標的6 史上最悪の日
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体育祭が終わった、次の日のお昼休み。
「沢田君、棒倒し、本当にすごかったよ!」
魅真は、先日行われた体育祭の競技、棒倒しでのツナの活躍ぶりに、称賛を送っていた。
「え…そんなことないよ。だってオレ、やられっぱなしだったし…」
魅真は称賛していたが、ツナは否定した。
謙遜とかではなく、自分はボロクソにやられていただけというのがわかっていたからだ。
「いや、今回ばかりは真田が正しいな」
「「へ?」」
「10代目は本当にすごかったっす。棒から落ちても、なんとか勝とうとする根性と信念!あれには覇気みなぎるものを感じました!さすが10代目!」
「確かにそうだな」
「えぇ…」
あれは完全に死ぬ気弾のおかげで、結局試合は負けたのに、獄寺だけでなく、山本まで賛同してきたので、ツナは困っていた。
しかし、まんざらでもないようで、半分顔がにやけていた。
「沢田君て、ふしぎな人だね」
「え?」
「だって、パフォーマンスをすると、とても強くなるんだもの。性格もなんか変わるし」
「え…。パフォーマンス?」
「うん。パフォーマンス」
何がなんだかわからずに聞き返せば、魅真はただにこにこと笑って返した。
「リボーン君に聞いたんだけど、沢田君て、パフォーマンスが趣味なんだよね。それで、リボーン君が助手だって言ってたよ。体育祭の最中にやったのもすごいけど、あれで急に強くなるのもすごいね」
「そ、そう…?」
リボーンに説明されたことをにこにこと笑いながら話す、何やらいろいろと勘違いしてる魅真に、ツナは力なく返事を返した。
「(リボーンの奴、真田さんにどんな説明をしたんだよ!ていうか、あれをパフォーマンスって信じてる真田さんもすげー!)」
魅真に、死ぬ気弾で死ぬ気モードになるのを、パフォーマンスだと説明した、今はここにはいないリボーンに心の中で文句を言い、リボーンが言ったことを信じきってる魅真に対しては、驚きつつも、いろいろと感心していた。
「ほんと、ツナ君てすごいんだね。タダ者じゃないって感じ!」
「へ!?」
リボーンがここに来たばかりの頃に、自分の憧れである京子と同じことを言われたので、ツナは一瞬固まってしまう。
「あ、ごめん。沢田君だった。ごめんね。つい勢いで…」
しかし魅真は、勢いとはいえ、今まで呼んでいた「沢田君」ではなくて、「ツナ君」と呼んでしまったことに対して、驚きの声をあげて固まったのではないかと勘違いし、あわててツナに謝った。
「あ、いや…そういうことじゃないよ。ちょっとね…」
「?」
今度はツナがあわてて言葉を濁したので、魅真はそれを疑問に思ったのだが、それ以上追求することはなかった。
「それよりさ、別にオレ、ツナ君でいいよ。沢田君だと、せっかく友達になったのに、よそよそしい感じだしさ。
それに……オレも……魅真ちゃんって呼ぶからさ…」
最後の方は、照れて顔が赤くなり、少し声が小さくなったツナに、魅真はうれしそうに微笑み
「わかった。ありがとう、ツナ君」
魅真はまた、「沢田君」ではなく、「ツナ君」と名前を呼んだ。
下の名前を呼ばれたことに、ツナもうれしそうに微笑みを返した。
「なら、オレもこれから、真田じゃなくて、魅真って呼んでいいか?
なあ、獄寺」
「なんで、オレにふるんだよ!!」
勝手に決められて山本に噛みつく獄寺だが、嫌そうではなく、照れくさいのか顔が赤かった。
「もちろんいいよ。じゃあ私も、山本君のこと名前で呼んでもいいかな?獄寺君も!」
「ああ、もちろんいいぜ」
「しょ…しょうが……ねえな…」
そう言いながらも、獄寺はまんざらでもない様子だった。
「これからよろしくな、魅真!」
「こちらこそ!武君。隼人君も!」
名前で呼びあうなんて、なんだか、本当の友達って感じがしてきた!魅真はそう思いながら、満面の笑みを三人に向けた。
青空の下、学校の屋上でお弁当を食べて、何気ないおしゃべりをする。そんな、変わらないけど、充実した毎日…。
こんなおだやかな日々が、ずっとずっと続いたらいい。
魅真は、心からそう願っていた。
………しかし、その願いはもろくも崩れて去っていくことを…
こんな平穏な日常は、あっさりと壊されてしまうことを………
魅真は………まだ知らなかった…。
標的6 史上最悪の日
次の日の朝。
いつもよりも早く起きた魅真は、いつもよりも早く学校に登校した。
なので、いつもはたくさん見る生徒は少なく、それすらもなんだか新鮮な感じで、魅真は楽しんでいた。
「あ、野球部だ!」
グラウンドの側を通りかかると、ちょうど野球部が朝練をしているところだったので、魅真は山本がいないかどうか探した。
「あ、武君だ。
おーーーい、武くーーーーん!!」
すぐに山本を見つけた魅真は、大きな声で山本を呼んだ。
その声に気づいた山本は、人なつっこそうな笑みを浮かべながら、練習の途中なのに、わざわざ魅真の元へ走ってきた。
「よっ!はよ、魅真」
「おはよう、武君」
「今日は早いのな。いつもは、もうちょっと遅いのにな」
「今日は早く目が覚めちゃってね。せっかくだから、早く学校に行こうと思ってさ」
「魅真ってすごいのな。オレだったら、時間までのんびりしてっけどな」
「え…。そ、そんなことないよ…」
「そんなことあるのな」
山本がニカッと笑って返せば、魅真もまたにこっと微笑みを返した。
その時、グラウンドの方から、野球部員の、山本を呼ぶ声が聞こえてきた。
「いっけね。集合の時間みてーだ。
そんじゃあな、魅真。またあとで、教室でな」
「うん、またあとでね」
山本が部員達の元へ走っていくのを、魅真は手をふって見送った。
山本の姿が小さくなると、魅真は静かに、校舎の中に入っていく。
中に入ると、自分のクラスの下駄箱があるとこまで行き、自分の上履きに履き替えると、廊下に足を踏み出し、自分の教室へ行こうと、右へ曲がった時だった。
「「!!」」
ちょうど、向こう側から歩いてきた雲雀と出くわしてしまったのだ。
相手を見て、魅真は嫌そうな顔をしたが、雲雀は平然としていた。
感情がない目で、興味なさそうに魅真を見ていたが、突然魅真の手をつかんできたので、魅真はビクッとなり、短い悲鳴をあげた。
「君、さっき群れてなかった?」
「え…?」
「野球部の……この前、応接室に来た奴と」
「あ、あの…」
「群れるなって言ったはずだよね?」
「ご、ごめんなさい?」
「なんで疑問系なの?」
「い、いえ……。なんとなく…」
本当は、山本とは友達だから話していた。何故そんなことを言われなくてはいけないのか?などと、色々と言い返したいのだが、そちらよりも恐怖心の方が勝(マサ)っており、本当のことは言えなかった。
「ところで、この前聞きそびれたんだけど…。君、ずっと前に応接室に来た赤ん坊と、知り合いなの?」
「えっ…。赤ん坊って、リボーン君のことですか?(ていうか、いきなり話題変えてきた!相変わらずマイペースな人ね)」
「へえ……そんな名前なんだ。
まあ、そんなことはどっちでもいいや。
それで?知り合いなの?そうじゃないの?」
「…知ってますけど…」
「そう。じゃあ、会わせてくれない?」
「えぇ!?」
いきなり話が変わった上、リボーンとの仲介を頼まれたので、魅真は驚きの声をあげる。
「まあ、君に拒否権なんてないけどね」
「(やっぱ自分勝手!)」
「ねえ、早く教えなよ」
脅すように言えば、魅真は怖くなり、口をつぐんでしまう。
「ねえっ…」
「!!」
そのことにイラついた雲雀は、今の感情を隠すことなく、魅真の腕をつかんでいる手に力をいれた。
なんの前ぶれもなく、突然きた痛みに、魅真は顔をゆがませた。
「いっ……」
魅真は、顔をゆがませながらもなんとか口を動かし、言葉をつむごうとした。
「いや……です…」
出てきたのは拒否の言葉だったので、雲雀は顔をしかめた。
「リボーン君は、どんなにすごくたって、まだ赤ちゃんです。どんな用事があるのかは知りませんが、あなたみたいに、すぐに暴力をふるう人を、近づけるわけにはいきません!」
しかも、自分に意見してきたので、雲雀のイライラはますますヒートアップしていった。
それを見た魅真は、自分が何を口走ったのかを今になって気づき、慌てて自分の口を押さえるのだが、時すでに遅かった。
「きゃーーー。ごめんなさいごめんなさい!」
それを聞いた雲雀は、トンファーを出して咬み殺そうとすると、魅真は、雲雀がトンファーを構えていない今のうちに、脱兎の如く逃げだした。
それを見た雲雀は、咬み殺すために後を追いかけることはなかったのだが、不機嫌マックスな顔で、魅真を睨んでいた。
今までは、こうやって脅せば、誰だろうと、絶対に自分の思い通りになった。
そうやった人達は言うことを聞いたし、魅真も自分を見る度にびくびくしているので、大丈夫だろうと…自分の言いなりになるだろうと思っていた。
しかし……今回に限って、魅真は首を縦にふらず、自分に逆らった。
自分の思い通りにならず、何よりも自分に逆らったので、雲雀のプライドはズタボロだったのだ。
一方で魅真は、自分の教室がある階まで上がると、走るのをやめ、切らした息を整えながら、教室への道のりを歩いていた。
「もう…。なんなの?あの雲雀って人…。自分の思い通りにならないと、すぐに暴力に訴えるんだから!もう、今度から絶対にかかわりたくないわ!
……ん…?」
廊下を歩きながら、一人文句を言っていた魅真はあることに気がついた。
「ていうか私、なんだかんだ言って、結局あの雲雀って人と、結構かかわっちゃってるし!」
よりによって、一番かかわりたくない人物と結構かかわってしまっているので、魅真はショックを受けた。
「あの人と、なんとか関わらずにすむ方法とかないかな…」
同じ学校にいる以上、それは難しいことだとわかっているのだが、それでも模索せずにはいられず、ため息をつきながら、もんもんと考えていた。
「あ、で…でも大丈夫よ。不良なんて、私とは住む世界が違うもの。関わり合いになんて、なるわけがないわ」
結局何も思いつかなかったが、自分を落ちつかせるため、自分自身に言い聞かせるように、魅真はムリヤリ自分を納得させる。
その頃、山本は朝練が終わると、更衣室で着替えていた。
「なあなあ、山本」
「ん?なんだ?」
上のユニフォームをぬぐと、隣にいる同級生の男子に声をかけられたので、山本は声をかけてきた男子生徒の方へ顔を向ける。
「さっきの女の子、見かけねー子だけど、おまえの彼女かよ?」
「オレ知ってるぜ。2学期に、山本んとこに転校してきた子だろ?」
「オレも知ってる。かーわいいよなー…」
「いーよなー。あんなかわいい子が彼女でよ」
彼が魅真のことを話すと、周りにいた、同じく同級生の男子達もまじって、口々に魅真のことを話していた。
朝練の最中なのに、わざわざ魅真のところに行き、仲良さそうに話をしていたので、魅真が山本の彼女だと思った男子生徒達は、とてもうらやましそうにしていた。
「別に彼女じゃねーぜ」
けど山本は、魅真が彼女だというのを、あっさりと否定した。
「え?じゃあ、なんなんだよ」
「何って…ただの友達だよ」
問われ、魅真と自分の関係を明かすと、山本は一言断りを入れ、部室から去っていく。
「ただの友達…か…」
「どっちにしても、うらやましいぜ…」
かわいい女の子が側にいるなら、彼女でなく友達でもいいらしく、彼らはまたうらやましそうな顔をして、山本が部室からいなくなると、本音をもらした。
今日の授業では、1時間目から4時間目までに、何日か前に行われたテストを返された。
見た目に反して頭のいい獄寺は、当然全部100点満点だった。
獄寺はすべて満点だったので、得意げな顔をしていた。
しかしそれは、不特定多数の人間に自慢したいのではなく、ただ一人、ツナに見てほしいだけだった。
そしてもう一人、全部満点の者がいた。
それは、魅真だった。
魅真も1時間目から4時間目の間に返された、国語、英語、数学、社会のテストですべて満点をとり、クラスメートや教師から絶賛されたが、ただ照れくさそうにしていた。
そして、昼休みとなり…。
「魅真ちゃん、すごいよ。この前のテスト、全部100点なんて!」
「そ…そんなことないよ…」
「10代目、オレも」
お昼休みはいつも通り屋上で過ごしており、1時間目から4時間目に返されたテストが、魅真は全部100点という好成績だったので、ツナは魅真を尊敬の眼差しで見ながらほめており、それを聞いた魅真は、照れくさそうにしながらも、どこかうれしそうだった。
横では、自分もすべて満点だったことを、獄寺はツナにアピールするが、ツナは聞いていなかった。
「そんなことあるって。だって、全教科満点なんて、なかなかとれないよ」
「10代目、実は…」
「いや…たまたまヤマが当たっただけだし…」
「10だ…」
「それでも、頭がよくないと100点はとれないよ」
「10…」
「いいなあ魅真ちゃん。頭がよくて」
「…………」
なんとかアピールしようとするが、ツナは魅真との話に夢中になって気づいておらず、獄寺は次第に気が沈んでいった。
「だけど、隼人君も頭いいじゃない。隼人君も全部100点だったし」
「ん~。まあね」
獄寺は魅真にほめられたので鼻高々になり、何よりも自分の大好きなツナに肯定されたので、もう天にも昇る気分であった。
「でもほんと、二人とも勉強ができてうらやましいよ。オレなんて、また赤点だしさ。オレ、勉強できないから、魅真ちゃんみたいになりたいよ」
「私みたいになったって、何もいいことないわよ」
「え…。なんで?」
「だって私、運動音痴だもの。何もないところでころんだこともあるし、足も遅いし。この前の体育祭でだって、いいとこなしだったんだから…」
何もかもが完璧だと思っていたツナは、意外だと目を丸くする。同時に、自分と同じ欠点をもっていたので、ますます親近感をもった。
「でも、それでもやっぱりうらやましいよ。オレ、運動どころか勉強も全然できないからさ。一度、脳みそをとりかえたいよ」
ツナの冗談っぽい、でも本気とも感じとれる言葉に、魅真はクスクスと笑う。
その時、ふと山本と目があい、自分をずっと見ていることに気がついた。
「え…。ど、どうしたの?武君」
「いや…。魅真ってさ、やっぱりかわいいなって思ってな」
「へえ!!!?」
自分を見ていた理由を尋ねれば、山本は突然脈絡のないことを言ってきた。
しかも内容が内容だけに、魅真はすっとんきょうな声を出し、ツナと獄寺も、目を丸くして山本を見た。
「い、いきなり何?」
「いや…。今朝の朝練が終わった時、野球部の奴らがさ、魅真のことかわいいって言ってたからさ。今の笑った顔見て、そうかな…と思ってさ。
なっ。ツナと獄寺も、そう思うだろ?」
「え!?」
「ンなぁ!!テメ、野球バカ!いきなり何言ってやがる!!」
同意を求められて、二人は顔を赤くして動揺する。
「ま…まあ…オレも……魅真ちゃんは…かわいいと思うけど…」
「べ…別に……悪くねーんじゃねーか?オレは…女には興味ないから、そういうのは、よくわかんねーけどよ…」
顔を赤くして動揺はしたが、二人は魅真と山本から目をそらしながらも、しどろもどろに答えた。
「ありがとう…」
魅真は二人の答えに、照れて顔を赤くするが、それでもほめられてうれしくなったので、微笑みながらお礼を言った。
その時の魅真の微笑みを見ると、三人は顔を赤くする。
三人を見ていた魅真は、楽しそうにクスクスと笑っていた。
他愛のないことを話して、それで一喜一憂したり、なんでもない時間を過ごす。
それは、魅真が望んでいた普通の学校生活。
それがようやく叶い、何もかもが順風満帆に思えた。
しかし、この平和な日常と理想がたやすく壊れてしまうなど、この時の魅真は想像すらしていなかった。
そう……
悲劇はこの後起こる…。
それから午後の授業と帰りのHRが終わると、ツナは魅真の元へ行って話しかけた。
「魅真ちゃん、これから時間あいてる?」
「あいてるけど……どうして?」
「今日さ、獄寺君と山本がオレんちに来るんだけど、魅真ちゃんもどうかな?と思ってさ」
「本当?ぜひ行きたいわ。じゃあ、家に帰ってかばんを置いたらすぐに…
あ……」
「どうしたの?」
「ごめん。図書室で借りた本、今日までに返さなきゃいけないの。だから、ちょっと遅くなっちゃうけど…」
「いいよ。家で待ってるから」
「ありがとう!じゃあ、あとで行くね」
「わかった。ところで、オレんちの場所知ってる?」
「うん。夏休みの時に、前を通ってておぼえてるから大丈夫」
「そっか。じゃあオレ、先に行くからね」
「わかったわ。それじゃあ、またあとでね」
魅真はかばんを持つと、先に教室を出て、図書室へ向かっていった。
「(これこれ!これよ!これこそ、私が求めていた、理想のスクールライフだわ!)」
初めて友達の家に誘われたので、魅真は教室から出ると、うきうきしながら図書室へ向かって行った。
「(隼人君も、見た目は怖いけど、思ったよりも悪い人じゃないみたいだし。ツナ君と武君は、見た目通り優しいし!前よりも仲良くなれた感じだし!何よりも、今日はツナ君ちに遊びに行けるし!今日はいいことづくめだわ!)」
そう考えていると、ふいに今朝のことを思い出し、雲雀の顔が思い浮かんだ。
雲雀の顔が浮かぶと、さっきとはうって変わって、暗い顔になった。
「(やめよやめよ。あの人のこと考えるのは…。あの人は不良で、風紀委員なんだし。同じ中学校だから、たまにすれ違うことはあっても、深く関わることなんてありえないんだから。
第一、あの人自身が、弱い奴には興味ないとか言ったんだし。
それに、もしも関わりそうになったら、全力で逃げればいいわ!)」
けど、不安を一掃するように、すぐにかぶりをふって決意をすると、魅真は図書室へ行った。
本の返却は、図書室にいる生徒の人数が少なかったので、スムーズに進み、早々と用事を終える。
本当は、また本を借りようと思ったのだが、ツナと約束をしていたし、何よりも魅真自身が早くツナの家に行きたいので、早く下校しようとした。
ところが……
「よう」
「お前、1-Aの真田魅真だろ?」
靴に履き替え、昇降口から出ようとした時、見るからに不良という感じの男子生徒が四人、昇降口の前(外の方)に立ちふさがっていた。
「(最後の最後で、最悪なことになった!)」
雲雀じゃないだけまだマシだが、大嫌いな不良に会ってしまったので、顔がひきつった。
しかも、雰囲気からして待ち伏せしていたようだ。
「へぇ~~。ウワサ通りかわいいじゃん」
「あ…あの……何かご用ですか?」
ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべ、なめるような目で自分を見ていたので、それだけでもひいていたのだが、それでも、その気持ちと不良が怖いという気持ちをなるべく隠して、相手の用件を聞きだした。
「オレ達に、ちょっと付き合ってもらおうか」
「え…?」
「なぁーに、悪いようにはしねえよ」
「ぅ……」
魅真は具体的な用件を言わず、ニヤついた笑みを浮かべるだけの相手に、なんだか嫌な予感がしたので、後退してしまい、そのまま別の場所から帰宅しようと考えていた。
「あ、あの……せっかくですけど、私……」
「いいから来いよ!」
「きゃあっ!」
しかし、男達は魅真の心などお構いなしで、腕をつかんで、強制的に別の場所へ連れていってしまう。
同じ頃、校舎裏では、雲雀が木にもたれかかって寝ていた。
そこは、周りに自分の背より低い木が何本かあり、人が通るところからは死角になっているので、群れるのが嫌いな雲雀にとっては、絶好の昼寝場所だったのだ。
「お願いですから離してください!」
「ん……」
しかし、その静寂をうち破る声が、雲雀の耳に聞こえてきた。
「いいじゃねえか。少し付き合えよ」
「嫌です!痛い!」
それは魅真と、先程魅真に絡んできた不良の声だった。
「私、早く家に帰って、行かなきゃいけないところがあるんです!」
「だからっ、ちょっとだけだっつってんだろーが!」
「きゃっ」
突然強くひっぱられたので、魅真はよろけてしまうが、腕をつかまれてるため、ころぶことはなかった。
だが、腕をつかまれるのもこの男達に付き合うのも嫌な魅真は、ころんでケガをした方がまだマシだと思っていたので、ケガをしていなくても泣きそうになっていた。
「ヘへ…。おびえた顔もなかなかそそる…「ねえ」
「ん?」
その時、男に声をかける者がいた。
男は声がした後ろの方へ振り向くと、みるみるうちに顔が真っ青になっていく。
「うるさくて寝れないんだけど…」
それは、つい先程まで、近くの木に寄りかかって眠っていた雲雀がいたからだった。
「あと……僕の前で群れないでくれる?」
睡眠の邪魔をされ、その上自分の目の前で群れられたので、雲雀はとても不機嫌だった。
「ぐはっ」
そして、魅真の腕をつかんでいた男子生徒を、感情にまかせて、トンファーで殴り倒した。
雲雀が現れ、自分の前で群れるなと言われたことで、本能的に腕を離されたので、巻き添えをくうことはなかったのだが、その光景は、魅真を怖がらせるには充分なものだった。
何しろ、初めて自分の目の前で起こったことなので、魅真は顔が真っ青になり、動悸が激しくなり、体が震えていた。
「次は君かい?」
けど、雲雀はそんな魅真の心情などお構いなしに、周りにいる、他の男子生徒に声をかけた。
その、見た目いかつい不良の男子は、でかい図体に似合わず、顔色が悪く、今にも泣きだしそうなほどだった。
それだけで、雲雀がいかに恐れられた存在かというのがわかる。
そして、その男子生徒は、悲鳴をあげる間もなく、一撃で倒されてしまった。
残る二人もあっという間に倒され、魅真は次は自分かと思ったが、雲雀は魅真を無視して、男子生徒達に再び殴りかかっていった。
魅真の目の前で、男子生徒達は幾度となく殴られ続け、その度に、凶器で人を殴りつける鈍い音と、それに合わせるかのように、短い悲鳴が次々にあがっていく。
自分がターゲットにならなかったので、魅真はほっとしたが、目の前の惨劇に表情をゆがめ、顔色がどんどん悪くなっていった。
「(図書室に寄らなきゃよかった…)」
返却期日は今日だが、期日を過ぎたら、怒られはしても殴られはしないので、こんなことになるんだったら、図書室に寄らずに早く家に帰って、ツナの家に行けばよかったと、魅真は後悔するばかりだった。
「(よし!今のうちに逃げよう!私は、もともと被害者なんだし。早く帰って、ツナ君ちに行こう。うん、そうしよう!)」
なので、雲雀が男子生徒達の方に目が向いている今のうちに、被害をこうむる前に、そっと逃げ出そうと考える。
「……………」
しかし、何を思ったのか、その考えをふりきるかのように、雲雀の方へ歩き出した。
「も……もう、やめてあげてください。もう充分じゃないですか。いくらなんでもやりすぎです」
そして、雲雀の近くまで行くと、雲雀に向かって抗議をした。
「あの……」
「うるさいよ。僕に指図しないでくれる?」
けど、それが癇にさわったようで、雲雀は背中を向けたまま、低い声で返した。
「君も……咬み殺されたいのかい?」
そう言いながら、魅真の方に振り向いた時の雲雀の顔はとても不機嫌で、見る者すべてを威圧すると言っても過言ではないものだった。
そして話しながら、今言ったことが本気だというように、トンファーを魅真に向けた。
トンファーを向けられると魅真は黙りこみ、顔が青くなり、その場に固まってしまった。
それを見た雲雀は、魅真に興味をなくしたように、すぐに男子生徒達の方に顔を戻し、再び殴りかかっていく。
「やめてください!」
それを見た魅真も、もう口で言ってダメなら、とにかく強制的にやめさせるしかないと思い、カバンを雲雀に向けて振り上げた。
雲雀は、おとなしそうな魅真が、まさかそんな行動に出るとは思わず、驚いていたが、それでもド素人である魅真の動きが読めないわけないので、あっさりと避けた。
けど、魅真自身も、そんなものは当たるわけがないことはわかりきっていた。
少しの間でも注意がそらせることができ、男子生徒達が逃げる隙を作れれば、それでよかったのだ。
「で?それが何?」
雲雀は、魅真を見下すように見る。
しかし、魅真はその目を見ていなかった。
いや……見る余裕がなかった…。
カバンを振り上げたはいいが、真上に上がった途端、カバンの重さに足元がふらついてよろけていたからだ。
魅真は目を見る余裕どころか、声すら聞こえておらず、ふらふらするばかりで、雲雀はそれを怪訝そうな目で見る。
「あ……」
そして、何回か千鳥足で地面を踏んだ時、魅真は石につまずき、体が傾いてしまった。
魅真は雲雀がいる方へ倒れていくが、雲雀はそれを、軽く体を横にずらして、難なく避ける。
だが………
ドカッ
魅真自身は避けたのだが、魅真が持っていたカバンは、視界に入っていなかったために避けきれず、自分自身に……しかも、顔面にあたってしまう。
「……………」
「あっ……」
最初は軽く注意をそらすぐらいのつもりでやったのに、なんの因果か、雲雀自身……しかも、よりにもよって、顔を打撃してしまったので、魅真の顔からは、血の気が引いていった。
「君……本当に咬み殺されたいみたいだね…」
これは、雲雀にとっては侮辱されたことと同じで、雲雀の怒りは今、頂点に達していた。
魅真を睨みつけるその目は、鋭利な刃物のように鋭く、殺傷力抜群だった。
「きゃあああああ!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさぁーーーい!!!!」
これから何が起こるのか容易に想像できた魅真は、叫びながら、一目散に逃げていった。
屈辱をあたえられた雲雀だったが、何を考えているのか、後を追わず、その場に立って、魅真が去っていく姿を見ていた。
この日魅真は、ツナの家に遊びに行く約束をしていたのだが、あまりにも怖い思いをしたために、家に帰るなり部屋に閉じこもり、ベッドの中にもぐりこんでしまった。
次の日、魅真はビクビクしながらも、学校に登校した。
何事もなく、無事に教室にたどり着いたが、並盛最強の雲雀に、昨日あんなことをしてしまったので、いつ何をされるかわからない今、気が抜けず、落ちつかない様子で、自分の席に座っていた。
「おはよう、魅真ちゃん」
「え!?あ……お、おおお、おは…………おは………よう……ツナ君…」
「どうしたの?」
「な、なんでもないの」
魅真の様子がおかしかったので、ツナは事情を聞いてみるが、魅真は曖昧にして返す。
「それならいいけど…。それより魅真ちゃん、昨日どうして来なかったの?みんな心配してたんだよ」
「ごめん…。帰る時、大変なことがあって…」
昨日の放課後、恐ろしい事件があり、雲雀が怖くて、家の外に出られなかったとは言えない魅真は、言葉を濁し、適当に誤魔化す。
「うぅん、いいよ。ところで魅真ちゃん、顔色が悪いみたいだけど、大丈夫なの?保健室に行った方がいいんじゃ…」
「え…?だ、大丈夫よ。心配しないで…」
「そう?なら、いいんだけど…。でも、無理はしないでね」
「うん、わかった。ありがとう、ツナ君」
そう言った時だった。
ガラッ
教室の扉が勢いよく開き、それと同時に、クラス中の生徒がざわついた。
生徒達がさわぐ中、その人物は、まっすぐに魅真の元まで歩いてきた。
魅真はツナの方に顔を向けているので、まだその存在に気づいていなかったが、生徒のざわめきで、魅真よりいち早くその存在に気づいたツナは、周りの生徒同様に、顔が青くなった。
しかも、自分達の前に来ても、魅真は相手に背を向けていてまったく気づいていないので、ツナは震えた手で、相手を見ながら魅真の肩を叩いた。
「何?ツナ君」
自分が肩を叩いているのに魅真が気づくと、ツナは、今度はそっちを見ろと言うように、相手がいる方を指さした。
「一体どうし……
!!!!!」
何もしゃべらずに自分の肩をたたいたり、自分の後ろを指さしたりと、どこか挙動不審で、その上顔色が悪かったので、何故そんな行動をとっているのかがわからず、疑問符を浮かべながら、その答えを確かめるように、ツナが指をさした方へ振り向いた。
振り向き、そこにいた人物を目にすると、魅真は今までにないくらいに顔が真っ青になり、その場で固まってしまった。
「1-Aの、真田魅真…」
魅真の後ろにいたのは、風紀委員長の雲雀恭弥だった。
クラス中の生徒が顔色を悪くしたのは、これが原因だったのだ。
「君を……今日から、風紀委員に任命するよ」
「………え……?」
いきなりのことに、怖くてしゃべることができなかった口から、やっとしぼり出すことができたのは、すっとんきょうな声だった。
この瞬間魅真は、今日のこの日を、今まで自分が生きてきた人生の中で、他に類を見ないほどの、史上最悪の日だと思った。
しかし、のちに魅真はこう語る。
「あの日、私が雲雀さんに風紀委員に任命されたのは、史上最高の日だった」…と…。
「本当の私が生まれた、もう一つの誕生日だ」…と…。
遠くにあった、二人を結ぶ赤い糸は、この日ようやく、ほんの少しではあるが、交わりを見せた。
運命の扉は、ついに開かれた…!
.