標的51 自由に舞う雲
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「ぐっ…う……」
雲雀のアドバイス通りに、今相手が故障している部分をついた魅真。
その、故障している、骨折した左足を容赦なくたたきつぶされたベルは、薙刀があたったところを両手でおさえ、もだえていた。
「やっ…た…」
少々荒い息をしながら、倒してはいないが、雲雀のアドバイス通りに戦うことができ、相手にダメージを負わせることができたので、魅真は信じられないながらも、うれしそうな顔をしていた。
「やりました、雲雀さん!」
まさか、自分でもヴァリアーの幹部を追い詰めることができるとは思わなかったので、うれしそうに笑いながら、雲雀の方へ顔を向けた。
「バカっ、油断するな!」
「え?」
まだ完全に倒せていないのに、まだベルが目の前にいるというのに、自分の方へふり向いた魅真に、雲雀はめずらしく声をあらげる。
その時、雲雀が叫んだ直後に、魅真はお腹に鋭い痛みを感じた。
「うっ……ぐ…ぅ……」
魅真はあまりの痛みに、お腹をおさえながらひざをついた。
痛みを感じたところには、ベルのナイフが、お腹のちょうどヘソのあたりの右側に一本ささっており、そこからは、赤い血が流れ出ていた。
ベルは、魅真が油断した一瞬の隙に、ナイフを魅真の腹に投げたのだった。
「しししっ。形勢逆て~~ん」
逆にベルは、愉快そうに笑いながら、倒れていた体を起こした。
「正直、ここまでやるとは思わなかったぜ」
「うぅ……」
ベルとは対照的に、魅真は苦しそうに顔をゆがめていた。
「でもな、勝つのはオレだ。王子が負けるなんてことは、ぜってーに許されねーんだよ」
話しながら、ベルはたくさんのナイフを取り出した。
標的51 自由に舞う雲
魅真は、ナイフが刺さったところが更に痛み、お腹をおさえたままうずくまる。
「さっきは甘く見ていたが、もう油断はしねーぜ。今度はこいつで、ハリセンボンの刑にしてやんよ」
余裕の笑みを浮かべているベルは、取り出したナイフを、魅真に投げようとした。
けど、魅真はナイフを投げられる前に、素早く薙刀を下から上にふって、ナイフを持っているベルの手をたたいた。
そのことで、ベルの手からはナイフが落ちる。
「てンめ……」
「油断…してるよ」
魅真は雲雀のような口調で、挑発するように言うと、素早く起き上がり、走ってベルから離れた。
「逃がすかよ!!」
当然ベルも、魅真のあとを追って走り出す。
ベルは走りながら、ナイフを取り出して魅真に投げるが、魅真はそれを薙刀ではじく。
けど、ケガをしているせいで動きがにぶり、全部はじくことはできず、何本かは校舎の壁に刺さった。
そして、魅真はそのまま、ナイフが刺さった方へと走っていく。
「!!」
すると、先程の雲雀の時と同じように、横一文字の傷ができた。
それも、頬だけでなく、腕や足にまで…。
何故そうなるのかはわからないが、これ以上そちらの方へ行くのは危険だと判断した魅真は、反対側へ行くが、そちらに行っても、頬に横一文字の傷ができた。
「(何故…。何故そんな風に切れるの?今ナイフは、私自身には投げられていなかった!)」
この、とても不可解な現象に、魅真は頭を悩ませるが、答えは出てこなかった。
「(落ちついて。焦りは禁物!これは魔法なんかじゃない。こいつの技は、まるで手品のようだけど、手品だって、タネも仕掛けもある。だから、こいつの技にも、なんらかのタネや仕掛けがあるはず)」
けど、冷静に今の状況を分析しようと考えはじめた。
その間にも、ベルはナイフを投げてくる。
「くっ」
魅真はナイフをたたき落とそうと、薙刀をふった。
「!!」
けど、縦にふり下ろすことはできたが、横やななめにはふることができなかった。
そのせいで、全部はじくことはできず、ナイフはところどころ頬や体をかすった。
「(横やななめだと止まるけど、縦ならふれるの?)」
ふしぎに思った魅真は、薙刀を見てみた。
「(これはっ……かすかに、私の体にできた横一文字の傷!?)」
薙刀を見ると、ハッとなった魅真は、次に壁に刺さったナイフの位置を確認し、次にベルの方へふり向き、ベルの手の位置を見てみた。
「(ナイフとベルフェゴールの手と傷の位置が同じ高さ。それに、何か月明りに反射して、ところどころ光るものが……。
……まさかっ!!)」
薙刀と、自分の横にキラキラと光るものをみつけると、魅真はベルの技の正体に気づいた。
そして、薙刀を持っている手をおろして、前を見ながらそっと右側に、水平に移動した。
「く……」
すると、頬、肩、上腕、お腹のあたりの腕に、横一文字の傷ができた。
そして今度は、反対側に、同じようにそっと水平に移動する。
移動すると、同じように、頬、肩、上腕、お腹のあたりの腕と、ほとんど同じ位置に、横一文字の傷ができた。
「何やってんの?お前」
意味不明な行動にベルは嘲笑うが、魅真は何も答えなかった。
「ま、どんなにあがいても、もがいてもムダだけどな。もうおまえは、どこにも逃げられねーし」
ベルは余裕の笑みを浮かべながら、複数のナイフを取り出す。
「じゃーな」
そのナイフを、ベルは投げた。
けど、魅真は一瞬にして地面にふせて、お腹に刺さったナイフが地面にふれないように、ギリギリのところまで浮かせると、まず最初に薙刀を今いる場所から押し出して、次に、自分も素早く、薙刀を押し出した方に出た。
そして、そのまま薙刀をつかむと、一瞬で起き上がってベルに向かっていき、ベルの前まで来ると、薙刀を下から上に、ななめにふり上げるが、ベルはそれをよけた。
「…っと…。惜しかったな。つか、なんでオレの技の正体に気づいたんだよ?」
「右に移動をした時、頬と肩と上腕とお腹のあたりの腕に、横一文字の傷がついた。左に移動をしても、ほとんど同じ場所に、横一文字の傷がついた。ナイフにあたっていないのに。ナイフを投げてない時でも…。雲雀さんの傷も、私の傷も、薙刀についた傷も、全部横一文字の傷だった。つまり、ナイフを投げると同時に、何か一緒に投げたということ。だから、私の傷の位置と、ナイフが刺さった場所と、あなたの手の位置を見てみたら、全部同じくらいの高さだった。ということは、何か、細く長いものがはりめぐらされてるってこと。それに、月明かりで、かすかにだけど、傷がついた位置が、何かキラキラと光っていた。そのすべてを総合して考えると、あなたの武器は、ナイフだけじゃない。ナイフとワイヤーの、両刀使いよ!!」
「ししし、あったりー。けっこー冷静な分析力だな」
魅真がベルの質問に答えると、ベルは笑いながら、魅真を称賛する。
「さっきの行動は、ワイヤーの下からくぐりぬけるために、ワイヤーの高さを、自分の体を使って確かめてたってことか?」
「そうよ」
「肉を切らせて骨を断つってか…。いい判断だな」
更には、先程の魅真の不可解な行動はそのためだったのだと、感心してもいた。
「でも、勝つのオレだから」
ベルはしゃべりながら、無数のナイフをとり出した。
それは、雲雀と戦った時と同じで、ベルを取り囲むように宙に浮いていた。
魅真は、またワイヤーで囲われてしまうと思ったので、なるべく校舎から離れた。
「ふーーん。オレに、ワイヤーで攻撃させないようにするためか。考えてはいるようだな。でも……」
ベルはそんなことは気にせず、魅真を追いかけていき、魅真の前まで来ると手をまげた。
それだけでナイフは、手にふれていないのに魅真に向かってとんでいくが、魅真はそれをよける。
魅真はとにかく、少しでも校舎から離れた。とは言っても、ベルが目の前にいるので、本当にできるかぎり…だった。
けど、ベルはそれを気にする様子もなく、とにかくナイフを投げまくる。
ナイフはどんどん壁に当たっていった。
妙だったのは、魅真が離れるだけでなく、ベルも校舎から離れていってることだった。
魅真はワイヤーの餌食にならないためだが、ベルの方は、何故離れていってるのか謎だった。
しかもナイフは、わざとはずしているようにも見えた。魅真に向けて投げている時もあるが、時々、魅真がいる方でもなければ、雲雀がいる方でもない方向に投げたり、時には地面に投げたりもしていた。
だけど、ベルが何をねらってるのかはわからない。なので、魅真は警戒しながらもどんどんよけていき、ベルに攻撃するチャンスをうかがっていた。
そして、ベルは何度かナイフを投げると、とどめをさすように、たくさんのナイフを同時に投げた。
しかし、それも魅真にはあたらず、やはりわざとはずしているようにも思えた。
けど、そのナイフを投げた時、ベルにわずかに隙ができたので、魅真はチャンスとばかりに薙刀で攻撃をしようとした。
「!!」
だが、ベルの方へ走り出そうとした時、薙刀をふり上げた腕が、横一文字に切れた。
「えっ……何……?」
腕が切れると、魅真はそのままの状態で動きが止まり、呆然とした。
「ししし」
目の前のベルは、その光景を見て、歯を見せて愉快そうに笑っていた。
魅真は、何故こんなところにワイヤーがはってあるのかわからないが、これ以上は前に行けないと判断すると、一旦後ろへ下がった。
「きゃあっ」
けど、今度は何故か背中と足が切れ、複数の横一文字の傷が、背中や足にでき、そこから血が流れた。
前の方もだが、何故後ろにもあるのかわからなかった。わからなかったが、後ろにも進めないのなら、今度は横にそれようと、左の方へ移動した。
「うっ!!」
けど、そこにもワイヤーがはられており、魅真の腕から血が流れた。
左がダメなら右と思ったが、そちらの方にもワイヤーがはられており、同じように腕が切れ、血が流れる。
「しししししし。鳥カゴ完せーーい」
顔に苦痛の色を浮かべていると、ベルは楽しそうな笑みを魅真に向けた。
「鳥……カゴ…?」
「そっ。おまえさー、王子がただ何も考えずに撃ってたと思ってるわけ?」
「え?」
「おまえをワイヤーでできたカゴで囲うために決まってんだろ」
「こんな……遮蔽物がほとんどないところで…?」
「一本のワイヤーを二本のナイフにくくりつけたりと、いろいろと工夫したんだよ。それくらいできて当然じゃね?だってオレ、王子だかんな」
あの、一見無意味だと思われた方向に投げたのは、ベルの策によるものだった。
すこぶる状況が悪かったが、魅真はとにかく、なんとかしてここから脱出しようと、先程と同じように、薙刀を持っている手をおろして、左の方に水平に移動をした。また、どの位置にワイヤーがはられているかを見るためだった。
けど今度は、頬や肩や上腕やお腹のあたりの腕だけでなく、太ももやすねのあたりにも傷がついた。
しかも、くぐりぬけられないほどの間隔ではりめぐらされている。
「なっ」
これでは、ナイフをぬいて腹ばいになっても、とてもではないが抜け出せない。
それならと、右の方に水平に移動するも、同じくらいの位置に傷がつくだけだった。
「く………」
これでは、もうどちらからも、先程のように抜け出すことはできないので、魅真はどうしようかと顔をゆがめた。
同時に、先程お腹を刺されたところが痛んだので、お腹をおさえ、血を流しすぎたので、貧血で尻もちをついてしまう。
「おまえはもう、逃げらんねーぜ」
ベルは魅真を追い詰めたので、今にもとどめをさそうとしていた。
「今、オレの手には、おまえの両隣にはってあるワイヤーがにぎられている。そいつを、交差させればどうなると思う?」
聞かれると、どうなるのかすぐにわかった魅真は、顔が青ざめた。
「おまえは豚バラ肉になって…ジ・エーンド」
もう打つ手はなかった。横にも前にも後ろにもワイヤーがはられているので、逃げ場はどこにもなかった。
「(どうしよう…。この状況を打破するには、ワイヤーを切るしかない。でも……私の薙刀じゃ…)」
そう……。魅真の木でできた薙刀では、ワイヤーを切ることはできない。それどころか、逆にワイヤーに切られてしまう。先程ふった時に、切れずに傷つくだけですんだのは、運がよかっただけだった。
その時、わずかに右手を動かした時、魅真の指先に何かがあたったので、魅真は何かと思って見てみた。
そこには、ベルのナイフが、一本だけ魅真のそば…ワイヤーでできた鳥カゴの中に落ちていたのだ。
魅真はそのナイフをひろってにぎると、ベルに見せるように構えた。
「あ?オレのナイフか。ししっ、そんなんで何しようってんだよ。もしかして、オレにナイフを投げて倒そうってのか?お前、どう見てもナイフ投げたことなさそうだし、仮に投げたことあっても、そんなたった一本だけで、何ができるってんだよ?あたったとしても、たった一本のナイフで、オレが倒れるわけねーだろ」
ベルは暗殺部隊なので、ケガや痛みにはなれている。なので、たとえあたったとしても、自分を倒せっこないし、魅真が助かるわけでもないので、バカにしたように笑った。
「ちっとはがんばってたが、ここまでだな」
いよいよとどめをさそうとするベルに、今まで黙って魅真の戦いを見ていたが、心配になった雲雀が、魅真を助けるために動こうとするが、解毒の際の副作用と貧血のせいでふらついてしまい、うまく歩けなかった。
「ヤバい…。魅真ちゃんっ!!!!」
「魅真殿!!」
絶体絶命のピンチに陥り、今度こそもうダメかもしれないので、シャマルとバジルは、顔が青ざめた。
「バイバイ」
ベルは魅真にとどめをさすため、持っているワイヤーを交差させようとした。
「魅真っ!!!!!」
もう間に合いそうもないが、それでも雲雀は走った。
魅真はもう助からない。誰もがそう思った。
だが、魅真が下から上へ、腕を勢いよくふって上で交差させると、ワイヤーは切れた。
「「!!!??」」
しかも、片側だけでなく、両側のワイヤーが切れたので、雲雀もベルもリボーン達も、驚いて目を見張った。
「なっ……。一体……何が…?」
特に、戦っているベルは信じられない様子で、口をあけて呆然としていた。
一方で、何があったかはわからないが、なんとか魅真が助かったので、雲雀もリボーン達もほっとしていた。
「はっ…!オレのナイフ!?」
けど、すぐに魅真の手にナイフがにぎられていたのを思い出した。きっと、先程にぎったナイフでワイヤーを切ったのだろう。そう思った。
だけど、それはおかしかった。
「二本!?」
ナイフは右手だけでなく、左手にもにぎられていたからだ。
一本だけしかなかったのに、何故二本もあるのか、ベルはふしぎに思った。
「バカな…。ナイフは一本しかなかったぜ。鳥カゴのどこにも、他にナイフは落ちていなかった。一体、どこにもう一本のナイフが…………あっ…!!!」
そこまで言いかけて、ベルはあることに気がついた。
「おまえ……自分の腹にささったナイフを引き抜いて、さっきひろったナイフと一緒に、下からふり上げて、ワイヤーを切ったってのか?」
何も答えなかったが、そのまっすぐな目が、そうだと肯定していた。
それに何よりも、魅真のお腹にささっていたはずのナイフがそこになく、血だけが流れている状態なのが証拠だった。
まさかここまでやるとは思わず、ベルも、助けようとした雲雀も、観覧席のリボーン達も、呆然としていた。
「うおおーー魅真ちゃーーん」
「魅真殿…。よかった…」
けど、観覧席にいるリボーン達はすぐに覚醒した。シャマルは歓喜の声をあげており、バジルは魅真が無事だったことにほっとしていた。
「あの一瞬で判断したのもだが、自分の腹にささったナイフを引き抜いて使うなんて、すごい度胸だな」
リボーンの隣にいるコロネロは、魅真の度胸と行動に、驚きながらも感心する。
「やる時はやる女だぞ、魅真は」
そして、コロネロの隣にいるリボーンは、うれしそうにニッと笑っていた。
少し離れたところでは、何も言わないが、犬と千種も、まさかここまでの度胸があるとは思わず、呆然としていた。
ベルが驚いている隙に、魅真は自分の隣に落ちている薙刀をひろって、ベルのもとへ走っていき、先程のように足ばらいをかけた。
そして、薙刀を縦にして、薙刀の先で、ベルのお腹の一番やわらかい部分を攻撃した。
いっさいの躊躇も容赦もなく、油断していたところを思いっきり刺されたので、ベルはかなりのダメージを負った。
ベルを攻撃すると、魅真は荒い息をくり返しながらも、ベルをまっすぐに見据えた。
「日本には、窮鼠猫を嚙むっていうことわざがあるの。そのことわざは、絶体絶命の窮地に追い詰められれば、弱い者でも、強い者に反撃することがある…という意味をもつ…」
荒い息をくり返しながら、日本のことわざをベルに話す。
「私を弱者とあなどった、あなたの負けよっ!!」
そして、薙刀の先を、倒れているベルの顔の前につきつけ、タンカを切った。
「ひゅ~~~。かっくいい~~~魅真ちゃあ~~~ん」
「魅真殿、やりますね」
「すごいぜ、コラ!」
「ああ。オレも、ここまで成長してるとは思わなかったぞ」
魅真のその姿に、リボーン達は称賛する。
けど、今の状況も、ベルはものともしていなかった。
「……ふーん」
それどころか、口角をあげて笑っていた。
一体その笑みはなんなのかと、魅真はベルを警戒した。
「よっ」
ベルは一瞬で起き上がると、魅真の前に、自分の顔をもってきた。
魅真の顔の位置に、自分の顔をあわせて背をまげて、穴があくようにジロジロと魅真を見ていた。
「な……何…?」
顔が近い上に、急にジロジロ見てきたので、魅真は更に警戒を強める。
「お前、結構かわいい顔してんじゃん。レヴィが言ったことも、間違いじゃないかもな」
「は?」
いきなりのナンパに、まさかベルがそんなことを言うとは思わなかった魅真は、すっとんきょうな声をあげた。
「よしっ」
そしてベルは、魅真の顔の前に人差し指をもってきて、魅真を指さした。
「お前、この戦いが終わったら、王子の姫にけってぇ~~い」
魅真を指でさすと、ベルはとんでもないことを言ってきた。
殺すと宣言されてるわけではないが、突然なんの脈絡もない、今のこの、殺伐とした状況には似つかわしくないことを言われたので、魅真は目がとび出るくらいに驚く。
それは、雲雀もリボーン達も同じで、全員呆然としてベルを見た。
「ひ…姫って…どういうこと?」
当然わけがわからないので、魅真はどういう意味なのか、ベルに聞いてみた。
「お姫サマっちゅーことだよ。オレは王族だかんな。つまり、イコール王子の女ってこと」
それはつまり、ベルの彼女になれということだった。
「そ、そんなの困るわよ!あなたは敵だし、それにぜんっぜん興味ないんだから!他あたってよ!」
「やーーだよ。王子の言うことは、絶対だかんな」
「そんなムチャクチャな…」
魅真は雲雀が好きだし、他の人物…何よりも敵を好きになるなんてことは絶対にありえないので、はっきりと断るのだが、ベルはまったくあきらめてはいなかった。
いきなりベルが、魅真に自分の彼女になれと口説いたことで、雲雀は超がつくほど不機嫌になり、眉間にしわをよせ、口をへの字にまげる。
効果音をつけるのなら、「ムスッ」ではなく、「ムッスゥウ~~」というのがぴったりなくらいに、顔をゆがめていた。
「でもま、その前に…」
そんな雲雀の方へ、ベルはしゃべりながら顔を向けた。
ベルの顔を見た雲雀はますます不機嫌になり、応戦しようと、魅真がベルと戦っている間にひろっておいたトンファーを構える。
「あっちのエース君は、今ここで消してやるよっ」
けどその前に、ベルはナイフを片手に3本ずつ、計6本のナイフを構えて、雲雀のもとへ走っていき、ある程度距離をつめると、雲雀に向けてナイフを投げた。
魅真が雲雀を好きなのは、先程魅真が雲雀をかばったことでわかったからだ。
「雲雀さん!!」
それを見た魅真は心配そうに、雲雀の名前を叫んだ。
けど、雲雀はナイフをトンファーではじくのではなく、指と指の間ではさんで、自分にあたる直前に受け止めた。
まさか、そんなプロの殺し屋のようなことをやってのけるとは思わず、魅真もベルも驚いた。
観覧席では、バジルとシャマルは同じように驚いてたが、リボーンとコロネロは笑っていた。
「へえ、なるほど。魅真が言ってた通り、本当にナイフに糸がついてたんだ。まるで、弱い動物が生き延びるための知恵だね」
トンファーではじくのではなく、手ではさんで止めたのは、ベルのナイフに本当にワイヤーがついてるかどうかを確かめるためだった。
雲雀は、ナイフにワイヤーがついてるのを確認すると、薄く笑った。
「そういうことなら」
そして、ナイフを受け止めたことで落ちたトンファーを再び構え、スイッチか何かを押した。
トンファーの下からは、重りのついた鎖が出てきて、それを雲雀は、勢いよく回転させる。
「一本残らず撃ち落とせばいいね」
「! や……やっべ……」
至極楽しそうに笑う雲雀に、さすがのベルも冷や汗をかいた。
「覚悟はいいかい」
「っと…」
けど、そんなことはおかまいなしに、雲雀はベルに向かって走っていった。
「パース!!」
ベルを攻撃しようとふりまわした鎖は、ベルが後ろに跳んでよけたことでベルにあたらず、校舎を破壊した。
「パスいち!」
「!?」
「自分の血ー見て、本気になんのも悪くないけど、今は記憶飛ばしてる場合じゃないからさ。だってこれ、集団戦だぜ?他のリング取り行こっと」
ベルが引いたのは、集団戦で、雲雀とサシで戦うのは分が悪いと思ったからだった。
「それに、それだけダメージ与えれば、勝ちみたいなもんだしな」
そう言うと、魅真の前まで走っていき、魅真の肩を抱きよせると、頬にキスをした。
「んなっ!」
キスされると、魅真は顔を真っ赤にし、雲雀は先程以上に不機嫌になり、バジルは驚いてるだけだったが、シャマルは白目になってショックをうけていた。
「何すんのよ!!」
頬とはいえ、好きでもなんでもない男にいきなりキスをされたので、魅真は抗議した。
「王子の姫だかんな」
「だから嫌だって言ってるでしょ!!」
「んじゃ、戦い終わったら迎えに行くかんな。バイビ」
ベルはまったく魅真の話を聞いておらず、おまけに、イタチの最後っ屁といった感じで、去り際に、走りながら顔だけ雲雀に向けて、ナイフを投げた。
もちろん雲雀は、それを回転させた鎖であっさりと撃ち落とす。
「口程にもないな」
ベルが去ると、鎖を回転させるのをやめる。
その腕からは、出血が続き、血がしたたり落ちていた。
思ったよりも傷が深く、雲雀は血を流しすぎたせいで、ふらふらしながら壁によりかかった。
その時、空の方からすごい轟音が聞こえてきたので、見てみると、空でツナとXANXUSが戦っているのが目に映った。
「雲雀さん!」
そちらの方へ目をやってると、魅真が雲雀のもとへ走ってきた。
「大丈夫ですか?雲雀さん」
心配そうに雲雀を見ると、魅真はスカートのポケットから、ハンカチを取り出し、雲雀の腕から流れている血をぬぐった。
「君こそ…」
「へ?」
「君こそ、大丈夫なわけ?僕以上にケガひどいけど」
「心配してくださってありがとうございます。私なら大丈夫です。それよりも、早く他の人達を助けに……」
そこまで言うと、魅真は地面に倒れた。雲雀よりもたくさんワイヤーで体を切って血を流したので、貧血をおこしたのだ。
「全然大丈夫じゃないね」
大丈夫かと聞いてきたのに、聞いた本人が一番大丈夫じゃなさそうだったので、雲雀は少々呆れ気味だった。
「大丈夫です!それよりも、ここからだと校舎B棟が一番近いので、武君を助けに…」
倒れたが、すぐに体を起こした魅真は、山本を助けに行こうとした。
けど、貧血のせいで体が震えているために、立つのはしんどく、地面にすわったままだった。
「そのケガで行くのかい?」
「あたり前です!こんなところで、ジッとしてなんていられませんから」
「まったく…」
体のあちこちにケガをして、自分以上に血を流しているが、こうなった魅真は、何を言っても自分の意見を聞きやしないだろうと思った雲雀は、軽くため息をついた。
そしてため息をつくと、いきなり魅真の服の裾をつかんでまくりあげた。
「ちょっ……雲雀さん!?」
普段の雲雀なら絶対にしない行動に、魅真は顔を真っ赤にした。
「このあたりで服をもっていて」
「え?はい…」
と言っても、変な意味で服をまくりあげたわけではなかった。
詳しいことは言われなかったが、魅真は雲雀に言われた通りに服をもち、胸の少し下の位置で固定した。
魅真が服を固定すると、雲雀は制服のネクタイをほどき、ハンカチを取り出すと、ハンカチを折ってある状態のままナイフが刺さったお腹にあて、ハンカチを固定するために、ネクタイをお腹に巻きつけた。
そして、ケガしたところとは反対のところで、ネクタイをしばる。
「応急処置だよ。気になるかもしれないけど、何もないよりはマシでしょ」
「へ?あ…はい…。ありがとうございます…」
まさか、雲雀が手当てをしてくれるとは思わなかったので、魅真はあっけにとられながらもお礼を言った。
魅真がお礼を言うと、雲雀は魅真をジッとみつめたあと、突然魅真を抱きしめた。
「えっ……。あ…あの……雲雀…さん…?」
突然抱きしめられたので、魅真はわけがわからなかったが、それでも嫌ではなく、顔を赤くしながら雲雀の名を呼んだ。
「さっき、あの天才君と戦っていて、ワイヤーで囲まれた時、君はもう終わりかと思ったよ」
「はぁ…」
「でも、僕の予想をはるかに超えて、君は成長していた」
「え……」
「よくがんばったね」
「え?は、はい…。ありがとう…ございます」
めずらしく素直にほめてきたので、更に顔を赤くして、魅真はお礼を言う。
「じゃあ行くよ」
「はい。…わっ」
返事をすると、その場を立とうとしたが、持ち上げられる感覚と浮遊感を感じた魅真は、びっくりして短い悲鳴をあげる。
「ひっ、雲雀さん!?」
ひざの裏と背中に感じる熱で、またお姫さまだっこをされたのだとわかった魅真は、顔を真っ赤にした。
「お、おろしてください雲雀さん。私、自分で歩けますから!」
「何言ってるんだい?君、ケガをして、血だらけでふらふらしてるじゃないか」
「それは雲雀さんも同じじゃないですか!私は大丈夫ですから」
「さっき倒れたばかりなのに何言ってるの?起き上がるのもギリギリで、立つのもしんどそうだったのに。説得力がないよ」
「うっ……」
雲雀を説得するためにいろいろとしゃべっていたが、痛いところをつかれると、魅真は黙ってしまう。
「それに、これは僕がこうしたいからやってるだけだよ」
「へ?」
「だから、黙ってはこばれなよ」
「…はい……」
意外な言葉に目を丸くしたが、それでも雲雀にこうされるのがうれしい魅真は、そのまま雲雀にはこばれながら、校舎B棟をめざした。
「くっそぉお~~~~~~、あの暴れんボーズめ…。魅真ちゃんのお腹を見た上に、お姫さまだっことか…」
その様子を画面で見ていたシャマルは、悔しそうに歯噛みしていた。
同じく、画面を見ていたリボーンは、シャマルとは反対で、ニッと笑っていた。
雲雀に抱きあげられて運ばれている間は、魅真は夢ごこちで、今がリング争奪戦の最終戦の大空戦であることを忘れてしまいそうだったが、途切れることなく聞こえてくる轟音や爆音が現実に引き戻し、みんなを助けなければという、使命感のようなものに燃えていた。
そして、数分歩いていくと(運ばれていくと)、校舎B棟についた。
中に入ってみると、そこでは山本が、毒におかされて苦しんでいたので、雲雀は魅真を地面におろすと、自分の時と同じように、雨のリングがのったポールをトンファーで殴り壊してリングをとり、山本のリストバンドにある凹みにリングを差し込んだ。
すると、解毒剤が投与され、山本は目をあけて起き上がった。
「ハアハア。ふ~~。いやー、まいった…」
けど、まだ地面にすわったままで、少しあらい息をしていた。
「よかった、武君」
「おう、心配かけたな」
山本が助かったので、魅真がうれしそうに笑うと、山本も微笑みを返した。
「ヒバリ、サンキュ!助かったぜ」
魅真に笑顔を向けると、今度は雲雀の方に顔を向けて、助けてくれたお礼を言った。
「校内で死なれると、風紀が乱れるんだ。死ぬなら外へ行ってもらう」
けど、雲雀は山本に背を向けて、よくわからない、先程魅真に言ったのと同じことを言った。
「あはは。なんだそりゃ」
「……」
でも、山本は大して気にする様子もなく、笑いながら立ちあがった。
山本が立ちあがると、雲雀は次の場所へ行こうと歩き出すが、先程のベルとの戦いで血を流しすぎたので、ふらついて、柱に体をぶつける。
「おい、大丈夫か?」
「何のことだい?」
「……」
ふらついて、柱に体をぶつけたのをばっちり見られたというのに、それでも誤魔化す雲雀に、魅真と山本は思わず黙ってしまった。
「交代だ!こっからは、オレが引き受けた」
けど、二人は雲雀の意地とプライドに、それ以上は何も言うことはなく、山本は自分が代わることを申し出た。
山本に言われると、雲雀は雲のリングを山本に渡し、山本がいなくなると、その場にすわりこんだ。
「魅真……」
雲雀がすわりこむと、魅真が雲雀の隣にやってきて、同じようにすわった。
「なんでここに残ったの?一緒に行ってよかったのに」
隣にすわった魅真に、雲雀は疑問をぶつけた。
「雲雀さんが心配だからですよ」
けど、答えはすぐに返ってきた。
にこっと満面の笑顔で微笑むと、雲雀は機嫌がよくなった。
魅真は、雲雀が心配だからというのが一番の理由ではあったが、実際自分も、雲雀と同じように、先程のベルとの戦いで深手を負ったから…というのも理由のひとつだった。
だけど、魅真は少しでも雲雀に心配させないように、そのことは言わなかった。
この殺伐とした戦いの中、魅真と雲雀は、ほのぼのとした雰囲気を出しながら、少しの間、そこで休んでいた。
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