標的11 風紀委員、再び
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その日、魅真はツナ達と一緒に帰っていた。
「はあ…」
校門を出て、学校から離れると、魅真は突然ため息をつく。
「突然どうしたの?」
そのことにいち早く反応したツナは、魅真に問う。
「ちょっとね…。なんか、ますます女の子の友達ができなくなっちゃったな…って思ってね」
「お前、あんなのと友達になりたいのかよ?」
今の、魅真に対する、学校中の生徒達の態度や噂を知っているので、獄寺は呆れたように聞いた。
「あんなのは遠慮したいけどね。でも、やっぱりほしいのよ、女の子の友達。
あ、誤解しないでね。ツナ君達とお友達になれたのはうれしいし、なれてよかったと思ってるわ。でもやっぱり、女の子同士でしか話せないこともあるしね。それに、男の子の友達と女の子の友達は別だし」
「ははっ。ま、焦らなくてもいいじゃねーか。自然に身をまかせておけば、そのうちいつかできるって」
「うん…!」
山本にはげまされると、魅真は笑顔でうなずいた。
標的11 風紀委員、再び
魅真が風紀委員を辞めて、2週間が経った。
雲雀は、表面上はいつもと変わらないが、明らかに機嫌が悪かった。
その、体からあふれ出る異様なオーラに、風紀委員達は近寄ることができなかった。
「…い………委員長…。委員会の……報告書です」
「そこ置いといて」
副委員長の草壁も、表面上は平静を装っているのだが、内心は雲雀にびびっていた。
しかし、仕事に支障をきたすようなことがあると、それはそれで怖いので、勇気をふりしぼって、書類を渡すために声をかけてみるが、不機嫌なオーラは全開だった。
雲雀は一瞥をくれることなく、下を向いて仕事をしながら、前にある接待用の机を指さした。
「…あの……委員長…」
「何?」
「いえ……あの……」
「はっきり言いなよ」
再び雲雀に声をかけるが、歯切れが悪く、何やら言いにくそうにしていた。
煮えきらない態度にいらついたのか、雲雀は眼力だけでねじふせるような、鋭い目で草壁を睨む。
「この机ですが、すでにたくさんの書類が置いてあるので、自分が持ってる書類を置けないのですが…」
「それならさっさと言いなよ」
さらっと返す雲雀に、なかなかそのことが言えなかったのは、雲雀が明らかに不機嫌だったからだとは、草壁は口がさけても言えなかった。
「大体、なんでこんなすぐに、書類がたまるのさ?それに、いつもよりも部屋が汚いよ。整理整頓と掃除はどうしたんだい?」
「それは、今までは真田が片づけていてくれたからかと…。今は…もういないので」
草壁がそう答えると、雲雀は先程よりも、草壁を強く睨みつけた。
その眼力でびびってしまった草壁は、その場で固まってしまう。
「僕は、すぐに言い訳をするような、無能な奴を入れた覚えはないよ。口ごたえをしてる暇があるんなら、さっさと片づけなよ」
「はっ!今すぐに!」
脅しともとれる雲雀の命令に、草壁は勢いよく返事をすると、片づけにとりかかった。
その様子を見ると、雲雀は再び顔を下に向け、自分の仕事を再開した。
そんな雲雀の仕事机の隣には、魅真が以前に、雲雀に返した魅真専用の風紀委員の制服が入った袋が置いてあった。
その頃裏庭では、雲雀と草壁以外の風紀委員達が、雲雀のことを話していた。
「委員長の機嫌が悪いのって、やっぱり魅真さんがいなくなったからかな?」
「いや…委員長はいつもあんな感じだろ?」
「でも……なんか、明らかにいつもよりも不機嫌だったぜ。副委員長も、相当緊張していたしな」
彼らは、雲雀が不機嫌なのは、魅真が辞めたのが原因だと思っていたが、実はそうではなく、魅真が、辞める時雲雀に逆らったのが原因なのだが、そのようなことは知る由もないので、色々と好きに言っていた。
「魅真ちゃん、次は移動教室だよ。一緒に行こう」
「うん」
一方で魅真は、次の授業が移動教室なので、ツナに誘われたのもあり、必要な教科書等を持って、獄寺や山本とも一緒に教室から出て、目的の教室へと歩を進めた。
「真田…話があるんだが……ちょっといいか」
廊下に出ると、扉の側には草壁が立っていた。
魅真は特に驚くこともなく冷静で、三人に一言断りを入れると、無言で草壁の後に着いて行った。
二人はツナ達から離れると、人気のない階段の踊り場に来た。
「話ってなんですか?草壁さん」
足を止めると、魅真は話を切り出した。
「単刀直入に言うが……真田…風紀委員に戻ってくる気はないか?」
草壁の口からその言葉が出てくると、魅真は眉間にしわをよせ、顔をしかめた。
「私は…風紀委員に戻る気はありません」
そして、いっさい考える素振りすら見せず、魅真はきっぱりはっきりと言い放った。
「真田……今風紀委員は、なかなか仕事が進んでいないんだ。それは、真田が今までやっていた仕事がたまってしまっているからだ。
それに委員長は、真田が辞めてしまって、よりいっそう機嫌が悪くなっている」
「……そんなわけないわ。だって私、無理矢理風紀委員に入らされたんだもの。望まれて入ったわけじゃないから…。
それに、私の仕事は雑用だけだったから、別に私がいなくても、誰だってできるじゃないですか…」
「だが実際に、真田がいないことで仕事がはかどらず、困っているんだ」
そう言われると、魅真は少しだけ心が揺れ動いた。
「でも、私は進んで風紀委員に入ったわけじゃありません。それに、友達を傷つけた雲雀さんを、許すわけにはいきませんから。
だから、私は絶対に風紀委員に戻りません!」
自分の意志を強く示すと、魅真は草壁に断りをいれずに、次の授業が行われる教室へ向かって行った。
「(そう………二度と風紀委員には戻らないわ。あんな、雲雀さんみたいな、自分勝手でワガママで、自分の思い通りにならないと、すぐに口より手が先に出るような、暴君のような人がいるところには…)」
今は授業中だが、魅真はまだ先程のことを、心の中で考えていた。
「(そうよ。大体、雲雀さんのせいで、私の人生が壊されたのよ。わけのわからない理由で、無理矢理入らされたんだし…。私が戻る理由なんて、これっぽっちもないわ!例え、草壁さんの頼みだとしても、絶対に戻るもんですか!)」
そして、他の誰に言うでもなく、心の中で、再びそのことを決意していた。
「ねえ、魅真ちゃん」
魅真が考えごとをしていると、突然隣にすわっているツナが声をかけてきた。
「え…。何?ツナ君」
「今日さ、オレん家に遊びに来ない?」
今は授業中だが、ツナは突然魅真に、小さな声で誘ってきた。
「ツナ君の家に?」
「うん。母さんに、魅真ちゃんのことを話したら、ぜひ会ってみたいって言ってたからさ。どう?今日、予定大丈夫?」
「もちろん大丈夫よ。じゃあ、家に帰って、着替えてから、ツナ君の家に行くわね」
「うん。それじゃあ、待ってるね」
魅真は、前回はいろいろあって、ツナの家に行くことができなかったので、前回のリベンジといった感じで、二つ返事で了承した。
魅真が返事をすると、二人はお互いに笑顔になった。
その頃、応接室では…。
「委員長…」
「………………何…?」
草壁が戻ってきて、雲雀に話しかけるが、雲雀は未だに不機嫌なままだった。
「先程、真田に会ってきて、話をしてきたのですが…」
先程までは、ただ機嫌が悪いだけで、眉間にしわを寄せていただけだったが、魅真の名前が出てきた途端に目がピクリと動き、草壁を睨みつけた。
「だから……それがなんだって言うんだい…」
そのことで草壁は畏縮し、たじろいでしまう。
「たかがそんなことを言うために、わざわざ声をかけたのかい?」
「え?ま……まあ…」
「不愉快だよ」
そう言うとその場を立ち上がり、扉がある方へ歩いていく。
「あの……委員長、どちらへ?」
「屋上だよ」
そして雲雀は、仕事をやめて屋上に昼寝をしに行った。
それから、あっという間に放課後となった。
魅真は、これからツナの家に行けるということで、すごくうきうきしていた。
一秒でも早く帰って、一秒でも早くツナの家に行きたい魅真は、早々と教室を出て行き、靴にはき変えて、昇降口を出ようとした。
「(あ!)」
その時魅真は、ある人物を発見して、目を輝かせた。
「(あそこにいるの、ツナ君だ!)」
目の前にいたのはツナだった。
「ツナく…」
魅真が今いるのは昇降口の前だが、ツナがいるのは校門の近くだったので、魅真はツナのもとへ行こうと走り出した。
けど、その途中で足を止める。
「(あ……あれって……あの時の人達!?)」
ツナのもとへ駆け寄ろうとしたまさにその時、魅真が風紀委員に入るきっかけになった三人の不良の男子生徒達が、ツナに近づき、嫌がるツナを、無理矢理どこかへ連れていったのだ。
周りにいた生徒達は、自分は関わりたくない、自分は関係ないとばかりに見知らぬふりをしていたが、それを見た魅真は、ただ一人、ツナ達の後を追って行く。
数分歩いていくと、校舎裏に着いた。
そこには、ツナと先程の不良達がいて、魅真はその様子を、自分の胸の高さくらいの背の低い木に隠れて見ていた。
見るからに因縁をつけられており、ツナは困りはてておろおろしていた。
「(どどど、どうしよう。だ…誰か…!)」
それを見ていた魅真も、ツナとは違う意味でおろおろしている。
「(そ、そうだ!隼人君か武君を…)」
山本か、ツナの番犬ともいえる獄寺ならなんとかしてくれると思い、どちらかを呼びに行こうとした。
「うわぁあ!」
その時、ツナの悲鳴が聞こえてきたので、魅真はツナの方へ顔を向けた。
「(ツナ君!)」
目を向けると、そこでは不良の一人がツナの胸ぐらをつかんでおり、それを見た魅真は、近くに誰かいないか探しに行こうとする。
「!」
だけど、すぐにその思いはなくなり、足を止めた。
「(そうだわ…。私が……ツナ君達を守るって決めたじゃない!)」
魅真が途中で足を止めたのは、あの時の決意を思い出したからだった。
「ま……待ちなさい!」
魅真は、その決意を行動に表し、体が震えながらも前に出た。
「み、魅真ちゃん!?」
「ん?」
魅真が現れると、そこにいた者達は、いっせいに魅真に注目した。
「あっ!!テメェ、この前の転校生女じゃねえか」
「テメェ…この前はよくもやってくれたな」
「へ?」
彼らの言っている意味がわからず、魅真は疑問符を浮かべる。
「この前テメェと一緒にいたせいで、ヒバリさんに目ぇつけられて、咬み殺されちまったじゃねぇか!!どうしてくれんだ!!」
「えぇええええっ!?」
明らかに彼ら自身の責任だというのに、逆恨みされたので、魅真は絶叫した。
「あの……それは、あなた達が、私を無理矢理に連れて行かなければよかったのでは?」
本当は、あの事件で被害を被ったのは自分も同じなのだが、それは表に表さず、控え目に意見した。
「うるせえ!とにかく、お前のせいったらせいなんだよ!」
「(なんて理不尽な…)」
正論とも言える魅真の意見に、彼らもそれがわかってるのか、一瞬言葉がつまったが、それを誤魔化すように大声で怒鳴った。
明らかに逆ギレなのだが、魅真の性格上、強く返すことができなかった。
「こうなったら、今度こそ付き合ってもらわねえと、気がすまねえな」
「ええ!?」
今度は自分に白羽の矢が立ち、以前と同じような展開になってしまったので、魅真は顔を青くする。
自分が来たことで、ツナから注意をそらすことはできたが、助けることができず、それどころか足手まといになってしまったので、魅真は逃げようとした。
「きゃあっ!」
しかし、あっさりと腕を捕まれてしまい、逃げることは敵わなかった。
ツナを助けに来たのに、逆に自分が助けを求める立場になってしまい、魅真は自分のふがいなさに泣きそうになった。
「魅真ちゃん!」
ツナは、注意が自分からそれたので自由になったが、今度は魅真がからまれてしまったので、助けようとした。
「ぎゃっ」
だが、あっさりと返りうちにあってしまう。
「ツナ君!」
「ハッ、弱者がいきがってんじゃねえよ」
ツナを一発で叩きのめしてしまったので、彼は強気に出る。
「さあ、もう邪魔者はいなくなったぜ。オレ達に付き合ってもらおうか」
今の彼の行動と、三人に下卑た目で見られ、怖い顔で見下ろされてるので、魅真は目尻に涙を浮かべる。
「(なんて情けないの!助けに来たつもりが、かえって足手まといになってるなんて…!)」
それだけでなく、足まで震える始末だった。
「(強くなりたい!ツナ君を助けたい!ツナ君達を守れる力がほしい!!)」
目をつむって切実に願うが、そう思っても、現状がどうにかなるわけではないので、それがわかっている魅真は、余計悔しそうに歯を噛みしめた。
「ねえ……」
その時、不良達の後ろから、まったく別の男の声が聞こえてきた。
「あ?
ぐおっ」
魅真の手をつかんでいた男は、その声に反応して後ろに振り返ると同時に、頭に衝撃を感じ、魅真の手を離した。
手を離された魅真は、声がした方へ目を向けると、そこには雲雀が立っていた。
「雲雀さん…!」
魅真が雲雀の名前を呼ぶが、雲雀はそんなものは聞こえていないかのように、トンファーを構えて男の方へ顔を向ける。
「ぎゃあああ」
そして、トンファーで顔にもう一撃入れて殴りとばした。
男はその衝撃で後ろへふっとんでいき、校舎に体を打ちつけた。
「ひっ」
それを見ていた他の不良達は、雲雀が現れたというのもあるが、一瞬で仲間がやられてしまったので、短く悲鳴をあげた。
「う…うわぁあああ!!」
「逃げろーーー!!」
そして、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
「逃がさないよ」
しかし、雲雀がそれを見逃すはずはなく、一瞬で追いつき、残りの二人もあっという間に咬み殺した。
今の光景をずっと見てた魅真は、目を見開き、口をあけ、言葉を失った。
今までにも、雲雀が戦ってる姿は見たことあるが、自分がどうにもできなかった彼らを、一瞬でやっつけたからだ。
雲雀は彼らを倒すと、もう用はなくなったというように、そこから立ち去ろうとした。
「あ、あの…」
けど、そこへ魅真が声をかけたので、雲雀は背中を向けたまま、そこで立ち止まった。
「あの……雲雀さん…。助けてくれて……どうもありが…」
「別に君を助けたわけじゃない」
「え…?」
「風紀を乱してる奴を、咬み殺しただけだよ」
雲雀はそう言うと、今度こそそこから去っていく。
魅真はそんな雲雀を、無言のままずっと見つめていた。
「(雲雀さんて、不思議な人…。群れるなって怒ったり、かと思ったら、今度は助けたり…。
それに雲雀さんって、やっぱり強い。なんで独りを好んでるのに、あんなに強いんだろう?
私も…雲雀さんみたいに強くなりたい!)」
見つめながら、魅真はそのことを強く願った。
そして次の日…。
雲雀はいつも通り登校すると、応接室へ向かった。(というより、応接室にしか用がない)
「!」
応接室につき、扉を開けて、その中にいる人物を見ると、驚きのあまり目を大きく見開いた。
「おはようございます、雲雀さん」
それは魅真だった。
「………なんで……君がここにいるの?」
自ら風紀委員を辞めると、雲雀に面と向かって言ったはずなのに、何故か風紀委員の活動の場である応接室にいたので、雲雀が疑問に思うのは無理もないことだった。
「私、雲雀さんに興味がわきました」
「興味?」
「はいっ。私、雲雀さんの強さに惹かれたんです」
「どういうこと?」
「雲雀さんって、独りを好んでいるのに、すごく強いじゃないですか。
あの時の、どんな相手にも臆することなく立ち向かっていく姿に惹かれました。
私も、雲雀さんみたいに強くなりたいんです」
「それで、戻ってきたってわけ?突然やめて、突然戻ってきて…。ずいぶんと勝手だね…」
雲雀が言うことはもっともだった。
雲雀は呆れながらため息をつくと、いつも自分が使ってる執務机がある方へ歩いていき、机の下に置いてある紙袋を取ると、魅真の方へ歩いていく。
そして、魅真の前まで来ると、無言で、紙袋を魅真の前に出した。
「これは?」
問うてみても、雲雀は何も答えず、渡すとまた執務机へ戻っていった。
そんな雲雀の姿を見ると、雲雀は何も答えてくれないだろうということがわかった魅真は、紙袋の中身を取り出した。
「!
これって……」
それは、以前魅真が雲雀に返した、風紀委員専用の制服と腕章だった。
雲雀は、魅真に返された制服と腕章を、ずっと机の下に置いていたのだった。
「雲雀さん…。この制服って…」
「何やってんの?早く着替えなよ」
「…はいっ」
ずっとしゃべらなかった雲雀が口を開くと、魅真はうれしそうな顔で返事をした。
「(どんな相手にも、臆すことなく立ち向かっていける勇気。この人の近くにいれば、それがわかるかもしれない!
だから、ツナ君達を守れるくらい強くなるために、ここでそれを見極めてみせるわ。
この人の隣で…!)」
こうして魅真は、再び風紀委員に戻って来た。
ある意味で、ここからが本当の、風紀委員としての活動の始まりだった。
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