第九十八話 常闇の終結
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瑠璃覇は風を起こした。
けど、それは攻撃のためのものではなかった。
「……蔵馬……観客席にいるな…。幽助に飛影も、蔵馬の近くにいるか。ちょうどいい…。お前ら……そこを動くなよ」
それは、現状を把握するためのものだった。
「蔵馬、試合前に、おまえにあずけておいた金鈴珠のネックレスには、術がかけてある。結界だ。
その結界は、ネックレスを中心に、半径100メートル以内にいる者…おもに、ネックレスをつけている者を護る。ただ攻撃を防ぐだけじゃない。私が大切に思っている者に対して、攻撃をする者。敵意や殺意、悪意など、負の感情を抱いた者。私が敵と判断した者。守護される者が敵と判断した者を、すべてそこからはじきとばす。自動的にな。
だから絶対にはずすなよ。華炎が、ここから遠く離れた場所に発生させることができる技を、もってないとはかぎらないからな」
瑠璃覇は近くにあるカメラに顔を向け、カメラを通して蔵馬達に伝えたいことを伝えると、華炎に向き直る。
「ということで、蔵馬達を狙ってもムダだ。貴様の攻撃は通用しない。あいつらは、何がなんでも私が護るからな。そして、それ以前に、貴様は私が殺す」
「そこまで依存しているとは……。極悪といわれている貴様が、そんなに骨抜きにされているとはな…。蔵馬と出会った時の貴様を初めて見た時も、幻でも見ているのかと思うくらいのものだったが、今回何百年ぶりかに貴様を見た時は、更にそう思ったわ」
「私は……生まれた時から、ずっと憎しみと恨みと怒りという感情にかられていた。ずっと暗闇の中にいた。そこは……一点の光もない、真っ暗闇だ。その暗闇は……永遠に続くと思っていた。
けど……ある時、蔵馬が現れて、私に愛情をくれた。私に名前をくれた。私を必要としてくれた。いろんなものを与えてくれた。
うれしかった……。その時……私の中には、光がさしこんだんだ。だから……蔵馬のことがとても大切…。
そして、幽助と桑原と飛影は、私の素性を知っても、恐れるでもなく、利用しようと企むこともしない。何よりも、私のことを仲間と認めてくれた。
最初は、すごいわずらわしくてたまらなかったけど、でも、いつのまにか…あいつらと一緒にいるのが、楽しくてたまらなくなっていた。あいつらは、蔵馬とはまた違う安らぎを与えてくれた。
だから私は、蔵馬と幽助と桑原と飛影のことが……誰よりも…何よりも大切なんだ」
いつもはそんなことを言わない瑠璃覇が、突然自分の思いを語ったので、華炎も、幽助も、飛影も驚いていた。
「フッ…。貴様の大切なものはすべて奪う。あのような弱者は、すぐに葬り去ってくれるわ」
「……そうだな…。確かに……あいつらは、単純に妖力値だけを比較すれば、私やお前の足もとにもおよばない…」
華炎の言葉に、瑠璃覇はめずらしく、おだやかに、冷静に答える。
「でも……決して弱者ではない。
私はあいつらと出会ってから、いろいろと不可解な言動を見せられた。そのうちのひとつが戦い方だ。
あいつらは戦っている時、くたばった方がマシと言ったり、何かを犠牲にしたりと、いつも全力で…命をかけて戦っていた。
私には信じられなかった。私とはまったく正反対の戦い方をしていたから…。
だけど…強さというのは、単純に妖力値の高さだけではないと、私は思うようになった。
そんな強さをもつ者を……私は…四人も知っている」
誰…とは言わないが、話の流れで自分達のことだとわかった蔵馬、幽助、飛影…特に幽助と飛影は、目を丸くしていた。
「そして……そんな強さをもつ四人に……私は今までささえられ…護られてきたんだ…」
憎しみの対象である華炎を目の前にしているというのに、瑠璃覇の顔はおだやかだった。
それは、蔵馬、幽助、飛影、桑原のことを想っているからだった。
そしてそれは、それだけその四人のことが、大好きで大切だということがわかった。
「私は思った…。私が今までお前に勝てなかったのは、力を出し惜しみしていたからではないかと…。
私はずっと、妖力をなるべく残す戦い方をしてきた。いつお前や…他の強大な敵が現れるかわからないからな。だから、相手のレベルを見抜く術を磨き、計算をして、一撃で敵を倒すようにし、なるべく力を残してきた。だから、私には、あいつらの戦い方は、とても不可解だったし、信じられなかった。
でも、信じられない反面、ちょっとうらやましくもあった。私は全力で戦ったことがなかったから…。
けど…だからこそ、お前に勝てなかったのかもしれない…。全力を出して戦ってこなかったから。もっと言えば、自分では全力を出しているつもりで、本当は出さずに戦っていたから。
だから……」
瑠璃覇はおだやかな顔から、再び鋭い眼差しときびしい顔に戻る。
「ここからは私も……命をかける…!!」
その瞳は、強い覚悟を表すものだった。
「そんなぼろぼろの状態で、でかい口をたたくでないわ。
たとえ貴様がどんな思いをかかえていようと、どんなに大切なものができようと、必ず貴様を葬り去ってくれる。愛する息子と我が同胞の仇をとってやるわ!!」
「…そうだろうな。それがお前の原動力なんだものな…。
私は、17年前蔵馬を失ったことで、皮肉にも、貴様の気持ちがわかってしまった…。もっとも愛する者を失う、苦しみや悲しみ…。私はあの時、霊界を、心の底から恨み…憎んだ…。きっと貴様も、あの時…私と同じ気持ちだったんだろう…」
華炎が瑠璃覇を憎み、恨む理由…。
それは、瑠璃覇と同じものだった。
華炎の思いを理解するような発言に、華炎はもとより、蔵馬達も驚いていた。
「だが……それはそれ。これはこれだ。お前も許せないだろうが、私も許せない…。許すつもりはない。17年前のことも……そして…生まれた時のことも…!!」
「それは、わしとて同じよ。わしも、貴様を許すつもりはまったくないわ。今日を最後に、すべてを終わらせてくれるわ!!」
「すべてを終わらせるのは私だ。夢を叶えるためにも、今日ここで、終止符をうってやる」
「夢…?」
瑠璃覇には似合わない言葉に、華炎は反応し、眉をぴくりと動かす。
「私は昔…蔵馬に言われた。過去にあったことをすべて忘れて、ともに暮らそう…と…。
すごくうれしかった…。けど、どうしても貴様の顔がちらついて、一度了承しても、やはり無理だと言ってしまった。我ながらなんていい加減だと思ったよ。しかも、一回だけでなく、何回も同じことをくり返していたのだからな。
だけど、蔵馬のことはすごく大好きだし、とても大切だ。誰よりも…何よりも愛している。だから、いつか戦いを忘れて、今度こそ蔵馬とともに、静かに暮らせたらと思う。
けど、貴様を倒さないと、また同じことのくり返しになる。どうも私は、過去の因縁にケリをつけなければ、前に進めないようだ。
だから、その夢を叶えるために、今度こそ貴様を倒す」
瑠璃覇は、過去に蔵馬に言われたことや、自分の夢について語ると、右手を前にもってきて構えをとった。
「全力でいかせてもらう!!」
第九十八話 常闇の終結
「わしを倒すとは笑わせるわ。2000年以上も倒せなかったのにな」
自分を倒すと宣言した瑠璃覇を、華炎は鼻で笑う。
「それはそっちも同じだろう、ババア。2140歳も年が違う小娘相手に、ずいぶん長いことかかっているじゃないか」
けど瑠璃覇は、それに対して嫌味で返した。
「だが、それも今日までのことだ。最後の決戦の場が、この闘技場だったのが、貴様の運のつきだ。ここは闘技場。お前は逃げられない。試合の途中で場外に出たら、負けとなるからな」
と、続けて言う瑠璃覇に、華炎はけわしい顔をした。
「聞きずてならないな。それに、わけがわからん。そんなボロボロの状態で、一体何ができるというのだ?」
そう……瑠璃覇は、今までずっと華炎に爆弾で攻撃されていた。そのせいで、顔以外は全身傷だらけで、血まみれの状態なのだ。
これでは、まともに技など撃てないだろうと、華炎は瑠璃覇を嘲笑う。
「周りにあるのは、すべて私の味方だと言ったはずだ。人間界にいたからといって、技を磨くのを怠っていたわけじゃない…ともな」
「ならば……やってみるがいい!!」
華炎は瑠璃覇を挑発すると、技を出すために妖気を放出し、瑠璃覇もまた、技を出すため、同じように妖気を放出した。
「二人とも、すげー妖気だ」
観客席にいてもわかるくらいの二人の強大な妖気に、幽助は息をのんだ。
「蔵馬…。ひょっとして瑠璃覇は、さっき言ってた、最大奥義ってのを出すつもりなのか?」
「おそらく……」
二人の会話の流れで、瑠璃覇は、先程蔵馬が言っていた最大奥義というのを出すのではないかと、幽助は推測する。
隣では蔵馬も、二人の強大な妖気に息をのんでおり、画面を見たまま答えた。
「ただ……」
「ただ?」
「瑠璃覇は……残りの妖力を考えると、もう限界だ。小手先の技では倒せないから、奥義を出すしかない。体力の面で考えても、かなり限界がきているだろうから、次の技が、最後になるだろう」
「じゃあ……もし倒せなかったら…」
「……………」
瑠璃覇を殺したいほど憎んでいる華炎が、たとえこの勝負に勝ったとしても、瑠璃覇の息があるとわかったら、瑠璃覇を放っておくはずがない。
瑠璃覇が華炎を倒せなかった時、その先に待っているのは死のみである。
聞かれずともわかっている蔵馬は、けわしい顔をしていた。
「だが……体力も妖力も限界なのは、華炎も同じはずだ。
それに、瑠璃覇の奥義は、絶対に敵を逃がさない。
必ず、華炎を倒すだろう……」
正真正銘、これが最後の勝負になるだろうと確信した蔵馬は、心のどこかで不安を感じながらも、画面に映る瑠璃覇を、強い瞳でまっすぐに見据えていた。
闘技場では、瑠璃覇が妖気を放出しており、両手には風がうずまいていた。
一方で華炎も、妖気を放出し、同時に両手には炎が発生していた。
二人はお互いを、まっすぐに見据えていた。
「くたばるがいいわ!!小娘!!」
先に動いたのは、華炎の方だった。
華炎は奥義を出すため、瑠璃覇の方へ走ってきた。
けど、瑠璃覇はあわてず、そこから動かず、華炎の動きを見ていた。
華炎が自分のところに近づいてくるのを待っていたのだ。
そして、華炎との距離が、10メートルとなった時……。
「業風裂流陣(ゴウフウレツリュウジン)!!」
瑠璃覇は技を放った。
それは、直径20メートルほどの竜巻が幾重にも重なり、激しく乱回転する、円形の、巨大な巣のようなものだった。
観客席でそれを見ていた幽助達は、蔵馬以外、全員目と口を大きくあけてかたまっていた。
何しろ、闘技場を覆ってしまうほど巨大な、すさまじい技が出されたのだから…。
「あ、あ…れが……瑠璃覇の…最大奥義…なのか?」
「そうだ」
予想以上に大きな技に、とぎれとぎれで聞いてきた幽助に、蔵馬は静かに答える。
「業風裂流陣…。直径20メートルの竜巻が、幾重にも重なり、縦横無尽に激しく乱回転する、瑠璃覇の最大奥義。その全体の大きさは、2kmにもなる。息をすることもままならず、体が引き裂かれそうなほどの激しい風が吹き荒れ、更に、竜巻と竜巻の間にも、隙間を埋めるようにして、激しい風が吹き荒れている、巨大な竜巻の巣…。直径2kmという大きさのため、どんなに身体能力が優れていても、抜けだすことは不可能な技だ。抜け出そうとしても、その瞬間に攻防一体の風が竜巻の周りに吹く。
たとえ抜け出すことができたとしても、別の場所……敵がいるすぐ側から別の竜巻や帯状の風など、様々な風の技が発生し、敵を仕留めるまで次々と出てくる。
そういう技だ……」
「業風か……。地獄で吹く大暴風のことだな。地獄に堕ちた、衆生の悪業に感じて吹く風だ」
蔵馬が技の説明をすると、コエンマが、技の名前に出てきた、業風というもののことを軽く説明する。
「そう……。この場合の地獄は、瑠璃覇の攻撃の間合いのことを言い、衆生は、術者である瑠璃覇に攻撃をする敵のことを言い、悪行は…敵の、術者に対する攻撃のことを言う。
敵の命の鼓動が鳴りやむまで、その風は、決して止まることはない」
「あんなに強烈な技は、初めて見たべ。やっぱすげーな、瑠璃覇は」
「しかし、あれだけすごい技となると、蔵馬が言った通り、かなり妖力を消耗してしまうな。もし……これで倒すことができなかったとしたら…」
後ろの方では、陣は感心していたが、凍矢は、瑠璃覇の今の状態や、この戦いの行く末を案じていた。
凍矢の言葉に、感心していた陣も、他の者達も息をのんだ。
風は、それから数秒でおさまった。
風がおさまると、闘技場の地面が、一部を残してえぐれており、そこにあったはずの山や森や湖が、すべて技の影響でなくなってしまっていた。
地面がえぐれていない部分には瑠璃覇が立っていた。
そして、瑠璃覇のそばには、胴体が、上半身と下半身でまっぷたつになった華炎が横たわっていた。
「よかったぜ。無事だったんだな、瑠璃覇」
瑠璃覇が無事だったことに、全員安堵の息をもらした。
特に蔵馬は一番安堵しており、華炎が亡くなったことで、瑠璃覇の復讐が終わったので、一番ほっとしていた。
これで瑠璃覇は、恨みや憎しみや怒りという、負の感情から解放されるのだと…。
だが、蔵馬達が安堵したのもつかの間、瑠璃覇は華炎が死んだ姿を目にすると、その場に倒れた。
これで復讐が終わったので、気がぬけたというのもあるが、何よりも、体力と妖力の激しい消耗と、華炎に負わされたケガのことが大きかった。
「くっ……」
もう、体力と妖力とケガの関係で、立つことすらままならない状態なのだが、それでも瑠璃覇は、なんとか体にムチ打って、立ちあがろうとした。
「(華炎は死んだ…。だが……私が倒れては意味がない…。生きて勝っても……立ちあがらなければ……勝ったことには…ならない…!!)」
瑠璃覇は地面に手をついて、手と足に力を入れる。
「瑠璃覇っ!!」
「よせっ!!ムチャだ!!」
そんな瑠璃覇を見ていた幽助と蔵馬は、心配そうに叫ぶ。
「おいおい、ヤバイんじゃねーの?」
後ろでは酎。
「あんなに血が流れてるのに……」
続いて鈴駒。
「立たない方がいいんじゃねーか?」
続いて陣。
「そうだ。それよりも、早く医務室に行った方が…」
続いて凍矢。
「なんで立とうするんだ?あんなに体がぼろぼろだというのに…」
そして、鈴木も心配そうにしていた。
「あれは、瑠璃覇のプライドだ。たとえ華炎が死んでも、自分が倒れていては意味がないと……生きていても、立ちあがらなければ、勝ったことにはならないと思っているのだろう…」
ひどいケガをしてるので、本当は立ちあがってほしくはないのだが、瑠璃覇の心をこの中で一番理解しているのは、他でもない蔵馬なので、心配と不安という感情にかられながらも、画面ごしに瑠璃覇を見守っていた。
「くっ……う…ぅ………」
なんとか立ちあがろうとするが、手足がふらついてしまい、うまく立つことができず、まだ中腰の状態だった。
「ぁ……」
立ちあがろうとした途中で、足がふらついたせいで、また地面に倒れてしまい、うつぶせになってしまう。
「くそっ…」
それでも、すぐに手を地面について、起き上がろうとした。
「(私は……絶対に立ちあがる。立って…華炎に勝つんだ!!負けて…たまるか…)」
ふらつく体に力をいれてふんばると、ケガをしたところからは血がぼたぼたと落ち、地面を真っ赤にそめる。
「(負けて………)」
けど、それでも気にすることなく、先程のように倒れないようにしようと、ふらつく足に力をいれた。
「(たまるかっ…!!!!!!)」
そして、なんとか足がふらつかないようにすると、今度は上半身に力をいれる。
「うあああああああああっっっ!!!!!!!!」
瑠璃覇は渾身の力をふりしぼって体を起こし、その場に立った。
ケガしたところからは、血がとめどなく流れ、肩で荒い息をくり返す。
本当はもう限界のはずなのに、それでも意地とプライドで、そこに立ったのである。
立ちあがった瑠璃覇の姿を見ると、審査員は手を上にあげた。
「瑠璃覇選手の勝利です!!」
そして、審査員の口から、瑠璃覇の勝利が告げられた。
「というわけで、今回の試合は、瑠璃覇選手の勝利となりました。
それにしても、すごかったですね。洗練された技の数々!!私も思わず、実況を忘れてしまうほどのものでした」
勝敗がつくと観客席は盛り上がり、その中で小兎は実況を行っていた。
「よっしゃ!!やったぜ!!」
自分達が応援している瑠璃覇が勝ったので、幽助はガッツポーズをし、他の者達も喜び、蔵馬は喜ぶと同時にほっとしていた。
瑠璃覇の念願が叶い、ようやく一緒に暮らせる日がくるのだから…。
「えぇーー、瑠璃覇さんの恋人の蔵馬君。これで、ようやく念願叶って、瑠璃覇さんと一緒に暮らせる日がきますね。一言ご感想をどうぞ」
幽助はそんな蔵馬の心情を察したのか、ニヤニヤと笑いながら、マイクを持つように手をにぎり、それを蔵馬に向けた。
「か…感想って…。オレはまだ高校生だし、母さん達の手前、現実的に考えてまだ無理だよ」
「でも、あと半年とちょっとで卒業だから、そうすりゃ一緒に暮らせんじゃねーか。プロポーズもしたことだしよ」
「一緒に暮らそうって言っただけだ。それに、プロポーズはまだしてないよ」
「まだってことは、これからすんのかよ?」
揚げ足をとるような幽助の発言に、蔵馬はしまったと思った。
「だから……それはだな、幽助……」
「今更何言ってんだよ?蔵馬」
そこへ、今度は幽助ではなく、後ろから鈴駒が口をはさんできた。
「お前がさっき、瑠璃覇に一緒に暮らそうって過去に言ったってことは、ここにいるみんな聞いちまったんだからな」
後ろにいる鈴駒を見ると、幽助と同じように、蔵馬をからかってきた。
「そうそう。オレもこの耳でちゃーんと聞いたぜ」
そして、鈴駒の隣にいる酎も、同じく蔵馬をからかい
「照れんな照れんな」
続いて陣。
「この鈴木、心から二人を祝わせてもらう」
続いて鈴木。
「まあ、あとは二人でうまくやれ」
こういうことには、あまり口をはさまなさそうな凍矢までも、めずらしく蔵馬をからかってきた。
「みんなまで……」
いつもは冷静な蔵馬だが、みんなにからかわれたことで、めずらしく困っていたが、そんなに嫌そうではなかった。
「おや?何やら瑠璃覇選手の様子が変ですね」
その時、実況席から小兎の声が聞こえたので、画面を見てみると、瑠璃覇が胸をおさえて、軽くせきこんでいる姿が映っていた。
そのせきは段々と小刻みになり、早くなっていく。
そして、早くなっていったと思うと、今度は、口から大量の血を吐きだした。
「「「「「!!」」」」」
瑠璃覇が血を吐きだすと、蔵馬達は驚愕し、目を大きく開いた
瑠璃覇は一回だけでなく、何度も何度も血を吐きだした。
そして何回か血を吐くと、立っていることに限界がきたようで、仰向けに倒れていった。
倒れた後も、瑠璃覇は何度も血を吐き続けた。
「瑠璃覇っっ!!」
心配になった蔵馬は、席を立ちあがり、階段をあがっていって、出入口から外に出ていった。
瑠璃覇がいる闘技場まで行くためだった。
「待て、蔵馬!!」
「オレ達も行くべ」
続いて、幽助や陣、凍矢、鈴木、酎、鈴駒、死々若丸、コエンマ、ぼたん、ジョルジュも蔵馬の後に続き、飛影や軀も後に続いていった。
「あっ、パパ!!」
蔵馬達がすわっていた後ろの席では、黄泉が修羅を置いて、瑠璃覇を助けに行こうとした。
外には、瑠璃覇を助けに行こうとしている者達が走っていた。
その中で、蔵馬は走りながら、妖狐の姿に変化をして、髪の中から種をひとつ取り出した。
「蔵馬っ」
そこへ、蔵馬の隣に黄泉が走ってきた。
「黄泉…」
黄泉が自分の隣に来ると、蔵馬は黄泉に一瞥をくれる。
「すまない、黄泉。先に行く」
一刻も早く瑠璃覇のもとへ行きたい蔵馬は、黄泉に一言断りをいれると、種を発芽させた。
それは、浮葉科の魔界植物だった。
蔵馬は浮葉科の魔界植物を体にまとうと、瑠璃覇がいる闘技場へ飛んでいった。
「(瑠璃覇…………瑠璃覇……瑠璃覇…!!)」
闘技場へ向かっている間、頭に浮かぶのは、瑠璃覇のことばかりだった。
考えたくないのに、最悪の事態が頭をよぎる。
「早く来てください。選手が瀕死の重傷なんです!!第11闘技場です。急いで!!」
闘技場では、瑠璃覇と華炎の試合の審判をしていた女性が、無線で医療班を呼んでいた。
「あ…」
そこへ、蔵馬が飛んできた。
「瑠璃覇の容体は?」
「わかりません。ただ、外傷はかなりひどいです」
今は血を吐いていないが、それでも全身血だらけになっており、思わしくない状態だというのは、誰の目にも見てとれるほどだった。
蔵馬はすぐ様、瑠璃覇の胸に耳をあてて、心音を確認する。
「(……脈が遅く弱い上、心音が乱れている。今すぐに治療をしなければ危険だ)」
医療に関しては、詳しい知識のない素人であるが、それでも、今のこの瑠璃覇の状態は、かなりヤバいということがわかった。
かろうじて息をしてはいるが、死んでいるような状態だった。
その、あまりにもひどい瑠璃覇の状態に、蔵馬は顔が真っ青になる。
「医療班は?あとどれくらいで到着する?」
「わかりません。すぐに来るとは言っていましたが…」
一刻を争うこの状況に、肝心の医療班がいつ来るかわからないので、蔵馬は焦りをつのらせ、顔をゆがめる。
審判から状況を聞くと、蔵馬は懐からたくさんの薬草を取り出し、瑠璃覇にはりつけた。
「あの……何を?」
「薬草だ。とりあえず、応急処置をしておく」
特に変なことではなかったので、審判はそれ以上つっこむことはしなかった。
けど、薬草をはり終えると、突然瑠璃覇を、ひざの裏と背中に手をまわして抱きあげたので、審判はぎょっとした。
「あ…あの……瑠璃覇選手を、どこへ連れていくんですか?」
「医務室だ。オレが瑠璃覇を直接連れていく」
「あの…医療班を呼んだので、ここで…「待ってられない!!」
先程試合で戦っていた時は、常に冷静だった蔵馬が、激情にかられて、怒鳴るように叫んだので、更にぎょっとする。
「…すまない。けど…一分一秒を争うこの状況で、いつ来るかわからない医療班を待っている余裕は、オレにはないんだ!!」
審判がぎょっとしたのを見て、静かに謝罪をした後、自分の思いを吐き出した蔵馬は、医務室に行くために、一歩踏み出した。
「蔵馬っ」
そこへ黄泉がやって来たので、蔵馬は急ぎながらも、声がした後ろの方へふり向いた。
「黄泉……」
「瑠璃覇の容体は?」
「すこぶる悪いのが、素人でもわかるほどだ」
蔵馬の話を聞くと、黄泉はめずらしく顔をゆがめる。
耳をすませてみると、黄泉の優れた耳には、瑠璃覇の正常ではない心音が聴こえてきた。
「それで、医療班は?」
「いつ来るかわからんらしい…。だから、オレが医務室まではこんでいく」
「何?蔵馬…」
「悪い、黄泉。医療班を待ってられないし、今は一秒でも時間がおしいんだ」
最後まで言わずとも、黄泉が何を言おうとしているのかわかった蔵馬は、黄泉の言葉を遮って答えると、空を飛んだ。
「先に行く」
そう言って、黄泉の返事を待たずに、瑠璃覇を医務室まで連れていくために飛んでいった。
「蔵馬!」
黄泉が蔵馬の名前を呼ぶが、そんなことは構っていられなかった。
蔵馬は、焦燥や不安や心配といった感情にかられながら、医務室を目指した。
「(瑠璃覇………死ぬな…)」
蔵馬は、不安そうな…心配そうな顔を、瑠璃覇に向けた。
瑠璃覇の顔色は、血の気を失い、かなり悪かった。
そのせいで、蔵馬は更に不安になり、瑠璃覇の傷にさわらない程度に、瑠璃覇を抱く手に力を入れる。
「(死ぬなっ…!!!!!!)」
そして、ただひたすら瑠璃覇の無事を祈りながら、蔵馬は少しでも早くたどり着こうと、医務室へ向かっていた。
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