標的28 ある、夏の日
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夏休みが半分終わったある日のこと。
魅真は、その日の分の宿題を終えると、家を出た。
標的28 ある、夏の日
魅真が家を出たのは、その日はツナの家に遊びに行く約束をしていたからだ。
「そういえば……ちょうど去年の今ぐらいだったな…。並盛町に来たのって…」
家を出て、雲雀家の門を見ると、何気なくぽつりとつぶやいた。
そう……。去年のちょうど今ぐらいの時期に、魅真は並盛町に来たのだ。
「そういえば、この門の前で、草壁さんに会ったんだっけ」
そして、初めて草壁に会った時のことを思い出す。
と言っても、あまり良いものではなかった。
その頃の魅真は、不良だったり、見た目が怖かったりするだけで、泣きだしそうなくらいにびびっていたので、見た目がいかにも不良といった草壁にも、びびりまくっていたからだ。
「(思えばあの時は、草壁さんにもすごくびびってたんだよなぁ…)」
そのことを思い出して、魅真は苦笑いを浮かべる。
けど、悪いことばかりではなかった。
その後は、草壁に対する警戒心がなくなり、今ではうまくやっているのだから。
そのことを思うと魅真はクスッと笑い、ツナの家へ歩いていく。
そして、何十分か歩いていくと、ツナの家についた。
「(そういえば……ここで、初めてツナ君を見たんだっけ。あの時は本当に怖かったな…)」
ツナの家を前にすると、魅真はあの時の悪夢を思い出す。
それは、恐怖以外の何ものでもない思い出だった。
「(まさか、その悪夢に出てきた人と友達になって、こうして家まで遊びに行くことになるなんて、あの時は思わなかったけど)」
悪夢に出てきた人でも、今では大事な友達なので、どこかなつかしそうに笑うと、インターホンを鳴らして沢田家に入っていった。
けど、魅真は沢田家に入ると、すぐに沢田家を出た。
というのも、魅真が来るなり、イーピン、ランボ、フゥ太のちびっこ達が魅真にとびついてきて、三人が口をそろえて、魅真と一緒に、公園に遊びに行きたいと言ったためであった。
それを聞いていたツナは、魅真は自分の家に遊びに来たのだし、来たばかりで疲れてるだろうからダメだと怒ったが、魅真はツナさえ大丈夫なら…と言ったので、魅真、ツナ、リボーン、ランボ、イーピン、フゥ太の六人で、公園に遊びに行ったのである。
「よぉー。ツナと魅真じゃねーか」
「こんにちは、10代目!!」
公園に行くと、そこには獄寺と山本がおり、二人はツナと魅真を見ると、あいさつをしながらツナと魅真のもとに歩いてきた。
獄寺とランボは、顔を合わせるなりすぐにケンカになってしまい、それを見たツナはあわてており、山本はおもしろそうに笑っていた。
一方魅真は、獄寺と山本を見て、去年の秋に、ツナだけでなく、この二人とも友達になったことを思い出していた。
山本には、最初から好感を抱いていたので、友達になりたいと思っていたが、見た目も中身も怖い獄寺とは、絶対に友達になりたくないと思っていた。
けど、今では獄寺も大事な友達なので、山本はともかく、獄寺と友達になるとは思っていなかった魅真は、ランボとケンカする獄寺を見て、優しい顔で微笑んだ。
「ん?なんだよ、魅真。何笑ってんだ?」
「え?なんでもないよ」
去年のことを思い出していると、魅真が笑っていることに気づいた獄寺が、ほのかに頬を赤くしながら、ランボとのケンカを中断して、魅真につめよった。
「ウソつけ!なんでもねーってツラじゃないだろ、その笑みは」
「ほんとになんでもないんだってば!」
別にウソでもなんでもないのだが、何かあると思った獄寺は聞かなかった。
「死(ち)ねーーーバカモノがーーー!!」
そこへ、ランボが走ってきて、獄寺に攻撃をしようとした。
「うるせーー!!」
しかし、お約束通り、ランボは獄寺に蹴られてふっとんでしまい、その勢いで、後ろにある木に、体をぶつけてしまう。
「ガ・マ……うわああぁあああっ」
当然今の蹴りで、ランボは泣いてしまった。
「ちょっ、隼人君!それは、いくらなんでもやりすぎ…」
「けっ」
幼児相手に、容赦なく蹴ったのを見て、魅真は獄寺に注意をする。
「あら、どうしたの?みんなして」
その時、魅真達に声をかける者がいた。
「ビアンキさん」
それはビアンキだった。
ビアンキは偶然にもここを通りかかり、魅真達がいたので声をかけたのだった。
「ふげーーっ」
その時、獄寺が叫び声をあげて、後ろに倒れて気絶してしまった。
「は、隼人君!?」
ビアンキが来ただけなのに、急に倒れてしまった獄寺に、魅真はびっくりした。
それから、ツナと山本で、獄寺を近くのベンチに運んで寝かせた。
その間も、獄寺はずっとうなされていた。
ツナと山本は、ランボ、イーピン、フゥ太に付き合って遊んでいたが、魅真は獄寺の看病のために、持っていたハンカチを水飲み場でぬらしてしぼり、そのハンカチを獄寺のおでこにのせると、獄寺が寝ているベンチと背中合わせになっている、反対側のベンチにすわっている、リボーンとビアンキの隣にすわった。
「すまねぇな、魅真」
「うぅん、いいよ。
それにしても隼人君、急に倒れるなんて、一体どうしたんだろ?具合が悪そうには見えなかったけど…」
「あの子、いつもこうなのよ。私と会うと、こんな風になるの。あの子は、実の姉を、女として意識しすぎなのよ」
「…え?」
ビアンキが何気にさらっと言った言葉に、魅真は目を丸くし、一瞬反応が遅れた。
「えええーーーー!!ビアンキさんて、隼人君のお姉さんなんですか!?」
「ええ、そうよ」
獄寺の顔立ちで、日本以外の国の血がまじってるのではないかとは思っていたが、まさかこんな身近に彼の身内がいるとは思わず、初めて知った真実に、魅真は驚いて目を丸くする。
「ただ、母親は違うけどな」
「そ、そうなの…」
母親が違うとリボーンの口から聞き、それだけで複雑な事情があるのだろうと察した魅真は、それ以上はつっこまなかった。
「…ねえ、魅真」
そんな魅真を見ると、ビアンキはゆっくりと魅真に話しかける。
「なんですか?ビアンキさん」
「私……あなたに、謝らなければいけないことがあるのよ」
「え…。私、ビアンキさんに何かされましたっけ?」
謝らなければいけない…とは言われたが、魅真には見当がつかなかった。
「ほら、あなた春に、ツナの家に遊びに来たでしょ?それで、フゥ太があなたの愛してる人ランキングをやったじゃない。それで、リボーンがわけあって雲雀ん家に居候してるって言った時、私、かなりおいしいって言ったでしょう」
「え?ああ…そういえば…」
「その後……ツナに聞いたの。あなたが、その雲雀って子の家に居候してるのは、両親を亡くして、誰もひきとってくれる親類がいないからだって…。軽率なことを言ってしまって、本当にごめんなさい」
「あ…いいんですよ。ビアンキさんは、何も知らなかったわけですし…。全然気にしてませんから」
「そう…。ありがとう。あなたは優しいのね」
「え!?そ…そんなことないですよ」
ビアンキに礼を言われると、魅真は照れて、顔をほのかに赤くして、両手を横にふった。
「ところで魅真」
「なんですか?」
「あなたは今、その雲雀って子のことが好きなの?」
「ふぇっ?」
次にビアンキに突拍子もない質問をされると、驚きのあまり、妙な声を出してしまう。
「なっ、なんで、いきなりそんな話に?」
「…ちょっとね。気になったのよ。以前、フゥ太があなたの愛してる人ランキングをやって、それで彼が一位になった時、あなた全力で否定してたけど、心の底から嫌って感じじゃなかったから。
だから、ちょっと気になってね」
「んーー…。好きか…どうかは…まだわかりませんけど…。嫌いじゃ…ないです。
前は、怖くて苦手なだけだったのが、段々おだやかな気持ちになってきてます。それで、たまにドキっとします。心臓がうるさい時もあります。でも、不快ではなくて…どこか、心地よくて…。
それに……なんだか、心があったかくなるんです。雲雀さんと一緒にいると……。
最初は、絶対に雲雀さんとうまくやってけるはずない!って思ってて、雲雀さんには、苦手意識しかなかったんですけど……今は、それがないんです」
「そう……」
「あ!もうこんな時間!
じゃあ私、用事があるので、ここで失礼しますね」
ふと公園にある時計を見ると、もう時間がさしせまっていたので、魅真はビアンキとリボーンに断りをいれると、ツナ達のもとへ行き、ツナ達にも断りをいれて、公園から去っていった。
「……いい子ね…。優しくて…素直で…まっすぐで…純粋で……。
でも……」
去って行く魅真の後ろ姿を見て、ビアンキは誰に言うでもなく、ぽつりぽつりとつぶやくようにしゃべる。
「ふふっ。あなたの恋は、前途多難ね。隼人」
そして、今度は顔を前に向けたまま、後ろの椅子で寝ている獄寺に向かって声をかけた。
「………うるせえ……」
椅子に寝ている獄寺は、いつの間にか起きていた。
先程の魅真の返答で、すべてを悟ったビアンキが獄寺に向かって言えば、獄寺はつぶやくように、ぶっきらぼうにビアンキに返した。
小さい声で、吐きすてるように言ったその言葉は、目の前の青空に吸いこまれるように消えていった。
ツナ達と別れると、魅真は並盛商店街にやって来た。
「あ、来た来た。魅真ちゃーーん!」
「こっちです!」
目的地である、ラ・ナミモリーヌの前には、京子とハルがいた。
今日は、ツナ達と会う約束をしていたが、京子とハルとも会う約束をしていたのだった。
「ごめんね、おまたせ」
「うぅん。まだ時間あるし、大丈夫だよ」
「それより、早く入りましょう」
三人は、目の前にあるナミモリーヌに入っていった。
中に入ると、三人はケーキと飲み物を選び、カフェでお茶をしながら、ガールズトークをしていた。
ガールズトークをしながら、魅真は、京子やハルと初めて会った日のことや、友達になった時のこと、初めてこのナミモリーヌに入って、一緒にこうやって話した日のことを思い出していた。
それもまた、魅真にとっては大事な思い出だった。
それから一時間ほど雑談すると、魅真は二人と別れ、帰路についた。
ナミモリーヌからしばらく歩いていくと、並盛中学校の前に来た。
学校の前に来ると、校門の前から屋上を見上げて、今度は、雲雀と出会った時のことを思い出す。
夏休みに手続きをしに行った時、初めて雲雀と会った時のこと。
転校初日に、雲雀と再び会ってしまったこと。
風紀委員に、強制的に入らされた時のこと。
風紀委員を一回やめたが、もう一度入った時のこと。
強くなるのを決心し、雲雀に特訓してもらった時のこと。
クリスマスの時、一緒に初詣でに行った時、バレンタインの時のこと。
両親が亡くなり、それがキッカケで、雲雀の家に居候するようになったこと。
雲雀に、バレンタインのお返しや誕生日プレゼントをもらったこと。
他にも、雲雀と過ごした日々の、いろいろなことを思い出していた。
最初は、雲雀がすごく嫌だったし、苦手だったが、それも今となってはいい思い出だと、屋上を見ながら軽く微笑んだ。
その後は、まっすぐ家に帰っていった。
雲雀家に着いた時は、もう夕方の5時をすぎていたが、まだ明るくて暑かった。
「あっ…」
家の門の前に来ると、目の前から雲雀がやって来たので、魅真は小さく声をあげた。
「君も…今帰り?」
「はい」
雲雀に話しかけられると、魅真は笑顔で返事をした。
ツナ達に向けるものとは、また違う笑顔で…。
魅真が並盛町にやって来て、一年が経った。
一年前と違うのは、友達ができて、雲雀が苦手ではなくなったこと。
そして、一年前のあの日、道に迷った時にみつけた、この屋敷のような家に住むようになったことだった。
両親は亡くなってしまったが、それでも充実した毎日を、魅真は過ごしていた。
今日は、そんななつかしい日々を思い出していた、ある…夏の日…。
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