標的53 黄昏の涙
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それは、リング争奪戦が終わって、二日後のことだった。
「お願いします!雲雀さん!」
魅真は雲雀の部屋で、雲雀に頼みごとをしていた。
「ダメだよ」
しかし、雲雀にあっさりと拒否されてしまう。
「なんでですか!?」
拒否されたことで、魅真はふてくされて、見るからに機嫌が悪そうにしていた。
「今日は委員会の仕事がある日だろ?それに、でかける理由が、あの人の見送りに行きたいから?ダメに決まってるだろ」
けど、雲雀も同様に、見るからに機嫌が悪かった。
理由は、魅真がディーノを見送りに、空港まで行きたい…と言ったからであった。
他の理由ならまだ許しただろうが、よりによってディーノの見送りだったので、雲雀は不機嫌になったのだ。
「お願いします、雲雀さん!!どうしても行きたいんです!!この前の、ツナ君達と遊びに行った時みたいに、時間制限を設けてもいいですから!終わったら、すぐに学校の応接室に行って、終わらせなきゃいけない仕事は、何時間かかってでも、絶対に今日中に終わらせて帰りますから!
だから、ディーノさんのお見送りに行かせてください。お願いします!!」
頭をさげて、必死になって頼みこむ魅真の姿を見て、雲雀は軽く息をはいた。
「……二時まで…」
「え?」
「昼の二時までに、並中の応接室に必ず来ること。そして、君が言った通り、今日の委員会の仕事は、必ず今日中に終わらせること。それが守れるなら、行ってきてもいいよ」
「ありがとうございます!」
時間制限があるが、それでも許可してもらえたので、魅真はうれしそうな顔をした。
「本当にありがとうございます、雲雀さん。必ず二時までに、応接室に行きます」
許可してもらうと、魅真は自分の部屋に戻り、仕度をしてでかけていった。
そんな魅真の後ろ姿を見て、雲雀はため息をついた。
標的53 黄昏の涙
魅真はディーノが泊まっているホテルまで行くと、ディーノと一緒に車に乗って、空港まで行った。
「魅真、見送りに来てくれてサンキューな。すっげえうれしいぜ」
「いえ、ディーノさんには、いろいろとお世話になりましたから」
ディーノの部下が、日本からイタリアへ発つ手続きをしている間、魅真とディーノは、待合室の、ガラス張りになっているところで、立って話をしていた。
「でも、よく恭弥が許可したな。てっきりダメだって言うかと思ったぜ」
「最初はダメだって言われたんですけど、説得したら、許可してくれました」
「マジか……」
「はい。最近、結構優しいんですよ」
「そっか…」
うれしそうに笑う魅真の言葉の意味を、ディーノはわかっていた。
雲雀が許可を出したのも、優しいのも、他ならぬ魅真だからだということを…。
ディーノは気づいていたが、魅真本人は気づいていなかった。
「ボス、手続きが終わったぜ」
「おう」
そこへ、手続きをしに行っていた部下が戻ってきて、ディーノにその旨を伝えた。
「行っちゃうんですか?」
「ああ、搭乗手続きもすんだことだしな」
「そうですか…」
とうとうディーノが行ってしまうので、魅真は見るからに寂しそうな顔をした。
そんな魅真を見ると、ディーノは、うれしそうな、悲しそうな、愛しそうな、寂しそうな、複雑な顔をして、軽く息をはいた。
そのあとで、部下達がいる後ろの方に顔を向けると、あごをしゃくって合図を送った。
今の合図がなんなのかわかった部下達は、無言でうなずくと、ディーノから離れていく。
と言っても、部下がいなくなると、とたんにダメダメになるディーノなので、そう遠くない、ディーノが見える場所……でも、そんなに近くもない、微妙な距離をたもった場所にいた。
部下が離れると、ディーノは顔を魅真がいる方へ戻し、魅真をみつめた。
「魅真……」
「はい」
「次は、いつ会えるかわからないから言うけどよ…」
「はい」
部下を自分のところから離れさせたのは、魅真に話をするためだった。
その話をしようと口を開くが、ディーノは緊張しており、心臓がとび出しそうなくらいにドキドキしていた。
「オレ……魅真のことが好きだっ!!」
ドキドキしながらも、ディーノは魅真に、自分の想いを伝えた。ディーノが部下を遠ざけたのは、このためであった。
ディーノの想いを聞くと、魅真はその場に固まってしまう。
「えっと……それは、友達としてですか?それとも…」
「もちろん、恋愛の意味だ」
言いきったディーノを凝視していたが、魅真は次第に顔が赤くなっていった。
「え………えっと……それは……その………あの……」
魅真はディーノに返事を返そうとするが、告白されたことで、うまく言葉が発することができなかった。
「いいって。オレは、おまえに好きな奴がいることを知ってて、告白したんだからな」
「えっ!?」
けど、返事を返す前に、ディーノが微笑みながら、魅真がそれ以上言うのを止める。
「恭弥だろ」
「え……。なんで…わかったんですか?」
誰にも雲雀が好きだと言ったことはなかったのに、何故ディーノが知ってるのか、ふしぎに思った。
「見りゃわかるって。魅真はいつも、恭弥のことばかり見てたかんな」
「そ……そうですか…」
何も言ってないのに、すでにバレていたので、魅真ははずかしくなり、顔を下に向けて、ディーノから顔をそらした。
「でも、それなのに、なんで告白なんか…」
自分が雲雀を好きなことを知っているのを承知の上で告白したので、魅真は再び顔をあげて、その疑問をぶつけた。
「魅真が恭弥を好きなのは知っていた。けど、それでもオレの気持ちを知っておいてほしかった。それだけだ」
「ディーノさん……」
「魅真は言わねえのか?」
「へっ?」
「恭弥に………自分の気持ちを……。好きだって…」
ディーノが自分に告白しただけでなく、自分は雲雀に告白しないのかと言われ、魅真は顔が真っ赤になった。
「…私…は……しないです…」
たどたどしくはあるが、ディーノの質問に答える。
「なんでだ?」
「だって、あの雲雀さんですよ。絶対、断られるに決まってます。ふられるのは確実です!」
魅真の返答に、ディーノは心の中で、「そんなことはねえと思うがな」と思ったが、悔しかったので、口にすることはしなかった。
「今は…まだ、ふられる覚悟ができていないので……。それに、もしそんなことになったら、私の心がもたないですから…。だから、いつかは言いたいですけど、今はまだ言いません…」
「…そっか。まあ、そのことにかんしては、オレがどうこう言うことじゃないから、これ以上は何も言わねえけどよ。でも、1つだけアドバイスだ。人生のセンパイとしてな」
「はい…」
「たとえ叶わないとわかっていても、後悔のないように生きろよ」
「わかりました」
返事をして、笑顔を見せた魅真に、ディーノも満面の笑顔を返した。
「さてと……。んじゃあ、搭乗手続きも終わったことだし、魅真に話したいことも話したし、オレはもう行くわ」
「はい。お元気で…」
「ああ。魅真もな」
二人は笑顔だった。
けどディーノは、魅真と離れてしまうことで、笑顔の中に寂しいという感情がまじっていた。
「…魅真……」
「なんですか?ディーノさ……」
ディーノは別れる前に魅真の名前を呼び、魅真はその呼びかけに答える。
でも、話を遮るようにして、ディーノは魅真がすべてを言い終える前に、魅真の頬にキスをした。
「ディ、ディ、ディ、ディ、ディ……ディーノさん!?」
突然のことに、魅真は顔が、今まで以上に真っ赤になった。
「わりぃ。でも、このくらいは許してほしいんだ」
「あ……いえ……怒ってるとかじゃなくて……その……」
「わーってるって。魅真は日本人だからな」
さすがに唇にはしなかったが、魅真が真剣に好きだからという意味と、雲雀に対するせめてもの対抗という意味でも、ディーノは魅真の頬にキスをしたのだった。
けど、キスをした本当の理由は言うつもりはないので、適当にそれっぽいことを言って誤魔化した。
「なら、今度こそ行くわ。じゃあな、魅真」
「は、はい。さようなら。お元気で、ディーノさん」
もう一度あいさつをすると、ディーノは今度こそ、魅真から離れていった。
そして、魅真から離れたディーノは、部下と合流すると、搭乗口へと進んでいく。
魅真はディーノの後ろ姿を、姿が見えなくなるまで、ずっと見送っていた。
ディーノの姿は何分もしないうちに見えなくなり、ディーノがいなくなると、魅真は空港から去っていった。
空港から去ると、魅真は電車に乗って、並盛町まで戻った。
並盛町に戻っても、ディーノがいなくなったことの寂しさの余韻が残っているため、まだ寂しそうな顔をしていた。
「あ、魅真ちゃん」
「え?あ…ツナ君」
町を歩いてると、後ろからツナが走ってきた。
「どうしたの?そんなあわてて」
ツナは見るからに焦っており、荒い息をくり返していた。
「魅真ちゃん!リボーンを見なかった?」
「リボーン君?見てないけど……。リボーン君がどうしたの?」
「いなくなっちゃったんだよ。昨日から…ずっと」
「えぇっ!?」
リボーンが行方不明だと知り、魅真は驚きの声をあげる。
「どうして?だってリボーン君、今まで一度もそんなこと……」
「それは、オレもわかんないよ。でも、本当に昨日からいなくなってるんだ。それで、今日は朝からずっと探してて」
「そんな……知らなかった…」
魅真は青い顔をして、困惑した表情を見せた。
そして、腕時計を見てみる。
「(今はまだ12時ちょっとすぎ…。1時間くらいなら時間がある…)」
時計を見ると、すぐにツナがいる方に顔を戻した。
「ツナ君!私も、リボーン君を探すのを手伝うよ!」
「本当?いいの?」
「うん。委員会があるから、ちょっとの時間しか探せないけど。でも、私もリボーン君のこと心配だから」
「ありがとう、助かるよ。獄寺君には学校を、ハルには山本んちを探してもらってるんだ。オレはこれから公園に行こうと思ってるから、そこ以外のところを頼むよ」
「わかったわ。じゃあ私、並盛神社まで行ってみる」
「わかった。頼むよ」
ツナに頼まれると、魅真は自分で言った通り、並盛神社にリボーンを探しに行った。
並盛神社には10分ほど走ってたどり着き、そこで20分ほど探したが、リボーンの姿はどこにも見当たらなかった。
「(いない……)」
魅真は、並盛神社を一通り探し終えると、また腕時計を見た。
「(まだ1時前。もう少しだけ探してみよう)」
見てみると、まだ時間があったので、魅真はまだリボーンを探すことにした。
「(今度は山を探してみよう)」
次は、以前ツナが修業をしていた、あの山に行った。
30分ほど走ると山について、1時間ほど、できる範囲で探してみたが、リボーンはどこにも見当たらなかった。
そこにいないのならと、魅真は別の場所に行った。
河原、空き地、ショッピングモールと、心当たりがあるところもないところも、とにかく探して探して探しまくった。
それほどまでに、リボーンのことが心配だったのだ。
そして、リボーンを探し始めてから、実に5時間という時間が経っていた。
日が傾き、空は赤くそまっていた。それでもリボーンを探しだすことはできなかった。
並盛町に範囲を限定していたとはいえ、さすがにいろんな場所をまわったので、魅真は息をきらせていた。
「はぁ…。リボーン君、どこにもいないな。本当に、どこに行っちゃったんだろう」
どれだけ探しても、どこを探しても、リボーンはどこにもいなかったので、魅真はますます心配になった。
「ツナ君は、リボーン君を探し出すことができたのかな?それに、隼人君とハルちゃんも…」
探しているのは、ツナや獄寺やハルもなので、その辺が気になった。
「とりあえず、あとで電話してみるか」
考えてもどうしようもないので、魅真は、もう辺りが暗くなってきたので、家に帰ろうと足を進めた。
「(ディーノさんも、このことを知ったら、心配するんだろうな。なんたって、ツナ君の前の教え子だもんね。きっと、帰国するのを延期してでも、リボーン君のことを探すんだろうな。優しい人だもの)」
歩いていると、飛行機の音が空から聞こえてきたので、空を仰ぎ見た。
「(こんな時、ここにディーノさんがいてくれたらな…。たよりになる人だし。それに、部下の人もたくさんいるから、早くみつかるかもしれないし)」
空に飛んでいる飛行機を見て、昼にイタリアに帰国していったディーノを思い浮かべていた。
「ディーノさん……」
そして、リボーンを探してる時に忘れていた、ディーノがいなくなった寂しさを思い出して、目じりに涙を浮かべる。
「ん……?」
けど、そこでハッとなり、涙はひっこんだ。
「(あれ……何か忘れているような……。何か…………忘れちゃいけない、重大な…何か……)」
涙がひっこんだのは、何か忘れているような気がしたからで、魅真はそれがなんだったのかと思い出そうとしていた。
その時、自分の後ろで、くつと地面がこすれ合う音が聞こえてきたので、誰だろうと思った魅真は、後ろへふり向いた。
「!!!!!!!!」
そこにいたのは、雲雀だった。
雲雀が現れたことで、魅真はようやく思い出した。
自分が忘れていたことを……。
「魅真………」
それは、昼の2時には、絶対に並中の応接室まで行き、終わらせなきゃいけない仕事は何時間かかってでも、必ず今日中に終わらせるという、雲雀との約束だった。
リボーンを探している時、途中までは覚えていたが、途中からリボーンを探すのに夢中になったために忘れてしまったのだ。
そのことを、雲雀と会ったことでようやく思い出すが、もうすでに遅かった。
「君……どういうつもりなの?」
雲雀と会ったことで、魅真の顔は青ざめた。
短い言葉なのに、迫力がある雲雀の声は、魅真を金縛りにあわせた。
単純に、雲雀に力があるから…というのもあるが、魅真は自らした約束を自ら破ったので、顔向けできないというのが大きかった。
「君……自分から言ったよね!?あの人の見送りに行く代わりに、時間制限を設けてもいいって…。終わったら、すぐに学校の応接室に行って、終わらせなきゃいけない仕事は、何時間かかってでも、絶対に今日中に終わらせるって……言ったよね。僕が昼の2時までに、並中の応接室に必ず来て、委員会の仕事は、必ず今日中に終わらせるという約束が守れるなら行ってきてもいいって言ったら、君は、必ず2時までに応接室に行くって………そう言ったよね!!」
「は……い……」
「それなのに、君自ら約束を破るなんて、どういうつもりなの?」
「す……みません」
「ごめんですんだら、警察はいらないよ」
雲雀はとことん魅真を責めるが、雲雀が言ってることは事実なので、反論することができなかった。
「あの……本当にすみませんでした。自らした約束を破ってしまって……。今からでも、委員会の仕事をしますから……」
「もう終わったよ」
「え?」
「でなきゃ、僕がここにいるわけないだろう。そこまで脳が低下してるのかい?」
汚名返上するために、魅真は今からでも委員会の仕事をしようとするが、雲雀に一刀両断された上に、嫌味まで言われてしまった。
もう仕事も終わってしまったので、どうしようと魅真は悩んだ。
「大体、あの人を空港まで見送りに行ったあとに、委員会をさぼって、何しに行ってたの?そんなに大切なことだったの?」
一応、応接室に行かなかったわけは聞いてくれるらしく、雲雀は魅真に、何故委員会のことを忘れていたのかを問う。
「実は…ツナ君に聞いたんですが、リボーン君が、昨日から行方不明みたいなんです」
「赤ん坊が?」
「はい。それで、私も心配になったので、リボーン君を探してたんですけど、そうしたら時間を忘れてしまって…」
「ふぅ…ん」
「あの……雲雀さん…。本当にすみませんでした。約束を破って、応接室に行かなくて……。でも…次からは、必ず、忘れずに行きますので……どうか……」
魅真は今回のことを謝罪するが、それでも、雲雀の魅真を見る目は冷たいままだった。
その冷たい目に、魅真は顔が更に青くなった。
次は何を言おう、どうやったら雲雀の機嫌が直るのか、そのことばかりを考えていると、急に雲雀が、魅真にも聞こえるくらいに、わざとらしくため息をついたので、魅真はビクッとなった。
「あの……雲雀さん。今回は、うっかりして忘れてしまいましたけど、今日、私が絶対に委員会の仕事を今日中に終わらせると言ったのは、単に風紀委員だからだけじゃないんです。入ったばかりの頃は、嫌々やってましたけど、でも…今は違うんです。今は…風紀委員が好きだから……!!」
けど、それでも勇気を出して、自分の思いを、必死になって雲雀に伝える。
「それと、一番は…………雲雀さんの……力になりたいから……」
最後に告げた想いに、魅真はほのかに頬を赤くする。
その言葉を聞くと、雲雀は驚きで、目を大きく開いた。
でも、そのすぐあとに、眉間に深くしわをよせて、歯を強く噛みしめる。
雲雀は思った。自分の力になりたいのなら、何故午前中にディーノの見送りに行き、委員会をさぼったのかと……。何故、並盛町に帰って来て、すぐに応接室に来なかったのかと……。そして何故、ツナをはじめ、魅真が友達とよんでる人物(おもに男友達)や、つい最近会ったばかりのディーノや、更には、敵だった六道骸のことまでも気にかけて、力になろうとしているのかと……。そして何故、自分の力になりたいのなら、自分を放っておいてるのかと……。
それは、ただの魅真の優しさなのだが、愛情というものを知らない雲雀には、よくわからなかった。
「君さ…最近、ちょっと調子にのってない?」
「え……?そ、そんなこと……」
「そんなことあるよ。だってそうじゃないか。あのイタリア人が来てから、ずっとそうだよ」
「え………ディーノさん?」
「あの人と、屋上で特訓した初日と2日目にほいほいついていったり、ケガの手当てをしてる時や、修業の旅の時にホテルに泊まった時にくっついて、風紀を乱していただろう。それに、必要ないのに弁当をわけたり、称賛したり、あの人にだけリング争奪戦のことを相談していたそうじゃないか。その上、勝手に雲の守護者になったり、しかもそのことを、あの人には話していたのに僕には言わなかったし。パーティーの帰りに送られて、イチャついてもいたじゃないか」
「あの……よく…意味が……」
よくわからないので、雲雀は魅真を責めた。
いろいろとディーノとのことを言われるが、魅真には、何がなんだかさっぱりだった。
「それだけじゃない。ヴァリアーの天才君との戦いに手出しをしたり、あの人にも、六道骸にも、ヴァリアーの天才君にも隙を見せてばかりだ。あの人に体をさわらせたり、六道骸と天才君にはキスされたり……」
「すみません。本気で意味がわからないです」
結構ストレートに言ってるつもりなのに、魅真にはまったく伝わっておらず、それがますます雲雀を苛立たせた。
「それに、体をさわったって……。確かにディーノさんは、私の体にふれることはありましたけど、でもそれは、ただのボディータッチですよ。やらしさなんて全然なかったですから。それに、骸やベルフェゴールがキスをしたのは頬で、イタリアにいたからとか、西洋の人だからとかでしょう?」
二人がキスした意味も、自分が言ってる意味も伝わっておらず、雲雀は更にイライラした。
「そういうところが隙だらけなんだよ。無防備すぎる。それに、君はリング争奪戦で勝手がすぎるよ。今日だって……」
「今日って、ディーノさんのお見送りのことですか?」
「それもあるけど、草食動物と会って話して、赤ん坊が心配だからって、委員会をさぼったことだよ。放っておけばよかっただろう。草食動物の頼みなんて」
「委員会のことを忘れてしまったことについては、申し訳ないと思ってますし、何も言えませんけど……。でも、ツナ君やリボーン君のことを放っておくなんてできません。二人とも、私の大切な友達なんですから」
魅真がツナとリボーンに対する気持ちは、友愛だとわかっているが、それでも雲雀は、魅真の意見を聞くたびに不機嫌になっていく。
「ツナ君とリボーン君だけでなく、武君も、隼人君も、京子ちゃんも、ハルちゃんも、笹川センパイも、ランボ君も、私の大事な友達です!それに、付き合いは短いですけど、ディーノさんだって、もう私の大切な人です」
付き合いの短いディーノまでも、いつのまにか魅真にとって大切な人になっていたので、特にディーノを敵対視していた雲雀は、更に不機嫌になった。
「見送りの時に、あの人と何かあったわけ?」
「な…何か…?」
まだ会って間もないディーノを、大切に思ってるということは、ディーノとの間に、何か特別なことがあるのではないかと思った雲雀は魅真に問う。
その質問をされると、魅真はディーノを見送りに行った時、告白されたことと、頬にキスされたことを思い出して、顔が真っ赤になる。
魅真の表情の変化を雲雀は見逃さず、目が鋭くなった。
「何されたの?」
「え?えっと……」
この前の雲戦が行われた日の午前中、骸にキスされたと話したら、明らかに不機嫌になったので、どこか言いづらくなった魅真は、言葉を濁した。
けど、雲雀の目が、絶対に本当のことを言うまでは許さないと言っていたので、魅真は仕方なく、本当のことを言おうとした。
「………ディーノさんに……好きだって告白されて…………それから……別れる時に……………頬に………キス……されました………」
本当のことを話すと、魅真の予想通り、雲雀は見るからに不機嫌になった。
しかも、先程よりも深いため息をついてきたので、魅真はビクッとなる。
「だから、僕はあの人の見送りに行くのは反対だったんだよ。君は、誰にでも隙を見せるからね。そして、君が隙を見せると、必ず相手がケダモノになる」
「やめてください、ディーノさんのことを悪く言うのは!!ディーノさんには、今回の争奪戦でたくさんお世話になりました。それにディーノさんは、強くて、かっこよくて、優しくて、部下思いで、気づかいのできるいい人です。あんな素敵な人、他にいません!!」
雲雀の意見にカチンときた魅真はディーノをかばうが、そのせいで、雲雀は更に不機嫌になっていく。
「………好きなの?」
「え……?」
「あの人のこと……。好きなわけ?」
雲雀にしてはめずらしい内容の質問に、魅真は目を丸くする。
「あたりまえじゃないですか」
ふしぎそうにしていたが、それでも魅真は、雲雀の質問に答える。
その答えに、今までに見たことがないくらいに不機嫌になり、眉間に深くしわをきざむが、それでも魅真は続けた。
「私はディーノさんのことが好きです。困っていたら力になってあげたい。そのくらい大好きなんです」
魅真がディーノを好きというのは、もちろん恋愛の意味ではなかった。
けど、そう聞こえた雲雀は、怒りが頂点に達する。
「出てって」
雲雀の口から出た短い言葉に、魅真は凍りついたように固まり、目を大きく開く。
「え……?」
何かの聞き間違いかと思ったが、魅真は反応を示すだけで精一杯だった。
「君なんか……もういらない…」
だが、雲雀の口から出たのは、拒絶の言葉。
それも、魅真が一番望まないもの。
「もう……僕の家から出ていってもらう。風紀委員も辞めてもらうし、並中も出ていってもらう。いや……並中だけじゃない。この並盛町からも出ていってもらうよ」
その、インパクトのある言葉に、魅真は雲雀を凝視し、体が硬直し、ショックで顔が真っ青になっていく。
「いやっ!!やめてください、雲雀さん!!それだけはっ!!」
だけど、なんとか体を動かして、雲雀の腕にすがりつく。
「私、もう二度と約束を破りませんし、仕事だって、全部完璧にこなしてみせます!!もっと強くなります!!がんばりますから!!だからっ……お願いですから、私をここから追い出さないでください!!お願いします、雲雀さん。お願いします!!」
魅真は、なんとかして追い出されないようにしようと、必死になって懇願するが、雲雀は魅真の手をふりほどいた。
「僕が言ったことは絶対だよ。どこにでも行くがいいさ。天才君のところでも…六道骸のところでも…あの人のところでも…」
リング争奪戦が始まる前から、少しずつ二人の間に入っていった亀裂……。この瞬間、魅真と雲雀の間にあった仲は、完全に裂かれてしまった。
雲雀は冷たく冷静に言い放つと、魅真に背を向けて、そこから去っていった。
いつもなら、行くよと言ってくれる雲雀。
マイペースながらも、何気に自分の歩調に合わせて歩いてくれる雲雀。
でも、今の雲雀は、魅真を置き去りにして、一人でそこから去っていく。
先程、雲雀に言われた言葉…。そして、自分を置いて歩いていく雲雀…。この二つのことが、本当にもう、雲雀は自分を必要としていないのだという現実が、魅真の心に痛いほどにつきささった。
その現実を、受け入れたくないのに受け入れてしまった魅真は、目から大つぶの涙をぼろぼろとこぼし、ショックで立っていられなくなり、その場にすわりこんでしまう。
体中がふるえ、そのふるえる体を支えるために手を地面につくが、手もふるえているので、いつ体が崩れ落ちるかわからない状態だった。
手を地面についたことで、顔がうなだれ、目から流れる涙は、自然と地面に落ちていき、シミをつくっていく。
「ごめんなさい」、「もう二度と約束は破りません」、「だから見捨てないでください!」、「並中にも、委員会にも、並盛町にも、ずっといたいです」、「ずっと雲雀さんの隣にいたいです!」、「せめて、大人になるまでは雲雀さんの家にいたいです!」、「お願いですから、もう一度チャンスをください!」。一瞬でこれだけの言葉が、魅真の頭に思い浮かんだ。
しかし、何かつかえがあるようにのどが苦しくなっている魅真は、うまく声を発することができず、涙を流すだけだった。
うまく声を発することができないもどかしい気持ちと、雲雀が去っていき、自分との距離が離れていく現実で、ますます涙が流れ出てきた。
「(なんで……声出ないの?せめて、「待って」って言いたいのに!追いかけたいのに!それなのに、体に力が入らない…。お願い……。せめて……声だけでもいいから出て!雲雀さんに伝えたいことが、たくさんあるの!!!!)」
魅真は、せめて雲雀に声をかけようと、口を開く。
「ひ………ばり…………さ………」
のどがしめつけられるようになっているが、声帯を精一杯ふるわせて、とぎれとぎれでも雲雀の名前を呼ぶが、聞こえていないのか、聞こえているけど、聞こえていないふりをしているのか、雲雀がふり向くことはなかった。
「ひば……り……さん…!」
けど、それでも魅真はあきらめず、再度雲雀の名前を呼ぶ。
だが、もう一度雲雀の名前を呼んだ時、突然後ろから、打ち上げ花火をあげる時のような音が聞こえてきた。
魅真は一旦雲雀に声をかけるのをやめて、音がする後ろへとふり向いた。
「!!」
後ろへふり向くと、信じられないことだが、ミサイルのような形の弾が、自分に向かってとんできた。
よけようと思っても、体にうまく力が入らない魅真はよけることができず、そのまま弾にあたってしまった。
その、弾にあたった時の音に気づいた雲雀が後ろへふり向くが、魅真の姿はどこにもなく、魅真がいた場所には、ピンク色の煙が漂っているだけだった。
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