標的60 絶体絶命
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一緒に戦うことを決めた三人は、宙に浮いているγと向き合った。
「で、どーする?」
「どうやって倒すの?」
「オレがぶっぱなして、奴の頭をおさえる。降りてきたところを、お前らがぶった切れ」
作戦なら、頭のいい獄寺だと、魅真と山本は、獄寺にどうやって戦うかを聞いた。
「了解!」
「オッケー。おまえにしちゃ、意外とアバウトだな」
「もっと何か考えてるかと思ってた」
「まずは……だ」
意外と単純な作戦に思えたが、実はまだ続きがあったので、魅真と山本はニッと笑う。
「わーった。そんじゃ、少しでもおまえがぶっぱなしやすくしねーとな」
「私達で先陣きるわね」
「さすがに、オレももう待てそうにない。次の休みは、あの世でとってくれ」
「ああ、待たせたな」
しびれをきらしたγが、キューを構え、球をつく体勢に入ると、山本は匣にリングを差し込んだ。
「いくぜ!!」
開いた匣からはツバメが飛びだし、同時に三人もバラバラの方向へ走り出した。
標的60 絶体絶命
匣から出たツバメは、まっすぐにγに向かって飛んでいった。
「効かねえな」
ツバメが自分のもとへ向かってくると、γは球をついた。
「ギッ」
ついた球はツバメにあたり、ツバメは倒れてしまう。
その隙に、獄寺が赤炎の矢を撃った。
「おい、何度言えばわかる」
けどγは、先程と同じように、死ぬ気の炎のバリアで防いだ。
その時、何かが木の影から飛んできた。
「今だ。上がれ!!ロケットボム!!!」
「!!」
それは、リング争奪戦の際に修得した、ロケットボムだった。
ロケットボムは、γを包囲するように、四方八方からとんできた。
「(追尾型?いや、曲がるのか)」
けど、こんな状況でも、γは余裕の笑みをくずさなかった。
考えていると、ダイナマイトは爆発した。
あれだけたくさんのダイナマイトなので、爆発の規模は相当なものだった。
「ちっ」
今の攻撃をくらってしまったγは、くつに灯していた死ぬ気の炎が消えてしまって、飛んでいられなくなり、地面に着地する。
「もらい!!」
すると着地したところへ、魅真と山本が、それぞれ武器を構えて向かってきた。
「なるほど。アイデアはいい。惜しいな」
ロケットボムと赤炎の矢をくらって地面に落ちてしまったが、それでもγは表情をくずさず、匣にリングを差し込んだ。
その匣の中からは、電気をまとった二匹の狐が出てきた。
「「「!!」」」
「キツネ(ヴォールピ)!?」
「近づけば感電死だ」
「「くっ」」
キツネはまるで、γを守るように立ちはだかった。
「突っ込め、魅真!!山本!!」
「「!! …………」」
危険な状況だというのに、ヘタしたらやられるかもしれないのに、それでも足を止めないように獄寺は叫んだ。
「わかった!」
「あぁ!」
二人は獄寺に言われた通り、γに突っ込んでいく。
「そいつは、信頼とは言わねェ。無謀ってもんだ。嵐の守護者、おまえの弾も効かないぜ」
「へらず口がいつまでも…」
三人には、自分には傷ひとつつけることができないのが、わかっているかのような口ぶりだった。
それでも三人は足を止めることはなく、獄寺は武器に弾をセットした。
「ボンゴレなめんじゃねぇ!!」
弾がセットされると、武器は奇妙な叫び声をあげ、その後に炎を撃った。
「!! (炎がとんだ!?)」
「(行け、山本!!魅真!!)」
「時雨蒼燕流攻式八の型 篠突く雨」
γの炎がとんだところを、山本がすかさず、時雨蒼燕流で攻撃をした。
そして、山本の時雨蒼燕流でγがふっとぶと、今度は魅真がγに向かって跳んで、薙刀で連続で打ちこんだ。
その攻撃で、γは地面に仰向けに倒れる。
「ふーー。やったな!」
「本当。あっさり倒しちゃったね。これも、私達が連携したからだね」
「ああ。まあ、ちいっとヒヤッとしたけどな」
「うん。何しろ相手は、あの激強って言われてる人だもんね」
「バーカ。右腕のオレといて、ヒヤッとすることなんてねーんだ」
「「ぷ」」
獄寺が言うことに、二人は軽くふきだす。
「「アハハハハハハ!!」」
「何がおかしいんだよ!!」
ふきだしたと思ったら、思いきり笑う二人に、獄寺は嚙みつく。
「別に!!」
「なんでもないよ」
けど二人は、笑顔を見せながら、軽く受け流した。
「敵の大将倒したっつったら、ツナ達驚くだろーな」
「そうね。きっと、ものすごく驚いて、ツナ君とか大さわぎするんじゃない?」
「これくらいでのぼせんじゃねぇ!まぁ、オレには10代目に報告する義務があるけどよぉ…」
と、獄寺が言った時だった。
突然目の前が光り、光ったかと思うと、γが扱う球が三人を襲ってきたのだ。
球は三人の脇を通過すると周りの木にあたり、その後に、死ぬ気の炎で山本を攻撃した。
「武君っ!!!」
「山本っ!!!」
攻撃をくらった山本は血を流して倒れ、魅真と獄寺は、やられた山本を心配した。
「そいつらの刀と薙刀が、死ぬ気の炎を纏っていたなら、少し食らっていたな」
そこへ、先程倒されたはずのγの声が聞こえてきた。
「さて、気になることがいくつかでてきた。ボンゴレの10代目は、いつ生き返ったのかな?そこんとこ、口を裂いてでも、教えてもらわなきゃな」
目の前には、二匹の狐を体にはりつけたγが、まったく変わらない余裕の笑みを浮かべて、上半身を起こしていた。
同じ頃、並盛神社の前では、ヒバードが飛んでいた。
飛んでいたヒバードは降下していき、ある男の肩にとまった。
「久しぶりだな………。並盛」
そのある男とは、短い黒髪に、スーツを着た男だった。
場所は、境内の横にある林に戻る。
「こいつは、バッテリー匣と呼んでいてな。予備の炎を蓄えておける匣だ。こいつを、炎が吹きとばされきる前に開匣したために、キツネは消えずに残り、防御した。もっとも、野猿におまえの武器の話を聞いてなけりゃ、持って来なかったろう匣だがな」
「くっ (オレの武器の能力を知って、準備してやがったのか…)」
「さあ、お遊びはここまでだ」
「「!!」」
自分が持っていた匣と、何故その匣を持ってきたのかという説明をすると、γは急に真剣な顔になる。
今まで自分達は、γの手の上で遊ばれていたのだとわかると、魅真と獄寺は目を見張り、冷や汗をかいた。
「たしかにおまえらの若さにも驚いたが、あのボンゴレファミリーだ。それくらいの情報操作はありうる。だが、ボンゴレの10代目が生きてるとしたら、こいつはただごとじゃあない。奴が射殺されるところは、多くの同志が目撃してるしな」
「「!! (射殺!!)」」
どうやって、この時代のツナが亡くなったのかを知ると、二人は驚愕し、顔が青ざめ、目の前が真っ白になった。
「そんな………」
魅真はそれだけでなく、体中が震えた。
特に足は、もう立っているのがやっとというくらいに、激しく震えている。
「(10代目を…射殺……)」
獄寺は獄寺で、γの口から出た真実に、とても混乱していた。
「てめ…」
「?」
「てめーらよくも!!」
そして、強く叫ぶと武器を構える。
自分が敬愛するツナを殺され、事実を知った獄寺は瞳孔が開き、我を忘れており、γを攻撃するために、先程γに赤炎の矢を撃った時に一度しまった匣を開く。
「許さねぇ!!!」
砲台の髑髏が奇声をあげると、赤炎の矢が放たれるが、γはキツネを使役した。
キツネは赤炎の矢の周りをすりぬけるように移動して、獄寺の両隣に来ると、すさまじい電撃をあびせた。
「ぐぁ!!」
同時に、γは獄寺の攻撃をよけた。
電撃を受けた獄寺は、血が流れるほどのケガを負ってしまい、仰向けに倒れ、その際に、武器は消えてしまった。
「隼人君!!!」
獄寺がひどくやられたので、魅真は悲鳴をあげるように、獄寺の名前を叫んだ。
「(助けに……いかなきゃ…。でも……相手はあの激強のγ。今まで遊ばれてて、二人ともやられちゃったのに……。私に……できるの……?最弱の…私に……)」
魅真は獄寺を助けたい。でも、相手はラルが激強と言っていた人物。実際に今までも遊ばれていた。そんな人物に、守護者の中で最弱の自分が敵うわけがないと、魅真は思った。
その、「敵うわけがない」という思いが「死」を連想させ、そのせいで、恐怖が押し寄せてきて、体が震えて、うまく動かない。こんな状態じゃ、まともに戦えるわけがない。
その思いが魅真の頭を支配していたので、助けたくてもうまく手足を動かせず、獄寺を助けに行くことができないでいた。
「ぐっ!!」
γは獄寺の前まで来ると、キューを獄寺のあごの下に勢いよく差し込んだ。
キューを勢いよくあごと首の間に差し込まれ、今やられたケガも相まって、獄寺はうめき声をあげる。
「さぁ、教えてもらおうか。なぜ、10代目が生きている。そして今、何処にいる」
「………だれ…が…てめーなんかに…」
質問されるが、獄寺は答える気などさらさらなかった。
「それと、もう一つ気になるんだが」
だが、γはおかまいなしに、獄寺を言ったことを無視して、獄寺の手を思いっきり強く踏みつけた。
「ぐぁ!!!」
ケガをしている上に、容赦なく踏みつけられたので、獄寺はまたうめき声をあげる。
「おまえらのつけているリングには、見覚えがある。どういう冗談だ?」
けど、γは表情を変えず、更に強い力で踏みつけた。
鈍い音が響き、それこそ骨が折れるのではないかというくらいの…。
「あぁあ!!!」
強い痛みに、獄寺は耐えきれずに、悲鳴をあげた。
その時、γは視界の端で動くものをとらえた。
同時に、獄寺のあごに差し込んでたキューを動かすと、固いものがぶつかりあう音が響いた。
「……なんのマネだ?」
「隼人君を……離しなさいっ!!!」
それは、魅真の薙刀が、γのキューとぶつかりあった音だった。
魅真は獄寺を助けるために、薙刀をふったのである。
できるかどうか迷っていたが、獄寺が危険な目にあったので、本能的にとび出したのだ。
今ので、獄寺からキューが離れただけでなく、魅真と向かいあったことで、γの足も獄寺の手から離れた。
「拷問する相手は一人で充分なんだ。こいつから情報を聞き出すまで、大人しくしてな。そうすれば、ほんのちょっとの時間だが、長生きはできるぜ」
γがそう言っても、魅真は聞くことも答えることもせず、再び薙刀をふった。
「聞き分けのねぇ奴だな」
呆れながら、しかし無表情のままで、γはキューを持っている手を下におろすと、魅真がふった薙刀を、キューを持っている方とは反対の手でつかんで止めた。
「!!」
キューで受け止めるでも、はらうでもなく、手でつかんで止めたことに魅真は驚いた。
次の攻撃に移るために、薙刀をγの手から離そうとするが、押しても引いてもピクリとも動かなかった。
「そんな、単調な攻撃で動きがとろい上に、弱い力で、オレを倒せるとでも思ってんのか?」
「く………」
「その上リングも匣も持ってねえ。しかもなんだ?この武器は。金属の刃のものか、炎をまとっているならともかく、ただの木製の武器じゃねえか。話にならねえな。その上、雨の守護者とは違い、変形しない武器。こんな、オモチャみたいな武器で、オレとはりあえるとでも思ってたのか?」
以前、リング争奪戦の時に、骸にオモチャみたいな武器と言われたことを思い出し、ドキッとした。
それだけでなく、γはまるで、赤ん坊を相手にしているような感覚で魅真を相手にしていたので、魅真はたくさんの冷や汗が出てきた。
「むかつくぜっ」
γは薙刀をつかんでいた手に力を入れて、薙刀を折ってしまった。
γは折った薙刀の先端を地面に放った。その際に、カランという無機質な音が辺りに響き、無残に折られた薙刀を見て、魅真は呆然として動きが止まる。
その隙に、γは魅真の首をつかんで上にもちあげ、その際に、魅真の足は地面から離れた。
「あっ!!」
首をつかむと、魅真の手からは、折れてしまった片割れの薙刀の棒が離れて地面に落ちた。その時もう一度、地面にぶつかった際の、無機質な軽い音が辺りに響いた。
「おまえはどうやって殺してやろうか。まあ、その前に、拷問する相手をおまえに変更してもいいがな。女の方が若干やりやすそうではあるしな」
「ぐ……ぅ……」
強い力でもちあげられているので、魅真はうめき声をあげた。
「知ってるか?女には、男とは別の、女専用の拷問もあるんだぜ」
遠まわしな言い方ではあるが、言ってる意味がわかった魅真は、ぞっとして顔が青ざめた。
「でもまあ、オレはそんなのには興味ねえからやらねぇがな」
けど、言っただけでやる気はないようで、魅真はほっとした。
しかし、状況は何一つ変わっていなかった。むしろ悪化していた。
獄寺を助けたつもりが、自分がつかまり、拷問されようとしている。
非力な自分では、到底首をつかんでいるγの手を、ふりほどくことなどできないだろう。
しかも、ますます強くなってきている。
それらのことが、今から自分も、獄寺のように痛い目にあうのだと、頭の中が恐怖で支配された。
「さてと……」
気をとりなおしたように声を発すると、γは魅真の首をつかんでいる手に、更に力をいれた。
「うっ!!!」
急に苦しくなり、魅真はうめき声をあげる。
「嵐の守護者の代わりに答えてもらおうか?なぜ、ボンゴレ10代目が生きているのかを……」
γがそう言うと、γの両隣にひかえていたキツネが、雷属性の死ぬ気の炎をまとって魅真に近づいてきた。
キツネに攻撃された時の威力は、先程の山本と獄寺の時に見てわかったので、魅真は恐ろしさのあまり、体は震え、全身に冷や汗をかき、うまく呼吸ができず、恐怖で目から涙が流れてきた。
そんな魅真の今の心境など知ったことではないγは、容赦なく、キツネを魅真に近づける。
キツネが近づくごとに、魅真には恐怖が押し寄せてきた。
けど、キツネが止まるはずもなく、魅真の両隣にくると、獄寺と山本の時と同じように、電撃で攻撃をした。
キツネがまとう死ぬ気の炎は、γが言っていた通り切れ味が鋭く、裂くような痛みが、魅真の体に襲いかかった。
「きゃあああああああっっ!!!!!」
魅真の口からは悲鳴があがり、体からは、切れたところから血が流れる。
いつまで耐えられるかわからない痛みに、終わりの見えないこの攻撃に、魅真はただ叫ぶことしかできなかった。
だがその時、獄寺の武器の炎がとんできて、キツネがまとう死ぬ気の炎が消え、キツネは匣に戻った。
「なんだ?」
それは見覚えのある炎だった。しかも、自分の匣兵器のキツネがまとう炎を消されたせいで、キツネは匣に戻ってしまったので、少々不機嫌そうな顔で、炎がとんできた方向を見た。
炎がとんできた方向に目をやると、魅真の首をつかんでいる手に痛みを感じた。
今度はそちらの方へ顔を向けると、山本が竹刀をふり下ろした状態で立っていた。
と言っても竹刀なので、せいぜい痛みを瞬間的に感じる程度であり、γの手に決定的なダメージを与えることはできなかった。
けど、それで充分だった。
今の衝撃で、魅真の首からγの手が離れたのだから。
魅真はそのまま落ちていくが、地面にあたる寸前で、獄寺がすべりこんできて、クッション代わりになった。
「なるほど…。雲の守護者を助けるためか…」
けど、今の攻撃も意に介していないγは、余裕の表情だった。
魅真の下敷きになった獄寺は、魅真が攻撃されないように、魅真の背中とひざの裏に手をまわして抱き上げると、急いでγから離れた。
「さしずめおまえ達は、姫を守るナイトといったところか?」
γが言ったことに、獄寺と山本は答えず、山本は竹刀を構えて無防備になってる獄寺を守り、獄寺は魅真を近くの木に寄りかからせると、同じように武器を構えた。
「しかし、今の攻撃でも、オレを倒すことはできなかったぜ。当然だがな」
本人が言った通り、まったく傷ひとつついていないγに、獄寺と山本は苦い顔をした。
獄寺と山本とは対照的に、γは口角をあげて笑みを浮かべながら、リングに炎を灯した。
そして、キツネが入っていた匣を取り出して、炎を灯したリングを穴に差しこむ。
すると、匣は開かれ、中から先程消えたキツネが再び現れた。
不利な状況は変わってないので、獄寺と山本だけでなく、難を逃れた魅真もたくさんの冷や汗をかく。
「さて……雲の守護者がダメになっちまったから、やっぱり嵐の守護者か?」
指名されると、獄寺は武器を構えた。
同時に、γもキツネを獄寺に向かわせた。
「けっ、そう何度も…」
食らってたまるか!そう言おうとした時、獄寺は、γがキツネを向かわせた瞬間に、一瞬で開匣して出した球をついて、獄寺を攻撃した。
球は、獄寺の腹にめりこむようにしてあたり、獄寺の体はくの字にまがった。
これだけでもかなりの痛みだが、更には雷属性の死ぬ気の炎もプラスされているので、威力は倍以上で、尋常ではない痛みが獄寺を襲った。
更には、球をくらった隙に、キツネの攻撃を受けたので、更なる痛みが襲い、獄寺の体を傷つける。
「うああああぁあああっ!!!」
球の攻撃だけでなく、キツネの攻撃もくらったので、獄寺は悲鳴をあげて倒れ、武器は消えてしまった。
「このヤロっ!!!」
山本は竹刀を刀に変形させて、獄寺を助けようとした。
「ぐあっ」
だが、一早く反応したγが、いくつも球を打って攻撃したために、山本は再び倒れた。
「さてと……じゃあ、さっきの続きだ」
「ぐあっ」
山本が倒れると、γは再びキューを、獄寺のあごと首の間に差し込んだので、獄寺は短いうめき声をあげた。
「ボンゴレ10代目のこと、さっさと話してもらおうか。それと、おまえらがつけているリングのこともな」
「うあぁああっ!!!」
今度は腹を強く踏みつけられたので、今までで一番大きなうめき声をあげる。
その時だった。
γは、また視界の端で、動くものをとらえたので、顔を動かすと同時にキューを動かした。
その直後、固いものがぶつかりあう音が響く。
「ハァ ハァ ハァ ハァ ハァ」
そこには、荒い息をくり返しながら、なんとかひざ立ちをして、竹刀をふった山本がいた。
けど、ひざで立つのですらやっとといった感じなので、攻撃に勢いはなかった。
「ハァ ハァ ハァ」
「訪問には一人いれば充分だ。おまえは無用なんだ」
「!」
無表情で冷たく言い放つと、強い雷属性の炎を放つキツネが、山本のもとへ向かってきた。
少しふれただけでも、体が切れてしまうくらいの威力で、山本は顔をゆがめた。
「や……め……」
そして、キツネが山本の両隣に来ると、すさまじい電撃で、山本を攻撃した。
一方、ミルフィオーレファミリーのアジトでは…。
「大変です、入江様!!」
チェルベッロの一人が、どこかあわただしい様子で、正一の部屋の前で正一を呼んでいた。
「入江様!!」
しかし、呼んでも中からは反応がなかった。
「…………失礼します!」
よほどの緊急事態だったらしく、チェルベッロは持っていた合い鍵を使って、部屋の扉を開けた。
電子音が鳴り響いた後、空気がぬけるような音がし、その後に扉が開いた。
「入江様!!
!」
扉が開くと中に入るが、正一はまだ寝ていた。
「起きてください!!」
「わっ」
強制的に、かなり荒々しく、布団をはぎとって正一をベッドから落とした。
その後に、正一の体と床がぶつかる音が響く。
「……嫌になっちゃうんだけど、こういうの…」
「大変です、入江様」
起きたばかりの正一は、あらっぽく起こされたので、当然いい顔はしておらず、その体勢のまま話しかけるが、チェルベッロはかまわず続けた。
「レーダーに、新規の精製度A以上のリングが2つ。ボンゴレリングかと」
「!! なんだって…………?」
けど、次にチェルベッロの口から出た言葉に、そんなものはふっとんでしまい、目を大きく見開いた。
「…………き…来たのか!?」
そして正一は、大きな声で叫んだ。
その後、正一は隊服に着替え、チェルベッロとともに部屋を出た。
「なんで今まで見つからなかったんだ?いきなり神社に出現なんて…」
「レーダーが故障していたそうです」
通路を歩いている正一は、ビン底眼鏡をかけており、いつもかけている眼鏡は、隣を歩いているチェルベッロがみがいていた。
「故障!?自律した、複数のレーダーが同時にかい?」
「これが起こる確率は、限りなく0に近いです。人為的な工作と考えるべきでしょうね」
「!!」
話しながらみがき終えた眼鏡を受け取った正一は、ビン底眼鏡をはずし、みがかれたいつもの眼鏡をかける。
「内部の者の仕業だっていうのかい?」
「調査中です。……ただ、ブラックスペル第3部隊はすでに、全員が並盛に展開しています」
「(第3部隊………?) !!」
第3部隊と言われて思い浮かぶのは、第3部隊隊長であるγの顔だった。
「くそっ!!あの男か!!」
おそらくレーダーを故障させたのも、あのγの仕業なのだろう…。
それがわかった正一は、壁を、拳で強くたたいた。
「我々はいかがなされますか?」
「白蘭サンに、連絡しなきゃ…つぅ……」
「大丈夫ですか…?」
「お腹が…痛い……」
当然このことは、ボスの白蘭にも知らせなきゃいけないので、それを考えただけで正一は腹痛を起こし、お腹をおさえて壁にもたれかかると下に落ちていき、床にすわりこんだ。
「(ついに、7³ポリシーが始まったんだ。………彼も来ているのだろうか?
沢田……綱吉)」
同じ頃、そのツナはというと、並盛町の林の中にいた。
「見えた!並盛神社だよ」
「!」
魅真達と別れた後、無事に京子をみつけたツナは、京子を保護してくれた人物…この時代の黒川花に京子を預け、ラルとともに、魅真達のもとへ急いでいたのだ。
「あと、1km弱といったところだな」
「あっ」
今ツナ達は、敵にみつかるとまずいので、敵にみつからないために、大きく迂回して並盛神社を目指しているため、並盛神社が見える林の中にいた。
「煙だ!!煙が出てる!!」
並盛神社からは煙が出ていた。
それは、魅真達とγが戦っているという証だった。
「……………やはりγは、獄寺達の所へ…」
この時代の人間であるラルは、少し見ただけで状況をすぐに理解した。
ラルの言葉を聞くと、ツナは顔がこわばって固まってしまう。
「(頼む……!!無事でいてくれ!!)」
γのことはよく知らないが、γが激強だということはラルに聞いたので、顔が真っ青になり、冷や汗をかいた。
場所は並盛神社に戻る。
魅真達がγと戦っていた場所では、全身が傷だらけ血だらけの状態で、気を失って倒れている山本がいた。
そして、そのすぐ側では、上から血がしたたり落ちていた。
それは獄寺の血だった。
あれからγにずっと拷問をされていた獄寺は、山本と同じように、全身傷だらけ血だらけの状態で、γに首をしめられたまま持ちあげられていた。
たった今、地面に落ちた血は、獄寺が流した血が、手をつたって落ちてきたものだった。
普通ならば、こんな状態の人間を見たら、気分が悪くなりそうなものだが、それでもγは裏世界の人間なので、自分の背よりも高く持ちあげた獄寺を、無表情のまま見上げていた。
近くの木の前では、顔を真っ青にして、冷や汗をかき、涙を流し、ガタガタと震えている魅真が、この光景を見ていた。
本当は、獄寺を今すぐにでも助けにいきたい。
でも、先程の攻撃で恐怖をきざまれてしまったために、動きたくても動けない。それに、もう肝心の武器は、先程γに折られてしまい、使いものにならなくなってしまった。これでは、動くことができても、助けることはできない。たとえ、薙刀が折られていなかったとしても、自分の実力では、γに勝てない。
恐怖、不安、絶望、そんな様々な感情が魅真の心を支配していた。
「そろそろ吐かねーと」
「ハァ ハァ ハァ ハァ」
「とりかえしがつかねーぞ」
近くにいる山本は、先程の攻撃のせいで気を失い、地面に倒れていた。
獄寺はなんとか意識をたもっているが、首をつかまれているのもあり、息をするのがやっとといった感じだった。
「だ…が………」
「何か言ったか?」
「ペッ」
苦しさと痛みで、うまく声を発することができなかった獄寺は、答える代わりに、口の中にたまった血を、γに吐きつけた。
「……………………なるほど。そうかい」
それが獄寺の、ノーという返事だとわかったγは、獄寺を放り投げ、キューで、地面にたたきつけるように殴った。
獄寺は、もう悲鳴をあげることもできないほどに傷つき、血を流していた。
そして、今ので獄寺は、山本と同じように気を失ってしまう。
それを近くで見ていた魅真は、獄寺がやられたのに、もう声を出すことすらできないほどに恐怖していた。
獄寺を殴り倒すと、γは魅真の方へふり向き、魅真のもとへ歩いていく。
γが近づくごとに、恐怖心と、体の震えが増していき、血の気が引いていった。
魅真の前に来ると、γは魅真の胸ぐらをつかんで、自分の背よりも高くもちあげると、獄寺と山本がいる方へ投げとばした。
投げとばされると、魅真はちょうど獄寺の横に倒れた。
魅真は倒れた時に強く体をぶつけたが、痛みをこらえながら、涙目でγの方に目を向ける。
「もう、これ以上やってもムダだろう。おまえら、ここで死んでいけ。おまえらを、うちの白い連中にくれてやるつもりもないんでね」
そばにひかえていたキツネは、今γが言ったことが合図のように、三人に近づいてきた。
もうなす術もなくなったので、魅真の頭は確実に死を連想した。
「雨の守護者と雲の守護者も、今、楽にしてやる」
三人のもとにきたキツネは、魅真と山本の隣にきて、攻撃をする体勢に入る。
「あばよ」
γが三人にとどめをさそうとした時だった。
後ろから、突然空気を裂くような音が聞こえてきた。
「!!」
それに気づいたγは、キツネに三人への攻撃をやめ、自分の身を守るように防御させた。
そして、そのすぐ後に、紫色の炎が螺旋を描きながら、弾丸のように飛んできた。
それはかなりの威力で、周りの木々を破壊し、キツネを消してしまった。
「(このパワー……………何者………)」
硬化の力をもつ、雷属性のキツネすらも打ち負かしてしまうほどの力なので、γは顔をしかめた。
「君の知りたいことのヒントをあげよう。彼らは過去から来たのさ」
「!!」
しかも、これを放った人物は、獄寺に聞こうとしていたことを知っているようだったので、γは眉間にしわをよせる。
一方で魅真は、多少の違いはあるが、聞いたことのある声に反応して、上半身を起こすと、声がした方を見た。
そして、その声を発した人物を見た途端に、恐怖や絶望といったものは、魅真の顔からなくなり、目には輝きが戻った。
「僕は愚かじゃないから」
彼が話していると、γを攻撃したものは、彼が持っている、雲がデザインされた、青紫色の匣に戻っていく。
「入れ替わったりはしないけどね」
γを攻撃したものがすべて匣に戻ると、彼は指でフタを閉じた。
「………何やらあんた詳しそうだな………。だが、ドンパチに混ぜて欲しけりゃ、名乗るのがスジってもんだぜ」
「その必要はないよ。僕は今、機嫌が悪いんだ…」
彼の肩にはヒバードが止まっており、彼がそう言った瞬間に、ヒバードは空へ飛び立った。
「君はここで…
咬み殺す」
γに攻撃をし、三人を助けた人物。
それは……この時代の雲雀恭弥だった。
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