最終話 ともに未来へ
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魔界統一トーナメントが終わり、瑠璃覇と蔵馬の二人が人間界に戻ってきてから、数ヶ月が経ったある日、瑠璃覇の家のチャイムがなった。
「蔵馬」
瑠璃覇の家に来たのは蔵馬で、扉を開けて蔵馬の姿が見えると、瑠璃覇はうれしそうな顔をした。
「やあ瑠璃覇。迎えに来たよ」
「ああ、行こうか」
瑠璃覇は外に出ると戸締まりをして、蔵馬と一緒に出かけていった。
最終話 ともに未来へ
家を出ると、瑠璃覇と蔵馬は最寄りの駅まで行き、そこで桑原と合流した。
「そっかぁ。みんな負けちまったか…」
「いい戦いはしたんだけどね」
「それぞれの相手が強くてな」
合流し、ホームの椅子にすわると、瑠璃覇と蔵馬は魔界統一トーナメントのことを、桑原に話していた。
桑原は缶ジュースを片手に、二人の話を聞いている。
「浦飯や瑠璃覇まで負けちまうとはなァ…。
あーーあ。よかったオレ、行かねェで」
「ふふっ。それはわからないよ」
「よせやい。自分の力がわからねーほど、バカじゃねーよ」
「あーー、カズさんだー!」
「おーい」
蔵馬と桑原が話していると、そこへ、二人の女の子が階段を降りて来て、桑原に声をかけた。
「なんだよ、おめーらか」
その二人は、桑原の知り合いだった。
「どこ行くのー?」
「あ?へっ…。ちょっと、ヤボ用でな」
行き先を問われるが、詳しいことは言えないので、桑原は適当に誤魔化す。
「となりの人達彼女ー?二人もいるんだ」
「紹介しろよ」
二人と言われたことで、瑠璃覇だけでなく、蔵馬まで含まれていることがわかった桑原は、飲みかけていたジュースを吹き出した。
「バカヤロー!!二人とも彼女じゃねーよ。それに、ポニテの奴は女だけど、その隣の奴は男だよ!!」
「「ウソォー。マジかよォー」」
蔵馬は中性的な顔立ちをしているので、女だとばかり思っていた二人の女の子は、とても驚いていた。
「ひょっとして、ニューハーフか?」
「カズさん、男もイケルんだぁーー」
「やかましぃいい!!オレにはそんな趣味はねーー!!」
桑原が叫んでいると、二人のうちの一人、瑠璃覇と同じポニーテールの女の子は、蔵馬を好奇の目でジロジロと見ていた。
しばらくすると電車が来て、二人の女の子は電車に乗りこんだ。
「ねえねえ、カズさん。今度どっか連れてってねーー」
「またなー」
二人は桑原にあいさつをした後、顔を見合わせると、蔵馬のことでクスクスと笑った。
そして、電車の扉は閉まり、二人を乗せた電車は駅を出発した。
「怒るなって」
「別に」
電車がいなくなると、心中察した桑原は蔵馬をなだめるが、蔵馬は別に…と言うわりには、声がいつもよりも低く、不機嫌だというのがわかった。
蔵馬と桑原の間では、先程の女の子二人の反応や言動がツボに入った瑠璃覇が、声を押し殺して笑っていた。
「瑠璃覇……何笑ってるの?」
「いや……別に…」
蔵馬が問いかけると、瑠璃覇は笑いながら誤魔化した。
そんな瑠璃覇を見た蔵馬は、かるくため息をつく。
「フフッ。人気あるじゃないか、女の子に」
ため息をつくと、蔵馬は気をとりなおして、桑原に話しかけた。
「あぁー…。入学早々、地震予知とか調子こいてやっちまったからな。珍獣扱いだぜ、まるっきり」
「桑原くんも、すっかり高校生してるんだ」
「結構満喫してるんだな」
「まーな」
話していると、三人が乗る電車がやって来たので、三人は電車に乗りこんだ。
「骸工大付属なら、受験は楽勝だろ?」
「バカ言ってんじゃねーよ。付属といっても、進級試験はあらーな。普通の受験生と変わりゃしねーよ」
電車に乗ると、人がいっぱい乗っていたので、三人は座席の上にあるつり革につかまり、先程の話の続きをしていた。
「もう二年か」
「「え?」」
桑原は少し考えこむと、突然話を変えてきた。
「浦飯と最後に会ってからよ」
「そんなんなるかな」
「あまり実感わかないけど…」
「ああ。オメーらとは時たま会って、いろいろ話聞いてたからあんまり実感はねーけどよ。結構経ってるぜ」
「変わらないよ。幽助は」
「そうだな。ずっとあのまんまだ」
「戻って来ねーのかな、あいつ」
「いろいろと後処理をするって言ってたから。それに、螢子ちゃんに三年待てみたいなことも言ってしまったみたいだしね」
「あのバカ…。三年って約束にこだわってんのか?負けたんだからさっさと帰ってくりゃいーのによ。その方が、螢子ちゃんだって喜ぶじゃねーか」
螢子が…とは言っているが、それもあるだろうが、桑原は自分が幽助に会いたいので、そう言っているようにも見えた。
しばらくすると、三人は目的の駅に着き、そこの喫茶店で時間をつぶしていた。
「しかし、よーく考えてみると、おかしな話だよな」
「何が?」
「どこがおかしいんだ?」
「いや、だってよ。二年前には、魔界の穴のことで、仙水と大騒動やってたじゃねーか。その時穴はふさいだんだよな。なんでおめーら、魔界と人間界、行ったり来たりできるんだよ?」
「ああ。それは、霊界が魔界との結界を解いたからさ」
「なんだ、そうだったのか」
桑原が、瑠璃覇と蔵馬が、魔界と人間界を自由に行き来できる理由を問うと、蔵馬は飲もうとしていたコーヒーから口を離し、あっさりと桑原の疑問に答えると、桑原は納得をした。
「何ィィーーー!?」
けど、すぐにノリツッコミのような感じで、叫びながらその場を立ちあがった。
「結界解いたって、そんじゃお前、どこに妖怪がいるか、わかりゃしねーじゃねーかよ!!」
どこに…というか、目の前に二人いるのに。そして、今まで散々妖怪と戦ったり関わったりしてきたのに、今更ビビる桑原に、瑠璃覇は呆れていた。
「何大声出してんだい?みっともない」
すると、そこへ静流がやって来た。
「ああ、静流さん」
「…ども」
「よっ。蔵馬くん、瑠璃覇ちゃん、久しぶり」
瑠璃覇と蔵馬が声をかけると、静流は笑ってあいさつをした。
「姉ちゃん、気ィつけろよォ!!その辺に、妖怪がいるかもしれねーぞ!!」
「何言ってんだい?お前」
桑原は辺りを見回しながら警戒をして、静流に注意をするが、静流は平然として構えていた。
「心配することはないよ。紳士協定を結んだからね。妖怪達は、悪事を働けないことになってるのさ」
「よくわかんないけど、そういうことだとさ」
「なんだよ。びっくりさせんなよ」
「お前が勝手にびっくりしたり、さわいだりしてただけだろ」
桑原が勝手にさわぎたててただけなので、瑠璃覇が呆れていると、外から螢子がやって来て、カフェの外側の窓の、瑠璃覇達がいるところをノックした。
「あら、螢子ちゃん」
「おっ。雪村、髪伸ばしたんか?」
「似合うじゃないの」
「よっしゃあ。じゃ、行くとするか」
螢子が来て、全員そろったので、彼らは目的の場所へ足を運ぶこととなった。
それから一行は、電車に乗りこんだ。
「何やってんだよ!!発車しちまうぞォ!!」
ホームの売店では、静流が人数分の弁当と飲み物と新聞を買っていたが、発車するベルが鳴ってるのにあわてる様子がないので、桑原が叫んだ。
電車が発車して、全員が席にすわると、桑原は静流が買った弁当を、勢いよく口の中にかっこんでいた。
「さすが姉ちゃん。気がきくねェ。ちょうど腹減ってたんだよ。
あら?三人とも食べないの?ほんじゃ、もらってもいいかな?それ」
「まー、うるさい奴だね。だまって食いな」
弁当に手をつけずにすわっている瑠璃覇達に聞いている桑原を、静流は怒ると、すぐに読んでいた新聞に顔を戻した。
「ん?」
そして、ページをめくると、目を丸くする。
「この宇宙人て…」
「宇宙人?」
「また、いい加減なこと書いてやがんのか?その新聞」
そんな非現実的なことがあるわけがないと、桑原は疑った。
静流の隣にすわっている螢子は、静流が言ったことを確かめるために、静流が読んでいる新聞を見てみた。
「これ、飛影くんじゃない!!」
「何!?」
螢子の口から出た言葉に、桑原は、思わず弁当を食べる手を止めて、静流から新聞をうばい、記事を見てみた。
「こりゃ確かに飛影だ」
その記事には、顔が異様に大きく、体が顔に反して小さくなっているが、確かに飛影が描かれていた。
「飛影は魔界にいるんじゃねーのか?」
「飛影は、パトロールをしているんだよ」
この記事をふしぎに思った桑原は、事情を知っていそうな、隣にいる蔵馬に聞いてみた。
「結界を解いてしまった弊害で、何かの拍子に人間が魔界にまぎれこむケースがあるからね」
質問されると、蔵馬は桑原の疑問に簡潔に答えた。
「はぁ~~あ。飛影がねェ」
あの飛影が、そんなことをしているなど、飛影の性格を知っている桑原は、なんだか信じられない思いだった。
「彼は彼で、元気にやってるよ」
「そうだな…」
自分は蔵馬とともに人間界に帰り、飛影は魔界に残った。
袂をわかち、それぞれ別の道を歩んでいる。
でも、人間界に帰ったのが瑠璃覇の意志であるように、魔界にそのまま残ったのも、飛影の意志だった。
二度と会えないわけではないが、瑠璃覇はどこか寂しさを感じていた。
「ああ…。そらそうと、バーサンなんの用だって?」
話しているうちに風景が変わってきて、段々目的の場所に近づいているということがわかり、急に思い出したように桑原は問いだす。
「知らないわ。久しぶりに、みんなで来いって言ってただけだから」
「新しい入れ歯でもいれたのかな?」
「まさか」
「そんなわけないだろ…」
本気なのか冗談なのかよくわからない桑原の言葉に、瑠璃覇と蔵馬は冷静につっこんだ。
電車から降りると、一行は幻海が住む寺まで行った。
長い階段を上がっていき、重い扉を開け、寺の中に入る。
「いいところだね~~」
「心が落ちつくってもんだぜ」
桑原と静流が話していると、寺の障子が開き、雪菜が姿を見せた。
「あ、みなさん」
「あーーっ。雪菜さぁーん!!」
雪菜が姿を見せると、桑原はうれしそうに目を輝かせて、雪菜のもとへ走っていく。
「和真さん、こんにちは」
「元気にしてましたぁ?」
「ええ。みなさん、いらっしゃい」
雪菜は桑原とあいさつをすると、桑原の後に続いて、自分のところまでやって来た瑠璃覇達にもあいさつをする。
「久しぶり」
「元気そうじゃない。寂しくなかった!?ばあちゃんと二人っきりで」
「はい。和真さんが、時々遊びに来てくれましたから」
「へぇ~え」
「カズ~。お前、おさえるとこおさえてんじゃない?」
「いやあーーー。な、な、何言ってんだか。いや、人間界に残ってんのはオレだけだろ?だからよ、瑠璃覇と蔵馬からの報告をしに来てたんだよ」
桑原の雪菜に対する想いなど、周りの人達はとっくのとっくにわかってるというのに、桑原は顔を赤くして、あわててそれっぽいことを四人に言った。
「雪菜ちゃん、幻海師範は?」
「ええ、こちらに」
雪菜がそう言うと、中から幻海がやって来た。
「来たかい」
幻海が来ると、一同は中の広間に通された。
「そうか。まだ戻ってないのか、あいつは。
むこうで何をしている?」
「オレも…詳しいことは」
「私も…」
幽助がいないので、幻海が問うてみるが、瑠璃覇にも蔵馬にも、詳しいことはわかっていなかった。
「ほーーんとに戦うことしか考えてねー奴だからな。あのバカ」
桑原が呆れるように言えば、隣にいた静流に、空気を読めとばかりにひじでつつかれる。
「ん?あ…」
ひじでつつかれて、ようやく螢子の悲しそうな…寂しそうな顔に気づき、しまったと思う桑原だった。
「でも、ほっとしたわ。久しぶりにおばあちゃんの顔見たら」
少しだけ重い空気が漂っていたが、螢子がそれを打ち破るように、努めて明るくふるまった。
だが、無理をしているのは丸わかりだった。
「そうだね。あたしもほっとしたよ」
「実はオレもなんだよ」
「ふん。あたしゃ、あんた達の精神安定剤じゃないんだよ」
螢子に同意するように、静流と桑原が同意すれば、幻海は相変わらず悪態をついた。
けど、悪態をつかれても、それでも一部をのぞいて全員笑っていた。
「よっ!!みなさん、お集まりだねー」
そこへ、彼らの後ろの扉から、ぼたんが入ってきた。
「ぼたんさん」
「お久しぶりぃ」
「なんだよ。ぼたんちゃんまで呼び出されたのかよ?」
「わしもじゃ」
後ろのぼたんがいる方へ顔を向け、話していると、横からコエンマの声が聞こえてきた。
「おっ、おめー、どっから入ってきた?」
「よっ。相変わらずバカヅラしとるな」
「ほっとけ!!」
コエンマのいきなりの悪口に、桑原は噛みついた。
「さて、みんなそろったようだね」
ぼたんとコエンマがやって来て、全員がそろったことで、幻海が口を開いたので、ぼたんとコエンマもその場にすわり、全員が幻海に注目した。
「今日集まってもらったのは、他でもない。お前達に、わしが死んだ時のことを話しておこうと思ってな」
本題は明るい話ではなかったので、少しの間、部屋の中に沈黙が走る。
「へへっ。なんでェ、やぶから棒に」
けど、その沈黙を破るように、桑原が明るく笑った。
「縁起でもない」
「死ぬなんて…」
「おばあちゃん!!」
「嫌だよ。そんな話」
続いて、静流、雪菜、螢子、ぼたんも、幻海に向かって叫んだ。
「まあいいから、黙って聞きな」
螢子達に詰め寄るように叫ばれると、幻海は静かに言葉を発し、横の障子を開いて、敷居の前に立った。
「もしわしが死んだら、ここをお前達に譲る」
「え?」
「人間と妖怪が、本当に共存できる時がやってくるには、まだまだ時間がかかるじゃろう。ここは、一番近い町まで車で数時間。人間が住むには不便な場所かもしれん。だが、妖怪達の隠れ家としてはもってこいだろう。自然のままここを残し、そして有効に使ってほしい」
それは、幻海がこれから先の、人間と妖怪とのことを考えたことだった。
遺言のようなことを聞くと、そこで話は終わりとなり、一同は寺から出た。
門を出てその先にある景色を見てみると、そこは見渡すかぎり山があり、大自然がひろがっていた。
「見渡すかぎり、幻海師範の土地だとはね」
「すごいな…」
「自然のままにか…。確かに、人があれこれいじくっていい場所じゃねーよな」
「ちょっと寄り道して帰ろうか」
「お!!いいねェ。
雪菜さんも行きましょうよ」
「はい」
静流が提案すると、桑原が大賛成し、雪菜を誘った。
行き先が決まると、一同は寄り道をするために石段を降りていく。
「幻海師範、あんなこと言って、こん中で一番長生きしたりしてねー」
「言えてるね」
ぼたんが言ったことに、瑠璃覇以外の女性陣が笑っていると、瑠璃覇と蔵馬はふと、後ろにいる桑原が、幻海の寺がある上を眺めていることに気がついた。
「どうした?桑原くん」
「何見てるんだ?」
二人に声をかけられると、桑原は二人の方へ体を向ける。
「へっ…。浦飯と瑠璃覇とオレが、ばーさんと会ったのも、このうすら長ェ階段登って、あの弟子入り選考会とやらに出たのが初めてだったんだ。四聖獣と戦ったり、垂金の別荘で暴れたり、はては、暗黒武術会なんてのに出ちまったりな…。浦飯の奴なんか、魔族にまでなっちまってよぉ…。
すべては、この階段から始まったみてーな、そんな気がしてな」
「いろいろなことがありすぎて、全部思い出せないくらいだな」
「ああ」
「私は覚えてるよ。私は、最初は嫌々幽助のパートナーをやっていた。幻海の弟子選考会の時は、借りを返すためだった。けど、いつの間にかそれだけじゃなくなった。
最初は蔵馬以外の奴はどうでもよかったけど、幽助や…桑原や飛影にも、蔵馬とはまた違う意味で、特別な感情を抱くようになった。大切だって思った。護りたいって思うようにもなったよ。幽助達のことが好きだから、霊界探偵のパートナーをやってたんだ。そしてまた……。
ここに来た時は、早く魔界に帰りたいと思っていたけど……今は人間界にいたいって思っているよ」
三人は、幽助とともに戦うようになってからのことを思い出しながら、どこかしんみりとしていた。
「おーーい!!」
三人が話していると、下からぼたんが三人を呼ぶ声が聞こえたので、三人は下へ顔を向ける。
「何やってんだーい」
「そんなところでたそがれてんじゃないよ」
「あああああ!!雪菜さぁーん!!僕を置いてかないで」
見てみると、女性陣とは結構距離が空いていたので、桑原があわてて下へ降りていくと、女性陣の笑う声がした。
一行がやって来たのは、海だった。
海に着いた時には夕方になっており、海の水がオレンジ色にそまっていた。
「ひゃーーー。絶景かな絶景かな」
「こんなにきれいな夕日、初めて見ました」
「そうなんですか?かぁあーー。生きててよかったぁあ!!」
「雪菜ちゃん、行こう!!」
「はい」
「あ、あら?」
螢子が雪菜を誘うと、二人は海に向かって走り出したので、桑原は呆然とした。
「あたしも行こうっと」
打ち寄せる波にはしゃいでいる螢子と雪菜を見ると、ぼたんもくつ下とくつをぬいで、二人のもとへ駆けていった。
「よっしゃーー。いっちょくらげでも探すか」
参加するぼたんを見て、桑原もくつ下とくつをぬぎ、後を追いかけた。
そんな四人の姿を、瑠璃覇、蔵馬、静流は、後ろにある船の近くで見ていた。
螢子と雪菜は、波打ち際を歩いていた。
「きゃっ」
急に、自分の足もとに波がきたので、雪菜は短い叫び声をあげる。
「うふっ。気持ちいいー」
驚いたけれど、それすらも楽しい雪菜は笑顔だった。
「あ、きれいな夕日」
ふいに海のむこう側に目を向けると、真っ赤に燃えるような夕日が見えたので、雪菜は感嘆の息をはいた。
「昼間も、とってもきれいよ。空も海も真っ青で。私は、昼の海の方が好きだな。
今度見に来ようね」
「はい」
「雪菜さぁーーーん!!」
螢子と雪菜が話していると、少し離れた場所から、桑原が雪菜を呼ぶ声が聞こえてきたので、二人はそちらの方へ顔を向けた。
「見てくださーーい。この大きなヒトデ!!」
「貝がらもこぉーーんなに!!」
そこには、桑原の上体くらいあるのではないかというくらいの巨大なヒトデを持った桑原と、両手にあふれんばかりの貝がらを持っているぼたんがいた。
「わぁあーーすごーい」
巨大なヒトデと貝がらを見ると、雪菜は二人のもとへ走っていった。
けど螢子だけはそこに残り、顔を再び海に向けると、海のむこうにある夕日をみつめていた。
思い出すのは、二年前に魔界に行ってしまった幽助のことだった。
「バッカヤローー!!」
そして、いきなり海に向かって大きな声で叫び出したので、全員が何事かと、螢子の方に注目した。
「幽助ぇえ!!もたもたしてないで、早く帰ってこおーーーい!!三年以上は待たないぞおーー!!バカ幽助ぇえーーー!!」
それは、螢子がずっと胸に抱えこんでいた不満だった。
「螢子ちゃん…」
螢子の胸の内を聞くと、全員どこかしんみりとしてしまう。
「そんなに待たせねーよ!!」
「え…」
螢子がどこか沈んだ顔をしていると、突然螢子の隣から、幽助の声が聞こえてきた。
その声に、螢子だけでなく、桑原やぼたん、雪菜、瑠璃覇、蔵馬、静流も反応し、そちらに注目する。
声がした方には幽助がおり、螢子がいる方へ向かって、ゆっくりと歩いてきた。
「よっ!!ただいま」
幽助の顔を見ると、螢子はゆっくりとした足取りで、幽助の方へ歩いていく。
「幽助ーーーー!!」
足は次第に早くなり、螢子は走りながら幽助のもとへ行き、うれしそうな顔で幽助に突進していき、勢いのままに抱きついた。
その勢いで、二人は砂浜に倒れる。
「いてェ…。何すんだよ、いきなり」
自分が下になっているため、ダメージは全部自分にきたので、幽助は文句を言った。
けど、その後螢子にキスをされたため、呆然として固まってしまった。
しかし、その後すぐに波がきて、二人は波に覆われてびしょぬれになってしまい、桑原、ぼたん、雪菜は目を丸くし、瑠璃覇、蔵馬、静流は笑っていた。
波がひいた後、幽助と螢子はその場にすわり、呆然としていたが、すぐに笑顔になる。
「何すんだ、このアマぁ!!」
そして、上着をぬぐと、幽助は螢子のもとへ走っていく。
「待て!!螢子、こらァーー!!おいっ」
幽助が来ると、螢子は幽助から逃げていった。
幽助は螢子の後を追いかけ、螢子は海の方へ逃げていくと、海の水を幽助にかけ始めた。
水をかけられると、幽助も負けじと、螢子に水をかける。
その様子を、桑原は笑いながら見ていた。
しかし、急に自分に水がかかったので、呆然とした。
「バーーカ」
水をかけたのは、もちろん幽助だった。
「ヤロォオーー!!」
熱くなった桑原は、幽助のもとへと走っていった。
「行こう」
「うん」
続いて、ぼたんと雪菜も走りだした。
「たりゃああ!!」
「おっ」
桑原は幽助に突進すると、幽助の首を右腕でしめ、左手で幽助の顔をぐりぐりとした。
「このやろォ。おめェ、魔界の王になるんじゃなかったのかァア?」
けど、幽助も桑原の首に腕をまわしてやり返した。
「おう!!なってみっかな。また、一から挑戦だ!!」
幽助にやり返されると、桑原は反撃し、幽助の上体を足で固定し、右腕をねじりあげた。
「その前に、オレがぶっ倒してやらァ!!」
「へっ!!やれるもんならやってみな!!」
二年前と全然変わらない、幽助と桑原のじゃれあい。
いつも通り明るくふるまっていても、どこか静かで元気がなかった桑原。
桑原もなんだかんだと、幽助が帰ってきたことがうれしかったのだ。
その後は、螢子、ぼたん、雪菜で水をかけあったり、ぼたんが桑原にしめられている幽助に水をかけたり、桑原が幽助を海の中に投げたり、ぼたんが桑原に突進して海の中に入ったりたりと、もうめちゃくちゃな状態だった。
「まったく…。相変わらずバカな奴らだな」
そんな幽助達を、少し離れた場所にいる瑠璃覇は、悪態をつきながらも笑っていた。
瑠璃覇もまた、幽助が戻ってきてくれてうれしいのだ。
その後、水のかけあいもほどほどに、瑠璃覇達は波打ち際に並び、全員で海のむこうに沈む夕日を見ていた。
「そろそろ戻ろうか」
「そうね。服をかわかさないと風邪ひいちゃうし…。幻海師範のところに行って、休ませてもらおうかね」
「そうですね。それじゃあ私、お風呂わかしますね」
しばらくすると、だいぶ日も沈んできたので、瑠璃覇、蔵馬、静流以外の者達は、海の中に入ってびしょぬれになってしまったので、いくら冬でないとはいえ、このままでいると風邪をひく可能性があるため、幻海の寺で休ませてもらうことに決定した。
「なら、早く行くぞ」
瑠璃覇はそう言うと、全員の周りに風を起こした。
数秒後、一同は幻海の寺の庭に着いた。瑠璃覇は風の移動術で、全員を幻海の寺まで移動させたのだった。
「おやおや。お前達、帰ったと思ったら戻ってきたのかい」
「プーープーー」
風がおさまると、幻海が話しかけてきた。
幻海は縁側にすわり、一人でお茶をすすってくつろいでいたが、急にそこに瑠璃覇達が現れたのだ。
いきなりのことだったが、もとから動じるような性格じゃないので、そこまで驚いてはいなかった。
幻海の後ろでは、身を丸くしていたプーが幽助の存在に気づき、うれしそうに鳴いていた。
「よっ。プー、ばーさん、久しぶりだな」
「何が久しぶりだい。さっき会ったばかりだろう。いきなりあたしの寺を入り口に帰ってきたと思ったら、いきなりそいつらを追いかけて海まで行って、またここに戻ってくるなんて、本当に勝手な奴だよ。しかもなんだい?その格好は。びしょぬれじゃないかい」
「しょーがねーだろ。ぬれてんのはなりゆきだよ。なりゆき」
相変わらず悪態をついてくる幻海に、幽助はムキになって言い返す。
「何やってんだい?水で体が冷えて、風邪引いちまうよ。さっさと風呂に入っといで」
けど、なんやかんやで彼らのことを心配している幻海は、風呂を進めた。
それは、心配しているのと、今日はここに泊まっていってもいいという意味だった。
夜……。
服をかわかして、風呂に入ってあったまった後は、広間で小さな宴会が行われた。
「しっかし、瑠璃覇も変わったよな」
宴会が始まり、桑原の口から出た開口一番が自分の話題だったので、突拍子もないことに、瑠璃覇は目を丸くした。
「なんだ?いきなり…」
「だってよ。今までは、移動術を使ってたのって、蔵馬に言われてからだったのに、自分から使うなんてよ。魔界統一トーナメントがある前と顔つきも変わったし、何かあったのか?」
「…まあ……いろいろあったんだよ。トーナメントでな」
「ふーーん。あとよ、さっき移動術で、なんで全員運べたんだ?お前の今の妖力だと、一日に三回。一度に二人が限界なんだろ?それだったら、六人までしか運べねーはずじゃねーか。なのになんで、さっきおめーを合わせて八人もいたのに、全員運べたんだよ?」
「それは、今まで抑えていた妖力を、本来の妖力に戻したからだ」
「え!?そ、それは…いいのか?つーか、よく霊界が許したな。霊界に、妖力を抑えて生活するように言われてたんだろ?」
「それは、もうそのような必要がなくなったからだ」
再度疑問に思ったことを尋ねると、今度は瑠璃覇ではなく、近くにいたコエンマが答えた。
「どういうこったよ?」
「以前、暗黒武術会の決勝戦の時に、蔵馬を襲ったのは、瑠璃覇を抹殺するためだと言っただろう?あと、人間界に滞在する条件として、瑠璃覇に不利な条件をつきつけたとも…」
「ああ」
「いろいろとあってな。詳しくは言えんが、蔵馬が今の姿になったのも、瑠璃覇に不利な条件をつきつけたのも、裏で画策する者がおって、その者とオヤジが手を組み、その者を通じて、オヤジが、蔵馬を襲うことや、瑠璃覇に不利な条件をつきつけさせることを提案し、わしにそうするように命じたのだ」
「おいおい、そりゃヒデーじゃねーか」
「ああ。だが、もうその者はどこにもおらんからな。それにここだけの話、実は瑠璃覇が人間界に滞在するようになってから、人間界にいる妖怪達の犯罪件数が少なくなっていったのだ。驚くほどおとなしくなってな。皿屋敷市を中心に、年々活動が鎮静したり、犯罪がなくなっていった。確かに瑠璃覇はS級妖怪で、人間界にとっても、霊界にとっても、魔界にとっても脅威となる存在だ。だが同時に、最強の盾と矛でもある。これからも、魔界屈指の実力者と言われている瑠璃覇がいるというだけで、人間界に悪さをする妖怪もいなくなるだろうしな。力をもとに戻せば、更に減るだろうと思ってな。
それに、この18年間で、瑠璃覇の人となりがわかったことだしな。以前聞いたのだが、瑠璃覇は18年前、人間界には、本当にただ純粋に蔵馬を探しに来ただけで、人間界に危害を加える気はないと言っておったのだ。
それに、この前のトーナメントの一件で、瑠璃覇はもう、よほどのことがなければ、戦うことをしないとも言っておったしな」
「そうだったのか…」
コエンマにいろいろと説明をされると、桑原は納得をした。
「おっ!!そーいえば」
桑原とコエンマが話していると、幽助は急に何かを思い出したように、大きな声をあげた。
「瑠璃覇ぁ~~。蔵馬ぁ~~」
そして、ニヤニヤと笑いながら、瑠璃覇と蔵馬の間にやって来て、二人の肩に腕を置いた。
「なんです?」
「どうかしたのか?」
こういう時の幽助は、ろくなことを考えていないので、瑠璃覇は嫌な予感がした。
「お前ら、その後どうよ?結婚とか、プロポーズとかしたのか?」
嫌な予感は的中し、幽助は下衆な勘ぐりをしてきたのだった。
「なにィ!!結婚!?」
幽助の話に、桑原は強い反応を示した。
「あっ。そーいえば、そんな約束をしてたって言ってたね」
そして、あの時トーナメントを見ていたぼたんも、思い出したように話す。
「よかったじゃないか。幸せにね、二人とも」
トーナメントのことは、聞いたことしかなかった静流は二人を祝福した。
「結婚?素敵だわ」
そういう話に興味津々な女子高校生の螢子も、目を輝かせて反応をした。
「おめでとうございます。瑠璃覇さん、蔵馬さん」
そういう話に特別興味があるわけではないが、幽助の話に雪菜までも反応し、静流のように、二人を祝福した。
「いや……オレ達は、プロポーズとか結婚とかはまだ……」
「それに、結婚の約束はしていない。生涯を、ずっとともに生きるということを約束しただけだ」
「だから、それが結婚ってことだろ?」
「照れんな照れんな。おーーし!!今日はそのことについて、詳しく聞かせてもらおーじゃねーか!!」
幽助だけでなく、桑原までものりのりで、周りも興味津々といった感じなので、これは簡単にはぬけられそうにないと、瑠璃覇と蔵馬は痛感した。
あの後、予想通り、瑠璃覇と蔵馬は質問攻めにあったり、からかわれたりして、解放されたのは二時間後のことだった。
「ハァ…。つかれた…」
「オレもだ…」
二人は今、寺の門の前の階段にすわっていて、やっと解放されたことにほっとしていた。
「まさかあの場で、蔵馬との約束のことを話題にされるとは思わなかった。人間界でも霊界でも魔界でも、男も女も、基本ああゆう話が好きだな」
悪態をつきながらも、瑠璃覇は笑顔で、楽しそうな顔をしていた。
「瑠璃覇、本当に変わったね。暗黒武術会の時に、女性達に買い物に誘われた時は、一刀両断で断っていたのに」
「そうだな。正直、何を話していいかはまだわからないが、不快ではないよ」
「そうか」
「蔵馬のおかげだ」
「え?」
「私に、好きな者や信頼できるものができたのは、蔵馬のおかげなんだ……」
「どういう…こと?」
他者に対して、好きという感情を抱くようになったのも、信頼するようになったのも、すべて瑠璃覇自身の心だというのに、何故自分のおかげなのかわからず、蔵馬は疑問に思った。
「私は、蔵馬が襲われてここに来なければ、ずっと魔界にいた。幽助達と出会うことも、華炎を倒すこともできなかっただろう…。
人間界に来て、霊界探偵のパートナーにならなければ、幽助、桑原、飛影とも出会わなかったし、好きになることも、信頼することもなかった。
幽助がいなければ、華炎を倒せなかっただろうし、華炎を倒していなければ、蔵馬と幽助と桑原と飛影以外の者達のことを、認めることもなかっただろう。
何よりも、蔵馬を好きになっていなければ、他者を好きになったり、信頼したり、楽しいという感情や、うれしいという感情を抱くこともなかった」
「それは、大げさなんじゃないかな?」
「そんなことはない。
華炎を殺すことは、私が2000年以上願ってきたこと。私の宿願だった。
けど……実際に華炎を倒して勝った時はうれしかったけど……気を失って、目が覚めた時、ひどい虚無感に襲われたんだ。
あんなにも願っていたことなのに……念願が叶ったのに……私がやってきたことは、一体なんだったのかと思うくらいむなしくなった。
だけど……蔵馬の顔を見た時、その思いはすぐになくなった。
生きて、また蔵馬と一緒にいれるんだと思ったら、すごくうれしくなった。その気持ちは、目覚めた時に感じた虚無感など、一瞬にしてふきとばしてしまう。それほどのものなんだ。
だから、今の私があるのは、本当に…蔵馬のおかげなんだ」
「瑠璃覇……」
やわらかく微笑む瑠璃覇の名前を呼ぶと、蔵馬は瑠璃覇の手をとった。
「それは、オレも同じだよ。瑠璃覇を好きになったから、今の自分があるんだ。瑠璃覇を好きにならなかったら、幽助、桑原くん、飛影にも会わなかったし、こんなに変わることもなかっただろう。
だから、今のオレがあるのは、瑠璃覇のおかげだ」
「そうか…」
蔵馬の思いを聞くと、瑠璃覇は、更にやわらかく、そして優しく微笑む。
「瑠璃覇…。華炎はいなくなった。だから、今度こそオレとの約束を果たしてくれ。華炎がいなくなったというのに、もう…これ以上は待てない」
「ああ……」
二人は横にならんでいた体をむかい合わせにして、お互いの瞳をジッ…とみつめた。
「これからも、ずっと…ともに生きよう…。
死が……互いの命をわかつまで…!」
それは、ずっと抱いていた二人の願い。
蔵馬がそう言うと、瑠璃覇と蔵馬はお互いにゆっくりと顔を近づけ、口づけをかわした。
それは、二人が永久に約束を守るという、誓いのキス。
満点に輝く星空の下で、二人は互いに誓いあった。
これから先、何があろうと、決して離れないという誓い…。
二人はどんな困難にあっても、袂をわかつことなく、ともに歩き続けていくだろう。
その……はるか彼方にある未来へと…。
《完》