標的10 決意
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その日の朝、魅真の教室は騒然としていた。
それは、前日、ツナと獄寺と山本が雲雀に咬み殺されたことと、その原因が魅真にあるのだという噂が、あっという間に広まったためであった。
ガラッ
「「「「「!!」」」」」
クラス中で噂をしてると、突然扉が開いた。
そこに立っていたのは、噂の中心となってる魅真で、魅真が来た途端に、今までさわがしかった教室は、一瞬で静まり返った。
「来たわ、真田魅真よ」
「あの子が、山本君と獄寺君を…」
「許せないわ」
「やっぱり、不良なんかに関わると、ロクなことないのね」
「そのせいで、三人学校休んだんでしょ」
「オレも関わりたくねーなー。雲雀さんに、咬み殺されたくないし」
「なんで、ダメツナも山本も獄寺も、あんな奴と友達やってんだろうな」
魅真が来たことで、一旦話をやめたが、また、静寂を破るように、聞こえよがしに噂話を始める。
本人がいる上、真実を知らないのに好き勝手言うその姿は、雲雀が嫌いな群れを成していた。
特に、獄寺と山本には女の子のファンがいるため、女子連中は、嫉妬しているのもあるのだろう…。彼女達の眼差しが、よりいっそう冷ややかなもので、口調も荒々しく、とげがあるしゃべり方だった。
三人を直接やったのは雲雀なのに、やはり雲雀の悪口を言うと、誰がどこで聞いてるかわからず、咬み殺される可能性があり、それが恐ろしいので、魅真にすべての矛先が向いたのだ。
しかし魅真は、クラス中から非難をされてるにも関わらず、まったく気にせず、1時間目の授業の準備をしていた。
そして、そんな魅真を、少し離れた席にすわっている京子が、心配そうに見ていた。
標的10 決意
魅真の悪い噂話は、教室だけにとどまらなかった。
「あの子が真田魅真よ」
「ああ、雲雀さんの彼女だっていう?」
「そう!あの不良よ」
「あの女せいで、獄寺君と山本君と、ついでにダメツナもやられたんだって」
「獄寺君も山本君もかわいそう…」
「なんでも、雲雀さんと一緒に、1-Aのダメツナと獄寺と山本をボコボコにしたとか…」
「私は、雲雀さんと付き合ってるのに、その1-Aのダメツナと、獄寺君と山本君とも付き合ってる、とんでもないアバズレで、その関係が雲雀さんにバレて、雲雀さんが三人に制裁を加えたって聞いたわ」
「オレは、その三人と一緒に、雲雀さんに立ち向かおうとしたけど、途中で裏切って、三人を倒したって聞いたぜ」
この噂は全校に広まっているので、廊下を歩いてても、噂話が聞こえてきた。
というより、彼らは魅真が通ると、わざとその噂を、大きめの声で話していた。
しかも教室とは若干違い、話が盛られていた。
しかし魅真は、ここに来るまでに、後ろ指をさされてたからというのもあるが、以前にも、何度かそういうことがあったのと、今はそんなことはどうでもいいので、大して気にしていなかった。
そんなことよりも、ケガをして学校を休んだツナ達のことが、気がかりで仕方ないのである。
そんな風に時間が過ぎていき、放課後となり、魅真は早々に帰ろうとした。
「真田」
そこへ、後ろから魅真に声をかける者がいた。
「はい。あ……草壁さん…」
それは、風紀副委員長の草壁だった。
「ちょっといいか?話があるんだが…」
そう言った草壁の顔は真剣そのもので、魅真はできれば風紀委員そのものに関わりたくはないのだが、まだ雲雀ではないので、草壁の真剣な表情に負けたというのもあり、草壁の後に着いていった。
魅真は草壁に連れられ、校舎裏に来た。
「それで草壁さん、話ってなんでしょうか?」
風紀委員は辞めたはずなのに、何故、副委員長の草壁が声をかけてくるのか疑問だった。
「実は、風紀委員のことだが……」
風紀委員という単語が、草壁の口から出ただけで、魅真は過剰に反応した。
「真田、お前は何故風紀委員を…」
「…雲雀さんから聞いてませんか?」
草壁が話している途中だったが、話を遮って、静かに口を開いた。
「私……風紀委員は辞めたんですよ」
「……知っている…」
「じゃあ、何故……」
「真田が突然抜けたから、みんな騒然としている…。
何故辞めたんだ?」
「…………雲雀さんが……私の大切な友達を……傷つけたから…」
魅真の口から出た言葉に、草壁は驚く。
風紀委員に所属していて、群れていたにも関わらず、魅真自身は咬み殺されず、ずっと無事だったからだ。
「草壁さん…。話って、それだけですか?」
「ん?ああ……」
「じゃあ私、もう行ってもいいですか?」
「あ、ああ…」
魅真が、あまり風紀委員の話をしたくないと察した草壁は、それ以上は何も追究せず、そのまま魅真の後ろ姿を見送った。
「聞いたか?雲雀さんの女の真田魅真が、突然風紀委員を辞めたらしいぞ」
「ああ、知ってる。今朝も来なかったもんな」
「制服も、一般のやつだったしな」
一方別の場所では、雲雀と草壁以外の風紀委員が、魅真の噂話をしていた。
「あの二人、ケンカでもしたのか?」
「かもな。委員長の機嫌、いつもにまして、悪かったからな」
彼らが話していると、その側を、タイミングよく魅真が通りかかった。
風紀委員がいたので、彼らを目にした魅真は、木の後ろに隠れる。
「何言ってんだ?雲雀さんとあの女は、もとから付き合ってなかったんだよ」
「そーそー。全然、そんな感じじゃなかったしな」
「そもそも、戦えない役立たずな女を、風紀委員に入れること自体おかしいだろうが」
「お前らこそ、何言ってんだ?あの雲雀さんがわざわざ、戦えない、言ってみれば、風紀委員にとってお荷物の存在の女を、風紀委員に入れたってことが、あの女が雲雀さんの恋人だっていう証だろうが」
しかし風紀委員達は、魅真の存在に気づいておらず、それをいいことに、いろいろと好き勝手なことを言っていた。
魅真はもともとの性格もあり、そこから出ていかず、何も言わず、木の後ろに隠れたままその場に立っていた。
「(お荷物の……役立たず…か…)」
それに、「お荷物」や「役立たず」という言葉が、重くのしかかって動けなかったというのもあり、頭の中で、彼らが言っていたことを反復していた。
「そこで……何群れているの?」
そこへ雲雀が来て、とても不機嫌な声で、彼らに話しかける。
「「「「い、委員長!!」」」」
「しかも、今は仕事中のはずだろ?サボリの上に群れてるなんて………一体、どういうつもりだい?」
声だけでなく、顔も不機嫌になっているので、その声と顔だけで、風紀委員達はびびってしまう。
「咬み殺すよ…」
そして、とどめをさすかのように、彼らに脅しをかければ、全員氷のように固まる。
「すみませんでした、雲雀さん!!」
「すぐに仕事に戻ります!!」
「咬み殺さないでくださいっ!!」
脅されると、彼らは蜘蛛のこを散らすように、一目散に逃げていった。
彼らの様子を見ると、雲雀は小さなため息をつく。
「!」
ため息をつくと、雲雀は、近くの木の影に隠れてる魅真に気づいた。
後ろ姿をちょっとしか見なかったが、それだけでも、体がわずかに震え、落ちこんでいるのがわかった。
けど、雲雀は魅真の存在に気づいたものの、気づかないふりをして、そのまま応接室に戻っていった。
一人とり残された魅真は、しばらく、その場に立っていた。
その時の天気は、今にも雨が降りそうな、曇り空だった…。
それから、ツナ、獄寺、山本の三人が登校してきたのは、事件が起こってから、1週間経った時だった。
「山本、もう大丈夫なのかよ?」
「山本君、心配したわ」
「私もよ!」
「私も!」
「ハハッ、サンキュ」
山本は男女問わず話しかけられ、いつもの明るさで返す。
「獄寺君、心配したわ」
「私も!」
「ケガは、もう大丈夫なの?」
「うるせぇ!テメェら、近寄んな!!」
獄寺はファンの女子限定で話しかけられるが、つっけんどんな態度で返していた。
けど、どんなに冷たくされても、それでも女子はめげていなかった。
「ツナ君、もう大丈夫なんだね。よかった」
「あっ…ありがとう、京子ちゃん」
そして、ツナは男女とも話しかけられなかったが、唯一京子にだけ話しかけられていた。
けど、大好きな京子に心配され、話しかけられたので、それだけでツナはうれしくなって顔が赤くなり、天にも昇る気分であった。
ガラッ
その時、騒然とした空気を壊すかのように、教室の前方の扉が開き、クラスメート達は過剰に反応した。
「魅真ちゃん」
「よっ、おはよ」
教室に入ってきたのは、魅真だった。
「おはよ……」
いつもなら、笑顔でツナ達に近づいていくのだが、今日はあいさつだけすると、すぐに自分の席へ行ってしまう。
「魅真ちゃん、どうかしたの?」
そう問われても、魅真は何も答えず、背中を向けたままだった。
「あれ?魅真ちゃん、今日は普通の制服だね。どうしたの?」
それでも、魅真が風紀委員の制服を着ていないことに気づいたツナは、無視されたことを特に気にする様子もなく、普通に話しかける。
今の魅真にとって、それがどれほどの苦痛なのかも知らずに…。
「………沢田君に……関係ない…」
「え…?」
今度は返事が返ってきたが、なんとかしぼり出すように発した言葉は小さく、冷たいものだった。
しかも、「ツナ君」ではなく、「沢田君」と呼ばれたことに、ツナは驚きを隠せないでいた。
「魅真ちゃん、どうかしたの?なんか、顔色があまりよくないみたいだけど…」
「だから……沢田君には関係ないってば!」
ツナに心配されても、魅真は少し強めの声でツナを拒絶する。
「おい、魅真!10代目が心配してくださってるのに、その態度はなんだ!」
「そんなこと……獄寺君には…関係ないことだよ…」
「関係ないって……おまえな…
!!!」
獄寺はすべてを言う前に、魅真の表情に気づいて、それ以上口にするのをやめた。
それは、魅真が悲しそうな……辛そうな顔をしていたからだ。
「せっかく獄寺君が話しかけてくれたのに、冷たくあしらったわ」
「なんて子なのかしら」
「ツナにもすっげー冷たかったよな」
「友達じゃなかったのかよ?」
「サイテーね」
けど、そんな魅真の心境など露知らず、クラスメート達は、今の魅真の、ツナと獄寺に対する態度を見て、聞こえよがしに悪態をついた。
そのことで、異様な雰囲気を察した三人は、何かあると思い、周りを睨むように見ていた。
それからツナ達は、空気を読み、魅真にずっと話しかけることはなかった。
「ほんっとーーーにごめんなさい!!!!」
昼休み…。
ツナ達はいつものように屋上にいると、そこへ魅真がやって来て、声をかけた後、勢いよく頭をさげてきたので、ツナ達はびっくりして、目を丸くした。
「本当は、ツナ君達に、あんな態度とりたくなかったの…。でも、私と仲良くすることで、いつまた雲雀さんに襲われるかわからないし、今校内では、私のよくない噂をされてるから。もしかしたら、私と一緒にいることで、ツナ君達まで、変なことを言われるかもしれないと思って…。だから、みんなに近づかない方がいいと思ったの」
「そうだったんだ」
理由を説明されると、三人は納得すると同時にほっとしていた。
「よかったぁ。オレ、魅真ちゃんに嫌われたかと思ったよ」
その中でも、ツナは特にほっとしており、胸をなでおろしていた。
「そんなっ……。私の方こそ、嫌われたのかと思ったわ」
「え…。なんで?」
「だって……。みんなが雲雀さんにやられたのは、私がみんなと仲良くしていたからだもの」
「雲雀さん本人がそう言ってたし…」とつけたした魅真は、元気がなく、落ちこんでいた。
「別に、魅真ちゃんのせいじゃないよ」
「そーそー。そんな気にすんなって」
「でもっ……」
「それにオレ、魅真ちゃんには、とても感謝してるんだよ」
「え…?」
「あの時、オレ達を、わざわざ保健室まで運んで、手当てをしてくれたって聞いたよ」
「え…誰に?」
あの時は、保健室には自分達以外は確かに誰もいなかったし、自分がいなくなるまで誰も来ることはなく、ツナ達も、自分がいる間は目覚めなかったので、不思議に思っていた。
「ここの保健医が見てたみたいだぜ」
けど、その疑問はすぐになくなり、自分の左隣にいた獄寺が、そのことを説明してくれた。
「それに…よ…。けっこー……心配したんだからな。あの後、雲雀のヤローに、何かされたんじゃねーかってな」
説明をするついでといった感じだが、目をあわせず、はずかしそうに、顔を赤くしながら話す獄寺は、いつもと違って、口調がどこか優しい感じだった。
「隼人君…」
そんな獄寺に、魅真は感激していた。
「そうだよ。オレ達、心配や感謝はしても、嫌いになんかなったりしないよ」
「そうだぜ。だから、これからもずっと友達でいようぜ」
「ツナ君…。武君…」
三人からのあたたかい言葉に、魅真は今にも、涙があふれそうだった。
「でも………今はまだ、目立つところで、私に話しかけない方がいいわ…」
「え…」
「なんでだ?」
「だって……さっきも言ったけど、私と一緒にいて、いつまた雲雀さんに襲われるかわからないし、学校中で、私のよくない噂をされてるから…。そのせいで、ツナ君達まで、悪く言われるかもしれないもの…。
だから、ほとぼりがさめるまで、目立つところで私に話しかけない方がいいわ。また、雲雀さんに咬み殺されるかもしれないし、ツナ君達まで、変な誤解をされちゃうもの」
それは、魅真の切実な願いだった。
「嫌だよ、そんなの!」
けど、それに対して、ツナは強く拒否する。
「ツナ君…?」
めずらしく大声を出したツナに、魅真は目を丸くしてびっくりしていた。
「せっかく魅真ちゃんと友達になったのに、離れるなんて嫌だよ!それにオレは、そんなこと気にしないから」
「けど……」
「それにオレは、魅真ちゃんにそんな態度をとられる方が嫌だよ。だから、噂とかそんなの、気にしなくていいから!」
「ツナ君…」
「10代目が、ああおっしゃってるんだ。黙ってここにいろ」
「隼人…君…」
「それに、聞いた話だと、雲雀からかばってくれたらしいじゃねえか」
「かばったって言っても、何もしてないわ。叫んでも、雲雀さんには届かなかったし…」
「と…とにかくだな」
魅真に否定されると、獄寺は仕切り直すようにして、再度言葉を発した。
「この借りは、ぜってーに返すからな。それまで、つきまとわせてもらうぜ」
ぶっきらぼうな言い方ではあるが、これが獄寺なりの優しさなのだとわかった魅真は、感激のあまり、目から涙がこぼれ落ちた。
「なっ……なんで泣くんだよ?」
「また、獄寺が怖かったのか?」
「あのなっ」
「ち…違うの…」
「「「へ?」」」
「私のせいで、あんなひどい目にあったのに、それでも、周りの悪い噂とか、雲雀さんのことを気にせずに接してくれるのが、すごくうれしいの。ありがとう、みんな」
涙を浮かべながらも笑顔でお礼を言われると、三人は、頬をほのかに赤くした。
「みんな…」
「何?」
「どした?」
「なんだよ?」
「私は非力だけど、みんなのことは、私が守るわ。もう二度と、雲雀さんに傷つけさせたりしない!そのためにも私、二度と、風紀委員には戻らない…!」
魅真はお礼を言うと、自分の決意を話した。
それは、魅真の覚悟を表すもので、そのことを聞いた三人は、何も言わず、ただ魅真を見つめていた。
一方……
屋上の入り口の裏側では、建物にもたれかかっている雲雀がそのことを聞いていたが、そこから出ていって、魅真達を咬み殺そうとせず、ただその場所に、じっとすわっていた。
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