標的5 憂鬱な体育祭
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あれから魅真は、ずっと悩んでいた。
ツナのことは、リボーンから
「ツナはパフォーマンスをする趣味があるんだぞ」
と言われたことで納得したので、そっちの方は解決したのだが、問題は雲雀の方であった。
魅真はあの日、雲雀が並盛町を牛耳っていると知り、ショックを受けた。
ただでさえ、この並盛町最強の不良で、不良の頂点に立っており、気にいらない者は排除するという、一番苦手な部類の人間なのに、その上並盛中学校を支配している風紀委員長。(あとで山本から聞いた)
それだけでなく、並盛町全体を支配してると知り、何故、中学生がそんなことをできるのかという疑問よりも、自分が一番苦手な人物が、自分が住んでいる町を支配しているので、そんなところで、これから先やっていけるのだろうかと、不安で不安で仕方がなかったのだ。
「ハァ~~~」
今魅真は廊下におり、窓枠に腕をのせ、深いため息をついていた。
「真田さん」
「沢田君…」
そこへツナがやって来て、魅真に声をかけた。
「どうしたの?」
「これからA組の決起集会があるから、A組の人間は講議室に集まってくれってさ」
「集会?なんの?」
「なんの?って、決まってんじゃねーか」
そこへ、今度は山本がやって来て、ツナの代わりに説明をしようとした。
「体育祭だよ」
山本から説明された時、魅真は、この世の終わりがきたような、とても暗い、嫌そうな顔をした。
標的5 憂鬱な体育祭
「"極限必勝!!!"」
集会が始まった途端、すごい勢いのある声で叫んだ者がいた。
「これが、明日の体育祭での、我々A組のスローガンだ!!勝たなければ意味はない!!」
「「「「「「オオオオオ」」」」」」
それは、まだ関わったことはないが、魅真のクラスメートの笹川京子の兄の笹川了平で、彼はA組の代表となって教壇に立ち、クラスのスローガンを発表していた。
同じA組の生徒達も、了平みたいに熱く、決起して雄叫びをあげている。
大きな声が部屋中に響くので、あまりの大きさに、魅真は耳をふさいでいた。
「(見た感じ、不良ではないし、悪い人ではないんだろうけど、ちょっと苦手かも…)」
了平の熱さに、魅真は引き気味だった。
「そっかー。体育祭のチームは縦割りだから、京子ちゃんのお兄さんと同じチームなんだ。お兄さん、今日も熱いな~……」
隣の席では、ツナが何やら一人ごちている。
「! (京子ちゃん、お兄ちゃんを心配そーに見てる。かわいいな~~)」
ツナは何気なく、京子の方を見てみた。
隣の方では、京子がハラハラしながら了平を見ていたので、そんな京子を見て、ツナはデレデレしていた。
「うぜーっスよね、あのボクシング野郎」
「んなっ」
だが、反対側からは、獄寺の了平に対する悪口が聞こえてきたので、ツナはギョッとした。
「まーまー」
「フツーにしゃべれっての。ったく!」
「(ちょっ、獄寺君!!京子ちゃんに聞こえちゃうよ!!)」
空気を読まずに、わりと大きな声で言っているため、ツナは、対象が大好きな京子の兄だということと、その京子が隣にいるということで、かなり焦っていた。
「今年も組の勝敗をにぎるのは、やはり棒倒しだ」
「ボータオシ?」
「何?それ」
「どーせ1年は、腕力のある2・3年の引き立て役だよ」
転校生の魅真と獄寺は、聞いたことのない単語に、疑問符を浮かべる。
「例年、組の代表を棒倒しの"総大将"にするならわしだ。つまり、オレがやるべきだ」
と、了平は自信たっぷりに言う。
「だが、オレは辞退する!!!」
「!!」
「「「「「「え゙!!?」」」」」」
A組の生徒は、総大将は、てっきり了平がやるものだと思ってたようで、突然の辞退宣言に騒然とした。
「オレは大将であるより、兵士として戦いたいんだー!!!」
「「「「「「(単なるわがままだーーっ)」」」」」」
「(も~、お兄ちゃん…!)」
何か深いわけがあるのかと思いきや、単に自分のわがままという個人的な理由だったので、みんなは呆れ、京子ははずかしそうに顔を赤くしていた。
「だが、心配はいらん。オレより総大将にふさわしい男を用意してある」
「え」
「笹川以上に総大将にふさわしい男だって?」
そんな人物が本当にいるのかと、生徒達は疑いの目をしてざわつく。
「1のA、沢田ツナだ!!」
「へ?」
「「「「「な!?」」」」」
まさかの指名に、ツナだけでなく、A組全員が驚きの声をあげる。
「おおおっ」
「10代目のすごさをわかってんじゃねーか、ボクシング野郎!」
「沢田君、すごいね」
「は?えっ、なんで!」
突然指名されたことで、魅真、獄寺、山本は興奮したりうれしそうにしたりほめたりするが、ツナは嫌そうな顔をし、驚きのあまり、顔面蒼白だった。
「賛成の者は手をあげてくれ!過半数の挙手で決定とする!!」
了平は全員の意思を確認するように、多数決をとろうとする。
「1年にゃムリだろ」
「オレ反対~」
「負けたくないもんねえ」
「つーか、冗談だろ?」
みんな、ツナがダメツナと呼ばれてることや、ツナが運動音痴なのを知ってるので、嫌そうな顔をして、手をあげようとはしなかった。
「だよね」
どうしても、総大将をやりたくないツナは、みんなが反対していることにほっとしていた。
「手をあげんか!!!」
「「「「(命令だー!!!)」」」」
手をあげない生徒達に、了平は命令口調で再度言った。
了平の中では、すでに決定だったらしい。
「ウチのクラスに反対の奴なんていねーよな」
「おい、おまえっ」
後ろへ振り向き、片方の足を机の上に勢いよくのせ、怖い顔でギロッと睨み、ドスのきいた声で脅す獄寺。
その脅しに、周りの者はビクッとなる。
「「「「「(こえ~っ)」」」」」
でもそれが効いたのか、男子はビビりながらそーっと手をあげる。
「獄寺君の意見に、賛成ー!!」
「サンセーーーー!!」
一方で、女子に人気のある獄寺なので、女子は黄色い声をあげながら挙手をした。
「この勢いなら、いずれ過半数だろう」
獄寺の迫力にびびった男子とファンの女子によって、だいぶ手があがってきたので、了平は満足そうにしていた。
「決定!!!棒倒し大将は、沢田ツナだ!!」
「「「「(この人メチャクチャだーーーー!!)」」」」
「は!!?うそーー!!なにそれーー!!!」
だけど、何がなんでも総大将になりたくなかったツナは、嫌そうな顔をして、冷や汗をかいていた。
「すげーな、ツナ!」
「がんばってね、沢田君」
「さすがっス」
「ビビったっス」
「!」
三人が口々にほめたり応援したりしていると、そこへ並中の制服を着たリボーンが現れた。
「超不自然!!」
「ちゃおっス」
だが、そのリボーンの存在と不自然さに気づいてるのは、ツナだけだった。
「総大将つったら、ボスだな。勝たねーと殺すぞ」
「な!いいから!隠れてろよ!!みんなの前で~っ」
不自然な姿と言ってることが物騒なので、ツナはあわててリボーンを隠そうとして、頭をおさえる。
「ダミー!?」
けど、それはどうやらダミーのおもちゃだったようで、おさえた途端に頭から空気がぬけてしまった。
「ヒャア!」
「何だ!?」
「(バカーー!!!)」
ダミーのリボーンは空気がぬけると、そのまま風船のように飛んでいった。
「はぁ……」
学校が終わり、帰路についていた魅真は、重く深いため息をついていた。
「(体育祭かぁ…。憂鬱だなぁ…。体育会系じゃないから見せ場なんてないし、絶対にみんなから白い目で見られるし…。嫌になっちゃう)」
ため息をついていたのは、単に、体育祭が嫌だったからだ。
「それにひきかえ、沢田君はすごいな。棒倒しの総大将に選ばれちゃうんだもんな。期待されてるんだなぁ……私と違って…」
まったく違うのだが、ツナを思い出してうらやましそうにしていた。
それから、魅真は家につくと、気が重そうな顔で家の中に入った。
「ただいま…」
「あら、お帰りなさい」
居間まで行くと、ソファにすわってくつろいでいた雪乃が迎える。
「お母さん、明日ね…」
「何?」
「えっとね……明日、学校で体育祭があるんだけど…」
体育祭は嫌なのだが、一応雪乃に、そのことを伝える。
「あら、そうなの。でもごめんね。さっきから体の調子が悪くて…。明日は行けないかもしれないのよ」
「…そうなんだ」
「本当にごめんなさい」
「いいよいいよ。無理しないで。
じゃあ私、宿題とか明日の準備があるから…」
タイミング悪く、雪乃の体調が悪いことを知って、少しがっかりする魅真。
運動音痴だから体育祭は嫌いだし、出場しても恥をかくだけというのは自分でもわかりきっているが、それでも母親に来てほしいという気持ちもあるので言ってみたのだが、運悪く、雪乃の体調が思わしくないので、それはかなわなかった。
来てほしいけど、無理はさせたくない。でもやっぱり来てほしい。そんな矛盾した思いをかかえていた。
けど、やはり体調を悪化させたくないし、これ以上、雪乃に気をつかわせないために、魅真は自分の部屋に行ったのだった。
魅真は部屋に入り、かばんを置くと、軽くため息をついた。
「わかってるけど……見せ場なんてないから、ある意味ではよかったけど、でも……やっぱり………寂しいかな……」
ため息をついた後、雪乃の手前、本人の前で言いたくても言えなかったことを、ぽつりとつぶやく。
そして次の日。
体育祭当日。
グラウンドでは、A組、B組、C組と、それぞれの組から喚声がわきおこり、競技に出ている者の応援をしていた。
「ゴール!!」
今は男子の部のリレーが行われており、山本が堂々の1位でゴールをした。
山本は1位になったので、クラスメートから体をたたかれて賞賛されていた。
「山本君すごいね。足早いんだ」
「野球部だからな」
「そうなんだ」
そこへ、魅真もやって来て、山本を賞賛する。
「真田はどうだ?なんか競技に出たのか?」
「出たけど……でも、ダメだったわ。最下位だった。私、運動音痴だから…」
「まあ、苦手なら仕方ねーよ。他の奴ががんばりゃすむことだしな」
みんなが熱くなっている中、ビリになったら責められるかもしれないというのに、山本はそれをせず、にかっと笑う。
魅真は、そんな山本のさわやかな笑顔にほっとしていた。
「こら、おまえ!」
そこへ了平がやって来て、いきなり、魅真に怒鳴ってきた。
もともとそういうのが苦手なのと、初対面にも関わらず怒鳴ってきた了平にびっくりしてしまい、びくびくして引いていた。
「な……なんで……しょうか?センパイ…」
「貴様っ!!A組の勝利がかかっているというのに、そのやる気のなさはなんだ!!もっと真面目にやらんか!!」
「で、でも……私、本当に運動が苦手で…」
「そんなことは関係ない!そんなもの、極限気合でなんとかなる!!」
「(何?このムチャクチャな人!怖いよ~)」
いろいろとツッコミどころが満載なことを言う了平に、魅真は心の中でつっこむ。
そして、また新たに、魅真の中で苦手な人物ができてしまった。
「まーまー、センパイ。いいじゃないスか。その分、オレや他の奴らが働けばいいんだから」
「そういう問題ではない!これは!
むっ」
了平は話してる途中で、あることに気づいた。
「沢田までビリっけつか。けしからんな」
それは、ツナが今出ていた競技で最下位をとっていたことである。
了平は魅真そっちのけで、ツナのところへ行った。
「大丈夫か?」
「う、うん。ありがとう、山本君」
「センパイも悪い人じゃねーんだけどな。熱すぎるから暴走しちまうのかな」
「(問題はそこなんだけどね…)」
「ま、そんな気にすることねーって。オレや、他のスポーツ得意な奴が、巻き返しゃいいんだからさ」
山本はさわやかな笑顔で笑いながら、魅真の頭をなでた。
そんな山本を見て、魅真はほのかに頬を赤くしており、山本の優しさにほっとしていた。
「オレ達の総大将に、何てことしやがる!」
「コラー!」
二人でほのぼのしてると、突然周りから文句の声があがった。
「な、何?」
「何かあったみたいだな」
突然響いた声に、魅真と山本は何事かと思い、声がした方へ振り向く。
「文句があるやつぁ、かかってこんかぁー!A組、笹川が相手だ!」
「ケンカなら、いくらでも買ってやるぜ」
文句を言ったのはC組の人間で、何があったかはわからないが、どうやら、獄寺と了平の二人が、C組の反感を買うことをしたらしい…。
「大変だー!!」
「!?」
その時、C組の男子生徒が一人、あわてて走ってきたので、C組の人間はざわついた。
「B組総大将の押切センパイが、トイレで何者かに襲われた!!!」
「なんだって!!?」
彼が告げたのは衝撃の事実で、当然B組の人間は、驚きの声をあげる。
「目撃者によると、A組のやつにやられたらしい」
「またA組かよ!」
彼の話をまとめると、A組の人間が、C組とB組の棒倒しの総大将を襲ったということのようだ。(うち二人は獄寺と了平)
一度ならず二度までも、卑怯な手を使ってきたので、C組の人間は、嫌悪感を抱いたような顔でざわついた。
「この人が目撃者だ。そーなんですよね?」
「ああ」
「リボーン!?」
B組の総大将が襲撃されたのを知らせにきた男子の隣には、何故か水戸黄門の格好をしたリボーンがいた。
しかし、ツナ以外は、その目撃者がリボーンだということに気づいておらず、違和感も感じていなかった。
「B組総大将を襲った奴は、A組総大将の沢田ツナの命令で襲ったって言ってたぞ」
「な!何言ってんのー!!?」
身におぼえのないことを言われ、ツナは顔が青くなる。
「思ったより勝利に貪欲だな。見直したぞ、沢田!!」
「ナイス策略!」
「ちがうって!!(襲ったのは、絶対リボーンだー!!!)」
ただの濡れ衣の上、かなり卑怯な手口だが、それでも獄寺と了平は感心する。
リボーンがいるということと、身におぼえのないことなので、ツナは、B組の総大将を襲ったのはリボーンだと察した。
目の前にいるリボーンは、その通りだというように、ニッと笑う。
「卑怯だぞA組ーー!」
「なんてキタナイ総大将だ!!」
当然、怒りの矛先はA組(特にツナ)にむき、B組からはブーイングの嵐が飛んできた。
「どうだ、見たか!!これが、ウチのやり方だ!!」
「認めないでください!!!」
けど、何故か了平は、堂々とした態度で、更にあおるようなことを言い放った。
「うちの総大将をやったのも、沢田って奴の命令だったんだな!」
「卑怯者!」
「A組総大将は退場しろーー!!」
「(そんな~~。なんで、オレのせいになってんの~!!?)」
B組の総大将をやったということは、きっと自分達の総大将を襲えと言ったのもツナだと思ったC組からも、ブーイングの嵐が飛んでくる。
とんだ濡れ衣なのに、自分のせいにされ、罵詈雑言をあびせられたツナは、誤解だとばかりに泣き叫ぶが、心の中で言ってるのもあり、その叫びは届くことはなかった。
《みなさん、静かにしてください。棒倒しの問題について、お昼休憩をはさみ、審議します。各チームの3年生代表は、本部まできてください》
その時、本部からアナウンスが入り、3年生の代表は本部へ、それ以外の者はお昼休憩となった。
「や、山本君、どうしよう?」
「どうしようっつっても、オレらにはどうしようもねーのな」
このような最悪な状況になってしまい、魅真はおたおたするが、苦笑いを浮かべながらも、山本は結構冷静だった。
「で…でも、沢田君が、そんなことするとは思えないのに…」
「オレもそう思うけど…。今の状況は、オレ達にはどうすることもできねーな。とりあえず、昼飯にしようぜ」
「うん。そうだね…」
山本に言われると、魅真はお昼ご飯を取りに、教室へと向かっていった。
魅真は教室に入り、自分のかばんから弁当箱が入った巾着袋を取ると、教室を出て屋上へ向かった。
《A組の総大将が、今度は毒もったぞ》
「えっ!?」
屋上に着いて、弁当のつつみを広げると、突然スピーカーの機械音とともに、とんでもない情報が耳に入ってきた。
「A組の総大将って、沢田君じゃない。でも、沢田君はそんなことしないだろうし…。誰かの陰謀?」
まさか、自分を愛人にしたリボーンの陰謀だとは思わず、少しばかり頭を悩ませた。
『大丈夫だって。なんとかなるさ』
頭を悩ませていると、山本がお昼ご飯に入る前に言っていた言葉が思い浮かぶ。
「山本君は大丈夫だって言ってたけど、不安だな…。沢田君、犯人にしたてあげられちゃってる感じだし、悪意が全部沢田君に向いていたみたいだし、やっぱり心配…」
そう言いながら、魅真は箸を取り出すと、お弁当のおかずの玉子焼きをひとつつかみ、口に運んだ。
「ハァ…。この状況で、一人でお弁当とか、なんかむなしいかも…」
今魅真は、ツナとも獄寺とも山本ともわかれて一人で屋上におり、柵にもたれ、一人寂しくお昼を食べていた。
『真田、家の人とか、誰か一緒に昼飯食う奴いるか?もしいなかったら、一緒に昼飯食わねーか?』
一人つぶやくと、再び、山本がお昼前に言ってくれたことを思い出す。
「せっかく山本君が誘ってくれたのに、意地をはらずに、一緒にお昼ご飯食べればよかったかな…。でも、山本君も家族が一緒だろうから、邪魔しちゃ悪いしな…」
実は、お昼を山本が誘ってくれてたのだが、それを断ってしまったので、少し後悔していた。
「それにしても、山本君てほんとにかっこいいな…。あんな、さりげなく気をつかえるだなんて…。
もちろん、見た目もかっこいいけどね。優しいし、さわやかだし、温厚だし、勉強も結構できるみたいだし。何よりスポーツ万能で、野球部のエースだっていうし。やっぱり、付き合うんだったら、山本君みたいな人がいいな…」
山本がもてることは以前ツナから聞いたが、改めて山本の寛大さに気づき、頬を赤くして、誰に言うでもなく、一人ごちた。
「沢田君も……まあ、悪くはないんだけどね。優しいし、温厚だし。でも…なんか、自分と通じるものが、結構あるからな…。
獄寺君………………ダメだわ…。山本君が言うように、悪い人じゃないのかもしれないけど、沢田君と他の人とじゃ、態度に差がありすぎるからな…」
今度はツナと獄寺のことを考えていたが、あっさりと自分の中から除外した。
「まあ、獄寺君は顔だけなら悪くないんだけどね。なんか、山本君と同じでファンクラブがあるらしいし…。
でも、やっぱ性格がね。うん、絶対ないわ…」
ツナや山本にくらべると、ずいぶんな言われようだが、苦手な部類の人間に属しているのと、自分とツナに対する態度の違いで、対象外となった。
「そういえば……顔はいいけど性格がちょっと…って人、もう一人いたわ…」
「へぇ……誰?」
「ん~……大きな声じゃ言えないんだけど…。あの風紀委員長の、雲雀恭弥って人。あの人、顔立ちはいいけど、すぐに暴力をふるうし、人に群れるなとかわけのわかんないこと言うし、自分勝手で横暴だから…。どんなに顔がよくても、ああいう人は嫌だな」
「へえ……。君、僕のことを、そんな風に思ってたんだ…」
「え?」
ただの独り言なのに、返事が返ってきたので、ふしぎに思い、声がした方へ顔を向けた。
「!!!!!!」
顔を向け、声の主を見ると魅真は驚いた。
その驚き方は尋常でなく、みるみるうちに血の気が引いていき、顔が真っ青になっていく。
「君さ、結構いい度胸してるね」
それは、自分が話にしていた雲雀恭弥本人だった。
まさか本人がいるとは思ってなかった魅真は、頭の中が真っ白になり、後ろに下がろうとするが、柵にもたれていたために、下がることができなかった。
それがダメならと、横にずれて逃げようとしたが、雲雀がいち早く手を伸ばし、逃げ道をふさいだために、魅真は逃げることができず、その場で固まった。
「あ、あの……いつから聞いてました?」
「「それにしても、 山本君てほんとにかっこいいな…」のところから」
「(最初っからじゃない!ていうか、独り言を言ってるの見られてた!)」
雲雀にせまられてる恐怖もあるが、今は、自分の独り言を聞かれてたというはずかしさの方が勝(まさ)っており、顔を赤くする。
「山本ってひょっとして、この前君と一緒に応接室に来た奴?君、あんな弱っちいのが趣味なの?」
「え?」
「付き合うんだったら、そいつがいいとか言ってたし…」
「あ……いえ……ただの理想というだけで、別に付き合いたいわけじゃ…」
「ふーん…。ならいいけどね」
「え…。何故ですか?」
「僕の前で群れてほしくないからさ」
「(相変わらず自分勝手な人だわ…)」
そう思ったが、怖くて口にはできない魅真だった。
「ところでさ…」
「な、なんでしょう?」
再び話しかけられ、魅真は心拍数が上昇する。
《おまたせしました。棒倒しの、審議の結果が出ました》
だが、雲雀が何かしゃべろうとすると、突然下の方からアナウンスが聞こえてきた。
《各代表の話し合いにより、今年の棒倒しは、A組対B・C合同チームとします!》
「え…」
それは、お昼休憩の前から行われていた棒倒しの審議の結果で、まさかの結果に、魅真は呆然とした。
「え……うそっ…。最悪の結果になっちゃったじゃないの!!」
魅真は雲雀の存在を忘れ、アナウンスが聞こえたグラウンドの方へ顔を向け、おろおろしていた。
「ねえ」
だが、雲雀の声がしたことですぐに思いだし、顔を青くして、ゆっくりと雲雀の方へ振り向いた。
「僕を無視しないでくれる?」
「はい!ごめんなさい!」
自分を無視されたことで、不機嫌になった雲雀を見た魅真は、今にも泣きそうだった。
「それで、今のどういうことなの?」
「へ?」
「アナウンスだよ。棒倒しについて言ってたようだけど…」
「えっとですね……。私も聞いた話なんですけど、C組総大将の高田さんとB組総大将の押切さんが、何者かに襲われて、それで、どうするかを3年生の代表が話し合って、その結果、A組がB組とC組を両方相手にすることになったみたいです」
「ふーん…。本当に?」
「はい…。さっき聞いた話と、今のアナウンスの内容を踏まえると、間違いないかと…」
「ふぅ…ん…」
そのことを聞くと、雲雀は何か考えごとをし、少しすると魅真に背を向けて、校舎へ続く扉を開け、中に入っていった。
何がなんだかわけがわからないが、とりあえず解放されたので、胸をなでおろし、自分も後片付けをすると、下の階へ降りていった。
一方、グラウンドの方では…。
「B・C連合の総大将、誰にする?」
「サッカー部の、坂田だろ?」
「レスリング部の、川崎も強いぞ」
B組とC組の男子生徒達は、合同になったはいいが、総大将にふさわしい強い奴は誰がいいかを決めかねていた。
「僕がやるよ」
「!?」
「ヒバリさん!!」
協議していると突然雲雀がやって来たので、みな一様にびびってしまい、雲雀から離れた。
「ぎゃ」
「ぐふっ」
「!」
雲雀は彼らが「はい」と言う前に、棒に登るために、近くにいた男子生徒を踏み台にする。
「あっ、制服のままでっ」
「うわああっ」
そして雲雀は、手を使わずに、足だけで棒の上に登っていった。
彼らは、倒したりしたら後が怖いので、棒が倒れないように、必死になって支える。
「向こうの総大将とあいまみえれば、赤ん坊に会えるかも知れないからね」
先程雲雀が考えていたのはこのことで、わざわざ自分の嫌いな群れの中に入ってまでこの競技に参加したのは、リボーンに会いたかったからだった。
「倒さないでね」
「はいいい!!!」
たった一言なのだが、それだけでB・C組の男子達はびびってしまう。
「それでは、棒倒しを開始します。位置についてください!」
準備が整うと、審判である教師が声をかけた。
「ひーーっ。こんなに数がちがうのー!!!(しかもあっちの総大将、ヒバリって人だ!!どーやったって勝てっこねーじゃん!!)」
あまりにも数が違いすぎる上、総大将は雲雀なので、それだけでもツナはおじけづき、すでに諦めモードだった。
「あっ、もう始まっちゃってる」
ちょうど棒倒しが始まろうとしていた時、魅真はようやくグラウンドにたどり着いた。
「って…雲雀さん!?」
グラウンドに着くと、B・C組の棒の上に雲雀がいたので、魅真は目を丸くして驚いた。
「(なんで…雲雀さんがあんなとこに?群れるの嫌いだって言ってたのに…)」
他人(ひと)にまで群れるなと言ってる雲雀が、自ら群れの中に入っていたので、わけがわからず、魅真は頭の中が混乱した。
「用意!!開始!!!」
その間にも、審判の合図で競技は始まり、棒を支えていない男子達はいっせいに飛び出していった。
生徒達は、みなお互いに力をぶつけ合い、一糸乱れての総力戦となり、もはやバトルロイヤル状態である。
戦いも苦手な魅真は、いくら体育祭の競技だといっても、殴ったり蹴ったりするこの光景を見ていられず、目をそらした。
「ひい!もうきた~!!」
その間にも競技は進み、A組の棒の方には、数が圧倒的に違うせいであっという間に敵がやって来て、ツナをひきずり落とそうとしていた。
「っしゃあ!」
「!
うわあ、落ちる!!やめて!はなして!!」
一番最初に登ってきた男子生徒はツナの足をつかみ、下へひっぱり、落とそうとした。
早くもピンチである。
「ガッ」
「!!」
すると、そこへ獄寺がやって来て、ツナの足をひっぱってる男子を蹴り、ツナの足から手を離させたので、ツナはなんとか難をのがれた。
「大丈夫スか、10代目!!?」
「獄寺君!」
「しかしまいったな!頭数が違いすぎる!」
「ちい!はなさんか!!攻めるにも、これではラチがあかん!」
難をのがれたのはいいが、相手の数が多すぎるため、次から次へと敵が攻めてきた。
「あ!ヤロー!」
まさに多勢に無勢で、獄寺達は必死になって戦うが、敵の生徒の一人が、獄寺の後ろにいる生徒を踏み台にして、棒に登ってきた。
「ぎゃあっ」
そして、同じく登ってきたもう一人の生徒と一緒に、殴る蹴るを繰り返し、ツナを棒の上から落とそうとした。
「わっ!うわーーっ!!倒れるーー!!!」
B・C組の生徒がツナを攻撃したことにより、A組の棒が倒れそうになり、まさに絶体絶命のピンチとなった。
「しょーがねーな」
その時、リボーンが拳銃を取り出し、弾を撃った。
「な!」
つかんだはずの足がすっぽぬけ、ジャージのみになったので、ツナの足をつかんだ男子生徒は驚きの声をあげる。
「空中復活(リ・ボーン)!!死ぬ気で棒倒しに勝ぁーーつ!!」
ツナは空中で死ぬ気モードになると、たまたま降下した時に下にいた男子生徒を踏み台にして高く飛び上がり、それから次々に、地面に落ちないようにと、周りにいる生徒達を踏み台にしてジャンプをし、人の上を飛び移っていく。
「え…さ、沢田君?(こんな時にもパフォーマンス!?ていうか、今銃声が聞こえたような…)」
競技中なのにパフォーマンスをするツナと、試合開始時でもないのに、突如聞こえた銃声を、魅真はふしぎに思った。
「人の上を飛び移ってやがる」
「そっか…。総大将は、地面につきさえしなけりゃいいんだ」
「なるほど」
「そういうことなら」
一方、地面に落ちないようにと人の上を飛ぶツナを見た獄寺と山本と了平は、何か策を思いついた。
「こっちだ、ツナ!」
獄寺、山本、了平は一か所に集まり、山本は、ツナに自分達のところに来るように叫ぶ。
「おう!!」
ツナは三人がやろうとしていることがわかったようで、すぐに三人のもとに飛んで行くと、三人が作った騎馬の上に乗った。
「なにい!」
「騎馬だと~!!」
まさか、そんな手をつかってくるとは思わなかったので、生徒達は全員度肝をぬかれた。
「ゆけー!目指すは総大将!!!」
ツナのかけ声で騎馬は走り出す。
「「「「うおおおぉ」」」」
先頭で騎馬を組んでいる山本はそのまま走り、後ろの獄寺と了平は片足で、ツナは片手と片足で、進んだ先にいる敵を、勢いのままに、次々に倒していった。
「うおおお」
「うわぁぁ!!!」
「ありゃあ重戦車だ!!」
「あんなの、止められない!」
さっきとはまったく違う、勢いのある攻撃に、敵だけでなく、味方であるA組の生徒までびびっていた。
「そうこなくっちゃ」
一方、それを見た雲雀は、彼らとは違って、嬉々とした顔をしていた。
「「!」」
しかし、この勢いがこのままうまくいくわけもなく、獄寺と了平の足がからまってしまった。
「おい、芝生メット!てめー、今足ひっかけたろ!」
「ふざけるな、タコ!人の足を蹴っておきながら!」
「んだと、コノヤロー!」
「ちょ、お前ら!!!」
いい感じのチームワークだったのに、結局ケンカが勃発してしまい、そのせいでぐらついて、騎馬がくずれかけているので、山本が止めようとするが、効果なしだった。
最終的には、またしても殴り合いになり、そのせいで騎馬が完全にくずれてしまい、山本以外全員すっころんでしまう。
「……」
そのことで周りはしーんと静まり返り、雲雀はさっきと違い、つまらなそうな顔になる。
「(ま……負けちゃった~~~~~!!)」
総大将のツナが、すっころんで足が地面についたことで、当然A組の負けということになる。
しかも、よりによってこんな時に、死ぬ気弾の効果が切れてしまったのだ。
「おいおい、敗軍の大将がただで帰れると思うなよ」
「ヘボヤロー」
「えっ」
まだ、自分達の本当の総大将を、卑怯な手をつかってやられたことを根にもってるようで、今こそ恨みをはらす時!とばかりに、B組とC組の生徒達は、ドス黒いオーラを放ちながらツナのもとへ近寄ってきた。
しかも、リボーンまでC組の生徒に変装してまじって、悪口を言っている。
「いや…あの…(リボーンのやつーっ)」
この雰囲気で、もう自分がどんな目にあうのかがわかってしまったツナは、みるみるうちに顔が真っ青になり、血の気がひいていった。
「オラ、やっちまえっ」
「ギャアアアアアア」
予想通りツナは、B・C組の生徒達に、リンチをされてしまう。
「!
何してんだ、コラーー!!」
ツナの悲鳴があがると同時に、獄寺は起き上がりながら叫ぶ。
ツナを慕う獄寺にとって、これは許しがたい行為だったのだ。
「てめーら皆殺しだ!」
「うむ。暴れ足りん奴はこい!!」
獄寺だけでなく了平も起き上がると、他のA組の生徒達を引き連れて、ツナのもとへ走っていき、参戦する。
「オラー!!」
「極限!!」
獄寺と了平と山本、更には了平達に続いてきたA組の生徒達も加わって、全校の男子生徒が入り乱れての大乱闘となった。
「(な……なんか乱闘になってるしー!!!)」
それを見ているツナは、顔が真っ青になり、口をあんぐりとあけていた。
「んなーーっ!!!」
するとそこへ、最悪なことに、獄寺が放ったダイナマイトが、自分のところへ飛んできた。
「なんでこーなるの!!」
そしてそれは、お約束のように、ツナのいるところで爆発した。
「(これ…本当に体育祭なの?私の中では、もっとさわやかなイメージなのに、なんでこんなに殺伐としてるの?)」
棒倒しをずっと見ていた魅真は、目を丸くし、口を開けて、呆然としていた。
魅真は、体育祭というものが大嫌いだった。
運動が苦手なので、何も活躍できず、周りから白い目で見られてしまう、一年間の学校行事の中で、一番憂鬱な日だからだ。
特に今日の体育祭は、本当にこれは体育祭なのかと疑いたくなる、他に類を見ないくらいの、壮絶なものとなった。
けれど……
今日の体育祭が、魅真にとって最後とも言える平穏な日だった…。
そのことに気づく日は、そんなに遠くはなかった。
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