標的8 風紀委員のお仕事
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私が風紀委員に入って……というより、強制的に入れられて、早いもので、もうニ週間が経った。
ニ週間前、学校から家に帰ると、お母さんに攻めるように質問をされた。
まあ、前の日までブラウスだったのに、いきなり次の日からセーラー服を着てたら、不思議に思うのも無理はないけど…。
それで、風紀委員に強制的に入れられたという細かい経緯(特に、私が雲雀さんにかばんをあててしまったというところ)をはぶいて説明をしたら、何故かすごいと褒められた。
たぶん風紀委員というものが、学級委員や生徒会とならんで、なんか特別な雰囲気があるからかもしれない…。
それで、雲雀さんが風紀委員の委員長だということも言って、その雲雀さんに勧誘されたというのも話したけど……
「雲雀くんて、この前ごあいさつに行ったとこの子よね?あそこ名家みたいだから、礼儀作法はしっかりしてそうだし、責任感はありそうだし、安心だわ。
それに雲雀君、結構かっこよかったわよね。うらやましいわ。そんな素敵な子の近くにいれるなんて」
……と、言われた。
あの時私は、「そんなに言うなら変わってほしい!」と、何度心の中で思ったことか……。
何も知らないってことは、幸せなのかもしれない。
確かに、雲雀さんちは名家みたいだし、雲雀さんて、最強の不良と言われてるわりには、言葉づかいはていねいな方だし。(ぶっそうなことを言ってるのはおいといて)
それに、かっこいいと言えばかっこいいよ。ここだけの話、初めて会った時、私も少しドキッとしたし。
でも、黙ってればかっこいいんだけど、中身が残念すぎるしね…。
だって不良だし、口よりも手が先に出るタイプだし、わがままで身勝手でマイペースで、まさに、天上天下唯我独尊という言葉が、ぴったりあてはまる人だもの…。
けど、たくさんの不良にかこまれることになって、どうしようと悩んでたけど(実際、今でも悩んでるけど)、ここニ週間は、何事もなく、とても平和だった。
だけど、この風紀委員という名の不良のたまり場では、いつ何が起きてもおかしくないから、常に注意しておかなくては!
標的8 風紀委員のお仕事
「ねえ、ちょっと」
「はい。なんでしょう?雲雀さん」
今私は、応接室で、風紀委員の仕事(雑用)をやっている。
もちろん、側には雲雀さんがいる。
「床、ちゃんと今朝掃いたの?まだほこりがあるじゃないか。
あと、さっき出したコーヒー。これまずいよ。淹れ直し」
「え…。それは、時間が経ってしまって、冷めてまずくなった…とかじゃなくてですか?」
「何?僕に口ごたえをするの?」
「淹れ直します!」
雲雀さんの暴君っぷりは、相変わらずである。
さっきと言っても、淹れてから、もう20分も経ってるんだから、なんだか今更って感じだわ。なんで、持ってきてすぐに口をつけないのかしら?
でも、怖くて逆らえないから、仕方なしにもう一度コーヒーを淹れて、雲雀さんに持っていけば…
「やっぱりまずいね。ちゃんと、コーヒー豆を使ってるの?」
持っていってすぐに飲んだのに、開口一番がこれだった。
しかも、なんかスパルタだし…。
「…使ってますけど…」
「ちゃんと、豆から挽いて淹れてるの?」
「やってます…」
「ふぅん…。使っててこんなにまずいの?救いようがないね」
「……………」
……泣いていいですか?
ていうか、本当に泣きそうです。
何これ?これじゃあ、まるでシンデレラの継母や継姉じゃないの。
「まあ、これ以上やってもちゃんとしたものができそうにないから、これでガマンしてあげるよ。今度からは、もうちょっとマシなのを淹れてきてよね」
「はい…」
私は思った。
『そんな風に言うなら、自分が淹れてくればいいじゃない!人に淹れてもらっておいて、文句言わないで!お店で売ってるものなら、誰が淹れたって変わらないでしょう!?大体、ガマンしてるのは私の方よ!わがままばっかり言わないで!!』
と……。
一瞬でこれだけのことを思ったが、そう思いつつも返事をしてしまうのは、悲しい性だったりする…。
「もっと精進しなよ。まあ……本当は、豆のローストからやってほしいんだけどね」
「(どこの工場!)」
私は、心の中でつっこみながらも、手を休めることなく、先程雲雀さんのところにあった、古いコーヒーカップを洗っていた。
「ところで雲雀さん」
私は洗いものを終えると、雲雀さんに、ずっと心の中に抱いていた疑問をぶつけてみることにした。
「なんだい?」
「今更ながら、質問があるのですが…」
「だから何?」
先程のことを、もう一度言おう…。
私は今、応接室で、風紀委員の仕事(雑用)をやっている。
「なんで私は、授業中だというのに、応接室で風紀委員の仕事をやってるんですか?」
そう……。それも、授業をさぼってやっているのだ。
しかし、その疑問を、雲雀さんにぶつけてみても…
「なんだ…。何かと思ったらそんなことか」
どうでもよさそうに答えるだけだった。
ていうか、ここ重要なのに!
「授業は出てもいいけど、基本的には、風紀の仕事が優先だよ。
大丈夫。担任には、出席簿に○をつけてもらってるから」
「雲雀さん、どこが大丈夫なんですか?」
風紀を乱しちゃいけないと言ったのに、雲雀さんの都合で授業に出なくてもよかったり、出なくてはいけなかったり…。
大体、出席簿に○をつけてもらっても、授業に出なければ意味がないのに!
そこらへんを、わかってるのかわかってないのか(きっとわかってない)、雲雀さんは自分の都合で、私の行動を決めている。
そこも含め、雲雀さんは、入ってニ週間経った今でも全然わからない。(とてつもなく、マイペースで身勝手でわがままだということはわかったけど)
というか、謎な人だ。
例えば……
「つかぬことをお聞きしますが……」
「何?」
「雲雀さんて、授業は出ないんですか?というか、何年生で、クラスは何組なんですか?」
「僕は授業には出ないよ」
「へ?」
「風紀委員の仕事があるからね」
「え?けど、雲雀さんて中学生ですよね?授業受けなくていいんですか?」
「あんなもの、出なくても、大した支障はないよ」
「え…」
「それに、僕はいつでも、好きな学年、好きなクラスだよ」
「(意味わかんない!)」
ということだ。
普通、学年は一年にひとつずつあがっていくのに(まれに飛び級もあるけど)、自分の一存で決められる(決めてる)なんて…。
言ってることも、わけがわからないし!
けど、それと同時に、雲雀さんが、いかにこの並盛で恐れられてる存在かというのは、よくわかった。
「失礼します、委員長。今回の見回りの報告に参りました」
「うん」
あと、風紀副委員長の草壁さん。
パッと見た目は他の風紀委員達と変わらないけど、やはり副委員長を務めるだけあって、雲雀さんの次にではあるが、なかなかの威厳をもってる人だ。
そして……
「どうだ?真田。だいぶなれたか?」
「あ、はい」
彼は、その見た目いかつく怖い雰囲気の顔とは違い、意外……と言っては失礼だけど、結構優しい。
「何か困ったことがあったら言うんだぞ。オレでよければ力になるからな」
「ありがとうございます、草壁さん」
それに、他人に気をくばれる人だ。
人は見た目で判断してはいけないというのは、こういうことを言うのかもしれない…。
そんな草壁さんを見て、草壁さんに初めて会った時と、この前学校で再会した時に、怖くて、走って逃げてしまったのを、こないだ謝った。
だって、あまりにも申し訳なかったんだもの。
そうしたら……
「気にするな」
そう、一言だけ言ってくれた。
私は、それだけで心が軽くなり、草壁さんに対しての誤解や警戒心がとけた。
本当に、人を見た目で判断しちゃいけないわ!
なので、草壁さんとはうまくやっていけそうな気がする。
肝心の雲雀さんとは、イマイチどころか全然なんだけどね…。
ここだけの話だけど、草壁さんと初めて会った時、何故ひっかかりがあったのかわかった。
答えは、草壁さんが着ている学ランが、雲雀さんと同じで、風紀委員専用の制服だから。
でも、同じ風紀委員でも、草壁さんは雲雀さんと違って、暴力をふるったりはしない。
その辺が、また雲雀さんとは違う。
風紀委員に入ってから、早くもニ週間。
未だに、この風紀委員の空気にも、雲雀さんにもなれない。
かなり先行きが不安ではあるけれど、草壁さんがいてくれるから、まだなんとかやっていけそう…。
けど、ここの一番上に立っているのは雲雀さんなんだから、なんとか、少しずつでも慣れないと。
けど、暴力的で、近寄りがたく、群れるのが嫌いな人に、どうやって慣れたらいいんだろう?
まだまだ課題は多いわ!
それから2時間目が終わると、魅真は、ようやく風紀委員の仕事から解放され、教室へ戻っていった。
「あ…。お疲れ様です」
「お疲れ様です、姐さん」
途中で風紀委員の一人に会ったので、あいさつをした魅真。
相手もあいさつを返してくれて、それはいいのだが、最後に言われた単語に固まった。
「あ…あの…。姐さんて……何?」
「魅真さんは、委員長の恋人なんでしょ?そんなら、オレらの姐さんなんスよね」
「いや……恋人じゃないから」
「またまた、照れなくてもいーんスよ」
「ちっがーーう!」
はっきりと否定してるのに、まるで理解していないので、魅真は思わず大きな声で叫んだ。
「まあ、見回りはオレらに任せて、姐さんは、委員長のお側にいてください。
では!」
「あ、ちょっと!」
否定しても、それでも勘違いし続ける彼に、なんとか説明しようとするが、彼は何も聞かずにどこかへ行ってしまった。
「……風紀委員って、人の話を聞かない、マイペースな人ばかりなの?」
結局誤解されたまま行ってしまったので、魅真は疲れた顔で彼の後ろ姿を見ていた。
教室に来ると、それだけでスイッチが入ったように、クラス中がざわめき、魅真が通るだけで周りは避けていき、道ができていった。
それを見て魅真は悲しくなったが、同時に、もうニ週間も経つので、だんだんと慣れてきていた。
けど、慣れたと言っても、やはり気分のいいものではないのも事実で、いい加減慣れてほしいとも思っていた。
「おはよう魅真ちゃん。今日は遅いんだね」
「ハハッ。寝坊か?」
あからさまにさけられていたが、それでも、ツナ、獄寺、山本だけは、魅真に普通に近づいてきたので、魅真はほっとした。
「違う違う。風紀委員の仕事が忙しいから、雲雀さんに手伝えって言われてね。今まで応接室にいたの」
「それって、授業中ずっとってこと?」
「そう、ずっとよ」
「大変だね…」
「それはご苦労さんだったな」
魅真が疲れた表情を見せれば、山本はさわやかな笑顔でいたわったので、魅真はそれだけで気持ちが楽になった。
「でも、なんかズルくね?いくら風紀委員っていっても、授業サボるなんてよ」
「そうだよな~。オレらが授業受けてる、大変な時にいないなんてよ」
だがそこへ、二人の男子が毒づいてきた。
それに、魅真やツナ、獄寺、山本だけでなく、クラス中の人間が注目した。
大きな声だったので、クラス中に聞こえた。否……彼らは、わざと大きな声で言ったのだ。
「ヒバリさんに勧誘されたらしいけど、本当は授業をサボるための口実だったりしてな」
「そんなっ…。私は…そんなこと…!」
「ハッ…。どうだかな」
「…………」
反論しようとしたが、押しに弱い魅真は、相手に強く出られ、二の句が継げなくなってしまった。
「おまえら、いい加減にしろよ」
だがそこへ、山本が魅真の前に出てきて、魅真をかばった。
「そうだよ。魅真ちゃんは、そんなことはしないよ。なんの根拠もないのに、責めるのはよくないよ」
「ま、そういうことだ」
続いて、山本だけでなく、ツナと獄寺も魅真をかばったので、男子達は、それ以上は何も言えずに退散していった。
「あのっ…。ありがとう、ツナ君、武君、隼人君」
「別に…」
「ま、いいってことよ」
「そうだよ。気にしないで、魅真ちゃん」
自分を助けてくれたので、魅真は男子達がいなくなると、三人に礼を言った。
魅真はほっとしていたが、周りの状況には気づいていなかった。
今の出来事で、ほぼクラス中の女子の反感を買ってしまったことを…。
獄寺は、ツナがかばったから同じようにかばっただけであるが、それでも、そんなことはわからないし、わかったとしても、そんなことは関係なく、ただ山本と獄寺にかばわれたという事実が、女子生徒達の嫉妬心に火をつけたのだ。
しかし、そんなことにはまったく気がついていない魅真は、呑気にツナ達と話をしていた。
そして、3時間目が終わった後の休み時間…。
「調子にのってんじゃないわよ!!」
「へ…?」
魅真は、一部ではあるが、クラスの女子に体育館裏に呼び出され、因縁をつけられていた。
しかし、いきなりなんの説明もなく、開口一番がこれだったので、突然なんの脈絡もないことを言われた魅真は、一体何がなんだかわけがわからず、すっとんきょうな声を出した。
だが、それが女子生徒達を煽る原因となってしまったのだ。
「へ…?じゃないわよ!!調子にのるなって言ってんの!!」
魅真は、女子のヒステリーな叫び声に、思わず耳を押さえる。
女子からしてみれば、魅真は、山本や獄寺(かっこいい男子)にちやほやされている、イケスカない人物であるが、山本と獄寺に恋愛感情がいっさいなく、呼び出された原因すらわからない魅真は、たくさんの疑問符を浮かべていた。
「あの~…。あなた達が言ってる意味がわからないんですけど…」
「わからないの!?あなた風紀委員のくせに、頭悪いのね!!」
魅真からしてみれば当然の意見なのだが、女子達は、自分達が言いたいことがまったく伝わっていないことに腹を立てた。
あまりに理不尽だというのに、その迫力に、魅真は何も言い返せないでいた。
「な…なんで、そんなに怒っているのでしょうか?」
それでも、なんとか勇気をふりしぼって問いかけると、相手はわざとらしく深いため息をついた。
それだけでも、魅真はビクッとなってしまう。
「あなた…。はっきり言って、生意気なのよ」
「え?」
ようやく説明してくれるのかと思いきや、またしても要点を言わないので、またすっとんきょうな声が出てしまう。
「なんなの?あなた。転校してきてから、山本君や獄寺君にベタベタしちゃってさ」
「しかも、名前で呼んで、更には名前で呼んでもらってるなんて…。なれなれしいのよ」
「さっきだって、かばってもらってさ。山本君も獄寺君も、あなたみたいな子のどこがいいのよ?」
説明になっているようななっていないような、微妙なものであったが、魅真はそれだけで理解した。
要するに、彼女達は、山本と獄寺のファンの人間で、彼らにちやほやしてもらっている(当人同士は、まったくそんな気はない)自分が気にいらないのだ。
二人には、ファンがいることを知りながらも、話しかけていたのは悪かったとも思ったが、けど、二人は友達だし、自分がどんな交友関係をもとうが自由だし、その辺は遠慮する必要がないと思ってた。
そして同時に
「生意気って何?」
「何、勝手に因縁つけてきて、勝手なこと言ってるのよ!?」
「調子になんてのってないし!そっちがそう思いこんでるだけだし!」
「自分の交友関係を、他人にとやかく言われたくはない」
「私が誰と仲良くしようと勝手じゃない!」
「私は、武君とも隼人君とも付き合っていないし、付き合うつもりはない!」
「だからベタベタなんかしてない!あなた達の錯覚よ!」
「大体、私が誰にどう呼ばれようとあなた達には関係ないし、二人をどう呼ぼうが私の勝手でしょう。なんで、そこまで言われなきゃいけないの?」
「あと、別になれなれしくしてない」
「それに、あなたみたいなって失礼だわ」
「そんなに好きなら、好かれるための努力をしたらどうなの?」
「なんであなた達に、いちいちそんなことを言われなきゃならないわけ?」
この一瞬で、色んなことが思い浮かんだが、それでも口にする勇気はなくて、口を閉ざしたままだった。
「なんとか言ったらどうなのよ!?」
しかし、それが彼女達の癇にさわったようで、彼女達のうちの一人…おそらくリーダーであろう女が、ヒステリーに叫びながら、魅真の胸を突き飛ばした。
「ぅ……」
されるがままの魅真は、壁に強く体を打ちつけてしまい、小さくうめき声をあげた。
けど、まだ何も答えてもらっていない彼女達の気がおさまるわけもなく、次の行動に出ようとした、その時だった。
「何やってるの?」
後ろから声をかける者がいた。
「ひっ!ヒバリさ…」
今まで強気だったのに、雲雀が現れた途端に、短い悲鳴をあげて畏縮した。
それは、周りの女子達も同様で、彼女達は、みなビクビクしながら雲雀の様子をうかがっていた。
「群れてるなら……咬み殺すよ…」
鋭い目でジロッと睨めば、氷のように固まって動かなくなる。
「おっ……覚えておきなさいよ!」
彼女達のうちの一人が月並みなセリフを言い、焦りながら去ると、他の女子達も、つられるように去っていった。
「あの……雲雀さん、ありが…」
「群れる奴がいたら、注意しとけって言わなかったかい?」
「え…?で…でも……これは…」
これは、みつけたわけじゃなく、強制的に連れてこられたので、反論しようとした。
「使えないね。それに…あんな、見るからに弱い奴にいいようにされてるなんて、風紀委員の風上にもおけないよ。それに、君……弱すぎるよ。しかも、風紀委員なのに群れてるなんて」
「だから……それは…」
「言い訳なんか聞きたくないね」
冷たい目で見下され、魅真は先程の女子達と同様に、畏縮し、顔が青ざめた。
「いい?今度群れてる奴を見たら、取り締まっときなよ。君自身も群れたら許さないから。その時は、僕が君を咬み殺すよ…」
そう言い残すと、雲雀は去っていった。
残された魅真は、雲雀に脅されただけでなく、強制的に風紀委員に入れられたのに、理不尽なことを言われ続けてきたストレスと、男子達に嫌味を言われたストレス、女子達に妙な誤解をされた上、突き飛ばされたり、頭ごなしに言いたい放題言われたので、心身ともに疲れ、傷つき、限界がきたので、目からたくさんの涙をこぼした。
魅真はしばらくの間、その場に立ちつくしたまま、涙を流し続けた。
それからは、授業に出る気にはなれなかったので、屋上にすわりこんで、しばらくぼーっと空を眺めていた。
なんだかんだと、風紀委員の立場を利用しているので、あまりいい気分ではないのだが、それでも今の魅真は、教室に戻って授業を受ける気力も、応接室に行って仕事をする気力もなかったのだ。
だが、それがますます魅真を追いこむことになったのだった。
先程魅真を呼び出した女子生徒達が、魅真が教室にいないのをいいことに、魅真のあることないことを言いふらしたのである。
それは、最初は教室中に……最終的には、あっという間に学校中に広まっていったのだ。
悪い噂ほど、尾びれ背びれがついて、早く広まるもので、生徒達はその話題でもちきりだったが、当の本人は何も知らず、ただ空を眺めているだけだった。
「えぇ!?そんな噂がたってるの?」
魅真がそれを知ったのは、お昼休みになってからのことだった。
魅真は、おそらく屋上にいるとあたりをつけ、気をきかせて、魅真のお弁当箱を持ってきた、ツナ達によって聞かされたのだ。
「(そんな~!ますます、女の子のお友達ができなくなっちゃったじゃないの~~!)」
誰が噂を流したのかは、聞かなくとも丸わかりだったが、それでも魅真は、今はそれどころではなかった。
「だ…大丈夫?」
「大丈夫じゃない…」
変な噂は風紀委員になった時にもあり、その時もあっという間に広まったが、今回のことは恐らく故意によるものであるから、ますますショックを受けていた。
「で……具体的に、どんな噂だったの?」
「え!?そ…それは…」
魅真に噂の内容を聞かれると、ツナは言いにくそうに顔をそらした。
何も言われなかったが、内容を知らなくても、それだけで良い噂ではないということがわかったので、魅真はますます落ちこんだ。
「だ……大丈夫だよ、魅真ちゃん。いろいろと変な噂をされてるけど、オレは、魅真ちゃんはそういう子じゃないって信じてるし、気にしてないからさ」
「ツナ君…」
ツナに信じてもらえたことで、魅真は感激の涙を流す。
「ツナ君!」
「わっ」
そして、感激のあまり、ツナに抱きついた。
「うれしい!ありがとう、ツナ君!」
「いや…その……それほどでも…」
女の子に抱きつかれたことのないツナは、顔を真っ赤にして照れていた。
京子に見られたら困るとも思っていたが、かと言って、今のこの状態の魅真を、無理矢理引き離すのもなんだか気が引けるので、そのままにしておいた。
「こら!テメ……10代目から離れやがれ!」
それを見た獄寺が文句を言うが、うれしさのあまり、ツナに抱きつきながら獄寺にも抱きついた。
「な!テ、テメ……何しやが…」
そう言いながらも、獄寺は顔を赤くし、無理に引き離すことはしなかった。
そんな三人を見た山本も、三人を包みこむように抱きついた。
「山本!?」
「オイ、野球バカ!」
ツナは驚き、獄寺は何をするんだというように叫ぶが、魅真はうれしそうにしていた。
「(悪い噂も気にすることなく、一緒にいてくれる。三人とも、最高の友達だわ!)」
噂に踊らされず、自分を信じてくれる三人に感激して、抱きしめる手に力をいれた。
そこを、雲雀に見られているとは知らずに…。
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