標的16 願い事
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クリスマスから数日後。この日は、一年の最後の日である大晦日だった。
魅真の家では大掃除をやっており、魅真は今、足りなくなった道具の買い出しに行って、そこから家に帰る途中だった。
「おお、真田。ちょうどいいところで会った」
「草壁さん」
その帰り道で、草壁と会った。
「今から、真田の家に行こうとしていたんだ」
「私の家に?一体なんの用ですか?」
「ああ。実はな、1月4日なんだが、予定をあけておいてくれないか?」
「何故ですか?」
草壁が言うので、きっとまた風紀委員に関係することだろうと思ったのだが、まだ冬休みの真っ最中で、休み明けまでは特に委員会の活動もないというのに、何故予定をあけなければいけないのかふしぎに思い、魅真は疑問符を浮かべる。
「休みに入る時に言い忘れていたのだが、1月4日は、委員長の家に新年のあいさつに行くことになっているのだ」
「雲雀さんの家に!?」
「ああ、毎年恒例の年間行事なんだ。急で悪いが、その日は頼んだぞ」
「は、はい」
魅真が返事をすると、草壁は集合場所と集合時間を伝えて、そこから去っていった。
「(恒例行事か…。ていうか、学校の委員会でのあいさつが恒例行事って何?どんだけ権力にぎってんのよ…。それに、1月4日って…もうあと2日休んだら新学期じゃない。新年のあいさつならその時でいいじゃないの。なんでそんな……三が日も過ぎた、中途半端な時に?)」
かなり疑問ではあったが、なんだかんだ言ってもこういうのには慣れてきたので、特に逆らうこともなかった。
標的16 願い事
「ただいまー」
それから10分ほどして、魅真は家に着いた。
「おかえり、魅真」
「ただいま、お母さん。はい、これ。頼まれたやつ」
「ありがとう。助かったわ」
家の中に入ると、雪乃が出迎えた。
雪乃がやって来ると、魅真は買ってきたものを雪乃に渡し、くつをぬいで家にあがる。
「そうだ、お母さん」
「なに?」
「私、1月4日は朝から出かけるから」
「え…どこに行くの?」
「雲雀さんの家。実は…」
魅真は、先程草壁に伝えられた予定を簡単に説明しようとする。
「あらまあ!新年が明けてからの、一番最初のデートね!」
「え…?」
けど、まだ何も説明していないのに、雪乃は雲雀の名前が出ただけで目をきらきらと輝かせ、何やら勘違いをしていた。
「あ、あの……お母さん」
「お正月のデートなんだし、その日はばっちり着物で決めなくちゃね」
勘違いしたまま、何故か当人ではなく自分の方がはりきっていて、見るからに心がはずんでいる。
そんな母を見た魅真は、もう説明する気力を失った。
そして、きたる1月4日。
「さっ、これでいいわ。ま~~かわいい!」
魅真はいつもよりも早めに起こされて、雪乃に着物を着せられていた。
赤い布地の毬と桜の花があしらわれた着物に、後頭部の真ん中あたりでひとつにまとめた髪のまわりには、大きさが様々な、淡い桃色の桜、薄紅色の桜、白色の桜の花がいくつもかたまった大きめの髪飾りをつけていた。
しかも、薄く化粧までされている。
「ねえ……お母さん…。本当に、この格好で行くの?」
「あたり前じゃないの。さ、雲雀くん待ってるわよ」
うきうきしながら、早く行けと言うように、あまり気がのらない魅真の背中をぐいぐいと押していく。
もう、絶対着物で行くしかないこの状況に、魅真は仕方なしにこのまま出かけていった。
集合場所は並盛中学校の前で、魅真が来た時には、すでに全員集まっていた。
「うおおお!姐さん、すごいキレイです!」
「とてもお似合いです、姐さん」
「そ、そう…?」
魅真は集合場所に着くなり、着物姿を絶賛された。
あまり乗り気ではなかったが、ほめられて悪い気はしないので、照れながらも軽く笑顔になっていた。
「これで、雲雀さんもほれ直しますね」
「オレらがいなくなった後、このままデートってのもありっすね」
「えっ!?」
母親と似たようなことを言われて、思わず声をあげたが、反論しても無駄だとわかっているため、それ以上何か言うことはなかった。
それから一同は、魅真が来たことで全員集まったので、全員で雲雀の家に向かっていった。
15分ほど歩いていくと雲雀の家に着き、全員、家の中ではなく庭に通された。
縁側には、袴をはいた雲雀が立っており、庭にずらっと並んだ彼らを見下ろしている。
「委員長。新年明けまして…おめでとうございます」
「「「「「おめでとうございます」」」」」
「うん」
まず、先導するように副委員長の草壁があいさつすると、最後に他の委員が全員で口をそろえてあいさつをした。
丁寧に、盛大にあいさつをされたというのに、雲雀はそっけない態度でうなずくだけだった。
「じゃあ、さっそく初詣に行くよ」
「(初詣?雲雀さんが!?なんか…すっごい違和感感じるんだけど…。ていうか似合わない…。想像できない…)」
群れるのが大嫌いな雲雀が、人がたくさん集まる場所に行くということと、いつも咬み殺すと暴れまわってる雲雀が神仏にお参りする姿が、魅真にはどうしても想像できなかった。
「ん?」
一方で、縁側から玄関に移動しようとした雲雀は、あることに気がつき、魅真の方を見た。
「真田魅真」
「へ?は、はい…」
「君も、今日は着物なんだね」
「は、はい。母が、せっかくだから着ていけと言ったものですから」
「ふーん。そう……」
黒い瞳を細め、ジッ…とみつめると、魅真は少しドキッとした。
「まあ、似合ってるんじゃないの」
「え…」
めずらしくほめる雲雀に、魅真は何か悪いものでも食べたのかと思いつつも、顔を赤くし、更にドキッとする。
「貧弱な体型には、着物が一番だよ」
「(やっぱり雲雀さんが、素直にほめるわけなかった…)」
けど、それもつかの間、手の平を返すようにけなされたので、魅真はがっくりとした。
しかし風紀委員達は、それすら(憎まれ口)も、雲雀の魅真に対する愛なのだと、信じて疑わなかった。
それから一行は、並盛神社にやって来た。
もちろん、群れるのが嫌いな雲雀のために、貸し切りである。
神社に着くと、お参りに行ったのは、雲雀と魅真と草壁だけであった。
群れるのが嫌いな雲雀のために、なるべく少人数で…というのもあるのだが、事情を知らない一般人が、間違って入ってこないために見張りについたからである。(もちろん、一般人を入れてしまったら、自分達が咬み殺されるから…というのもあるが)
そういった意味で、雲雀とともにお参りに行ったのは、副委員長の草壁と、恋人(だと周りに思いこまれている)の魅真だけだった。
けど、その草壁も、境内にあがりきる手前のところ(階段の途中)で止まり、最終的な見張りとしてそこに立ちはだかり、実際に神社でお参りしたのは、雲雀の他には魅真だけだった。
雲雀と二人きりというシチュエーションは、今までにも何度かあったが、そのほとんどは、雲雀におびえている時だった。
けど、今の魅真にはそれがなかった。
今は、ただただ緊張していた。
それは、以前雲雀にびくびくおどおどしていた時に感じた緊張感ではなく、また別のもので、今はびくびくおどおどもしておらず、逆に平気な様子だった。
不良が大の苦手な魅真にはめずらしいことなのだが、雲雀に対して、そういう感情が段々となくなっているのだ。
もちろん、風紀委員に入ってから(入れられてから)もうだいぶ経つからなれてきた…というのもあるが、そうではなかった。
今の魅真は、いつもと違う格好をした雲雀を、時折ちらちらと見ながら、頬をほのかに赤くそめていた。
「…何?」
もちろん、魅真の視線に雲雀が気がつかないわけがなく、さすがに何度も見られて気になったのと、群れるのが嫌い(こっちが一番の理由)だというのもあり、雲雀は若干いつもよりも低めの声で魅真に問いだした。
「え!?いえ……あの………な、なんでも…ないです…」
「なんでもって……あれだけ何度も見てきて、なんでもないってことはないだろう」
もっともな意見に、魅真は何も言えなくなってしまう。
はっきりとした理由は、実は自分自身でもわからなかったからだ。
ただ、なんとなく気になったから見た…とは言えなかった。
「あの………そうなんですけど……その……」
「ひょっとして、何かほしいわけ?甘酒くらいならもらえるんじゃないの?」
「違います!」
「じゃあ…何…?」
「う……」
更につっこまれると、魅真は、「何かほしいわけ?」と言われた時に、そうですと肯定しておけばよかったと後悔した。
「……あ、あの……雲雀さんが、いつもと違う格好なので、ちょっと気になっただけです」
「ふーん。そう」
雲雀にジッと見られた魅真は観念して、微妙に違うが、雲雀を見ていた理由を話す。
理由を聞いた雲雀は、相変わらずそっけなく返し、境内まで先に歩いていった。
どこまでもマイペースだった。
魅真はいつもよりおぼつかない足どりで、雲雀のもとへ歩いていく。
そして、境内の前まで来ると、二人はお参りをすませた。
「あ、雲雀さん。おみくじですよ。一緒に引きましょう」
お参りをすませると、近くの授与所でおみくじを売っているのを見た魅真は、授与所を指さして、うきうきしながら雲雀を誘った。
「おみくじ?僕はいいよ」
「なんでですか?」
「占いなんかで、運勢を左右されちゃたまらないからね」
「運勢を左右って……そんな大げさな…」
おみくじを引かない理由を聞くと、魅真は苦笑いを浮かべた。
「雲雀さん、そんなにかたいこと言わずに。運だめしですよ、ただの」
「運勢を左右されたりしませんって」と言いながら、雲雀の腕をつかんでひっぱっていき、授与所まで行くと、二人はおみくじを引いた。
「あ!大吉。やったあ!」
小さく折りたたまれた紙を広げてみると、上の方に、大きめの字で「大吉」と書いてあったので、魅真は喜んだ。
「雲雀さん、雲雀さんはなんでしたか?」
「…僕も大吉」
「そうですか。よかったですね、雲雀さん」
「別に……」
偶然にも、雲雀も魅真と同じように大吉を引いたのだが、雲雀はどこか冷めていた。
「ところで雲雀さん、さっきどんなお願いをしたんですか?私は、みんなと元気で仲良く過ごせませようにってお願いしました」
あの雲雀が、お参りでどんなことを願ったか気になった魅真は、唐突ではあるが、雲雀に聞いてみた。
「「並盛安全」だよ」
「へ?」
聞きなれない言葉に、魅真は目を丸くした。
「あの…それって、「家内安全」とかじゃなくてですか?」
「違うよ」
「それって…どういう意味なんですか?」
「並盛が平穏無事であるように…という意味だよ」
「そ、そうですか……」
意味を知った魅真は、並盛には雲雀さんがいるから、一生平穏無事になることはないのでは?と思ったが、空気を乱したくないし、それを言う勇気もないし、言ったら確実に雲雀に咬み殺されるので、黙っておくことにした。
「と、とりあえず、お参りもすみましたし、下に戻りませんか」
「そうだね」
それ以上、なんと続けていいかわからなくなった魅真は、強制的に今の話を切り上げて、みんながいるところに戻ろうと提案する。
意外にもあっさりと、雲雀はそれを受け入れてくれたので、魅真はほっとしていた。
「ねえ」
「はい」
けど、戻ろうとした時、急に雲雀が声をかけてきたので、魅真は立ち止まり、雲雀の方へ顔を向けた。
「さっきのことだけど」
「さっきのこと?」
「その着物のこと…」
「それは、もうさっき聞きましたよ」
もう、それ以上は何も聞きたくないというように、魅真は先に歩きだした。
「確かにさっきは、貧弱な体型には、着物が一番とは言ったけど……それは本当だけど………でも、似合ってると思ったのも本当だよ」
「いや、もういいですって」
結局ほめておらず、傷口を広げるような言い方をする雲雀に、苦笑いを浮かべながら、前を向いたまま答える。
「本当だよ。本当に似合ってると思った」
けど、雲雀のどこか真剣な声に、魅真は足を止め、後ろへ振り向いた。
もしかしたら、本当に本当なのかもしれないという、期待の意味もこめて。
「普段は地味な格好をしてるから、その赤いハデめの着物を着ているのを見た時、一瞬驚いたんだ。でも、意外に赤い色があってるかもね。鮮血みたいでさ」
だが、いつも通り、あっさりと期待を打ち破る雲雀であった。
「いつもと違う姿をしてるから……目を見張ったよ」
けど、次にそのことを言われると、魅真はドキっとした。
そして、それがうれしいと感じた魅真は、頬をほのかにそめて、口角をあげて笑顔を返す。
そんな魅真を、雲雀はジッと見た。
けど、それもほんの少しのことで、すぐに足を進め、階段を降りていく。
「待ってください、雲雀さん!」
雲雀が階段を降りていくのを見ると、魅真も雲雀の後を追いかけて、階段を降りていく。
二人の目の前には太陽があり、太陽の明るい光が、二人の姿を照らしていた。
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