標的30 守りたい
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その頃、魅真は黒曜センターの中に入り、雲雀を探していた。
広いので迷いそうだが、まだ雲雀の新しい足あとがあったのと、門から黒曜生が、道標のように点々と倒れているので迷うことはなかった。
倒れている黒曜生は、黒曜ヘルシーランドと書かれた建物まで続いており、魅真はその建物を目指して、黒曜生をよけながら歩いていった。
建物の中に入ると、そこにも黒曜生が点々としてるので、それを目印に進んでいく。
「ぅ……ぐ…」
その時、男のうめき声が聞こえてきた。
「(え……?この声って……)」
その聞いたことある声に、魅真は耳を疑った。
「(雲雀さん!?)」
それは、雲雀の声だった。
雲雀がうめき声をあげるなど、何かの間違いではないかと思ったが、それでも心配になった魅真は、声が聞こえる方へ走り出した。
声が聞こえる場所へ向かっている間も、雲雀のうめき声が聞こえてくるので、魅真の鼓動は強く、大きく、早くなっていった。
少し進んでいくと、そこには地に伏している雲雀と、その雲雀を一方的に殴ったり蹴ったりしている、黒曜生の姿があった。
それは、とても衝撃的な光景で、魅真はその光景を見て驚愕し、顔が真っ青になった。
標的30 守りたい
「雲雀さん!!」
魅真は雲雀のもとへ、わき目もふらずに走っていく。
「真田!?」
並中へ置いてきたはずの魅真がここにやって来たので、雲雀はぎょっとした。
「雲雀さん!!大丈夫ですか!?」
雲雀の前まで来ると床にしゃがみ、雲雀を心配そうにみつめる。
「なんで……ここまで来たの?並中に残れって言ったはずだけど…」
「なんでって……雲雀さんのことが心配だからに決まってるじゃないですか!!」
「心配?なんで…ぐっ!!」
「!!」
話していると、急に雲雀は蹴りとばされ、壁に激突した。
「雲雀さん!!!!」
魅真は顔が真っ青になり、あわてて雲雀のもとに駆け寄った。
「雲雀さん、しっかりしてください!!雲雀さん!!」
心配そうに声をかけるが、雲雀は気絶してしまい、魅真の声に答えることはなかった。
雲雀が気を失った瞬間、魅真は目の前が真っ白になり、プツン…と何かが切れる音がした。
「ようやく…眠りましたか」
後ろから声が聞こえると、魅真はキッと相手を睨みつけた。
「それで?あなたは誰ですか?」
優雅に魅真の前に立つその男は、左右の目の色が違うオッドアイで、右の赤い目には、数字の六がきざまれている、どことなく不気味な雰囲気がただよっていた。
「……そういうあなたこそ、誰なの?」
魅真は彼に、質問に質問で返した。
「僕は、六道骸といいます」
「六道…骸?」
「イタリアから黒曜中学校に転校してきた、帰国子女です」
「……その転校生が、なんで雲雀さんを襲ったの?」
「彼は…並中のボスですからね。ですが、ハズレでしたから、歯を抜くまで横になってもらおうと思いましてね。その強さですから、完全に気を失わないと暴れられると思い、少々眠ってもらったんですよ」
歯を抜くというセリフに、魅真はもしや…と思った。
「歯?ひょっとして、土日に並中の生徒や風紀委員を襲ったのって……」
「そう……。僕ですよ」
意外にも相手はあっさりと認め、その言葉に魅真は衝撃を受けた。
「まあ……正確には、僕の手ゴマがやったのですがね……」
「手ゴマ?」
次に骸の口から手ゴマという言葉が出ると、不快そうに顔をゆがめる。
「あなたは……並中を襲って、一体何がしたいわけ?」
「それは、君には関係のないことですよ。君はリストにはのっていなかったが、知ってしまったからには、このまま帰すわけにはいきませんね。少々痛めつけてやりましょうか…」
自分を鋭い目でみつめ、今にも襲いかかってきそうな骸に、魅真は薙刀を構える。
「おや?ひょっとして、僕と戦う気ですか?」
「あたりまえでしょ!!」
意外そうにしている骸に、魅真は強く…大きく叫ぶ。
「雲雀さんを、気を失うくらい殴るなんて……許せないっ!!」
「許せない?おもしろいですね。見るからに弱そうな君が、僕に勝てるとでも?」
「思ってないわ。でも、そんなの関係ない」
魅真自身も、自分には勝てないことはわかっているのに、それでも戦いを挑もうとする姿に、骸は怪訝な顔をした。
「雲雀さんを傷つける人を、許すわけにはいかないのよ…!!」
しかも戦う理由は、自分の身を護るためではなく、雲雀を傷つけたことに対する怒りだったので、骸はますますふしぎに思った。
「君と彼とは他人でしょう?他人の仇をとるため、勝てると思っていない相手に向かっていくのですか?あまりにも無様で、あまりにも非合理だ。何故そこまで、他人のために、自分を犠牲にするのですか?」
「確かに他人よ。でも、雲雀さんのことは嫌いじゃないし、お世話になってるし、何より…護りたいって思ってる。雲雀さんは迷惑かもしれないけど、でも…これは、私が望んでることなの…!」
自分の問いに対する答えに、骸は今度は目を丸くする。
「それに……人には、一生のうちに何度か、たとえ敵わないとわかっていても、立ち向かっていかなきゃいけない時がある…。私にとって、それは今なの…!!」
変わる前も、変わってからも、戦うのが嫌いだった魅真は、雲雀を護るために、敵わないとわかってる相手に、自ら挑もうとしていた。本当に、聞く人が聞いたら、びっくりするようなセリフだった。
「だから私は……戦う!!」
叫ぶとほぼ同時に、魅真は薙刀をふりかぶり、骸に向かって走り出した。
骸の前まで来ると、勢いよく薙刀をふるが、骸はあっさりとよけてしまう。
その後も、何度も何度も攻撃をするが、骸に一度もあたることはなかった。
「そんな……雑でわかりやすく、単調な攻撃では、僕を倒すことはできませんよ」
並中のボスである雲雀ですら敵わないのに、見るからにひ弱な魅真が敵うわけないと、骸は魅真を見て、ニヤニヤと笑っていた。
「君はとても愚かですね」
「?」
「たとえ敵わないとわかっていても、立ち向かっていかなきゃいけない時がある…など…。そんなもの、かっこつけてるだけで、自分の命や人生をムダにしているようなものですよ」
「………」
「もし、自分が最後の砦だとしたら、自分がやられてしまえば、大切な者は、結局やられてしまうだけだというのに…。愚かすぎて笑えてきますよ」
「それでも……何もしないよりはマシよ…。ただ黙って見ているだけで、大切な人がやられたら、とても後悔する。だから私は、どうせ敵わないなら、後悔しない道を選ぶわ!!」
「…本当に非合理だ」
魅真の思いが理解できない骸は、少し不機嫌そうな顔になる。
「そろそろ、遊びは終わらせましょう」
そう言うと、骸は右手を後ろに大きくひき、魅真の顔を殴りとばした。
女相手でも、自分よりも弱いとわかっている相手でも、容赦のない骸の拳は、魅真自身をむしばむように、痛みがひろがっていった。
「ぐ……」
幸いにも歯は折れなかったが、あまりにすさまじい痛みに、魅真は頬をおさえながらひざをついた。
雲雀と特訓しているので、多少は痛みに耐えられる体になっていた。
けれど、雲雀と同じくらい容赦なく、鋭い攻撃なので、魅真は痛みに耐えるので精一杯といった感じだった。
そこへ、痛みに耐えている魅真の前に、骸が歩いてきた。
相手を見下すような、余裕のある笑みを浮かべて…。
「たかがこの程度の攻撃で、立つことすらままならないとは、笑わせてくれますね。そんな弱々しい力で、どうやって大切な者を護ると?」
しかも、嫌味まで言ってくる始末である。
けど、骸に言い返す気力は今の魅真にはなく、頬をおさえながら、目だけ骸の方に向けた。
「どうしたんですか?大切な者を護るのではないのですか?」
そして、今度は魅真の腹を蹴ってきた。
「うっ!!」
魅真は今の蹴りで、後ろにふっとぶと同時に、持っていた薙刀を落としてしまった。
後ろにふっとんでいくと、床に仰向けに倒れた魅真は、痛みをこらえるために、お腹を抱えるようにおさえると同時に、何度かせきこんだ。
「クフフ。なさけないですね。もう終わりですか?」
軽く涙目になって、お腹をおさえている魅真の前に、骸は愉快そうに笑いながら歩いてくる。
キッ…と睨みつけるも、何も変わることはなかった。
むしろ、弱者のささやかな抵抗…としか受けとられていなかった。
「君のような弱い者に、時間をかけてるヒマはありません…。このまま、一息に眠らせてあげましょう」
「!!」
骸が言ってる意味がわかった魅真は、目を大きく見開き、これから起こるであろう出来事に、顔が青ざめた。
そんな魅真の心情などお構いなしに、骸は魅真の胸ぐらをつかみあげる。
「もう…休みなさい!!」
骸は魅真にとどめをさそうと、拳をふろうとした。
だがその時、骸はひとつの気配を感じ、魅真にふろうとした拳を後ろにふった。
そして少し後に、カランという金属音が、部屋に響いた。
「雲雀さん……」
「おやおや…。まだ完全に気を失っていなかったのですね…」
骸に投げられたものは、雲雀のトンファーだった。
骸はトンファーをはじくために、拳を後ろにふったのである。
二人が骸の後ろを見てみると、そこには雲雀が苦しそうに顔をゆがめながら、骸を睨みつけていた。
「さすがは、並中のケンカの強さランキングで一位なだけありますね。少しばかりみくびっていたようだ……」
意識をとり戻した雲雀の姿を見ると、もう今は魅真のことはどちらでもいいというように、魅真の胸ぐらをつかんでる手を離した。
あまりに突然なので、魅真は受け身をとれずに尻もちをついてしまう。
骸は魅真を解放すると、再び気絶させようと、雲雀のもとまで歩いていった。
「今度こそ……完全に寝ていてもらいましょうか…!」
いくら目をさましたといっても、この状態ではまともに戦うことができないのは、雲雀自身、誰よりもよくわかっているので、苦虫を噛みつぶしたような顔になる。
その光景を見ていた魅真は、痛む体にムチをうって、手足を動かした。
「眠りなさい…!!」
そして骸が、あげた足を雲雀にむかっておろそうとした時、魅真は近くに落ちている薙刀を素早くひろい、薙刀を骸にむかって勢いよくふった。
「ぐっ…」
その攻撃は、見事骸の脇腹にあたり、骸は脇腹にきた痛みに顔をゆがめた。
「このっ」
「きゃあ!!」
骸は足をあげていたところを攻撃されたので、倒れそうになったが、あげていた足を床につけて、なんとか体勢を立て直すと、魅真を殴りとばした。
「く……」
殴りとばされるも、すぐに立ち上がろうとするが、目の前にはすでに骸がおり、再び胸ぐらをつかまれる。
そして、今度は殴るのではなく、魅真の目に自分の目をあわせた。
骸の右目の、六の数字が妖しく輝くと、魅真は意識を失った。
それから2時間ほど時間が経つと、魅真はうっすらと目をさました。
「ん……」
目の前には真っ暗な空間が広がり、なんとか自分の姿が見えた。
「あっ…雲雀さんは…」
少しだけぼんやりとしていたが、急に雲雀のことを思いだし、心配になった魅真は、雲雀を探す。
「あ……」
けど、自分の隣に、仰向けになって寝ていたので、すぐにみつかった。
自分が気絶する前まで、骸に殴られ、蹴られ、血だらけになっていたので、心配になった魅真は、雲雀の左胸に耳をあて、心音を確認した。
ケガをして、ぼろぼろの状態ではあるが、生きてはいたので、魅真は安堵した。
「ぅ……」
その時雲雀の声がしたので、魅真は耳を離し、上体を起こした。
上体を起こして雲雀の顔をのぞくと、雲雀はまぶたを震わせて、ゆっくりとその目をあけた。
「雲雀さん!」
雲雀が目をあけると、魅真はうれしそうに雲雀の名前を呼ぶ。
それと同時に、うれしさのあまり、目から涙を流した。
「真田…?」
「そうです。ああ……よかったぁ…。心配しました」
「僕は君に心配されるほど、落ちぶれちゃいないよ……」
魅真は、ただ純粋に雲雀を心配していただけなのだが、孤高をつらぬき、プライドが高い雲雀はそれが嫌で、冷たく返しながら、床に手をついて、上体を起こそうとした。
「くっ……」
けど、ケガのせいで、上体を起こす前にふらついてしまう。
倒れることはなかったが、床に手をついたままふんばり、その状態を維持するのが精一杯といった感じだった。
「ほらっ。やっぱりケガがひどいんじゃないですか。無理しないで、おとなしくしていてください」
魅真は心配そうに、雲雀の右肩に手をかける。
けど、雲雀はそれが嫌で、片手を床につきながら、もう片方の手で、自分の肩にある魅真の手をはらいのけた。
「余計なお世話だよ」
雲雀は、いつものように冷たく言い放った。
けど、魅真はそれが気にいらなかったようで、むっとして、眉間にしわをよせると、今度は両方の手を雲雀の両肩に置いた。
「いいから!!しばらくおとなしくしていてください!!」
そして、両肩を雲雀のケガにさわらない程度に押して、強制的に寝かせた。
雲雀の頭は魅真のひざにのっかり、いわゆる、ひざまくらというものを、魅真は雲雀にしている状態になった。
今までも魅真が強気に出てきた時はあったが、こんな手段に出るとは思わなかったので、雲雀は目を丸くした。
「今は無理しちゃダメですよ」
魅真は雲雀が起き上がれないように、体を押さえながら話す。
「だからって……無理しちゃいけない人間の体を、強制的に抑えつけるのかい?」
無理するなと言うわりには、ケガした体を押さえつけているので、雲雀は冷静につっこんだ。
「え?あっ……ごめんなさい…」
つっこまれてようやく気づいたのか、魅真ははずかしさのあまり、頬を赤くして、あわてて手を放した。
「まあ、いいや。確かに今は、無理して体力をけずるべきじゃないからね」
「そうですよ」
「じゃないと、あいつを倒せないし」
「そこですか」
よほど、やられたのが悔しいようで、予想していたのとはまったく違う答えに、魅真はつっこむ。
「で、ここどこなの?」
「わからないですけど…。どうやら閉じこめられてるみたいなので、まだ黒曜センターのどこかにいるのではないかと……」
「そう…」
体を解放されたが、面倒なのか、それとも動く気力がないのか、雲雀は魅真にひざまくらをしてもらってるまま、魅真と話していた。
「……ねえ…」
「なんですか?」
「なんで…さっき泣いてたの?」
「え…?」
「泣いてたでしょ?僕が目をさました時…」
「だ…だって…そりゃあ、雲雀さんが無事だったので…」
「……それだけ?」
「それだけって……それだけですけど…」
「なんだ…。たかがそんなことくらいで泣いてたのか…」
もっと大きな理由があるのかと思ったが、とても小さな理由だったので、雲雀は拍子抜けをした。
「たかがそんなことってなんですか!?だって…雲雀さん、ひどいケガをしてる上に、おまけに血だらけなんですよ。心配しない方がおかしいじゃないですか!!」
けど、自分が言ったことに答えた魅真が、すごい剣幕でしゃべってきたので、びっくりして目を丸くした。
「もう……すごく怖くて…血の気が引いて…不安だったんです…。雲雀さんが…死んじゃうんじゃないかと思って…」
「僕が死ぬわけないだろ?バカだね…」
「バカってなんですか…。だって、本当に怖かったんですよ」
魅真は話していくうちに、体が震え、目から涙をこぼした。
「本当に変なこだね。僕のことで泣くなんて」
「変でいいです。今…とてもうれしいので」
「…うれしい?なんで?」
「わかりません…。でも……なんだか、すごくうれしいんです」
話しながら、目から涙を流し続ける魅真の顔に指を近づけると、雲雀は魅真の涙を指でぬぐった。
「ひっ…雲雀さ…!?」
突然の、絶対にありえないと言っていいことをしてきた雲雀に、魅真は顔を真っ赤にする。
「本当に……変なこだね…」
そして、軽く微笑んだ雲雀に、魅真は胸をドキドキさせていた。
顔が赤くなってるだけでなく、ドキドキしているのも、自分自身でもわかっていた。
心臓は今までより更に高鳴っており、まるで自分の体そのものが心臓のようだった。
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