第八十六話 それぞれの道
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次の日の朝…。
昨夜と違い、風はおだやかになっており、空は快晴となっていた。
瑠璃覇は、昨夜遅くに家に帰ってきて、風呂に入り、その後は夕食をとらずにベッドの中に入った。
とても、そんな気分にはなれなかったからだ。
そして、夜が明けるといつも通りの朝を迎え、いつも通りに朝ご飯やお昼ご飯を作ったりと、学校に行く仕度をしていた。
学校に行く仕度をしてる時も、瑠璃覇はどこか沈んでいて、いつもより動きがにぶかった。
仕度がすべて終わると、学校に行くために玄関へ行き、くつをはくと、家を出ようと扉をあけた。
「あ…」
「やあ、おはよう瑠璃覇」
「蔵馬………おはよ……」
そこには蔵馬がいて、蔵馬はいつもと変わらない笑顔であいさつをしたが、瑠璃覇は落ちつきをとり戻したものの、どこか元気がなく、ぎこちない笑顔で返した。
二人はいつものように登校するが、瑠璃覇が元気なく、どこか気まずい雰囲気だったので、声をかけづらい状態だった。
蔵馬はその原因を知っているので、どのタイミングで声をかけようかと、出方をうかがっていた。
「蔵馬」
けど、ふいに瑠璃覇が蔵馬に話しかけてきた。
「昨日は……すまなかったな」
「え?」
「私としたことが、取り乱してしまった」
言われたことに、蔵馬は静かにうなずいた。
それだけを話すと、瑠璃覇は学校までの道のりで、それ以上は何も話すことはなかった。
そして蔵馬は、そんな瑠璃覇をどこか不安げに見ていた。
第八十六話 それぞれの道
「あ、南野、銀、おはよう」
教室に着くと、すでに登校していた海藤が、二人にあいさつをした。
「おはよう、海藤」
「おはよ」
あいさつをされると、二人も海藤にあいさつを返す。
「ん?銀、何かあったのか?」
「え……。何か…って…?」
「いや……昨日と違って、元気がないぞ。それに、昨日の夜の強風。あれって、銀じゃないのか?」
海藤は瑠璃覇の顔を見ると、いつもと違って見えたので、心配そうに話しかけた。
図星なだけに、瑠璃覇は更に沈んだ顔になり、蔵馬はそれを、心配そうに見る。
「大丈夫か?顔色も悪いみたいだし、保健室に行った方が…」
「いや、大丈夫だ。問題ない。すまないな、心配かけて」
「そうか?大丈夫ならいいんだが…。あまり無理するなよ」
「ああ…」
海藤は、本当はあまり大丈夫でないとわかっていたが、それ以上詮索されたくないということを瞬時に悟り、それ以上追究することはしなかった。
それから昼休み。
瑠璃覇と蔵馬は、いつも通り屋上にいた。
二人はお昼ご飯を食べると、フェンスに腕をあずけ、目の前にある景色を眺めていた。
「蔵馬…」
「何?」
「私……黄泉のところに行こうと思ってる…」
「え…」
「雷禅と軀からも誘われたが、それは断る。理由は他にもあるが、最大の理由は、やっぱあいつだ」
予想通りの答えに、蔵馬は何も言うことができず、ただ瑠璃覇をみつめていた。
「あいつだけは……絶対に、生かしちゃおけない。私のこの手で直接殺さないと、気がすまないんだっ…!!」
「…そうか。……瑠璃覇……実は、オレも…黄泉のところに行こうと思ってるんだ。オレも、他にも理由があるけど、黄泉には借りがあるからな」
「そう……」
自分に続いて、蔵馬も黄泉のところに行くこととその理由を簡潔に述べられれば、瑠璃覇は静かにつぶやくように返した。
「………蔵馬……」
「ん?」
「実は……お前に、もうひとつ謝らなければならないことがある」
そのことを聞くと、蔵馬はドキッとした。
これから、瑠璃覇が何を言おうとしているのかもうわかっているのだが、できれば違ってほしいと思っているからだ。
それがわかっている蔵馬は、心臓をうるさいくらいに高鳴らせていた。
「実は……この前言ったことだが……やはり私には、まだ無理だ」
予想していた通りのことだったので、今度は蔵馬が沈んだ顔になる。
「蔵馬が言ってくれたあの言葉は、素直にうれしい。けど、昔あったことをすべて忘れて、人間界でずっと一緒に暮らすのは、まだ私には無理なんだ」
「………………」
「結局、また同じことのくり返しだ。こんな情けない、無責任な私ですまない。だけど……私は……っ!!」
自分の今の思いを話していると、蔵馬は途中で瑠璃覇を抱きしめた。
これ以上は、もう何も言わなくてもいい…と言うように…。
「大丈夫。わかってるから…。いつまでも待つよ」
蔵馬は半分うそをついた。
本当は、瑠璃覇には今すぐにでも昔のことを忘れ、一緒に暮らすと言ってほしい。
けど、瑠璃覇の気持ちも理解しているので、そのことを瑠璃覇に言うことはできない。複雑な心境だった。
そんな、とても矛盾した心を抱え、寂しそうに…悔しそうに顔を歪めた。
一方瑠璃覇もまた、内心複雑であった。
蔵馬が言ってくれたことは素直にうれしいし、蔵馬が自分のことを思って言ってくれたこともわかっている。もちろん、この前返事をした時の気持ちもうそではない。
しかし、瑠璃覇は絶対に成し遂げなきゃいけないことがある。その気持ちがジャマをして、未だに踏み出せないでいた。
蔵馬が、今どんな表情で、どんな気持ちなのかはわかっているが、それでも自分が言ったことを確実に遂行したい瑠璃覇は、何も言えなかった。
何も言えないまま、蔵馬の腕の中で、愛しそうに…また、悔しそうに顔を歪めた。
そして放課後になると、蔵馬は今日は部活がないので、授業終了のチャイムが鳴ると、すぐに瑠璃覇と帰宅した。
けど、二人の間にある空気は、ケンカをしたわけではないのに、朝よりも重いものとなっていた。
「やっほーー。蔵馬、瑠璃覇ちゃん」
そこへ、後ろから声をかける者があった。
「ぼたんじゃないか」
後ろへふり向くと、そこには、いつもの着物姿ではなく、普通の長そでシャツにジーパンをはいた、人間界の格好をしているぼたんが立っていた。
重苦しい空気になっている今の状況では、このぼたんの底ぬけの明るさは、救いと言えるかもしれない。
「どうしたんだ?ひょっとして、コエンマが何か…」
ぼたんが来たということは、もしかしたらコエンマに関係してることかと思った蔵馬は、ぼたんに問う。
「ん~~…。まあ、コエンマ様もかかわってるんだけど…」
「けど?」
「実はね、幽助が、魔界にいる自分の父親に会いに行くって言ってるんだって」
「幽助が!?それは、魔界に行くということなのか?」
沈んだ顔をしていた瑠璃覇だったが、ぼたんの答えに、蔵馬と一緒に驚いた。
「そうみたいだよ。何があったかは知らないけどね」
「それはいつなんだ?」
「今日……だってさ」
「今日!?また、ずいぶんと急だな」
仙水との戦いに決着がついた後、迷うことなく人間界に帰ろうと言った幽助が、魔界に行くと言った上、出発の日が数日後とかではなく、今日だと言われ、蔵馬は更に驚く。
隣では、何もしゃべらないままだが、瑠璃覇も驚いていた。
「それでね、今夜幻海師範の屋敷に来てほしいって、コエンマ様が……。なんでも、そこから魔界に行くみたいだよ」
「わかった…。じゃあ、あとで瑠璃覇と一緒に行くよ」
「うん。頼んだよ」
そう言ってぼたんは、オールを出すと、それに乗って霊界へ戻っていった。
二人はぼたんが帰ると、自分達も家に帰り、私服に着替えると、二人で幻海の屋敷に向かっていった。
夜になり、幻海の寺には、幽助だけでなく、ぼたんや雪菜、桑原までもが集まっていた。
「ふざけんじゃねェ!!」
強い風が吹く中、幻海の寺の中からは、桑原の怒鳴り声が響いた。
怒りが爆発している桑原は、幽助を強く睨みつけるが、幽助は顔をそらさず、まっすぐに桑原を見ていた。
「本気なのか、てめェ…。魔族の血がまじってるとわかった途端、脳ミソのバカもパワーアップしたのか、てめーは」
「本気だよ。オレは魔界へ行くことに決めた」
「行ってどーするんだ。魔族の仲間になって、人間界を襲いに来るってのか!?」
「さあな」
「「さあな」…だとォ!?てめェ!!」
「「あっ」」
無表情のまま、曖昧な返事をする幽助に桑原はますます怒り、幽助を殴りとばした。
突然の出来事に、ぼたんと雪菜は短く悲鳴をあげ、幽助はその勢いで、出入口にあたってしまう。
今の衝撃で開いてしまった扉から、風が入りこみ、寺の中を照らしていたろうそくや灯籠の明かりが、すべて消えてしまい、寺の中は暗闇に包まれた。
「へへ……へっ、てめーのへなちょこパンチくうのも最後となりゃ、名残惜しいもんだな」
怒号をあびせられ、殴られたというのに、上半身を起こした幽助は笑っており、それを見た桑原は、悔しそうに歯噛みしていた。
「ともかくよ、どうするかは、あっちへ行ってから考えらぁ。今言えることは、魔界には強いヤツがたくさんいる。それだけだ。それだけのことがよ、オレをどうしようもなく、魔界へと駆り立てるんだ」
幽助はその場を立ちあがると、桑原の方へ歩きながら、先程の桑原の質問に答えた。
「話になんねーな。じゃあてめェ、霊界探偵の任務はどうなるんだよ?」
「その心配はない」
「あ?」
質問には答えてもらったが、それでも納得ができるものではなく、次の質問をすると、幽助ではない、別の誰かが答えた。
「霊界は、浦飯幽助から、霊界探偵の任務を剥奪した」
それはコエンマで、コエンマは先程開いた扉の前に立っていた。
「それに、浦飯幽助抹殺指令も出たままだ」
「ま…抹殺指令だ!?」
まさか、そんな指令が、霊界で出ていたなど知らなかった桑原は、驚きを隠せなかった。
「そーいうわけだ。言い訳じゃねーがよ、このまま人間界にいても、オレは霊界の追手に抹殺されるだけの運命だ」
幽助がそう言うと、ずっと仏像の方に向いたまま、何も言わなかった幻海が、マッチに火をつけて、それを手燭に立てられたろうそくに灯した。
「なつかしいねぇ。まだ、霊力が目覚めていなかった頃の幽助は、たかだかこんな暗闇での戦いにも、悪戦苦闘しておった。だが、今や幽助は、あたしの手にもおえないほどの力を身につけた。あたし達にできることは、こいつの体の中の魔族の血が、間違いを起こさないよう祈るだけさ」
幻海は話しながら、手に持った手燭で、消えたろうそくや灯籠に火をつけていく。
「幽助にしかわからない血の疼きが、始まってしまったのさ。そしてこいつは、なんでも決着をつけて、納得しなけりゃ気のすまない、そういう男なのさ。だからこそ、一緒に戦ってきたんだろうが」
説得力のある幻海の言葉に、桑原は何も言えなくなった。
「け、けど……どーやって魔界へ行く気だ?人間界と魔界をつなぐ界境トンネルは、もうふさがっちまってるんだぞ」
「ふさがった穴は、また開ければよい」
「また開けるだぁ!?」
意味がわからないといった感じに、桑原が言った時だった。
突然外で空間の歪みが生じ、そこから特防隊が三人現れた。
舜潤、俠妃、倫霾である。
外の気配に気づいた桑原は、障子を開け、外縁へ出た。
「あ…」
その気配が特防隊だったことに、桑原は驚く。
「霊界…特防隊!?」
「浦飯幽助、準備はよいか?」
「ああ、いつでもいいぜ」
「まさか、てめーらが魔界の穴を開けるつもりか!?」
特防隊がいたことで、先程コエンマが言っていた意味を理解した桑原は、特防隊に向かって叫んだ。
すると後ろから、コエンマの笑い声が聞こえてきた。
「幽助を、魔界へ案内してやるんだそうだ」
「キタネーぞ、てめーら。浦飯を抹殺する力がねーからって、魔界へ閉じこめて、厄介払いかよ。えぇーー!!」
状況が読めた桑原は、正義感が強いのもあり、特防隊にくってかかった。
「否定はしない。エンマ大王様は、霊界と人間界の平和のために、もっとも安全な決断を下された。我々はその任務を、忠実に遂行するだけだ」
けど、そんな桑原の怒りも肯定し、舜潤はただ淡々と答える。
「人間界の平和のためだと?ならまた、戸愚呂や仙水みてーなヤツが現れたら、どーするんだよ。えぇーー!!オレと蔵馬と瑠璃覇と飛影の四人で、片づけろってのかよォ!?」
「そうはならんさ」
「何!?」
「桑原、この数日のうちに、幽助達の状況は大きく変わったのだ」
「どーいうこった!!」
桑原が疑問を投げかけると、その答えを示すかのように、木の葉がこすれる音がし、木の上から飛影が降りてきた。
「飛影」
いきなりの飛影の出現に、桑原だけが驚く。
「オレも、魔界から招待をうけた」
「何ィ!?貴様も雷禅とかいう魔族の一味になるつもりか?」
「雷禅ではない。雷禅と敵対する三大勢力のひとつ…軀からの招待だ」
「まさかっ…。行くつもりじゃねーんだろうなァ!?」
「行くさ。オレはもともと魔界の住人だ」
「魔界で浦飯と戦うはめになってもかよ?」
「そうなったらそうなったで、そういう運命を楽しむだけだ」
桑原の質問に飛影が答えると、今度は、飛影がいるところとは反対の木の影から、蔵馬と瑠璃覇が出てきた。
「実は、オレも…」
「蔵馬、瑠璃覇」
「魔界からの招待をうけたんだ。もう一人の勢力…黄泉から」
「私もだ」
「て…てめーらも行くのか?」
「多分、そうなるだろう。幽助や飛影よりは、遅れるかもしれないけど」
「私も、全員から招待をうけたが、黄泉のところに行こうと思っている」
「くっ……!!どいつもこいつも見そこなったぜ……。結局てめーら、戸愚呂や仙水と、なんの変わりもねーーんだ。戦ってさえいりゃーよォ。立ってる位置は、どっちでもかまわねーわけだ!!いいや、ポリシーがねェ分、あいつらより性質(タチ)が悪いぜ!!」
「フ……。一つ利口になったな」
再びキレて怒号をあびせる桑原に、飛影は毒で返す。
「なんだと?このヤロォ!!」
そのことに更に怒った桑原は、地面に降りて、飛影のもとまで走っていくと、飛影の胸ぐらをつかみ、殴りかかろうとするが、飛影は冷静で微動だにしなかった。
「やめろ」
しかし、そこを幻海に止められた。
幻海に止められたことで、桑原はその手を止める。
「まだこいつらが、戦うと決まったわけじゃない」
「戦わねーと決まってるわけでもねーだろーがっ!!」
「和真さん、魔界のすべてが醜い争いとはかぎりません。魔界は私の故郷(ふるさと)なんですから」
「雪菜さん」
いつの間にか外燭までやって来た雪菜が、一歩前に出て話せば、桑原は毒気をぬかれたように大人しくなり、飛影の服から手を放すと、がっくりとうなだれた。
雪菜のような、戦えない、弱い妖怪でも生き残っていられるからということなのだろうが、そうでなくとも、雪菜にべたぼれな桑原なので、雪菜には強く出れないのだった。
桑原が大人しくなると、飛影は雪菜に向けていた顔をそらし、幽助は外燭から降りて、桑原の方へ歩いていく。
「桑原」
「なんだ、ばかやろー」
「めざせ、骸工大付属高校」
周りのいろんな人に説得されても、それでも納得できずぶすくれていたが、急に幽助にエールを送られたことで、桑原はあわてだした。
「て…めェ、なんでそれを…」
「螢子に聞いたぜ。静流さんも爆笑してたぜ。日本一無謀な男が家族の中にいたってな」
桑原の質問に、幽助はにやにやと笑いながら、からかうように答えた。
「けっ!!」
「オレは、三年で帰ってくる」
「え」
「帰ってきたらよ、そっこーでてめーの受験結果調べっからな。首席で合格してたら、街中土下座で舟唄歌ってやるよ」
「ケ……。三年だァ!?期限付きとは、てめーもヤキがまわったんじゃねーのか。どーせなら魔王になるまで戻ってくんな」
そう言いつつも、桑原はどこか無理をしてる感じだった。
「あ、そーだオイ。ついでに、雪菜さんの兄貴のこと、調べてきてくれ」
「あ~~…まあ…がんばってみるわ」
突然その話題になると、幽助は先程までの勢いを失った。
適当に受け答えして、後ろにいる飛影を肩ごしにちらっと見ると、飛影はその視線に気づき、顔だけ幽助の方に向けると、鋭い目で睨みつけた。
「(お~~~。ニラんでるニラんでる)」
「てめーー…この話になると、妙によそよそしくなるのはどーいうわけだ?」
「あ?」
けど、そんな飛影にまったく気づいていない桑原が問いかけると、まっすぐでうそがつけない幽助は、それ以上は、うまく言いごまかすことができなかった。
そばでは、事情を知っている蔵馬と瑠璃覇が、くすっと笑っていた。
「浦飯幽助」
そんなやりとりをしていると、後ろから舜潤が声をかけてきた。
「あ?」
「そろそろ出発の時間だ」
「ああ。そんじゃ、行くか」
いよいよその時がやってきた。
幽助は気をとりなおし、前へ出た。
幽助に声をかけると、特防隊は塀を越えた広い場所に行き、幽助達は特防隊のあとについていった。
塀を越えたところにある、広い場所では、他の特防隊達が全員で穴を開けていた。
それを、全員が深刻そうな顔で見ており、幽助はプーと別れを惜しんでいた。
「複雑な気分だぜ。仙水が、必死になって開けようとした魔界の穴をよ、おめーらの手にかかりゃ、こーも簡単に開いちまうんだな」
ふいに顔をあげ、目を向けた先には、魔界へ続く穴がほとんど開けられていたので、仙水があんなにも苦労して開けた穴を、特防隊があっさりと開けたのを見て、幽助は複雑になった。
「浦飯…」
そこへ、後ろから桑原が声をかけてきた。
その声に反応した幽助は、桑原の方へ顔を向ける。
「オレ達はちーとばっか、選んだ道が違うだけだよな」
「桑原」
「オレ、絶対受かるからよ。自慢するからな」
「和真さん」
「桑ちゃん」
いさぎよく…とまではいかないが、幽助を送りだそうとする桑原に、ぼたんは目じりに涙を浮かべた。
「準備完了しました」
「うん」
舜潤がその様子を見ていると、俠妃がやって来て、穴が開いたことを舜潤に報告する。
「浦飯幽助」
「ああ」
俠妃から報告を受けると、舜潤は幽助に声をかけた。
名前を呼んだだけだったが、何を言おうとしているのかわかっているため、幽助は短く返事をする。
「じゃ、行ってくるぜ」
別れのあいさつをするが、桑原は幽助に顔を向けようとせず、うなだれたまま、何も答えようとはしなかった。
「飛影、蔵馬、瑠璃覇、先に行ってるぜ」
そして、三人にそれだけ告げると、穴の方へ向かっていく。
隣では、とうとう魔界に行ってしまうのだと、プーが寂しそうに鳴いていた。
「余計なことだが、生きて帰れると思うなよ」
穴の前まで来ると、舜潤が嫌味っぽく幽助に言うが、幽助は意にも介さず不敵に笑う。
「へっ……。帰ってくるときゃ、むこうから穴開けてくっからよ。またその穴ふさいでくれよな」
そして、挑戦的な感じで言い放った。
「ゆけ」
そんな幽助の態度に、舜潤はフッ…と笑う。
「幽助、本当に行っちゃうのかい?」
「ああ」
ぼたんが再度問いかけると、幽助はぼたんがいる方へ向き、短く答える。その答えに、ぼたんは涙ぐんでいた。
「じゃあな」
幽助は、もう一度最後に別れを告げると、穴の方へ体を向け、足をまげて力を入れると、一気に跳躍して穴の中へとびこんだ。
すると幽助の姿は消え、残された者達は、本当に幽助が魔界へ行ってしまったのだという実感がわき、ただ穴をみつめるだけだった。
「ふしぎだな」
幽助が入った後、穴をみつめていた舜潤がぽつりとつぶやいた。
「妙な気分にさせる男だ」
「私も、あいつが魔界で何をしでかすのか見てみたい。そんな気持ちです」
舜潤に続き、俠妃も、今感じたことを率直に述べた。
「よし、穴をふさげ!!」
これ以上開いていると、魔界側から妖怪がやってくるかもしれないので、舜潤は他の隊員達に命じる。
舜潤の命令で、隊員達は穴をふさぎ始めた。
その様子を、そこにいる者達は、ただ見ているだけだった。
数日後(数ヶ月後)には、今度は蔵馬、瑠璃覇、飛影も通る、魔界へ続く穴を……。
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