標的35 終わりとそれから
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骸を殴りとばすと、ツナは骸が倒れたそばに着地する。
「ぐふ……」
床に激突すると、えぐられるように床に穴があいた。
煙がたつほどの威力で、さすがの骸もかなりのダメージを受け、口から血を吐いた。
「…………」
「クフフフ。これが、ボンゴレ10代目。僕を倒した男か……」
冷めた目で自分を見下ろすツナに、骸は自棄になったように笑う。
「殺せ」
そして、次にとんでもない一言を言い放った。
「君達マフィアにつかまるぐらいなら、死を選ぶ」
もう、すべてを諦めたような顔をする骸。
そんな、極端なことを言う骸に、ツナと魅真の目が大きく見開かれた。
「オレにそんなことはできない……」
骸に背を向け、眉間にしわをよせながら話すツナを見て、骸はニヤッと笑う。
「その甘さが命とりだ」
不適な笑みを浮かべると、今度は骸がツナの背後にまわり、ツナの両手をつかみ、両手をツナの背後にまわして動きを封じた。
「骸、おまえ……!」
「おっと。君の妙な技が、手の炎の力で起きているのはわかっている。手を封じれば、怖くありませんよ」
「ぐ」
男同士でも、戦闘の経験がある骸の方が力は上で、ツナは骸の手をふりほどくことができないでいた。
骸はツナに体を近づけると、そのまま頭つきをくらわせ、そのことでツナの体は崩れ落ちる。
「なぜ、多くの刺客に君を狙わせたか、わかりますか」
「ぐっ」
ツナが崩れ落ちるも、骸は攻撃を休めることはなく、間髪いれずに、ツナの脇腹にひざ蹴りをした。
それを、魅真は眉間にしわをよせ、自分がやられているわけではないのだが、苦痛の表情を浮かべていた。
「君の能力を、充分に引き出してから乗っ取るためだ。ご苦労でしたね」
ひざ蹴りをくらわせると、今度はツナの体に自分の体を密着させる。
「もう休んで──」
そして、ツナの手をひっぱり、自分の方にツナの体の正面を向かせ
「いいですよ!」
「かっ」
そのまま、流れるように蹴り飛ばした。
「飛ばされた先を見るがいい」
「「「!」」」
骸はこれから起こることを想像して、愉快そうな笑みを浮かべており、三人は骸に言われた通りに、ツナが飛ばされた先を見た。
「クフフ……。空中では受け身がとれまい。君は、そのくだらぬ優しさで、自分を失くすのです」
その先には、壁にうまった三叉槍があり、このままいくとツナは刺さってしまい、「契約」が成立してしまう。
「いけ、ツナ。今こそ、Ⅹグローブの力を見せてやれ」
しかし、リボーンはそれを問題視しておらず、逆に目が光り、ツナに命じた。
「うおおお」
リボーンに言われると、ツナはⅩグローブに力をためるように叫び、その後、グローブに死ぬ気の炎を灯した。
そのことで、ツナの体は止まり、槍に刺さることはなかった。
「な!!炎を逆噴射だと!?」
それを見た骸は、今までにないくらいに驚いていた。
骸が驚いている間にも、ツナは両手を使って炎を逆噴射して、骸の方へ向かって飛んでいく。
「!! これは!?」
「そーだぞ。さっき、瞬時におまえの背後に回ったのは、死ぬ気の炎の推進力を使った、高速移動だ」
リボーンが説明していると、ツナは骸の目の前までせまってきていて、右手で骸の顔をとらえた。
「うあぁああ!!!!」
はたから見ると、骸の顔が炎で焼かれているようで、骸はツナの攻撃(?)に悲鳴をあげた。
「……ああ…!」
けど、グローブの死ぬ気の炎は、本当は骸を焼いているのではなかった。
「あ…」
次第に声は小さくなり、骸の目は、今までの鋭い目ではなくなり、体に現れていた模様は消えていった。
「死ぬ気の炎が、骸のどす黒い闘気(オーラ)を浄化したな」
ツナは骸と一緒に、そのままスクリーンの方の壁につっこんでいった。
そのことで骸は倒れ、意識を失った。
骸が気絶すると、壁に刺さった三叉槍は、骸が気を失ったのと共鳴するかのように……また、この戦いの終わりを告げるように、粉々に砕け散った。
標的35 終わりとそれから
気を失い、横たわっている骸を、ツナと、ツナの隣にやって来たリボーンが見ていた。
「終わったな」
「………」
リボーンがそう言っても、ツナは眉間にしわをよせ、納得がいかなそうな、苦しそうな表情を浮かべていた。
「うん……」
けど、それでもすべてが終わったことには違いないので、力なく返事をした。
返事をした時ツナは、ハイパー死ぬ気モードから、普段のツナに戻った。
「ツナ君!!」
そこへ、ずっとこの戦いを見ていた魅真が、ツナのもとへ走ってきた。
「魅真ちゃん」
「やったね。勝ったね。すごいよ。さすがツナ君だね」
魅真はツナの前までやって来ると、尊敬の眼差しでみつめ、ツナが勝ったことを心から喜んでいた。
「あ、あのさ…魅真ちゃん…」
けど、ツナは魅真には見せたくなかった、ハイパー死ぬ気モードで戦っている姿を見せてしまったので、おそるおそる魅真に話しかける。
「何?あ…それよりも大丈夫?ツナ君、ひどいケガしてるけど…」
だが、魅真はそんなツナを無視して、別の話題をふっかけた。
「うん……大丈夫だよ…。そ、それよりさ…」
「そういえば、雲雀さんもケガをしてるんだった。それに、隼人君とビアンキさんとフゥ太君と武君も」
「あっ。そうだ、みんなのケガ!」
魅真に言われると、獄寺達のことを思い出したツナは、焦りながら、彼らの方へふり向く。
「心配ねーぞ。ボンゴレの医療班も、敷地内に到着したらしいしな。ランチアの毒も、用意してきた解毒剤で、まにあったそーだ」
「よかった…」
携帯に化けたレオンから受けた報告をツナに伝えると、ツナはほっとしていた。
「………」
安堵していると、ふいに骸の姿が目に映り、ツナはなんとも言えない表情で骸を見た。
「骸……。死んでないよな?無事だよな?」
「ったく。甘いな、おまえは」
今の今まで戦っていた、自分以外の無関係の人間もたくさん巻きぞえにされ、傷つけられたというのに、それでも骸の心配をするツナに、リボーンは呆れながらも、どこか笑っていた。
「でも、やっぱり何かあると、後味悪いじゃない。無事なのがいいにこしたことはないよ」
「ツナだけじゃなく、魅真も甘いな」
骸の安否が気になった二人は、骸に近づこうとした。
「近づくんじゃねえびょん!!!」
だが、ツナ達が骸に近づこうとすると、それを阻む声が響いた。
「マフィアが骸さんにさわんな!!」
それは、ツナにやられて意識を失っていた犬と千種で、彼らはケガをして血だらけになりながらも、動けない体を無理矢理に動かし、床をはって骸のもとへ近づいていく。
犬と千種を見た魅真は、何があってもいいように、薙刀を構えた。
「ひいっ。あいつらが!!」
「ビビんな、ツナ。奴らは、もう歩く力も残ってねーぞ」
リボーンが言う通り、二人は歩くことすらできなかった。
それほどまでに、体にダメージがあるのだ。
けど、それでも犬と千種は、骸のために向かっていく。
「……な…なんで…?」
ビビりながらも、ツナは疑問に思ったことを口にした。
「なんで、そこまで骸のために?君達は、骸に憑依されて、利用されていたんだぞ」
「そうよ。あなた達の命をもて遊んだのよ」
ツナだけでなく、魅真も、疑問に思ったことを二人に問う。
「わかった風な口をきくな…」
「だいたい、これくらい屁ともねーびょん。あの頃の苦しみに比べたら」
「あの頃……?」
「何?それ…」
「何があったんだ?言え」
「………………へへっ」
リボーンに促されると、犬は笑い
「オレらは自分のファミリーに、人体実験のモルモットにされてたんだよ」
「「「!!」」」
衝撃の過去を、三人に伝えた。
「やはりそうか。もしかしてと、思ってはいたが。お前達は、禁弾の憑依弾を作った、エストラーネオファミリーの人間だな」
「禁弾?それは、てめーらの都合でつけたんだろーが」
それは、骸と犬と千種の、幼い頃の辛い経験だった。
「おかげでオレらのファミリーは、人でなしのレッテルを貼られ、他のマフィアから、ひっでー迫害をうけた。外に出れば銃を向けられ、虫ケラみてーに殺される」
どこにも味方がいない。誰も、自分達を人間扱いしない。そんな、悲惨な日々。
「それが、ファミリーの大人達が推し進めていた、特殊兵器開発の実験に、ますます拍車をかけたびょん」
幼い子供が、ファミリーが開発した特殊兵器の銃で撃たれる。
けど、それでも大人達は平然として、実験の結果を淡々と述べる。
この、特殊兵器の開発は、地に堕ちた自分達のファミリーが、再び栄光を取り戻すための礎なのだと……開発にたずさわり、死ぬことは、名誉なことと思えと……信じられないことを、平気で口にしていたのだ。
「仲間は次々と死んでいった。毎日が地獄だった──…」
もちろん、そこにいる千種も実験台となり、炎に包まれた。
苦しみ、泣き叫ぶが、大人は実用化には程遠いと言うだけ。
「オレらはどこへ行こうと、どうあがこうと、生き延びる道はなかったんだ」
そして、今話している犬も、実験の道具にされていた。
皮肉にも、今犬が自分の武器としている、アニマルチャンネルの実験だった。
口を強制的に開けさせられ、いくつもの管が歯にとりつけられる。
その苦痛に…その恐怖に…犬は泣き叫ぶ。
千種同様に、人として扱われない。
あまりに無慈悲で、あまりに残酷。大人達は、本当に子供達を、ただの実験の道具としか見ていなかった。
どこにも救いなどなかった…。
「でも、あの人は──…」
だが……
「たった一人で、現状をぶっ壊したんだ」
骸はその地獄の日々を、たった一人で終わらせたのだ。
「大人しくて目立つタイプじゃなかった。声を聞いたのも、その時が初めてだった気がする」
周りに散乱している、めちゃくちゃに壊れた実験器具と、床に倒れた大人達。その大人達から流れ出た血で汚れた壁と床。その中心に、全身を血で汚し、今の自分の武器となっている三叉槍を持っている骸は、あの独特の笑い方で笑うと、「やはり、取るに足りない世の中だ。全部消してしまおう──…」と、子供が言わないようなことを、右目にはっていたガーゼをとりながら言った。
「この時、生まれて初めて…」
そして骸は、近くにいた犬と千種がいる方へふりむいた。
ふりむくと、「一緒に来ますか?」と、先程恐ろしいことを口にしていたとは思えないほどの優しい笑みを向け、犬と千種に問いかけた。
その右目には、六の字がきざまれており、目の周りには、痛々しい手術痕があった。
この目は皮肉にも、犬のアニマルチャンネル同様に、エストラーネオファミリーでの実験によって得たものだった。
「オレらに
居場所ができた──…」
初めてかけられた優しい言葉。
今までどこにも、自分が生きるための、安息の場所などなかった。
自分達を人間として見るものはいなかった。
けど、骸は違った。
骸は、犬と千種と同様の扱いをうけながらも、自分達を人として扱い、安息…とは言いがたいかもしれないが、自分達が居てもいい場所をつくってくれたのだ。
それが、犬と千種が、こんなになりながらも、骸を慕い、骸に忠実になり、骸を守ろうとする理由だった。
「それを…。おめーらに、壊されてたまっかよ!!」
「………」
それは、犬だけでなく、千種も望む、心からの言葉だった。
「でも…オレだって…仲間が傷つくのを、黙って見てられない…」
けど、それはツナも同じだった。
「だって……そこが、オレの居場所だから」
「ぐっ!」
「………」
立場や大切な者が違うだけで、気持ちが痛いほどによくわかる犬と千種。
同じような言葉を返されると、言葉がつまり、犬と千種は何も言い返せなくなった。
「あ!」
「医療班がついたな」
「よかった。これで…」
話していると、上の段の出入り口に三つの人影が見えたので、先程リボーンが言っていた医療班だと思った。
「!」
しかし、犬のもとへ何かがとんできたと思ったら、犬の首に、鎖がついた首輪(拘束具)がつけられた。
「「な!!?」」
突然のことに、ツナと魅真は驚いた。
続いて、犬だけでなく、千種、骸までもが、同じもので拘束された。
その拘束具の先には、黒いシルクハットに黒いコート、顔は包帯で覆われているため、顔がわからない不気味な者達がいた。
人の形をしているので、かろうじて人間であろうことはわかったが、服の下の部分がどこからも見えないので、正体はいっさい不明だった。
「早ぇおでましだな」
「い…いったい誰!!?」
「何……あの人達…?」
「"復讐者[ヴィンディチェ]"。マフィア界の掟の番人で、法で裁けない奴らを裁くんだ」
どこか異様なオーラを放っている復讐者達は、リボーンが説明すると、骸達をつないでいる鎖を無理矢理にひっぱって、自分達のもとへ寄せた。
「ちょっ…。何してるんですか!?」
「その人達を放しなさい!!」
「やめとけ、ツナ、魅真」
「「!?」」
強制的に骸達を連れて行こうとする復讐者を止めようとするツナと魅真だが、そこへリボーンが二人を止めに入った。
その間にも、復讐者達は骸達を連れていくために動いていた。
そして、復讐者の一人がマントを翻すと、三人の姿が消えてなくなった。
「ああ…」
「連れてかれちゃった…」
「やつらに逆らうと厄介だ…。放っとけ」
「おまえがそこまで……。そんなにヤバイの………?」
「確かに……すごい異様な雰囲気の人達だったけど…」
リボーンですら関わろうとしない様子に、ツナはただごとではないと察知する。
「あ、あの3人どーなっちゃうの?」
「ひどいことされるの?」
「罪を裁かれ、罰をうけるだろーな」
「ば…罰って…?」
「さーな。だが、軽くはねーぞ。オレ達の世界は甘くねーからな」
「「…………」」
ツナと魅真は、自分のことではないのに、顔を青くして、骸達の行く末を心配していた。
「おまたせしました!」
「ケガ人は!?」
「医療班がきたな」
するとそこへ、今度こそ医療班の人間がやって来た。
「じゃあ、ランチアさんは?」
「解毒後に復讐者に連れていかれたらしいな」
「そ!そんなあっ」
ツナが中に来る前に、外でツナと戦っていた、骸の影武者となっていた男、ランチア。
骸に利用され、口封じのために千種の武器の毒針を受け、挙げ句のはてに、解毒はされたものの、復讐者に連れていかれたことを知り、ツナはショックを受ける。
フゥ太、ビアンキ、獄寺、山本、雲雀……。今回の戦いの重傷者達は、次々にストレッチャーで運ばれていった。
「だ……大丈夫かな…?」
「心配すんな。超一流の医療班だ」
ツナと魅真とリボーンは、ストレッチャーで運ばれてはいないが、すべて終わったので、医療班と一緒に、建物の外に出ていた。
脅威は去ったものの、それでも彼らが重傷なのは変わりなく、未だ目覚めない彼らを見て、ツナと魅真は心配していた。
「みんな…」
リボーンにそう言われても、心配なものは心配で、ツナと魅真は、彼らが運ばれていく様子を心配そうに見ていた。
「い゙っ!?いでででででで」
その時、突然激しい痛みが、ツナを襲った。
「ツナ君!?」
「ぐわーーっ。いてぇ!!何コレ!?体中が…筋肉…痛!??」
痛みの正体は、ただの筋肉痛だった。
しかし、あまりに激しい痛みに、ツナの顔は青ざめ、涙まで出ていた。
「小言弾のバトルモードは、すさまじく体を酷使するからな。体への負担が、痛みとなって返ってきたんだ」
「うそぉ!!?」
「大丈夫!?ツナ君!!」
「大丈夫じゃないよ!!!い゙でーー!!!助けて!!!」
まさか、そのような副作用があるとは思わず、ツナはもがいていた。
「がっ」
そして、何度かもがいた後、ツナは気を失い、その場に倒れた。
「あまりの痛みに、気を失いやがった。がっつり鍛えねーとな。でも、9代目の指令はクリアだぞ。よくやったな、ツナ」
リボーンはめずらしくツナをほめており、その顔はうれしそうだった。
「オレも家庭教師として…
ねむい…ぞ」
次に、また何かほめるのかと思ったら、睡魔が襲ってきたようで、マイペースにも、ツナによりかかって眠り始めた。
そんなツナとリボーンを見た医療班は、二人もストレッチャーに乗せて運んでいった。
「(ツナ君…。おつかれさま)」
その様子を見ていた魅真は、心の中でツナを労うと、その場をあとにして、雲雀が乗っているストレッチャーに近づいていった。
「あなたは?」
「あ、この人の連れです。一緒に乗車してもいいですか?」
「ええ、かまいませんよ」
雲雀はちょうど救急車に乗せられるところで、隊員の許可を得ると、魅真は一緒に救急車に乗りこんだ。
魅真は病院に着くまでの間も、雲雀が手当てを受け、病室に寝かせられてからも、ずっと心配そうな目で雲雀を見ていた。
けど、雲雀が目をさますと、魅真は安堵し、喜び、うれしそうに笑った。
その目はとても愛しそうで、優しい、満面の笑顔だった。
雲雀、ツナ、山本、獄寺、ビアンキ、フゥ太は病院に入院となったが、魅真は他の六人にくらべると軽傷だったので、骸に殴られたり蹴られたりしたところを手当てしてもらうと、家に帰っていった。
そして、骸との戦いから一週間が経った。
「姐さん、この書類はどうしますか?」
「あ、それは私でもできる奴だから、あとでやっておくわ。置いといて」
「はい」
「姐さん、こっちの書類は、雲雀さんのサインが必要なのですが…」
「あとでお見舞いに行った時に、雲雀さんに渡しておくわ」
「わかりました」
「あ!あと、見回りに行ってきてくれる?」
「はい、姐さん」
魅真は応接室で、風紀委員の仕事をこなしていた。
今風紀の仕事をしているのは、魅真と、この前の襲撃事件で、被害にあわなかった者だけだった。
そして今魅真は、雲雀に代わって、今いる風紀委員のメンバーに指示まで出していた。
とてもいそがしそうだったが、どこかいきいきとしており、充実している顔だった。
そして、雲雀が入院している病室では……。
「真田が?」
「ええ。委員長に代わって、風紀委員の仕事をまわしているそうです。その上、彼らに指示まで……」
草壁が、お見舞いと委員の報告に来ていた。
草壁も、雲雀同様に病院に入院していたが、自分のところに見舞いに来た、風紀委員の者から聞いていたのだった。
「あの真田が…」
「ええ。とても、がんばってくれているそうですよ」
あんなに自分にびくびくおどおどして、風紀委員の仕事もいやいややっていた魅真を知っているので、とても信じられないといった感じに、雲雀はつぶやいた。
「じゃあ委員長、自分はちょっと出てきます」
「そう…」
断りを入れると、草壁は病室から出ていった。
雲雀は草壁がいなくなると、天井をみつめながら、魅真のことを考えていた。
魅真が、自分のことを心配していた時のこと。
魅真が、自分が目を覚ました時、安堵の表情をみせたこと。喜び、うれしそうな顔をしていた時のこと。
優しい、満面の笑顔を向けられたこと。
そのことを思い出していた。
自分でも、何故他人のことを思い出すのか、とてもふしぎだった。
けど、不快にはならなかった。
むしろ、意外なほど素直に、魅真のことを受け入れている自分がいた。
そのことを、更にふしぎに思っていると、扉をノックする音が響いた。
「誰…?」
今さっき出ていったはずの草壁が、こんなすぐに戻ってくるはずはないので、扉ごしに問いだした。
「私ですよ、雲雀さん」
雲雀の質問に答えながら入ってきたのは、自分の頭の中を支配していた魅真だった。
自分がずっと考えていた人物が現実に現れたので、雲雀は目を丸くする。
「えっと……これは、いつもの着替えです。あと、これはお茶請けのお菓子。あとこっちは、雲雀さんのサインが必要な書類なので、目を通しておいてくださいね」
雲雀が驚いている間に、魅真はずかずかと中に入ってきて、淡々と用件を述べた。
「ねえ……」
「なんですか?あ、書類は床頭台の上に置いておきますね」
魅真は自分で言った通り、床頭台の上に書類を置くと、ベッドの隣に置いてあるパイプ椅子に腰をかけた。
「で、なんでしょうか?雲雀さん」
「君に聞きたいことがある…」
「はぁ…なんでしょうか?」
「一週間前、僕がこの病院で目をさました時、心配そうな目で見ていたでしょ。でも、僕が目をさますと、すぐにほっとして、うれしそうに笑ったじゃない。黒曜センターでもそうだったけど……なんでなの?」
「へ?」
「なんでそんなに喜んだの?なんでそんな、優しい目で僕を見ていたの?なんで、笑顔だったの?それに…なんで骸と戦っていたあの時、僕を守ろうとしたの?」
雲雀の質問に、今度は魅真が目を丸くした。
「んーー。そうですね…。理由はたくさんありますけど…」
「けど?」
「雲雀さんが傷つくのが嫌だったから…っていうのが、大きな理由です」
「え?」
質問には答えてもらったが、それは理解しがたいものだった。
「だって雲雀さんは、私が心から護りたいって思う、私の一番大切な人ですから」
けど、次に出てきた言葉と魅真の満面の笑顔に固まり、魅真を凝視した。
「…そう……」
短く返し、数十秒間魅真を凝視すると、雲雀は少しずつまぶたを閉じた。
「あ……眠るなら、私はこれで…」
「ダメ」
「え?」
雲雀は、はっぱが落ちる音でも目を覚ますと、以前雲雀が入院した時に聞いたので、気をきかせて退室しようとしたのだが、そこを雲雀が止めた。
「手ぇかして」
「へ?は、はい」
まさか、雲雀がそんなことを言うとは思わず、魅真は顔を赤くしながらも、雲雀に言われた通りにした。
魅真が手を雲雀の前までもってくると、雲雀はその手をにぎった。
「えぇ!?あ、あの……ひ、雲雀…さん?」
突然手をにぎってきたので、魅真は更に顔を赤くする。
「しばらくここにいて」
「えっ!?わ、わかりました」
更に信じられない言葉が出てきたが、魅真はそのまま、雲雀と手をにぎりながら椅子にすわっていた。
魅真が返事をすると、雲雀はすぐに眠ってしまった。
雲雀とつないだ手と手。
その手から伝わる、あたたかい雲雀の体温。
それだけでも、魅真は胸がドキドキしていた。
「失礼します」
その時、扉がノックされる音がすると、扉のむこうから声が聞こえてきた。
草壁の声だった。
「ただいま戻りました、委員長。実は…………あっ…」
話しながら扉を開ける草壁。
だが、途中で話すのをやめ、目を見張った。
目の前には、魅真がいる病室で、安心した顔でベッドで眠る雲雀が、魅真の手をにぎっているという、信じられない光景がひろがっていたからだ。
「すみません、草壁さん。雲雀さん、先程眠ったみたいで」
「そ、そうか。では、出直すとしよう」
雲雀が起きないようにと、二人は小声で話していた。
目の前の信じられない光景に目を見張り、一瞬固まってしまったが、魅真の声で覚醒した草壁は、部屋から退室していった。
その顔に、やわらかな笑みを浮かべながら…。
そして、骸との戦いから一か月が経った。
並盛中学校には、グラウンドはおろか、教室や階段、校舎のどこにも生徒の姿が見当たらなかった。
「委員長!!本日は野球部秋の大会です!!」
だがそれは、ただ単に休日というだけだった。
その日は休日だったが、屋上に雲雀がおり、足をくんで仰向けに寝ていた。
副委員長である草壁がやって来て、彼の報告を受けるも、聞いているのかいないのか、マイペースにあくびをして、眠そうにしている。
あの時、黒曜戦で受けた傷はどこにもなく、傍らには、犬と千種と戦った時にやってきた、あの黄色い小鳥が飛んでいた。
「おや?委員長、今日は真田は?」
「草食動物達と一緒に、その野球部の秋の大会を観に行ってるよ」
「えっ!?」
魅真がここにいない理由を聞くと、草壁は驚いた。
「何?」
「いや……委員長が、真田が人が大勢いるようなところへ行っていると、さらっと言ったことが、どうにも信じられないもので…」
「…仕方ないだろ。黒曜センターでの一件で、魅真にはたくさん借りができたからね。少しは自由にさせてあげないと」
「え…」
「だから何?」
「あ、いや……なんでも…。では、自分はこれで…」
「うん」
草壁は雲雀に断りを入れると、そこから校舎へと戻って行った。
今の雲雀の発言が信じられずにいたが、それでも小さく笑い、階段を降りていく。
同じ頃、野球場では、バットで球を打つ音が辺りに響いていた。
その球は遠くまでとんでいき、観客席とグラウンドを隔てている金網にぶつかった。
それを打ったのは山本で、周りからたくさんの歓声が響いた。
「「「「「わーーーっ!!」」」」」
「ホームランです!!」
観客席にはツナ達もいた。
みんな山本の応援に来ており、山本がホームランを打つと、いっせいに喜んだ。
雲雀だけでなく、ツナ、山本、獄寺、フゥ太、了平と、みんな、黒曜戦で受けたケガは全快しており、あの時の戦いがウソのようになっていた。
「さすが山本!!すごすぎ!!」
「本当!すごいよ、武君」
「ったく、山本ごときに、相手チームは何やってんスかねぇ」
ツナと魅真が山本をほめているのが気にくわないのか、単純に山本が嫌いなだけなのか、獄寺は頬杖をついてふてくされていた。
「てめーら、しっかりやんねーと、暴動起こすぞ!!!」
「何しにきたのーーー!?」
危険なことを宣言しながら、火をつけたダイナマイトをにぎりしめて叫ぶ獄寺。
その姿は、自分で言った通り、今にも暴動を起こしそうだった。
「まぁ落ち着け、タコヘッド。スポーツ観戦では、やるべきことが他にあるだろ」
「ああ!?」
そこへ了平が割って入り、めずらしく獄寺をなだめていた。
「野球などやめて、ボクシングやらんかーー!!」
「それもまちがいーーー!!」
しかし了平も、言ってることは獄寺のように危険でなくても、やってることは獄寺と大して変わらなかった。
「バカやってんじゃねーぞ、芝生頭が!!」
「甘いぞ、タコ頭!!バカはバカでも、ボクシングバカだ!!」
「(バカ認めていーんですか!!?)」
幼稚で低レベルな争いに、ツナは心の中でつっこんだ。
「ファールいったぞー!」
どこかから声が聞こえると、二人は言い争いをやめた。
「ビアンキ」
ファールボールは二人の頭上を越えていくが、そのすぐ後ろでビアンキが、持参したグローブでボールをキャッチした。
ビアンキもまた、ケガは全快しており、元気な姿に戻っていた。
「お弁当、持ってきたわよ」
「でーーーっ」
「ああーー。獄寺君がっ」
毎度おなじみで、獄寺はビアンキを見るなり倒れた。
「ちょっ、獄寺君。大丈夫?」
「隼人君、しっかり!」
ツナ達は、周りから見ても、浮きすぎているくらいにぎやかだった。
「あーもー、何でこう、メチャクチャになるかなーー」
いつものことなのだが、浮きまくり、さわがしい様子に、ツナは頭を抱える。
「………(でも――…。みんなでこうしてると、骸との戦いが、ウソみたいだな)」
けど、その「いつものこと」に、なんだかんだでツナも楽しんでいた。
そんな時、ツナは何やら寒気を感じた。
「え……?」
寒気を感じると、ツナはその気配がした方へふり向いてみた。
「(………? 気のせいか)」
「?」
だが、それは一瞬のことで、ツナは気のせいだと思った。
「ふげーー!!」
「あっ、獄寺君!!?」
「大丈夫!?」
ビアンキにまた何かされたのか、獄寺の叫び声が聞こえると、ツナは再び獄寺の方に顔を向けた。
今のツナの行動を疑問に思ったリボーンは、ツナが向いていた方に顔を向ける。
「!」
「みー君、お兄ちゃんがんばってたねー。ごほうびに、お夕飯何にしてあげよーか?」
「うんとねぇ…。ハンバーグ!」
目を向けた先には、一組の親子が歩いていた。
それは普通の親子の会話で、とてもほのぼのとした、微笑ましいものだった。
「………」
そして、その親子を見たリボーンは、意味深にニッと笑う。
「一人はさみしそーだな。また、いつでも相手になってやるぞ」
ニッと笑うと、何故かリボーンは、その親子に向けて声をかけた。
「ハンバーグは、昨日食べたでしょ?また今度にしよーね」
「うん!」
母親がそう言うと、男の子は、子供独特の元気な声で返事をした。
「また…いずれ…」
「?」
けど、急に男の子は、大人びた低い声でしゃべった。
そう言った男の子の右目には、「六」の数字がきざまれた、赤い瞳…。
そう………この男の子は骸だった。
正確には、この子供に乗り移っていただけだったが、精神は骸のもので、リボーンは親子ではなく、男の子の方に声をかけたのだった。
母親と一緒に、野球場から去っていく親子。
リボーンはひと言告げると、またグラウンドの方へ顔を向け、野球の観戦を続けた。
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