標的19 小さなあめ玉
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あれから早いもので、もう一ヶ月近くも時間が経った。
魅真は、心身ともに落ちつきをとり戻し、前よりもおだやかになった。
「もう三月中旬か…。三年生も卒業しちゃったし、私達も、あと一ヶ月もしないうちに二年生か。早いもんだね~」
1Aの教室では、京子の親友の花が、そんな何気ないことを話してた。
「そうだね。陽気もよくなってきたし、おでかけ日和だね」
花の前にいる京子は、いつものにこにことした無邪気な笑顔で花に返す。
「そうね~。あ、そういえばさ……ずっと聞きたかったんだけど……」
「何?」
「いや……京子じゃなくて…。
雲雀さんと同棲してるってウワサがたってるけど……どうなの?」
花は京子の隣の席の方に振り向きながら話す。
「ねえ、魅真」
話しかけられたのは、京子でなく魅真だった。
標的19 小さなあめ玉
「…え…?」
あれから魅真は、京子を介して、花ともよく話すようになった。
まさか、貴重な友人とのおしゃべりの時間に、ほのぼのとした話とはほど遠い話題をふられるとは思わず、魅真はすっとんきょうな声を出した。
「ちょっと待って、花ちゃん。何、その話」
風紀委員に入った当初、雲雀と付き合っているというウワサ以上にぶっとんだ話に、魅真はわけがわからない状態だった。
「え…?だって……そういうウワサがたってるよ。雲雀さんの家に、あんたが入ってくのを見たって話もあるし」
花がそう言うと、魅真は血の気が引いていき、顔面蒼白になる。
「で?同棲なの?違うの?どうなのよ」
はっきりとした答えが出るまでは、この質問をやめるつもりはないらしく、花はぐいぐいとせまっていく。
「……別に…同棲じゃないわ。居候よ、居候。どこも引き取り手がなかった私を、雲雀さんが引き取ってくれて、雲雀さんの家でお世話になってるだけ。そういう関係じゃないから」
「なんだ、つまんない」
「つまんないって…。そんなウワサされて、こっちはいい迷惑よ」
今の感情を表すように、魅真は深いため息をついた。
「おー…。今まで何言われても黙ってたのに、言うようになったね」
「あたり前。じゃあ私、委員会があるから」
一言断ると、魅真はカバンを持って応接室に行った。
「ホント、あれから変わったわ、魅真って」
「そうだね。なんか、ちょっとたくましくなった感じ?」
「案外、雲雀さんのおかげ…だったりして」
「そうかも」
魅真がいなくなったあと、二人はそんな話をしていた。
魅真は、まさか自分がいないところで、こんなことを京子と花が話しているとは、微塵も思っていなかった。
それから二日後。
この日は3月14日。ホワイトデーであった。
バレンタインデーにチョコをもらった男性が、女性にお返しの贈り物をする日である。
「はい、魅真ちゃん。これ」
昼休みの時間、ツナ達いつものメンバーが、お昼を食べるために屋上に集まっていた。
そしてお昼を食べた後、突然ツナが、魅真にラッピングされた箱を渡してきた。
「え…。ツナ君、これ何?」
突然渡されたものがなんなのかわからず、魅真は戸惑った。
「何って…。今日は3月14日。ホワイトデーでしょ?だからお返し」
「えっ!?」
「え…。そんなに驚くこと?」
まさか、お返しでここまで驚かれるとは思わなかったので、ツナは驚いた。
「だって、お返しがもらえるなんて思っていなかったから…。私別に、お返しとかほしくてあげたわけじゃないのに…」
「いや……やっぱもらったら返さないと。オレも、魅真ちゃんにはお世話になってるからさ」
「そっか。ありがとう、ツナ君」
それは普通だと言うように返せば、魅真は口元をほころばせる。
「じゃあ、これはオレからなのな」
「わあ!ありがとう、武君」
「オレもだぞ」
「ありがとう、リボーン君」
ツナに続いて、山本とリボーンもくれたので、魅真はうれしそうにする。
「そんじゃあ、これはオレからだ」
「「「えっ!?」」」
けど、三人だけでなく獄寺までくれたので、魅真だけでなく、ツナと山本まで驚きの声をあげた。
「え……隼人君も?」
「なんだよ。オレが渡しちゃ悪いのかよ?」
「えっと……悪いってわけじゃないけど…」
「じゃあ、なんだよ?」
「いや……隼人君て、言っちゃなんだけど…全然そんな感じしないから…。この前、興味ないって言ってたから、たぶん私の以外のチョコはもらっていないだろうし…。もしもらったとしても、「あんなもん、お前らが勝手に渡しただけだ」とか言って、何もお返しとかしなさそうなんだもの」
「んなっ!」
意外なほど、ずばずばとものを言う魅真に、獄寺はショックを受け、リボーンと山本はおもしろそうに笑っており、ツナはハラハラとしていた。
「おまえ……前より、はっきりと言うようになったな…」
「え、そう?」
「ああ」
「そういえば、そうかもね」
ハラハラとしていたツナだが、次に獄寺が言った言葉に同意する。
「最初の頃は、すっげぇおどおどしてて、正直見ててイライラしてたくらいだけど…。でも、最近は聞いてて気持ちがいいくらい、自分の意見をはっきり言うようになったぜ」
「隼人君は、前よりも優しくなったね」
またしてもずばっとものを言ってきたので、獄寺は黙ってしまった。
「でも、ありがとうね、隼人君」
「お、おう…」
にこっと笑顔でお礼を言われれば、獄寺はほのかに顔を赤くした。
「これはまた、たくさんもらったわね」
「へ?」
お昼ご飯を食べて教室に戻ると、屋上に行く前にはなかった大きな紙袋を見て、花が声をかけてきた。
「ホワイトデーのお返しでしょ?それ。手からあふれかえるくらい持ってるじゃない」
「ああ、これね」
「あんた、そんなにバレンタインにチョコあげたの?」
「んー。まあ、みんな義理だけどね。ツナ君と隼人君と武君とリボーン君と、あと風紀委員の人達と副委員長の草壁さんと、それと雲雀さんにね。これは、ツナ君と隼人君と武君とリボーン君。あと、草壁さんと風紀委員の人達からもらったの」
「みんな律儀だね~。男って、そういうのに無頓着だから、あまりお礼とかないって思ってたんだけど…。それにしても、獄寺からとはかなり意外だったわ」
「うん。私もかなり意外だった」
「で?」
「え…?」
「肝心の雲雀さんからは、何かお返しとかないわけ?」
結局聞きたいのはそこだったらしく、花はまたぐいぐいとせまってくる。
「あるわけないじゃない。あの雲雀さんよ?それに私、もうチョコをあげた時に返されてるから」
「はやっ」
「と言っても、物じゃないんだけどね。チョコもらったから借りができたとかで、当日委員会が終わった時、帰りに雲雀さんの乗るバイクで送ってもらったの」
「何それ…」
雲雀の考えは、やはり常人には理解しがたいらしく、花も意味がわからないといった感じだった。
放課後。
応接室についた魅真は、二回ノックをすると中に入っていった。
「ねえ」
「はい?」
「何?その紙袋」
応接室に入るなり、雲雀は花と似たようなことを聞いてきた。
「ああ、これですか?これは、バレンタインにチョコをあげた人達からのお返しです」
話しながら、魅真はとてもうれしそうに笑う。
「ツナ君と武君と隼人君とリボーン君。あと、草壁さんと風紀委員のみなさんからいただきました」
「そう…」
自分から聞いたのに、相変わらずのそっけない態度だったが、それもいつものことだと、魅真は特に気にとめることなく、自分の仕事にとりかかった。
雲雀は自分の仕事をしながら、魅真が仕事をしている姿を見ていた。
正直、この手のイベントは興味がないし、チョコだってむこう(魅真)が勝手にくれたもの。それに、チョコをもらったバレンタイン当日、バイクで家に送るという形で借りは返した。
だから、自分にはホワイトデーなどは関係がない。そう思っていた。
そう思っていたのだが……
お返しをもらったと言った時の、魅真のとてもうれしそうな顔が、頭から離れなかった。
そして、下校時間となり……。
「ねえ」
「なんでしょう?」
「僕、これから寄るとこあるから、今日は先に帰ってて」
「え?わかりました…」
雲雀の家に居候して以来、大抵は雲雀のバイクで一緒に帰っているのだが、今日は別々に帰ることになったので、駐輪場に向かう雲雀を見送ると、一人先に帰っていった。
家に帰ると、魅真は自分の部屋で本を読んでくつろいでいた。
すると、バイクのエンジン音が聞こえてきたので、雲雀が帰ってきたことが、部屋の中にいてもわかった。
少しすると、廊下を歩く音が響いた。
自分の部屋の隣は雲雀の部屋なので、特に気にとめることなく、読書を続ける。
けど、雲雀は自分の部屋ではなく、何故か魅真の部屋の扉を開けたので、魅真は驚いて、思わず本から顔を離し、雲雀の方を見た。
「雲雀さん?」
雲雀が自分の部屋を訪ねること自体めずらしいので、魅真はどうしたのかと思い、しおりを本にはさんでテーブルの上に置き、雲雀に近づいていく。
「どうしたんですか?めずらしいですね、私の部屋に来るなんて」
だが、問われても雲雀は何も答えなかった。
「あの……雲雀…さん?」
何も答えないので、一体どうしたのかと思い、魅真は再度雲雀の名前を呼ぶ。
雲雀は名前を呼ばれると、答える代わりに、拳を魅真の目の前に差し出した。
「え……なんですか?」
「あげる」
そう言われると、魅真は手を出す。
魅真が手を出すと、雲雀は拳の中にあるものを魅真の手の平の上に置いた。
「…あめ…ですか?」
「そう」
それは、その辺のコンビニでや駄菓子屋で売ってそうな、小さなあめ玉だった。
「これが…どうかしたんですか?」
「お返し」
「えっ!?」
次に雲雀の口から出た言葉に、魅真は驚く。
「あの…雲雀さん。お返しって……バレンタインの……ですか?」
「だから、そう言ってるじゃないか」
魅真の驚きの声と表情に、雲雀は眉間にしわをよせ、ムッとした顔になる。
「えっ……え…えぇっ!?雲雀さんが……バレンタインのお返し…ですか?どういう風の吹きまわしですか!?雲雀さんて、絶対にそんなことするタイプじゃないじゃないですか。それにこの前、バイクで私の家まで送ることで、借りは返したはずじゃ…。全然、雲雀さんらしくないですよ」
「失礼だね、君…」
本当のことなのだが、遠慮なくものを言ってくる魅真に、更にムッとする。
「ごめんなさい。でも、うれしいです。ちゃんとした、ホワイトデー用のお菓子でないところも、なんだか雲雀さんらしいですし」
「お礼言ってるの?けなしてるの?」
「お礼を言ってるんですよ」
そう言うと、魅真はうれしそうに微笑む。
「ありがとうございます、雲雀さん」
それは、たくさんの花が咲いたような、満面の笑顔。
応接室で見た笑顔よりも、もっとうれしそうなものだった。
雲雀からもらったこのあめ玉が、魅真が今回のホワイトデーにもらったお返しの中で、一番うれしいお返しとなった。
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