標的63 強くなりたい
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話し合いが終わった後、魅真は自分の部屋に戻り、ベッドの上にすわっていた。
その手には、先程やって来た草壁に渡された、あの時γにまっぷたつに折られた薙刀がにぎられていた。
にぎっている薙刀をジッとみつめていると、突然部屋をノックする音が聞こえた。
音がすると、魅真は薙刀をベッドの上に置き、誰だろうと思いながら、扉を開けた。
「あっ……」
「こんばんは、魅真ちゃん」
「来ちゃいました」
「京子ちゃん、ハルちゃん」
そこには、京子とハルが立っていた。
「どうしたの?二人とも」
「魅真ちゃんに、プレゼントがあって来たんですよ」
「プレゼント?」
「そう。実はね、昼に外に出た時に、この時代の花に会ったんだ」
「花ちゃんに!?」
「うん。それでね、私が帰る時に、下着を持たせてくれて…。これ、魅真ちゃんの分」
京子は話しながら、持っていた紙袋を持ち上げて、魅真に差し出した。
「わあ、ありがとう。実は、ちょうどそのことを、二人に相談しようと思ってたんだ。すごく助かる」
思わぬところから援助があったので、魅真は紙袋を受け取ると、うれしそうに顔をほころばせた。
「それで、魅真ちゃん…」
「何?」
「昼間はごめんなさい!」
「え…?」
「今朝、私が誰にも何も言わずに、勝手に外に出ていってしまったから、獄寺君も、山本君もひどいケガしちゃったし…。それに、魅真ちゃんも……。本当にごめんなさい!!」
紙袋を渡すと、京子は一呼吸おいて、魅真に謝罪をしながら頭をさげた。
自分の行動を後悔している京子は、今にも泣きそうなくらい沈んでいた。
「いいよいいよ。京子ちゃんも、いきなり知らない時代に来て不安だっただろうし、笹川センパイのことが心配だっただろうから」
「でも……」
「それに、京子ちゃんが外に出てくれたおかげで、こうして、下着の不安は解消されたわけだし。京子ちゃんのおかげだよ」
「ありがとう」
怒られても、非難されても、文句は言えないことをしてしまったのに、逆に感謝されたので、京子はほっとした。
「じゃあ、私達夕飯の支度があるから」
「またあとで会いましょう」
「あ、ごめんね。私も、やれる時に手伝うよ」
「いいんですよ。だって魅真ちゃんは、ツナさん達と一緒に、ハル達が狙われている原因を調査しているんでしょう?」
「そうだよ。私達はそれはできないから、せめてご飯作りとか、家事をがんばるね」
「本当にありがとう、二人とも。でも、できる時があったら、本当に手伝うからね」
「ありがとう」
「助かります」
お互いに気をつかいあい、三人は笑顔だった。
京子とハルは食堂に向かっていき、魅真は扉の前で、二人を笑顔で見送った。
標的63 強くなりたい
京子とハルを見送ると、魅真は部屋に入り、再びベッドにすわると、折れた薙刀をにぎりしめた。
「(これから……また、過去に帰るための修業が始まる…。でも、私にできるの?ついていけるの?最弱の私に……)」
折れた薙刀をみつめながら、魅真はこれからのことに不安を抱いた。
同時に、昼間、γに手も足も出ず、やられてしまったことを思い出す。
「(Aランクとはいえ、幹部ですら、私は歯がたたなかった…。ボスともなれば、それ以上の力が……。それに、他にも強い奴がいないともかぎらない。でもきっと……私の力じゃ……)」
リング争奪戦で、魅真は自信をもった。
けど、それは昼間γと戦ったことで、あっさりと打ち砕かれた。
「(それに、武器も折られてしまった。折れていなくても、こんな木の棒なんかじゃ、ミルフィオーレには到底太刀打ちできない。それに私には、ツナ君達みたいに、リングもない。匣だって…。そんなんで、どうやって強くなるの?どうやって戦うの?これじゃあ、とてもじゃないけど、ツナ君達と一緒に戦うことなんてできない。完全に足手まといだ)」
雲のボンゴレリングは雲雀が持っているので持っていない。他にリングはない。武器も折れてしまい、代わりになるようなものもない。匣兵器もない。これでは、足手まといもいいところだと、魅真は落ちこんだ。
「でも、しょうがないか。だって、私は弱いんだもの。仕方ないよね。ミルフィオーレファミリーと、本格的に戦ってから気づく前に気づけて、かえってよかったかも」
けど、すぐに明るく笑い、不安を誤魔化すように、大きな一人ごとを言った。
それは、自分から見てもわざとらしいくらいのものだった。
「うん。仕方ない仕方ない」
そして、今おかれている現実から目をそらすように、わざとらしく笑う。
「(………………違う………。仕方なくなんかない………)」
けど、すぐに笑うのをやめた。
「(悪いのは、リングがないことでも、匣兵器がないことでも、ましてや武器を折られたことでもない…)」
それは、そんなことをしても無意味だと気づいたから。
「(私が弱いから悪いんだ……)」
今のは、ただ現実逃避をしているだけだと気づいたからだった。
この時魅真は、初めての感情を抱いた。
「(くやしい………くやしい…!!)」
魅真が初めて抱いた感情。それは、「悔しさ」だった。
本来、魅真は争いごとが苦手なのもあって、今までの人生で、負けて悔しいと思うことはなかった。
だけど、だんだんとそうではなくなった。
その兆候は、リング争奪戦の時にはすでにあった。
けどそれは、自分でも気づかないほどのものだった。
「(γに手も足も出なかったことも、隼人君と武君にかばわれて、逆に守られたことも…)」
だが、未来にとばされて、γに負けて、初めて悔しいという感情に気づいた。
「(強くなりたい!!みんなに助けられなくてもいいくらい…。誰にも守られなくてもいいくらい…。みんなを守れるくらい…。こうして、今みたいに泣かなくてもいいくらいに……)」
同時に、強くなりたいと願った。
今までも、そう願うことはあったが、今まで以上に強く願った。
「(強くなりたい!!!!)」
魅真は顔をうつむかせ、涙を流しながら、持っている薙刀を強くにぎりしめた。
その時、扉がノックされる音がしたので、魅真は顔をあげた。
顔をあげて、扉の方に向けると、もう一度ノックされた。
こんな、なさけない泣き顔を見られるわけにもいかないし、心配かけるだろうから、魅真は涙をそででぬぐう。
そして涙をぬぐうと、薙刀をベッドに置いて、扉の方に歩いていき、扉を開けた。
「あっ……」
扉が開き、その先にいた人物を見ると、魅真は緊張し、固まった。
「雲雀……さん……」
そこに立っていたのは雲雀だった。
「あ…あの……。なんの用でしょうか…?」
10年後とはいっても、まだまだ顔を合わせづらいので、魅真はあわてた。
雲雀は、あわてている魅真の顔に涙のあとがあることに気づき、目を鋭くさせる。
「きて」
そして、腕をつかむと、強制的に部屋から連れだした。
「えっ…えぇ!!ひ、雲雀さん!?」
突然訪ねてきた上に、何もくわしい用を言わずに、強制的に部屋から連れだされたので、魅真は先程とは違う意味であわてた。
「あの……雲雀さん…。一体どこへ……」
どこへ連れていくのか何も言わないので、雲雀に声をかけるも、雲雀から何か返事が返ってくることはなかった。
それから雲雀は、エレベーターを使って上の階にあがると、自分のアジトへと入っていった。
魅真はだまったまま、されるがままに、雲雀に腕をひっぱられてついて行く。
昼間通った通路を歩いていき、一つ目の曲がり角を左に曲がると、その通路の突き当たりを右に曲がり、更に奥に進んでいくと、目の前の襖を開けて、部屋の中に入った。
その部屋は個人の部屋だったらしく、ベッドや本棚などの、日常生活で使う家具が置いてあった。
「あの…雲雀さん、ここは?」
部屋の中を見回しながら問うが、雲雀は答えることなく、奥にある机の、一番上の引き出しを開けた。
そして、そこにしまわれていたものをいくつかとると、とったものを魅真の前に差し出す。
「これ…君に…」
「えっ……これって…!」
雲雀の両手にあったのは、3つの匣と、3つのリングだった。
「君のだよ」
言いながら、雲雀は匣とリングを魅真に渡そうと手を伸ばした。
魅真はそれを、どこかぼんやりとしながら受け取る。
「私の……匣…?これが…?」
その匣は、雲雀の匣と同じように、雲がデザインされた匣だった。
1つだけ相違点をあげるなら、3つのうちの1つの匣の色が、薄い赤紫色というところくらいだった。
リングは、雲のボンゴレリングに似たデザインのリングが2つに、藍色の小さな石がはめこまれた銀色のリングだった。
「そう……。あと、僕が君の修業を見ることにしたから」
「えっ!!雲雀さんが…私を!?」
「うん。でも、今日はケガをしたから、また明日からだよ。今日はゆっくり体を休めなよ」
「は、はい」
雲雀が自分の修業を見ることにも驚いたが、性格は変わっていないはずなのに、明らかに違うものを感じたので、そのことにも驚いていた。
魅真は匣とリングを渡されると、自分の部屋に戻った。
3つの匣のうち、2つの青紫色の匣は、雲雀が使っていたものと同じ、雲ハリネズミの匣。リングは、3つのうち、2つの雲のボンゴレリングに似たリングは、匣を開匣するための雲のリングで、もう1つの藍色の小さな石のリングは、昼間通った、神社から雲雀のアジトに続く隠し扉を開けるためのリングだった。
何故そのリングも渡されたのか疑問に思い、雲雀に問いかけると、いざという時にあると便利だから…とだけ言われた。
あの、群れるのが大嫌いな雲雀さんが!?とも思ったが、確かにその通りだし、ミルフィオーレファミリーという強大な敵が、ボンゴレファミリーの者、ボンゴレに関係している者、一般人ですら、少しでもかかわった者を消そうとしている以上は、四の五の言ってられないのだろうと、魅真は判断した。
「(今日はいろいろとあったけど、でも問題が少しだけ解決したし、ビアンキさんとフゥ太君も無事だったし、本当によかった)」
部屋に戻ると、今日あったことを振り返っていた。
まだまだ、根本的な問題解決には至っていないが、大ケガを負ったが、獄寺と山本も無事だったし、京子も無事にみつかり、下着の問題が解決し、ビアンキとフゥ太が無事で、過去へ戻るための糸口がみつかり、みんなが協力を申し出てくれたので、魅真はほっとしていた。
「それに……雲雀さんも無事だったし…」
何よりもほっとしたのは、雲雀が無事なことだった。
自分が知らない、この時代の雲雀だし、まだまだ接しにくいが、それでもまず無事だったことに、魅真は胸をなでおろした。
雲雀が無事だったことが一番うれしい魅真は、手の中にある、先程渡された匣とリングをみつめた。
「(また、明日から修業が始まるんだ…)」
匣とリングをみつめると、今度は部屋の片隅に置いた、折られた薙刀をジッと見た。
「まだ、ちょっとだけ不安だけど……大丈夫だよね。だって、雲雀さんが修業を見てくれるんだもの」
自分がずっと使っていた武器がなくなったという真実は変わらない。けど、雲雀から匣とリングを渡され、何よりも雲雀が修業を見てくれるというので、不安はほとんどなくなっていた。
「雲雀さんを守れるようにがんばろう」
そして、新たに決意を固めた。
匣とリングを渡されて、やる気がわいてきた魅真は、雲雀が来る前と違って笑顔だった。
同じ頃、雲雀のアジトにある雲雀の個室では、黒い浴衣に着替えている雲雀が布団の上にすわり、写真立てを手にして、写真立てにかざられている写真をみつめていた。
とても真剣で、まっすぐな眼差しで…。
そして、写真立てを持っている雲雀の手には、雲属性の炎と同じ、紫色の石がついた指輪が、いくつか光っていた。
次の日…。
京子が朝ご飯の食器を引き上げてから15分ほど経つと、獄寺がいる、第二医療室の扉をノックする音がした。
「おう」
獄寺が返事をすると、ノックをした人物は中に入ってきた。
「おはよう、隼人君」
中に入ってきたのは魅真だった。
「魅真……」
入ってきたのが魅真だとわかると、表情がやわらかくなり、まだ痛む体にムチ打って、上半身を起こした。
「あ、無理しなくていいよ」
「いい。オレがそうしたいだけだ」
獄寺が体を起こすと、魅真は安静にするように言うが、獄寺は聞かなかった。
「どうしたんだ?お前は、今日からまた修業に入るって聞いたが…」
「あ、うん。実はこれからなんだけど、その前に、隼人君に話しておきたいことがあったの」
魅真は、獄寺が寝ているベッドの前にある椅子に腰かけると、話を切り出した。
「話?」
「うん。昨日のこと…」
具体的に、何が…とは言っていないが、昨日のことと言われたので、何を話すのかは容易に想像がついた。
「昨日はごめんなさい。私のせいで、ひどいケガをさせてしまって…」
思った通り、魅真は昨日のγとの戦いのことを話した。
「いや……。これは、オレが未熟だったからこうなっただけだ」
魅真に謝罪されると、獄寺はそのことを否定する。なぐさめなどではなく、実際に、自分で自分の弱さを痛感したからだ。
「それに、オレの方こそ悪かった…。あん時、全然余裕なかったせいで、お前に八つ当たりしちまって…。変な意地はって…」
「いいよ、気にしてないから。それに、私だって全然余裕ないのに、隼人君に偉そうに説教しちゃったし…。それに、力がないくせに手を出したせいで、結局隼人君と武君を、ひどい目にあわせちゃったから…。本当にごめんなさい」
昨日のことを思い出しながら話す魅真は、どこか暗く沈んだ顔をしていた。
「でも、昨日の事件のおかげで、決意が固まった」
「決意?」
「私、絶対に強くなる!!強くなって、大好きなみんなのことを守るから。雲雀さんや、ツナ君や、武君。もちろん、隼人君のことも!」
「…そうか」
「うん!そのために、これから修業よ。雲雀さんが、修業をみてくれるんだって」
雲雀の名前を聞くと、獄寺は、過剰に反応を示す。
同時に、魅真の後ろに、ある人物がいることに気づき、その人物を目にすると、驚いたが、すぐに鋭い目で見た。
「魅真……」
そして、魅真の名前を呼びながら、自分の方に来るように手招きをした。
手招きをされると、魅真はなんだろうと思いながらも、椅子から立ちあがり、獄寺がいるベッドの前まで歩いていく。
すると獄寺は、魅真の左手をつかんで、自分のもとへ引き寄せた。
魅真はそのまま、ベッドのあいてる部分にすわり、獄寺の腕の中におさまる形となった。
「はっ…隼人…君…?」
突然、獄寺に抱きしめられたことにびっくりした魅真は、顔を真っ赤にして、獄寺の名前を呼ぶ。
「魅真…」
「なに?」
「オレは…お前が好きだ」
「え?私も好きだよ。だって、隼人君は大事な友だ…「違う」
魅真のずれた返事に、獄寺は途中で魅真の話を遮った。
「お前のことは、女として好きなんだよ!!」
「えっ……えぇええ!?」
告白されると、魅真は驚きのあまり叫んだ。
「最初は、10代目に無礼な態度をとる、イケスカない女だったけどな。でも、段々嫌いじゃなくなってて、気がついたら、本当に本気で好きになってた」
だけど、獄寺は気にせずに、魅真を好きな理由を話した。
獄寺が、最初自分を嫌っていたのは知っていたので、信じられないといったように魅真は目と口をあけて、驚きすぎて、何も言葉が出なかった。
「このオレが恋愛なんて、自分でも信じられないが、それでも、オレのお前に対する気持ちはウソじゃねぇ」
「あ、あの……隼人君には悪いんだけど、私には好きな人が…」
「知ってる。雲雀の奴だろ」
「えっ!?なんでそれを?」
「最初から気づいてたよ。魅真はわかりやすいから、それくらい見てればわかるっつーの!」
ディーノと同じことを言われて、態度に出しているつもりなどいっさいなかった魅真は、少しはずかしくなった。
「でも、なんでわかっていながら告白を?」
「気持ちは伝えておきたかった。いくら、ハナから玉砕モンだとわかってるからって、何もしないまま引き下がれるかよ」
またディーノと同じことを言われ、魅真は、見返りを求めずに自分の気持ちを素直に言える獄寺を、すごいと思うと同時に、うらやましいとも思った。
「魅真、お前は…このオレが守る」
「え……」
「片想いでも本気で好きだからな。危険な目にはあわせねぇ。そのためにも、こんなケガはさっさと治して、オレも修業に復帰するぜ。それに、オレは引き下がってばかりじゃねぇぜ。今は、友達のまま、お前を見守るって形をとるけど……。でも、もしも…雲雀を想い続けて、お前が不幸になるなら…」
そして、獄寺は続きを話しながら、目の前にいる人物を睨んだ。
「その時は、雲雀のヤローをぶっ倒してでも、お前を奪うからな」
そこにいたのは、雲雀だった。
雲雀は、今日から自分のもとで修業を始める魅真を、ボンゴレアジトまで迎えに来たのだが、部屋にいなかったので、きっと食堂にいるか、山本か獄寺の病室だろうと思い、魅真を探しに来たのだった。
確かに、思った通り、獄寺の病室にいたが、そこで自分の存在に気づいた獄寺が、宣戦布告をしてきたので、雲雀は鋭い目で獄寺を睨んだ。
獄寺が告白したのは、後ろに雲雀がいたからだった。雲雀のせいで魅真が傷ついたから、それがたとえ10年後の雲雀でも許せないから、あとは単純に、魅真に自分の想いを伝えたかったからだった。
魅真はあのあと、リングと匣を持って、雲雀のアジトに行った。
そこには、獄寺の宣戦布告を聞いた後、魅真に気づかれないようにそこから立ち去り、自分のアジトの入口に立っている雲雀がいたので、雲雀に案内され、雲雀のアジト内にあるトレーニングルームで修業を行った。
まず最初にやったのは、リングに炎を灯すことと、匣を開匣させることだった。
この二つは、一昨日ラルに指導されてやったことを伝えたが、おさらいという形で行われた。
一番最初に開匣したのは、雲ハリネズミの匣だった。
開匣すると、雲雀は、雲属性の匣の特徴、使い方、雲ハリネズミの技などを教えた。
もちろんすぐに使いこなせるわけがないので、これは地道な修業が必要ということで、何度も反復練習をした。
それだけで午前中の修業が終わってしまったので、雲雀は魅真に昼休憩をとるために、ボンゴレのアジトに戻るように言った。
言われると、魅真は素直に従い、ボンゴレアジトに戻っていく。
そして、お昼ご飯をとると、また雲雀のアジトに戻って修業をし、夕方になると戻っていく。
それは、次の日も同じだった。
けど、次の日は昼の休憩をとると、雲雀のアジトのトレーニングルームではなく、ボンゴレのアジトのトレーニングルームへ行った。
というのも、雲雀は午後は用事があるので、午後はボンゴレのアジトで修業をするように言われたからだった。
そこでは、ツナが修業をしているのを知っていたので、魅真はツナと一緒にトレーニングルームに行った。
「あれ…。魅真ちゃん、その武器は?」
「これ?この時代の私の武器らしいの」
修業を始めようとすると、魅真が匣を開けて薙刀を取り出したのを見たツナは、魅真が今まで持っていなかった匣や武器を持っていたので、ふしぎそうに尋ねた。
「10年後の魅真ちゃんの!?」
「そうよ。この時代の私が使っていた薙刀なんだって」
魅真が手に持っていたのは、木刀の薙刀ではなく、金属の刃がついた薙刀だった。
「なんでも、この時代の私が使っていた匣兵器みたいなの。といっても、これは保存用の匣だから、正確にはちょっと違うんだけど」
説明しながら魅真がツナに見せたのは、フタが開いている赤紫色の匣だった。
渡された3つのうちの2つ。青紫色の匣は雲ハリネズミの匣だが、もう1つの赤紫色の匣は、この時代の魅真が使っている、武器を収納する、保存用の匣だった。
「でも、匣や武器なんてどこから…」
「昨日、雲雀さんが私に渡してくれたの。なんでも、この時代の私に頼まれたらしくて…。この時代の私は、まだ雲の守護者をやってるみたいだから、同じ雲の守護者である雲雀さんがあずかったんだって」
「ヒバリさんが!?」
魅真がこの時代に来る前、雲雀と何があったか聞いたツナは、とても驚いていた。そうでなくとも、あの雲雀が、人の頼みごとを引き受けるなど、とてもではないが信じられなかった。
「私も、そこは気になって聞いてみたんだけどね。でも、こんな緊急事態だから、群れるのが嫌いとか言ってられなかったみたいよ。雲雀さんも、少しは大人になったんじゃないかな?」
魅真は雲雀に聞いたことをツナに話すが、ツナはどうにも納得がいかなかった。
いくら緊急事態といっても、あの天上天下唯我独尊男の雲雀が、誰に何を言われようとも、足並みをそろえようとしない雲雀が、ごたごたがあった魅真の匣やリングを渡すという頼みごとを、引き受けるのだろうかと…。
実際に、昨日獄寺の病室にやって来た雲雀は、群れてるなら咬み殺すとトンファーをみせ、その言葉の通りにツナを咬み殺し、アジトに帰ってしまい、草壁を代理に寄こして、雲雀が話したかったことを話させていたのだから…。
ツナは違和感を感じたが、考えてもわからないので、それ以上はつっこまないことにした。
「まあ、何はともあれ、新しい武器とリングと匣を手に入れたし。これからがんばるわ!」
魅真は魅真で、その違和感には気づかずに、薙刀をにぎりしめてとてもはりきっていた。
「それよりツナ君は、匣は手にいれたの?」
「オレは……まだなんだ。でも、なんとか強くならないと。過去に帰るために」
「そうだね。みんなと一緒に帰るためにね」
「うん。そういえば魅真ちゃん、午後は、ずっとここで修業?」
「それはわからないけど…。とりあえず、雲雀さんの用事が終わるまでは、ここで修業みたいよ。そういうツナ君は?確か、ラルさんが修業をみてくれているのよね?」
「うん、そうなんだけど…。なんか、ラル・ミルチもやることがあるみたいだから、いつまでかはわからないけど、午後はラル・ミルチが来るまでは、個人で修業みたい」
「そうなんだ。じゃあ、雲雀さんかラルさんのどっちかが来るまで、一緒に修業しない?」
「いいよ」
どちらの指導者も、用があって修業をみることができないので、魅真が提案をすると、ツナは快諾した。
「ところで、話は変わるんだけどさ…」
「何?」
「ツナ君て…京子ちゃんとハルちゃんには、まだ何もしゃべってないんだよね?本当のこと」
「あたりまえだよ!京子ちゃんとハルに、悲惨な現実を伝えるなんてできないよ。だって、魅真ちゃんみたいに戦闘員ならともかく、非戦闘員なんだよ。いざという時に対処できないし、受け入れるには、あまりにも過酷だから。だから、二人にはこのまま、何も知らせずにいようと思うんだ」
「そう……」
「それとも魅真ちゃんは、二人に話した方がいいって思ってる?」
「微妙ね」
ツナに意見を求められると、魅真は眉間にしわをよせて難しい顔をした。
「ツナ君が間違ってるとは言わないけど、まったく何も知らせないのもね。確かに、受け入れるには、許容量をオーバーしすぎてる。一昨日の二人の反応を見るかぎりは、本当のことを言うのはちょっとね。何しろ、相当ヤバい状況にあるとリボーン君が言っただけで、あんなに顔色が悪くなってるんだもの。本当のことを話したら、精神的におかしくなるかもしれないし」
「だよね」
「でも、このままずっと何も知らせないってのもね。まったく何も知らないのと、何か知ってるのとでは、いざという時の対処法も変わってくるし、そういった時の準備もできるもの。それに、非戦闘員でも、京子ちゃんもハルちゃんも、私達に協力してくれてるんだから」
「協力?」
「…って…ツナ君、京子ちゃんとハルちゃんが家事をやってるの、もしかしてあたりまえだって思ってる?」
「い…いや……そ、それは……」
魅真に詰め寄られると、ツナはその迫力にたじろぎ、体を後ろにそらせる。
「確かに戦うことはできないけど…。でも、私達が思いっきり修業できるように、サポートしてくれてるんだよ。それをあたりまえって思っちゃダメだよ」
「え?う…うん…」
おだやかな声で話しているが、どこか迫力があり、ツナはとぎれとぎれでしか返事ができなかった。
「話がちょっとそれたけど、とりあえずどうするかは、ツナ君にまかせるわ」
「え?」
「だって、ボスはツナ君だもの。最終的な決定権は、ボスのツナ君にあるに決まってるじゃない」
まかせると言われて戸惑っていると、魅真は平然として言い放つ。
「さっき話したのが私の意見だけど、私はツナ君の意向に従うわ。でも、1つだけツナ君に忠告しとく」
「忠告?」
「あまり、女の子を甘くみない方がいいよ」
と言われても、ツナは何が何やらさっぱりわからなかった。
そして、魅真がそう言うと、二人は修業を再開した。
それから、2時間後に雲雀が魅真を迎えに来たので、魅真は雲雀のアジトのトレーニングルームで雲雀と修業をやり、雲雀が去ってから30分後にラルが来たので、ツナはラルと修業を再開させた。
そして、あっという間に12日がすぎ…。
「ごちそうさまーー!!」
その日の朝も、いつも通りに、みんなで朝ご飯を食べ終えた。
「今日もうまかったぞ」
「よかったです♪」
「今日はハルとイーピンが洗い物の当番ね。頼んだわよ」
「□▽Σ△▲!!」
朝食が終わると、年長者であるビアンキが周りに指示を出しており、指示されたハルは食器をさげており、イーピンは返事をした。
「じゃあ私、病室の山本君と獄寺君の食器下げてくるね」
「お願いします!」
京子は当番ではないが、獄寺と山本の食器を下げるために食堂を出た。
「フゥ太~遊んで」
「いいけど。髪がモジャモジャに伸びたね。切ってあげようか?」
イーピンの隣の席では、小さくとも守護者なのに、ランボは朝食を食べ終えると、さっそく遊ぼうとしていた。
「さーて、修業行くかなっ」
「そうね」
「毎日ごくろう様です。ツーナさん❤」
「?」
「愛妻弁当、作りましょうか?」
「いっ、いいよ!エレベーター降りるだけだし!!」
付き合ってすらいないのに、愛妻と言ってきたので、はずかしくなったツナは、魅真と一緒に下のトレーニングルームに向かった。
食堂を出た魅真とツナは、エレベーターに乗って下のトレーニングルームに向かった。
魅真はいつもなら、雲雀のアジトのトレーニングルームに行くのだが、今日はボンゴレのアジトのトレーニングルームに行くように言われたので、ツナと一緒に下に降りていった。
「(ラル・ミルチ、今日から新しい修業だって言ってたけど、なんだろう…?ハイパーモードでの炎の強化訓練は、もういいのかな?) とりあえず、殴るのはかんべんしてほしーよな」
「殴られてるんだ…」
「うん。『修正』されてる…」
初めて修業をつけてもらった時、初対面の山本を容赦なく殴ったのを見た魅真は、ツナがどんな目にあってるのか容易に想像ができたので、苦笑いを浮かべた。
そうしてるうちにトレーニングルームにつき、エレベーターは音をたてて止まった。
「よっ」
「おはよーございます、10代目!!」
「2人とも!!」
「武君!隼人君も!」
扉が開くと、そこにはすでに、昨日まで病室で寝ていたはずの、山本と獄寺がいた。
「今日から、オレ達も修業復帰するぜ」
「ケガはもういいの!?」
「完璧っス!!体がなまって困るほどです!」
「そっか…。よかった」
獄寺が笑顔で答えると、ツナはほっとした。
ツナがほっとした表情を獄寺に見せると、獄寺は、ツナの隣にいる魅真と目があった。
「あ……2人とも、ケガ治ってよかったね」
「ま、まあな」
「おう、サンキュ!魅真」
山本は笑顔で答えるが、魅真はこの前獄寺に告白されたことを、獄寺は魅真に告白したことを思い出して、2人同時に顔を赤くした。
「4人揃ったな」
ツナと魅真が来ると、すでにそこにいたリボーンが声をかけた。
「予告通り、本日より新しい修業。"強襲用個別強化プログラム"を開始する」
リボーンの声で、全員がそちらの方へ顔を向けると、今度はリボーンの隣にいるラルが話を始めた。
「個別…強化…?」
「この10日間。ツナがラル・ミルチに、魅真がヒバリに1対1で教えられたように、1人に1人ずつ家庭教師をつけ、修業だ。リング戦の時と同じだな。
例えば、オレが鍛えるのは、山本だぞ」
リボーンが山本に顔を向けて、拳銃をとりだすと、自分を?というように、山本は自身を指さした。
「え゙ーーー!?リボーンが山本をーー!!?だ…大丈夫なの!?」
顔が青ざめて心配しているツナの後ろで、山本は対照的に笑っており、ヨロシクナーとあいさつをする。
「ハヤトの担当は、私よ」
「!!」
そこへ、食堂にいたはずのビアンキがやって来た。
「ビ……ビアンキ!?」
「ふげぇ!!」
ビアンキを直視してしまったので、ビアンキ恐怖症の獄寺は、具合が悪くなり、床にへたりこんだ。
「獄寺君!!」
「だ、大丈夫?隼人君」
「じょ…冗談ス…よね…」
魅真とツナが気にかけているが、獄寺はそのことに反応する気力もなくなっていた。
「やはり姉弟。私も、嵐属性の波動が一番強いわ。そして、修業が無事終わったら、あなたにあるものを授けるわ」
気絶してしまうくらいビアンキが大の苦手なので、冗談であってほしいと思っていたが、冗談ではなく、ビアンキは淡々と話しながら、指にはめているリングに、嵐属性の炎を灯した。
「お父様からよ」
「(親父!?)」
自分の父のことがビアンキの口から出ると、獄寺は過剰に反応を示し、顔をあげる。
「ふごっ」
けど、顔をあげた時にビアンキの顔を見てしまったので、再び床に倒れた。
「絶対ムリだよ!!中止した方がいいって!!」
「おまえは、自分の修業に専念しやがれ」
今からこんな調子では、修業以前に立つことすらままならないので、やめた方がいいとツナは言うが、リボーンはそんなことはおかまいなしに、ツナに向けて弾丸を撃った。
「おい…ツナ?」
弾を撃たれると、ツナは後ろに倒れた。
そのすぐあとに、額に炎が灯り、手袋はグローブに変化し、ハイパー死ぬ気モードになった。
「すげえ10代目!!また迫力が増してる!!」
「前とはまるで別人だな。また、随分差ーつけられたぜ」
以前見た時よりも、格段に炎が強くなっているのがわかり、獄寺と山本は、ツナを称賛した。
ツナはハイパーモードになると、グローブの炎を使い、跳んでラルの前に着地する。
「はじめよう、ラル・ミルチ」
「オレはおまえの指導を下りる」
ツナがその場を立ちあがると、ラルはツナに、いきなり指導をやめることを伝える。
「おまえは、オレの思い描くレベルにまるで達していない。短時間では、これ以上のレベルアップも望めないと判断した」
「だが、実際にここまで」
「おまえの力は、こんなものではない!」
ラルがそう言った時だった。
突然、雲の炎が螺旋を描いて、ツナに方にまっすぐ向かってきた。
それに気づいたツナは、グローブの炎で飛び、壁に立った。
けど、雲の螺旋の炎はまがり、追尾してきた。
「くっ」
追尾してきたということは、またどこかへ逃げても無駄だというのはわかっているので、ツナは今度は、炎を出して、雲の螺旋の炎を受けとめた。
その時、爆発音のような、すさまじい音が響いた。
そこへ、1人の人物がやって来る。
「気を抜けば死ぬよ」
「おまえは!!」
「君の才能を、こじあける」
それは雲雀だった。
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