標的18 闇の中の光
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真田魅真は、ごくごく普通の中学生。
真田将寿と真田雪乃という名の夫婦の間に生まれた、どこにでもいる女の子である。
父親は会社員。母親は専業主婦。両親と子供一人という、これもまた、どこにでもある、ありふれた家族構成だった。
けど、魅真は母親と二人暮らしをしていた。
これは、親同士が別居とか離婚とか、そういう複雑な事情をもっているのではなく、単に、父親が単身赴任をしているだけだった。
魅真が、最後に父親と会ったのは、中学校にあがる前…小学校を卒業した時だった。
会えない時も、数日に一度には電話で話していた。
あまり頻繁には会えないが、それでも父親に不満をもったりはせず、家族仲は良好であった。
そんな父親が母親に、年が明ける前、次の結婚記念日に、二人で旅行しないかと提案をしてきた。
オシドリ夫婦な二人なので、母はそれを喜んで受け入れ、当日は嬉々として出かけていった。
まさかその日が……娘との……今生の別れになるとは知らずに……。
標的18 闇の中の光
次の日、魅真は学校には行かず、朝早くから出かけていた。
というのも、〇×県警に両親の遺体を確認しに行くためであった。
朝早くに、〇×県警の警官が迎えに来て、両親の遺体を安置している場所へ連れていったのである。
警官は、霊安室に寝かされてる二人の男女が、魅真の両親であるかどうかを、念のために確認した。
魅真は小さく首をたてにふるだけであったが、二人の顔にかぶせられた白い布をとり、顔が見えた途端に泣き崩れたことと、首をたてにふったことで、この二人が、本当に魅真の両親であることがわかった。
その後は、泣き続ける魅真を見て、しばらくの間そっとしておこうということで、そこにいる者は席をはずした。
そして、場所は並盛中学校に移り……。
「委員長っ!!」
応接室では、草壁が血相を変えて、雲雀を呼びながら勢いよく入ってきた。
「さわがしいね。何?」
それでも雲雀は、まったく顔色を変えることなく、目の前の仕事をしながら淡々と問う。
「実は……」
「だから何?」
「実は、真田の両親が、昨日事故で亡くなったと…」
草壁があわてて入ってきたのは、このことを伝えるためだった。
「…え…?」
雲雀はめずらしく固まってしまい、少し遅れて驚きの声を発した。
その後、魅真の笑顔が頭の中に浮かぶ。
それから授業が終わり、帰りのHRが始まる少し前…。
「今日、魅真ちゃん来なかったね。どうしたんだろう?」
「風邪じゃないっすか?」
「それだったら、朝出欠とった時に言うだろ。何も言ってなかったしな」
教室では、ツナ、獄寺、山本が、一度も休んだことのない魅真のことを話していた。
「でも…ただの風邪でも心配だよね。オレ、帰りにお見舞いに行こうかな…」
「あ、10代目が行くのなら、オレも行きます」
「オレも行くぜ」
風邪だと言われていないのに、すっかり魅真が風邪で休んでると思った三人は、帰りに魅真の家に行こうと決めていた。
その時、担任が教室に入っていたので、ツナや獄寺や山本をはじめ、席を離れている者は、あわてて自分の席につく。
「えー…。では、帰りのHRを始める前に、知らせることがある」
担任は教壇につくと、口を開く。
「実は急なことなんだが……真田のご両親が、昨日事故で亡くなられたそうだ」
突然のことに生徒達はざわつき、特にツナ、山本、獄寺、京子は驚きを隠せなかった。
同時に、何故魅真が今日休みだったのか、ようやく知ったのだった。
「静かにしなさい。それで、通夜は明日の夜7時から。告別式は…」
四人の中でも、特にツナはショックで、担任が言ってることが、とても遠くで聞こえるように感じていた。
魅真の両親が亡くなったという話は、雲雀と草壁以外の風紀委員達の耳にも入っていた。
「なあ、聞いたか?」
「聞いた聞いた」
「え、なんだよ?」
「姐さんのご両親が、亡くなられたという話だよ」
「えぇっ!?」
彼らは、普段ならそんなことは気にとめないだろうが、自分達のリーダーである雲雀の恋人のことなので、気にかけていた。
「でもそれだと……姐さん、一体どうなるんだろ?」
「何がだよ?」
「だってよ、親が両方とも亡くなったってことは、どっか親類に引き取られるんだろ?」
「あっ、そうか…」
「じゃあ、並中からいなくなるってことか?」
「ああ、転校って可能性はかなり高いな」
「ってことは、風紀委員も辞めるってことだよな」
「じゃあ……雲雀さんとは、一体どうなっちまうんだ?」
彼らが、魅真の両親のことを話題にしていたのは、それを心配してのことだった。
魅真は両親の遺体を確認してから、約一時間ほど泣き続けた。
けど、涙が止まっても放心状態だったので、代理で警官が通夜と告別式の手配をした。
魅真がまだ未成年だというのもあるが、近くに縁者がいないというのも大きかった。
それから魅真は、両親の遺体とともに家に戻ると、通夜に向けての支度を始めた。
両親のことは葬儀屋にまかせ、自分は母の部屋から、両親に向けて出された手紙やハガキの中から、友人知人を探しだし、一人一人に電話をかけていった。
そして、次の日の日が落ちる前…。
魅真は葬儀場へ向かった。
会場に着くと、葬儀屋のスタッフに軽くあいさつをし、参列者が来るまで一休みしていた。
そして、通夜が始まる30分前になると、ちらちらと人が集まり始めた。
ほとんどは、父の会社の上司や同僚、両親の友人だった。
参列者の中には、魅真の担任と、ツナ、獄寺、山本、京子、ハルもおり、意外にも、風紀委員の人間と、草壁や雲雀までいた。
特に雲雀に関しては、いろいろな意味で意外すぎたが、両親が死んで間もなく、まだ立ち直れてない魅真には、つっこむ気力すらなかった。
喪主というものは、故人の配偶者がなるので、本来なら魅真ということになるが、魅真はまだ未成年のために、父親の会社の上司が代理で勤めることとなった。
式は滞りなく進行され、一時間くらいで終了した。
魅真は喪主ではないが、故人の娘なので、出入口で、帰宅する参列者の見送りをしていた。
雲雀も帰ろうとした時、まだ残っておしゃべりをしている者のうわさ話を、偶然耳にする。
「そういえば……お二人の娘さんの…魅真ちゃん?あの子、どうするのかしらね」
それは、魅真に関する話だった。
雲雀はその話に耳を傾ける。
「なんでもあの子、縁者が誰もいないみたいで……だから、今日も誰もいないみたい…」
「それで、父親の上司が代わりに…」
「でも、それじゃああの子、引き取り手がいないんじゃないの?」
「そうみたいね。養子縁組を組むか、養護施設に入るか…」
「どちらにしても、あまりいい方向に進まなさそうね」
それは、あまりいい話ではなかった。
いつもなら雲雀は、そんなことはカケラも気にとめない。
けど、その話は、しばらく雲雀の頭の中から離れなかった。
次の日、朝の9時から告別式が開かれた。
その日は、ツナ達は学校があるため、参列していなかったが、雲雀だけは出席していた。
雲雀の姿をみつけた時、驚いたものの、声を出す気力もないほど、まだ生気がなかった。
そして、雲雀は雲雀で、昨日の通夜で聞いたことが、未だに忘れられずにいた。
告別式も滞りなく終わり、魅真は喪主の代理を務めてくれた父の上司と、葬儀屋の人達に礼を言うと、帰路についた。
家に着くと、魅真は冷蔵庫からお茶を出し、それを勢いよく飲むと、リビングのソファに力なく腰をかけ、しばらくそのまま放心していた。
放心したまま時間はすぎていき、魅真はいつの間にか眠ってしまい、気がついたら朝になっていた。
とりあえず、通夜も告別式も滞りなく終わったが、大変なのはこれからであった。
実は、魅真には親類はほとんどいないと言ってよかった。
両親はひとりっこなので、叔父や叔母もいなければ、当然いとこもいない。
そして、父方の方も母方の方も両親ともなくなってる。
祖父母には兄妹がいるが、亡くなっていたり、自分のとこの生活で手一杯だったりで、引き取り手はいなかった。
しかし、まだ未成年の魅真が一人で生きていけるわけもなく、どこかしかるべきところに引き取ってもらうしかないのである。
けど、魅真はそれが嫌で嫌で仕方なかった。
せっかく、ここでの生活にもなれ、友達と充実した毎日を送り、風紀委員の活動にもなれてきたので、並盛から離れたくないと思っているからだ。
何より、ツナや獄寺、山本、京子、ハルだけではなく、雲雀とも離れたくないと思っていた。
自分でも、何故雲雀が思い浮かんだのかはわからない。
だが、自分でも信じられないが、今一番離れたくないと思った人物は、ツナ達ではなく、あの雲雀なのであった。
魅真は両親の葬儀を終えたのだが、一週間経っても、まだ学校には出ていなかった。
それは、まだ精神的に回復していないというのもあるが、両親の死後のいろいろな手続きや、父の遺品整理を行うためであった。
そのことがわかってるので、ツナ達は、魅真が登校していなくとも、誰も何も言わなかった。
いつも通り、明るくふるまっていた。
でも……明るくしていても、どこかしんみりした空気になっていた。
それは、応接室でも同じだった…。
「委員長……」
「何?」
「あれから真田は、ずっと休んだままのようです」
「そうみたいだね…」
「真田は…これからどうなるんでしょうか?」
「さあね」
自分達ではどうしようもないことだが、それでも聞かずにはいられない草壁は、雲雀に聞いてみるが、そっけない返事が返ってくるだけだった。
「委員長、私は…」
「副委員長」
雲雀は草壁が何かを言う前に言葉を遮り、それ以上は言わせないようにした。
「はい」
「今は、一人でいたい気分なんだ。席をはずして。他の者も、ここには近づかないように言っといて」
「はっ!」
草壁は返事をすると、応接室から出ていった。
雲雀は草壁がいなくなると、ソファに力なくすわり、天井を仰ぎ見た。
天井を仰ぎ見ながら、雲雀は魅真のことを思い出していた。
魅真と初めて出会った時のこと。
その時の魅真が、自分を見て、明らかにおびえていたこと。
2学期が始まり、屋上で再会した時のこと。
魅真が初めて応接室に来た時のこと。
魅真が自分の家にあいさつに来た時のこと。
体育祭の時のこと。
魅真が風紀委員に入ることになった、あの出来事。
魅真が風紀委員に入った時のこと。
魅真がツナ達をかばい、自分に逆らった時のこと。
魅真が風紀委員を一度は辞めたが、また戻ってきた時のこと。
魅真が武器を持ち始め、特訓した時のこと。
自分が風邪をこじらせて入院した時、魅真がお見舞いに来た時のこと。
クリスマスの日に、魅真からプレゼントをもらったこと。
お正月に、意外にも魅真の着物姿に目をうばわれた時のこと。
その後、一緒に初詣でに行き、おみくじを引いた時のこと。
「私……最初は雲雀さんのこと、ものすごく苦手で、極力関わりたくなくて……。風紀委員に無理矢理入らされたのも、すごく嫌だったんですけど……。でも…今は雲雀さんのことが、そんなに苦手じゃないっていうか……風紀委員も嫌じゃないっていうか……。なんだか、だんだん私の生活の一部になってきて、楽しいって思えるようになってきたんです」
そして、この前のバレンタインの日に、魅真にチョコを渡されたことと、その後に言われたこと。
そんな、何気ない出来事を、すべて思い出していた。
何よりも、魅真の笑顔が、雲雀の頭の中を支配して動かなかった。
同時に、この前の通夜と告別式の時の、魅真の生気のない顔や、通夜が終わった後、見知らぬ女性が話していたことを思い出していた。
しばらくすると、雲雀は何かを決意したように顔をもとの位置に戻し、真剣な目で拳をにぎりしめた。
場所は魅真の家に戻る。
魅真は朝起きて、お茶を一杯飲んだ後、何も食べずにぼーっとしていた。
何もやる気が起きず、夕方までずっとこの調子だった。
その間、考えていたのはツナ達のこと。
両親とも死んでしまった以上、どこかの家にお世話になるか、養護施設に行くかのどちらかになる。
未成年で、まだ働けない自分が、一人で生きていくことなどできるわけないと、自分でもわかっていたのだ。
なので、引き取り先が決まり、いつここにいられなくなってもおかしくない。
そのことがわかっているので、魅真は不安で心が押しつぶされそうだった。
「いやだ…」
魅真はぽつりとつぶやくと、涙を流した。
「せっかく……初めて友達ができたのに…。みんないい人ばかりで、一緒にいるとすごく楽しいのに。ずっと一緒にいたいのに…。
転校したくない…。みんなと、もっと一緒に遊びたい。笑いあいたい。
ツナ君と……武君と……隼人君と……リボーン君と……京子ちゃんと……ハルちゃんと………離れたくない…!」
みんなのことを思い浮かべると、ますます悲しくなり、涙をたくさん流す。
「それに………」
ツナ達のことを頭に思い浮かべ、最後に思い浮かんだのは
「雲雀さんと……離れたくない…!!」
雲雀のことだった。
自分で思っている以上に、魅真の中で、雲雀がとても大きくなっていたのだ。
流れ出る涙は、ふいてもふいても、次から次へとあふれ出てきた。
その時、家のチャイムが鳴ったので、魅真は起き上がり、のそのそと歩き出す。
「雲雀さん!?」
モニターを見てみると、そこには雲雀が立っていたので、あわてて扉を開けた。
「雲雀さん!!」
その時、雲雀は驚いた。
勢いよく扉が開けられたからではなく、魅真の顔に、涙のあとをみつけたからだ。
「あの……どうしたんですか?」
「…君に……話があって来た」
「話…?…あっ……じゃあ、中に入ってください。お茶いれますから」
「うん」
魅真は雲雀を、笑顔で迎え入れた。
けどその笑顔は、無理して笑ってるのが丸わかりなので、雲雀は少し顔をしかめた。
魅真は雲雀をリビングに通すと、ソファにすわるように促して、自分は台所でお茶を淹れ始めた。
その間、雲雀はリビングを見回した。
そこには、もとからリビングに置いてあるものの他に、両親の遺影や、父親の単身赴任先からもってきた遺品が置いてあった。
「お待たせしました、雲雀さん」
そこへ魅真がやって来て、目の前のテーブルにお茶を置いた。
「今日は玉露だね」
「はい」
見ただけでお茶の種類を当てると、雲雀はお茶を飲み、一息ついた。
「ところで雲雀さん。話ってなんですか?」
雲雀が一息つくと、頃合いを見計らって、魅真が声をかけてきた。
「ああ、うん」
声をかけられると、雲雀はもっていた湯呑みをテーブルに置いて、魅真の方へ顔を向けた。
「君……これからの身のふり方は決まった?」
「え?あ…………それは……まだです……」
「そう……」
「あの……それが何か?」
雲雀には関係のないことなのに、何故こんなことを聞くのかわからなかった。
「どこにも行く当てがないのなら…………僕のところにきなよ」
「……え…?」
そして、次に雲雀の口から出た言葉に、耳を疑った。
「今日から君は、僕の家で生活しなよ」
再度言う雲雀に、魅真は驚きが隠せず、目を見開いて雲雀を凝視した。
「え……え…?な……なん…で…。それに……家の人は?」
「気にしないでいい。全然問題ないから」
「でも……」
いくら雲雀が強くても、まだ未成年なのに、そんなこと勝手に決められるのかと心配になる。
「勘違いしないでよ。君があの時のことをしゃべらないように、家でも見張るだけだから」
「雲雀さん……」
「それに、まだクリスマスの時の借りを返してないからね」
「ヒバ……」
「君には、卒業するまで風紀委員に在籍してもらうって言ったでしょ。約束は守ってもらわないと困る」
「…………」
決して善意ではないが、それでもうれしさで胸がいっぱいになり、魅真の目には再び涙があふれ出す。
けど、今度のは不安や悲しみの涙ではなく、うれしさからくる涙であった。
「だから…
!!」
雲雀が話している途中、魅真はうれしさのあまり雲雀に抱きついた。
そのことに、雲雀は驚いて目を丸くする。
「ちょっと…離しなよ。僕は、群れるのはきら…」
そこまで言ったところで、魅真が泣いてるのに気づき、引き離そうとするのをやめた。
「うあああああああっ」
引き離そうとする手が止まると、魅真は急に大声をあげて泣き続けた。
それは、親を失った悲しみ、寂しさや不安。両親を失ったことで、いつ並盛から離れなきゃいけなくなるかもしれないという心配、恐怖、ストレス。雲雀が来てくれた安心感、雲雀が自分の家に居候してもいいと言ってくれたうれしさや喜び。いろんなところからくるものだった。
緊張がとけた魅真は、しばらくの間、雲雀の胸の中で泣いていた。
10分ほど泣いて、ようやく落ちついた魅真は、だいぶ冷めてしまったお茶を再び淹れなおし、雲雀に出した。
「あの……すみませんでした。その……シャツ……そんな風に汚してしまって…」
「まったくだよ。すごいぬれちゃったじゃないか」
「うぅ…」
痛いところをつかれたので、何も言えなくなってしまう。
「あの……でも……本当に感謝してます。縁者でない私を引き取ってくださって」
「当然でしょ」
相変わらずツンケンした態度で答える雲雀。
けど、それでも魅真は頬をゆるませる。
「本当に……ありがとうございます…。雲雀さん」
そして、たくさんの花が咲いたような笑顔でお礼を言った。
雲雀はその笑顔を凝視し、固まってしまう。
こうして、魅真はなんとか並盛を離れずにすんだのだった。
この日から、魅真の雲雀家での居候生活がスタートした。
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