第八十九話 切り札
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瑠璃覇と蔵馬が黄泉と再会してから、だいぶ時が経った、ある日のことだった。
下校時刻となり、日も傾き始めた頃、夏休み後のテストの結果を見た海藤は、自分のクラスにいる蔵馬のもとにやって来た。
「おい、南野。ちょっとお前の答案見せろよ」
そう言って海藤は、蔵馬の許可を得ず、蔵馬の席に置いてある答案用紙を手にとり、それを見た。
「ふ…ん。計算途中の掛算で間違ったのか。お前らしいけど」
「どーーも」
ミスを指摘されるが、それでも蔵馬は、まったく気にすることはなかった。
「おい、また妙な難問かかえてるんじゃないのか?」
「まぁね」
今回のテストの順位は、自分が学年一位で蔵馬が学年二位。
海藤が気になったのは、そこだった。
いつも、あたり前のように学年一位をとる蔵馬が、いきなり学年二位になったことが、海藤はどうにも腑に落ちなかったのだ。
学年二位になったのは、もしかしたら、大きな悩みがあるからかもしれないと思った海藤は、蔵馬に問いだす。
「オレ達でできることがあれば、協力するぞ」
また、仙水の時みたいに大きな事件に巻きこまれてるのかと思った海藤は、蔵馬に申し出た。
「今度は、幽助や飛影と戦うことになった」
「な、何ィ!?……マジでか?」
けど、蔵馬の返事は、予想の斜め上をいっていたので、海藤は驚きを隠せなかった。
「ああ」
「その割には悲壮感がないな。むしろ楽しんでるみたいだぜ」
普通なら、仲間と戦うことになれば、悲しそうな顔をするところだが、逆に楽しそうな顔をしていたので、海藤は驚いていた。
「(バイオリズムのせいだろう。武術会以来……一か月に一度くらい、「南野秀一」でありながら、「妖狐蔵馬」になっている様な錯覚に襲われることがある。そんな時、ひどく好戦的になる自分に気付いた。
その周期が最近短くなっている。「キレる」と突然蔵馬に戻ってしまうことさえあった。黄泉に会って、その症状がさらに進んだ)」
その時、突然小さな機械音が、蔵馬のズボンのポケットから響いたので、蔵馬はそれを取り出した。
「ポケベル?銀か?」
「新しい弟だよ。面白がって使うんだ。今じゃパシリ扱いだよ」
「ふーん。ところで銀は?部活ない時は、いつも一緒だろう」
「ああ…。瑠璃覇なら、先に帰った。今日は用事があるそうだ」
「用事?最近多いな。何かあったのか?」
「いや、大丈夫。特に何もないよ。じゃあ、オレはこれで」
そう言うと、蔵馬は学校内にある公衆電話まで行き、電話をかけた。
第八十九話 切り札
電話をかけ終えると、蔵馬は、学校から外に出た。
「よ!秀兄ィ」
外に出ると、向かい側から一人の男子中学生が歩いてくる。蔵馬…南野秀一の新しい弟、畑中秀一だった。
秀一が声をかけると、途端に蔵馬の目が鋭くなる。
「近くまで来たもんだから、一緒に帰ろうと思ってさ」
蔵馬は秀一の前を通りすぎるが、それでも秀一は、気にすることなく蔵馬に話しかけた。
「わざわざ学校まで来るな。イヤでも家で会うんだ」
けど蔵馬は、どこか冷たい態度で言い放つ。
「まぁ、そう言うなよ。オレだって仕事さ。あんたが逃げるなんて、思っちゃいないよ」
秀一はどこか偉そうで、発言が、とても中学生のものとは思えなかった。
それから、何分かして家に着くと、家の門の前には、瑠璃覇が腕を組んで立っていた。
瑠璃覇は二人が来るのを横目で見ると、何も言わずに二人の後に続いて、家の中に入っていった。
「新情報だ。軀側の飛影ってヤツが、ぐんぐん力を伸ばしている」
「飛影が…」
三人は蔵馬の部屋にいき、蔵馬と秀一は話をしていた。
秀一は、あたり前のように蔵馬のベッドに腰をかけ、蔵馬は秀一の前に立ち、瑠璃覇は扉の前に立っていた。
「あんたの言う通り、軀の国も、雷禅の国も、下部組織に変動があるようだぜ」
秀一は話している途中で、まだ未成年だというのに、タバコを取り出して、タバコを吸うために、ライターで火をつけようとする。
だが、それを見た蔵馬が、素早く秀一の前まで移動し、タバコを取り上げた。
「空、黄泉に言われなかったか?人質は、丁重に扱えとな」
低い声で注意した相手は、弟の秀一ではなく、違う人物だった。
蔵馬に言われると、秀一の耳から気味の悪いものが出てくる。
それは、胴体がミミズのように長く、頭には大きな触角がある妖怪。
先程から、蔵馬がそっけない態度をとっていたのは、空が秀一の中に入っていたからだった。
「ムカツくヤローだ。口のきき方に気をつけろよ。オレがその気になれば、ガキの首は、すぐ胴から離れるぜ」
空は秀一を人質にとっているので、大きな態度で蔵馬に脅しをかけた。
それを聞いた途端、蔵馬と瑠璃覇の目が鋭くなる。
「バカかお前。人質は無事だから意味があるんだ。お前は命令通り、ただそいつに入ってればいいんだよ」
蔵馬は空の脅しなどものともせず、冷たい目で見下ろした。
「へへへへへ…。別に、殺さなくても方法はあるぜ。指を一本一本切り落とすとかな…」
二人の冷たい目に冷や汗をかいた空だが、それでも強気に出る。
「オレをあんまり怒らせるな。どうでもよくなることだって、たまにはあるんだぜ。
生きながら苦しめる方法なら、オレもいくつか知ってる。お前に試してやろうか?」
そう言った時の蔵馬は、南野秀一ではなく、妖狐蔵馬の時のような、冷酷な顔をしていた。
「それとも、瑠璃覇を相手にしてみるか?瑠璃覇がその気になれば、お前は一瞬で息ができなくなる。人質の首を胴から離す前に、お前の首が胴から離れることになるぞ」
更に追い討ちをかけるように言えば、瑠璃覇は空を脅すように、妖気を少しだけ放出した。
実は瑠璃覇は、護衛のために先に帰ったのだった。
護衛といえば、普通は護衛の対象に常にくっついているものだが、癌陀羅から送られてきた妖怪は、空一人だけ。妖怪に憑かれる(側にいる)という形で人質をとられているのは、弟である秀一のみ。
なので、秀一(空)のことは蔵馬にまかせ、自分は風の技を使い、志保利や畑中に妖怪がついてまわったりしないか、危害が及んでいないか、新しい妖怪が癌陀羅からやってこないかどうかを見ながら、また、その新しい妖怪が南野家に直接やってきて、家の中にひそんだりしないかどうかを、南野家の前にいて直接見張っていたのだった。
瑠璃覇がここ最近、蔵馬よりも先に帰っているのは、このためだったのだ。
蔵馬のために、蔵馬の家族を一緒に護ろうと決意した瑠璃覇は、蔵馬が言ったことが合図のように、妖気を放出すると、家が破壊されない程度の威力の、10cmほどの小さな竜巻を手の平の上に作りだし、空を威嚇をする。
「すまねェ、悪かった。ちょっと、調子に乗ってみたかったんだよ。へへへ」
二人の脅しにすっかりびびってしまった空は、萎縮してしまい、それ以上秀一の体を傷つけるような発言はしなくなった。
「ところで、お前達が黄泉様に約束したあの計画。半年以内に、妖力値100000P以上の者を6人連れて来る計画は順調なのか?」
「ああ。6人とも、すでに妖力値50000Pをクリアした」
「な…。本当か!?だが、そんな奴らが人間界にいれば、霊界が黙ってねェだろう?」
蔵馬が言ったことを疑っているが、ヘビに睨まれたカエル状態の空は、慎重に話を進める。
「もちろん秘密さ。一部をのぞいて」
そして、その週の日曜日。
瑠璃覇と蔵馬は、ある山奥に来た。
その山の中には、先がとがった大きな岩がいくつもあり、その岩にはしめ縄がかけられたり、たくさんの札がつけられた縄が、まるで、奥にある、扉がついた巨大な先がとがった岩を守るように、いくつも岩と岩につけられていた。
「おお、来たな」
そこへ足を伸ばすと、二人を幻海が出迎える。
ここは、幻海が住まう山だったのだ。
「どうです、あの6人は」
「また、少しは成長したか?」
「なかなか筋がいい。幽助より教えがいがあるよ」
三人が話していると、今度は後ろからコエンマがやって来た。
「よォ」
「ああ」
「ども」
「またあいつら、妖力が上がったぞ。そろそろ結界を強化せんと、霊界にバレるな」
そう言ってコエンマは、霊界へと続く道がある空を仰ぎ見た。
「それにしても、蔵馬、瑠璃覇、何を企んでるんだ。ワシらにくらい、教えてくれてもいいだろう」
その、6人の様子を見に行くため、上に続く階段を上がっていく瑠璃覇と蔵馬は、修業を頼んではいるが、詳しい内容は、誰にも伝えてはいなかった。
「魔界の均衡を保つためですよ。ひいては、霊界や人間界のためです」
コエンマに問われると、蔵馬が顔を後ろに向けて簡潔に答えた。
けど、どこか曖昧で、詳しい内容は教えはしなかった。
「確かに、雷禅、軀、黄泉が、互いに牽制してるから、魔界はあれでも平静を保っていた。しかし、雷禅が死ぬとなると、黄泉と軀の対決は避けられんぞ。
まさか、お前か瑠璃覇が第三勢力になるつもりか?」
「……さあな…」
「わかりません。幽助の出方次第ですね」
コエンマの問いに蔵馬が答えると、二人は再び上に二~三歩を進むと、また足を止める。
「不思議な関係だな。望まざる戦いに思えたがどうやらお互い、合意の上らしいな」
「私は別に、幽助や飛影と、戦いたくないわけじゃない」
「なれあいより、刺激を。そんな関係みたいです」
また、再び上にあがっていった二人は、目の前の、上部に大きなしめ縄がかけられた扉を開けて、巨大な岩の中に入っていく。
「6人が魔界に行くときは、ワシにまかせろ。特防隊も、大竹よりは、今の隊長の方が話がわかる」
特防隊の今の隊長は、蔵馬を死に追いやった人物なので、そのせいか、二人は肩越しに鋭い目でコエンマを見ると、扉を閉めた。
中は洞窟のようになっていて、あまり広くない道を、二人は奥へ奥へと進んでいった。
奥へ行くと、そこは道場になっており、下の方に6つの影が見えた。
二人は道が終わっているところまで歩いてくると、切り立った岩壁を降り、6人の前に立つ。
「よォ蔵馬、瑠璃覇」
そこにいたのは、暗黒武術会で戦った、酎、鈴駒、陣、凍矢、死々若丸、鈴木だった。
「酎、相変わらず酒臭いな」
「また飲んだのか?お前…」
「ぶはっはっはっは。オレの技は酔拳だ。酔うほどに強くなる。それにしても、自分でもビックリだぜ。こんなに妖力がアップするとはな」
「持つべきものは、優れた師匠達だな」
酎が豪快に笑いとばすと、今度は鈴駒が酎の肩にのっかり、うれしそうに笑っていた。
「んでも、幽助はもっと上にいってんだろな。早くもっぺん戦いてェな」
「はやるな陣。当面は、基礎体力の向上だ」
隣では、陣がはやる気持ちを押さえきれず、幽助との再戦を心待ちにしており、その隣にいる凍矢は、陣を冷静に止めていた。
「枯れかけた夢を咲かせてもらったこの鈴木。働きをもって、恩返しさせていただく」
「ケッ」
そして、鈴木はマジメな雰囲気だったが、鈴木の肩にいる、何故か鳥のような姿をした死々若丸は、ナマイキな態度をとっていた。
「理由はなんでもいい。あと半年で、今の妖力値を倍まで上げてもらいたい」
「「「「「「おっしゃあ」」」」」」
蔵馬に言われると6人は、陣と酎、鈴駒と凍矢、鈴木と死々若丸の組み合わせで組手を始めた。
「オレ達が、かつて武術会で戦ったという情報は、黄泉も知っているだろう。だから、あくまで幽助に雪辱を果たすため集まったということにしておいてくれ」
「ケ!!オレは本当に恨んでいるからな」
「死々若!!お前、まだそんなこと言ってんのかよ!!」
あれからだいぶ経ったというのに、未だに根にもっている死々若丸を、鈴木は叱る。
蔵馬と瑠璃覇が、黄泉に約束した期限まで、あと半年。
それまでに、6人の妖力値を、100000Pにまで上げなければならなかった。
それから6人は、幻海、瑠璃覇、蔵馬の指導のもと、一日も休むことなく修業に励んだ。
基礎体力をあげつつ、組手や技の向上を同時に進めていく。
そのことを何日も繰り返していき、あっという間に時間がすぎ去っていった。
そして、約束の半年後。
瑠璃覇と蔵馬は、6人を連れて、癌陀羅に戻ってきた。
玉座までやって来た6人を、妖駄はさっそく妖力測定器を使い、妖力値を測った。
「し、信じられん。本当に6人とも、妖力値100000Pを越えておる…!!」
6人の妖力値を測ると、本当に100000Pを越えていたので、妖駄だけでなく、鯱や他の二人の部下の妖怪も驚いていた。
「一体どうやって……!?御主ら、どんな妖術をほどこしたのだ!?」
「そんなものは必要ない」
「うまい食事と適度な運動。それだけですよ」
「うまい!?」
「あのドクみてーな薬草がか」
「ふーん。てきどなうんどー!?」
「ジゴクだ、あれは」
「冗談じゃねーべ」
「美しい特訓ではなかった」
蔵馬の言ったことに、6人は反論した。
鈴木は一人だけ、何やら勘違いをしていたっぽいが(本人は至って大まじめ)、6人の言葉から推測すると、想像を絶する、過酷な特訓だったということがうかがえる。
「よくやった。褒美をとらす。蔵馬、お前が第二軍事総長、瑠璃覇、お前は第三軍事総長となり、6人を指揮しろ」
「なっ」
ここに来て間もない、自分にとってジャマでしかない存在の二人が、いきなり昇進し、自分と同じ立場となってしまったので、鯱は声をあげる。
「危険ですぞ、黄泉様!!そやつら全て、蔵馬と瑠璃覇の子飼い!!謀反のおそれが……」
「だまれ鯱」
「う」
二人が自分と同じ立場になるのが気にくわない鯱は、黄泉に抗議するが、黄泉の短い一言で止められてしまう。
「貴様、この500年、一体何をしていた」
「くっ」
それは、自分が役に立たない無能だと言われているようなもの。
自分が仕える黄泉のきつい一言に、鯱は何も言えなくなってしまう。
「(おのれおのれおのれおぉぬをれェえ!!)」
とは言え、黄泉が言ったことは本当のことなので、強く出ることもできず、ただただ、瑠璃覇と蔵馬に対し、怒りを燃やしていた。
瑠璃覇と蔵馬は、玉座から退出すると、誰もいない廊下を歩いていた。
「(殺してやる!!)」
柱の影には鯱がおり、二人を殺す機会をうかがっていた。
怒りを燃やした鯱がとった行動は、自分を改めるのではなく、気にいらない相手を排除することだった。
こういうところが、先程の黄泉の口から出た言葉の所以なのだが、本人はそんなことはわかっていなかった。
「(奴らの妖力値など2000P足らず。頭でっかちの奸ギツネどもめが。目にものを見せてやる)」
持ってきた妖力測定器で、二人の妖力値を測ると、瑠璃覇は1986P、蔵馬は1902Pと低く、自分の妖力値の10分の1にも満たないので、余裕で勝てると思っていた。
「鯱…いるんだろ」
「!!」
「出てこいよ」
「いつまでかくれんぼをしているつもりだ?」
その時、突然瑠璃覇と蔵馬に声をかけられる。
いきなりのことに驚いたが、鯱は二人の前に出てくると、己の武器の、三つ又の槍を構えた。
「おとがめ覚悟の上か」
「こんなことをして…ただですむとでも?」
「ふん、証拠など残すか。骨ごとしゃぶってくれるわ」
二人が、自分の足もとにもおよばないくらい、低い妖力しかもっていないのがわかったので、鯱は強気に出ていた。
「黄泉は、実に辛抱強くなった。お前が、何人こんな風に幹部候補を葬ってきたか知らんが、黄泉はこの数百年、お前を倒せる人材を待っていたんだ」
黄泉が自分をここに呼んだ理由を見抜いている蔵馬は、淡々と真実を話す。
「ふざけるな。空!!オレが合図したら、すぐにガキを殺してしまえ」
蔵馬の発言に激怒した鯱は、電話を取り出し、人間界にいる、秀一に憑いている空に電話をかけた。
《鯱のダンナ、すまねェな。もうあんたの命令は聞けねェよ。長いものには巻かれろってな》
しかし、電話に出た空から出てきた言葉は、予想を裏切るものだった。
それは、自分の味方は誰一人いなくなったことを示しており、鯱はまさかの部下の裏切りに、顔が青ざめていき、冷や汗をかいた。
「何だと、オイ。もしもしもしもしィ!?」
予想外の返答に、どういうことなのか聞こうと思って話しかけるが、空からの返答はいっさいなかった。
「人質というのは、諸刃の剣。もっと頭をつかえ。…と言っても、次はないだろうがな」
「人質一つで、こうも差が出るのだな。黄泉なら実際には人質をとらずに、脅迫する方法をとる」
「御名答」
蔵馬が言ったことに同意するように、遠くにいても声が聞こえている黄泉は、それに答える。
「おのれ、くたばれ」
完全に頭に血がのぼった鯱は、己の武器で、蔵馬と瑠璃覇を倒そうとした。
しかし二人は、本来の妖狐の姿に戻り、蔵馬はバラのムチで、瑠璃覇は風の刃で鯱を切りきざんだ。
切られたことで、鯱の手から離れた、妖力値を計測する機械。
蔵馬の方を向いた測定器は、152000Pと表示されていた。
妖狐となった蔵馬の妖力値は、南野秀一の時の妖力値よりも…そして鯱の妖力値よりも、はるかに上だった。
「切り札は、先に見せるな」
「見せるなら、さらに奥の手を持て か」
この瞬間、蔵馬は黄泉の軍事参謀総長、瑠璃覇は第二軍事参謀総長となる。
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