第九十五話 因縁の対決
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試合開始の合図が出されたが、瑠璃覇はそこに立つだけで、動こうとはしなかった。
「私は……今のこの状況に、とても感謝している。何しろ…当初の予定と違い、労せずして、貴様と戦えるのだからな…」
そして、攻撃するでも、そのために構えるでもなく、突然華炎にむかってしゃべりだす。
その間、華炎は攻撃をせず、瑠璃覇の話を黙って聞いていた。
「本当は、この大会で優勝…。もしくは、それに近いところまでくいこんで、知名度をあげ、貴様をおびきだす予定だった。だが…まさか、その手間がはぶけるとは思わなかった…。
本当に…この大会を提案してくれた幽助には、感謝してもしきれない…」
最後に幽助に対する礼を言うと、自分の近くを浮遊しているカメラに顔を向けた。
「おい、幽助。お前も……どこかでこの試合を見ているか?」
そして、今度はカメラを通して、幽助に向けて話しかけた。
自分の名前が出たことで、幽助は反応を示す。
「お前は…本選が始まる前に言っていたな。死人はなるべく出したくない…と…。
お前には借りもあるし、お前の意向には、なるべくそってやりたい…。
だけど……今から私が戦うこの妖怪は………私が2000年以上も、ずっと殺すために追いかけてきた相手なんだ。
憎悪と憤怒の対象…。こいつを殺すことが、生まれた時からの、私の人生の目的だ。
だから……お前の気持ちを、くんでやれそうにない……」
華炎を憎み、殺したいと願っている瑠璃覇。
けど、主催者の一人である幽助は、死人を出したくないと言っていた。
瑠璃覇もそれは、本選が始まる前に聞いたし、幽助のことが大好きなので、幽助の意向にはそいたい。
けど、それすらもかき消してしまうほどに、目の前にいる華炎という老婆には、強い怒りと憎しみを抱いている。
それほどの相手なのだ。
「悪いな、幽助……」
画面に映った瑠璃覇を見ると、幽助はビクッとなった。
さっきまで、自分に話していた時とは違い、予選を見ていた時に見た、あの絶対零度のように冷たい目をしていたからだ。
「死人を……一人出すぞ…!!」
今の瑠璃覇を見ると、幽助は生つばを飲みこんだ。
「くくくくくくく」
瑠璃覇がカメラから華炎の方に向き直ると、華炎は意味深にのどの奥で笑い出した。
「死人を一人出す…か…。それはわしのセリフよ。わしが…死人を出す。死ぬのは貴様だ、パープル・アイ!!」
目の前の相手を殺そうとしているのは、瑠璃覇だけでなく、華炎も同じことだった。
華炎にとっても、瑠璃覇は自分の目的の人物だし、何よりも、自分の力に自信があるので、のどの奥で笑ったのだ。
「わかってないな」
殺すことを宣言されたのに、瑠璃覇は冷静なままだった。
それは昔からのことだし、そんなことで、いちいち取り乱したりするような性格ではないからだ。
「風は常に、どこにでも吹いている。空間を埋めつくすように……いつでも…どこでもな…」
そして何よりも、自分の力に絶対の自信があるし、先程自分でも言っていた通り、華炎を殺すことが、生まれた時からの人生の目的なので、今更そんなことを言われたくらいでは引いたりはしないのだ。
「私は風使いだ。風を操って戦う。つまり……周りにあるものは、すべて私の味方だ…」
冷淡ではあるが、自信にあふれており、力がみなぎった、強い覚悟が宿った目で華炎を見据えると、構えをとった。
「フッ…。ずいぶんと大きく出よったな。まだ2000年弱しか生きておらん、小娘の分際で…。
まあ、いいだろう……」
瑠璃覇が構えをとるのを見ると、華炎もまた構えをとる。
「決着をつけてやろう…。今度こそなっ!!」
そして、華炎のその言葉を合図に、瑠璃覇と華炎は同時にとびだしていき、相手に向かって走っていった。
第九十五話 因縁の対決
二人はお互いに向かっていくと、瑠璃覇は風の力で、華炎は炎の力で相手を攻撃した。
風は華炎に、炎は瑠璃覇に向かっていくが、二人はそれを難なくよける。
「あの老婆、火炎術者だったのか…」
華炎が炎を出したのを見ると、同じ火炎術者である飛影は驚いた。
画面の中では、二人の攻撃が続いていた。
瑠璃覇が風の刃を放って攻撃すれば、華炎はそれを跳んでよけ、また華炎が炎を放てば、瑠璃覇もそれを跳んでよけた。
二人とも様子見と言った感じで、小競り合いのような攻撃をくり返していた。
とは言っても、お互い技の出し方がとても素早く、息もつかせぬような連続攻撃だった。
「ふっ…。なかなかやりおる。ならば…これはどうじゃ?」
そんな、小競り合いのような攻撃がしばらく続くと、突然華炎が、炎を山の方に撃った。
撃った炎は山の頂上にあたり、わずかに破壊されると、そこからは炎とともに溶岩が噴き出してきた。
「いくぞ…小娘っ」
華炎はニヤリと笑うと、上にあげていた手をふり下ろした。
それと同時に、山から噴き出した溶岩が、炎をまとい、瑠璃覇に向かってすごいスピードで落下してきた。
「くっ…」
瑠璃覇は溶岩を、走ってよけていく。
溶岩は次々と襲いかかってくるが、それでも軽々と、難なくよけていった。
「!!」
だが、いくつかよけていくと、突然目の前に、今までで一番大きな、直径5メートルほどの溶岩が瑠璃覇を襲ってきた。
「くそっ」
それを見た瑠璃覇は、風の移動術で、そこから離れた森の中に移動した。
本当は、結界で防いでもよかったのだが、攻撃が重ければ重いほど妖気を消耗するし、強い力を持つ妖怪であればあるほど、結界を破られる可能性は高い。また、結界を破られたら、隙ができて、華炎の攻撃をくらう可能性もあったので、遠くに離れたのだった。
けど、この風の移動術は、これはこれで妖気を消耗するので、本当はあまり使いたくはなかったが、今のこの状況で、どちらの方が危険度が大きいかといえば結界の方なので、瑠璃覇はやむなく風の移動術を使い、華炎から見えない場所に移動したのである。
とは言っても、移動した先にも竜巻が発生するため、自分がどこに行ったかは相手に丸わかりなので、あまり意味がないため、すぐにそこから離れた場所に移動をした。
しかし、そのくらいのことは華炎にもわかっていた。
わかっていたが、ここからは瑠璃覇の姿が見えないため、術を使った後、どこに移動しているのかまではわからなかった。
これでは、どちらも攻撃ができない。
膠着状態が続いた。
「フン…」
否……続くと思われた。
森の中に移動し、難を逃れたものの、攻撃ができない状態だというのに、瑠璃覇は不敵な笑みを浮かべていた。
「(華炎のいる場所……。ここから南の方角に、約1.3km。今もなお、攻撃できずにその場に立ち止まっていて、妖気すら放出していない状態か…)」
何故なら、瑠璃覇は妖気を探知することを得意としているからだ。
その術で、華炎の位置を、正確に探り当てたのである。
瑠璃覇が、華炎が見えないのに不敵な笑みを浮かべていたのは、これが理由だった。
「(ならば……こちらから、先制攻撃をかけるまで!!!)」
瑠璃覇は華炎の現在の位置を把握すると、別の技を出すために、妖気を手に集中させた。
「くそっ…。あの小娘、一体どこに……」
一方、華炎は瑠璃覇がどこにいるかを探していた。
森の中へ移動したことはわかったが、いつまでも同じところにいるわけがないし、だからといって、自分があとを追って森の中に入っていくのは、あとから入った方が不利になるのがわかっているので、周りを見て探してはいるが、その場所で立ち往生している状態だった。
「!!!!!??」
その時、突然華炎の足もとに竜巻が発生した。
華炎は突然のことに対処できず、その攻撃をくらってしまった。
いきなりのことに、華炎も、観客席の幽助達(蔵馬以外)も驚いた。
「ぐっ…う…」
その攻撃の威力に、華炎はうめき声をあげた。
いくら妖力が高い強者であるといっても、まったくガードをしていないところを攻撃されたのだから…。
しかも、老齢の身であることもあり、ダメージは大きかった。
だが、当然攻撃は、それだけで終わりではなかった。
瑠璃覇は次々と、竜巻や風の刃で、森の中から華炎に攻撃をした。
しかもそれは、森の中からとんでくるのではなく、突然華炎のもとに技が発動したという感じであった。
上、下、横、ななめ、四方八方から突然とんでくる攻撃に、さすがの華炎も苦戦していた。
「なんと瑠璃覇選手!!森の中に逃げこんだと思ったら、今度は森の中から、華炎選手をねらって攻撃を始めたぁーーー!!華炎選手、突然の攻撃に、よけるのが精一杯のようです!!
それにしてもすごい!!遠く離れた場所から、技だけを対戦相手のもとに発動させるとは、私もはじめて見ました。瑠璃覇選手には、自分からは見えていないであろう、遠くにいる華炎選手が見えているかのようです!!」
観客席では、技だけを華炎のところに発動させている様子を見た小兎が、興奮しながら現状を観客に伝えていた。
小兎が試合の様子を実況をすると、観客達は盛り上がった。
「すっげーぜ、瑠璃覇。まさか、森の中から、技だけを相手のところに発動させるなんてな」
「ほんとだべ」
その中で、幽助と陣はかなり興奮し、画面に釘づけになった。
「だが何故だ」
そんな陣の隣では、疑問を抱いた凍矢が口を開いた。
「何故瑠璃覇は、あんな遠くから、華炎に向かって攻撃ができるんだ?」
凍矢が疑問に思ったのはこのことだった。
いくら生きる伝説と言われるくらい強くても、相手の姿が見えなければ、正確に攻撃をあてることも…ましてや、攻撃をすること自体不可能だからだ。
「妖力の探知だ」
その中で、瑠璃覇のことを知っている蔵馬は、冷静に凍矢の疑問に答えた。
「「「「「「妖力の探知?」」」」」」
蔵馬の答えに、凍矢だけでなく、幽助、陣、鈴木、酎、鈴駒も声をそろえた。
「瑠璃覇は、妖力や霊力を探知することを得意としている。だから、森の中から華炎の妖力を探知し、そこをねらって技を発動させているんだ」
そう……瑠璃覇は森の中にいながら、得意の妖力探知で華炎がいる位置を正確に探りあて、技を発動させているのである。
「けど、口では簡単に説明してっけど、並大抵のことじゃねーだろ。相当に正確な技術が必要だぜ」
蔵馬はあっさりと説明するが、実際にやるとなると、それはかなり高度な技術を要するので、幽助は感心していた。
「ああ。瑠璃覇だからこそ、できる芸当だ。瑠璃覇が妖力の探知を得意としているのは、なみなみならぬ努力をしているから。
もっと言えば、それはすべて、あの華炎を倒すためにみがいていたんだ」
「今更だがオレ達は、暗黒武術会で、とんでもないバケモノを相手にしてたんだな」
改めて瑠璃覇の強さを思い知った鈴木は、冷や汗をかいていた。
「おぉーーーっとお!!今度は華炎選手が、攻撃を始める模様です!!」
蔵馬達が話していると、また小兎の実況が会場に響いた。
画面の中では、華炎が手の平に炎を生み出していた。
「やはり、やられっぱなしで黙っているわけがない!!反撃開始のようです!!」
闘技場では、華炎は両手に生み出した炎を、真上に放っていた。
真上に放たれた炎は、巨大な火の玉となっていく。
それを直径20メートルほどの大きさにすると、ニヤリと笑い、それを上に高く放った。
その火の玉は闘技場から50メートルほどの高さまでくると、急に分裂をするように、バスケットボールくらいの小さな火の玉となり、四方八方にとんでいった。
とんでいった火の玉は、森の中に直撃した。
今いる正確な場所はわからないが、森の中にいることはわかっているので、森を焼いて、瑠璃覇をあぶりだそうという考えなのだった。
「華炎選手!!巨大な火の玉をつくったと思ったら、それを空中に放ち、更にはその火の玉を小さく分裂させ、森に火をつけました!!
瑠璃覇選手もすごかったですが、これはこれですごい!!」
画面に映っている森は、華炎の放った火が森の木を燃料にして、どんどんと燃えひろがっていった。
「瑠璃覇っ」
その様子を見ると、幽助達は心配そうにしていた。
「くくくくくく…。闘技場の上では逃げ場はない。焼け死ぬがいいわ」
時間が経つごとに大きくなっていく炎を目にしている華炎は、ニヤニヤと笑う。
だが………
「…あのババア。こんなことで、私を追い詰めたつもりか?…おもしろい」
瑠璃覇はまったくあわてておらず、下にしずみこむようにしゃがむと、手を横にふった。
そのことで、瑠璃覇を中心に、半径200メートル内にある木が、一瞬にして、根元のあたりですべて伐採された。
そして瑠璃覇は、伐採した木をすべて、自分と一緒に宙に浮かす。
また、同時に風を操って浮かせた湖の水を使って、森についた炎を鎮火させた。
それを見た華炎や幽助達は驚いていた。
「おっとお!!絶体絶命のピンチかと思われましたが、瑠璃覇選手、自分の周りの木を風の力で伐採し、難を逃れた模様です!!しかもその伐採した木を、すべて宙に浮かしている!!」
瑠璃覇の無事な姿を確認すると、幽助達はほっとした。
闘技場から、上空100メートルほどの高さまで来ると、瑠璃覇は下にいる華炎を見据えた。
「いくぞ……ババア…!!」
そして、下におろしていた手を、上までもってきた。
「樹矢連弾(ジュシレンダン)!!」
瑠璃覇が手を上からななめ下にふりおろして構え、叫ぶと、伐採され、一緒に上空まで浮かせた木は、矢の如く、勢いよく華炎に向かっていく。
華炎はそれを、次々に避けていった。
向かっていき、華炎にあたらなかった木は、地面にはじかれたり、その勢いのまま地面に刺さったりしたことで、土煙が舞った。
「すっげえ!!あんなに大量の木を一気に宙に浮かすなんて、なかなかできねーべ」
「切った木を矢みてーに放つなんて、あんな技もあったんだな」
「いや…。あれは、あまり技とは言えない、即興的なものだ」
「え?」
陣と幽助は興奮して感激するが、蔵馬は幽助が言ったことを否定した。
「華炎は手強い。妖気をムダにはできない。だから、機をうかがっているんだ」
「機をうかがう…。どういうことだ?そりゃ」
「瑠璃覇には、奥の手があるんだ。それこそ、闘技場をすべて破壊してしまうほどの、最大奥義が…」
今までの攻撃でも充分すごかったのに、まだ更にすごい技があるというので、幽助と陣は目を大きく開いた。
「けど…それは、もとの妖力に戻っている今の状態でも、たった一回しか発動させることはできない」
「そんな…すげーのか?」
「ああ、かなり妖気を消耗する技だ。今の状態でも、半分以上は減ってしまう。チャンスは一度きり…。だから、機をうかがっているんだ」
それほどまでの技は一体どんなものなのかと、幽助や陣だけでなく、周りにいる凍矢達も胸をドキドキさせていた。
一方で、華炎は空から降ってくる木の矢をよけ続けていた。
しかし、華炎は瑠璃覇のように空を飛ぶ力はないので、土煙が舞っていて視界が悪くなっているのと、年寄りというのもあり、全部をよけきることはできず、降ってきた木のひとつが、華炎の頬をかすめた。
攻撃があたった時、微量に血が流れ、同時に華炎がかぶっていたフードがやぶけてとれてしまった。
そのあとも攻撃は続いたが、60本ほど地面にあたったところで、木はすべてなくなり、攻撃がやんだ。
「ええーーー…。どうやら、瑠璃覇選手の攻撃がやんだ模様です。しかし、今の攻撃で闘技場には土煙が舞い、華炎選手がどうなっているのか、まるでわかりません!!」
攻撃はやんだが、今の攻撃の際に起こった土煙で、華炎の姿は確認できなくなった。
「やったのか!?」
「いや……あの程度で、華炎をやることはできない」
もしかしたら、今の攻撃で倒せたかと幽助は思ったが、蔵馬はそれを否定する。
二人が話していると、次第に土煙は晴れていった。
「「「「「!!」」」」」
そこには、わずかな傷を負ったものの、無事な姿の華炎が確認できたが、華炎を見た途端、蔵馬と黄泉以外の者達は全員…あの軀でさえも、目を大きく見開いて驚いていた。
「お…おい、蔵馬…。あいつァ……一体……」
その今の気持ちを、幽助が代表するように蔵馬に問うた。
「……彼女は………華炎は……」
問われると、蔵馬はゆっくりと答え始めた。
「瑠璃覇の……唯一の身内だ…!!」
蔵馬の口から出たのは、衝撃的なものだった。
幽助達は、蔵馬の口から答えを聞くと、画面を睨みつけるように凝視する。
画面に映る華炎の頭には、狐の耳があった。
妖狐の証である、狐の耳が…。
それも、瑠璃覇と同じ、銀髪の妖狐だった。
画面の中では、攻撃を終えた瑠璃覇が、華炎の前に降り立った。
とても鋭く、とても冷たい目を向けて…。
そして、華炎もまた、とても鋭く冷たい目を、瑠璃覇に向けていた。
そんな、誰が見てもただごとではない雰囲気を放つ二人の戦いは、まだ始まったばかりであった。
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