標的24 勝利をつかめ!
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その日、魅真はいつも通り、風紀委員の見廻りをしていた。
「ん?」
そして、校舎裏まで来ると、あるものを目にする。
「おらっ!!いいから、あり金全部よこせよ」
「や、やめてください~」
それは、不良が気の弱そうな生徒を、カツアゲしている場面。
早い話が、風紀を乱す違反者だった。
「こらっ、やめなさい!」
違反者を注意するのは、もちろん風紀委員の仕事なので、魅真はカツアゲをしている男子生徒に、制止の声をかけた。
「ぁん?一体だれ………おわっ!!!」
横やりが入ったので、不機嫌になった彼は、メンチを切りながら魅真の方へ振り向くが、魅真の顔を見た途端、ぎょっとして悲鳴に似た叫び声をあげる。
「ひっ、雲雀さんの女!!」
彼が驚きの声をあげたのは、振り向いた先にいたのが、雲雀の女として有名な魅真だったからだ。
「すっ、すんまっせんしたぁああああーーーーー!!!!!!」
魅真に何かあったら、雲雀に咬み殺されるだろうと思った彼は、涙を流しながら、脱兎の如く去っていった。
毎度のことではあるが、魅真は自分を雲雀の女だと誤解して逃げていく彼の姿を見て、深いため息をつく。
標的24 勝利をつかめ!
それから見廻りが終わると、魅真は応接室に戻ってきた。
「で…またなの?」
応接室に戻るなり、魅真は先程のことを雲雀に注意される。
「まったく……。前も言ったよね。違反者をみつけたら、その武器で、完膚なきまでにたたきのめせって」
魅真が注意を受けていたのは、違反者を注意したことではなく、違反者を倒さなかったことだった。
注意をされると、魅真は別に悪いことをしたわけでもないのに(雲雀的には悪いことだが)、もともとの性格故か、小さくなって、雲雀の様子をうかがっていた。
「でも雲雀さん、私にはやっぱ無理ですよ。私にはそんな力ありませんし、戦いは嫌いなんです。この武器だって、雲雀さんに無理矢理もたされて…」
本当は、全校生徒(一部のぞく)に「真田魅真」でも「風紀委員」でもなく、「雲雀恭弥の女」として認識されており、特に、雲雀が倒せと言っている不良(違反者)には、顔を見られただけで逃げられてしまうので、戦いようがないというのが一番の理由だったが、それは言わずに、雲雀に反論する。
「だから……それが何?」
けど、もちろんそんなことで納得する雲雀ではなく、軽く睨みつけながら返してきた。
「僕の言ったことは絶対だよ。それに君、以前……風紀委員に再び入った時、強くなりたいとか言ってなかったっけ?」
「ぅ……」
しかも、痛いところをついてきたので、魅真は言葉がつまってしまう。
「強くなりたいのに戦わないなんて、ふざけてるの?言っとくけど、君自ら強くなりたいと言ったからには、今更戦わないなんて甘えは許さないよ。もちろん、武器を持たないことも許さない。いい?今度会った時は、絶対にたたきのめしなよ。最低でも戦うこと」
「…はい……」
雲雀が言ったことも一理あるので、魅真は落ちこみながら返事をした。
次の日の昼休み。
「ねえ、隼人君」
「あ?」
いつも通り、屋上でお昼を過ごしていると、魅真は思いつめた顔で、獄寺に声をかける。
ちょうど、購買で買ってきた焼きそばパンを頬ばろうとしていたとこで声をかけられたので、獄寺は大きく口をあけたまま、少々間のぬけた声を発しながら、魅真の方へ顔を向けた。
「隼人君て、どうやって強くなったの?」
「はっ!?」
魅真らしからぬ質問に、獄寺は思わず驚きの声をあげる。
「おまえ……いきなり何言ってんだ?」
「だって……」
そして、問われた時に思ったことを、そのまま口に出す。
二人のそばでは、ツナと山本も同じことを思っていたのだが、口には出さず、魅真の言葉を待った。
「昨日、また違反者を倒せなかったことで、雲雀さんに怒られちゃって…」
「ああ…」
最後まで言わなくとも、獄寺はすでに察しがついた。
今までにも、魅真の口から何度か聞かされていた内容だったからだ。
「っつってもだな……オレも、強くなりてぇって気持ちはあったけど、どうやって…とかはおぼえてねーよ」
「え…なんで?」
「知らねぇうちに強くなってたからだ」
「知らないうち?」
「ああ。なんか気づいたら強くなってた。そんだけだ」
「ええっ!?それじゃあ、何も参考になんないじゃない」
「んなこと言われても、本当に気づいたら強くなってたんだから、しょうがねーじゃねーか」
確かに、しょうがないことはしょうがないのだが、なんのヒントも得られなかったので、魅真は見るからにしょんぼりとした。
そんな魅真を見た獄寺は、別に自分が悪いわけではないのだが、罪悪感を感じ、言葉がつまってしまう。
「だったら、特訓しかねーな」
そこへ、聞き覚えのある子供の声が聞こえてきた。
「リボーン君」
「リボーンさん」
「リボーン」
「小僧」
「ちゃおっす」
それはリボーンで、リボーンが現れると、全員がリボーンに注目する。
「それよりもリボーン、なんだよ?特訓って」
今リボーンが言ったことにいち早く反応し、リボーンが言ったことに疑問をぶつけたのは、魅真ではなくツナだった。
「どんなに他人の強くなった話を聞いても、どんなに強い奴の戦いを見ても、強くなんかなれねー。強くなるには、特訓あるのみだぞ」
「だからってなぁ、相手は魅真ちゃんだぞ」
ツナが心配したのは、リボーンが魅真に対し、自分にいつもしているような、ムチャクチャでスパルタな特訓をするのではないかと思ったからだった。
「大丈夫だぞ。そんなムチャはさせねぇ」
まるでツナの心を読んだように、リボーンは即答する。
とは言っても、やはりリボーンなので、心配は心配だった。
「どうだ?魅真。オレにまかせてみねーか?」
「へ?」
「オレにまかせてもらえば、一週間で今よりも強くしてみせるぞ」
「ほ、本当に?リボーン君」
「ああ、本当だぞ」
魅真が身をのりだして食いつけば、リボーンはニッと笑ってうなずいた。
隣では、リボーンの意味深な笑みを見て、何やら嫌な予感がしたツナは、顔が青ざめ、顔をひきつらせていた。
「どうだ、オレの特訓受けるか?」
「うん、もちろん」
けど、魅真はリボーンの深い笑みにも、ツナの不安にも気づくことなく、リボーンの特訓を受けることにしたのだった。
うなずいた魅真を見たリボーンは、もう一度ニッと笑う。
そして放課後になると、魅真は特訓のため、何故か講義室にいた。
後ろの席には、ツナ達三人もすわっている。
「あの……リボーン君…」
「なんだ?」
教壇の前にすわっている魅真は、教壇の上にある机に立っているリボーンに、おずおずと話しかける。
「なんで……私は今、脳トレなんてものをやってるの?」
戦いの特訓と聞いていたので、よほど激しく壮絶なものかと思っていたら、体を動かすことすらしないので、何故これが特訓なのだろうとふしぎに思った魅真は、リボーンに問いだしたのである。
「それはな、フゥ太のランキングで、魅真に一番向いてるのは、脳トレだと出たからだぞ」
「へ?」
「お前は力も技も劣るから、どうしたって、まっこう勝負してもすぐに負ける可能性の方が大だ。頭で考えて戦う方がいいってことだな」
「そ、そう…」
何気にけなされたので、魅真は苦笑いを浮かべたが、それでもどこかほっとしていた。
魅真は、それ以外は特になんの疑問ももたず、おとなしく脳トレを受けた。
特訓はこれだけで終わりだと思ったのだ。
しかし……
「んじゃ、次はロードワークと筋トレと柔軟だな」
「え?」
リボーンの特訓がこれで終わりなわけがなく、せっかく体を動かすものはないと思ったのに、今度は体を動かす特訓だったので、魅真はがっかりした。
それでも、戦いの特訓ではなかったので、魅真はほっとしてもいた。
体操着に着替えると、魅真は学校の外に出て、腰とタイヤを縄で結び、それを三つつけて走り出した。
「ほら魅真、もっと早く走れ!」
「うぐぐぐぐ…。そ、そんなこと……言われても…」
もともと運動音痴なので、走るのが遅く、体力もなければ力も筋肉もないので、魅真は苦労していた。
しかも、タイヤの上にはリボーンがのっているので、遅いのはそのせいもあった。
「リボーン君………どこまで行くの…?」
「決まってんだろ。山までだ」
「やっ…山ぁあああ!?」
そう言われても、何かの冗談かと思った。
しかし、冗談を言わないのがリボーンで、魅真は山まで走っていくはめになった。
それから、魅真は一時間半かけて、ようやく山にたどりついた。
山と言っても、麓ではなく、少し登ったところにある、開けた場所だった。(少しと言っても、1kmも距離がある)
ただでさえ、山登りは体力が必要なのに、そこまでの移動手段は、徒歩ではなく走り。
しかも、登山道ではなく、木が鬱蒼と生え、岩がたくさんある、道なき道であった。
ちなみに、この方法をとったのは、整備された道路や登山道よりも、自然の地形の道なき場所を登った方が、体がより鍛えられるから…という、リボーンの考えであった。
開けた場所に来たら、筋トレと柔軟体操をやる予定なのだが、すでに魅真はくたくたなので、リボーンは、その特訓はやめに………
「あああああああっ!!し、死ぬぅううう~~~!!」
するわけもなく、特訓は行われたのである。
それから50分後に、ようやく筋トレと柔軟が終わったが、容赦のないリボーンは、次のプログラムへと進んでいった。
「さ、いよいよお待ちかねの、楽しい楽しいスパーリングだぞ」
「誰も待ってない!」
今までは戦いがなくてほっとしていたが、とうとう戦いの特訓がきてしまったので、魅真は軽く涙目になる。
「んじゃ、まず最初に獄寺。次に山本。最後はツナの順で特訓してくぞ」
「え…オレも!?」
「ほ、ほんとにやるの!?」
「それじゃあ始めるぞ」
まさか自分も実戦の相手をするとは思わなかったツナと、本当にやらなきゃいけない雰囲気になってるので、それが嫌な魅真はリボーンに問うが、リボーンはまったくの無視で、勝手に進行していった。
「それじゃあ獄寺、始めてくれ」
「はい」
自分の前に獄寺が来て、構えをとったので、魅真はびくっとなる。
それは、明らかに獄寺の方が強いというのがわかってるのもあるが、本当に戦わなくてはいけなくなったからだ。
獄寺は、相手が魅真なので、いつものダイナマイトを構えることはなかったが、普通に肉弾戦もできるので、どんどん攻めていった。
対して魅真は、武器である薙刀を構えてはいるものの、両手でにぎりしめているだけで、全然戦わなかった。
獄寺は拳や蹴りで攻撃していくが、それでもあてることはなく寸止めをしていた。
けど、それだけでも魅真は怖がって、獄寺に攻撃をすることはなかった。
「ストップ!終了だぞ、獄寺」
「え?も、もういいんスか?リボーンさん」
「…ああ。もういいぞ」
まだ、肝心の魅真が全然攻撃をしていない上、あまり時間が経ってないのに、もういいと言われたので、獄寺は不完全燃焼だった。
「次は山本だぞ」
「おう」
リボーンに指名された山本は、いつから持っていたのか、武器(山本のバット)を構える。
切れ味はないものの、鉄のバットは充分凶器なので、見ただけで魅真はビクッとする。
「それじゃあ、開始だぞ」
リボーンの合図で、山本は魅真に向かっていった。
山本はバットを刀に変形させて魅真を攻撃し、魅真も薙刀を構えるが、へっぴり腰で反応が鈍く、よけるのが精一杯といった感じだった。
「もういいぞ、山本」
「え…。もういいのか?小僧」
「ああ、充分だ」
まだ5分も戦っておらず、魅真に至っては攻撃すらしていないのに、試合終了の合図を出されたので、山本はふしぎに思っていた。
「んじゃ、最後はツナだな」
「ええ!!やっぱりオレもやるの!?嫌だよ、魅真ちゃんは女の子だし。それに……」
「グダグダ言うんじゃねえ!」
拒否をするも、リボーンは死ぬ気弾を撃ち、強制的にツナを戦わせようとした。
「復活(リ・ボーン)!!死ぬ気で魅真の特訓をする!!」
先程まで嫌がっていたのだが、死ぬ気弾を撃たれたツナは、死ぬ気モードになると、急にやる気になり、魅真に向かって走っていく。
「おりゃああーーー!!」
「きゃっ」
ツナは魅真の前まで来ると、拳をふって魅真を攻撃してきた。
結構早かったが、魅真はなんとかよけるとツナの横にまわりこみ、薙刀をふりおろして攻撃をする。
それはツナの背中にあたり、ツナが苦痛で顔をゆがめると、魅真の動きが止まった。
そのすきに、ツナは魅真のもとへ走っていき、攻撃をしようとする。
「ギ…ギブアップ!!」
まだ戦いが続いているが、魅真は自らこの戦いを終わらせた。
「まだまだーーー!!」
「きゃああっ」
しかし、ツナはまったく聞いておらず、再び拳をふるう。
「終了だぞ」
ツナの勢いにひるんだ魅真だが、そこへリボーンが跳んできて、ツナの後頭部をハリセン(レオンが化けている)でひっぱたいて、一瞬動きを止めると、どこに持っていたのか、ロープを出して縛りあげ、死ぬ気弾の効果がなくなるまで待った。
特訓が強制的に終了してから数分後、ツナの死ぬ気モードが終わると、五人は近くにある、行楽で使うための、木でできた机にすわった。(もちろんツナは、制服に着替えている)
「どうしたの?リボーン君」
「急に集まれなんて言いだして、何かあったのかよ?」
「ああ。特訓をしてみて、なんで魅真が強くなれねーのか、その原因とも言える、最大の弱点がわかったから、それを言おうと思ってな」
「最大の…弱点?」
「なんだよ、それ?」
それは一体なんなのかと思った魅真は、胸をドキドキさせながら、リボーンの言葉を待った。
「それは、戦う意志がないことだ」
「え……」
自分はツナ達を護りたいと思っているし、一度やめたはずの風紀委員に戻ってきたのもそれが理由なので、何故そう言われるのかふしぎで、疑問に思った。
「お前はすごいお人好しで、誰かに合わせることに抵抗がないし、困ってる奴がいたら、そいつの力になろうとする。
けど…その分戦うのは苦手だ。争いごとに発展しようとすれば、自分から身を引いて、相手に譲っちまう。
それは、お前の優しさでもあるし、長所だ。悪いことじゃねぇ…」
リボーンにほめられて、少しむずがゆいがうれしく感じる魅真。
けど、なんでそれが強くなれない理由なのか、疑問に思った。
「だが、それがかえって、戦いの妨げになっているんだ」
「どういう…こと…?」
と言われても、魅真は意味がわかっていなかった。
「魅真、お前本当は、戦いは嫌いだろ?」
「え?うん」
「やっぱりな」
リボーンは魅真に質問した答えを聞くと、一人で納得していた。
一方魅真は、遠まわしでなかなか核心にふれない、確かめるような言葉に、まだ意味がわからない状態だった。
「その戦いが嫌いというところが、今の状況を作りだしているんだ。戦う意志がないから、一歩前にふみ出そうとしない。思ってもいない。その勇気すらない。敵に挑もうとする心がないから、戦わなくてすむとほっとしちまう」
言われてみると、リボーンが言うことは理にかなってるし、あたっているので、口をあけて驚いていた。
「そしてその心がある限り、お前は絶対に強くなれねぇ」
けど、次に聞いた言葉で、全身を雷で撃たれたような衝撃を受ける。
「戦いにかぎらず、どんなことでも、心のないことに挑んだって、成果なんて出やしねぇ。これ以上やったってムダだ。そんなのは、戦ってる奴らや、本当に強くなりたいとがんばってる奴らにも失礼だ。とっととやめちまえ」
「ちょっ…リボーン!」
さすがに言いすぎなリボーンに、ツナは抗議しようとするが、魅真がツナの前に手を出して、それを制する。
「もしも、このまま戦うことを望まないんだったら、オレが雲雀に話をつけてやる」
「え…」
ツナに抗議されそうになるも、そんなことはお構いなしに、リボーンは続けた。
その言葉を聞くと、魅真はドキっとする。
「そうすれば、お前は戦いから逃れられるし、戦えとも言われなくなる。だが……」
いつも自分に笑顔で話しかけてくる時とは違って、真剣な顔で話をするリボーンに、魅真は段々と顔が強張っていく。
「もう二度と、風紀委員には戻れねえぞ」
そして、次に出た言葉に、絶対に強くなれないと言われた時よりも、強い衝撃を受けた。
それと同時に、雲雀の顔が頭に思い浮かぶ。
「当然だな。戦う意志を見せてない頃だったらまだしも、戦う意志を見せて、それで武器を持って、雲雀に特訓までしてもらってるのに、それでやめたら、戻れるわけがねえ」
リボーンが話すごとに、心臓がうるさく鳴り響き、眉間にしわがよっていく。
「……リボーン君は……赤ちゃんなのに、強いよね。なんで強いの?……なんで……戦おうと思ったの?」
今まで、リボーンの話を聞いていただけだったが、ふと思ったことを、リボーンに質問した。
「……そのことに関しちゃ、企業秘密だから言えねえな」
「…そっか」
「逆に聞くが、なんでお前は戦いたいと思ったんだ?」
同じ質問をされると、魅真はハッとなり、一度風紀委員をやめて、また戻ろうと思ったきっかけの出来事を思い出した。
「……今、大切に思ってる人達を……護りたいと…思ったから…」
静かにその答えを言うと、リボーンはニッと笑う。
「魅真、世の中は残酷で理不尽だ。キレイごとだけじゃ、大事なものは護れねぇ。それは、人でもモノでもな。だから、時に冷酷になって、目の前の敵を倒すことも必要なんだ。
だが、護るために戦うと言っても、しょせん戦いは、暴力と大差ない」
護るために戦うのと暴力は違うものだと思っていた魅真は、リボーンの口から出た意外な言葉に驚いた。
「そんな時は、どうすればいいかわかるか?」
問われても、戦いのことはまったくと言っていいほどわからない魅真は、無言のまま首を横にふる。
「信念をもつことだ」
「信念?」
「そうだ。自分の信念を貫き通すためだけに、その力を使う。決して、弱者を虐げることには使うな。そうすれば、理不尽な暴力におぼれることはねぇ」
「信念を……貫く…」
ぽつりぽつりとつぶやきながら、胸のあたりの服を、ぎゅっとにぎりしめた。
「今持っているその武器を、ただの飾りにするか、それとも活用するかは、お前次第だぞ。魅真」
そして今度は、机にたてかけておいた薙刀をちらっと見た。
「魅真、おまえが今護りたい大切なものは…なんだ?」
再度問われると、横に向けていた顔をリボーンの方に戻し、答えを言うために、閉ざしていた口を開く。
「………ツナ君と、武君と、隼人君。それに、京子ちゃんと、ハルちゃんと、リボーン君。…それに…………
それに……」
「それに………なんだ?」
「……なんでもない…」
魅真は少しだけウソをついた。
でも、それがわかったリボーンは、ニッと笑った。
それから、本当にやる気になった魅真は、再びリボーンの特訓を受けることにした。
獄寺、山本、ツナに手伝ってもらい、日が暮れる寸前まで特訓をしていたのだった。
もちろんその日だけでなく、次の日も…また次の日も…そのまた次の日も、三人に手伝ってもらって特訓をした。
ツナ達だけでなく、了平やビアンキ、イーピンなど、自分の知り合いで、戦いができる人物にも、時間があいてる時に、特訓を手伝ってもらっていた。
そして、特訓を開始してから二週間後……。
毎日、いろんな人達といろんな特訓をしている魅真は、どこか疲れた顔で見廻りをしていた。
「おまえ……並中風紀委員長の、雲雀恭弥の女だな?」
そこへ、並中の生徒ではない、別の学校の、見るからに不良といった感じの、ガタイのいい男子生徒が現れた。
「あなた、誰?」
自分よりもひと回りも大きい男子生徒に、まったく物怖じすることなく、魅真は普通に話しかける。
毎日不良と関わっているし、雲雀以上に恐ろしい人物などいないという気持ちが、自然とそうさせていた。
「オレは、隣野(トナリノ)中学校のモンだ。以前、雲雀恭弥にボコボコにされた恨みがある」
「あの……それでしたら、雲雀さんのところに直接行ったらどうですか?たぶん、並中の応接室にいると思うんで…」
「うるせェ!!あんなバケモンのとこに行けっかよ!!」
魅真に提案されるも、彼は雲雀の名前を出されただけで顔が青ざめ、全力で拒否をした。
よほど、怖い目にあったらしい…。
「じゃあ、自分ちでおとなしくしていた方がいいのでは?」
雲雀に恨みがあるのに、雲雀のところに行く勇気がない男に、何がしたいのかわからないといった風に、魅真は顔をしかめる。
「雲雀に直接立ち向かっていくと、返り討ちにあう。だから、せめて雲雀の女であるお前を倒して、うさばらしをしてやるのさ」
「せめてって何!?ていうか、そんなことで狙われるなんて、すっごくいい迷惑なんだけど」
臆病者の上に、とんだ卑怯者なので、魅真は怒る以前に呆れてしまった。
「それか、お前を人質にして、雲雀の手を封じるって手もあるな。そうすりゃ、並盛最強の不良の座はオレに…」
途中まで言いかけると、男は魅真に、首に薙刀をあてられた。
すごく真剣で、どこか怒っている目で睨まれている。
見た目弱そうな魅真に、薙刀をあてられたことで、男の顔は不快そうにゆがめられていた。
「たとえ私を人質にとっても、雲雀さんはあなたには負けないわ。だって、雲雀さんは強いもの!それに、あなたみたいに、卑怯な手をつかって勝とうとするような人に、雲雀さんが負けるはずない!!」
「てンめェエエーーー!!」
怒りは爆発し、憤慨した男は魅真に殴りかかった。
しかし、魅真はそれを難なくよけた。
そのことで、男だけでなく、魅真自身も驚いていた。
特訓の相手はいつも雲雀だったというのもあるが、いくら雲雀よりも劣る相手とはいえ、戦いが苦手で運動音痴の自分が、自分よりは戦いなれしていそうな男の攻撃を、あっさりとよけることができたからだった。
「このヤロォオーーー!!!!」
まさか、こんな見た目弱そうな女にもよけられるとは思わず、更に憤慨し、頭に血がのぼった男は、拳を構え、まっすぐに魅真のもとに走ってきて、魅真を殴り倒そうとした。
しかし、魅真はそれすらもあっさりよけると、それと同時に薙刀を構え、振りおろし、逆に殴り倒した。
まだこれで終わりではないだろうと思ったが、今の一撃が効いたようで、男は動くことなく、地面でのびていた。
それが自分でも信じられず、目を丸くして、倒れている男を見ていた。
次の日…。
「へぇーー。じゃあ、魅真ちゃん勝ったんだ」
魅真はツナ達に、昼休みに屋上で、前日他校の不良を倒したことを報告していた。
「よかったな。特訓の成果が出て」
「ありがとう。みんなが特訓してくれたおかげだよ。本当にありがとう」
山本が、魅真の勝利を自分のことのように喜ぶと、魅真はツナ、山本、獄寺、リボーンに、笑顔でお礼を言った。
「いや、そんなことないよ。オレ、あんまり役に立ってないし…」
「そんなことないよ。ツナ君もいなきゃ、こんなに成果は出なかったと思うよ」
「え…。そう…かな…?」
「そうだよ」
ツナは、自分があまり役にたっていたとは思えないので、魅真が言ったことを否定するが、魅真はツナが言ったことを否定した。
「そうッスよ、10代目!10代目は、誰よりも魅真の役にたってたッス!」
そこへ、ツナを慕う獄寺も、魅真が言ってることに同意してきた。
「そうだね。でも、隼人君が特訓してくれたおかげでもあるんだよ」
「お…おう!」
魅真が、今度は獄寺にお礼を言うと、獄寺は顔を赤くして固まってしまう。
「どうしたんだ?獄寺。体が固くなってんぞ」
「るっせ!!」
今の状態を指摘されると、獄寺は顔を赤くしたまま山本に噛みつく。
「武君も、本当にありがとう」
「いいってことよ。また、いつでも力になるからな」
「うん」
今度は山本にお礼を言うと、山本は人の良い、人なつっこい笑みを浮かべた。
そんな中、みんなが口々に話している中、リボーンだけがジッ…と魅真のことを見ていた。
「…なあ、魅真」
「何?リボーン君」
その光景をずっと見ていたリボーンが、突然魅真に声をかけてきたので、魅真は今までツナ達の方へ向けていた顔を、リボーンがいる方へ向けた。
「おまえ……。ボンゴレファミリーに入らねぇか?」
「へ?」
突然の勧誘に、魅真だけでなく、ツナ達も目を丸くした。
「リボーン君たら、何言ってるの?もう入ってるじゃない」
けど、次には軽く笑みを浮かべ、リボーンが言っていることを笑った。
「……そうか」
そのことに対し、リボーンは短く返すのみで、それ以上は何も言うことはなかった。
実は今のは、遊びとしてではなく、本気で誘ったのだった。
愛人としてではなく、戦士として…。
魅真が、短期間で飛躍的に成長したから…というのもあるが、魅真を勧誘すれば、もしかしたら雲雀も入るかもしれない…と期待してのことだった。
魅真はそのことをわかっていなかったが、ツナと獄寺は、リボーンが雲雀も入るかもしれないと期待して誘ったのは気づいていなかったが、魅真を戦士として勧誘したのはわかった。
だが、特にツナは、魅真にボンゴレのことを知られるわけにはいかないので、そのことに関しては、何も言わなかった。
そして……。
「ふーん…。じゃあ、ようやく一人倒したんだね」
「はい。風紀を乱してる並中生ではないですけど、雲雀さんに恨みがあるとかいう、隣野中学校の不良を」
放課後。
魅真は応接室に行くと、前日のことを、雲雀に報告していた。
「そう…。ようやく、軟弱じゃなくなったね」
けど、雲雀の口から出たのは、ただの嫌味だったので、魅真は肩をがっくりと落とした。
「でも……君にしちゃがんばったんじゃない」
「…へ?」
「僕もまさか、この短期間で、君がこんなに成長するなんて、思いもしなかったよ」
「えっと……それは、特訓…したから」
「そう。よくやったね」
めずらしく、素直にほめられたので、魅真は驚きのあまり、目を見開き、口を大きくあけて、その場で固まってしまう。
「…何?」
雲雀はそんな魅真を、眉間にしわをよせて、怪訝そうに見た。
「あ……いえ…。雲雀さんが素直にほめるなんて、なんか変な感じがして。本当に雲雀さんなのかな?って思いまして。なんか、すごいむずがゆいっていうか…」
「君は、僕をなんだと思ってるのさ」
「ご、ごめんなさい」
理由を話されると、雲雀は、今度は不機嫌そうな顔になり、魅真はその表情を見ると、あわてて謝った。
「でも……すごくうれしいです。ありがとうございます」
そして、素直にお礼を言えば、雲雀はどこか優しげな顔をしたので、魅真は胸が少しだけ熱くなった。
特訓中、リボーンに戦う理由を問われた時、護りたい大切なものは何かと問われた時、その時の魅真の頭には、ツナでも山本でも獄寺でもなく、まっさきに雲雀の顔が浮かんだ。
雲雀にほめられた時、すごくうれしくなった。
ツナ達にほめられた時よりも
ずっと…ずっと……。
そして、雲雀の優しげな顔を見た時、心臓がうるさくなった。
心がほっとした。
何故そうなったのか。
何故、あの時雲雀の顔がまっさきに浮かんだのか。
何故、雲雀を護りたいと思ったのか。
そして、その感情の名前をなんというのか…。
まだ魅真は、わかっていない……。
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