後、生き残っているケーニッヒは地下に潜り、今も匣の研究を続け、できたものを闇の武器商人に流しているという。これが、オレの知る、最も有力と思われる、匣の情報の全てだ」
「(大したものだ…)」
「ああ、間違ってはいない」
ラルの知識に草壁は感心しており、雲雀も否定しなかった。
「だが、どうして匣ができたかという問いに対する、本質的な答えとは言えないな」
「!」
だが、否定しなかったのは、あくまでも有力な情報だった。
「匣を、現在に成り立たせた本当の立役者は、ジェペットでも、優秀な科学者でもない」
雲雀はそこにいる全員に、自分の問いの答えを話す。
「偶然だ」
「!!」
「ぐーぜん?」
けど、あんなにすごいものができたのは、ただの偶然だと言われたので、全員が唖然とした。
「それって…何となくできちゃったって…ことですか?」
「こういうことです。世界的な大発見や大発明には、発明家の身近に起きた偶然がひらめきを誘発してできたものが、少なくありません。ニュートンが万有引力を発見した時のリンゴしかり、ノーベルがダイナマイトを発明した時の、珪藻土に染み込んだニトログリセリンしかり。もちろんそれらのミラクルには、偶然を必然とする、受け手の準備と力も当然必要ですが。
しかし、それらも含めて、そのような偶然は、そう簡単に起こることではありません」
「だが、こと匣開発においては、それが尋常でなく、頻繁に起きている」
「どういうことだ!?」
「我々は、それを調査してるのです」
「知るほどに、謎は深まるばかりでね。
沢田綱吉、明日も楽しませてくれよ」
雲雀は戦っていた時のような無表情ではなく、かすかに笑った顔をツナに向けた。
「覚えておくといい。大空の炎は、すべての属性の匣を開匣できるが、他属性の匣の力を、全て引き出すことはできない」
そのあと、話しながら、頭上にいるハリネズミに顔を向ける。
「キイィィ!!」
そこでは、雲雀のハリネズミが、ツナのハリネズミを球針態でとりこんでいた。
「ツナ兄のハリネズミが取り込まれてる!!」
そして、球針態の針でツナのハリネズミは砕かれ、粉々になった。
「!!」
「悲観することはないよ。大空専用の匣も存在するらしい」
もとは自分の匣だというのに、大して気にする様子もなく、ツナに背を向けて歩き出した。
「行くよ、魅真」
「はい!雲雀さん」
もうツナとの闘いは終わったので、今度は魅真が修業をする番となり、魅真は名前を呼ばれると、雲雀のアジトに行くために、雲雀のあとについていった。
「哲」
「へい」
エレベーターの近くまで来ると、今度は草壁を呼んだ。
特に何をどうするとは言われてないが、草壁は長年の付き合いから、名前を呼ばれただけで何を言っているのかがわかり、雲雀と一緒にいくために、そこから走り出した。
「あ。こ…小僧見なかったっスか?」
「山本武…」
エレベーターの前まで来ると、タイミングよくエレベーターの扉が開き、中には山本が乗っていた。
「さーね」
尋ねられたのに、雲雀は質問には答えずに適当に返して、エレベーターに乗りこみ、あとに続いて魅真も中に乗りこんだ。
「お!小僧!!」
「待たせて悪かったな」
けど、探してた人物はすぐ目の前にいたので、あっさりとみつかった。
雲雀と魅真がエレベーターに乗ると、草壁もエレベーターに乗り、上の階に行くと、雲雀のアジトへ向かった。
場所は変わり、イタリアのミルフィオーレファミリーの本部では…。
「いまだ信じられん」
「だが、アフェランドラ隊からの報告書によれば、信憑性は高い…」
「第一、ジョークで全17部隊長ミーティングなどやらんでしょう」
「しかしぃ…いささかぁ…」
「突飛すぎやしませんかね…。過去のボンゴレファミリーが………この時代に、タイムトラベルなど……」
会議室で、ミルフィオーレファミリーに全部で17部隊ある、部隊長のミーティングが行われていた。
と言っても、すべての部隊長がその場所にいるのではなく、他国にいるなど、理由があってその場所に来られない者は、円柱形のケースに自分をホログラムとして映し、間接的に参加していた。
「正ちゃんが頑張ってくれたからできたんだけどね。そりゃあもう、10年バズーカを、膨大な時間をかけて研究してくれてさ」
「!!」
「10年バズーカ!?」
そこには、もちろんあの入江正一も、日本からホログラムとして参加していた。
「あの、辺鄙のボヴィーノに伝わるという、10年バズーカのことですか!?」
「バカな!!あれはあくまで、言い伝えレベルの架空の兵器のはず!!」
「それなら、ボンゴレの死ぬ気弾も言い伝えだと思われてたし、匣だって、つい最近までは、夢物語、おとぎ話だったんだよ?」
「!」
「………………」
「むぅ…!!」
「ですが、仮にそれを事実と受け入れたとして…理解に苦しむ点は他にもあります。白蘭様(ボス)はそれほど重要な問題を、なぜ一部の人間、しかもホワイトスペルの人間の一部とだけ、共有しているのでしょうか?」
「そんなの、この様子を見ればわかるだろ?タイムトラベルの話をしたところで、君達信じないから」
「………」
遠回しな嫌味を言うも、それっぽいことを言って、のらりくらりとかわされ、しかも筋が通っているので、今質問をした男と、別のブラックスペルの男は、言葉がつまった。
「既成事実を示したら、すぐに教えようと思ってたんだ。本当だよ、ユニ」
そう言って、白蘭がまっすぐみつめた先には、白と黒のふくらんだ帽子をかぶった少女が、無感情な目で、正面にいる白蘭を見ていた。
「まだわからないことがあります。その技術をもってして、なぜボンゴレなんです………?わざわざ狩っている連中を…」
「彼らを一度消したぐらいじゃ、物足りませんかな?ボス」
「まるでわかってないねぇ」
「なに!?」
どこか的はずれなことを言う男を否定するように、ホログラムとして映っているホワイトスペルの男が口をはさんだ。
「この計画の狙いは、幼いボンゴレファミリーなんてカモではなく、むしろ、奴らの背負てくるネギの方でしょう」
「ネギ……!?」
「リングリングボンゴレリーング」
「!!」
「ボ」
「ボンゴレリング!?」
その、ホワイトスペルの前髪がギザギザの男が確信をつくと、一部をのぞいた他の部隊長は、過剰に反応を示した。
「さすがグロ君。鋭いなぁ」
「たしかに、最高峰のリングとしての魅力はわかるが…すでに我々には、同等の力を持つ、マーレリングがあるのですし…。 !!」
「ま…まさか!!」
「わかってくれたみたいだね。…そ」
白蘭が、ツナ達ボンゴレファミリーをこの時代に呼んだ理由を、全員がようやく理解すると、白蘭は目の前のボタンを押す。
「僕が欲しいのは、究極権力の鍵」
するとユニがいる場所の天井から、円が3つ描かれた、大きな板がおりてきた。
「7³だよ」
板の円に描かれていたのは、穴にはめこまれた5つのおしゃぶりと、残り2つのおしゃぶりをはめこむ、おしゃぶりの形をした穴。そして、ボンゴレリングとマーレリングをはめこむ、それぞれのリングの形をした、計14個の穴だった。
場所は、日本のボンゴレファミリーのアジトに戻る。
魅真と雲雀と草壁は、エレベーターで地下5階まで行くと、雲雀のアジトへと続く扉を通って、雲雀のアジトへ行った。
雲雀のアジトに入り、廊下をしばらく歩いていくと、一番最初にある曲がり角を曲がり、更に奥に進んでいくと、その先にある廊下を右に曲がり、まっすぐ歩いていく。
その廊下を奥まで行くと、目の前の扉を開けて中に入った。
そこはトレーニングルームで、軽く120畳くらいの広さがあった。
「さあ、修業を始めるよ」
「はいっ」
トレーニングルームに来たのは、もちろん魅真の修業をするためだった。
魅真と雲雀は真ん中に向かい合って立ち、草壁は扉のそばに正座をして控えていた。
「じゃあ、おさらいから。まずは、リングに炎を灯してみて」
「わかりました」
雲雀に言われると、魅真は右手につけているリングに炎を灯した。
すると、初めてラルに指導を受け、炎を灯したあの日よりも、炎が大きくなっていた。
初めて炎を灯した時は、せいぜいうずらの卵くらいの大きさしかなかったが、今はソフトボールの球くらいの大きさがあった。
「へぇ…。なかなかだね。じゃあ、次は匣を開匣してみて」
そして、そのまま炎を灯したリングを雲ハリネズミの匣の穴に差しこむと、雲ハリネズミが匣の中から出てきた。
次に、雲ハリネズミを一度匣にしまうと、今度は薙刀がしまわれている、保存用の匣を開匣する。
「じゃあ、今度は武器に死ぬ気の炎を灯して」
匣を開匣すると、また雲雀に言われた通りに、武器に炎を灯した。
魅真が持つ薙刀は、雲雀の武器のトンファーのように、雲属性の、紫色の死ぬ気の炎で包まれた。
「うん。リングや武器に炎も灯すのも、匣を開匣するのもスムーズだし、炎も強くなってる。及第点だね」
「ありがとうございます」
なんとか課題をクリアできたので、魅真はほっとした。
「でも、あくまでも及第点だ。もっともっと、炎を強くしないとね」
「もっと…ですか?」
「そうだよ。あと、純度の高い炎も灯せるようにならないと」
「純度の高い炎を?」
「さっきの沢田綱吉を見ただろう?純度の高い炎は、属性の持つ特徴を、より強く引き出す。大切なのは、炎の大きさではなく、純度だからね。そのためには、より強い覚悟をもつことだよ。それがリングの要だからね」
「より強い覚悟…ですか?」
「ゆるがない本物の覚悟…ともいうかな…」
「(ゆるがない本物の覚悟って…。それじゃあ、雲雀さんを守りたいっていうのは、ゆるがない本物の覚悟じゃないってこと!?)」
魅真の覚悟は、雲雀を守ることだった。
それは魅真自身わかっていることだし、事実、初めての修業でリボーンに問われて答えた時、それで死ぬ気の炎をリングに灯すことができたので、それが本当の覚悟だと思っていた。
それなのに、純度の高い炎を灯すのに必要なのは、より強い覚悟…ゆるがない本物の覚悟をもつことだと言われたので、今雲雀に言われたことに疑問をもった。
「今後の課題は、リングに炎を灯し、匣を開匣するスピードを、少しでも早くすること。そして、純度の高い炎を灯すこと。戦闘力を少しでもアップすることだよ」
「はい!」
「それじゃあ、及第点はクリアしたし、ケガも完全に治ったから、戦闘の訓練に入るよ」
「えっ!!いきなりですか!?」
「昔、初めて君の特訓をした時に言ったろ。基礎練習をちまちまやるよりも、戦って感覚を身につけていく方がいいって。とは言っても、この時代では、リングに死ぬ気の炎を灯せなければ話にならないし、何より、君は獄寺隼人と山本武ほどじゃないけど、ケガをしたからね。だから、治るまで待ってたんだよ」
意外な理由に、雲雀の優しさを感じた魅真は呆然とした。
「でなきゃ、思いきり戦えないだろ」
けど、やはり雲雀は雲雀だった。
雲雀はそう言うと、匣を開匣してトンファーを出し、そのトンファーに死ぬ気の炎を灯して、戦闘の構えをとった。
先程、ツナと戦った時のような激しく鋭い気にあてられ、魅真はひるんだ。
ツナの時のような殺気は感じられないが、それでも、殺意はなくともこれだけのすごい気を出せるのは、相当な強者であるということは、魅真もわかっているからだった。
「準備はいいかい」
雲雀から合図が出されると、魅真も薙刀を構えて、戦闘の体勢をとる。
「行くよ…!」
再度合図が出されると、雲雀は魅真に向かって走っていった。
瞬時に魅真との距離をつめると、雲雀は腕を大きくふりかぶって、トンファーで魅真を攻撃する。
魅真は雲雀の攻撃を、なんとか薙刀で受け止めた。
「うっ…!!」
けど、魅真は受け止めるので精一杯だった。
受け止めた瞬間魅真は、手から全身に、ビリビリと振動が伝わり、動きが止まってしまい、隙ができてしまった。
「隙だらけだよ」
それでも雲雀は、容赦なくトンファーで魅真を殴りとばす。
殴りとばされ、何メートルか後ろにふっとんでいくが、それでも雲雀は攻撃の手を休めようとはせず、走って距離をつめていく。
「くっ」
けど、魅真もやられるわけにいかないので、すぐに起き上がって、匣を開匣して雲ハリネズミを出した。
外に出た雲ハリネズミは球針態となり、周りにたくさんの球針態を作った。雲属性の増殖の力である。
魅真は球針態を防御のために出したのだが、あっさりと雲雀に破られてしまい、距離をつめられると、右手に持ったトンファーで薙刀をはじかれた。
はじかれた薙刀は遠くにとんでいき、魅真はそれで、もうダメだと思った。
そう思ったことで、隙が生まれ、その隙に雲雀は、反対側の左手にもったトンファーを振り下ろし、魅真の肩を殴ろうとした。
それを魅真は、雲ハリネズミの球針態で受け止めるが、雲雀はそれすらも破ってしまい、魅真は床に沈んだ。
魅真が床に沈んだ姿を見ると、雲雀は軽くため息をつく。
「まだまだ全然ダメだね。もっと素早く立ち回れるようにならないと…」
ため息をついたのは、魅真がまったく自分には歯が立たなかったからだった。
「それは、雲雀さんが強すぎるからですよ。もとから強かったけど、10年経って、更に強くなった。守護者の中で最弱の私が、敵うわけないです…」
強くなるために修業をがんばると決意した魅真だったが、雲雀が強いのも知っていたが、しょっぱなから力の差を見せつけられて、弱音を吐いてしまった。
そんな魅真を、雲雀は強く睨みつける。
「君は……新しい武器を手に入れて、これで自分は強くなったって、勘違いしてないかい?」
「え?」
「武器がなんだろうと関係ないよ。たとえ金属の武器でも……僕なら簡単に破壊することができる」
今言ったことを行動に移すと言わんばかりに、雲雀はトンファーを構えた。
「また……武器を折られてみるかい?」
鋭い眼光。ほとばしる闘気。それだけでも恐ろしいものだが、魅真は雲雀が今言った言葉が、13日前に、γに武器を折られた時のことを指し示していることがわかり、あの時のことを思い出し、ぞくっとして顔が青ざめた。
「いいかい?武器がなくなったら、武器以外のもので戦うんだ。敵は待ってはくれない。武器をなくした、破壊された、そうなった時は、別の戦い方を考えなよ。武器は何も、今君が持っている薙刀だけじゃない。一番おろかなのは、武器をなくしただけで、負けた、勝てないと考えることだ。そう思った時点で、戦闘ではやられてしまう。思考を止めるな。どうすれば勝てるのか考えて、他の戦闘方法を、武器になるものをみつけるんだ。そうすれば、道は切り開ける」
けど、次の瞬間には、顔つきがおだやかになっており、闘気もなくなり、アドバイスをしてきたので、魅真は呆然とした。
「君が足を踏み入れた世界は、今起こっている戦いは、生きるか死ぬか……殺すか殺されるかの世界なんだ。生半可な覚悟なんかじゃ、生き抜くことなんてできない。だから君は、少なくとも、今の10倍は強くならなきゃいけない」
「じゅっ…10倍!?」
「あたりまえだろ。この時代から10年前の、今の君は、確かに最弱なんだから」
歯に衣着せぬ言い方ではあるが、雲雀がオブラートに包む言い方をしないのは知ってるし、弱いのは自分でも自覚してるし、変に隠されるのも嫌なので、特に気にしてはいなかった。
「だけど、それは10年前の君だ。この時代の君は、今の君とは、くらべものにならないくらい強いんだ。それこそ、赤ん坊と同じように、僕をわくわくさせるくらいのね…」
魅真はびっくりした。多少は戦闘力がアップしてるだろうとは思っていたが、まさか雲雀のお眼鏡にかなうくらいの強さを手に入れていたとは、思いもしなかったからだ。
にわかには信じられないが、魅真は、この時代でもまだ雲の守護者でいるだけでなく、相当な戦力アップをしているようだ。
「今はまだ弱いだけだよ。このまま修業を続けていけば、いずれ戦力が上がるさ。でも、今の君が弱いことには事実だからね。そんなことでは、ミルフィオーレと戦うなんて、とてもじゃないけど無理だっていうのも事実だ。だから、手加減なんてしないよ」
そう言うと、雲雀はトンファーを構えて、合図もなしに、魅真に襲いかかっていった。
魅真は薙刀で応戦するが、当然雲雀の方が力が上なので、防戦一方になっていた。
「隙だらけだよ」
「あっ!」
結局今の戦いも、雲雀が一方的に攻撃をするばかりで、魅真の攻撃は一度も当たることなく、再び床に倒れた。
「いいかい。僕に一撃いれるまで続けるよ」
「えっ!?」
「正確には、僕に一撃でもいれることができれば合格だ。そうでなければ、ミルフィオーレとの戦いには行かせられない」
「そ……それはちょっと、さすがにハードルが高いのではないでしょうか?」
「何言ってるんだい?僕に一撃いれることができないのに、ミルフィオーレを殲滅させられるわけないだろう」
「だって…私……雲雀さんが言う通り、守護者の中じゃ最弱ですから…。たとえこの時代で強くなってるとしても、そんな、すぐには無理ですよ…」
魅真が弱気な発言をすると、雲雀は大きなため息をついた。
「そんな弱気なことでどうするのさ。強くなりたいって、この前言ってなかったかい?」
「それは……そうですけど…」
強くなることに迷ってるわけではないし、強くなりたいという気持ちにウソ偽りはないが、またしても弱気になってしまったので、雲雀は呆れ、軽くため息をつく。
「君の今の最大の弱点は、自分で自分を最弱だと思ってることだよ。その思考は、本当に自分自身を弱くしてしまう。それじゃあ、どんなに修業をしても、いつまで経っても強くなれないよ」
「え…」
「二度と、自分で自分を、最弱なんて言わないことだね」
きびしくも激励してくれる雲雀に、魅真は、目の前にいる人物は、本当にあの雲雀なのかと思い、呆然としていた。
それから魅真は、何度も何度も雲雀と戦った。
10年前と変わらず容赦なく、10年前よりも強くなった雲雀は、魅真を休む間もなく攻撃していく。
魅真は長くても2分弱しかもたなかったが、それでも何度も何度も戦った。
そうして、何度か実戦をくり返すと、突然トンファーを匣にしまった。
「雲雀さん?」
「午前中はここまでだよ。午後は1時から始めるから、それまでに体を休めておきなよ」
「はい!」
「午後からは、もっときびしくいくよ。覚悟しといて」
「えっ!!」
今の特訓も充分にきびしかったのに、それ以上にきびしくすると言われたので、魅真はぎょっとした。
「あたりまえだろ。強くなるには特訓あるのみだからね。君はまだまだ全然なんだから、とにかく戦って戦って戦いまくるしかないよ」
「わ、わかりました」
強くなることを決意したと言っても、雲雀のきびしさに尻込みしてしまった魅真は、若干頬をひきつらせる。
「でも、だいぶ打たれ強くなったね。初めて特訓した時とくらべたら、かなりたくましくなったよ」
けど、雲雀が素直に褒めたことで、魅真は頬が赤くなった。
そのことを言うと、雲雀はトレーニングルームから出ていき、扉の前に控えていた草壁も、魅真に一礼すると、そこから去っていった。
雲雀と草壁が去ると、魅真はボンゴレのアジトへ戻っていき、食堂でお昼ご飯をとった。
そのあとは、ハルと京子とおしゃべりしてゆっくりして、時間がきたら、また先程のトレーニングルームへ戻っていった。
午後からは、修業を始める前に、雲雀の部屋に行った。そこは、予備のリングを置いているところで、もし砕けたら、好きに持っていっていいと許可を得た。
それからトレーニングルームに戻ると、午前中と同じようにスパーリングをした。
しかし、何度戦っても、一撃いれるどころかふれることすらできず、結局その日は雲雀にボロボロにされるだけで終わった。
「今日はこれで終わりだよ」
「あ……ありがとう……ございました……」
休みなしで戦っていたので、魅真は体力の限界がきていた。
「なに?このくらいでへたばったの?なさけないね」
対して雲雀は、まったく疲れをみせておらず、ケロッとしていた。
何回戦ったか覚えてないくらい戦ったのに、それなのに平然としているなんて、自分が体力がないだけでなく、雲雀がバケモノ並みの体力をもっているからだと思ったが、魅真は口にしなかった。
「君の2番目の弱点だよ。明日からは、スパーリングだけでなく、体力強化の特訓もするよ」
「…ハイ……」
魅真が力なく返事をすると、雲雀は草壁とそこから去っていき、魅真も2人がいなくなると、ボンゴレのアジトへと戻っていった。
その日は、夕飯を食べ終わると、糸が切れたように、大食堂で眠ってしまった。
次の日…。魅真は前日と同じように、雲雀のアジトに行った。
その日行われた最初の修業は、スパーリングではなく、前日雲雀に言われた体力強化の修業、次に技の個人練習だった。
確かに、強くなるには戦いあるのみだが、個々の能力が劣っていたらどうしようもない。
とにかく、弱点をできるかぎりなくし、パワーアップしなければならない。でなければ死ぬだけ。これはそういう戦いなのだ。
なので魅真は、戦いの基礎トレーニングということで、体力の強化、死ぬ気の炎の強化、できれば純度の高い炎を灯すこと、雲ハリネズミの増殖スピードを速くすること、匣の開匣の手順を早くすること、雲雀と同じように、雲ハリネズミを自在に使えるようにすること、攻撃力の強化、防御力の強化の修業を行った。
雲雀から昨日もらったのは、あくまでも及第点なので、まだまだ先は長かった。
しかし時間はかぎられてるので、かぎられた時間の中で少しでも強くならなければならず、時間を1秒でもムダにするわけにはいかないので、魅真はただひたすらに個人練習にはげんだ。
体力強化のメニューは、雲雀のアジトの廊下での、スタート地点をボンゴレアジトと雲雀のアジトを繋ぐ扉、ゴール地点を並盛神社がある階段として、ウェイトをつけてのランニングを往復で50本、ダッシュを往復30本、腹筋、背筋、腕立てふせを各150回、スクワット200回、反復横跳び150回、うさぎ跳び往復20本、筋力アップのために、ダンベルあげ(片方10kg)を右と左でワンセットで200回。他には、薙刀の素振りを1万回、雲雀のようなジャンプ力を身につけること、雲雀みたいに、匣の雲ハリネズミが増殖させた雲の台をとび移れるようにすること、体術関係も、薙刀ほどではないが少し行った。
魅真は運動音痴で、体力もあまりないため、戦いにおける持久力がないので、持久力がつくようにするのも課題だった。それには、体を鍛えるのと特訓あるのみ!基礎体力の向上はかかせなかった。
体力強化のメニューをこなしている間は、正直死にそうだと思っていたが、それでも、ツナ達を…雲雀を守るために強くなろうという思いが働き、ヘトヘトになりながらも、なんとかすべてのメニューをこなした。
昼からは、雲雀がツナと特訓している間は、1人トレーニングルームに残って修業。雲雀が戻ってきてからはスパーリングをした。
午前中の、体力強化の修業の疲れが出ていないわけがないのだが、それでも魅真は、修業に耐えた。
スパーリングでの課題は、とにかく少しでも強くなることだった。それは、武器でも匣でも、もちろん体術でも、どの分野でも…だった。
状況把握や判断や決断を素早く行うこと、相手との間合いを完璧にはかること、雲ハリネズミの増殖スピードが襲いので早く行うこと、リングに炎を灯すスピード、匣の開匣のスピード、薙刀に炎を灯すスピード、これらをすべて素早く行えるようにすることも特訓した。それだけで、戦いを有利にはこべることもあるからだ。
また、精度の低いリングほど、匣の力…特に良い匣の力を強く引き出すのは難しいが、雲雀ほどになれば、三流のリングでもかなり強い力が引き出せるので、そこも目指すこととなった。
雲雀のように強い者でも、匣を使わない相手に手こずっていては、強力な匣を持つミルフィオーレには太刀打ちできないので、休憩の時間はほとんどなかったが、それでも魅真は弱音を吐かず、ひたすら修業に没頭した。
その日も、夕飯を食べ終わると同時に寝てしまったが、1時間ほどすると目を覚まし、ハル、京子、イーピン、ビアンキよりも遅れてお風呂に入ると、部屋に戻り、トレーニングルームでなくてもできる、死ぬ気の炎の強化、匣の開匣のスピードを早くする特訓、腹筋や背筋などの筋トレ、スクワットを行い、どうしたら純度の高い炎を出すことができるかを考えていた。
「(もう絶対に、弱音は言わない。雲雀さんを、みんなを守るために…。そして、ミルフィオーレを倒して、もとの時代に戻って、10年前の雲雀さんに、もう一度会うために…!!)」
以前の魅真なら、弱気になり、ここまではやらなかった。それは、目的があるからというのもあったが、雲雀に言われたからというのが大きかった。
「それに……将来、雲雀さんの隣を歩けるように、雲雀さんの背中を守って戦えるように、絶対に強くなってみせる…!!」
そして、明確な目標ができたからだった。
今は無理だが、絶対に叶えたい大きな決意を胸に、魅真はどこまでも強くなろうと、次の日も修業にはげんだ。
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