標的45 霧の守護者の対決
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「クローム…ドクロ?」
「え…。骸じゃ……ないの?」
「ん?だ…誰だ?この女子は…」
「……あ………え?」
「ツナの知り合いか?」
当然、初めて会った少女…クロームの存在に疑問を抱いた魅真達は、その疑問を投げかけた。
クロームの後ろにいる犬と千種は、何故かあまりいい顔はしていなかった。
標的45 霧の守護者の対決
「霧の守護者って…………この娘(こ)って…六道骸じゃ……ない……?」
クロームの存在に、ツナはまだぼんやりしていた。
「だまされないでください!!そいつは骸です!!」
「!!」
けど獄寺は、ツナが言ったことを否定した。
「骸が憑依してやがるんです!!目的のためなら、手段は選ばねえ!!あいつはそういう男です!!」
「信じてもらえないのね」
獄寺の言い分に、クロームはどこかしょんぼりとした。
「ったりめーだ!!
10代目!!あの武器を見て下さい!それに、眼帯で怪しい目を隠してる!!」
「……」
けど、獄寺が言ってることは筋が通ってるし、黒曜戦では自分の体をのっとられ、自分が敬愛するツナを狙い、更にはケガを負わせたのだから、獄寺の言い分は、当然といえば当然のことだった。
「六道骸じゃ……ないよ……」
「い゙っ?」
「………」
「そ…そーなんスか!?」
「いや…あの…なんとなくだけど……」
「かばってくれるんだ」
目の前にいるクロームが、骸ではないというのは、ごく自然に出た言葉のようだった。
ツナが自分をかばう発言をすると、クロームはツナのもとまで歩いていく。
「ありがと、ボス」
そして、ツナの目の前まで来ると、ツナの頬にキスをした。
「え゙え゙ーー!」
「んな゙ーー!!」
「ゲ……!!」
その行為に、ツナは顔が真っ赤になり、獄寺は眉間に深くしわをよせ、犬は汚いものを見るような目を向けた。
「何してんだ、テメーーー!!!」
「あいさつ」
「なっ!??」
クローム自身には特に深い意味はないのだが、その行為自体が気に入らない獄寺は、怒りをクロームにぶつけた。
「ふざけんな!!10代目から離れろ!!!」
「まーまー」
怒り心頭な獄寺は、今にもクロームに襲いかかりそうなほどだが、そこを山本が、はがいじめにして、笑いながら獄寺をなだめる。
「へーーー、あれがね…。もっと仙人のじーさんみたいのが出てくると思ったな。あっちのもう一人の雲の守護者と同じで、女かよ」
「あ……あの娘も妖艶だ……」
一方ベルは、クロームを見てどこか拍子抜けしたといった感じで、レヴィは魅真だけでなく、クロームのことも気にいったらしく、頬を赤くそめていた。
「あ?おまえ、あっちの雲の守護者の魅真って女にも、同じこと言ってたらしいじゃねーか」
「それはそれ、これはこれだ!」
あの時、嵐戦で魅真が現れた時、ベルは気絶していたが、あとでヴァリアーの誰かに、レヴィが魅真を気にいったことを聞いたようだった。
だというのに、今クロームに対しても同じこと言っていたので、ベルは呆れていたが、レヴィ本人は真剣だった。
「ファンタズマが興奮してる」
一方、ヴァリアーの霧の守護者のマーモンの上では、マーモンの頭にのっているカエルが、鼻息荒くしながら、マーモンの頭の上を歩きまわっていた。
「やはり、敵の守護者は、特殊な人間のようだな。サーカスにでも売りとばせば、金になりそうだな」
ファンタズマが興奮していたことで、クロームが普通ではないと知り、何やら企んでいた。
「で、どーするのだ?仲間に入れるのか?」
「なっ」
場所はボンゴレ側に戻り、了平がみんなに、クロームを霧の守護者として迎え入れるかどうかを聞いていた。
「入れるわけねーだろ!!こんな、どこの馬の骨だかわかんねーよーな奴!!」
犬と千種の仲間というだけでなく、先程のツナへの行為。当然ながら、獄寺は大反対だった。
「んあ?てんめー、聞き捨てなんねーびょん」
「来るならこいや」
今の獄寺の発言に頭にきた犬は、獄寺を睨みつけ、千種はヘッジホッグを構え、獄寺はダイナマイトを構えた。
「犬…千種、おちついて。あなたたちが決めることじゃないよ」
まさに一触即発といった雰囲気の中、クロームが犬と千種をなだめた。
「ボス。私、霧の守護者として失格かしら」
「いっ」
「私は霧の守護者として戦いたいけど………ボスがどうしてもダメって言うなら、従う……」
「え………。ちょっ……ええ!?そんなの、急に言われても…!だ……大事な事だし…!」
険悪なムードになっている上、初めて会った、よく素性も知らない女の子が、自分は霧の守護者として戦いたいと言ってきたので、ツナは焦り、困惑した。
「でも、霧の守護者として戦える奴は、クロームしかいねーぞ」
けど、そこへリボーンが山本の肩にのって、クロームに助け舟を出した。
「リ……リボーンさんまで何てことを!!」
「……… (でも、確かにリボーンの言う通りだ…………。黒曜の連中がからんでるとはいえ、あの女子も、山本や獄寺君と同じように、父さんが選んだんだ……。それにこの娘(こ)……)」
少々思うところはあったが、リボーンが言ってることは確かだった。
「じゃあ、たのむよ」
そして、少し悩んだが、今夜の対決をクロームに頼んだ。
「な!!いいんですか、10代目!?」
「うまく言えないけど、彼女じゃなきゃ…いけないのかもって」
ツナが認めてくれたことで、クロームはほっとして、槍をにぎりしめた。
「……!」
「ありがと」
「ざまーみろ!」
ツナが認めたとはいえ、クロームが戦うことに納得していない上、犬が小学生のようにからんできたので、獄寺の怒りはまだおさまっていなかった。
「!?」
その時、扉の方から大きな羽音と、何かが強くぶつかったような音が聞こえてきた。
「コロネロ!!!」
「コロネロ君」
やって来たのはコロネロだった。
コロネロは相棒の鷹につれてきてもらったが、コロネロも鷹も、鼻ちょうちんを出していた。
「師匠!!もう京子と寝ている時間のはず…」
「だからおねむだぜ、コラ!!」
中に入ってきたコロネロは、了平の前までやって来た。
鼻ちょうちんを出していたのは、単に、もう就寝の時間だったからのようだ。
「だが、カエル乗せたチビの……正体が、アルコバレーノかどうか、見極めねーとなんねーからな」
「やっぱり気になったんだな」
コロネロがここに来たのは、マーモンのことが気になったからで、コロネロもリボーンも、マーモンのことをジッと見た。
「フン。マヌケ面さげた奴が増えたか。この戦いで、もっとマヌケ面をすることになるだろうがな」
けど、マーモンは意に介しておらず、強気な態度だった。
「そういえば、ディーノさんは?今日は来てくれないのかな……?」
「そーいや、まだ来てねーな」
「ん」
ボンゴレのメンバーは、入院しているランボと雲雀以外はみんないるし、バジルもいる。霧の守護者として戦うクロームも来た。けど、昨日雨戦を見に来てくれていたディーノがいないので、ツナはどうしたのだろうと思った。
「魅真ちゃん、何か知らない?」
「さあ……。今日は、家から直接ツナ君が修業をしてるところに行って、そこからそのままここに来たから…。ディーノさんとは会ってないから、わからないわ」
「そっか」
雲雀とともに、ディーノと修業に行っていた魅真なら、何かわかるかもしれないと思ったが、魅真も、今日はずっとツナと一緒にいたので、ディーノのことは何も知らなかった。
「あいつは、昨晩急用ができてな。旧友に会いにいった」
「こんな時に…そんな…」
魅真は知らなかったがリボーンが知っており、ディーノが来ない理由を告げる。
「よし、では円陣いくぞ!!」
「え…あ…そ…そーだね」
「よっしゃ」
「え、また?」
「あたり前だ!!」
また、あのはずかしい行為をするのかと思った魅真だが、了平は当然のように言い放った。
「いい」
「え……」
「いらないよ、そんなの」
だが、当のクローム自身が、円陣を拒否した。
「あ…っ」
「何だ、あいつは…」
「ノリわりーな…」
特に怒ったりはしなかったが、ツナ達は気がぬけてしまった。
「いってきます」
一言言うと、クロームはマーモンの前まで歩いていった。
「(あの娘(こ)……骸じゃないと思うけど…なんだろう、この感じ……)」
クロームは骸ではないと思っているツナだが、どこか違和感がぬぐえなかった。
「今回の戦闘フィールドは、体育館全てで、館内の物は、何を使ってもかまいません」
「尚、このフィールドには、特殊装置は用意されておりませんので、あしからず」
「え……?何もないの…………?」
今までのフィールドは、なんらかの仕掛けがあったのに、今回はまったくないので、ツナはふしぎに思っていた。
「霧の守護者の特性には、よけーなもんはいらねーんだ」
「?」
「無いものを存るものとし、存るものを無いものとすることで、敵を惑わし、ファミリーの実体をつかませない、まやかしの幻影。それが、霧の守護者の使命だからな」
ふしぎに思っていると、横にいるリボーンが、霧の守護者の特性と使命について説明をした。
「観覧席は、同じ館内の指定スペース内とします」
「な」
「なんだ…?」
「嵐戦と同じように、赤外線感知式レーザーが設置されていますので、気をつけてください」
霧の守護者の対決が始まる前に、ツナ達ボンゴレ側と、ヴァリアー側の周りに、赤外線感知式レーザーつきの鉄格子が降りてきた。
「それでは、霧の対戦。マーモンVS.クローム髑髏。勝負(バトル)開始!!!」
チェルベッロの口から試合開始の合図が告げられると、クロームは槍を頭上でまわし、棍の先で静かに床をたたいた。
すると、棍を中心にひびが入り、クロームが立っているところを中心に、床が盛り上がり、破壊されていった。
「うわ!」
「床がぁ!!」
「ぬお!!!」
いきなり床が崩れたので、ツナや獄寺、レヴィは驚き、あわてていた。
「バカツナめ。お前はこの技を知ってるぞ」
「ひいい!!うわああ!!」
黒曜戦の時に、骸がツナの前で使った技だというのに、あわてていたので、リボーンは呆れていたが、ツナはまったく聞いておらず、叫ぶだけだった。
しかしこの地獄道は、肝心のマーモンには効いておらず、マーモンはその場を跳躍すると、瓦礫を足場にして、かろやかに移動をしていた。
「やはり、僕と同じ術士か。でも、こんな子供だましじゃ、僕から金は」
「!」
そしてマーモンは、あっという間にクロームと距離をつめた。
「とれないよ」
顔の部分が触手に変わり、フードの中から出たたくさんの触手は、クロームを襲った。
「きゃあっ」
クロームが襲われたことで、瓦礫がなくなり、もとに戻る。
「!?」
「あれ?戻ったぜ」
「本当だ」
もとに戻ったので、魅真と山本はふしぎそうにしていた。
「あそこを見ろ」
「! ああ!!」
リボーンが指をさした先には、マーモンの触手で首をしばられ、宙に浮いているクロームの姿があった。
「!!」
「な」
「何アレ!!」
「あぁっ」
「そんな…!」
「弱すぎるね。見せ物にもなりゃしない」
あまりにもあっけなさすぎるので、マーモンは拍子抜けをしていた。
「誰に話してるの?」
「!?」
「こっち……」
だがその時、マーモンの後ろから、やられているはずのクロームが現れ、クロームがいたはずのところには、バスケットボールが入ったカゴがあり、中からバスケットボールがいくつか落ちた。
その姿を見て、犬はどこか得意げな顔をする。
「え!?」
「お…女がバスケットボールになったぞ!!」
「なぁ!?」
「ど…どーなってんの!?」
確かに、クロームはマーモンの触手で首をしめられていたはずなのに、バスケットボールに変わった上に、後ろから現れたので、ツナ、バジル、了平、獄寺は驚き、獄寺は夢でも見てるのかと、目をこすっていた。
「幻覚だぞ」
「げんかく!?」
「互いに譲ることなく、幻をつくりだす、息をもつかせぬ騙し合い。こんなすげー戦いは、めったに見られるもんじゃねーぞ」
「……げんかくって…たしか前にも…
!
骸の地獄道!!」
「………!! 10代目!!やっぱりあいつは骸なんスよ!」
「え…!?」
リボーンにそこまで言われ、ツナはようやく骸の地獄道のことを思い出す。
そして獄寺は、今の戦いで、クロームはやはり骸なのだと思った。
「(そんなはずは…。それに、もし骸だったとして、いったいどーいうつもりなんだよ……!?何しに来たんだよ……!?)」
あの骸が、自分の体を狙い、世界大戦を目論んでいた骸が、マフィアを憎んでいる骸が、ボンゴレファミリーというマフィアのボス候補である自分の手助けをするなど、ボンゴレの後継者争いの戦いに参加するなど、ツナは到底信じられなかった。
一方マーモンは、バスケットボールから触手を離し、触手をもとに戻していた。
「よかったよ。ある程度の相手で。これで、思う存分、アレを使える」
触手の正体は、マーモンが腰に装備していた、トイレットペーパーのような紙だった。
「あの、マヌケチビ二匹の前でね」
紙を戻すと、マーモンはマントの中で、何かを破壊した。
マントの中で金属音が響くと、マントの中から鎖が落ちてきた。
「「!!」」
それを見たリボーンとコロネロは、目を見張った。
マーモンのマントから鎖が落ちると、ファンタズマの皮膚にヒビが入り、皮膚のカケラがぽろぽろと落ちた。
「ファンタズマ、いこう」
そして、マーモンがファンタズマに声をかけると、中からは、脱皮でもするかのように、別の生き物が出てくる。
「何あれ…」
「カ、カエルが…!」
「!」
その脱皮した生物はまるで龍の子供のようで、自分のしっぽを口でつかんで円形になると、天使の輪のように、マーモンの頭の上に浮かび、マーモンは宙に浮かんだ。
同時に、マントの下から藍色のおしゃぶりが見え、その藍色のおしゃぶりは強く輝いた。
「あの巻きガエルと藍色のおしゃぶり…。生きてやがったのか………コラ!」
「やはりな……。奴の正体は、アルコバレーノバイパー」
マーモンのおしゃぶりが輝くと、それに共鳴するかのように、コロネロとリボーンのおしゃぶりも、強く光り輝いた。
そんなマーモンに、対戦相手であるクロームは目を見張った。
「?」
「んな!!?う…浮いてる!!」
「あれ……どうなってるの?」
「あいつもアルコバレーノ!?」
「ああ。奴も、最強の赤ん坊、虹(アルコバレーノ)の一人だぜ」
「藍色のおしゃぶりのバイパー。アルコバレーノ一の、サイキック能力をもつとも言われている術士だ」
「サイキックって…。超能力じゃないスか!?そんなオカルトな!!」
「戦いの最中、行方不明になったときいていたが、まさか生きていたとはな。
なぜ、今までおしゃぶりが光らなかったんだ?コラ」
「よくわかんねーが、さっきのクサリみてーので、おしゃぶりの機能を、封印してたみてーだな」
「バカチビ共にはわからぬ研究の副産物さ。おまえ達と違って、僕は怠らなかったからね」
「「!」」
リボーンとコロネロが、マーモンのことを説明していると、宙に浮いているマーモンが口をはさんできた。
「呪いを解く努力を」
そして、最後の言葉に、リボーンとコロネロは口を閉じ、マーモンを凝視した。
「……? …何の事………?」
何がなんだか、さっぱりわけがわからないツナは、二人に問うが、二人から答えが返ってくることはなかった。
「やばいぜ。あのバカチビ相手じゃ、並の術士じゃ、かないっこねーぜ、コラ!」
「なめんな、コロネロ。髑髏は並の術士なんかじゃねえぞ」
「!」
「誰だろうと…負けない」
クロームは槍を両手でぎゅっとにぎりしめ、マーモンを睨みつけるように見た。
「!?」
槍を強くにぎると、クロームはマーモンのもとへ駆けていき、間合いに入ると、槍を上からふりおろした。
が、マーモンはあっさりとよけてしまう。
「けなげな攻撃だね」
あまりにも単純でわかりやすく、見切ることなど造作もない攻撃だった。
「!?」
だが、よけたすぐあとに、マーモンの周りに蛇が現れ、マーモンの体に巻きついた。
「ムム、この大蛇。幻覚ではないのか」
ふりほどこうとしてもふりほどけない。しかも幻覚にしてはやたらリアルなので、マーモンはふしぎに思った。
そして、蛇をふりほどけないマーモンは、床に落ちてしまった。
「す!すごい!効いてるみたいです…!」
「あの女!!やるではないか!!」
「でも…あれって…!!」
「ケモノを召喚する…あの技は」
「骸の能力(スキル)、畜生道だ!!」
今のクロームの技は、間違いなく、骸が使っていた能力(スキル)のひとつ、第三の道の畜生道だった。
「10代目!間違いなくあの女、骸に憑依されてますよ!!」
「だ…だけど…」
骸の武器の三叉槍を持ってるだけでなく、先程地獄道を使い、更には今、畜生道を使った。もう、クロームは骸に間違いないのだと、獄寺はツナに叫んだ。
「(確かに時々、骸そのもののように感じる事がある…。でも、一つわからない…。なんでだ……?最初に会った時から、いつも、彼女自身の意志を感じるんだ)」
けど、骸の能力を使っていても、骸そのものだと思っていても、それでもクロームは骸ではないと、ツナは感じていた。
一方マーモンは、たくさんの蛇に巻きつかれ、だんごのようになるが、おしゃぶりを光らせると、はじかれるように蛇がふきとんだ。
「!」
「な…」
「ええっ」
手もふれていないのに、おしゃぶりの光だけで蛇がはじけとんだので、ツナ、魅真、山本は驚いていた。
「僕もそろそろ力を解放するよ。君の正体は、その後でゆっくり暴こう」
今の攻撃も、マーモンにはまったく効いておらず、それならと、クロームは槍を頭上で一回まわすと、棍の先を床にたたきつける。
すると、床からたくさんの火柱が出現し、マーモンはくらってしまった。
「うおおっ」
「あちっ!」
「わあ!!」
「これって……この技……!やっぱ骸の…」
その火柱に、バジル、了平、獄寺、ツナはびっくりしていたが、以前黒曜での戦いで、骸が使っていたのを見たことがある魅真は、三人とは別の意味で驚き、目を大きく開く。
向かい側の観覧席では、初めて見るのに、XANXUSは微動だにせず、平然としてこの光景を見ていた。
そして、火柱の中からはマーモンがとび出てくる。
「確かに、君の幻覚は一級品だ。一瞬でも、火柱にリアリティを感じれば、焼けこげてしまうほどにね」
しかし幻覚とはいえ、服の一部がこげていた。
「ゆえに、弱点もまた」
だが、決定的なダメージは与えられておらず、今度はマーモンが攻撃をする番となった。
「幻覚!!!」
マーモンのフードの中の顔がなくなったと思うと、強く光り、その中から冷気がとんできて、火柱が凍ってしまい、体育館全体に冷気がただよった。
「!」
「うわあ!」
「氷?」
「火柱が…凍った!!」
「何だ、この寒さは……!?」
「不覚にも、幻覚にかかっちまったぜ、コラ」
「オレもだぞ。さすがバイパーだな」
それは、マーモンの幻覚で、マーモンと同じ最強の赤ん坊、アルコバレーノのリボーンやコロネロですらかかってしまうほどの、かなりの高レベルの幻覚だった。
その幻覚はクロームにも効いており、口から白い息をはき、顔には冷や汗が流れていた。
「幻術とは、人の知覚、すなわち五感を司る脳を支配するということ。術士の能力が高ければ高いほど、支配力は強く、術にかかる確率も高まり、より現実感(リアリティ)をもつ。そして術士にとって、幻術を幻術で返されるということは、知覚のコントロール権を、完全に奪われたことを示している」
「!」
マーモンが説明すると、クロームの足も凍ってしまった。
「ああ」
さすがにこれはヤバいかと、ツナと犬は顔をゆがめ、千種もいい顔はしていなかった。
「どうだい?忌わしきアルコバレーノの力は。さあ、君の正体を暴こうじゃないか」
「………!」
幻術を返されてしまったが、それでもこの状況をどうにかしようと、クロームは幻術が発動するように念じた。
「もう、何を念じてもムダだよ。君はすでに、僕の幻覚世界の住人なのだからね」
マーモンは、左から右へ、上に弧を描くようにして、指を半回転に動かした。
「きゃあ」
すると、クロームは足が氷づけにされたまま、空中を舞った。
「あうっ」
そして、そのまま床にたたきつけられる。
「やべーぜ、コラ」
「だな」
この状況を、リボーンとコロネロは冷静に見ながらも、どこか焦ってる感じだった。
「う……」
今の衝撃で、槍が離れそうになったので、クロームはいそいで体を起こすと、槍を両手で持ち直す。
「ムム。どうやらその武器は、相当大事なもののようだね」
あまりに必死なその姿を、マーモンは見逃さなかった。
「! ダメ」
今の行動に加えて、その発言は、弱点をさらけだすだけだというのに、クロームはなお、槍を強くにぎりしめ、奪わせないように後ろへ引いた。
しかし、当然マーモンはクロームの言葉を聞くことなく、手を下から上に、弧を描くように半回転させるように動かすと、次に手で拳をにぎる。
「ダメーーーッ!!!」
クロームの叫びもむなしく、槍はこなごなに砕け散った。
それを見たクロームも、観覧席にいる犬や千種も、これはまずい!と思い、顔に焦りの色が浮かぶ。
「!!」
すると、槍が壊れると、クロームは突然口から血を吐き出した。
「がはっ う!」
「え!?ええ!?」
「何?一体」
槍が砕けた途端、いきなり口から血を吐き出したので、魅真もツナもどうしたのかと思った。
「うぅ…」
それだけでなく、突然顔色が悪くなったクロームは、自分の体を支えていられなくなり、床に仰向けに倒れた。
「ど……どーしたんだ!?」
「顔が土色に…」
「お……おい!!あれを見ろ!!腹が!!」
今度は、お腹に厚みがなくなり、紙のように薄くなってしまった。
「陥没していく……!!」
「どうなってるの?あれ」
「これも幻覚~~」
この異様な光景に、ツナ達は、何がなんだかわけがわからない状態だった。
「ムム……。これは現実だ………。どーなっている?何だ、この女…」
しかし、これは幻覚ではないので、マーモンもふしぎに思っていた。
「む…………さま…」
薄れゆく意識の中、クロームはちょっと前のことを思い出していた。
それは、自分が猫を助けようとして、交通事故にあった時のことだった。
そのせいで、右目と内臓のいくつかはダメになり、助からないほどの大けがを負い、血の繋がらない父親が、唯一の血縁者である母親に、同じ血液型の血縁者の臓器を移植すればあるいは助かるかもしれないと、医者に言われたことを話したが、冗談じゃないと母親は拒否をした。血の繋がった母親とは思えないほどの、冷たい態度だった。
けど、そのせいか、集中治療室に入ってるクロームは、死ぬことになんの抵抗もなく、むしろほっとしていた。やっと終わるのだと…。
その時、幻想世界で骸と出会った。
そのことを思い出していた。
「骸……様…」
「にわかに信じがたいが、彼女は幻覚でできた内臓で、延命していたらしいね……」
「な!?」
「幻覚でできた内臓―――!?」
「そんなこと…できるの?」
「それで、幻覚のコントロールを失い、腹が潰れたんだな」
「じゃ……じゃあ、本当にあの娘(こ)、内臓がないの!?」
とても信じられないことにツナは驚愕し、隣にいる犬と千種は、まだ冷や汗をかいていた。
「骸……様………。力になりたかった…」
内臓がないために、顔色が悪く、苦しそうに息をするクローム。
その時だった。
《上出来でしたよ。かわいい僕のクローム》
「!」
《君は、少し休みなさい》
「………!!」
どこからか、骸の声が聞こえた。
しかし、その声はツナにしか聞こえておらず、ツナは骸の声が聞こえた後、寒気を感じ、顔が青ざめ、たくさんの冷や汗をかいた。
「なーんだ。フタを開ければ、マーモンの圧勝かよ。しかも、アルコバレーノの力も、ちょっとしか見れねーしさ」
「これで、全て終わったな。
………?」
ベルとレヴィは、あまりのあっけなさに、どこか拍子抜けしていたが、途中でクロームの様子がおかしいことに気づいた。
突然クロームの体を、霧が包みこんでいったのだ。
「霧が、娘をつつんでいくぞ!」
「なーに、最後の力をふりしぼって、自分の醜い死体を隠そうとする、女術士によくある行動パターンさ」
そのことを、了平はふしぎに思っていたが、術士であるマーモンは驚いておらず、あっさりと返す。
「………?」
だがその時、XANXUSは何か気配を感じたが、それが何かはわからなかった。
「!? どーした、ツナ?」
「…………来る!」
「ツナ君?」
「ツナ!?」
「………あいつだ」
そして、様子がおかしいのは、クロームだけでなく、ツナもだった。
「あいつが来る!!」
「あ…あいつ…?」
「あいつって…………まさかっ!!」
あいつと言っただけなので、山本はよくわからなかったが、魅真は誰なのかわかった。
「六道骸が!!骸が来る!!!」
ツナの口から骸の名前が出ると、魅真は「やっぱり…」と思った。
戦いの場所では、クロームのひらかれていたはずの手はにぎられ、にぎられた拳の中には、霧が集まっていき、砕けたはずの槍が修復されていった。
「ムム!?」
修復された槍をにぎる手には力が入り、手は小さい女性のものではなく、無骨で大きな男性のものになり、クロームにはなかった、黒い革手袋がはめられていた。
それだけでなく、クロームが右目につけている眼帯がはずれると、クロームのものではない、赤い目が開かれた。
そしてその目には……『六』の数字がきざまれている。
「クフフフ」
口からは、女性ではなく、男性の……あの、独特の笑い声が響いた。
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