標的1 転校生
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雲は…とても自由だ。
空に浮かんで、形を変え、悠々自適に、自分のペースで、いろんなところをめぐっている…。
私は、そんな雲を追う、もうひとつの雲になりたい。
ずっとあなたを追いかけていたい。
ずっとあなたの側にいたい。
ずっとあなたの隣を歩き、あなたを守っていたい。
私の願いは……ただ……それだけです…。
標的1 転校生
今は8月、夏真っ盛り。
世間では夏休みに入っており、部活動があるものや補習を受けている者を除いては、生徒も教師もいなかった。
しかし、校内のある一室…。校長室の中には、部屋の主である校長と、一組の母娘がおり、校長と向かい合わせになって座っていた。
「では、以上で転入の手続きは終了します。他に、何かご質問はございますか?」
母娘がいた理由は、娘の方が、夏休み明けにこの学校に転校してくるからで、今日はその手続きにきたからであった。
手続きが終わると、校長は母親の方に問いかける。
「そうですね…。では、お話をいいですか?長くなるかもしれませんが…」
「構いませんよ。
ああ、そうだ。真田魅真さん」
「はい」
女性と話す前に、校長は、女性の隣にいる少女の名前を呼んだ。
「もしよかったら、校舎を見てきたらどうかな?見ておいた方が、この学校のことが少しでもわかっていいと思うのだが…」
「あ………そうですね…。そうします…」
突然の校長の提案に、少女…魅真は何も抵抗することなく、その案を受け入れ、その場を立ち上がった。
立ち上がると、扉を開けて外に出ていき、魅真がいなくなると、母親と校長の話し声が聞こえてきた。
魅真は扉を閉めると、静かにそこから立ち去っていく。
同時刻、ある一人の少年が、校長室がある校舎の壁にもたれかかり、気持ちよさそうに眠っていた。
「ん……」
けど、突然目を覚まし、その場を立ち上がる。
「うるさい…」
彼が目を覚ましたのは、校長室から聞こえる話し声がやたら耳に響いたからで、不機嫌そうにぽつりとつぶやいた。
彼は校舎の昇降口まで行くと、中に入っていった。
上履きに履き替え、校長室に行くために左に曲がっていく。
一方反対側では、魅真が校内を探索するため、階段を上がって2階へと向かっていた。
ここは学校なので、制服を着てきた魅真。
しかし、今着ている制服は、この並中の制服ではなく前の学校の制服であった。
当然目立つので、彼の性格上、いつもなら喰ってかかるところだが、反対側にいたので、視界に映っていないのと、魅真が2階に上がっていって見えなくなったというのもあるが、今の彼はそれどころではなく、一直線に校長室に向かって行った。
そして校長室の前まで来ると、ノックもせず、無遠慮に中に入り、今の感情を隠すことなく、自分の怒りをわざと見せつけるかのように、校長を睨みつけた。
「ひっ!雲雀君…」
彼がいきなり顔を見せれば、校長は、この学校では自分が一番立場が上なのにも関わらず、びびって彼の名前を呼んだ。
「ちょっと………。うるさくて眠れないんだけど…」
「すっ、すすす…すみません!!!」
その上、謝っただけでなく、土下座までする始末。
その様子を見ていた魅真の母親は、唖然としながら、今しがたここに入って来た少年…雲雀を凝視した。
何故か制服が違うが、恐らくはここの生徒であろう雲雀に、校長の方が謝罪をし、しかも土下座までしていたからだ。
「それで…。この人、誰?」
いきなり話題を変えてくる雲雀に、校長はそれだけでびびってしまう。
話題にされた人物は、明らかに魅真の母親をさしていた。
「あ…。私は真田雪乃と申します。実は、先日こちらに引っ越してきまして、娘がここに通うことになったものですから、ごあいさつと手続きに来たんです」
「そう…」
上から目線の態度をとる雲雀にも、笑顔とやわらかな姿勢をくずすことなく話すが、問いかけた本人は、大して興味なさそうにしていた。
「えっと…。雲雀君…でしたっけ?雲雀君は、ここの生徒なの?」
「そうだけど…」
「そうなの。じゃあ、娘のことよろしくね」
「僕は…群れるのは嫌いだよ」
そう言われると雪乃は、再び唖然として口を開いた。
そして雲雀の方は、それだけ言うと、もう用はないとでもいうように、そこから出ていった。
「(屋上でも行くか…)」
これからあの二人は、まだ話し合うのだろうと予測した雲雀は、先程の場所には戻らず、屋上の方へと足を進めた。
一方魅真は、中に入ったりはしなかったが、校舎内の教室を次々に見て回っており、一階ずつ上に上がっていた。
見て回ると言っても、そんなにじっくりとは見ておらず、ただ歩きながら目にする程度だったが、それでも魅真は、夏休みがあけたらこの学校に通うことを想像して微笑んでいた。
そうやって上に上がっていき、最終的には屋上にたどり着いた。
「うわぁ~~。いい眺め」
魅真はフェンスの方まで歩いていき、並中よりも向こう側の景色を目にし、感動していた。
「あっ、部活やってる。あれは…野球部とサッカー部かな」
今度はグラウンドの方に目をやると、生徒がグラウンドいっぱいに広がってスポーツをしていた。
ユニフォームと雰囲気で、それが野球部とサッカー部だとわかった魅真は、何もかもが新鮮といった感じで、下の様子を見ている。
「…今度こそ……お友達できるといいな…」
グラウンドにいる生徒達を見ながら、そうポツリとつぶやいた時だった…。
突然、ガチャリというドアノブが回る音が響いたので、魅真は大して大きくない音にビクッとなり、後ろへ振り向いてみた。
そこには雲雀が立っており、魅真だけでなく、雲雀も、見知らぬ制服に身をつつんだ見知らぬ女子生徒の姿に驚き、目を見開いた。
「君……誰っ…?」
しかし、すぐに我に返り、魅真を睨みつけた。
それは、肉食動物が草食動物を狩る時のような鋭い目つきで、そのことで魅真はびびってしまい、体を萎縮させる。
「その制服……うちの制服じゃないね。侵入者かい?」
「え!?」
ただ校舎を見学していただけなのに、まさか侵入者と間違われるとは思わず、魅真は間の抜けた声を発した。
「見たことのない顔だ。
もし……この学校の風紀を乱すなら…
咬み殺すよ…!」
「ひっ!」
言いながら、それが本気だということを証明するように、雲雀はトンファーを取り出した。
雲雀の脅しと、更に鋭くした目に、魅真は、彼が単に怖い人というだけでなく、不良だと認識する。
実は、怖い人間と不良が大の苦手の魅真。
その両方を兼ね備えている彼に、ますますおびえてしまい、ガタガタと体を震わせる。
「それで?君、本当に誰なの?」
「へ…?」
「見た感じ、並中に何か危害を加える……というわけでもなさそうだから、そこだけは聞いてあげるよ」
「え?あ、あ……の……」
何か危害を加えるって何?そこだけはって何?と、色々と言いたい(つっこみたい)ことはあったが、雲雀の迫力におびえ、うまく言葉を発することができないでいた。
「早く言いなよ!」
気が短すぎる雲雀が、苛立ちが含まれた声色で話せば、魅真はますます何も言えなくなってしまう。
「…………あ……の……………私……」
それでも、早く何か言わなければ、先程彼が言った通り咬み殺されるだろうと悟った魅真は、とぎれとぎれだが、声を一生懸命に発した。
「私っ……昨日……並盛町に………引っ越して…きたんです…。それで……二学期から………この…並盛中学校に……通うことに…なったので……。
そ、それで………今日は……転入の手続きと……この学校の……校長先生に…………ごあいさつに……」
「ふぅ……ん…。転校生……」
「は…はい……」
自分から聞いてきたくせに、あまり興味なさそうに短く返す雲雀だが、魅真の方は言いたいことを言いきれたので、色々な意味でほっとしていた。
これで、咬み殺されなくて済むだろう…と…。
「(そういえば……さっき校長室に行った時、そこにいた女がそんなこと言ってたな。転校生って、この女のことだったのか…)」
先程の、校長室での雪乃との会話を思い出した雲雀は、一人納得していた。
「ところで、君……」
「はっ、はいっ!」
「その服は……何?」
「あ……こ、これは………前の…学校の制服です。今日は……学校に…ごあいさつと…転入の手続きに…来たので……さすがに……私服はいけないだろうと…思いまして…。でも、まだ…ここの制服は……届いてなかったので…」
「そう…」
若干早口で言った魅真は、いつ、このおっかない男子生徒の機嫌を損ね、危害を加えられるかとびくびくしており、ずっと下を向きっぱなしだった。
「今回は、100歩譲って許してあげるけど………次はないよ。もし次、そんな格好でここに来たら、咬み殺すから」
「は…はい…。わかり……ました……」
初対面の転校生にも容赦のない雲雀に、魅真は縮こまり、とぎれとぎれに返事をする。
「(何?この人。ものすごくやばい!!色々と疑問に思うことはあるけど…。とにかく今は、すぐにでも、この場所から逃げだしたい…!!!)」
今の魅真の心の中は、その思いでいっぱいであった。
「魅真ーー!どこにいるのー?」
そこへ、下から雪乃の声が聞こえてきた。
「お母さん?」
突然聞こえてきた雪乃の声に、魅真はハッとなった。
「あ、あの………母が呼んでますので………これで、失礼しますね。それじゃあ」
そう言うと、天の助けとばかりに、早足でそこから立ち去っていく。
その姿を、雲雀はじっと見ていた。
「(昼寝でもしよう…)」
けど、すぐに興味をなくしてドアから離れていき、適当な場所に寝転がって眠り始めた。
「(もぉ~~~、なんなの?あの人。すごくやばいよ!まさか、あんな人がいるだなんて…。私は、お友達をつくって、一緒に遊んだりおしゃべりしたり、普通の平和な学校生活を送りたいのに…。それなのに、あんなに危険な匂いがする人がいるなんて、安心して学校生活を送れないじゃない)」
一方で魅真は、恐らく下の階にいるであろう母と合流するため、階段を降りながら、先程のやばい少年…雲雀のことを考えていた。
その顔はどこか青く、少し早足だった。
「(もう…あの人とは、極力関わらないようにしないと…。そうよ!要は、関わらなきゃいいのよ!)」
とても先行き不安といった感じではあるが、それでもなんとかしようと、打開策を見いだそうとしていた。
「(私は絶対、普通で平和な学校生活を過ごすんだから!!)」
そして、心の中で強く決意をしていた。
しかし………心の中で強く決意をしているが、魅真はこの時思いもしなかった。
絶対的に関わりたくない、関わらないようにしようと思っている、あの「やばい少年」に、これから先、ちょっとどころか常に関わってしまうことを…。
実はこれが、運命の出会いであることを……。
そのことを、まだ知る由もなかった…。
そして、次の日…。
「じゃあ、行ってきまーす」
「行ってらっしゃい。一人で大丈夫?」
「うん、大丈夫大丈夫。ちょっと近所をぶらついてくるだけだから」
「そう…。気をつけて行ってきなさいね」
「はーい」
魅真は近所を探索するため、外にでかけようとしていた。
引っ越してきたばかりで、まったく見知らぬ場所と言っても過言ではないのに、雪乃は一人で行こうとする魅真を心配するが、魅真は心配ないと言うように、軽く返事をした。
が、しかし……
「ま、迷った……」
案の定迷ってしまった…。
方向音痴というわけではないのだが、やはり初めての道なので迷ってしまい、右往左往していた。
「ど、どうしよう…。やっぱ、この周辺の地図持ってくればよかったかな…」
初っ端からピンチなのでおろおろするが、道がわからないので家に戻ることもできず、どうしようかと悩んだ。
「あ…そうだ。この近くの家の人に聞いてみよう」
地図がないなら人に聞いてみようと思った魅真は、今現在、自分が立っている場所の隣にある家へと顔を向けた。
「わっ」
顔を向けると、その先にある家を見て、驚きの声をあげた。
「すっっっごい大きな家!」
そこには、純和風の「屋敷」と呼べる大きな家が建っていたのだ。
「うわぁ~~~!りっぱだなぁ~~。それに素敵…」
今時めずらしい、純和風のとても大きな家に、魅真は感嘆の声をあげる。
そして、道を尋ねようと、一歩踏み出した時だった…。
「そこで何をしている?」
突然、後ろから男の声がかかった。
「え?
!!」
何事かと、後ろへ振り返った途端、魅真は目を見開いた。
「この家に、一体なんの用だ?」
そこには、リーゼント頭で葉っぱをくわえた、背が高くて体格のいい男が立っており、魅真を見下ろしていた。
その、見た目いかつい風貌からはとても信じられないが、学ランを着てるので、中学生か、せいぜい高校生であることがわかった。
魅真は、いかにも不良…といった感じの彼の姿を見て固まってしまい、今にも泣きだしそうな雰囲気だった。
「オイ…」
「ひっ」
再び声をかけられると、魅真はびくつき、肩がはねあがる。
「ごめんなさいごめんなさい!今すぐ退散しますぅ~~~!」
本当は道を聞きたかったのだが、ヤバい相手とは関わりあいになりたくない魅真は、脱兎の如く走っていった。
それを見た男は、唖然としてしまう。
《……ねえ…ちょっと……》
その時、彼が持っていた携帯から、不機嫌そうな男の声が聞こえてきた。
どうやら、電話の途中だったらしい…。
相手の声が聞こえると、彼は慌てて携帯に耳をあてた。
《僕からの電話を途中で放置するなんて、いい度胸だね》
「すみません…。今、あなたの家の前にいるのですが、見知らぬ女がうろついていたものでして…」
《見知らぬ女?》
「ええ。ですが、大丈夫です。その女、少し声をかけただけで、すぐに走り去っていきましたから。何も問題ありません。
委員長…」
一方で魅真は、さっきの家から500mほど離れた場所で立ち止まり、息を切らして、手を膝についていた。
「も……ハァ………ダメ……ハァ……息……くるし………ハァ……」
膝はガックガクで、生まれたての小鹿状態だった。
「こん……なに……ハァ………全力で…ハァ……走ったの……久し…ハァ………ぶり……」
足が震えるので、側にあった壁に寄りかかり、少しずつ息を整える。
「(ハァ…。それにしても……昨日の今日で、二人もやばい人に出会ってしまったわ。幸先悪すぎるよ。ここに来て、初めて会った(会話した)人が不良で、その次も不良なんて…。出会いの運ないのかな?
でもまあ、あの人は学校は違うっぽいし、気をつけてれば大丈夫よね。そういう人には会いたくもないけど…。でも……目も合わせず、口も聞かなければ大丈夫よね)」
心の中で、自分で納得をさせると、だいぶ息も整ってきたので、歩きだそうとした。
「あれ…?」
だが、一歩踏み出したところで足を止める。
「(なんか……ちょっとひっかかるような…)」
足を止めたのは、何かひっかかることがあったからだったが、考えても、それがなかなかわからなかった。
「(うん。とにかく気をつけよう)」
考えても答えが出なかったので、そのまま先へ進んだ。
しばらく進んでいくと、いきなり目の前の家から、魅真と同じくらいの男の子が、慌てて飛び出してきた。
その男の子は、飛び出してくると即座に携帯を取り出して電話をかけており、内容は聞きとれなかったが、何やらすごい勢いでまくしたてていた。
「ランボさんは、ガマンの子ーー!!」
男の子が携帯で話していると、男の子が背負っていた子供が、木にのぼって泣き叫んでいた。
「今度こそ、おまえなんかドガーンだ!ドガンドガンドカーンだ!!
バガァ!!」
そして、その子供は何かを手に持ち(魅真のいるところだとよく見えない)、その木が生えている家の中に投げつける。
「ぐぴゃあ!」
少しすると、すさまじい爆発音とともに、子供の叫び声が聞こえてきた。
「………な……何…?今の?」
爆発など、まず普通の一般市民が住む家では、起こることなどあり得ないので、魅真は呆然とした。
今の出来事で、男の子がまた携帯でまくしたてるようにしゃべり、家の中からは、外にいる子とはまた別の男の子の声が聞こえてくるが、当然魅真には、それどころではない。
怖がりな魅真であるが、何故爆発が起こったのか気になり、その家にそ~っと近づいて覗き見ようとした。
「ぅわああああ」
外にいた男の子に続くように、門から少し顔をのぞかせて中を見てみると、先程爆発に巻き込まれた子供が、泣きながらバズーカを自分の頭にあてて撃とうとしていたので、魅真はギョッとする。
だが、子供はなんのためらいもなくバズーカを撃ち、それを目にした魅真は顔が青ざめた。
バズーカが作動したことで再び爆発が起こり、何故かピンク色の煙が辺りに充満する。
「やれやれ。民宿の料理に、舌つづみをうっていたってのに…」
驚くべきことに、子供がいた場所に、黒髪の男性が、何故か刺し身をもって現れた。
「(えっ……何?この人。ひょっとして、さっきの子?いやいや、それよりも、なんで子供がバズーカなんて持ってるの?なんでその子は、自分にバズーカを撃ったの?なんでその子が大人になったの?どうなってるの?一体!)」
一般家庭の家で爆発が起こったり、子どもがバズーカを持っていたり、そのバズーカで自身を撃ったり、今までいた子供が突然大人になったりしたので、魅真の頭はパンク寸前だった。
一方中では、先程の男性が、何故か水着を着た外人の女性に追いかけられていた。
「殺す」などとぶっそうなことを言いながら、これまた何故か、ホールケーキを片手にもっているその女性は、拳銃を取り出し、男性に向けて撃ったのだった。
その弾は、男性にあたることはなかったが、家の塀をはね返ると、そばにいる男の子の頬をかすめた。
女性は次々に弾丸を撃ってきた。
弾はいろいろなところをはね返ったりあたったりしており、その一発が、男の子の眼鏡のレンズを割った。
当然男の子はおびえ、彼だけでなく、それを近くで見ていた魅真もおびえていた。
何しろ、一歩間違えば、その男の子自身が危なかったのだから…。
その間にも、弾丸は次々ととんできて、魅真の近くの地面にもあたった。
あとほんの数cmで自分自身にあたりそうな距離なので、それだけで恐怖をきざまれた魅真は、慌てて塀の向こうに隠れる。
がくがくと震えた足でなんとか避難すると、弾丸はとんでこなくなったので少しだけほっとしていた。
けど、ほっとしたのもつかの間、先程の女性が撃ったのとは、また違う銃声が聞こえてきたので、魅真はびっくりして、おそるおそる銃声がした方へ振り向いてみた。
「きゃああああああああああっ!!!」
振り向いた先には、眉間から血を流して、眼鏡の男の子の上に力なく倒れている、この家の男の子の姿があった。
当然、眼鏡の男の子も驚いて悲鳴をあげていたが、男の子の叫び声もかき消されるくらいの大きな声で、魅真は叫んだ。
「ひぃいいっ」
しかもそれだけでなく、突然男の子の服が盛り上がったので、魅真は思わず後ずさった。
しかし、後ろにあった塀で、それ以上後ろに行くことができず、魅真は少しでも離れようと、力が入らない手足を必死に動かして、横に逃げようとした。
「リ・ボーン(復活)!!死ぬ気でケンカを止めるー!!」
だが、これで終わりではなく、いきなり服が盛り上がったと思ったら、顔つきと人格が変わった茶髪の男の子が、まるで脱皮でもするかのように、パンツ姿で現れる。
あり得ない光景に、魅真は驚愕し、声すら出なかった。
「戦闘をやめさせる極意は、戦意を喪失させることだぞ。
両ほっぺを撃って」
近くで、先程大人になった子供とは、また別の子供の声がしたので、そちらを見ると、そこには赤ん坊がいて、持っていた拳銃で、茶髪の男の子の顔に弾丸を二発撃った。
弾丸は男の子の両頬に命中し、血がふき出したので、それだけでもぎょっとしてしまう。
「にらめっこ弾」
なんの躊躇もなく拳銃を撃った赤ん坊もだが、茶髪の男の子が、弾丸を顔にうけて、死なないどころか、頬が巨大な風船のようにふくらんだので、魅真はいろんな意味で驚いた。
そして、あまりにも不気味なその顔に恐怖心を抱き、顔面蒼白となり、白目をむき、魅真はとうとう気絶してしまった。
もうすでに、色々と限界がきていたのだが、この不気味すぎる巨大な顔に、とどめをさされたのである。
実はこれが、もうひとつの運命の出会いでもあるのだが……
そんなことはまったく知らない魅真は、今は、ショックと恐怖で気を失っていた。
こうして、ごくごく普通の女子中学生・真田魅真の、平々凡々な町・並盛町での、普通でない日常が幕をあけたのだった。
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